第6話初めての散歩と神話

 さぁ、出発ですねー初散歩。 こちらに転生してからの初めての外出です。 散歩だけど!


 果たしてこちらの世界の空は何色でしょうか? 私の行動範囲からは空が見えなかったので少し楽しみです。


 リステリアさんの腕に抱かれながら廊下を進み、階段を下りて行く、おおぅ意外と建物が広いなぁ。


 自力で動けるようになったら一通り回って見ようかな。 探検探検探検。


「フフフ、シオル様楽しそうですね」


 えぇ! それはもう! メチャクチャ楽しいです。


 しばらく移動すると、小さな木製の扉の前に着いた。


 小柄なリステリアさんは問題なく屈まずに通れるが、リーゼさんは少し屈まないと通れないような扉だった。


 こちらの世界の空が黄色とかだったどうしよう、まさかピンクは無いでしょう。


 開かれた扉から外に出ると、あまりの眩しさに目を瞑ってしまう。


「さぁシオル、目を開けてご覧なさい」


 おそるおそる開いた目に飛び込んできたのは、これ迄前世でも見たことがないほど清んだ青空と白い雲。


 東京の排ガスで、少し霞んだ青空しか見たことがない無い私には感動さえ覚える色です。 良かったぁ、ピンクじゃなくて。


 そしてこの世界が私の知っている祖国と徹底的に違うこと、それは私を照らし出す太陽が二つあると言うこと。


「シオル、今日も双子太陽が綺麗ね」


 双子太陽? 一つでも眩しいのに、二つあると眩しさ二倍かも。

「今の季節は双子太陽だけれど、もうしばらくしたら一つになるのよ?」


「あーう?(どうゆうこと?)」


「この世界を創った神様がね、お姫様と王子様の双子にこの世界を平和に仲良く治めなさいと言って、任せて行かれたの」


 フムフム、やっぱり神話や宗教的な物はどこにでも在るですね。


「最初は仲良く治めていたんだけれど、ある日お姫様が地上に降り立った時、ある男性と恋に落ちてしまったの」


 王道ですねー、只の人と神様の愛の末に子を儲けるパターンかなぁ。


「王子様に内緒で地上に降りてきていた事がバレてしまったお姫様と青年との恋は、王子様に反対されたわ」


 あらぁ、お姫様バレちゃったのね。


「しかしお姫様のお腹の中には青年の子供が芽生えていたの」


 意外と手が早いんですね、この世界の神様は。


「お姫様は双子の王子様に地上に降りることを禁じられてしまったの。 ただ神の国に住むことが出来ない半神半人の子供を地上に残して全く会えなくなってしまうのは可哀想だと感じた王子様は、年に一度だけ親子で過ごす事を赦されたの」


 んん? なんか似たような話を聞いたことが有るような無いような……。


「常にこの世界を見守る事を王子様の太陽が担い、一年のこの時期にだけ昇る太陽がお姫様の太陽なのよ?」


 素敵でしょ? と聞かせてくれた神話はこの世界では有名な話なのだろう。


 なんだか七夕に似ているかなぁ、一年に一回とかって。


 リーゼさんは頷きながら話を聞き、私とリステリアさんの様子を微笑みながら眺めている。


「確か北の王家はお姫様の庶子の子孫だとか」


 神話じゃなかったっけ?


「北のスノヒス王家の初代国王がお姫様の庶子だったと言う話ですからね」


 うわー、本当に実在したんだね。お姫様のお子さま。


 綺麗に手入れが施された庭園の石畳を歩きながら、リステリアさんはこの庭園の話もしてくれた。


「この庭はね、お父様とお母様が初めて出会った場所なのよ?」


 おー、私のルーツとなる場所なんですね。


「あなたももしかしたら、いつの日かこの庭園で素敵な出会いをするのかしらね」


 幸せそうに微笑むリステリアさんは庭園をゆっくりと進みながら久しぶりの外の景色を満喫しているようだった。


 綺麗に敷き詰められた石畳の上を歩いていくと、直ぐにテーブルセットが用意された一角にたどり着いた。


「リステリア様、直ぐにお茶の用意が出来ますのでお座り下さい」


 リーゼさんが椅子を引くと、リステリアさんはゆっくりと腰を掛けた。


「お疲れではありませんか?」


 座って深呼吸をしたリステリアさんを見上げると、リーゼさんが私の心配を代弁してくれた。


「大丈夫よ、でも久しぶりで気持ちいいわね」


 顔色は良いものの、やっぱりまだ散歩はきつかったのかなぁ。


「こうしてシオルと一緒にお散歩にこれる日が来るなんて夢のようだわ」


 どこか遠い目をして庭園を眺めるリステリアさん、色々あったんだろうなぁ、王妃殿下だしやっぱり泥沼愛憎劇?


 あのアルトバールさんを知っているだけに、余り想像がつかないけど、きっと色々な出来事があったんだろうなぁ。


 その後しばらくして、いつもの如く脱走してきたアルトバールさんも交えて午後のティータイムを過ごした後、いつも通りシリウス伯父様に引き摺られながら公務に帰っていったアルトバールさんを見送った。


「リステリア様、私たちもそろそろ戻りましょう」


 見慣れない太陽や、庭園鑑賞を楽しんだ後、明日の生誕祭に響くといけないと言うリーゼさんの薦めで、散歩は御開きになりました。

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