第7話:証拠を見せましょう!
「「「「「・・・・・・・」」」」」
心太の『忍者です』発言に、教室は無音という地獄へと変わった。
(え、いやなにこのスベった、みたいな空気!)
そしてこの地獄を作り上げた元凶である心太は、凍りついた場の空気に心の中で悲鳴を上げていた。
(いや、元凶って!忍者であることも伝えろって言ったのは理事長なんだけど!?)
どこへともなくツッコみながら。
そんな彼のツッコミの波を堰き止めたのは、
「っざけんな!何が忍者だ!!んなもん、いるわけねぇだろっ!!!」
1人の生徒のそんな叫びだった。
心太の最初の自己紹介の際に火の玉を操って他の生徒に嫌がらせをし、その後突然水に濡れていた少年だった。
そんな少年の叫びに、心太は苦笑いを浮かべる。
「信じ難い話だという事は理解しています。しかし、あなた方魔法使いが存在するのに、忍者が居ないという根拠はあるのでしょうか?」
「ぐっ」
そのまま発せられた心太の言葉に、少年は返す言葉もなく口ごもっていた。
「忍者について説明しても良いのですが・・・」
そう言って心太は、教室の後方へと目を向ける。
「とりあえず、後ろのお2人、席についてください。
あ、ウィルソンさん、ですかね。キラくん?の拘束は解いてあげてくださいね」
ウィルソンと呼ばれた女子生徒は、渋々といった表情を見せながらも指をパチリと鳴らす。
それと同時に、見えないなにかに拘束されていた下着泥棒疑惑の少年はドタリと床へと落ち、解放したにも関わらず今なお睨みつけてくる少女の視線にペコペコと頭を下げながら、心太の言葉に従って席へと歩みを進めた。
少年を睨みつけていた少女もまた、同様に席へと座るのを確認した心太は、小さく頷いた。
「さて、改めて。今日から私がこのクラスの担任になるわけですが・・・まずは自己紹介をしてほしいですね。校長から名簿は頂いていますが、顔と名前が一致しないもので。
何故か斎藤先生も、教えて下さらないですし」
心太はそう言いながら、沈黙を貫く美女へと視線を送る。
思いっきり嫌味のこもった言葉にも動じることなく無表情の斎藤にため息を漏らしつつ、心太は言葉を続けた。
「まぁいきなり自己紹介させるのもなんなので、まずは私から。
先程も言った通り、私は忍者です。縁あってこの桜花中学校で教師としての道を歩ませていただくことになりました」
「忍者ってんなら、証拠見せてろよ、証拠を!」
そこでまた、先程の少年が待ったをかける。
(いや全然自己紹介進まないんですけど)
心の中でぼやきつつ、心太は自身へと食って掛かる少年に笑みを向ける。
「証拠、ですか。先程あなたにかけた術では、証拠になりませんか?」
「ちっ」
嫌な思い出を忘れるように舌打ちする少年をよそに、心太は指を鳴らした。
それと同時に心太の目の前には、テニスボール大の水の玉が現れる。
「先程あなたには、この『水砲の術』で作り上げた水をぶつけました。本来は相手に攻撃するための危険な術ですが、ちゃんとその辺は危険性を無くしていたので安心してくださいね。
とはいえ、いきなりそんなことをして申し訳ありませんでした」
そう言って心太は、少年へと頭を下げた。
「っ!?」
突然の謝罪に戸惑う少年であったが、次の瞬間その瞳には恐怖の色が浮かんだ。
謝罪のために下げた頭を上げた心太の視線に、そして言い知れない何かの力によって。
「また感じた・・・確かにあれは、魔力ではないですわ」
ウィルソンと呼ばれていた少女の呟きに、心太は少年に向けた何かを解き、笑みを浮かべて頷いた。
「ウィルソンさん、でしたか?そう、今私は、彼に力を向けました。
あなた方魔法使いが『魔力』という力を持つように、我々忍者もまた、力を持っているのです。『忍力』という力を。
通常忍力は、耐性の無い者に向けると恐怖を与えてしまいます。今の彼のように。
そしてこのような力を向けたこと、重ねてお詫びします。
ですが、これは警告です。むやみに他者へ力を振るうことは、私が許しません」
あなたも人のこと言えないじゃない。
どこからか、心太の頭にそんな声が響いてくる。
(うるさいよっ!)
誰にとも無く言い返す心太に、
「では、濡れた彼を乾かしたのも、あなたの言う忍術なのかしら?」
ウィルソンと呼ばれた少女が問いかける。
教師を教師とも思わないような口調で。
「えぇ、そのとおりです。水砲の術で濡れた彼に、私は嫁入り・・・じゃなくて、え〜っと・・・はい、別の忍術を使いました。
あれは服などを乾かし、綺麗にする忍術なんですよ」
心太は何かを誤魔化しつつそう答えた。
ちなみに少年を乾かした忍術。
元は『嫁入り忍術シリーズ』と名付けられていた術の1つなのだが、最近になって突然『ご家庭お助け忍術シリーズ』と改名されていたりする。
元の名を呼ぼうとして訂正しようとするも、なんとも言えない新たな名を未だ覚えていなかった心太は、なんとか適当に誤魔化したのである。
(だから余計なこと言うなって!)
そして心太は、またしてもどこへともなくツッコみながら、作り出した水の玉を霧散させるのであった。
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