第5話:魔法使い!?からの忍者!!
「いやいやいや、魔法使いって。え?これも面接の一貫なんですか?
いや、だとしてもたちが悪い冗談ですよ!」
心太は、理事長の突然の言葉に混乱しながらも、笑ってそう答えた。
「あら、冗談ではないのだけれど・・・そうだわ、もう一度、見ていただければ分かるのではないかしら」
心太の言葉に悲しそうな表情を浮かべた理事長は、そう言ってポンッと手を叩いた。
「へ?」
それと同時に、理事長の姿は心太の視界から消えていた。
(消えた!?確かに、気配は感じない)
「ほら、見えないでしょう?それに、気配も感じないはすよ。
これは、我々魔法使いならば誰もが使うことのできる魔法なの。魔法使い以外の者には、姿や気配を感じさせないままにその身を隠すことが出来るのよ」
姿の見えないままに、理事長の声だけが姿を消した場所から心太の耳へと届いてきた。
(ここまでされたら、流石に信じないわけにはいかない、か。でも、このままだと気持ちが悪いな)
心太は心の中でそう呟くと、目を閉じた。
この学校に来てからこれまで、その必要はないと判断して抑えてきた彼自身の力を開放するために。
(・・・何も気配は感じない。いや・・・何か、
心太は考えながらも、突然感じた背後の気配に反応し、とっさに後ろを振り返った。
整「なんと・・・」
斎「なっ!?」
ス「へぇ」
突然振り返った心太を見て、整、斎藤、スミスがそれぞれ小さく声を発していた。
「あらあら、流石は小嵐先生ね」
心太の背後からそんな声が聞こえ、そこから理事長が姿を現した。
「それで、ご感想は?」
理事長は楽しそうに、そう心太へと問いかけた。
「・・・魔法かどうかはさておいて、今のが手品のたぐいでないことはわかりました」
「そう、それは良かったわ」
笑みを浮かべてそう言った理事長は、再び椅子まで戻ってその小柄な体を沈めた。
「まさか私の『姿隠し』がこうも簡単に見破られることになるとは思いませんでしたわ。でも、これで小嵐先生をM-2組の担任にすることに、少しは納得して頂けたのではないかしら?」
少しも驚いた様子のない理事長は、笑ってスミスと斎藤に目をやった。
「・・・・・・・・」
押し黙ったままの斎藤がじっと心太を見つめているのをチラリと確認したスミスは、小さく手を挙げた。
「確かに、彼が特殊なのは理解したよ。だけど、それが担任になる理由にはならないと思うけどなぁ。
ただ人より気配に敏感ってだけの可能性もあるでしょ?
それだけで、
肩をすくめるスミスの言葉遣いに整が厳しい視線を向けるも、それを笑顔で制して理事長は頷いた。
「スミス先生の言いたいことはわかります。もちろん、小嵐先生には担任になっていただくだけの力がお有りなのよ。ね、小嵐先生?」
いたずらっ子のように笑ってそう言う理事長の言葉に、心太は警戒していた。
(もし仮に、理事長やこの場の先生達が本当に魔法使いだとしても、それが
そう考えた心太は、理事長の言葉に首を振った。
「理事長の仰っていることの意味が分かりかねますね。スミス先生の仰るとおり、私は少しばかり人の気配に敏感なだけの、ただの一般人ですよ?」
「あら、こちらの手の内は見せたのに、残念だわ」
少しも残念そうに見えない笑みを浮かべながら涙を拭う振りをする理事長は、そのまま言葉を続ける。
「それでは、こちらから小嵐先生のことをお話しさせていただきますよ。構いませんね、小嵐先生?」
「えぇ、どうぞ」
(本当に知っているならば、ね)
心太は心の中でそう続けながら、理事長の言葉に頷いた。
「ふふふっ、ありがとう。
あなたの力の正体に迫る前に、少しこの学校のお話をさせていただくわね」
突然始まろうとしている学校説明に戸惑いながらも心太が再び頷くと、それを確認した理事長も小さく頷き返した。
「元々魔法使いは、イギリスがその発祥だと言われております」
(いや学校の説明じゃないんかいっ)
心太のツッコミが、彼の心の中に響く。
「そして私は、その昔イギリスに教師として学ぶべく留学し、そこで魔法使いとなりました。
ちなみに、そこで出会ったのが夫のジョー。私達は出会った瞬間に感じました。これが運命の―――」
「理事長、今それは関係ないのでは」
「あら失礼。校長先生の言うとおりだわ」
整の冷静なツッコミに、理事長はおほほほと笑っていた。
「とにかく、私と夫のジョーは、2人で支え合いながら魔法使いとして、そして教師としてお互いを高め合いました。
そして数年前、この日本で魔法使いを育てることが認められて、私はここ桜花中学校の理事長となったのです」
「魔法使いの教育を海外で行うことは、これまで一度も認められたことはありませんでした。ミエ様だからこそ、認められたのですよ」
理事長の話に割って入る形で、何故か整が誇らしげにそう付け加えた。
「ふふふ、ありがとう、校長先生。でもね、これは私だけの力ではなくてよ。夫の、ジョーの存在があったからこそです」
整へとそう返す理事長の顔は、どこか寂しげであった。
「とにかく、私はこの地で魔法使いを育てるべく、動き出しました。そこで知ったのです。
理事長は、心太を見据えてそう口にした。
「・・・・・・」
「やけに引っ張るな、理事長。で、そこの新人君は、一体どういう存在なのさ」
何も返さない心太に代わり、スミスが合いの手を入れる。
「我々魔法使いがイギリスで生まれたように、ここ日本でも、ある存在が生まれました。そして小嵐先生もまた、その力を持っているのです」
そう言った理事長が続けた言葉に、心太は驚愕する。
「それこそが小嵐先生をM-2組の担任にする理由。
小嵐先生は、忍者なのです」
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