第25話:魔法使いとスミス先生
「人の生活を豊かに、ですか」
「そ。魔法使いは、忍者のような怪しい存在とは違うのよ」
斎藤ちゃんは刺々しく心太の言葉に頷いている。
(え、斎藤先生の言葉から敬語が消え失せたんですけど!?っていうか忍者怪しいとか言われたよ!?まぁ、僕からしたら魔法使いも十分怪しいけどね!)
心太、少し大人げない。
「『魔法使いは陰ながら魔法を使い、人々を助けるべし』ですわ」
ここでユリアちゃんが登場ね。
「ウィルソンさんの言った言葉こそ、我々魔法使いの指針。忍者にその様なものがあるのかしら?」
まるでないでしょう、とでも言いたげに、斎藤ちゃんが心太へと視線を向ける。
心太、言っておやりなさい!
(いやどの立場!?っていうかさぁ・・・)
「特にない、ですね」
・・・・そうね。心太の言う通り、忍者にそういう行動指針みたいなものは無いわね。
「忍者は、受けた依頼を遂行するのみですから。特にそういった行動指針は無いんです」
「依頼・・・もしかして、その・・・依頼があれば、あ、暗殺なんかもやるんですか?」
オドオドとした様子で尋ねてくる犬飼君。
「確かに、以前はそういったこともやっていたようです。しかし現在、忍者でもそれは禁止されています。もちろん、私も人を手に掛けたことなどありせんから安心してください」
心太がそう言うと、犬飼君はどこか安心したように頷いていた。
それを確認した心太は続ける。
「忍者に対する依頼は、全て忍者を統括する『忍者協会』が管理しています。そこでもしも暗殺のような依頼があった場合、依頼者から忍者の記憶を消去することになっているんです」
「記憶を消去?」
「まぁその辺は、良ければ後ほどということで」
犬飼君の疑問に、心太は笑顔を返すのみに留めた。
「記憶を消去だなんて、忍者とは素晴らしいわね」
(斎藤先生、話すようになったと思ったらここぞとばかりに忍者をディスってくるんですけど!?しかも完全に敬語無くなったし!!)
確かに、彼女ちょっと言い過ぎよね。
「まぁ、斎藤先生の仰ることも理解出来ます。しかし、魔法使いの指針も、私からすると考えものなところがあるかと思いますが」
あら、ここで心太が反撃に出たわね。
「それは聞き捨てなりませんわ」
心太の言葉に反応したのは、ユリアちゃんだった。
これまでどちらかと言うと友好的だったユリアちゃんが、初めて反抗的な視線を向けてくるわね。
まぁ、斎藤ちゃんもものっすごく心太のこと睨んではいるけれど。
「あなた、魔法使いを馬鹿にするおつもりかしら?」
「あ、いえ、そういうわけでは。っと、その話はまた改めて。それよりも1つ疑問があるのですが」
ユリアちゃんの言葉をサラッと流した心太は、斎藤ちゃんに目を向ける。
「なに?」
「魔法使いの指針については分かりました。しかしそれだと、魔法使いはこれから行う『手合わせ』には向かないのでは?」
「えぇ、野蛮な忍者とは違い、通常魔法使いは『争い』には不向きなのは事実ね」
「それならば何故、スミス先生は『手合わせ』を?」
「整校長の話を聞いていたの?魔法使いのなかにおいても、スミス先生は特別なのよ」
「特別?」
「小嵐教諭殿。スミス先生は、魔法使いの中で唯一、『戦闘特化型』の魔法使いなのです」
メガネをクイッとさせながらの吉良君の言葉に、
(戦闘特化、ね)
心太は心の中で、呟いた。
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