第7話 発覚と炎上
~
最新のスマホ、最新の装備。
今日も僕、ダレンのダンジョン配信が始まろうとしている。
本名からもじったこの名前も、そろそろ慣れて来た。
同接も再生数もまだまだ全然だけど、それはこれから伸ばしていけばいい。
『あの有名配信者とコラボ!?』と題しただけあって、今日の配信はいつもより待機人数が多かった。
目いっぱい息を吸い込んで、スマホのロックを解除する。
「やぁどーもー! 誰あろう、ダレンだ。今日はなんと、あの超超有名配信者に突撃コラボを申し込むぞ! 期待しててくれよな!」
人気の少ない町のはずれから始まった今日のダンジョン配信。行き先は、ロロが攻略中の狭く入り組んだ遺跡のダンジョン。
最近あったできごとや時事ネタ、流行ってるミームなんかで場を繋ぎながら歩いていると、すぐに到着した。
直前に下見をしておいて正解だった。
「さーて、今回の遺跡のダンジョン。なんとあの有名配信者が攻略中との情報を入手しました。ここからは、小声でこっそり接近していくぜ」
手首に巻いた小型ライトで照らしながら、苔むした狭い入り口から侵入。
まだロロたちの声は聞こえない。
足元まで苔に覆われているおかげで、足音はうまく消せそうだ。これならこの前みたいな失敗はしないだろう。
「おじゃましまーす」
遺跡のダンジョンと言うとゴーレムやゴモリなんかが出てきそうなものだけど、ロロたちが通ったばかりなのでその心配はない。
進んでいくと、やがて開けた空間に出た。
座り込む三体の大きな人型の像。来た道以外通路は無く、行き止まりだった。
「えーっと、ここはこうして」
しゃがんで左の石像の足の裏のスイッチを押す。
石と石が擦れ合って小刻みに振動し始めた。左の石像の座る台座が垂直に降りて道がひらける。 ロロの配信で見た通りだ。
「楽勝楽勝~この先になんとあの配信者が!? お楽しみにー」
言いながら石像の足の間をくぐって奥の通路へ。少し進むと、かすかにロロとユーガの話し声が聞こえてきた。
いよいよだ。
緊張から自然と口数が減り、ついには無言になってしまう。
遺跡の苔むした壁に、松明に照らされたロロのシルエットが映っている。
物陰からそっと覗き込むと、ロロとユーガが向かい合ってなにやら話し込んでいる。
聞き耳を立てると、なにやら打ち合わせをしているようだ。
──ダンジョンの中で?
「さっきからゴモリしかいないねぇ~マ、しゃーなしかぁ」
言いながら、ロロは天井に向かって振り返る。
「『ヘイトコントロール』」
ロロの目が一瞬、妖しく光った。
「え?」
思わず声が漏れる。
天井からぶら下がっていたゴモリたちが一斉に飛び立ち、ロロとユーガに襲いかかった。
今二人の前に姿を現すのはまずい気がして、僕は手にしたスマホを物陰から伸ばし、ロロたちにカメラを向けた。
慌てた様子でゴモリたちに短剣を振り回すロロ。冷静なユーガが湾曲した剣で空中のゴモリを的確に切り払っていく。
その様子をそばに飛ぶ無人機が撮影していた。
いつか、まったく同じような場面をロロの動画で見たのを思い出した。
どう見てもリハーサルなんかじゃない。
決まりだ。
ロロは、スキルで大人しいモンスターのヘイトを買い、ピンチを演出していたんだ。
「なんでだよ……」
がっかりした。すぐあと、腹の底から熱いものが込み上げてくる。
僕のスマホは今も配信中。この瞬間もロロのやらせを全世界に向けて配信している。
「なんでなんだよ……っ!」
スマホを握りしめる手が震えた。
その後、僕、ダレンの名は急上昇ランキングに載った。
同時に、ロ口ロロへの憧れは、憎しみに変わった。
そしてこの日を境に、僕は暴露系配信者の道を歩むことになる。
~加藤~
俺たちはマシューたちの家に集まっていた。
今は5人でテーブルを囲んでいる。
議題は、今後についてだった。
「全部俺の責任だ。みんな、本当にすまない」
テーブルにひたいが着くほど深く頭を下げる。あのときロロの悪事を告発していれば、こんなことにはならなかったはすだった。
ダンジョン配信者ダレンの配信によって発覚したロロのやらせは、燃えに燃えていた。
コラボ後に公表しなかった俺たちも巻き添えをくらい、SNS上では見てられないくらいの誹謗中傷が飛び交っている。
ロロはこの騒動を受けて活動自粛を発表。俺たちも実質的な活動休止状態にあった。
「加藤、頭を上げてくれ。みんな加藤の意見に納得していたから公表しなかったんじゃないか。お前一人のせいじゃない」
マシューの隣でジネもコクコクうなずいてくれる。
「そうです! わたしも、言いふらすようなことをするのは嫌です。加藤さんだけの責任じゃありません」
クルミちゃんもマシューと同じ意見のようだ。残るサナは何も言わず、ぶすっとほおをふくらませている。怒っているのかもしれない。無理もない。
「そうは言っても、言い出したのは俺だ。本当にすまなかった」
「そんなことより、これからどうするかの方が大事っすよパイセン」
サナがようやっと口を開いてくれた。口を尖らせてこそいるものの、建設的な話題を振ってくれる。
「そうだな、済んだことはいい。今は今後の身の振り方を考えるべきだ。加藤、何か考えはあるか?」
「あたしは"あのときは言い出せなかったんだ"ってことにして、手のひら返してロロをぶっ叩くのがいいと思いますよ」
「えぇ……!? そ、それはちょっと」
今度はクルミちゃんの隣でコクコクうなずくジネ。
さっきから口数が少ないな。
ダンジョン配信に直接参加していないからか、あまり口出ししない気でいるのかもしれない。
「俺もロロを叩くのは賛同できないな。炎上はおさまるかもしれないが、今までの視聴者が離れちゃいそうだ」
「じゃあどうするんすか?」
「うーん、そうだなぁ。……しばらく休まないか? 炎上がおさまるまで」
「へ?」
ぽかんと口を開けるサナを見て、思わずくすっと笑ってしまう。
一気に場が和んだ気がした。
「この前倒したジュエルソリッドスライムを売っぱらった軍資金がまだまだあるんだ、このところずっと忙しかったし、ここは思い切って休んで、ぱーっと遊ばないか?」
俺の言葉に、マシューはにやりと笑う。
「賛成だ」
「いいですね、いいですね」
「マシューとずっと一緒……ふひひ」
にこにこするクルミちゃんに、ブサイクに笑うジネ。
サナもまんざらでもなさそうだった。
こうして、俺たちの臨時休暇が幕を開けた。
さぁ、何をして遊ぼうか。
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