第9話 映画鑑賞とロロアンチ

~加藤~


 二日後。

 俺たち五人は古いレンタルビデオ屋に来ていた。

 今晩はこのまま帰らず、マシューたちの家で夜通し映画鑑賞をする予定になっている。

 自動ドアをくぐると、店の中は広く、レンタルビデオの他に雑貨やお菓子も売っているようだった。


「広いですね、すごいです」


 クルミちゃんはうれしそうに目を輝かせる。


「クレーンゲームなんかもあるんだな」

「パイセン下手そうっすね」

「うるせぇ」

「まぁまぁ二人とも。ずいぶん広いが、どこから見て回ろうか?」

「SFホラーがいいよマシュー。ふひひ」


 ブサイクに笑うジネを見て青ざめるマシュー。ホラーが苦手なんだろうか。


「あのグロいエイリアン映画はもうこりごりだ。アクション映画を見よう。男と男の熱いバディものなんかいいな」


「あたしはオフィスラブ系が見たい気分っすねー」


「俺は任侠映画が見たいな。やっぱ映画といえば任侠ものだろ!」


「なるほど。みんな見たいものが違うようだな。一旦解散して、借りるものが決まったらどこかに集合するか」


 マシューの提案で、遠くからでも目立つクレーンゲームコーナーに集合することにして、俺たちはその場で一旦別れることになった。



〜マシュー、ジネ、クルミ〜


「マシューさぁーん」


「ん? クルミか。どうした?」


「一人じゃさびしいので、一緒に回りませんか?」


「私は構わないが」


「ず、ずるい! 私もマシューといたい!!」


 近くの棚から青いマッシュルームヘアが飛び出してくる。

 ジネだった。


「じゃあ三人で回るか」


「そうですね」


「ぐぬぬ」


 ジネは少し不服そうに唇を噛みつつ渋々了承する。

 こうして、マシュー、ジネ、クルミの三人で借りる映画を見て回ることになった。


「なんの映画から探しましょうか?」


「そうだな、じゃんけんで決めるか」


「マシューがそういうなら」


「じゃんけん、ぽん!」


 マシューとジネがグー、クルミがパーを出す。


「やったぁ! 勝ったぁー!」


 飛び上がってこどものように喜ぶクルミに、マシューまでうれしくなって笑みがこぼれる。


「それじゃあ恋愛ものの映画が見たいです!」


「わかった。恋愛もののコーナーはあっちだ。見に行こう」


「はい!」


「むー」


 マシューと仲良さそうにするクルミに嫉妬するジネ。置いていかれないよう少し遅れてついていく。


 恋愛もののコーナーに着くと、ジネはとある作品が目に止まった。

 アリの女王と芋虫の王子様が恋をするというなんとも異色の恋愛映画だった。

 どちらの虫もリアルテイストで描かれていて、ちょっとグロテスクだ。


「ふひひ」


 いじわるな笑みを浮かべるジネ。この映画をクルミに勧めて困らせてしまう算段だった。


「クルミさん、この映画なんてどうですか?」


 ところが。


「あらー! いいですね、いいですね。素敵です!」


 満面の笑みで喜ぶクルミ。


「ジネ、こういうのが好きなのか?」


 一方マシューは軽く引いていた。

 こんなはずじゃなかったのに、と歯噛みするジネだったが、その後もどんなにぶっ飛んだ内容の映画を勧めてもクルミは喜ぶばかりだった。

 そして結局、クルミはジネが勧めてくれた映画のうちの一本を借りた。

 お世辞ではなく本当に見たかったらしい。


 続いて、ジネの好きなSFホラーを探す番になった。


「うーん、どうもこの、グロテスクなエイリアンの見た目が好きになれないんだ」


 棚の間に飾られた等身大のエイリアンの看板に身震いするマシュー。

 ジネにとってはそのグロテスクな造形にそそられるのだが、マシューにはわかってもらえないようだった。

 ジネが少しさびしい気持ちでいると、そばのクルミが目を見開く。


「この宇宙人さん、可愛いですね」


「そ、そうでしょ? 可愛いでしょ? ……ふひひ」


 意外にもクルミと趣味が合うようで、ジネはうれしくなった。


「そうかぁ?」


 マシューは相変わらず気味悪がっているが、ジネは趣味の合う貴重な仲間ができてくすぐったい心地だった。

 興奮気味に宇宙人のこのクリッとした大きな黒目がいいとか、エイリアンの浮き出た肋骨が魅力なのだとクルミに力説する。

 クルミも楽しそうにしていて、ジネもますまうれしくなった。


 そんな調子でジネは迷いに迷ってSFホラーを2本借り、最後にマシューの番が来た。


「く〜、この男と男の熱い決闘シーン、痺れるなぁ」


 マシューは棚に設置された小型スクリーンから流れる予告映像を見て鼻息を荒くする。

 ジネには何がいいのかさっぱりだったが、大好きなマシューの趣味なのでとりあえず乗ってみることにする。


「そ、そうだね! ここの髪の毛をボサボサに振り乱すところとか、男らしいと思う」


「おぉ! わかるか、ジネ!!」


「う、うん……」


 適当に褒めたらマシューの琴線に触れたようだ。あれがいいんだここがいいんどとマシューの長々とした解説の半分も理解できず、ジネは苦笑いで誤魔化す。


「これ、おいしそうですね」


 本人にその気があるのかはともかく、クルミちゃんの一声が助け舟になった。


「ポップコーンか。映画のおともにいいかもな」


 アクション映画コーナーの近くのお菓子売り場に、ポップコーンが売られていたのだ。


「マシュー、このフライパンで炒るタイプ、面白そう!」


「ほう、そんなものもあるのか。面白そうだな、一つ買ってみるか」


「うん!」


 そんな一幕もあって、各々見たい映画を借り終え、集合場所のクレーンゲームコーナーへ足を運ぶ。

 すると、なにやら加藤とサナが一台のクレーンゲーム機にへばりついていた。

 身を乗り出してガラスをのぞきこむ二人の視線は真剣そのもので、そばには明らかに両替したと思しき100円玉が積み上げられている。


「加藤、サナ、どうしたんだ。そんなに熱くなって」


「話しかけないでくれ。あともうちょっとで取れそうなんだ」


「パイセン、そこ、もう1センチ横です。そう、そこです!」


 クレーンが降り、景品のクマのぬいぐるみの頭をキャッチする。


「つかんだ! つかんだぞサナ!」


「落ち着いてくださいっ、下手に揺らしたら落ちちゃいます!」


「っしゃぁぁああーーーーッッ!!!! 取れたぁ!!」


「やりましたねパイセン!!」


 大声ではしゃいでハイタッチまでしていた。


「何をそんなに熱くなってるんだ……」


「さ、さぁ」


 そばで見ていたマシューとジネは軽くドン引きだった。


「いいですね、いいですね」


 クルミだけがうれしそうにニコニコしていた。



 そんなこんなでレンタルビデオ屋を満喫した五人は、マシューたちの家へと向かう。


 これから彼らを待ち受けているのは、紛れもない幸せに違いなかった。



~多田蓮~


「やっぱ普通のダンジョン攻略動画じゃ伸びが悪いなぁ」


 杉田の一件から数週間がたった。

 ダンジョン攻略動画が中心だったはずのダレンチャンネルは、すっかり他の配信者のスキャンダルを暴露する配信が主力になっていた。

 これじゃあダンジョン配信者じゃなくて、暴露系配信者だ。

 まぁダンジョン攻略動画が伸びないんじゃ仕方ないけど。


 おかげで最近は暇さえあればSNS。人気配信者の炎上をハイエナのように漁っている。

 それでも、僕の配信を叩くいわゆるアンチはあまりいない。

 今のところおおむね好評で、ダンジョン攻略をやっていたころよりずっとずっと人気があった。

 みんな他人の炎上が好きらしい。


「あ、DMが来てる」


 ダレンのSNSアカウントへのDMは貴重な情報源だ。火がつく前のスキャンダルをリスナーからのタレコミで発掘できる。

 早速確認すると、それはロ口ロロへの制裁を求める内容だった。


「なんだ、タレコミじゃないのか」


 がっかりだったけど、動画のネタがないこともあって、何気なく読み進める。


『ロ口ロロのスキル『ヘイトコントロール』は使用時に目が光る。

 このことから、おそらく『ヘイトコントロール』の発動にはモンスターを視界に収めることが必須。

 よって、ロロの視界を奪えば『ヘイトコントロール』は使えない可能性が高い』


 DMにはそう書かれていた。

 さらに、このDMの送り主であるカズは、相手の視界を奪うスキル『スティールビジョン』を持っているとのことだった。

 それが本当なら、確かにロロを痛い目に合わせられる。素直に関心した。


 ただ、ロロのサイドにはユーガがいる。ユーガを引き離さないことには、制裁なんて加えられない。

 そう返すと、すぐに返信があった。


『それについても考えがあります。会って話しませんか?』

「いきなり会うのはちょっと……」

『なら、通話しませんか?』


 少し迷ったあと、僕は通話ボタンを押した。



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