第8話 動画配信とカップ麺

多田ただれん


「──映像とその名称から察するに、ロ口ロロろぐちろろの『ヘイトコントロール』はモンスターのヘイトを操作するスキルで間違いないだろう。


 ロロが基本生配信なしの動画勢なのは、このスキルの仕様上、スキル名を口にする必要があるから。

 やらせがバレないように編集してたんだろうな。

 先日の加藤さんたちとのコラボでロロ陣営のミュートがやたらと多かったことからも、このスキルでやらせをしていると見て間違いない。


 そして俺が撮影した動画からもわかる通り、ロロは本来おとなしいモンスターをスキルで興奮させて危険かのように見せ、あげく殺した。


 ずばり言おう。ロ口ロロはダンジョン配信者失格、どころか人間失格だ!

 巻き込まれた加藤さんたちと、俺たちすべてのダンジョン配信視聴者に土下座すべき案件だ」


 昨日の夜撮った動画はまずまずのできだった。今日学校から帰ったら、頃合いを見て投稿しよう。


「蓮ー? もう学校へ行く時間でしょー?」

「わかってるよー」


 扉越しに返事して、僕は手早く身支度を済ませる。


「あーあ、今日も学校かぁ」


 考えるだけで憂鬱だった。それでも、行くしかない。

 今回の一件で僕のチャンネルが伸びに伸びて、それ一本で食べていけるようになればいいけど、現実はそう甘くはないだろう。

 ロロの炎上が治まる前に、動画を連投しないとな。



 学校に着いた。

 今日も教室の隅で、クラスメイトの杉田がかつあげにあっていた。


「杉田ぁ。ちゃんと五万持ってこいっつったろ」

「ご、ごめん。でも、無理だよそんな、毎日毎日……」

「あぁ!?」


 杉田の腹に蹴りが入る。

 取り巻きたちがくすくすと笑い、クラスメイトは見てみぬふり。

 最悪の空気だった。


「だから来たくなかったんだ」


 僕の席は一番前だ。振り向かなければ目につくことはない。

 それでも、クラスの異様な空気感は嫌というほど伝わってくる。


「多田! 見たよ、この前の動画! すげぇ人気じゃん!」

「え?」


 まさか話しかけられるとは思っていなかった。

 本を読んでいた手を止め、顔を上げる。

 クラスメイトの久保くんたちだった。


「俺も前々からうさんくさいなって思ってたんだよ。多田の動画でロロが炎上して、スカッとしたわ」

「そうそう」

「俺も」

「そ、そう?」


 反応に困って、僕はぎこちなく笑い返す。


「ダンジョン攻略の動画もたまに見てるよ! がんばってな」

「う、うん」


 そう告げると、久保くんたちは騒ぎ立てながら嵐のように去っていった。

 一瞬のできごとだったけど、悪い気はしない。

 今まで気にしてなかったけど、このクラスにも久保くんたちみたいな人たちもちゃんといるんだな。

 もてはやされたのを思い返して、僕はついついニヤついてしまった。



~加藤~


 ボロアパートに引っ越して数日がたった。

 やはりマシューたちの住む一軒家と比べると数段劣るものの、久々の一人暮らしはいい心の休息になった。

 マシューの夜這いがご無沙汰になっているのはもったいない気もするが、誰にも気を使わなくていい暮らしはしょうに合っていた。


 昼食のカップ麺を一部屋しかない自宅に座り込んで待つ三分間、スマホで動画を視聴する。

 最近のマイブームはもっぱらダンジョン配信で、暇つぶしにはもってこいだった。

 とくに俺は、アークのダンジョン配信にハマっていた。


 アークはイキってフラグを立ててはわからされる残念キャラとしてすっかり定着していて、コメント欄の民度も高く、安心して見られる温かいダンジョン配信が売りだった。

 本人の意図はともかく。


「ん? サナからか」

『グループチャット見てますかー?』


 チャットを見るなりマシューたちとのグループチャットを開くと、ずいぶん盛り上がっていた。

 どうやら近くのレンタルビデオ屋で映画を借りて、マシューたちの家で鑑賞会をしようという話になっているようだ。

 俺も会話に参加して各々の予定をすり合わせた結果、明後日マシューたちの家に集合する運びになった。


「ふふっ」


 宇宙人と戦うSFホラー映画を観たがるジネと本気で嫌がるマシューとのチャットにくすりと笑ってしまった。

 ロロの炎上に巻き込まれたときはどうなるかと思ったけど、これからみんなの幸せを取り返していけそうだ。



~多田蓮~


 あれから数日がたって、僕の上げた例のロロの批判動画がまたもや大バズりし、僕はいつの間にかクラスでも一目置かれる存在になってた。

 そんなある日、僕は教室の隅で杉田にたかる連中に声をかけた。


「あのさ。そういうの、やめなよ」


 杉田をいじめるリーダー格の男子、岡野が振り返る。 

 心臓が飛び出しそうだった。


「んだよ、遊んでるだけじゃん」

「何言ってんだ、どう見てもいじめだろ!」

「あぁ?」


 空気が凍りついたその瞬間、僕の肩に手が置かれた。


「岡野さぁ、やりすぎじゃん?」


 久保くんたちだった。


「ちっ、うっせぇな」


 岡野はばつが悪そうに舌打ちをすると、そそくさと教室を出ていく。

 取り巻きもそのあとに続いた。


「久保くん、ありがとう」

「なーに、俺も気になってたんだよね。むしろ多田の方がナイスだよ」

「ありがとう、多田くん」


 杉田はぺこりと頭を下げると、自分の席に戻っていった。


 この一件以来、杉田は岡野たちからいじめられなくなった。

 少なくとも、僕らの目につく範囲では。

 僕は思った。

 これは、ダレンの力だ。

 ダレンがロロの悪事を暴き、杉田をいじめから救った。

 最低だった学校生活に、華が咲いた。


 僕は決めた。

 僕は。


「──配信者ダレンとして成り上がってやるッ」



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