11月

『本屋がないなら、つくればいいじゃない』 やなかさん

〇作品 『本屋がないなら、つくればいいじゃない』

  https://kakuyomu.jp/works/16817330653893521626

 

〇作者 やなかさん


【ジャンル】

 現代ドラマ


【作品の状態】

 2,000字程度の短編・完結済。


【セルフレイティング】

 なし


【作品を見つけた経緯】

 カクヨムサーフィンしていて見つけました。


【ざっくりと内容説明】

 主人公である「わたし」の故郷には、本屋がありません。そのため、そこに「本屋を作ろう」という話なのですが、思っていたよりも難問があって……?

 シンプルな内容の中に「本屋を作ろうとしても、難しい現実がある」ことが描かれる作品です。


【その他】

 KAC20231参加作品。


【感想】

「現代ドラマ」に分類されているので、作者さんが直接体験したことではないと思います。ですが読むとリアリティがあって(個人の意見です)、本当にあったことを元に書かれたのかな、なんて思いました。


 さて。

 主人公の「わたし」の故郷は、山間部にある町。町ということはそれなりに人がいそうな感じがしますが、本屋さんがありません。元々文具とタバコを売っていたところが本屋も営んでいたようですが、店の主人が年齢を理由に辞めてしまったのです。


 そのため、子どもたちはこれまで購入していた漫画雑誌を買えなくなり、大人たちは雑誌などを買うことができなくなってしまいました。


 どうしたものか。

 すると、「本屋がないなら、つくればいいじゃない」(『本屋がないなら、つくればいいじゃない』より引用)と誰ともなく言い出し、町では町が運営する本屋をつくるというプロジェクトを検討するための委員会が立ち上がります。


 このとき東京で編集の仕事をしていた「わたし」は、友人に話を聞いて企画に興味を持ち、故郷へ帰って話を聞くことになるのです。

「ふるさとに本屋ができるかもしれない」という期待を持ちながら参加した「わたし」ですが、参加者からは驚くような意見が出されます。それは「わたし」にとってマイナスの意見で、ときには話がずれているという危うさを持っていました。

 出版社の一員としての立場、そして自身が本好きであるからこその意見はあるものの、決定権のない「わたし」はそれを聞きながら見守るしかありません。

 果たして町は最終的にどんな決断をするのか、というのがこのお話です。


『本屋がないなら、つくればいいじゃない』というタイトル。

 きっと多くの方が、かの有名な「パンがなければお菓子(もしくは「ケーキ」)を食べればいいじゃない」にもじっていることがきっとお分かりになると思います。(ちなみにこの言葉は「マリー・アントワネットが言った」とされていますが、現時点では証拠は何一つないといわれています)


 ここから、このお話がそう簡単でないことが分かることでしょう。


『本屋がないなら、つくればいいじゃない』では本屋に関する興味深い話がいくつか書かれています。どれか一つを選ぶのは難しいですが、ここで語るとするならば「売れる本だけを置けばいいのか」という議論を挙げたいなと思います。


 仮に町が運営する本屋をつくるとなったら、売り上げを考えなければなりません。そのため、「売れ筋の本を置くのは当然」となります。(さらに作中では、本屋ができると図書館を訪れている人がいなくなると心配する人も登場してきます)。

 難しい状況になってきましたね。


 私も「売れる本だけを出す」というのはつまらないなと思うのですが、本屋さんの運営や、もっとその先にある本の作り手たちの収入のことを考えると、中々難しいのかなと思っています。


 近年、本の売り上げが毎年減少していると聞きます。きっと皆さんも、その話を聞いたことがあることでしょう。そこには様々な要因はあると思いますが、何より本を読まない人たちも増えてきたことが一番影響しているのかなと個人的には思います。


 そのため、出版社はもちろん本屋が「売れるか分からないものよりも、売れそうなものを出したい」という考えも分からないではありません。ただ、色んな種類の本を読みたい人からするとどうなんだろう……と疑問が浮かびます。


「わたし」は「売れ筋のものだけが置いてある」ことに反対していましたが、仮にそうであったとしても「売れ筋」のものだけを読んでいる人たちからすれば、可もなく不可もない本屋のように思います。「自分が読みたい本があればいい」。それが売れ筋のものであれば困ることはないですし、通販サイトが充実した今、マイナーなものは通販を使って購入することができるため、「買えない」という問題はすんなりと解消できてしまいます。


 となると、「本屋の意義はなんなのでしょうか」と思う人が出てくることも無理からぬことかもしれません。

 個人的には本屋はあったほうがいいと思いますが、本を読まない人にとってはどうなのでしょうね。本を読むための入り口が常に開かれていると思いたいですが、読まない人は中々入りにくいのかもしれません。


 また、新しく本屋をつくるとき、どうしても「売り上げ」を考えなければなりません。

 読書離れが加速している今、「せめて、売り上げをキープするために売れ筋のものを置いておく」のか、それとも「よく本を読む人、つまりは幅広く本を買う人にも買ってもらえる本を置ける本屋」にしたほうがよいのか。「わたし」の中には確固たる意見があったとしても、周囲が認めてくれるかどうか分かりませんし、実際に「わたし」の意見に沿って本屋をつくったとしても、売り上げが黒字にならなければそれは本屋の存続に影響を及ぼしてしまいます。


 ベストな答えを導き出すのが難しいなと思った話ですが、これを読んでいる方が本好きでしたら、この作品を読んで色々考えてみるのもよいかもしれません。


 こちらは最後に町の結論が出ます。納得されるのか、それともそうとは思えないのか……。気になった方は読んでみてはいかがでしょうか。


 今日は『本屋がないなら、つくればいいじゃない』をご紹介しました。

 それでは次回、またお会いしましょう。

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