第4話 無断転載とクビ宣告

 前回までのあらすじ。

 ダンジョンボスのトロールを倒した俺は時間がかかり過ぎだとブチギレるクソ上司に会社に呼び戻され、深夜まで説教された。



 翌日、俺は鳴り止まないスマホの着信音で目を覚ました。

 布団に入ったままスマホを取り、時刻を確認。


「まだ4時じゃねぇか」


 早朝というより、まだ夜だった。さすがの俺もこの時間帯はいつも寝ている。

 画面には『クソ上司』と表記されていた。出るしかないか。


「あい、加藤です」


『おい加藤!! てめぇどうゆうことだ! 自分が何をしたかわかってんのか!?』


「はい?」


 昨日の疲れが取れていないので、頭がまったく回らない。

 その上クソ上司がめちゃくちゃ早口でまくし立てるので、何を言っているのかわからなかった。


 それでも、同じことを何度も繰り返すので、「いいから今すぐ出社しろ」と言いたいらしいことはわかった。



 電車に揺られながら会社に向かう途中、暇潰しにSNSを開いた。


 頭がぼーっとして全然内容が入ってこないが、どうやら今ネットは無名の新人が上げたダンジョン攻略動画の話題で持ちきりらしかった。


 無名過ぎて素性がまったくわからないらしく、その新人を取り上げた記事の中には正体を考察するものも多いようだ。


「トレンド1位かぁ、すげぇな」


 とはいえ、俺は流行りにはあまり興味が無いし、この疲労感の中で文字の羅列を見たら吐く自信がある。


 記事は読まず、SNSに流れてくる情報だけを流し見する。


『動画主カッコ良すぎ』『女の子の胸がデカい』『俺もブラック勤めだけど、おかげで勇気出た』『感動した』『よろい着た女の子おっぱいデカくね?』


「そんなにおっぱい大きいのか。ふむ」


 それだけでも見る価値はある。まだ会社の最寄り駅まで時間があるし、ちょっと見てみよう。

 俺はスマホにイヤホンを刺して、動画を再生してみた。

 


『逃げろ、早くッ!!』


 ん?


『お前のそのゴミみたいなプライドで、そのありふれた安物の剣で、この状況をくつがえせるとでも思うかぁ!?』


 あれ?


『っせぇなぁ! 嫌なんだよッ!!』


『なんだと?』


『別にあんたのためじゃない。俺はただ、自分のこと嫌いになりたくないんだよッ』


『お前! こんなときに何を言って──』



 スマホの画面を閉じた。俺は電車の中で頭を抱える。


 どうしよう。見覚えしかない。

 ていうかこれ、


「俺じゃん……」


 俺だった。


 どう考えても昨日録画したダンジョン攻略動画だ。

 しかもいきなりあの場面から始まったあたり、バッチリ編集までされているらしい。


 俺は昨日トロールを倒したあと会社に戻ったわけだが、クソ上司の自己満説教タイムに付き合わされていたので、録画した動画はパソコンのローカルに移し替えただけ。


 編集もしていないし、クソ上司に見られないように社内のサーバーにも上げていない。


 どこだ? どこから漏れた? 見当もつかない。


 というか、あの動画社外秘(社員以外に見せてはいけない)だよな。まずくないか?


 4時にクソ上司がかけてきたときのことを思い返す。


 そう言えば、なんであんなにキレてたんだ?

 自分が何をやったかわかってるのか、みたいなこと言ったよな。

 ……もしかしなくても、社外秘の動画流出させたの、俺だと思われてる?


 最悪の結論に至ると同時、駅に着いた。


 俺は全速力で会社の自動ドアに飛び込み、エレベーターを無視して非常階段を駆け上がった。


 一刻も早く誤解を解く必要がある。お偉いさんどもが意見を固める前に。


 オフィスについた。


 幸い部屋中の電話が鳴りっぱなしなんてことにはなっていないようだ。

 あの動画だけじゃ会社まで特定することはできないので、考えてみれば当たり前か。


 俺に気づいたクソ上司が顔を真っ赤にしてブチギレる。


「遅いぞ加藤!!」


「すいません。それより、あの動画のことなんですが──」


「──お前はクビだ!」


「え……?」


「なんだその顔は!?

 お前は社外秘のデータを流出させたんだぞ? 会社名こそまだバレていないが、それも時間の問題だ!

 今すぐ荷物をまとめて出て行け!! 今月の給料も払わんっ」


「待ってくださいよ。機械音痴の俺にあんなこと、できるわけないじゃないすか」


「んなことはわかってる! デジカメが自動でクラウドに上げたデータを、編集して無断転載したやつがいる」


「じゃあ……」


「そいつはとっくにクビにした! だが動画を撮ったのはお前だ!

 お前をクビにしないと、誰も納得しないんだよ。そんなこともわからないのか!?」


 何も言い返せなかった。


 いつもめちゃくちゃなことを言うくせに、今日に限ってはこのクソ上司の言う通りだ。


 世間は俺が上司の命令で動画を撮ったことも、流出させたのが俺じゃないことも知らないし、そんなことには興味がない。

 世間が知っているのは、俺が撮影した社外秘の動画が編集されてネットにアップされたという事実だけ。


 普通に考えて犯人は俺。全部俺の仕業。

 誰だってそう思う。無関係な第三者なら、俺だって同じだ。


 クソ上司の最後の説教を聞かされたあと、俺は社員証やらパソコンやらを返却して、オフィスを後にした。


 背中に突き刺さる視線が痛かった。


 一階におりて、会社の自動ドアをくぐる。もうこのドアを通るのも、今日で最後だ。

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