第6話:魔法使いクラスの担任は忍者!
「忍者・・・・・」
尊敬する理事長の突然の言葉に、これまで沈黙を貫いていた斎藤は驚きの声を漏らしていた。
対してスミスはというと。
「ふっ。あははははっ!!」
1人爆笑していた。
「ニンジャ!忍者!?理事長、突然冗談はよしてくれよ!彼が、この新人君が、忍者だって言うのかい!?
ジャパニーズマンガじゃあるまいし、忍者なんて居るはずがないじゃないか!」
「それを言うなら魔法使いだって、映画じゃあるまいし、ですけどね」
理事長の言葉に狼狽えながらも、心太はスミスに向かって精一杯の強がりを見せた。
「小嵐先生の仰るとおりです、スミス先生。彼らからしたら、我々魔法使いだって信じ難い存在なのですからね。
信じられないからと言って笑うのは、彼らに対して失礼に値しますよ?」
諌めるようにそう口にする理事長の言葉に、スミスは肩をすくめて応える。
「それで小嵐先生?認めていただけるかしら?あなたが忍者だと」
心太へと視線を戻した理事長の言葉に、心太はさらに警戒する。
「・・・・・・・」
「あら残念。少しは素直にお答えいただきたかったのだけれど。でも・・・」
理事長は少しばかり悲しそうな表情を浮かべると、最後の一手とばかりに口を開いた。
「先程あなたから、確かに感じたのよね。
「っ!?」
続けられた理事長の言葉を聞き、流石に心太も息を呑んだ。
それと同時に、覚悟を決めた。
(忍力のことまで知っているとなると、
ため息をついた心太は、諦めたように両手を小さく挙げた。
「降参です。そして認めます。確かに僕・・・私は、忍者です」
心太は両手を挙げて、降参のポーズをとった。
「だったら、証拠を見せてくれよ新人君。忍者だったら、ニンジュツってやつが使えるんだろう?」
挑発するように、スミスは言った。
斎藤もまた、無言ながらも疑わしげに心太を見ている。
「はぁ。そうそう見せびらかすようなものでもないのですが・・・・」
心太は、ため息交じりにそう呟いていた。
(っと。回想シーンを繰り広げている場合ではありませんでした)
4話半にも及ぶ長い回想から我に返った心太は、目の前の現実を見つめていた。
何も言い返すことなく、クラスメイトから火の玉を向けられる少年。
そして、『下着泥棒』呼ばわりされて謎の妖精に責められている少年。
(いや、こちらはもしかするとあの少年の方が悪の可能性もありますが・・・)
「それでも、私のクラスで暴力を見過ごすわけにはいきませんよね」
そう小さく呟いた心太は、火の玉を操る少年に手をかざしながら瞬時にして教室の後方へと向かった。
「これ、触れるんですね」
次の瞬間には『下着泥棒』呼ばわりされていた少年を執拗なまでに攻めていた妖精のような何かを鷲掴みした心太が、手のひらの中で暴れるそれを見つめながら呟いていた。
「つっ、冷てぇっ!」
そんな心太の呟きをかき消すように、教室には先程まで火の玉を操っていた少年の叫び声が響いていた。
その周りには既に火の玉は無く、少年は言葉通りに、何故かずぶ濡れになっていた。
「ふぅ。皆さん、これで少しは話を聞く気になりましたか?」
その言葉に、教室の生徒達の視線が心太へと注がれた。
「「「「「っ!?」」」」」
次の瞬間には教室の後方から教卓側へと移動していた心太に、生徒達は揃って驚きの色をその顔に浮かべていた。
「おっと、忘れてました」
驚きのあまり声を失っている生徒達を尻目に、心太は火の玉を操っていた、そして今は見る影もなく水浸しになっている少年に向けて指を鳴らした。
「は?」
それと同時に、ずぶ濡れだった少年の髪や制服は乾燥し、更にはシワだらけだったシャツもアイロンでも掛けたように綺麗になっていた。
ずぶ濡れから一転、身奇麗になった少年は小さく声を漏らし、他の生徒達もその様子をあっけにとられるように呆然と見つめていた。
「い、今のは、魔法?いえ、違いますわ・・・」
そんななか、下着泥棒呼ばわりされていた少年から“ウィルソン女史”と呼ばれていた少女だけは、心太の行動を見てブツブツと呟いている。
その頭では、いつの間にか先程まで心太の手に握られていた妖精のような何かが、見えないロープで縛られているかのように暴れていた。
「突然すみませんでした。でも、いくら魔法でも、教室の中では火気厳禁、ですよ?」
心太は、火の玉を操っていた少年に笑顔を向けてそう言うと、教室を見回した。
「さて。改めて、自己紹介を。今日からこのクラスの担任になります、小嵐心太です。私は皆さんのような魔法使いではありませんが・・・・」
ここで心太は、言葉を止める。
理事長から、クラスでの自己紹介の際には必ず生徒達に伝えるようにと言われた事を思い出しながら。
(はぁ)
そして心太は、心の中でため息をつき、言葉を続けた。
「私は、忍者です」
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