第16話:仲直りをしよう!

「えっと・・・ブラジャー、ですね」

「えぇ。ブラジャーです」


「一応確認なのですが、吉良君は心も女の子で、そのブラジャーは吉良君の物、ということは?」

「いえ。私はあくまでも、男として、男子が好きなのです。なのでこういったものは身につけません」


「ということはこれは・・・」

「失敗、ですね。しかも今回は、斎藤教諭殿の下着を転移してしまったようです」


「わ、わかるのですか?」

「えぇ、クラスの女子と斎藤教諭殿の下着はあらかた転移で見たことがあるので」

そう言って、吉良君は懐から不透明な袋を取り出し、ブラジャーをそれに入れて心太へと差し出した。


「生徒である私は、斎藤教諭殿のお部屋には行くことができない規則になっております。申し訳ありませんが、これは小嵐教諭殿から返却していただけないでしょうか?」

「えっと・・・準備が良いですね」

ぱっと見では何が入っているかわからない袋を受け取りながら、心太が言うと、


「まぁ、いつものことですから」

吉良君はそう言って小さく笑っていた。


「っていうかこれ、私が怒られません?」

「斎藤教諭殿ならば、私の魔法の失敗だと言えば、許してくれますよ」


「まぁ、そういうことでしたら・・・」

心太、すっごく不安そう。


だけど、生徒のお願いを断れるはずもなく、仕方なく了承したみたいね。


「ではこれは後ほどお返しにいくとして。

吉良君、ひとまずもう1つの件を確認しに行きましょうか」

「もう1つの件・・・犬飼氏のことですね」


「えぇ。さ、行きますよ」

心太はそう言って、吉良君と共に犬飼君の部屋へと向かった。



「犬飼君、今少し良いですか?」

犬飼君の部屋をノックした心太がそう声をかけると、犬飼君が部屋から出てきた。


心太と共にいる吉良君を見た犬飼君、少し強張った表情になったわね。

そのまま黙りこくっている犬飼君と吉良君。


「吉良君、どうですか?」

心太のそんな声かけに頷いて返した吉良君は、意を決したように口を開いた。


「犬飼氏。これまで本当にごめんなさい!私はどうかしていました!よかったら、お付き合いを前提にお友達になってください!!!」

「いや告白しちゃったよ!」


心太、相変わらずツッコんじゃってるわね。


対する犬飼君は、とっても驚いて、戸惑っているみたい。

そりゃ、これまであんな態度をとっていたひとから謝られたらだけでなく、突然告白までされたら戸惑いもするわよね。


「えっと・・・お付き合いっていうのは難しいけど、よかったら、友達になってもらえると、嬉しい、です」

それでもなんとかそう返してくれた犬飼君の言葉に、吉良君は破顔した。


「おぉ、小嵐教諭殿!やりました!犬飼氏が友達になってくれました!!」

そう言いながら吉良君は、犬飼君の手を取って大はしゃぎしていた。


「えっと・・・小嵐先生、これはいったい・・・?」

なおも戸惑っている犬飼君に、心太は笑顔を返す。


「どうやら吉良君は、本心であなたにあの様な態度をとっていたわけではないみたいでした。私はただ、少し彼の背中を押しただけ。

これまでのことはすぐには許せないかもしれません。それでも、良かったらこれから仲良くしてあげてください」


「ゆ、許すなんてそんな・・・あの、僕は大丈夫だから、その・・・吉良君、これから、よろしくね」

「はい!ありがとうございます犬飼氏!」


「それでは、あとは若い2人にお任せして、私は行きますね」


ちょっぴりお見合いみたいな言葉を残して、この日改めて友達になった2人を置いて心太はその場をあとにした。


(さて。僕にはもう1つ仕事が残ってるんだよなぁ)

憂鬱な想いを抱いて。



そしてやって来たのは斎藤ちゃんの部屋の前。


心太は吉良君から預かった斎藤ちゃんの下着が入った袋を手に、部屋の扉をノックした。


「はい」

そんな声と共に部屋から出てきた斎藤ちゃんは、普段のピシッとした恰好ではなくジャージ姿。

しかも盛大に汗をかいているみたい。


そんな斎藤ちゃんの様子を無視して、心太は袋を斎藤ちゃんに差し出した。


心太、斎藤ちゃんとあんまり関わりたくないみたいね。


(そりゃ、あんな冷たい態度とられたらね!)

心太が私の言葉にそう反している間に、斎藤ちゃんは袋の中身を確認しに、ハッとした表情で胸元を抑えた。


「バチンッ!!」

「へっ!?」


心太が気が付いたときには既に斎藤ちゃんのビンタが心太の頬を襲っていて、戸惑う彼をよそに目の前の扉が強く、閉められた後だった。


もしかして、あのブラジャーさっきまで着けていたものだったのかしら。


(なぁっ!?っていうかこれ、僕が取ったとか思われたんじゃない!?

もう!!さらに斎藤先生の当たりが強くなっちゃうじゃん!!!)


心太の心の叫びだけが、私の耳に響く。


そんなオチを残して、心太と私の教師生活の初日は幕を下ろすのだった。


(いや、教師なのは僕にはだけだからね!?)

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