第3話 カラオケ

そんな俺に一度幸運の女神が微笑んだ時があった。

それはたしか高校3年の3月頃だったと思う。

その子と仲良くしていた男子とその子と俺で何故かカラオケに行くことになった。

その男をB男と仮名するが、B男は東方やニコニコ動画が好きなタイプのオタクだった。

このカラオケを企画したのもB男で、おそらく卒業するから最後に思い出つくりをしようという考えだったのだろう。

俺は正直いかにも陽キャなB男とは全然仲良くはなかったから、なんで誘われたのかについての真相は未だにわかっていない。

ただひとつ、俺のオタク趣味はモロバレだったということだ。


B男もその子も何かしらのオタクだったので、各々が好きなアニソン・ゲーソンを歌ったりしてカラオケを楽しんだ。

俺はここでもあくまで自然体を振る舞い、その子の前でも変に緊張したり意識しすぎないよう努めた。

しかし、心の中では思いっきりドキドキしていて、その子とこうして遊べていることを神に感謝した。

各々好きな曲を順番に歌って行った。

その子はハルヒの曲などを歌った。

B男は東方の曲やニコニコで流行っていた曲を歌った。

そして俺はエロゲソングを歌った。

――本当にアホだったと今さらながら思うが、それほどに当時の俺はエロゲにハマっていて周りが見えていなかったのだ。


カラオケはとても盛り上がった(と信じている)。

俺は、カラオケ店を出る時にその子に声をかけた。


「CDずっと返せてなくてごめんなさい」

カラオケに誘われた時からこのタイミングしかないと思って、朝家を出る時にカバンにCDとずっと返せなかったお詫びの品を入れてきたのだ。

俺は勇気を振り絞ってその子に渡した。


「ああ、うん・・・」

それが高校3年間でその子とした最初で最後のやり取りだった。

言うまでもなく、俺の手と声は震えていた。

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