第26話:手合わせの前に

「さぁて、校長の準備も終わったようだし、早速やろうじゃない」

どこか楽しげに、スミス先生が心太の前に立つ。


「今このグラウンドに結界を張りました。周りからこちらの様子は見ることができず、また入り込むことも出来ません。

もちろん、出ることも。手合わせとは言え生徒の前です。相手への過度な攻撃は禁じます。勝敗については、どうしますか?」

校長が心太とスミス先生へと問いかける。


「あー・・・新人君、どうすればいい?」

「こっちに振っちゃったよ!」

心太、口調。


「っと失礼しました。えっと・・・校長先生、結界に触れた場合はどうなりますか?」

「内側から結界に触れた場合は、ただ見えない壁に触れるように感じるだけですよ」


「なるほど。では、結界に触れる、もしくは降参したほうが負け、ということでどうでしょうか、スミス先生」

「いいと思うよ。でも助かるねぇ。こういう手合わせなんて初めてで、どうすれば良いか分からなくてね。流石は忍者、なのかな?っていうか、オリバーでいいよ、新人君」

「分かりました、オリバー先生。できればこちらも、『新人君』はやめて欲しいのですが」


「おっと、これは失礼。でもただ変えるだけじゃ面白くないなぁ。せっかくだ、僕に勝ったら、その呼び方を変えてあげよう」

「私も、負けたときの条件を出したほうが?」


「そうだねぇ。だったら、僕が勝ったら忍者について、詳しく教えてよ。その時は僕も、魔法使いについて教えてあげるからさ」


(オリバー先生も教えてくれるなら、勝ったときの条件として弱いような・・・)


彼、負けるつもりがないんじゃないかしら?


(なるほどね。まぁ、僕としてはありがたい話ではあるけどさ)


「分かりました。では、オリバー先生が勝ったら魔法使い、忍者について教え合う。私が勝ったら、オリバー先生は私を『新人君』と呼ばない、ということで」


「お2人とも、生徒の前で賭け事は関心しませんね」

こめかみをピクピクさせている校長が割り込んできちゃった。


「お堅いなぁ校長。あくまでも楽しむための余興みたいなもんだよ。なぁ新人君!」

「まぁ、そういうことですよ校長先生」


オリバー先生と心太が揃って笑顔を向けると、少し不機嫌そうな表情を浮かべながらもそれ以上は追求せず、背を向けた。


そういえば心太、私も手を貸したほうが良いかしら?


(いや、今回は僕だけでやるよ。も使う気はないし)


あら、随分と余裕なのね。


(いや、別にそういうわけではないよ?『戦闘特化』だなんて言われたら警戒はしてるし。

でもまぁ、負けても大して問題は無さそうだし、それにわざわざ手の内を明かす必要もないしね)


あらそう。

でも、せっかくだから具現化してくれないかしら?

どうせなら心太の中からではなく、外から観戦したいのよ。


(はいはい、わかりましたよ)


心太は心の中でそう言うと、私を具現化する。


「おっとぉ〜。その鳥は、召喚、ではもちろんないよねぇ。

その子も一緒に戦うのかな?」

オリバー先生は私を見てにこやかに問いかけてきた。


「こいつはスーといいます。具現獣といって、忍者が具現化させることが出来る・・・まぁ、召喚と似たような力で出てきた相棒ですよ。

スーは今回、観戦したいから出せと言われて出しただけですので」

「相棒なら、一緒に戦ってもいいんだよ?」


「いえ、せっかくなので今回は私だけでスミス先生の胸を借りさせてもらいます」

「胸を借りる、ねぇ。まぁいいさ。じゃ、新人君、そろそろやろうか」

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