第二部 《ハイドンスカーズ》
第1話 人気配信者と面接
~
時間だ。
イヤホンをしてノートパソコンを開く。
画面では、派手な髪色の女の子が洞窟の入り口で飛び跳ねていた。
綺麗な銀髪のツインテールに、切りそろえた虹色の前髪を揺らして元気いっぱいに笑っている。
隣には全身よろいに小型の盾を装備した騎士。
ダンジョン配信が今日も始まる。
『良い子のみんな、こんちゃーっす! ろろろじゃないよ、
「変な名前」
くすりと笑ってしまう。
けど、すごくすごくいい名前だ。
僕は身を乗り出して画面を見つめる。
『今日もユーガと一緒に洞窟ダンジョン攻略だーっ!』
『また低級ダンジョンかよ』『草』『万年初心者じゃん』『でもそれがいい』
『あーっ、ひぼーちゅーしょー禁止だかんねぇ~』
流れるコメントを軽く受け流して、銀髪の女の子は洞窟の中へ。
その手にカメラはなく、よろいで固めた前衛のユーガの手にもない。
それもそのはず、ロロはいつも無人機(ドローン)で撮っているのだ。
「『こんな狭い洞窟の中でドローン飛ばして大丈夫?』っと」
『おーっと、コメントてんきゅー。大丈夫大丈夫、なんてったって最新型だかんね~』
コメントを拾ってもらえた。慣れないタイピングを猛特訓して正解だったな。
ロロが先頭を歩くユーガにアイコンタクトを送る。ユーガは片手を軽くあげて返した。
無愛想なユーガとハイテンションなロロ。
全身よろいの地味で堅実なユーガと、ド派手ファッションではっちゃけたロロ。
この凸凹コンビはいつ見ても面白い。
『どわーっ!』
ロロが浅い水たまりでずっこける。
軽装で頭から水の中にダイブしてしまった。
涙が出るほど笑いながらも、その背中を視線で追いかけた。
「いいなぁ」
「
一階から母さんの声がする。
「はーい! ……もうそんな時間か」
パソコンを閉じて席を立つ。
振り返ると、壁の目立つところに満点のテスト用紙が貼ってある。
そうだった。満点取ったんだから、僕も。
「かあさーん!」
階段をおりながら声をかける。
「なーに?」
「約束でしょー? いい加減僕にも装備買ってよー」
なんてことない中学生の僕だけど、ロロやユーガみたいに装備を固めてカメラを回せば、僕だってダンジョン配信者に──
~加藤~
ギルドにヒーラー募集の張り紙をして数日がたった。
マシンゴーレムの一件でヒーラーの重要性を痛感して張り出したは良いものの、今のところ希望者は現れていない。
魔法が廃れたこの現代では魔法職自体貴重なのだ。
街ではマシンゴーレムを召喚した金持ち男の噂が流れているが、そんなのを馬鹿正直に信じている奴はあまりいないようだ。
そんな時代。
そんな時代に、ついに希望者が現れた。
「あ、あああ、あの、あの、その……」
マシューたちが暮らす家の一室を借りて俺、サナ、マシュー、ジネの四人で面接をする運びになったのだが、希望者の女の子はえらく緊張しているようだった。
「く、クルミ、です。よろしくお願いします……」
その子はそよ風でも吹き飛ばしてしまいそうなか細い声で、もじもじしながら絞り出す。
17歳くらいだろうか?
身長はマシューとサナの間くらいで、女子の平均より少し低い。
波打った長い茶髪越しに、茶色い瞳をうるうるさせている。
服装は自由としたので私服で来たようだ。フリルの多い、落ち着いた色の花柄のワンピースだった。
「よ、よよ、よろ、しく……」
「お前まで緊張してどうするんだ」
マシューに強めに叩かれた。
痛い。普通に痛い。
マシューにはもう少し筋力増強のスキル持ちである自覚を持ってほしい。首が折れそうだ。
「クルミ、か。ヒーラー希望で良いんだったな?」
緊張でがたがたの俺たちに代わり、マシューが淡々と面接官を
ちなみに面接ということでマシューにもスーツを着てもらっているのだが、これが案外様になっていた。むしろめちゃくちゃ仕事できそうだ。
「は、はい。……回復魔法が少しできます。それと、状態異常の治癒も少し」 「ほう? やるじゃないか」
「ありがとうござい、ます……」
静寂が訪れた。
「パイセン、こっちは面接してる側なんすから、もっとガンガン圧力かけないと」
俺と同じくスーツを着込んだサナがひじでつっついてくる。
「ばっか! 俺たちがブラック企業で
普通は圧迫面接なんかしないの!」
「あわわわわ……」
ジネに至っては緊張を通り越して混乱していて、マシューの隣で目を回している。
そういや俺たちと初めて会った時も謎に謝り倒してたっけ。
ちなみに、ジネはいつも通り白衣だ。
「冒険者の経歴はないようだが、モンスターと戦ったことはあるか?」
「え、あ、あの、その……な、ないです。ひっ、ごめんなさいぃ」
クルミちゃんはマシューの迫力に押されて青ざめてしまう。
これじゃあホントに圧迫面接だ、助け舟を出そう。
「今どき魔法職ってだけで貴重だから、そんなに重く受け止めなくて大丈夫ですよ」
「そ、そうなんですね!」
ぱあっと花が咲くように笑顔になった。
可愛い。
「パイセンキモいです。良いトシこいたおじさんがにまにましないでください」
サナに小声で耳打ちされた。
コイツはあとでシメるとして、今大事なのはクルミの経歴と能力だ。
人柄はとりあえず問題ないだろう、可愛いし。
改めて履歴書を頭から見直す。
中学を卒業後、高校には行かずに実家の花屋を手伝っているようだ。
「うちのパーティーはダンジョン配信してるんだけど、配信に映っても問題ないかな?」
「はい! しっかりおめかしすれば問題ないと思います!」
ちょっとずれてる気もするが、クルミちゃんは胸を張って気丈にふるまう。
……胸デカいな。
ともあれ、少しずつ緊張が解けてきたようだ。
その後もいくつか質問し、面接は終いになった。
「ありがとうございました」
立ち上がり、クルミちゃんは肩かけカバンと大きな水筒を持って帰っていった。
花屋に勤める女の子が真夏の運動部並みのめちゃくちゃデカい水筒を大事そうに抱えて部屋を退出する様子はなんともちぐはぐだったが、結局理由を聞きそびれてしまった。
ま、いいか。
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