6月 June

第51話 『おじいちゃんとモンチッチ 【黒歴史放出祭】』 知良うららさん

〇作品 『おじいちゃんとモンチッチ 【黒歴史放出祭】』

 https://kakuyomu.jp/works/16818093074054217867

 

〇作者 知良うららさん


【ジャンル】

 エッセイ・ノンフィクション


【作品の状態】

 2,100字程度の短編・完結済。


【セルフレイティング】

 なし


【作品を見つけた経緯】

 知良さんが当作品をフォローしてくださったのをきっかけに、どのようなものを書いていらっしゃるんだろうとお邪魔したところ、こちらの作品を見つけました。


【その他】

「黒歴史放出祭」の参加作品


【ざっくりと内容説明】

 作者さんの心に今でもくすぶっている、子どものころの苦い思い出のお話です。


【「モンチッチ」の話】

 このお話の紹介文を書くにあたって、「モンチッチ」を調べてみました。(名前はしっているのですが、詳しく知らなかったので……)


「モンチッチ」は1974年に発売されたぬいぐるみで、「体はぬいぐるみ」だけれど、「顔と手足はソフトビニール製」という斬新さと可愛さが相まったことで、爆発的なブームが起こりました。


 このブームは日本にとどまらず、翌1975年に海外への輸出が開始されると瞬く間に広がります。


 オーストラリア、ドイツ、フランス。その後ヨーロッパ全域に広がり、さらにはアメリカへ進出しました。それだけではありません。南米、南アフリカまでいったとのこと。その間にヨーロッパの東部のほうでは、貿易品の販売が始まる前にコピー商品(中国製)が販売されていたということもあったのだとか。(←この段落についてはWikipediaの情報なのでどこまで本当かは分かりません)


 しかしその後、1985年からフランスのパリ以外では販売を一時休止したそうです。販売が落ち着いてきたことと、メーカーとして新商品を売るためだったそうですが、販売を休止した途端「モンチッチ」を求める声が届くようになりました。


 その声を受け1996年に、再デビュー。今後は販売休止はしないことに決めたそうです。


 さて、世界中で大人気の「モンチッチ」ですが、皆さんは名前の由来をご存じでしょうか。(私は調べてはじめて知りました)


 フランス語の「私の」という意味である「モン」(「mon」男性形)と、「小さい」「かわいい」という意味のある「プチ」(「petit」)で「私のかわいいもの」、さらに英語の「モンキー」(monkey)と、おしゃぶりをチュウチュウ吸っていることが掛け合わさって(多分、意味が二重になっているということだと思います)「モンチッチ」という名前になったそうです。


 調べて名前の由来になるほどうなずいたんですけど、モンチッチって親指を吸っているんじゃなくて、「右手に持っているを吸っている」ということもこの度はじめて知りました。実物をちゃんと見たことないので分からないのですが(キーホルダーを持っている女の子は見かけたことはありますが、まじまじとみたことはありません)、親指を吸っているのだとばかり……。


 ……そして多分、幼かった作者さんにも親指に見えたんだと思います。この作品ではそういう部分も伝わって来ていいなと思いました。



【感想】(ネタバレにお気を付けください)

 皆さんは子どものときに、「言わなければよかった」というようなことはあるでしょうか。今回ご紹介する作品は、幼きころに言ってしまったこと、やってしまったことへの後悔やもやもやする気持ちがつづられたエッセイです。


 作者さんには、明治生まれのおじいさまがいらっしゃいました。

 昭和の時代、お孫さんである作者さん家族と過ごされていましたが、激動の時代を生きてきたということもあってか、ほとんど言葉を発することもなく、静かに生きていたといいます。


 作者さんいわく、おじいさまは「樹齢数百年のけやきの木」(『おじいちゃんとモンチッチ 【黒歴史放出祭】』より引用)だったと言います。


 けやきといえば、巨木になることで有名ですね。長いと樹齢三百年から四百年を生きるそうですから、その欅にたとえられたというのは、ちんまりとしたおじいさまの中にある、年の重みと、静かだけれどもどっしりとした雰囲気が伝わってきてくるように思いました。


 そんなおじいさまが、あるときデパートに行き、「モンチッチ」のぬいぐるみを買ってきてくれたことがあったそうです。

 当時「モンチッチ」は大ブームを巻き起こしており、誰も彼もが持っていたので、きっとおじいさまは「これを買えば孫が喜んでくれる」と思ったのでしょう。


 ですが、もらった作者さんが見る限り、知っている「モンチッチ」とはどうも違うのです。


 顔も違うし、目も違う。他にも違うところがある。

 幼かった作者さんは、本物の「モンチッチ」ではないことに怒り、それをおじいさまに投げつけてしまいます。さて、その後どうなったのか。


 味わいのある文章が魅力的なエッセイです。特に作者さんの気持ちと、おじいさまの姿、そして出来事の描写が個人的にはしっくりきて、胸の中でじわーっと言葉が溶けていくような感じがしました。


 それゆえに衝撃的な出来事に対し、瞬間的に生まれた双方の感情が迫って来て、おじいさまの気持ちも分かるけど、作者さんの気持ちもよく分かるために、読み手としては板挟みで、どちらも辛いな……と悲しい気持ちになりました。


 でも、悪いのはこんな出来の悪いものを売っているデパートであり、もっと悪いのは、もうけだけを考えて偽物を作った会社だと思います。子どもを笑顔にするべきぬいぐるみで、こんな長い間、心の傷になる原因を作るなんて本当に酷い。何かしらの事情があったにせよ反省していただきたい案件です。……と、私がここで何を言ってもしょうがないのですが(苦笑)


 おじいさまが、可愛いお孫さんである作者さんが喜んでくれるだろうと思った気持ちは、何にも代えられぬものですし、作者さんの優しさは今もあり続けています。その気持ちを大切になさってほしいなと思うようなお話でした。


 ちょっと「うっ」と胸にトゲが刺さるようなお話ですが、悲しいばかりの話ではないと私は思います。気になった方は読んでみてはいかがでしょうか。


 今日は『おじいちゃんとモンチッチ 【黒歴史放出祭】』をご紹介しました。

 それでは次回、またお会いしましょう。

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