第6話 真相と今後
配信を終え、ロロたちと別れた俺たちは森の中を歩いていた。
コラボ配信はロロのチャンネルでは過去最高の同接数を記録し、大成功に終わったが、俺たちの間に笑顔はなかった。
結論から言うと、ロロはスキルを使ってやらせをしていた。
詳細は不明だが、モンスターを引きつけて攻撃的にさせる、というようなスキルのようだった。
「『ヘイトコントロール』アイツは確かにそう言っていた。間違いない」
不機嫌な様子でマシューがつぶやく。
「それがロロのスキル名ってことか?」
「あぁ。宣言して発動するアクティブスキルだろうな。相手がモンスターとはいえ、あぁいうやり方は好きになれない」
「その上あんな風に口止めされたんじゃ、やってられないっすよ」
「ロロさん、ちょっと怖かったです」
数秒の沈黙のあと、不思議と視線が俺のもとに集まっているのがわかった。
どうしてか、みんな俺の次の言葉を待っているみたいだった。
考えてみれば当たり前か。
このコラボに乗っかったのは、俺だ。
「今回のことは、言いふらさないでおかないか?」
「はぁ!? パイセン、何いってんすか! あんなチビに脅されたくらいで怖気付いたんすか!?」
「そうだぞ加藤。今回の件は私も看過できない! 告発するべきだ!」
俺はわざと冷静であることを強調するように、低い声色で続ける。
「ロロのしてることは、確かにほめられたことじゃない。
でも、誰にも迷惑かけてないだろ?
ちょっと脅すような口止めの仕方されたけどさ、ロロだって日銭を稼ぐのに必死なんだよ。俺たちが黙ってれば、それで済む話じゃないか。
言いふらしたところで、俺たちの配信が人気になるわけでも、視聴者のみんなが喜ぶわけでもないんだ。そういうのは、やめよう」
マシューは強く歯噛みしたあと、押し殺すように「わかった」とだけつぶやいた。
サナもクルミちゃんも納得がいっていない様子だったが、強く言い返されるようなことはなかった。
マシューたちの家に着いて、あっという間に夜になった。引っ越しはもう少し先の予定だ。
俺は、物置部屋の布団の中で一人悩んでいた。
あの選択は、正しかっただろうか?
俺が本当に大切にすべきなのは視聴者やロロなんかじゃなく、マシューやサナや、ジネ、クルミちゃん、目の前の仲間だったんじゃないのか?
「加藤。起きているんだろ?」
物置部屋の扉が開く。マシューだった。
もはやノックすらされない。まぁ、俺もそんなに気にしてないが。
「マシュー。なんだよ? 文句言いに来たのか?」
むしゃくしゃして、つい突き放すような言葉を選んでしまった。
マシューはくしゃりと顔を歪めたあと、
「お前のそういうところは、正直、好きになれない」
と言いつつ、俺の上にまたがった。
マシューの太ももが、温度が、熱くなった谷間が布団越しに伝わる。
「言ってることとやってること、逆だろ」
「加藤、お前はどれくらいわかっている?」
「何がだよ?」
「お前のことが好きなのは、何も私に限った話じゃない」
部屋は、月明かりに照らされて青白い。
マシューの顔色はわからなかった。
ただ、その眼差しが真剣なのはわかった。
「サナも、クルミも、ジネだって、みんなお前のことが好きなんだ。だからお前の言葉に、みんな従った。なのにお前は──」
マシューの声が掠れる。
その堅い表情が崩れた。
マシューは、泣いていた。
「──お前はっ、私たちより、視聴者や収入の方が大切なのか!?」
「それは……」
「答えろっ!! 返答によっては、私は、お前を一生許さないぞ!」
マシューの顔が目前にまで迫る。
その荒げた息が顔にかかっても、興奮したりはしなかった。
「俺だって、こうして悩んでんだろ。そりゃあ、みんなの方が大事だ。だけど、」
「ならなんでっ!!」
「だけど!! もう昔とは違うんだよっ!」
思わず、怒鳴ってしまった。マシューの体がびくりと震えるのがわかった。
「まだまだ貯金が余ってるとはいえ、サナも俺も、クルミちゃんも、お前だって! ダンジョン配信の収益がなきゃ、暮らせないだろうが。みんなの気持ちを守る以前に、みんなの生活を守れないなら、意味ないだろ……」
「すまなかった。私は、冷静じゃなかった」
マシューはまだ、ぽろぽろと涙を落としていた。
しゃくり上げて、すすり泣いている。
「加藤……頼みがある」
「ん?」
馬乗りの状態から四つん這いになったマシューが、突然口づけをしてきた。
長い長い、ディープキスだった。
「ぷはっ」
息を止めていたのか、唇を離した瞬間、マシューの吐息がふわりと香る。
火傷しそうなくらい熱を帯びていた。
「今日は、その、……私を、乱暴にしてくれないか? 加藤の、したいように。多少痛くても構わない」
「お、おう」
「だから、私のこと、嫌いにならないで……?」
ひどい顔をしていた。
まぶたの裏に残っていた涙が、いくつか顔に落ちてきた。
「俺はマシューのこと、嫌いになったりしないよ」
俺は下ろされた長い赤髪をなでると、マシューを強く抱きしめる。
二人で、熱い夜を過ごした。
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