第12話:理事長室にて
これは、心太の面接が終わり採用が決まった直後のこと。
「あなたのお陰で、素敵な先生を本校へお呼びすることができそうだわ」
理事長室から学園をあとにする心太の後ろ姿を眺めながら、桜花中学校理事長のミエ エバンズが言うと、
「別におれの知り合いってわけじゃないからね。あくまでも友達の伝手ってやつだし」
エバンズから声をかけられた少年がそう返した。
その少年の声には、どこか不満そうな気配が漂っていた。
「あら、まだあのクラス分けのことを怒っているのかしら?」
そう言うエバンズは苦笑いを浮かべている。
「ミエばあちゃんも知ってるでしょ?おれの目的。ああいうのは、どうしても納得できないんだよ」
「あなたの考えも理解はしているわ。それでも、これには理由があるの」
「その理由は、話してくれないの?」
「えぇ、流石にまだあなたには早すぎるわ」
(ケケケ、お前には早いんだってよ)
(
(ふむ。まだ我々も、魔法使いとやらについて全ては理解しておらぬからのぉ)
「あぁもう!頭の中で色々言わないでよ!」
「あら、あの子達、何か言っているのかしら?」
突然の少年の叫びに驚くことなく、エバンズは面白そうに問いかける。
「別に大したことは言ってないよ。まぁ、そっちにも事情があるんだろうし、今は何も文句は言わないよ」
「あら、聞き分けの良い弟子だこと。まぁ、追い追いちゃんと話すから、安心なさい」
「わかりしたよ師匠」
「あら、いつものように『ミエばあちゃん』でいいのよ?」
「いや、そっちが先に『弟子』とか言ったんじゃん」
「もう!そういうところ、あの子にそっくりよ。あの子、いつも私と距離を置こうと―――」
「そういうミエばあちゃんの話が脱線するところ、多分ミエばあちゃんの言う『あの子』にそっくりだと思うよ」
(お前がそれを言うか?)
(あなただってよく脱線するじゃない)
(ふむ。血は争えぬのぉ)
「だからうるさいっての!」
「ふふふ、あなたはいつもにぎやかね」
エバンズは、傍から見ると一人で叫んでいる少年の姿に、微笑ましい視線を送って呟いた。
「はぁ。とにかく、こっちのことはおれは今のところは口出しはしない!じゃ、今日のところは帰るね!!」
「あら、もう少し良いじゃない。美味しいお菓子があるわよ?」
「多分おれの友達がいたら、『いやおばあちゃんの家かっ!』ってツッコんでるよ」
(相変わらず下手なツッコみだなぁ)
(まぁ、彼には劣るわね)
(ふむ。こやつはどちらかと言うと、勢いに任せてツッコむタイプだからのぉ)
「いや1人変な分析してるんですけど!?」
(おっ、確かに勢いでツッコみやがったな)
(こういうときの反射神経は、まずますよね)
(ワシの言ったとおりじゃろ?)
「だぁもう!話が進まないっ!とにかく、これから部活だしおれは帰るからね!」
「そうそう、その部活なんだけどね」
エバンズは出ていこうとする少年の後ろ姿に語りかける。
「彼らを連れて、いつかそちらにも伺うつもりだから、その際はよろしくね?」
「いやそれ、先に言ってよね!っていうか、魔法使いがこっちに来て良いのか知らないよ!?」
「大丈夫。既に許可はとってあるわ」
「・・・仕事が早いことで」
「仮にも理事長ですから」
「あぁそうですか。一応、来るときは教えてよね。先生とかにも伝えるから」
「えぇ、そうするわ」
「あ、そうだ。こっちに来るつもりなんだったらさ、ひとつお願いしたいことがあるんだけど――――」
少年が続けた言葉を聞いたエバンズは、深いため息をついた。
「あなた、それこそ『先に言ってよ!』よ?こちらもそうだけれど、そちらにも準備が必要じゃない」
「なははは、ごめん。それより、どうかな?」
「はぁ。いいでしょう。こちらの方は私が手配します。
そちらは、あなたに任せますよ?」
「さっすが理事長様!うん、こっちは任せて!じゃ、今度こそ帰るからね」
少年は、そう言って理事長室をあとにした。
「本当に、元気な子ね」
騒がしく出ていった少年に優しげな笑みを浮かべていたエバンズは、表情を引き締める。
「小嵐先生、あなたの力量、しっかりと見せていただきますよ」
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