第10話 初対面と作戦会議
~多田蓮~
カズと知り合って何日かたって、僕らはすっかり仲良くなった。今では毎日のように通話しながらFPSゲームをしている。
そんなある日、カズの誘いでついにリアルで会うことになった。
忘れかけてたけど、カズはロロへの制裁を望んでいる。明日会うのも、その打ち合わせのためだ。
翌日の土曜日。
待ち合わせ場所の噴水の前で待っていると、現れたのは長袖の黒いパーカーにフードを深くかぶった細身の男子だった。
下も足首まで隠れるジーンズで、肌はほとんど見えない。
それでも、フードからのぞく顔からすると僕と同じ中学生くらいに見えた。
「ダレンか?」
「うん。てことは、君がカズ?」
「あぁ。よろしく」
心配になるくらい痩せた細い腕が伸びる。握手を求められてるんだと遅れて気づいて、慌てて手を握った。
その手は、恐ろしいくらい冷たかった。
「これ、やるよ」
カズが投げてよこした物体を手の中で広げると、一丁の小ぶりなエアガンだった。
しかも、僕がゲーム内で使ってるお気に入りの銃だ。
「いいの!?」
「あぁ。そんなに喜んでもらえるとは思わなかったよ」
「へへ、ありがと」
顔に出てしまっていたらしい。照れ隠しに鼻をかきながら、僕はそれを右のポケットにしまう。落とさないように、奥へ奥へとしっかり入れた。
「ここじゃ誰に聞かれるかわからない。近くにネットカフェがあるんだ、そこへ行こうぜ」
「わかった」
道中、僕らはいつもやってるFPSの話や、学校での話で盛り上がった。
カズは僕より一つ年上の、中学2年生ということだった。
落ち着いてるからネットではもっと年上だと思ってたけど、一歳しか変わらないんだな。
到着したネットカフェは、かなり古い小さな店だった。
「ここ、ボロいけどいっつもガラガラなんだよ。ルールもゆるいから年齢確認なんかされないしさ。ちょうどいいだろ?」
「なるほど」
店の中はカズの言う通りガラガラで、僕らは周囲が空室だらけの部屋に通された。
中はボロボロの畳が一畳と一台のパソコンが置かれていて、思ったより広い。
「座れよ」
「うん」
カズがパソコンの前に座り、僕はそのななめ後ろの画面をのぞき込める位置に座った。
「作戦を相談する前に、俺のスキルを見せとかないとな」
「そうだったね。『スティールビジョン』だっけ?」
「あぁ。相手の視界を奪うスキルだ。一応、そこの壁にもたれかかっとけ。ぶっ倒れてられても困るから」
「わかった」
「いくぞ?」
カズが僕の顔の前に手をかざす。それだけでかなり緊張した。
「『スティールビジョン』」
突然、目の前が真っ暗になった。
目を閉じても少しは光を感じるものだけど、今回はわけが違う。
完全な暗闇。一切の光のない、塗り潰したような黒に包み込まれた。
「解除」
カズがそうつぶやくと、一気に光が飛び込んでくる。
さっきまではなんとも思わなかったのに、今ではまぶしいくらいだった。
「どうだった?」
「すごい、すごいよ! これなら『ヘイトコントロール』なんて使える状況じゃない。ロロといつも一緒にいるユーガだって、このスキルなら!」
「いっぺんに視界を奪えれば、な。
残念だけど俺のスキルは一度に一人の視界しか奪えないんだ。
だから、制裁を加えるにはロロとユーガを引き離す必要がある。
作戦はこうだ。
まず、ロロが公開している今後の配信予定や企画の告知を徹底的に調べ上げてリストアップして、ロロの行動や居場所に大まかな当たりをつけた。
次に、知名度の低い企業を装ってDMでロロに案件を持ちかける」
「でも、ロロも会社名を検索するくらいのことはするんじゃないか? 嘘の会社名じゃすぐバレちゃうよ」
「ペーパーカンパニーって、知ってるか?」
「なにそれ?」
「簡単に言うと、金持ちは形だけの会社を作って自分の資産を守ってるんだ。それを利用するのさ」
カズは得意げだけど、僕にはさっぱりだった。
「つまりどういうこと?」
ずっこけるカズ。
「つまり! 実在するけど知名度0の会社を装ってロロに案件を持ちかけるのさ。
ロロはもちろん調べるだろうが、実在してるんだからバレない」
「そんなうまくいくかぁ?」
「いくさ。なんせ金持ちが自分の資産を守るために作った会社だからな。資本金は余裕で億を超える」
僕がツバを飲んだのに、カズは気づいているだろうか?
「そんでもって、あとは成功報酬の金額でゴリ押す。
あんまり高すぎても怪しいからな、まぁ相場の倍くらいの額にすりゃあ飛びつくんじゃないか?」
「けど、そんな金どこにあるんだよ?」
「ばーか、払うわけないだろ? 欲しいのはロロが視聴者に非公開にしてる予定だけ。それさえ聞き出せれば、あとは適当な理由をつけて無かったことにすればいい。
なんならいきなり音信不通になってブロックしたっていいくらいだ」
「でも、通話するときの声でバレるだろ?
てゆうか、会って話し合おうってなったらどうするんだよ?」
「ロロは配信者だし、女だ。聞いたことない企業の社員なんかと直接会ったりはしないさ。ビデオ通話でも嫌がるんじゃないか?」
「……うまくいくかな?」
「いくに決まってる。ロロのおつむは大したことないし、新人に好条件の案件を依頼する企業なんてそういないはすだ。子どもみたいにはしゃぐだろうぜ?
そしてそれを、地獄の底まで叩き落としてやるのさ」
「カズは、どうしてそんなにロロが嫌いなんだ?」
ふと気になって聞くと、カズの返事は予想外のものだった。
「さぁ? なんでだろうな」
「え?」
「なんかさ、ロロの声、なんとなく母さんに似てんだよ。だから、幸せそうにしてんのが気に入らないんだ」
「なんだそれ」
僕は冗談だと思って笑い飛ばした。
けど、カズは笑っていなかった。
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