悪役令嬢は後世で悪名を知る

朝香るか

第1話 地獄のような場所で

「ここはどこですの?」


「天国と地獄のはざまだよ。お嬢さん」

 真っ暗な場所。

 手を見るけれど、腕すら、指先すら見えない。


 なぜか死神さんの周りだけ白くなっていて、

 黒が浮き彫りにされる。


 死神って本当に要るんだなと

 思ったのが初めの感想。


 黒いローブをかぶって長い鎌を

 肩に担ぐようにして持っている。


「こんにちは、お嬢さん。

 ここは懺悔する場所さ。

 君の所業は許されるものではない。

 ただ単に罪を償うだけでは足りないとさ」


「お父様がいいと言っていたから、

 その通りに振る舞ったのよ。

 私は悪くないわ」


「あんたは斬首刑に処された。

 もう死んでいるんだよ」


「どうして? 私は刑罰をうけたの? 

 両親の教えは絶対だと教えられえたのに」


「知らんね。

 実際に執行されたのだから、

 あんたは間違っていたんだ」


「死神さん、私のようなものは罪を知るのですね」


「そうさ。

 後世を生きる人間からも軽蔑され、

 戒められ、

 悪女として語られることも一つの償いなのだ」



「わたくしの名は後世にまで語られるのですね」

「そう。悪女として。歴史的罪人として」


「聖母のような女性としてではなく、悪女としてですの?」

「ああ。その通りだ」


 ああ。わたくし、後世にまで悪名が轟くなんて。


「知らなかったのですもの。

 どれだけ罪深いか」


「これから嫌というほど知る時間はある」


 執行される直前の呪いの言葉、

 執行された時に歓喜の声。

 

「あんな女が歴史上いるなんて信じられない」

「本当だぜ。あんな女、実在したって人がいることが不思議だせ。杏奈悪女が世渡りなんてできるものか。生まれがいいからってこんなに調子に乗って」


 後世の人間の侮蔑の声。


「嫌というほどに実感できるさ」

 ここにいる限り自分を顧みる時間は余るほどある。


 ☆☆☆


 彼女は自分の決断を呪い、恨み、そして反省するまで。

 しっかりと私が見とどけてやろう。


 それが大死神から仰せつかった私の使命なのだ。

 彼女は同じ言葉を繰り返している。


 そのたびに私は同じ言葉を返している。


「知らなかったのですもの。

 どれだけ罪深いか」


「これから嫌というほど知る時間はある」


 彼女はまだまだ自分の置かれた状況も、

 何が悪いのかの把握も本当の意味で理解できてはいない。

 彼女は自分の行動を父親のせいにしている。

 人のせいにしているうちはまだ楽だ。

 自分のせいだと考えるよりもまだ自責の念が薄いから。


 これから長い時間をかけてじっくりと考えるようになるだろう。

 この行動が悪かったと、あの決断がダメだったのだと。

 悔いるようになるのだろう。


 それでは振り返ろう。

 彼女の過ちを。

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