第8話:自己紹介を始めましょう!
「せっかくならば、もう1つ何かその忍術とやらを見せては頂けないかしら?」
ウィルソンと呼ばれていた少女が、心太の作り出した『水砲の術』が霧散するのを興味深げに見ながら言う。
「それは構いませんが・・・せっかくならば、先にあなたの自己紹介をしていただけませんか?」
「・・・これは失礼。
(自己紹介短っ!そして魔法使いの名門とか知りませんけど!)
心太は心の中でツッコミつつ、ウィルソンへと頷いた。
「ありがとうございます。先程あなたが彼に執拗にけしかけていたソレも、魔法なのですか?」
心太の視線が、ウィルソンの髪に隠れている妖精のような何かを捉える。
「ソレなどと呼ぶのはおよしになって。私の魔法『召喚』による使い魔、ミクですわ。ミク、ご挨拶なさい」
ウィルソンの言葉に、使い魔ミクは可愛く首を横にふる。
「この子、あなたに怯えているようね」
「それはすみません。ミクさん、先程は申し訳ありませんでした」
心太はウィルソンに、正確にはウィルソンの頭上のミクに対して頭を下げた。
心太のその様子を見たミクは、恐る恐るウィルソンの頭上から飛び上がると、頭を下げたままの心太へと近づいた。
それでもなお頭を下げ続ける心太の頭をペシペシとその小さな可愛い手で叩くと、満足げにウィルソンの元へと戻っていった。
「許してあげても良い、とミクが言っておりますわ」
「それは良かった。ウィルソンさん、そしてミクさん、これからよろしくお願いします」
心太は笑顔で頷くと、
「ではウィルソンさんのご要望にお応えして、もう1つ、私の忍術をお見せします。出てきて、スー」
そう言って腕を前へと差し出した。
その直後、心太の腕に一羽の鳥が姿を現した。
真っ白な体に尾だけが赤く染まるその美しい姿に、クラスの面々は釘付けになっていた。
(いや釘付けになってませんけど?それに美しいとか、自分で言ってて恥ずかしくないの?)
(うるさいわね。いいでしょう?私の自由なんだから)
(はいはいそうですか)
心太は私の言葉に適当に相槌を打って、ウィルソンを含む生徒たちへと向かなおした。
「こいつはスー。私の具現獣です。具現獣とは、まぁウィルソンさんの『召喚』?とらやのようなものと思っていただければ。
彼女の趣味は物語を紡ぐこと。いつも僕の頭の中で、下手くそな物語を語っているんですよ」
そう。この物語、私と心太の奇跡の物語の語り部こそが私、スー。
(奇跡とかやめて)
心太はいつもこうやって私の語りの邪魔をするの。
もう、いい加減にしてほしいものだわ。
(いやこっちこそ、仕事中に頭の中で語られてるのいい加減辞めて欲しいんですけど)
(そんなことより、あなたの大事な生徒達が呆気にとられているわよ?)
(誰のせいだよ、誰の!)
心太は私に毒づきながらも、生徒達へと視線を戻す。
「物語・・・その子、喋るの?クーちゃんと、一緒」
スーに目を向けながら、先程まで熊のぬいぐるみと話していた少女が小さく呟いた。
「ええっと・・・あなたは?」
「
幻中がそう言うと、彼女の腕から熊のぬいぐるみが飛び出して恭しく一礼する。
「よ、よろしくお願いします。幻中さん、クーちゃん。それで、えーっと。幻中さんの質問ですが・・・スーは私との会話は出来ますが、他の人との会話はできません。
具現獣の中には普通に会話ができるものもいますが」
「ということはその、具現獣とやらは忍者であれば誰もが持つものなのですかな?」
心太の言葉に、七三分けヘアーに眼鏡姿の少年が手を挙げて発言する。
先程まで、ウィルソンとミクにより執拗までに攻撃を受けていた少年である。
「えぇっと」
「失礼。私の名は
見るからに真面目を絵に描いたような少年の言動に、心太は不思議そうに先程のウィルソンの言葉を思い出す。
「あなたまた『転送』でワタクシの下着を盗んだわね!?」
と、確かに彼女はそう言っていた。おそらく彼、吉良君の魔法が『転送』なのだろうが、果たして彼が本当に下着を盗んだりするのだろうか。
まぁ、この年の男子は色々とアレだけども。
心太は心の中でそう、考えていた。
(いや、勝手に僕の頭の中を物語にしないでくれない?)
(心太、私にツッコんでいる暇があったら、生徒の質問に答えてあげたら?)
(はいはい、わかりましたよ!!)
不貞腐れながらも、心太は吉良と名乗る少年に応える。
「吉良君、ですね。よろしくお願いします。具現獣についてですが・・・せっかくならば少し、忍者というものについて説明しましょう。と、その前に。
先に自己紹介を終わらせないといけませんね」
心太は、そう言って先程から興味なさげに髪の色を変化させている笑女へと目を向けた。
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