第11話 ゴーレムと自称二代目天才乱入者
「死ぃぃねぇぇーーーーっっ!!」
前回までのあらすじ。
ボス部屋に自称二代目天才魔術師の女が乱入してきて、ゴーレムに魔力弾をぶつけた。
「まぶしっ!」
魔力弾はゴーレムにぶつかった途端爆発し、生まれた強烈な光が刺すように飛び込んできた。
たまらず目をつむってしまう。
しばらくして光が晴れたので、おそるおそる目を開ける。
ゴーレムはさっきと何ら変わりなく同じ場所に立っている。
というか、傷一つ無かった。
「ブッッ!!」
ゴーレムの拳が自称二代目天才魔術師の顔面にクリティカルヒット。
アークは扉の外まで吹っ飛んだ。
「アーク!?」
振り返ると、うつ伏せにぶっ倒れたアークが鼻血を垂れ流しながら床をなめていた。
四つん這いになって、拳で地面を叩く。迫真の表情で号泣し出した。
「どぉぉうしてだよぉぉぉぉーーーーっっ!!」
もともと声が低いなとは思っていたが、アークはほとんど男みたいな野太い声で叫んだ。
『うん、知ってた』『なんだ床ペロ要員か』『安心した』
コメント欄は流れる速度が落ち着いていた。アークは泣きはらした顔で、
「お、俺はまだ負けてない! 一緒に戦う!!」
と意気込む。
鼻血のせいで顔の下半分が血まみれだった。
「いや帰れよ」
思わず
アークは相当ショックを受けたようで、ボス部屋の扉の裏で体育座りでいじけだした。
それでも帰る気はないようだ。
マシューが大きく咳払いをした。向き直ると、ゴーレムが再び動き出している。
「加藤、サナ、スキルを使う。離れていてくれ」
ボス部屋は十分な広さがあるが、何度も言うようにマシューの大剣は身長に迫るサイズだ。下がった方がいいだろう。
俺たちが扉の近くまで引いたのを見て、マシューは
「『パワー・ド・タイム』!!」
マシューの動きが一気に
「はああぁぁっっ!!」
マシューはゴーレムの
それを何度も繰り返す。
いわゆるヒット&アウェイ戦法だろう。
これなら一方的な戦いに持ち込めそうだ。
スキルの効果が切れると反動で身動きが取れなくなるそうなのだが、そのときは昨日のように俺がマシューを担いで逃げればいい。
現状における最善策と言えた。
しかし、
「ダメだ、全然効いてない!」
ゴーレムは何度斬撃を受けてもまったくひるんでおらず、傷一つついていないように見える。
「ゴーレムが斬撃に強いことは知っていたが、私のスキルとこの剣の重みを持ってしても通用しないとは思わなかった。想定外だ」
「パイセン、このままじゃヤバいっすよ!」
「どうすれば……」
「加藤、ゴーレムは斬撃には強いが、衝撃や振動──つまり打撃に弱い! お前のパワードアームなら倒せるはずだ!」
「わかった!」
「私のスキルの効果時間はもうすぐ終わる。サナは私とアークを守ってくれ!」
「了解っす!」
マシューとサナは未だにいじけているアークのいる扉の裏へ退避。
もちろん、サナは短剣を構えて二人を守りつつ、スマホで俺を撮影することも忘れない。
「パイセン、視聴者もみんなパイセンのこと応援してますよ! がんばってください!
あ、でももし負けたらあたしに煽り倒される覚悟もしといてくださいね?」
悪戯っぽく笑うサナ。本当に食えない奴だ。
俺はパワードアームを装着した右腕と、何も装着していない左腕を構えてファイティングポーズを取った。
マシューの戦い方から察するに、ゴーレムのパンチは素早く距離を取れば避けられる。
ただマシューはかなり余裕を持って避けていたし、アークはゴーレムのパンチをまったくかわせていなかった。
つまりこのゴーレムはゲームのようなわかりやすい予備動作なしで攻撃してくるのだろう。
俺のスキル『スタビライズ』は装備の重みは無視できても、素早い動きができるわけじゃない。
マッドドールのように一撃で倒せるだろうか? いや、相手はボスだ。その可能性は捨てた方がいい。
どうする? どうすれば勝てる?
「待てよ?」
ゴーレムはマシューたちが扉の裏に退避しても、俺がファイティングポーズを取ってもこれと言った反応は見せない。
思い返せばアークとのやりとりの間も、ゆっくり近づいてきはしたが、攻撃したのはアークの魔力弾が命中したあと。それも一回だけ。
思えばマシューがヒット&アウェイ戦法を取ったときも、ゴーレムは必ずマシューの攻撃のあとに反撃していた。
「もしかしてゴーレムは、攻撃を受けてからしか反撃してこないのか?」
「すまない、正直わからない。ジネなら配信を見ているだろうし、何かわかるかも知れないが」
「少なくとも今ゴーレムは止まってる。ジネに電話をかけてくれないか?」
マシューがスマホを取り出すと、かける前に着信が来た。
画面を見たマシューが通話をスピーカー状態にする。
『あ、あの、ジネです。配信、見てました。私も加藤さんの言う通りだと思います』
「やっぱりか!」
「さすがジネだ」
『ふへへへ』
マシューに褒められ、ジネは電話越しでブサイクに笑った。
通話を終え、俺はゴーレムの方へ向き直る。
「ーーてことはこのゴーレム、別に倒さなくていいんじゃないか?」
「なんだと!?」
「ゴーレムのドロップアイテムはもらえないけど、後ろの宝箱の中身を売るだけでも当面の間は暮らせるだろ」
実際どうなのかは知らないが、宝箱の中身は金銀財宝だと相場が決まっている。
「パイセン、ヤバいっす! コメント欄めちゃくちゃ荒れてます!」
「え、あ、マジ?」
「あぁ、低評価がこんなに……パイセン、今すぐ訂正してください!」
「……」
どうしよう、面倒なことになった。
「ほらパイセン、早く!」
生活費を稼ぐためとはいえ、視聴者の期待にこたえて命を落とせば本末転倒だ。
いや、命を落とさなくても、怪我をしてダンジョン配信ができなくなるだけでアウトだ。
仕方がない、ここはあの手でいこう。
「じゃあこうしよう。
今回は初配信だし、今日ダンジョンで手に入った金の一部を、抽選で何人かの視聴者に山分けする。悪くないだろ?」
反響は予想以上だった。
「パイセン、コメント欄がぶわーって、一気に速くなりました! 大盛り上がりです」
「なるほど、その手があったか。加藤、お前なかなか頭がキレるな」
勝った。計画通り。
俺は視聴者に急かされながらも、落ち着いた足取りでゴーレムの横を素通りした。
ぶっちゃけめちゃくちゃ緊張したが、予想通りゴーレムは何もしてこなかった。
すぐに奥の宝箱にたどり着く。
「ゴーレムってゲームだと宝を守るガーディアンみたいなイメージがあるけど、案外設定ガバガバなんだな」
俺は宝箱に手をかけた。そのとき、
「パイセン!!」
「加藤、危ない!」
二人のほとんど悲鳴に近い声が飛び込んできた。
振り返ると、ゴーレムがこちらを向いている。
その目が、赤く光り輝いていた。
「……やべ」
ゴーレムがパンチを繰り出した。
そう気づいたときには、その拳はすでに俺の胸に到達していた。
「加藤っ」
「パイセン!?」
体が宙に浮いた。
どうすることもできずに吹っ飛ばされる。時間の流れがスローモーションになった。
瞳が赤くなったゴーレムの攻撃はまったく目で追えなかった。
おそらく俺が宝箱に触れたことがトリガーとなって、怒り状態か何かに切り替わったのだろう。
こんなの、無理ゲーじゃねぇか……
体は放物線を描きながら徐々に落下していく。
頭から落ちるのはマズい。
でも、社畜の俺に空中で体勢を変える方法なんかわからない。
あきらめかけたそのとき、突然体の向きが変わった。
地面と水平の状態から体が起き上がり、結果として俺は両足を地につけて着地する。
そのままずるずる数十センチ後ろに下がったものの、転倒することはなかった。
「そうか! 忘れてた、俺のスキルは──」
そう、俺のスキルは『スタビライズ』。簡単に言えばバランスを保つスキル。ということは、
「そうだ、俺は転倒しないんだった。ぶっ飛びはしても転ばないらしい」
「なんだって? なら──」
「──あぁ。なんか知らないけど体もまったく痛くない。これなら勝ち目はある!」
ゴーレムは目を赤く光らせたままかなりのスピードでこちらに向かってくる。
でも、体が重いのか目で追えないほどではない。
ゴーレムのパンチは吹っ飛ぶことはあってもダメージにはならなかった。
理由はよくわからないが、まぁあとでジネに聞こう。
「おらぁぁーーーーっっ!!」
俺は迫り来るゴーレムを、パワードアームのパンチで迎え撃つ。
文系の俺が簡単な物理の話をしよう。
ゴーレムは俺に向かって一直線に走ってきている。このとき俺のパンチでゴーレムが受ける衝撃は、俺のパンチの速度+ゴーレムの移動速度分増大する。
ボクシングのカウンターみたいなものだ。
──要するに、ゴーレムは大ダメージを受ける!
俺のパンチはゴーレムのすねに命中した。たちまち足が砕け、ゴーレムは転倒した。
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