38.真相

 青白い光が俺の手から発せられた。そして、それはナツの体を包み込んだ。

 みんなの視線が、俺とナツに向いていた。


「?? へ??」

 全く意味を解せず、ただただ俺の能力を浴びるナツ。しかし、俺には見えていた。彼女の中に眠る蕾が、開花せんとしていることを。


「この光は……僕のときと同じだ」

「……ぺっぺっ! 口の中に土が……っぺ! って、なんだなんだ!?」

 土に埋もれたファンダを掘り起こしたクウには、見覚えがあるだろう。

「温かい光……これって」

「これは……これはまるで!」


 横で腰を抜かしていたカーリアと大司祭は、この光の真価に気づいたようだ。

 そう、この光は『天啓』に酷似しているのだ。


「──やっぱりね」

「え、え、え、え、な……これ……え、えええええええ???!」

 ナツの中に眠る才能の芽を開花させた。それはまるで、夏の太陽のように眩しく、大きく、熱く、そして他に類を見ないほど誇らしく花咲いていた。


「さ、行くよ、ナツ」

「ええええええ……嘘……ナツが……えええ」

 俺は、ナツの手を引き目的の場所に連れて行った。ナツも、心の中に芽吹いた才能に違和感を覚えつつ、真実にも気づいているようだ


 そして、彼女を『勇者の剣』が突き刺さる場所に立たせると、ナツは、自然と剣に手を伸ばす。そして、柄を握った刹那、再度、まばゆい光が周囲を覆った。


 次第に光が収まると、そこには、勇者の剣を高く掲げるナツの姿が現れた。勇者にふさわしい、文字通りの勇姿が、そこにあった。


「ふ、ふええええ!!!!!」


 前言撤回。

 ナツの姿は勇姿には程遠い、へっぴり腰に戸惑い顔であった。なんなら膝は笑って、表情は半泣きだった。


「……俺の予想通り。大当たりだ」


 勇者しか抜けない剣を掲げる、メイド姿の大女。

 異様な光景ではあるが、これで、勇者が誰であったのかが判明した。


 ざわ……。


 ざわざわ……。


『ただの使用人が、実は勇者だった』


 この事実を理解するのに、誰もが時間を要した。

 小さな囁きは、それぞれの人間が理解していくごとに大きなざわめきと成り、そして現状を理解したものは、パニックになるのは自然な流れだった。


 だが、この混乱も、国王陛下の一声で治まることになる。


「皆のもの、静まれいっ!! ……これ以降、箝口令を敷くっ! 他言は重罪と心得よ!」


 事の重大さに、陛下自らが箝口令を発した。

 ここから更に混乱させることになるので、こちらとしては願ったり叶ったりだ。


 シン……。


 一瞬にして静寂が訪れた。

 しかし、その代わりというか、観衆のほぼ全ての視線を、俺とナツが浴びることになった。


 俺は一歩前に出て、上から見下ろす人々に目配せした。その中に、目的の人物……俺の母上を見つけ、声を張り呼び掛けた。


「全てを、お話いただけますよね。──トモエさん!」

 彼女なら、母に付き添いで来ているはずだ。


 すると、母の後ろから、トモエさんが現れた。彼女の顔は、真っ直ぐにこちらを見下ろしていた。──いや、正確には、親父の顔を伺っているようだった。


「どういうことだ、貴様っ!」

 トモエさんの視線に気づいた親父が、怒りの矛先をトモエさんと、そして俺に向けた。


 いまだ、抜かれた剣を呆然とみつめるナツ。理解し難いというか、現実を受け入れていないといった感じ。

 それを間近にまじまじと見続けるファンダとクウ。なんなら、ファンダは先程からナツに、

「──なあ、持たせてんない? 勇者の剣、持たせてくんない?」

 と、耳元で囁くように懇願している。

 流石にちょっと自重してほしい。


「……気づかないのか、親父。俺はもう大体わかったよ」


 ナツのステータスの中にあった『???の才能』の花の蕾の形が、キストの花のそれに似ていたことで、確信したんだ。少なくとも、ナツは、勇者の関係者だってね。


「トモエさん!」

 俺は声が反響するクレーターの中心から、再度、トモエさんに叫んだ。

「……」

 トモエさんは先ほどから、うんともすんとも言わない。ただ、憂いな顔でこちらを見続けていた。


「トモエさん、ズバリ答えてくれ。ナツの父親は……誰だ!」

「! ランジェ兄貴!」

「兄様、それってもしかして!」


 キストとカーリアは、俺の質問の真意に気がついたようだ。そう、この質問は、ヴァリヤーズ家の沽券こけんを根底から揺るがすもの。


「……」

 するとトモエさんは、ゆっくりと手を伸ばし、ある人物を指差した。それは俺の……いや、大方の予想通りの人物だった。


「私の娘、ナツの父親は……そちらの、オーレン=ヴァリヤーズ様でございます」




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