第5話 大学

しかし、不真面目に努力せず大学へ合格できてしまい、伸びに伸びた天狗鼻は後々俺自身を苦しめることになった。

その一番最初の出来事は、次のようなものだった。


俺は晴れて大学生になり、同時に一人暮らしのスタートも切り、これから夢のキャンパスライフを謳歌するって時だった。

経済学部だった俺は、初めての授業へ行こうとした。

一応、大学でもクラスというものが存在し、共通科目などはそのクラスで受ける仕組みだったのだが、初めての授業はその共通科目である英語の授業だった。

俺は、そのクラスがある教室に入り、自分の席に座った。

俺が席に座る頃にはすでに周りにはグループができていて、おしゃれで容姿端麗な女子や大阪弁でイカつい男子などが楽しそうにやんやん会話をしていた。

俺が入った大学は、私立大の中でもおしゃれな大学として知られていて、各地方の美男美女が楽しいキャンパスライフを夢見て入学してくる――まさにその光景が目の前で繰り広げられていた。

俺はその光景に地元・地方で過ごして見てきたものとの違い・距離・壁をまず始めに感じた。

というのも、俺が過ごしてきた高校は、地方田舎のとても進学校とは言えないレベルの低い高校で、失礼だがそこにいる生徒も程度が知れるような野郎しかいなかったのだ。

だから、有名私大で綺羅びやかにキャンパスライフを楽しんでいる彼ら彼女らに、俺は歳も同じか一個下ばかりだというのに臆してしまったのだ。

そして、1年間の浪人生活で誰とも会話をしてこなかった為、他人との距離の縮め方やコミュニケーションの仕方がわからず、最初の授業は結局誰とも会話できずに終わった。

何事もスタートはとても重要であり、それに失敗した俺はそのまま誰とも話せないまま半年ほど大学生活を過ごすことになった。


そんなある日、同じクラスの男子に一度だけ話しかけられたことがあった。

見た目は小柄でメガネをしていて、黒髪の短髪で、いかにも真面目そうなタイプの男だった。

授業終わりに「小林くんもこの授業受けてたんだね」と話しかけられたのがきっかけだった。

サークルは何入ったのとか、他の授業何受けてるのとか、他愛もない話をしたと思う。

その会話の最後に言われた「なんだ、小林くん意外と話せるじゃん」という言葉は今でも忘れない。

その後、「普通に今度話しかけてきてよ」的なことを言い残し、その男子は去った。

俺はまた一人きりに戻り、その時次のように思ったのだ。


なにが"普通に話かけて来てよ"だ――なにが"意外と話せるじゃん"だ。


俺はそいつの"さも俺から話かけてやった"ような態度が癪に障った。

今思うと、そんな風に思うのを我慢し、その男子がいる輪に飛び込んでいたら4年間友達0なんてことにはならなかったのかもしれない。

だが、俺はそれらを一切無視し、そいつとはその後4年間一度も会話をすることはなかった。

友達が一人もいないことを認め、そいつらにへりくだって仲間に加えてもらうことが当時の俺は堪えられなかったのだ。

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