第31話 宝具解放

 昆吾こんごは商に宣戦布告を行い。

 商に侵攻を行う。



 昆吾軍は調停者を名乗る。 

 あおいと言う人物が指揮しており。



 包囲殲滅陣を強行する為。

 軍を小分けにして進軍を行っていた。



 伊尹は昆吾軍が分断されている。

 のを偵察から聞き。


 

 行軍速度を限界まで速め。



 通常の倍近くの速さを以て。

 行軍を強行し。



 昆吾軍の体勢が整う前に突撃を行った。



 予期せぬ強襲に。

 昆吾の前線は一気に崩れ去り。

 混乱状態に陥る。



 商の完封で戦いは終わると思われた矢先。

 空から昆吾が降り立ち。



 一騎当千の活躍を以て。

 強引に均衡状態に戻した。



 昆吾の周囲には百近くの屍が横たわり。

 商の兵を睨み付ける。



「……っ。腕さえ折られなきゃ。もうちょい暴れられたんだがな」



 妲己だっきと呼ばれる影のある女性は。

 あほ髪が立っている。

 青年、碧に言う。



「詐欺師さん。あれだけ自信満々に完封できるって言ってたのに。全然でしたね」



「わかってねぇな。全て、俺の策略通りだ。現に、こうして均衡にまで持っていったじゃねぇか」



「流石です。詐欺師さん。相手の倍近く兵がありながら。均衡にもっていくだなんて凄いです。無能って、凄い才能だって。私も以前、褒められました」



 昆吾は声を荒げて言い放つ。



「馬鹿言ってねぇで手伝いやがれ。お前ら、調停者が宝具を使えば直ぐに片が付く」



「生憎、俺は宝具は、この舌先三寸なんでな」



「ほ、宝具は使えません。ふ、不幸が、不幸が訪れてしまいます」



「……はぁ。詐欺師と馬鹿女に期待した俺が馬鹿だった」



「誰が詐欺師だ!」

「ば、馬鹿女って。妲己ちゃん。凄く悲しいです。悲しすぎて、もうお外に出られません。……と言う訳で、夏の王宮に帰りますね」



「おまえ、散財しすぎて。出禁食らったじゃねぇか」



「あうっ、そうでした。ちょっと贅沢しただけで。末喜ばっきさんにもの凄く怒られて。二度と敷居をまたぐなって言われたのでした。か、帰る場所がありません。どうしましょう!」



 昆吾が呆れ紛いに溜息を吐くと。

 矢が昆吾に向けて放たれた。



「ああ、そうだった。まずはてめぇらを始末しねぇとな」



 昆吾は矢を放った仲虺を見据える。

 仲虺は弓を捨て。

 猫背のまま言い放つ。



「戦場でおしゃべりとは、随分と余裕ですね」



「なんだ、お前も入りたいのか」



「いいえ。それが最後のお話になるでしょうから。存分に語り合ってください。……放ちなさい」



 仲虺が手を上げると。

 仲虺の背後から弓の部隊が現れ。

 一斉に斉射が行われる。


 曲射にて。

 膨大な矢が昆吾らに向けて。

 降り注ぐ。

 


 碧は昆吾にすがりつく。



「ちょっ、あれ、どうにかしろ昆吾!」



「折れてる腕にしがみつくな。っ、どけ、離れやがれ!」



 昆吾は舌打ち紛いに。

 碧を引き剥がそうとすると。

 妲己は暗い表情したまま呟く。



「……あぁ、不幸です。そこそこな暮らしが、もう出来ないだなんて。あっ、宝具を落としてしまいました」



 妲己が独特な形をした。

 球体を地面に落とすと。

 球体は天高くまで跳ね返り。

 跳ね返った衝撃で。

 矢の雨を一掃する。



「またやっちゃいました」



 天高く舞い上がった球体は。

 蓮の花のように開き。



 戦場全体に花粉をまき散らす。



「ごっほ、ごっほ。つ、次はなにしやがった、妲己ぃ!」



 碧は妲己の肩を揺らしながら言い放つ。



「あれは、宝具、瘟疫鐘おんえきしょうですね。軽度の花粉症を引き起こし。軽い幻覚症状を招きます」

「幻覚症状だと?」



「はい。軽度なら、矛盾脱衣。で、重度になると、側にいる同性を好みの異性と誤認してします」



「はぁ? ……って、おまえら、武具を脱ぐな! 肌を見せるな。むさっくるしい男の肌なんて見たくねぇんだよ! うおぉい! ちょっと、お前ら、なぁに、男通しでモジモジしあってんだ! くっそ、撤退しろぉ!」



 碧が撤退の鐘を全力で鳴らしていると。

 昆吾は苛立ちながら頭を掻く。



「もう、いい。俺一人で商を滅ぼしてや……」



 昆吾は数歩前に出ると立ち止まる。



「……なんで、アンタが生きて」



 昆吾が碧を見て固まると。

 妲己が昆吾の瞳を覗き込む。


「ああ、ツンデレさん。直接、浴びたから。もう重度に陥ってますね。……せい!」

「がっ!」



 妲己は昆吾の懐に拳を入れ。

 気絶した昆吾を抱える。



「待ちなさい。逃げるつもりですか」



 仲虺が追おうとすると。

 妲己は笑みを浮かべる。



「貴方たちも此処から離れた方が良いですよ。あの宝具、暫く展開し続けますから。それじゃあ、またお会いしましょう。そちらの調停者さんにもよろしく伝えてください」



「……調停者?」



 仲虺が困惑紛いに返すと。 

 妲己は白い犬に乗って。

 飛び去った。



「まて、妲己。俺を置いていくなぁ! ちょっ、よってくんなお前ら! 誰が野郎の求婚なんて受けっか! 脱いで、ちかづいてこないでえぇぇぇぇ!」



 碧は全力で寄ってくる兵から逃走する。



 商と昆吾の初戦は。

 引き分けという形で幕を下りた。



 戦いを記録していた。

 ツインテールの少女はお腹を抱えながら言う。



「はっははは。最高。まさか、こんな形で戦いが止まるだなんて。此処で、商が滅んだら。色々と面倒だったから。丁度良かったわ」



 少女は巻物を閉じて立ち上がる。



「さて、そろそろ、仕上げに入りましょうか。……此の次代を終わらせる、最後の仕上げにね」



 少女はそう呟くと。

 不知火のように消え去った。

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