第23話 戻れない明日
わかった。
迷惑かけてごめん。
――そう言えれば、どんなに良かっただろう。
結論から言うと、俺はそう言うことができなかった。
だって、それを言った瞬間終わる気がしたのだ。
謝った瞬間、自分がおかしかったこと、間違えていたことを認め、それを二度としないと約束することと同義になる。
だから、それだけは絶対にできなかった。
だから俺は、なんとか繋ぎ止めようと言葉を紡いだ。
「――だったらなんで・・・、なんであの時、俺にメール返してきたんだよ・・・!!」
それは、おそらく最も愚かで馬鹿なやり方だった。
「そんなに"思い出"にしときたかったのなら、あの時俺にメール送らなきゃ良かっただろ!!」
「あの時、メールが来なかったら――俺と仲良くできて嬉しいとか言われなかったら、俺だって◯◯さんに一生メールを返すことなんてなかった!!」
――全て、ぶちまけた。
どうしてそんな言葉を選んでしまったのか。
その時の俺は衝動でそれらを選んでいただけで、多分意味も目的もなかったのだと思う。
今の俺が、当時の俺の言動を客観的に分析すると、彼女の間違いを指摘し非を認めさせ、"俺と他人のままでいたかった"という発言を取り下げて欲しかったのだと思う。
君の方からやり取りは始まったんだぞって。
俺はあの告白で君に彼氏がいると知って諦めようと思ってたんだぞって。
それなのに、君の方からそんなことを言うのはおかしいだろって。
だから撤回しろって。
――多分、この時の俺はもう、薄々感じてたのかもしれない。
「――こう、なりたくなかったからだよ・・・」
その子は、目に大粒の涙を蓄えながら少しだけ笑みを残した表情で、小声で「さようなら」と呟き、急ぎ足で俺の前から去ろうとする。
俺は、今目の前で消えようとするその子の肩を掴んで――
「――どうして」
「――どうして俺の前からいなくなろうとするんだよ・・・!」
その子にそう、訴えた。
「俺と友達だったんじゃないのかよ・・・? 仲良くなれて嬉しいんじゃなかったのかよ・・・!!」
「――やめてっ! 離して!!」
「それなのにさぁ――急にメールの頻度減ったり、内容が淡白になったり・・・。それをされる側の俺の気持ち、全く考えたことないだろ!!」
「――彼氏がいるヒトを好きになった俺の気持ち、考えたことないだろ!!!!」
今だから思う。
その時の俺の言動のひどさは、それまでの対人関係の希薄さに原因があった。
こうしたら他人に嫌われる、こう接したら他人に煙たがられる――
そういった失敗経験があまりになかったため、俺は自分自身にブレーキをかけれなかったのだと思う。
自分の中にある価値観が全てで、それの良いか悪いかの判断でしか行動できていなかったのだと思う。
だって、こんなにも好きなのにそれを自らの意思で途中で諦めてしまったら、一生後悔するだろ?
もう俺は後悔したくないんだ――逃げたくないんだ、と。
「・・・ちゃんと、考えてたよ――小林くんの気持ち」
俺のあまりの勢いに気圧されたのか、その子は俺に顔を向けない状態で立ち止まった。
「だから言ったじゃん――”小林くんの気持ち聞けて、すごく嬉しい”って。私だってほんとに小林くんのことが好きだったんだよ? ”嬉しい”って感じたのはほんとなんだよ!!」
「――でも、もう、なにもかも、遅いんだよ」
「”彼氏がいる"って話、小林くんにも言ったよね? もう5年も付き合ってるの。昔ほどもう仲良くはないのかもしれないけど、5年間私と彼は付き合ってきたの」
「小林くんにそう言われたからって簡単に小林くんの気持ちに答えることなんてできないよ・・・」
「――でも、だからといって小林くんのことを簡単に忘れることなんてできなかった・・・」
「――私だって、高校の頃、ほんとはもっと小林くんと仲良くなりたかった・・・」
「ずっと話してみたかった・・・。でも、私も怖くてずっと話しかけることができなかった・・・」
「――私も、高校の頃をずっと後悔してたんだよ・・・?」
だったら――
何度目かわからない間違いを俺は再び口にしそうになる。
それをぎりぎりのタイミングで止めたのは、その子の嗚咽だった。
「ねえ・・・? 私がいけなかったのかな・・・? 私が”今の彼氏のことが大好きだ”って小林くんに自慢すれば良かったのかな・・・? "すごく上手く行ってて、仲良しなんだ~"って嘘言えば良かったのかな・・・?」
「どうしたら、こんなことにならなかったかな・・・? どうしたら、友達のままいられたかな・・・? ねえ? 小林くん、教えてよぉ・・・!!」
その子は赤子のように泣きじゃくった。
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