第16話 ボス討伐とお金より大切なもの

「ぎゃああああーーーー!!!!」


「パイセンこっち来ないでくださいよ馬鹿なんすかァァァァーーーー!!??」


 乱入してきて即退場した馬鹿のせいで隠す意味が無くなったので、俺たちはゲリラで配信を始めた。撮影役はいつも通りサナだ。


 ジュエルソリッドスライムはゴーレムと違ってガーディアンではないからか、俺たちがある程度近づくと巨体を転がして迫ってきた。


 そして、今に至る。


「ああああぁぁーーーーっっ!! ヤバいって! あんなのに追いつかれたら絶対ぺちゃんこだよ!!」


 俺たちは狭い部屋の中を全速力で駆け回っていた。

 ジュエルソリッドスライムはとんでもない速さで追いかけてくる。


「そう思うならあっち行ってくださいよ頭おかしいんすかぁぁ!?」


 全身宝石なのにどういう原理で転がっているのかまるでわからないが、そんなことは今どうでもいい! 俺は隣を走るマシューに向けて叫ぶ。


「マァァシュゥゥーーーー!! なんとかしろぉぉーーーー!!!!」


 マシューは装備が重いのか、今にもぶっ倒れそうな顔でひたすら無言で走っている。

 過呼吸みたいに息が荒かった。

 せっかくの整った顔が大変なことになっている。


「はぁはぁはぁはぁ、話し、かけるなぁ!! ジネに、聞けぇぇーーーー!!!!」


 ダメだ。この顔はダメだ。

 絶対に配信に映してはいけない。

 収益とかそういう問題じゃない。マシューがお嫁にいけなくなる。


 そのときは俺がもらってしまおう。


 ──って言ってる場合かっ!


「ジィィネェェェーーーー!! 今すぐ電話しろぉぉ!!!!」


 ちなみにサナは謎のプロ根性で走りながらスマホのカメラをこちらに向けているので、顔面崩壊したマシューが配信にっている可能性は高い。

 言わないでおこう。

 あと、アーカイブはサナに消させよう。


「加藤、受け取れぇ!」


 マシューがスマホを投げて寄越よこす。なんとかキャッチして電話に出た。


『あ、あの、聞こえますか?』


「早くっ!! 弱点! 倒し方ぁ!!」


『は、はいぃぃ、えぇっと、一部の宝石はひっかき傷には強いんですけど、衝撃には──』


「説明、いらんから!! 早くっ!」


『ヒェェェ、ご、ごめんなさい。マシューのスキルと加藤さんのパワードアームで同じ場所を同時に攻──』


 通話をぶっち切り、マシューに投げる。


「マシュー、パス!」


「え、おぉい!?」


 マシューがスマホを取りそこねた。

 迫り来るジュエルソリッドスライムの下敷きになり、粉々になる。


「加藤ぉ! 貴様ぁぁ!!」


 マシューが鬼の形相でブチギレた。

 とりあえずさっきの顔面崩壊よりはマシになったのでヨシ!


「今度買ってやる!! それより『パワー・ド・タイム』だ! 早くっ!」


「なんだと!? 前にも言ったが、あのスキルは効果が切れると動けなくなるんだぞ? 殺す気か!?」


「お前のスキルと俺のパンチで同じ場所を同時に叩くしかないんだよぉ!! 文句はジネに言え!」


「あーぁもうっ! 倒せなかったら一生恨むからなぁ!?」


「そんときは看病してやる! だから早く!!」


「なっ!? おまっ、こんなときに、何を言い出すんだぁ!?」


 なぜか真っ赤になったマシューにツバを飛ばす。


「早くっ!!」


「『パワー・ド・タイム』ッッ!!」


「行くぞマシュー!3!」


「2!」


「「1!」」


 俺とマシューは同時に振り返り、マシューはハンマーで、俺はパワードアームでジュエルソリッドスライムを迎え撃った。


 俺たちの攻撃はほぼ同じ場所に命中。ジュエルソリッドスライムは呆気あっけなく割れてバラバラになった。

 断面は綺麗で、大きな塊として割れたので宝石としてはとんでもない大粒だった。


「やった……」


「やりましたねパイセン! これであたしたち億万長者っすよ!!」


 サナが子どものようにはしゃいでも、実感が持てなかった。


「加藤。倒せはしたが、なんだか体が痛いんだ。怪我をしてしまったかもしれない。だからその、一生看病……」


「パイセン! やりましたね!!」


 マシューが何か言っていた気がするが、大はしゃぎするサナにきつかれて聞き逃した。


「な……!?」


 言葉を失い、マシューはハンマーを取り落としてしまった。

 思いっきり足の上に落ちた気がするが、あんぐりと口を開けたまま微動だにしない。

 痛くないのだろうか?


「加藤っ! 貴様、昨日の今日でもう浮気か!? 許さないぞ!!」


 なんか知らないがマシューがぷんすか怒り出した。


「マシューさん???」


 困惑したサナは俺から離れておろおろする。


「マシュー、何をそんなに怒って──」


「──お前、とぼける気か!? 昨日はあんなに……」


 思い出したのか、マシューはカァッと赤くなって下を向いた。


「マシューさん、あの、なんだか知りませんけど、あたし別にパイセンのこと眼中に無いんで。勢いで抱きついちゃいましたけど、息臭いし後悔してます」


 コイツ人の心無いのか?


「ていうか配信中なので、今の全部っちゃったんじゃ……」


「なっ!?」


 マシューは真っ赤な顔のままだらだら汗を流し、酸素を求めるように口をパクパクする。

 次の瞬間、ものすごい速さで駆け寄ってサナのスマホを奪い取った。


「こんなものぉ!!」


 スマホを床に叩きつけ、巨大なハンマーを振り下ろす。

 完全にオーバーキルだった。


「ちょお、マシューさん!?」


「あぁん?」


 不良みたいな鋭い目でにらみ上げられ、サナは震え上がる。


「な、なんでもないでーす」


 目が泳いでいた。マシューも目が泳いでいる。

 というか、こっちは眼球がぐるんぐるん回っていた。


「あぁ、あ......」


マシューは白目をむいて倒れてしまった。


「マシュー!?」


「効果が、切れた」


 かろうじて意識は失っていないようだ。どうやら本当に効果が切れただけらしい。


「おどかすなよ」


 ボスを倒して緊張が解けたこともあってか、体から力が抜け、俺はその場にへたり込んだ。

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