第28話 3年間
3年間――俺と彼女は、特に話題が変わることなくやり取りが続いた。
日々のやり取りの中で、唯一彼女にひた隠しにされていることが彼氏との出来事なのだと気付いた時、俺はやっぱりあくまで彼女の友達なだけでその二人と俺との間には決して超えることのできない壁が存在することが理解り、少し落ち込んだ。
そう落ち込むたびに、俺なんかにその資格はないだろと自分を戒めるのは毎回セットだった。
しかし、そんな状況も繰り返し続けていくうちに次第に慣れていった。
麻痺してきたと言うべきだろうか?――時々、3年前を思い出してはセンチメンタルになる日もあれば、平気な日もあった。
センチメンタルになる日は、決まってクリスマスや花火大会等のイベントのある時で、その度に彼女が彼氏とデートに出掛けているんじゃないかと想像してしまったり、少し返信が遅くなっただけで悪い想像で頭がいっぱいになったりと心を病んだ。
平気な日は、逆に俺が何かで忙しなくしてる時に訪れることが多かった。
一方で、彼女はこの3年間で俺との友情を絶対に揺るぎないものだと確信したのか、以前にも増してフレンドリーな態度をすることが多くなった。
もちろんそれはただのメールでのやり取りにすぎないが、3年前にあった堅さはさらに薄れ、友達同士がやり取りするような文面が増えた。
例えば、カイジで出てくるような言い回しが日常でのやり取りで増えたり、アニメスタンプを使って少し俺をイジってくるようになった。
また、彼女とはこの3年間でオンラインゲームを一緒にする仲にもなった。
しかし、そんな風に今まで以上に仲良くなれても、あれから俺は彼女とは一度も会えていない。
フレンドリーな態度になったとはいっても、彼女の方から”会おう”とか”遊ぼう”なんて言われることは一度もなかった。
そのちぐはぐさがやっぱり距離を感じて辛い――なんてのも随分昔のことのように感じる。
――俺は、いつのまにかそういった今のこの状況を受け入れられるようになっていた。
いや、受け入れられたというと語弊がある。
いつからか俺の中に嫌悪感そのものが当然として在るようになった。
3年前当初は、嫌悪感が暴走し何もかもどうでもよくなり全てをぶっ壊したくなるような激情に駆られることもあったが、月日の経過と共にそれらは減少していき、次第に嫌悪感をなくすことよりも嫌悪感をなくそうと破壊衝動に駆られてしまうことへの恐怖が増していった。
それは、良く言えば『落ち着いた』、『丸くなった』、『大人になった』であり、悪く言えば『想いが薄れた』、『妥協した』、『諦めた』といったニュアンスが近かった。
要するに、俺自身もいつの間にか「嫌悪感との共存」と「彼女との仲の継続」を無意識に両方選んでいたのだ。
それらを唯一可能とさせたのが、とにかく"無心"でいることであった。
――何も感じない。
ただ、”友達"という役割を殊勝に演じ続けていればいい。
それが、俺がしなければならない誓いであり、罰なのだから――と。
――いつからか俺は、何のために彼女とメールを続けているのかもよくわからなくなっていた。
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