第34話:魔法使いの説明を聞きたいんですけど!?

「あの、先程から知らない単語ばかり出てきてついていけてないのですが・・・オリバー先生、よければ少し、魔法使いについてご教授いただけないでしょうか」

「おっと失礼。笑真ちゃんは魔法使いについて説明していないようだし」

そういいながら向けられるオリバー先生からの視線にも、斎藤ちゃんは動じることなく無関心を貫く。


それに肩をすくめて、オリバー先生は心太へと笑顔を向ける。


「忍者についても色々と教えてもらったし、僕が魔法使いについて講義してあげよう。ま、もともとそのつもりだったんだけどね」

「へ?」


「言っただろう?さっきの手合わせは引き分けだって。だったら、僕の方だって心太に魔法使いについて教えるのがスジじゃないか」

(いやまぁそうだけども!だったら最初からそう言ってもらえませんかね!?

完全にこっちだけ忍者の説明をするものだと思ってたんですけど!)


そんなに怒らないの、心太。

魔法使いのことが聞けるんだからいいじゃないの。


(まぁ、そうなんだけどさ)


私にだけ渋々そう答えた心太は、気を取り直してオリバー先生へと頷く。


「ではオリバー先生、すみませんが講義をお願いします」

「任せてくれたまえ。っと、その前に。心太、生徒諸君はどうする?そろそろ昼休みも近づいているけど」


「あ、もうそんな時間でしたか。皆さん、授業はこれまでにしたいと思います。ここで解散で結構です」

心太が生徒達へそう声をかけると、これまでも我関せずの態度だった朧ちゃんと華ちゃんは、さっさと部屋をあとにした。


「はぁ。面倒ですがスミス先生がおかしな説明をしないよう、私は残らせていただきます」

斎藤ちゃんは深いため息とともに言っていた。


(っていうか、あなたが魔法使いについて説明してくれていれば、これからの時間も必要なかったんですけどね!!!)

心太、荒れてるわね。


「いや~、笑真ちゃん悪いね!ほら、大火はもう行きな。さっきからお腹がグーグー鳴ってるのが聞こえてたぞ」

オリバー先生から声をかけられた剛力君も、


「へへっ、ばれてたか。オリバー先生、またな!」

そういってそのまま部屋を出た。心太には一瞥もくれずに。


(さすがにちょっとへこむなぁ。初日にやりすぎたかな・・・)


あら、心太が反省してる。

それよりも心太、まだ残っている子がいるわよ?


(あ、本当だ。落ち込んでる場合じゃなかったね。クー、ありがと!)


「犬飼君、吉良君、それにウィルソンさん。どうしたんです?お昼に行っていいんですよ?」

心太の問いかけに、男子2人は首を横に振って返した。


「せっかくならば、最後まで付き合いましょう」

「ぼ、僕もそうしたいです」


「2人とも、ありがとうございます。それで、ウィルソンさんは―――ウィルソンさん?」


あら、今気が付いたけれどユリアちゃん、ずっと真っ赤な顔してブツブツ呟いているわね。

心太の声も、全然耳に入っていないみたい。


と、その時。


「ニンジャ、ニンジャぁーーーーーっ!!

まさしくジャパニーズ文化でですわっ!!」


誰の叫びだと思う?

ユリアちゃんよ。


犬飼君や吉良君、斎藤ちゃんも、ユリアちゃんのこの様子には驚いているみたい。

この場で唯一、オリバー先生だけは「ここまで頑張ってたのに・・・」って頭を抱えているわ。


そんなオリバー先生は、意を決したように立ち上がり、ユリアちゃんの方へと向かった。


そのまま、「お嬢様」とユリアちゃんに声をかけて、

「悪いけど、少し待っててね」

心太にそう言うと部屋を出て行った。


(えぇ・・・・)

突然の出来事に戸惑いながらも、心太は犬飼君と吉良君へと目を向ける。


「2人とも、お昼は大丈夫ですか?」

「後で食べますので心配は無用ですよ、小嵐教諭殿」

「それよりも先生、忍者の話、面白かったです!」

心太の質問に、吉良君と犬飼君がそれぞれ答えた。


「そうですか。この後時間があれば、そのまま食堂に行きませんか?私、まだ食堂を利用したことがなくて」

「小嵐教諭殿のおごりであれば、構いませんが?」

吉良君がにやりと笑う。


「仕方ありませんね。授業料としてお支払いしましょう。もちろん、犬飼君の分も」

「え、えっと・・・いいのかなぁ」


「構いません。そもそも、今残っているのだって私が知りたいことに付き合ってくれるわけですから。そのくらいはさせてください」

「じゃぁ、お言葉に甘えて・・・」


「はい。とはいえ、講義をしてくれる張本人がこのまま戻ってこないようなら今からすぐにでも食堂に―――おや、戻ってきましたね」

心太がそういいながら向けた視線の先には、少し疲れた様子のオリバー先生と、顔を真っ赤にしてオリバー先生の後ろに隠れるように歩くユリアちゃん。


「いや~、失敬。彼女は元々、日本の文化に興味があってね。この中学に入ってからこれまでは何とか抑えていたようなんだけど、心太の忍者の話を聞いて感情が抑えられなかったようでね」

オリバー先生は苦笑いを浮かべてその場の4人へと説明した。


(いやウィルソンさん、普段とのギャップえぐいなおい!)

心太の心のツッコみが、私の耳にだけ大きく響いた。

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