第8話ぷち女の争い?

 大広間へと続く廊下には色とりどりの花が飾られてとっても鮮やかです。


 廊下の壁には一定の距離をおいて同じ模様が刺繍されたタペストリーが掛けられてます。


 もしかしてこの太陽っぽいような物を蔦っぽい物が囲んでいるのがこの国の国旗のような物かな?


 金細工の施された螺旋階段を降りると、二階廊下の倍くらいありそうな大理石を敷き詰めた廊下に出た。


 廊下の向こう側にひときわ大きくて白地に金の豪華な装飾が施された扉が見える。


 遠目から見ても大人二人分くらいの高さがあるんじゃないかな。


 大広間の入口が近づくと廊下に集まった人々がリステリアお母様の姿を見つけて、廊下の端に移動するように道を開けてくれる。


「王妃殿下がいらしたぞ」


「相変わらずお美しい」


 派手な身形の男性客何人かはリステリアお母様の姿に賛美を贈っていて、前を歩くリステリアお母様は凛としてとても綺麗だなぁ、今回の人生若干マザコン気味になりそうです。


 リーゼさんの腕に抱かれながらそんなことを思っていたら賛美に混じって耳に飛び込んできた単語に愕然とした。


「あのお子は王妃が他の男と作った子供とか?」


「陛下は他で産ませた子供を王妃陛下に御子と偽らせているようですわ」


 聞き捨てならなかった。むしろ聞き間違いかと耳を疑う、お母様の子供じゃない? どう言う事なの?


 囁くような小さな噂の声の主は、五人の女性ばかりが集まったグループ。


 豊かな金髪を結い上げた目付きのキツイ女性が、廊下の中央を進むリステリアお母様を睨み付るようにして取り巻きと共にこちらを見ている。


 うわっ、女の争い! 巻き込まれたく無いけど何なの!?


 不意に私を抱いていたリーゼさんの腕に力がこもる、まるで何かに耐える様に目を瞑ると顔を上げ金髪の女性へと睨み付ける。


「あぅ!(リーゼさん落ち着いて!)」


 くっ、苦しい! ギュウギュウと締め付けるリーゼの腕をぱしぱしと叩くと、リーゼさんはハッとして私の顔を見る。


「あーう(リーゼさんどぅどぅ)」


「リーゼ、ありがとう。 大丈夫ですよ、私は気にしていませんから」


 どうやら聞こえていたのは私だけではなかったようです。


 リステリアお母様は足を止めることもなく前を向いたまま穏やかにリーゼさんに聞こえる様に呟くと、少しだけ視線を声の主に走らせると、ふわりと笑って見せる。


 微笑まれるとは思っていなかったのか金髪で化粧の濃い集団の数人が気まずそうに目を逸らすなかで一人だけうすら寒い笑いを浮かべる女が、あの集団のボスなんだろうか。


 睨み合っている訳ではないけれど、張り付いた笑みが怖い! 逆に怖い! まだ普通に睨み合っているほうが怖くないんだと人生二十八年で初めて気がつきましたよ。


 背中が寒くなる微笑み合いを先に切り上げたのはリステリアお母様だった。


 何事も無かったかのように優雅に扉をくぐると、玉座と思われる一段高くなった所からアルトバール父様がシリウス伯父様の制止を振り切って飛び降りた。


「もう、アルったら」


「アルトバール様……」


 困ったように苦笑するリステリアお母様と、私を抱いていない手を両目に当てて首を振るリーゼさん。


「リステリア! シオル! 待ちくたびれたぞー」


 いや、お客さんが呆気に取られてますよアルトバール父様……。


「へーいーかー、何もわざわざ陛下自ら迎えに入口まで走らなくても宜しいんですよ!?」


 リステリアお母様の前に片膝を付き手の甲に口付けながら見上げるアルトバール父様に後から追いかけてきたシリウス伯父様が握り締めた手をプルプルと震わせている。


 玉座の前には挨拶に来ていたであろう恰幅の良い貴族なのだろう中年男性客は口上途中で急に立ち上がり脱兎のごとく飛び出していったアルトバール父様に付いていけずあたりを落ち着きなく見渡している。


「大丈夫! 優秀な宰相がなんとかしてくれるではないか!」


「丸投げしないでください! 陛下は大人しくあの椅子に座ってて下さい! リステリア様とシオル様はきちんと席にいらして頂けるように三日前から手筈を整えておりましたのに、陛下の単独行動で全て水の泡ですよ」


「あー、なんのことだろうなぁ。 さぁ、リステリア! シオル! そなたたちの席はこちらだぞ」


 シリウス伯父様の小言にきちんと両耳を手で塞ぎ遮断していたアルトバール父様は、タイミングを見計らいリステリアお母様の手を取り立ち上がるとそそくさと王妃席に案内を始めた。


「はぁ、私レイナス王国の宰相を辞任しても良いですか?」


 諦めたように呟くシリウス伯父様に両手を伸ばす。


「あー(そんなこと言わないで)」


 シリウス伯父様が手を伸ばしてリーゼさんから私を受けとってくれたので、慰めるようにペシペシと叩く。


「宰相閣下が辞めてしまわれたらこの国は一日持ちませんよ」


 リーゼさんの苦笑いにシリウス伯父様は大きな大きなため息を付いた。

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