22.ちょっと違うと思うんだ

 既に日は沈みかけ、夕日が眩しかった。


 ギルドと呼ばれる冒険者登録場に向かった俺たちは、ファンダたちの報酬受け取りに付き合った。


「こちらと、こちらにサインを。あとギルド証を提示して……」

「……?????」

 ギルドの受付嬢に書き方を教わりながら、ファンダは慣れない書類に四苦八苦していた。

 後ろから見ていたが、終始、彼女の頭に『?』マークが浮かんでいるように見えた。


 ……大丈夫だろうか。


 そんな心配を余所に、どうやら無事に申請が通ったようだ。受付嬢が優秀だったのだろう。


「いやー! 報酬額3倍だって!」

「やったねファンダ」

 初心者冒険者には荷が重すぎたゴブリン退治。どうやら先の村人たちが、報酬を上乗せしてくれたらしい。

 ただ飯にただ宿も預かり、彼らには本当に、頭が上がらない。


「よかったですねぇ~」

「おう! ……ほい、ナツたちの分!」

 するとファンダは、小さな麻袋をナツに投げつけた。硬い触感のその袋を覗くと、銅貨が入っていた。


「あんたらには本当に世話になったからな、報酬は山分けさ」

「ええっ! そんな悪いですよぉ」


 受け取りを拒否しようとするナツであったが、ファンダがそれを制した。

「いや、受け取ってくれ。ナツが居なかったら、あたいら、下手したら死んでいた。……ありがとう」

 急に塩らしくなり、ファンダが頭を下げてきた。


「ボクも、なんか新しい発見があったよ。ありがとう……ナツ」

 併せて、クウも頭を下げた。

 そんな二人を目の当たりにし、ナツはタジタジになっていた。


「ちょちょ、ちょっとぉっ! 頭をあげてくださいぃぃ!」


 そんな慌てふためく彼女を横目に、俺はこの現状を微笑ましく見守っていた。




 ……俺は? 

 ……俺には何もないの? 

 ……ねえ? 




 ***




「じゃあな! 女神の加護があらんことを!」


 ファンダとクウとは、ここで別れた。

 先にも述べているが、俺はいわゆる『お尋ね者』に違いない。これ以上一緒にいると、また彼女たちを巻き込んでしまう恐れがある。


 街に入ったらすぐにでも別れようとも考えていたが、報酬を分けたかった彼女たちの意向もあり、ギルドの受付部まで同伴したのだった。


 彼女たちとは、またどこかで出会えるような、そんな予感を残したまま──。

 嵐のような出会いを懐かしみ、そして別れを惜しみつつ、俺は手を振って見送ったのだった。


「──さて。じゃあ俺たちも、まずは飯と宿かな」


 日は沈み、しかし街は、さらに賑やかになり始めた。

 商業目的で訪れる人が多いことからか、その財布を目当てにした繁華街が近く、また冒険者ギルドも昼夜問わず人の出入りは激しかった。


「ですねぇ。もう借りれる馬はなさそうですぅ」


 ヴァリヤーズ公爵家に向かう定期便など、乗れるわけが無い。まあまあの距離があるため、適当な馬車や馬を借りて向かうのが定石だ。


 しかし日が落ちてから出発するなど、今のご時世、自殺行為である。

 先日のゴブリンのように、魔物が凶暴化しているため、特に彼らが活発になる夜は危険を伴う。


「宿、宿、の情報は……と」


 俺たちはギルドの酒場で適当に食事を済ませたのち、宿の情報を集めようと試みた。張り出してある掲示板や、ギルド斡旋の店の情報をみたが、ほとんどの宿は埋まっていた。


「あんまり無いですねぇ」

「く、冒険者用の宿は、どこも一杯か」

「商人が使うような宿ですと、割高ですぅ」


 結局ギルド内では宿が見つからず、俺たちは夜風を浴びながら、適当に目に止まった宿に値段を聞いて回ることにした。しかしほとんどが満室で、空いていたとしても、結構足元を見られた。


「交易の始まりの地ですから、残りは商人用の宿ばかりですねぇ」

「まずいな、このままだと野宿だぞ」


 もう少し歩いてみよう。

 ギルドがある場所は街の中心だ。ここから外れ、郊外に向かえば、安宿が残っているかもしれない。


 当てはなかったため、適当な道を適当に進んでいった。あまり裏通りには回らないよう、大きめの道を、郊外に向かっていった。すると、なんとなく華やかな空気を感じ取った。


 急に、明るい区画に出たのだ。いや、明るさは街灯によるものだった。また、眩しいというより、きらびやかな雰囲気。

 街の外れの繁華街にきたようだ。夜でありながら人通りは多かった。


 ん? この雰囲気は、なんというか。

 日本で言うところの──。


「あ、ランジェ様っ! 『無料案内所』だそうですよぉ!!」


 ナツは区画の入り口に近い場所に建てられた小屋を指差した。

 仕組みはよく解らなかったが、電飾よろしく、七色に光る明かりが『無理案内所』と派手に塗られた看板を囲んでいた。

 遠目でもその派手さには目を奪われる。


「うーん……」


 ナツよ。

 俺、それ転生前に見たことある気がする。


 ──これ、ちょっと違うと思うんだよ。

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