第2話 悪役令嬢の所業

 わたくしは、人の目があるところでは淑女を装う。

 使用人に対しての扱いは厳しいのです。


「このノロマ。お茶が冷めてしまいますわ。替えてらっしゃい」

「はい」


 もちろん、誰彼かまわず冷たくするのではない。

 いつも冷たくする人は決まっている。


 何をするにも遅いエミリ。

 わたくしは使用人でイライラしたときに嫌がらせをしている。


 そしてもう一人がわたくしのいとこにあたるルリア。


 後ろ姿は、わたくしによく似ている。

 苛立ちを感じるくらいに。


 わたくしのほうがそつなく勉学も教養もある。

 年が一つしただから、大きな態度でいられる。


「あなたの服くださいね」

「でも、姉さま。あの服は胸元が開いていて姉さまには」

「縫わせればいいでしょ。わたくしの体に合わせなさい」


 なおもルリアは言って来る。相当取られるのが嫌と見える。


「あれは私の母が頼んだもので」

「わたくしには着せられないってことなのね」


 ドレスを力いっぱい、わたくしの方に引き寄せる。


「お父様に言いつけてやるんだから」

「……申し訳ありません」

 ルリアは自分用に仕立てたものをこのわたくしに献上した。

 それでいい。わたくしが一番美しいものを着るべきだ。

 だって一番、似合うのだから。


「そう。わかればいいのよ。ありがとう。ルリア」


 ばさりと床にドレスを落として、命じる。


「仕立て屋を呼んでね。

 こんな下品な服着たら評判が落ちてしまう」


 使用人のエミリははいと答えるしかない。


 ☆ ☆ ☆

 一番のわがままである姉さまと呼ばれた子が退出して

 一段と部屋の空気が重くなった。

「ルリア様、このようなことになって申し訳ありません」


「いいわ。どうせ2着くださったものの1着ですもの。

 あの子は父の昇格祝いで

 一族が集まった日に『むかつく』とかで

 来なかったんだもの。

 かわいそうだからあげるわ」


 あの娘は傲慢ではある。


 周りのものには大目に見られている。

 まだ14だから許されているところはある。


「それにそろそろ婚約するの」

「おめでとうございますわ。そんな大したこともできませんが」


「いいのよ。でもこのことはあの子には言わないで頂戴」

「はい」

 婚約者を奪おうとするのか、はたまたずるいというのか。

 どちらにしてもろくな結果は想像出来ない。

「お任せくださいませ」


「頼むわね」


 ルリアの信頼は厚い。

 両親からも使用人たちからも。


 だからあの娘をのけ者にするくらいなんてことない。


「私は伯爵様に愛されることを考えないとね」


 気分屋のいとこに惑わされている場合ではない。


「これからはあの子に振り回されずに生きていきたいわ」

 わがまま放題の娘はいとこの婚約者に目を付けた。

 ルリアの婚約者内定挨拶の時、娘は勘違いを起こしていた。

「完璧ね。こんなに露出しているんだし。若いんだし。絶対に私を選ぶはず」

 婚約者を奪い取る計画を立てた。ルリアが当然の権利を主張する。

婚約者だけれど」

「わたしのほうが可愛いからいいじゃない」

「そんなに肌を出して。はしたないったらありゃしない」

 あまり肌を露出するのは娼婦のしぐさとして嫌がられる。

 勝負するまでもなく、結果は見えている。婚約者の意向を聞いてみないとと思い、婚約者の意見を聞いてみる。

「で? あなたはどうするの」

「僕はもちろん」

「わたしよね?」

「いいや。僕は若いだけのお嬢さんはいらないよ」


 婚約者はなびかない。


「よかったわ。若いだけの魅力に惑われる人ではなくて」


「チラとでも疑われて悲しいよ」


 伯爵位を保つためには賓客をもてなし場面も多くある。


 ただ不機嫌だというだけで拒否するような振る舞いでは、

 到底やっていけないだろう。


「安心しましたわ」


「なんで? そんなに魅力があるっていうのよ。私のほうが素晴らしい品格を持っているわ」

「使用人たちにきいてみなさい」


 使用人の女性たちは意見はいわないものの、目をそらすもの、文句を言いたそうにこちらを見るもの、意見を聞かれたくなくて後ろに逃げるように下がるもの。


 反応は様々ではあるものの、あの娘をかばう人はいそうになかった。


「これで、安心して婚約の義を薦められそうですわね」


 婚約の義当日のトラブルに、娘の醜態は周知の事実となったのだった。

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