第9話:ここからは一人称視点で語りましょう!

「なに?」

心太から視線を向けられた少女は、毛先を遊ばせながらも不機嫌そうに応える。


「あなたの自己紹介を待っているのですが」

「はいはい。あーしははないろどり 華よ」


「彩さん、ですね。よろしくお願いします」

「よろ〜」

彩からの雑な自己紹介に丁寧に頭を下げた心太は、残りの少年2人に目を向けた。


火の玉を操っていた赤髪の少年と、その少年に火の玉を向けられていた気弱そうな少年である。


心太の言葉を無視するように外を見る火の玉少年。

反抗期なのかしら?


(スー、物語口調から変わってるぞ)

(あら失礼。でも、一人称視点での物語というのも面白そうね。

今回はそうしてみようかしら)


(いや今回ってなんだよ!)


うるさい心太は放っておいて、ここからは私視点で物語を紡がせていただくわ。

よろしくね、みんな。


(みんなとは)

(読者のみんなよ)


(ちょっと待って。これ本にするつもり!?)

(えぇ。いつか、あの人みたいにね)


「やめろっ!!」

私の言葉に、心太は叫んだわ。


クラスのみんながびっくりしちゃってるじゃない。


「し、失礼」

突然声を荒らげたことを生徒達に詫びる心太は、自分でも叫んでしまったことを恥じているみたいだわ。


私のせいでもあるし、少し反省。

やっぱり心太には、あの人のことはタブーみたい。

え?が誰かって?

それはね―――


「あ、あの〜・・・」

1人の少年がおずおずと手を小さく挙げたみたい。

火の玉少年に脅されていた彼ね。

話の続きは、また今度ね。


「ぼ、僕は犬飼いぬかいです。犬飼 みさお

「あ、犬飼君ですね。変な空気の中、ありがとうございます。これから、よろしくお願いしますね」

心太は犬飼へと頷いている。


「残るは君だけですよ?」

心太はそう火の玉少年へと声をかけてみたけれど、彼は犬飼君を睨んだまま、また心太を無視しているみたい。


「ま、名簿があるから残った君の名前はわかっちゃうんだけどね。

はい、君は剛力ごうりき 大火たいが君ですね。よろしくお願いします」

若干嫌味を込めながらそう言う心太に、剛力君は舌打ちを返しているわ。


もう、中学生って可愛いわね。

それに、心太ちょっと大人気ないわね。


あら、心太が話を進めそうよ。


「さて。これでひとまず自己紹介は終了ですね。

では、先程言ったとおり忍者について少し説明しましょうか。

本当は皆さんから魔法のことについても色々とお伺いしたいのですが・・・」

言い淀みながら斎藤ちゃんを診る心太だけれど、彼女はそれを平然と無視しているみたい。


ふふふ。心太さっきから無視されっぱなしね。


「お待ちになって。あなたは先程、忍者だと言いましたわね。

先程のあなたから発せられた力を見るに、それ自体については一応は納得して差し上げますわ」

どこか偉そうな感じのユリアちゃんが、立派な巻き髪を揺らしながら立ち上がった。


「ありがとうございます、ウィルソンさん」

心太のその言葉に、ユリアちゃんは頷いてはいるものの、どこか不満げ。

その理由は、次の言葉でわかることになったわ。


「ではなぜ、その忍者が我々魔法使いの担任になるのかしら?

あなたの様子を見るに、あなたには魔法使いに関する知識もなさそうなのに」


まぁ、当然の疑問よね。

でもこれは、心太自身もまだ分かってはいないことなんだけど。

それでも心太は、ユリアちゃんに答えるべく彼女を見返した。


「あなたの疑問は当然のことだと思います」

あら、ちょっと被っちゃったわ。


(うるさいよスー)

はいはい、ごめんなさいね。


「しかし、何故忍者である私がこの場にいるのか、これは正直私にも良く分かりません。

私はただ、理事長からお声掛けいただき、ここに立っているだけなのです。

もちろん、せっかく教師となることができたのですから、全力で頑張るつもりですが」

心太のその言葉に、ユリアちゃんはブツブツと呟いているみたい。


「···ミエ様の。まぁそれならば···」

「?」

不思議そうに自身を見る心太の視線に気が付いたユリアちゃんは、


「そ、それならばまぁ、あなたが担任となることは認めて差し上げましょう」

と、ものすっごく偉そうに言ってるわ。


「ありがとうございます」

心太はその言葉にも丁寧に返してる。

少しは怒っていいんじゃないかしら。


「しかし、それならば何故、あなたは我々魔法使いのことを何もご存知ないようなのかしら?」

ユリアちゃんの疑問はごもっとも、その2、ね。


実際理事長は、魔法使いのことを斎藤ちゃんが教えるようにと言っていたけれど、彼女は全く教えようともしないのよね。

彼女、絶対に心太が嫌いなのね。


「それは・・・」

ほら、心太も言い淀んでる。

さぁ、どうするのかしら心太。


「せっかくならば、皆さんに伺うことで、少しでも距離を縮められたらと思いまして」

心太はちらりと斎藤ちゃんに目を向けたあと、ユリアちゃんにそう返したわ。

あら、斎藤ちゃんのせいにはしないのね。

少しは見直したわ。


まぁ、先程斎藤ちゃんのことを恨みがましく見ていたから、気づく子は気づいているかもしれないけれど。


(だからうるさいって)

心のなかで私へツッコんでいる心太に、


「ま、まぁそういうことでしたら、仕方がありませんわね。

ミエ様のご迷惑にならないようにしなければいけませんし」

ユリアちゃんはそう言って、腰をおろした。

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