第7話逆源氏物語計画!?

 どうやら初めての散歩は意外と赤ん坊の今の体力には効いたようです。


 寝る前にミルクを沢山貰ったお陰もありますが、昨晩は夜に目が覚めることもなく、久しぶりに爆睡しました。


「おはようございます。シオル様」


「シオル様おはようございます」


「あーう(おはようございます)」


 あれ? なんかいつもより部屋へ出入りする侍女が増えている気がする。


 シオルとして生を受けてから専属侍女として、ミナリー、リズ、レーシャと言う名前の二十歳前後の娘さん三人が新たにお世話をしてくれることになりました。


「シオル様! 今日は生誕祭ですよ。 お披露目ですからおめかししましょうね~フフフ」


 いやいや、ふふふって! ミナリーさんまじでそれを着るんですか!?


 首元が無駄にレース過多で白タイツ、カボチャパンツに金モールの装飾と刺繍の王子様仕様の服一組……いーやー! 恥ずかしい! どんな羞恥プレイさせる気ですか!?


 衣装を持ってじりじりと迫る侍女から逃げようと必死に手足を動かすものの、寝返りが叶わない限りぱたぱたと羽ばたくことしか叶わない~。


「さぁさぁおしめ替えましょうねー」


 リズさんが布おむつを抱えて私のおむつを外しにかかる。


 レーシャさんから、おしりを拭くための湯を張った金属製のたらいと、タオルを固絞りしたタオルを数枚受けとり、流れるような素早さでおしめを替えていく。


 主にこの三人だが世話役の侍女が代わる代わる交換していくおしめ、精神年齢二十八でこの義務は辛い、辛すぎる!


 この世界の成長速度とか、暦が日本と同じとは限らないけど、そんなことは関係ない! 一刻も早くおしめ生活を卒業しなければ、この無限羞恥プレイは終わらない。


 しかも便利だなぁと思っていた言語が同じだと言うことの弊害が、これまた辛いところ。


「シオル様ってさ、赤ん坊にしては立派よね」


「やっぱりそう思う? アルトバール様に似たのかしら」


「案外宰相様かもしれないわよ」


「きゃー! あなた誘惑して身をもって確認してきてよ」


 セクハラですよ……、赤ん坊でもわかるんです、似たような話をしてましたから。


「シオル様を自分好みの殿方に御育てするのも楽しそうよね?」


 ミナリーさん、なにやら悪い笑みを浮かべていますよ。


 二次元の世界だけにしてください! 逆源氏物語計画じゃないですか、しかも、ターゲットが自分なのは嫌だ~!


「ハイハイ! シオル様理想の殿方化計画ここに参加を表明します!」


 リズさん参加表明しなくていい! 断じてしないでください! お願いします!


「そうこなくちゃ!」


 自分の将来がものすごーく不安です。


 不穏な企てを続ける侍女たちは、せっせと私に服を着せるとミナリーが首をかしげる。


「んー、似合うっちゃ~、似合うんだけど、あたしの好みじゃないのよね~」


「まぁ、好みの違いはあるけど、もう時間がないしリーゼ様来ちゃうわよ?」


 レーシャさんが呆れたようにミナリーさんに返事をすると、首元がやぼったいドレスシャツを整えてくれる。


 昔はレースとかウエディングドレスとか憧れましたよ。結局死ぬまで縁はなかったけど……。


「ミナリー? シオル様の準備は終わったの?」


「リーゼ様! もっ、もちろん済んでます。」


 どうやら準備に時間がかかっていた私をリステリアさんを伴って迎えに来てくれたようだ。


「シオルおいで、父様が首を長くしてあなたを待っているわよ」


「あう」


 リステリアさんに腕を伸ばすと、温かい腕が直ぐに抱き上げてくれる。あぁ、リステリアさんは私のお母さんなんだなぁとあらためて嬉しく思える。


 転生したばかりの数日間は混乱と悲壮感で前世の母の事や家族の事ばかり考えていたけど、毎日世話をしてもらっているうちにすっかり違和感は薄れている。


「シオルは今日も可愛いわね」


 両脇の下を手で支えるとリステリアさんは私を顔の前まで持ち上げ、頬にチューをくれた。


 今日のリステリアさんは、青色の身体を締め付けないデザインのドレスを纏い、頭にはキラキラと輝きを放つ素敵なティアラが飾られている。


 幼い頃に憧れたドレス姿は儚さと王妃としての気品が溢れているようだった。


「あーう、きゃー!(リステリアさん……お母様もね!)」


「本当に、シオル様はアルトバール様のお小さい頃とそっくりですわ、そのお洋服もよくお似合いです」


 そんなにアルトバールさん、アルトバール父様と似ているのでしょうか、なら外見的には大丈夫かなぁ。


 私とリステリアお母様の様子を微笑ましいと目で語りながらリーゼさんが呟くので、私はリーゼさんに腕を伸ばした。


「ふふふ、リーゼ。 シオルがリーゼを呼んでいるわよ?」


「まぁ、シオル様、どうかなさいましたか?」


 リステリアお母様からリーゼの腕に抱き代えられると、私はリーゼさんの顔を見上げて笑顔で両手を伸ばした。


「あーう~」


「あらあらシオル様、今後もリーゼと仲良くしてくださいますか?」


「あう(こちらこそ)」


「さぁ、そろそろ行きますよ? アルが痺れを切らして迎えにくるまえに」


 ミナリーたちの見送りを受けて、私たちはアルトバール父様が待っている大広間へ出発した。


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