第48話・最終決戦

-西側河川敷-


「おおぉぉっっっっっ!!」


 ガルダが、マシン流星(専用バイク)を駆って走り回り、茨城童子&熊童子を弾き飛ばす!バイクを停めて降りたガルダは、Yウォッチから『砲』メダルを抜き取って、空きスロットに装填!マシン流星のカウルが開いて砲身が出現して、妖砲イシビヤ(バズーカ砲)に姿を変えた!ガルダは、ハンドル脇のスロットに白メダルをセットする!


「奴(ガルダ)の大砲は、充填に時間が掛かる!発動前に叩くぞ!」


 ガルダ目掛けて突進をする茨城童子&熊童子!一方のガルダも、鳥銃・迦楼羅焔を装備して突進!熊童子が振り回した大金棒を回避して懐に飛び込み、銃口を押し当て、ゼロ距離で発砲!仰向けに倒れる熊童子!更に、茨城童子に光弾を連射して退ける!


「イシビヤのエネルギーチャージに時間が掛かることくらい、

 指摘をされるまでも無く解っているさ!」


 妖幻システムでは、妖怪を封印したメダルの同時使用は出来ない。つまり、妖砲イシビヤを起動したガルダが使用可能なのは基本装備のハンドガン(鳥銃・迦楼羅焔)のみで、妖槍は使えない。茨城童子は、「銃しか使えないガルダは、距離を空けた状態でしか攻撃をしてこない」と予想しており、銃で接近戦を挑まれるとは思っていなかった。


「狗塚の小倅めっ!」

「狗塚家の当主は俺だ!いい加減に、小倅扱いはやめてもらいたいものだな!」


 立ち上がった熊童子が、大金棒を振り回す!ガルダは、後方の妖砲をチラ見した後、熊童子の大金棒を蹴って背面宙返りで、妖砲の脇に着地!チャージを終えた妖砲イシビヤのハンドルを握って、タイヤを軸にして妖砲を回頭させ、砲門を茨城童子に向けた!


「消し飛べっ!」


 妖砲イシビヤ放たれた巨大光弾が茨城童子に迫る!


「グロロロロォォッッッ!!」


 割って入った熊童子が、炎を纏った金棒で光弾を受け止めた!だが、凌ぎきれず、金棒は砕けて、光弾が熊童子の全身に着弾!


「グオォォッッッッ!」

「熊童子っ!」

「茨城の兄者っ!姫を頼むっっ!!」


 次の瞬間、光弾が熊童子を粉々に吹き飛ばし、衝撃波に弾かれた茨城童子が転倒!闇の霧と化した熊童子は、妖砲にセットされた白メダルに吸収される!


「むぅぅ・・・熊童子まで!」


 ガルダが、妖槍ハヤカセを召喚して、残る茨城童子に向けて身構える!互いが互いに向けて突進!ガルダは、茨城童子が振るった爪を妖槍の穂先で弾き、素早く妖槍を廻して石突きを茨城童子の腹に叩き込んだ!茨城童子は、腹を押さえて数歩後退する!


「らしくないな、茨城童子!

 気持ちが明後日の方向に向いている!」


 茨城童子は、魍紅葉のことが気になって仕方が無い。想定外ばかりを起こすザムシードと一緒というのが気にくわない。「早く主の元に参じたい」という焦りが、茨城童子の調子を崩していた。


「枯れた家系如きがっっ!!」

「否定をする気も無い!」


 追い詰められた茨城童子は、ガルダの神経を逆撫でして冷静さを失わせたいのだが、文架市での数々の戦いを通して精神的に成長したガルダが、その程度では動じない。


「俺だって、佐波木と大して変わらない未熟者だ!

 だが、枯れた家系でも、未熟でも、出来ることは無限にある!」


 苛立つ茨城童子。過去の雅仁(ガルダ)は血統に拘りすぎて、自分の枠から出ようとはしなかった。以前は、その「拘り」がガルダの弱点だった。だが、今は違う。 「狗塚家の宿命」に拘らなくなったガルダは、実力で先代を越えていた。


「狗塚めっ!」


 手を翳して、妖気の衝撃波(妖気乱舞)を発する茨城童子!回避をしながら、鳥銃から光弾を連射するガルダ!しばらくはミドルレンジからの撃ち合いで、互いを牽制していたが、主君(魍紅葉)の異変を感じ取った茨城童子が、僅かに動きを乱した!


「ヌゥゥ?姫様の妖気が消えた!?」


 ガルダは、刹那の隙を見逃さず、鳥銃から光弾を連射しながら、一気に踏み込む!茨城童子は、直ぐに集中力を戻し、掌から闇の闘気を撃ってガルダの光弾を相殺する!しかし、3発ほどが間隙を抜けて茨城童子の腹や胸に炸裂!


「チィィッ!」


 茨城童子は、堪えきれずに後退をしつつ、全面に闇の障壁を張った!だが、ガルダはお構い無しに飛び込んで、呪文で闇障壁を相殺しながら、鳥銃の銃身を茨城の側頭部に叩き付け、怯んだところで、光弾をゼロ距離連射する!


「ぐわぁぁぁっっっ!!!」


 仰向けに倒れる茨城童子!ガルダは、鳥銃・迦楼羅焔に白メダルを装填して、銃口を茨城童子に向けた!迦楼羅焔の中央にある嘴が開き、エネルギーが凝縮されていく!


「ぅっちゃダメェ~~~~~~!!!」


 大声が響き、引き金を引こうとしたガルダの動きが止まる!直後に、ザムシードが駆り、紅葉をタンデムシートに乗せたマシンOBOROが突っ込んできて、ガルダと茨城童子の間に入った!


「佐波木っ!」

「・・・姫様!」


 紅葉の姿から鬼の禍々しさは一切感じられない。


「鬼女・魍紅葉(もみじ)ではなく、紅葉(くれは)ちゃん・・・なんだな?」

「ぅん!燕真とラブラブだから、悪ぃ子やめたの!」


 間違いなく、ガルダがよく知る源川紅葉だ。一緒にいるザムシードに視線を向けると、「大丈夫だ」と頷く。


「だが、何故、止める?コイツは、暗躍の元凶だぞ!解っているんだろう!?」

「ぅん・・・解ってる!

 でも、茨城ドージ、悪ぃ子だった私に優しくしてくれたの!

 凄く嫌な奴だけど、自分が信じたことをやっただけ!悪い奴じゃなぃょ!!」

「・・・しかしっ!」

「大丈夫!ァタシが悪い事しないように命令するからっ!」


 紅葉はタンデムから降りて、茨城童子に手を添える。ザムシードが「信じてやれ」と言うので、ガルダは構えていた銃を下げた。


「茨城ドージ、もぅ人を困らせるのゎ禁止!・・・できる?」

「・・・・・・・・そ、それが、・・・姫様のご命令であれば。」

「ぅん、なら命令ね!」


 茨城童子が戦意を喪失させたので、ザムシードとガルダは変身を解除して、燕真と雅仁の姿に戻った。

 これまで長い間、「鬼族は人間と争う宿命」を信じてきた茨城童子は、紅葉の言う「協調」を簡単に受け入れる事は出来ない。魍紅葉を闇から戻した燕真を、悔しそうに睨み付ける。


「なぁ、茨城童子。

 オマエが俺を許せないのと同じように、

 俺だって、今までオマエがやってきたことを許ない。

 だがな、紅葉の父親・・・酒呑童子の魂に託されたんだ。」

「御館様が、貴様如きに何をっ!?」


燕真は、マシンOBOROから降りて、茨城童子を見詰める。




-回想・数分前-


 EXザムシードの突き出した妖刀オニキリの切っ先が、ブラックザムシードの胸を貫く!


〈この酒呑童子を討った褒美に、1つ教えておこう。

 君達がメダルに封印した‘僕の大半の妖力’は、大嶽丸が持っている。

 文架の結界1つを修復できるくらいの充実した妖気だ。

 起爆剤さえ有れば、大嶽丸に致命傷を与えることだって可能だよ。〉


 EXザムシードとブラックザムシードが空中で交差。


「・・・えっ?それって?」

〈紅葉が‘完全な酒呑童子’を得られない為の嫌がらせをしているんだろうが、

 それは、大嶽丸にとっての致命的なミスだ。〉


 語り終えたブラックザムシードは崩れはじめ、砕けたマスクから崇の顔が現れて微笑んだ。


〈人間界に平和をもたらす為に役立てろ

 ・・・と言えれば格好良いんだろうが、あえて、別の言い方をさせてもらう。

 大嶽丸の野心は、紅葉の平穏には邪魔だ。紅葉の為に‘僕の残り’を使って欲しい。

 紅葉のこと・・・託したよ。〉

「ありがとうございます。崇さん。」


 ブラックザムシードは、黒い霧に姿を変え、空気に解けるようにして消滅をした。



-回想終わり-


「紅葉に親父さんは、紅葉が平穏に生きることを望んだ。

 このまま拗ねていたいなら止める気は無いが、

 忠臣を豪語するオマエなら、やるべきことは決まっているんじゃないのか?」

「人間如きが、偉そうにっ!」


 紅葉が燕真を見る。燕真は、紅葉を見て無言で頷いたあと、振り返って粉木&砂影&有紀を見詰めた。粉木は、「もう何も言うことは無い」と言わんばかりに、深く頷く。雅仁が亜弥賀神社の上空を見上げので、燕真と紅葉も同じ方向に視線を向ける。


「残る結界は1つ。」

「オオタケマルゎ、絶対に、壊すつもりだよね。」

「結界破壊に必要なのは、上級以上の妖怪の妖気。

 つまり、結界の前で、紅葉ちゃんを生贄にする為に待ち構えている。」

「でも、ァタシも行くよ!戦う力が有るんだもん!

 それに、ァタシが顔を出せば、

 ァタシをやっつける為に、オオタケマルが出て来るってことでしょ!」

「どうせ、ダメって言っても来るんだろ!だったら、俺のそばから離れるなよ!」

「ぅんっ!」


 それまでは不満そうな表情をしていた茨城童子が、紅葉の言葉に反応を示して、紅葉の足元で片膝を付く。


「姫様が行くのであれば、護衛の任は、私にお申し付け下さい!

 姫様への忠誠で、ザムシード如き凡俗に、遅れは取りません!!」

「茨城童子・・・この期に及んで、マウントかよ?」

「勘違いをするな!俺は、姫様の意に従うだけだ!

 貴様等と連む気は無い!人間の為に削る骨身など、一欠片もない!」

「ぅん!?なら、みんな、仲良くね!」

「ハハァッッ!姫様の仰せのままに!!」


 燕真と雅仁は、互いの顔を見合わせ、燕真は苦笑いを、雅仁は呆れ顔をする。


「なんだ、コイツ!?」

「人間の立場とか鬼の宿命とか、そう言うのを全部取っ払ったら、

 案外、面白い奴なのかもしれないな!

 文架市に来たばかりの頃のオマエに、チョットだけ似ている気がするぞ、狗塚!」

「ふざけるな!俺は認めん!!」


 4人は、改めて、亜弥賀神社の上空に聳える封印の結界を見上げる(燕真には空しか見えない)。


「さぁ、行こう!」

「ぅん!」 「ああ!」 

「何故、貴様如きの指図を受けねばならん!?姫様以外が私に命令をするな!

 そもそも、貴様が姫様と知り合ったのは、いつだ!?

 短い寿命しか持たぬ人間程度では、たかが知れているのであろう!

 私が、姫様の元となる御館様と出会ったのは、今から約1000年前!

 越後国で・・・なんたらかんたら」

「・・・うるせーなぁ~。

 紅葉・・・『黙れ』と命令してくれ。」


 燕真はホンダ・NC750Xに、紅葉は燕真の後に、雅仁はヤマハ・MT-10に跨がると、それを見た茨城童子が、勝ち誇った表情で立ち塞がった。


「フン!なんだ、その貧相なバイクは!?所詮は退治屋だな!

 私が、気紛れで手に入れたバイクの足元にも及ばぬ!

 姫様に、その様な貧弱な乗り物は似合いませぬ!」

「オマエ(茨城童子)、イチイチ、俺をバカにしなきゃ、気が済まないのか?

 やっぱ、出会った直後の狗塚とキャラが被ってるぞ。」

「被ってない!アレ(茨城童子)と一緒にするな!」

「騒ぐな下郎共!姫様は、我がドゥカティ・パニガーレV4の後にお乗り下さい!」

「パニガーレV4!?マジか!!?ちょっと、見てみたい!」

「んぇ?燕真のバイクよりスゴいの?」

「別モンだよ。俺のバイクと比べて、多分、5倍くらい値が高いぞ。」


 ちなみに、燕真のバイクと比べれば、雅仁のバイクは2倍くらい高額。だからと言って、ホンダ・NC750Xが安物ってわけじゃなくて、ヤマハ・MT-10やドゥカティ・パニガーレV4の価格が化け物なのだ。


「フッハッハッハッハ!今、この場に持ってきてやるから、刮目せよ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×2


 燕真と雅仁は、互いの顔を見合わせる。茨城童子のバイクは、この場に有るわけではなく、何処かに駐めてあるのを持ってこなきゃならないらしい。言うまでもなく待ってられないので、バイクをスタートさせた。


「待ちやがれっ!」


 置いて行かれた茨城童子は、全身を闇霧化して後を追い、燕真の駆るバイクに纏わり付くようにして飛び回る。


「姫様は、その様な貧相な乗り物ではなく、我が背にお乗り下さい!」

「・・・うるせーなぁ~。

 紅葉・・・『黙れ』と命令してくれ。」


 紅葉の指定席は燕真の後なので、茨城童子の主張は無視。燕真は、茨城童子がウザすぎるので、「一緒に戦おう」と言ってしまったことを、少し後悔していた。


「なんや、奴等、案外、気が合いそうやな。」


 粉木&砂影&有紀は、若者達の出陣を、並んで見送った。人生の先輩として、若者達に背負わせてしまうのは、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。厳しい戦いになるのは確実だろう。だが、結果がどうなるとしても、彼等に託すと決めた。多くの出会いと戦いを経て大きく成長した彼等ならば、「やり切る」と信じている。


「なぁ、滋子?」


 粉木は深呼吸を数回してから、砂影の前に立って、砂影の顔を見詰めた。


「どうしたが?ひょつんと改まって。」

「この戦いが終わって、燕真達が無事に帰ってきたら、結婚してもらえへんか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ?何それ?」

「バカ弟子は巣立った。背負うとった肩の荷が下りた。

 もう、やること、茶飲み話くらいしか無うなってん。

 残る余生・・・ワシの話し相手になってくれへんやろか?」


 50年前に尊敬した親友を失い、彼の幻影を追って戦いの中に身を置き続け、25年前に止むに止まれずに最も才能の有る弟子を手にかけた。辛い思いをする度に、「自分だけが幸せになってはいけない」と、好いていた砂影から距離を空けた。

 だがそれはもう終わり。最高のバカ弟子が、粉木の背負っている物を下ろしてくれたのだ。


「今更、何を言い出すかて思や・・・私達、何歳になったて思うとるがよ?」

「ああ・・・今更ですまんな。」

「ダラ!へしなすぎる!ずっと待っとったんださかいっ!」


 砂影は、眼に涙を浮かべて粉木を見詰める。まるで、今から熱い抱擁するような雰囲気だ。隣に立っている有紀は「ここで求婚すんなや、ジジイ!場を弁えろ!」と言いたげな表情でそっぽを向く。


♪~♪~♪~

「あら、だっかしら?」


 良い雰囲気をぶち壊すタイミングで、砂影のスマホが着信音を鳴らした。砂影は、画面で発信者の名を見て、怪訝そうな表情で通話に応じる。


「今、忙しいんやけどぉ、今更、アンタが何の用?

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 今ちゃ、文架市やけどぉ、それがどうしたのよ?

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 なんですって?本気なの?

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 解ったわ。やってみる価値はありそうね。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 文架大橋の西側河川敷。勘平も一緒ちゃ。」

「なんやなんや?誰と話しておるんや?」


 せっかく勇気を振り絞って求婚をしたのに、邪魔な電話の所為で良い雰囲気が台無し。粉木が不満そうにしていると、通話を終えた砂影が、粉木に視線を向ける。


「まだ、アンタがやることは残っとるみたいよ、勘平。」

「・・・はぁ?」


 砂影の意味深な言葉に粉木が首を傾げた直後、100mほど離れた空間にワームホールが発生して、中から高級車が飛び出してきた!車は、低速で近付いてきて、粉木達の目の前で停まる。


「げっ!奴は!?」


 車内から出て来たのは、前CEOの喜田と、前CFOの遠斉だった。


「困った奴っちゃのう。退治屋をクビになったあとも、ワシの邪魔をするんか?」


 2人は、真っ直ぐに、粉木のところに駆け寄ってくる。喜田は、粉木の前に立つと、馴れ馴れしい笑顔を浮かべ、粉木の手を取って両手で握り締めた。


「粉木さん!俺に力を貸してください!」

「急になんや、きしょいのう。」

「息子の死で正常な判断ができなくなり、

 私利で文架支部を巻き込んだことは謝罪します。」

「今更、謝罪されても手遅れやけどな。」

「今の組織は、異常事態に陥っています!

 こんなことならば、去るべきではなかったと後悔しています!

 我々で、正常な形に戻しませんか!?」

「去る?正常?」


 粉木は、喜田の言い分に呆れてしまう。喜田は「去った」のではなく「追い出された」のだ。それに、喜田がトップだった頃から「正常ではなかった」はずだ。


「・・・オマンなぁ。」

「粉木さんが言いたいことは解ります!ですが、今は緊急事態なんですよ!

 俺の力だけではどうにもなりません!

 だが、粉木さんと砂影さんが力を貸してくだされば、沈静化を出来ます!」

「なにがしたいんや?」

「文架市に派遣されている残存の隊員達を、我々で掌握します!」

「どないして?」

「いくら去ったとは言え、俺には前CEOの権力があります!

 しかし、去ってしまった今の俺には、人心を掌握する説得力はありません!」

「去った・・・ではなく、クビになったといわんかい。

 自分に人望が無いことは認めとるんやな。」

「現組織の開闢からの参加者で、

 皆から一目置かれる粉木さん達の存在感が必要なんです!」

「ワシと滋子に、神輿になれ・・・と?」


 喜田の言い分の9割が気にくわない。今更、「今は緊急事態」と言っているが、だいぶ前から緊急事態だ。喜田は「俺には退治屋全体を掌握する権力がある」と言っている。裏を返せば「粉木では掌握できない」と言っている。粉木に権力が無いのは、喜田によって地方閑職に追いやられたからだ。「開闢」という仰々しい単語もムカ付く。失敗をしたら、粉木に責任を被せる魂胆が丸見えだ。何よりも、大前提として、喜田程度のボンボンに担がれたくない。

 だが・・・言い方は気にくわないが、喜田の提案する方向性は正しい。


「やれやれ。政治的駆け引きばかりしていた所為か、頭だけは良いのう。」


 確かに、前CEOの発言力と、50年間を退治屋に費やしてきた粉木&砂影の人望を組み合わせれば、大武COOから、退治屋の支配力を奪い取れる可能性は有る。


「何人かの、子飼いの有志には、既に声を掛けてあります!」

「・・・ん?」


 堤防道を走る2台のバイクが見える。バイクは、河川敷に降りる坂道を迂回して、粉木達に接近をしてきた。


「粉木さん!砂影さん!俺は2人に付いて行きますよ!」

「叔父さん!馳せ参じました!」


 合流をしてきたのは、田井弥壱と高菱凰平だった。田井は、粉木から巣立った弟子で、今は、砂影の直属の部下。粉木と砂影への信頼で助力に来たのだろう。つまり、喜田の「子飼いの有志」は高菱のみ。


「うっはっは!応じてくれたことを感謝する!心強いぞ、凰平!」

「俺は、大武さんのことなんて、ハナっから信用してません!

 信用しているのは、叔父さんだけです!」

「・・・・・・・・・・・・・・・」×たくさん


 眺めていた粉木&砂影&有紀&田井は、「喜田と高菱ってキャラが被ってる?」「DNAが同じ?」と感じてしまう。ところで、高菱って、「大武のYESマンぶり」を全面に出していて、且つ、管理能力がザルじゃなかったっけ?こんな奴を信用して大丈夫か?


「A班は全滅をしてしまいましたが、残りの隊は、今の任務に不安を感じています。

 先ずは、彼等を、こちら側に引き込みましょう!」


 田井の提案に粉木&砂影&有紀が頷く。喜田の手札は脆弱だが、不安を感じている者から説得をして味方にすれば、前線基地(優麗高)に待機をしている他の者達を巻き込みやすくなる。


「あっ!出しゃばるなよ、田井君!俺が言おうと思ってたんだぞ!」


 高菱の発言に、粉木&砂影&有紀&田井は呆れ顔をする。本部勤務のエリートかもしれないけど、コイツは要らない。


「うっはっは!凰平、下の者達は、この様な形でしか自己主張を出来ないものだ。

 理解してやれ。それが、上に立つ者の器というやつだ。」


 喜田の発言に、高菱は満足そうな笑みを浮かべ、粉木&砂影&有紀&田井は表情を引き攣らせる。器の大きさを演出しているつもりなんだろうけど、ほぼ真逆の効果を発揮している。今回だけは手を組むが、以後、二度とコイツとは一緒に仕事をしたくない。




-文架大橋・東詰交差点-


 先頭でバイクを走らせる雅仁が、赤信号で停止。後でバイクを駆っていた燕真&紅葉が横に並んで話し掛ける。


「なぁ、狗?大嶽丸って、どんなヤツなんだ?」


 問われた雅仁は、ヘルメットのフェイスシールドを上げて、呆れ顔で燕真を見る。


「君は、そんな事も知らないのか?」

「三大妖怪に入ってたり入ってなかったり・・・とか、

 坂上田村麻呂に倒されたっぽい・・・くらいは解るけど。」

「日本最古の大妖怪だ。」


大嶽丸

 西暦800年頃に、鈴鹿山に住んでいた鬼神。民を襲い、都への貢物を略奪した。 三明の剣の加護で無敵だったが、鈴鹿御前に騙されて奪われ、弱体化したところで坂上田村麻呂に倒された。


「無敵?マジかよ?」

「三明の剣があれば、酒呑童子以上に厄介な奴だろうな。

 だが、三明の剣が失われ久しい。

 大嶽丸では手の出せない天界で管理されているという噂も有る。」

「俺達でも倒せるってことか。」

「紅葉ちゃん達(酒呑一派)との真っ向勝負から逃げ、

 姑息な策で自分に有利な状況を作ることが、

 則ち、奴が弱体化をしたままという証明になっている。」

「なるほどな。」


 燕真が納得をしたところで、信号が青に変わったので、目的地に向けて、バイクを右折させる。


「燕真っ!上っ!!」

「えっ!?」 「なにっ!?」


 唐突に叫ぶ紅葉!その直後、翼を大きく広げた物体が、急降下をして襲いかかる!

 燕真&雅仁は、バイクのハンドルを大きく曲げて回避!しかし、翼を広げたそれは、手を十数mも伸ばして、燕真のバイクのテイルを掴み、力任せに引き寄せる!


「まずいっ!」 「んわぁぁっっ!」


 バランスを崩したホンダ・NC750Xから投げ出される燕真と紅葉!燕真は受け身を取りながら地面に落ちて転がり、紅葉は闇霧(茨城童子)が包んで受け込めた!

 紅葉を抱きかかえながら実体化をした茨城童子が、燕真を睨み付ける!


「貴様っ!仕方無く姫様を預けたというのに、何と言う不始末だ!

 姫様を傷物にするつもりか!?」

「一応、謝っておくけど、苦情を向ける相手が違う!

 そ~ゆ~ことは、俺じゃなくて、走行を妨害したアイツに言ってくれ!」


 正面を睨み付ける燕真。その視線の先には、一部妖怪化で、翼を広げた迫天音が、挑発的な視線を燕真に送っている。


「大武の秘書か。最後の封印結界を放置したとは思えない。

 亜弥賀神社を担当するアイツが出てきたってことは、

 神社は、別の奴に任せてあるってことだな。」


 それは則ち、迫天音を担当から外すほどの実力者。この先の亜弥賀神社には、大武本人が待機をしていると考えて間違いないだろう。


「ひゃひゃひゃ・・・佐波木燕真君。

 もう一度、私に会いたくて、ここまで来てくれたのかしら?」

「チゲーよ!・・・つーか、名指し?」

「その小娘(紅葉)が人間の心を取り戻したことは、大武COOも把握済み。

 COOは、そう仕向けた佐波木燕真君に執心でね、

 首だけ持って来いって指示をされたのよ。」

「狙いは俺かよ!?」

「だからね・・・多くは望まないから、首だけ頂戴。」

「悪趣味は催促だな!冗談じゃない!爪先一つ、やらねーよ!」


 身構える燕真!紅葉、雅仁も、臨戦態勢になる!


「狗、紅葉、オマエ等は先に行け!」

「んぇ?なんでっ!?」

「奴(迫天音)を倒す時間を惜しむ状況でもあるまい!」


 雅仁が言う通り、大武の打倒は急ぐべきだが、「この場を燕真だけに任せて先に進む」ようなリスクを負うほど、切羽詰まっているわけではない。全員で目の前の敵を倒す方が正解だ。


「姫様に、意見具申!

 ここは、この凡俗に押し付けて、我々は先を急ぐべきです!」

「んぇ?なんでっ!?」

「姑息な大嶽丸が、右腕もと言うべき部下を、

 この場に送り込んだ理由を考えれば、答えは明白です!」

「なるほどな!茨城童子の提案というのは気にくわないが、一理ある!」


 茨城童子の意見に、雅仁が同意をする。封印結界を破る贄は、紅葉、茨城童子、そして腹心(迫天音)、大嶽丸からすれば、自分以外ならば誰でも良い。部下と共に、封印結界のある亜弥賀神社で待ち受けた方が圧倒的に有利のはずだ。

 その勝ち筋を無視して部下を送り込む理由は、足止めの時間稼ぎ以外には考えられない。


「奴自身に有利な結界を張るつもりか、別の目的があるのか・・・?

 いずれにしても、早期攻撃こそが、こちらを有利にする!」

「チィ!何様のつもりだ、狗塚!貴様如き愚物が同意をするな!」

「なんだとっ!?」

「意見が合ってるのに、なんで喧嘩になるんだよ!?

 仲良くしろとは言わないけど、無駄に争うな!」


 睨み合う雅仁と茨城童子に対して、燕真が冷めたツッコミを入れる。


「満場一致だ!大武の秘書の狙いは俺!奴は俺に任せて、オマエ等は先に行け!」

「燕真が残るんなら、ァタシも残るっ!」

「姫様が残るのならば、私も残ります!それが忠臣の務めっ!!」

「・・・おいおい!数秒前と話が違うぞ!

 オマエ(茨城童子)、実はバカだろう!?

 紅葉、話が堂々巡りをするから、先に行ってくれ!」

「ん~~~~~・・・ワカッタ。

 あんなヤツ(迫天音)、直ぐにやっつけて、早く来てねっ!」

「おうっ!」


 燕真を残し、雅仁はバイクで、紅葉は闇霧化をした茨城童子に乗って、鎮守の森公園へと向かう。迫天音にしてみれば、「本命は燕真」だ。しかし、他を先に行かせる気は無い。追おうとする迫を妨害するように燕真が立ち、左手のYウォッチから『閻』メダルを抜き取って、ベルトの和船バックルに嵌めこんだ!


「行かせねーよ!・・・幻装っ!」


 妖幻ファイターザムシード登場!


「ならば、さっさとオヌシの首を狩って、他を追うのみ!」


 一方、迫天音が気合いを発すると、その姿は、スーツを着こなした妖艶な女性から、獣顔で着物と炎の羽衣を纏った女妖怪・天逆毎(あまのざこ)へと変貌する!


「簡単には狩らせねーよ!」


 天逆毎の強さは身に染みている。天邪鬼が身を犠牲にして助けてくれなかったら、多分、前回の戦いで殺されていただろう。だから、最初から全力で倒しに行く。

 ザムシードは、水晶メダルを和船バックルに装填してフリッパーで弾き、EXザムシードへとフォームチェンジ!妖刀オニキリを装備して構えた!




-川東のショッピングモール-


 ザムシードと天逆毎が交戦する‘文架大橋東詰’から目と鼻の先の建つ大型ショッピングモール屋上で、退治屋の派遣隊C班が待機をしていた。もっと他にやるべきことが有るように思えるのだが、護衛対象の大平法次が、戦闘終了後に「腹が減った」と言って、空腹を満たす為にフードコートに行ってしまったのだ。さすがに、武器を持ってプロテクターを装着したまま店内を彷徨けないので、屋上に停めた車の中で待つしかない。


「上層部は、いったい、何を考えているんだ?」


 大平法次は、任務通りに鬼(虎熊童子&金熊童子)を倒した。だが、大平が妖怪化をしたことや、自らの手で封印の結界を破壊したことを、隊員達は不安に感じていた。


ピーピーピー!

「ん?誰だ?」


 班長(七篠)の通信機が着信音を鳴らす。対応をした班長(七篠)は、しばらくは驚いた表情をしていたが、やがて納得をして、「はい」「はい」と頷く。想定外の通信相手から発せられた新たな指示は、現状の任務に不安を感じている隊員達にとって、納得の出来る内容だった。


「大平法次を・・・いや、妖怪を拘束する!」

「はいっ!」×たくさん


 班長(七篠)の号令の元、派遣隊C班が一斉に動き出した。




-文架大橋東詰-


 ここは、交通量の多い幹線道路。被害を出さないように、周りに気を使いながらでは戦いにくい。


「道路よりはマシか。」


 EXザムシードは、道路沿いに有る広い駐車場に、天逆毎を誘導する。


「此処をオヌシの死に場所にするのじゃな。」


 駐車中の車(無人)の屋根に乗った天逆毎が、錫杖を召喚。握り締めて振るうと、EXザムシードに向かって闇の刃が飛び出した!EXザムシードは難なく回避をするが、闇刃は駐車してある車(無人)に着弾!車は派手に吹っ飛ばされて、周りに駐められた車(無人)に被害を与える!


「げっ!」

「ひゃひゃひゃ・・・私は派手やかな戦いが好みなのじゃ!」


 錫杖を振るって、次々と闇刃を飛ばす天逆毎!EXザムシードが回避をする度に、罪の無い車が破壊されていく!

 既に十数台の車が破壊されている。交通量の多い道路での戦いと違って、人的被害は出さずに済む。しかし、物的被害は比較にならないほど大きい。


「おいおい、これ全部、俺が弁償ってことは無いよな?

 給料からの差っ引きで、どうにかなる次元じゃねーぞ。」


 妖刀を構えて、天逆毎へと突進するEXザムシード!飛んで来た闇刃を妖刀で弾き飛ばす!弾かれた闇刃は、地面や周りの車に着弾!

出来る限り被害が出ない方向に闇刃を逸らしたいのだが、自分自身の防御で精一杯なので、なかなか思い通りにはできない。


「COOの秘書がブッ壊しているんだから、弁償費は退治屋に請求してくれよな。」


 EXザムシードは、天逆毎が立つ車のボンネットを踏み越えて天逆毎に接近!しかし、天逆毎は翼を広げて飛び上がって楽々と回避!別の車の屋根に着地をして、再び、EXザムシードに向かって闇刃を飛ばす!EXザムシードは回避をするが、車には被害が発生する。また同じことの繰り返しだ。


「キリが無い・・・と言うか被害額が大変な事に成っている。」


 小破、中破、大破の車が、何台有るのか数える余裕が無いが、見廻しただけでも、数千万単位だろう。

 さすがに、これほどの被害が出ると、ショッピングモール内の客達に気付かれてしまい、窓際には、駐車場の大惨事を眺める人集りができている。


「先ずは、奴の足を止める!」


 EXザムシードは、武器を弓銃ヤブサメに持ち替えて、光弾を連射する!しかし、天逆毎が発する闇刃で相殺されてしまう!


「この際、俺が2~3台ブッ壊して被害を増やしても、変わんねーか。」


 飛んでくる闇刃を回避しながら、弓銃を、連射モードがら一撃必殺モードに切り替えて、エネルギーをチャージ!天逆毎の足元に狙いを定めて引き金を引く!放たれた光弾を、飛び上がって回避する天逆毎!光弾は、天逆毎が足場にしていた車に着弾して爆発炎上!周りの車を含めた数台を巻き込んで、空に逃げた天逆毎を爆煙が包む!


「おぉぉぉっっっっっっっっっっっっ!!!」


 EXザムシードの狙いは、光弾で天逆毎を撃ち抜くことではなく、目眩ましを作って天逆毎に接近をすること!基本装備のナイフ・裁笏ヤマを握り締めたEXザムシードが飛び上がり、爆煙を潜り抜けて、天逆毎の懐に飛び込んだ!


「ひゃひゃひゃ・・・起死回生のつもり?脆弱よのう。」


 しかし、EXザムシードの突撃は、天逆毎が片掌から発した闇の障壁に阻まれ、更に念の一押しを喰らって弾き飛ばされ、地面に墜落をする。


「くそっ!」


 追撃を警戒したEXザムシードは、弓銃を連射モードに戻して、空中の天逆毎目掛けて光弾を発砲!しかし、天逆毎は追撃の素振りなど見せず、闇の障壁で楽々と光弾を受け止める!


「オヌシは何か勘違いをしているようじゃのう。

 私が地に足を付けていたのは、オヌシが戦いやすいように気を使ってやっただけ。

 空に上がったのは、回避をしたのではなく、私の得意な戦場に移動しただけ。」


 空中の天逆毎が、腕を上げ、天に向けて人差し指を翳すと、上空に闇が集まって黒雲を形成する!


「それに・・・私は、意味も無く、車を破壊していたわけではない。」


 天逆毎が気合いを発すると、黒雲から天逆毎に向かって、一筋の稲妻が落ちる!天逆毎は、稲妻を受け止めて雷の槍に変えて、EXザムシード目掛けて投げた!武器で弾き返せるような攻撃ではない!EXザムシードは回避をするが、雷の槍は、背後の大破した車に着弾!漏れ出していたガソリンに引火をして爆発炎上!周りの車に次々と飛び火をして巻き込む!


「・・・くっ!」


 天逆毎は、2発、3発と稲妻を自分に落として受け止め、雷の槍に変えて投げ付ける!EXザムシードは回避を続けるが、雷の槍は、天逆毎の狙い通りに、地面に溜まったガソリンを発火させる!

 何台の車が巻き込まれたのか、もう数える気にもなれないが、被害額は億単位だろうか?気付いた時には、直径30m前後の駐車場の一角が、火の海に変わっていた。


「好き放題やりやがって・・・。

 だけど、この状況ならっ!!」


 EXザムシードは、走りながらマシンOBOROを召喚!飛び乗って、雷の槍を避けながら、上空の天逆毎を見上げた!

 付け入る隙はある。「EXザムシードでは、跳び跳ねなければ攻撃を出来ない」と天逆毎は考えているのだろう。そして、天逆毎の真上には、大きな妖気の塊(黒雲)がある。


「頼むぞ、朧車っ!」


 正面の妖気溜まりにワームホールを発生させて、マシンOBOROを駆るEXザムシードが飛び込んだ!次の瞬間、天逆毎の頭上に有る黒雲にワームホールが発生して、マシンOBOROが飛び出す!EXザムシードは、マシンOBOROにしがみついた状態で、天逆毎に突撃(落下)をする!

 これで、バイクアタックの一撃を叩き込めると思っていた・・・が!


「ひゃひゃひゃ・・・甘い甘い。」


 衝突の寸前でマシンOBOROの落下が止まり、宙ぶらりの状態に成ってしまう!


「なにっ!?」


 振り返ると、マシンOBOROのテイルが、ワームホールから出現した手で掴まれており、天逆毎の片腕が、別のワームホールに突っ込まれている!


「オマエも、ワームホールを!?」

「私は、オヌシのように、物の力に頼らずとも、空間転移を扱える。

 地方の下っ端如きに出来ることを、

 何故、上層部たる私が使えぬと言う発想になるのじゃ?」


 天逆毎が力任せに腕を振るうと、EXザムシードとバイクは、出現したワームホールに引き摺り込まれて、天逆毎の手元に有るワームホールから引っ張り出され、地面に叩き落とされる!


「ぐはぁっ!」


 墜落したマシンOBOROから投げ出されるEXザムシード!衝撃で意識が飛びそうになる!


「ひゃひゃひゃ・・・名残惜しいが、そろそろ、首だけにしてやろうかのう。

 オヌシとの戦いは、それなりに楽しい時間だが、私は多忙な身。

 先に行った連中の相手もしてやれねばならんのじゃ。」


 頭上の黒雲に向けて指先を伸ばす天逆毎!黒雲に今まで以上の妖気が蓄積されていく!


「・・・くっ!斬首なんて冗談じゃない!」


 EXザムシードは、倒れているマシンOBOROに駆け寄り、起こして跨がった。相手が空中浮遊をしたままでは、分が悪すぎる。上空の天逆毎に接近するには、飛び上がるか、ワームホール経由の奇襲のみ。だが、飛び上がっても、闇刃と障壁で止められてしまう。つまり、ワームホールの使用以外に、天逆毎の懐に飛び込む手段は無い。


「要は、空間転移を、どう活かすかってことだ!」


 幾つもの爆煙が上がる中で、マシンOBOROを駆り、天逆毎の真下に向かって走るEXザムシード。上空の天逆毎は、哀れみの目で、接近してくるEXザムシードを見下ろす。


「せいぜい頑張ってね、最後の悪あがきを!・・・雷槍っっ!!」


 天逆毎が気合いを発すると、上空の黒雲から無数の雷が降り注ぐ!

 この、射程圏の全方位に到達する奥義から逃れる手段は、射程圏外に退避をするか、ワームホールを発生させて飛び込むかの二択。天逆毎に接近中のEXザムシードには、ワームホール使用の一択しか無い。


「うおぉぉっっっっっっっ!!!頼むぞ、朧車っっ!!」


 案の定、EXザムシードは、マシンOBOROの正面にワームホールを出現させて、落雷が到達する前に飛び込んだ!そして、天逆毎の真横に、脱出用のワームホールが発生!


「ひゃひゃひゃ・・・悪あがきにもならなかったわね。」


 天逆毎は、空いている方の手をワームホールに向けて、別のワームホールを出現させる!


「ワザワザ手を伸ばさなくても、オヌシを排除する方法なんて、幾らでもあるの。」


 ワームホールから飛び出した直後のマシンOBOROが、天逆毎の作ったワームホールに飛び込んでいく。あとは、奥義・雷槍の射程圏内に、出口を作ってやるだけで、EXザムシードの息の根を止められる。


「・・・なに?」


 だが、出現して封殺されたのはマシンOBOROのみ。EXザムシードが乗っていない。


「おぉぉぉっっっっっっっっ!!!!」


 次の瞬間、天逆毎の真下から気勢が発せられ、同時に、強烈な痛みが突き刺さる!


「あぐぁぁっっっっ!!!」


 天逆毎は、真下から飛び上がったEXザムシードの妖刀で貫かれていた!


「な、なんで・・・?」

「空間転移をしたのは、OBOROだけなんだよ!

 オマエの懐に入るには、ワームホールを利用するしかない!

 だけど、俺が空間転移をする必要は無いってことさ!」


 EXザムシードは、マシンOBOROが作ったワームホールに突っ込む直前で、マシンOBOROから離脱をしたのだ。マシンOBOROを接近させたのは、ミスリードを誘う為。


「バ、バカな・・・

 ワームホールに逃げなければ、私の雷槍に焼かれたはず・・・。」

「一撃必殺すぎて、今まで、攻略されたことが無かったんだろうけどさ、

 俺は、最初の惨敗で、安全圏を見付けていたんだよ!」

「チィ・・・大技すぎるのも・・・考え物ね。・・・・・・ぐはぁ!」


 一度目の対決で雷槍が発動された時、射程圏の全方位に致命傷を負わせるはずの攻撃が、発動者の天逆毎には及んでいなかった。どの程度の範囲かは解らないが、天逆毎の立つ領域だけは、雷槍の被害を受けない。発動者まで死に至らしめる奥義など論外なのだから当然だろう。

 つまり、浮遊する天逆毎の真下は安全圏。あとは、天逆毎の注意が真下に向かないように揺動して、隙を突いて攻撃をするのみ。


「み、見事・・・だ。

 オヌシは、最初から、この一撃だけを狙って、

 私を空に飛ばし、雷槍を撃たせ、ワームホールを作らせ・・・た?」

「いや・・・それは買い被りすぎ。

 そこまでは考えてねーから、そんな高評価されると恥ずかしくなる。

 ‘オマエの真下は安全かもしれない’以外は、全部、咄嗟に考えた。」


 EXザムシードが握る妖刀の柄には、白メダルがセットしてある。急所を貫かれた天逆毎の全身から、闇の蒸発現象が発生。


「ひゃひゃ・・・ひゃ・・・佐波木燕真。私を倒した男・・・強い男は好みじゃ。

 もし、来世で知り合うたら・・・存分に愛し合おうぞ。」


 なんか、『死に際だけ良いヤツになるパターン』が発動中っぽいけど、EXザムシードは惑わされない。


「お断りだ!そんな約束をしたら、紅葉に怒られかねない!

 ・・・もし、秘書(迫天音)の姿で同じことを言われたら、迷いそうだけど。」

「つれない・・・のう。ひゃひゃ・・・ひゃ・・・」

「もし、オマエに来世があるなら、

 先ずは、億単位の被害(車百台以上が大破)を何とかしてくれ。」

「ひゃひゃひゃ・・・ひゃ~っひゃっひゃっひゃ。」

「あっ!おいっ!!」


 天逆毎は、完全に闇霧化をして、白メダルに吸収されて消える。最後は、強制的に吸収されたのか、弁償を拒否して自分から吸収されに行ったのか、よく解らなかった。


「さて・・・紅葉達は、大武COOと交戦中だろうな。急がなきゃ!」


 道路の対面側にある鎮守の森公園側を見詰めるEXザムシード。マシンOBOROに跨がって向かおうとしたら、背後(ショッピングモール建物内)から、強烈な妖気が発せられる!


「今度は、なんだっ!?」


 屋上を突き破り、10mほどの妖怪=大太郎法師が出現!建物内では、派遣隊C班が、大平法次を拘束していた・・・が、失敗をした。大平法次は、身長10mの大太郎法師に姿を変えて、屋上によじ登って不気味な咆哮を上げる!派遣隊C班が対処をしているが、足止めもままならない!駐車場の炎上に怯えて店内に避難をしていた客達が、今度は、一斉に店の外へと避難をする!


「さすがに・・・この状況で、無視はできないよな。」


 EXザムシードが屋上に向かおうとした、その時!


「燕真!コイツは俺達に任せろ!!」

「フッ!ようやく出番が来たぜっ!」


 2人の妖幻ファイターが乱入してきた!片方が左肩に装備された車輪型のブーメランを大太郎法師目掛けて投擲!もう1人は、銃から光弾を連射!


「田井さんっ!」


 片方は、燕真が良く知る‘頼れる先輩’の妖幻ファイタータイリン(田井弥壱)。もう片方は、よく解らない。


「なんで田井さんが!?」

「説明すると長くなるが、色々あってな!

 ようやく、イジメみたいな任務じゃなくて、退治屋らしい任務が解禁された!」

「助けてやるんだから、ありがたく思えよ!地方のボンクラめ!

 エリートの俺が前線に立ってやるなんて、滅多に無いんだぞ!」

「あ・・・ああ・・・どうも。」


 もう片方の妖幻ファイターの態度から、中身が誰なのか、ザムシードは把握した。だけど、あまり興味が無い奴だったので、なんて名前だったか思い出せない。高木だっけ?高槻だっけ?それとも三菱だっけ?


「ここは任せますよ、田井さん!未来の管理職候補さん!」

「おうっ!」 「フッ!任せたまえ!」


 軽く手を振ってから、大太郎法師に突進をしていくタイリン!もう1人の妖幻ファイター(高菱)は、ザムシードの「未来の管理職」と言う言葉に気分を良くしたらしく、勇ましくサムズアップをして、ザムシードを見送る。ちなみに、高菱凰平が変身している姿の正式名称は、『妖幻ファイターエリート』。命名者は本人だ。


「あ~ゆ~イケ好かない奴って、だいたい死ぬのがお約束なんだろうけど、

 アレの場合はマヌケすぎるから、フラグ折って、生き残りそうだな。」


 ザムシードは、タイリンとエリートに一礼をしてから、マシンOBOROに跨がり、鎮守の森公園へと向かう!




-数分前・鎮守の森公園・中央-


 ヤマハ・MT-10に乗った雅仁、闇霧に乗った紅葉が到着。紅葉が降りた闇霧が茨城童子へと姿を変える。


「ほぉ・・・辿り着いたのは3名か。」


 亜弥賀神社前の石段には、退治屋COO・大武剛が腰を降ろし、たった1人で立ち構えていた。


「迫君(天逆毎)は、1人(燕真)しか足止めできなかったのか?」


 天逆毎で足止めをして、且つ、大太郎法師が出現をすれば、酒呑一派(紅葉達)はともかく、ガルダは町の防衛に専念して、来ることが出来ないと予想していた。だが、「時間稼ぎ」を見抜かれ、大太郎法師の出現前に、この地に乗り込まれてしまった。


「俺の思考を見抜いたのは、同族の茨城童子・・・かな?

 酒呑(紅葉)と狗塚の当主が手を結んだのは、些か想定外だ。

 誇り高き鬼族が、人間如きに・・・・・」

「おぉぉぉっっっっっ!!!大嶽丸っっ!!」


 大武が、まだ喋っている途中にもかかわらず、茨城童子が指先から鋭い鬼爪を伸ばして突進!


「んぇっ?ラスボスの話、聞かないの!?

 こ~ゆ~のって、話聞いて、悪いことしてる目的を教えてもらって、

 そ~ゆ~のゎ、許せないって言って、ラストバトルになるんぢゃないの?」


 茨城童子の鬼爪が、問答無用で、大武の胸を貫いた!


「むぅっ!?」


 だが、茨城童子が貫いた大武は霧散して消え、鳥居の下に立つ大武が話を続ける。


「誇り高き鬼族が、人間如きに飼い慣らされるとは思いもしなかった。

 だが、まぁ、この際どうでも良い。」


 分身?幻影?茨城童子だけでなく、雅仁と紅葉も、大武が喋り出すまで、鳥居の下の大武に気付けなかった。


「封印破壊の贄となる者が2人。どちらかを潰せば、俺の目的は果たされる。」

「大嶽丸っっ!!!」


 茨城童子は、鳥居下の大武に突進をして鬼爪を振るうが、大武は再び霧散。


「多少の想定外があっても、贄が来てくれれば、それで充分だ。」


 いつの間にか、紅葉の真後ろに大武が立っていた。紅葉に向けて大武が伸ばした手を、雅仁が掴む。


「大武COO!・・・いや、大嶽丸!オマエの思い通りにはさせん!」


 雅仁の手には、大武の腕を掴んでいる感触がハッキリとある。しかし、次の瞬間には大武は霧散して、今度は亜弥賀神社の屋根の上に立っていた。

 屋根の中心には、一般人には見えない光の柱=封印の結界が、天に伸びて聳え立っている。大武は、封印結界を背にして、雅仁&紅葉&茨城童子を見下ろす。


「その小娘(紅葉)を贄にして、封印結界を1つ破壊できれば上首尾

 ・・・くらいのつもりだったんだがね。

 君達が過剰反応をしてくれたおかげで、兵を動かしやすくなって、

 4結界のうちの3つを破壊できた。

 あと1つ、この場にある結界を破壊すれば、

 人間界は、我が故郷(地獄界)と繋がる。

 マヌケな君達には、礼を言わねばなるまいな。」


 大武が気合いを発すると、全身から闇が沸き上がって、ただでさえ大柄な体が、一廻りほど大きくなる!着ていたスーツは千切れ、肌は青黒く変化!下半身は草摺(鎧の腰回り)と腰布に覆われ、上半身は肉体美を自慢するかのように露出される!髪は逆立ち、頭部に大きく鋭い角が出現!鬼神・大嶽丸が姿を露わにした!


「幻装っ!」

「覚醒っ!」


 雅仁が、ガルダに変身!紅葉が、鬼女魍紅葉に変化!既に臨戦態勢の茨城童子と共に、大嶽丸に向かって身構える!・・・が、既に、神社の屋根上に、大嶽丸の姿は無かった!


「んぇっ!?後っっ!!」


 真後ろに、嫌な気配を感知する魍紅葉!いつの間にか、大嶽丸は魍紅葉の後ろに回り込んでいた!その身長は魍紅葉の1.5倍はある!魍紅葉が振り返るよりも早く、大嶽丸の巨大な手が、魍紅葉の頭部を鷲掴みにして地面に叩き付けた!


「んげぇぇっ!」

「ぐっはっは!感知を出来ても、対応できなければ意味が無い!」

「紅葉ちゃんっ!」 「姫様っっ!」


 魍紅葉から大嶽丸を遠ざける為に、鳥銃を向けて光弾を連射するガルダ!だが、直後に、大嶽丸は霧散!光弾は、同一放線上で接近をしていた茨城童子に着弾!茨城童子は弾き飛ばされて地面を転がる!大嶽丸は、同士討ちを誘い出したのだ!


「しまったっ!」


 直後に、いつの間にかガルダの眼前に立っていた大嶽丸が、拳を振り下ろした!


「くっ!」


 慌てて両腕をクロスさせてガードするガルダ!大嶽丸の力業は、ガードなどお構い無しに、ガルダを地面へと叩き付ける!


「所詮は人間。

 優秀とは言っても、俺の移動を的確に感知することはできぬようだな。」


 戦闘開始から僅か数秒で這いつくばるガルダ&魍紅葉&茨城童子。鬼神が、ただの「脳筋」や「露出狂」ではないことを思い知る。


「奴(大嶽丸)が、一筋縄では倒せないことくらいは、ハナから覚悟している!」


 ガルダは、Yウォッチから金色メダルを抜いて、ベルトの五芒星バックルに装填!Hガルダ(ハイパーガルダ)にフォームチェンジ!妖槍を装備して、柄に属性メダル『風』をセットして、大嶽丸に突進する!


「はぁぁっっっっっ!!!」


 風の力を纏った突きが、目にも止まらぬ速さで、大嶽丸目掛けて繰り出される!奥義・サハスラブジャ(千手観音)発動!


「ふんっ!パワーアップの時間を傍観してやったのに、この程度か!?」


 サハスラブジャは、風属性で攻撃力を高めた伸縮をする穂先を、無数に打ち込む奥義。しかし、一突き目で見切られて、柄を掴まれてしまう。


「おぉぉぉぉっっっ!!」


 大嶽丸の背後から、鬼爪を振り上げた茨城童子が襲いかかる!大嶽丸は、茨城童子との間合いを計りながら、冷静に周囲を見廻して、魍紅葉が邪今剣(小刀)を構えたまま待機をしているのを確認した。


「なるほど・・・

 俺が消えて次に出現する場所を、感知力の高い小娘が攻撃する・・・か。」


 大嶽丸は、妖気を発して、空いている方の手に両刃の大斧=戦斧・鬼斧一鐸(きふのいちだく)を出現させる!


「だが、回避のみのワケが無かろう!」


 掴んでいたHガルダの妖槍から手を離し、体を軸に戦斧・鬼斧一鐸を一回転させる大嶽丸!刃から妖気の刃が発せられて、Hガルダと茨城童子に着弾して弾き飛ばした!


「まさっちっ!茨城ドージっ!」


 近くに転がってきたHガルダに、魍紅葉が駆け寄る。


「ダイジョブ、まさっち?」

「紅葉ちゃん、スマナイが、数秒程度、奴の注意を引き付けてくれ!」

「んっ!リョーカイっ!」


 邪今剣(小刀)を振り上げて、大嶽丸目掛けて突進をする魍紅葉!

 それを見た茨城童子は、「狗塚には何か策がある?」「姫を戦わせるなどけしからん!」という2つの意図から、「姫様の代わりに私が気張る!」という結論を導き出して、大嶽丸への再突進をする!


「はぁぁっっっ!!」


 茨城童子が掌を翳して、大嶽丸の周りに漂う妖気を掌握!妖気乱舞発動!衝撃波が大嶽丸に襲いかかる!


「ふん!下らぬ!」


 しかし、大嶽丸の一気合いで衝撃波は掻き消されてしまう!


「んぉぉっっっっ!!!」


 大嶽丸に接近した魍紅葉が邪今剣を振るうが、小柄な魍紅葉が振るう小刀ではリーチが短すぎて、大嶽丸には全く届かない!


「貴様(魍紅葉)を叩き潰せば、我が目的は達せられる!」


 妖気を込めた戦斧を振るう大嶽丸!魍紅葉は回避が精一杯で、大嶽丸の懐に飛び込むことが出来ない!


「んぁぁっっ!!イライラするっっ!!」

「姫様っ!お下がりくださいっっ!!」

「んぉっ!?」


 蒼玉剣を構えた茨城童子が突っ込んできた!一突き与えることが出来れば、対象を蒼玉結晶に閉じ込める一撃必殺の剣だ!


「ほぉ・・・さすがは、酒呑軍の副将だ!」


 瞬時に蒼玉剣の危険性を感じ取った大嶽丸は、向かってくる茨城童子に対して、渾身の妖気を込めた戦斧を振り下ろした!戦斧と激突した蒼玉剣が、粉々に砕け散る!


「なにっ!?」


 更に、振り返りざまの回し蹴りを、踏み込んできた魍紅葉に叩き込む!


「んわぁぁっっ!!」


 魍紅葉と茨城童子が時間稼ぎをしている間に、Hガルダが必殺技の準備を完了させた!アカシックアタック発動!流星と化したHガルダが、大嶽丸に突っ込む!


「うおぉぉっっっ!!」


 しかし、完全に捕らえたと思っていた大嶽丸は、霧散して消滅。アカシックアタックは空振りに終わり、標的を見失ったHガルダは、流星化を解除して、動揺した様子で大嶽丸を探す。


「これほどとはっ!」 「ん~~」 「くそっ!」


 ガルダの奥義も、茨城童子の奥義も、大嶽丸には全く通用せず。魍紅葉に至っては、奥義の類いは持ち合わせていない。消耗をするだけで、勝ち筋が全く見えない状況に、Hガルダ&魍紅葉&茨城童子は意気消沈する。


「戦意喪失か?ならば、そろそろ終わらせてやろう。」


 いつの間にか、上空で大嶽丸が浮遊をしている!独鈷印(左右の手を組んで人差し指を立てる)を組んで念じると、頭上に赤雲が出現!


「地獄の炎で焼け死ね!」


 赤雲から火の雨が発せられて、辺り一面に降り注いだ!


「くっ!無差別攻撃かっ!!」

「姫様、私の後に身を隠して下さい!」


 茨城童子の背に隠れる魍紅葉!Hガルダは妖槍で、茨城童子は鬼爪で、無数に降り注ぐ火の雨を弾く!しかし、一つ一つの攻撃が重い!火の雨を受け流す度に、手の痺れが増す!


「このままではっ!」 「拙いっ!」


 ダメージを受けていないのに、体力が削られていく!周りに落ちた火が燃え盛る!

 凌ぎきれなくなってきたHガルダが、片膝を付きながら辛うじて応戦をする。茨城童子は、「姫様をどう退避させるか?」を考えていた。

 その射程圏内にいる者は、火の雨に貫かれるか、炎の海で焼け死ぬか、どちらかしか残されていない!

 全滅は時間の問題かと思われた、その時!


「それの攻略は、俺に任せろっっ!!」

「ん?佐波木かっ!?」 「んぇっ?燕真っ!!」


 マシンOBOROを駆るEXザムシードが、炎の雨に突っ込んできて、猛スピードでHガルダと魍紅葉の脇を通過!大嶽丸の真下で、妖刀を構え、バイクを足場にして飛び上がった!


「真下はガラ空きなんだよっ!」

「なにっ!?」


 上空の大嶽丸は、独鈷印を解除して、戦斧を構えて迎撃態勢になる!


「うぉぉぉっっっっっっっっっ!!!」


 EXザムシードの振り上げた妖刀と、大嶽丸の振り下ろした戦斧が激突!空中では地の利が得られないEXザムシードが、地面に叩き落とされた!


「うわぁ~~~~・・・颯爽と登場したワリには・・・」

「カッコわるぅっ!」

「だが、姫様・・・良く見て下さい。」


 茨城童子に促されて、大嶽丸を見上げるHガルダと魍紅葉。大嶽丸には浅い裂傷があり、闇が蒸発するように上がっている。


「大嶽丸がダメージを受けた?」 「燕真がやったってこと?」

「腹立たしいが・・・あの凡俗の一撃が、大嶽丸に傷を負わせたのです。」


 浅い裂傷を妖力で回復させ、真下のEXザムシードを睨み付ける大嶽丸!


「なぁ、紅葉?」

「んぁっ?」


 EXザムシードは、立ち上がりながら、背中越しに魍紅葉に声を掛ける。


「主人公が遅れて登場して、仲間達のピンチを数ってパターン・・・

 お約束過ぎて、ちょっと恥ずかしいんだけど、もうラストだから良いよな?」

「安心してっ!

 ど~せ、いつも恥ずかしいんだから、

 チョットくらい恥ずかしいのが増えたって変わらないよ。」

「俺は気を使って謙遜をしているんだ!

 恥ずかしくない!格好良いと言え!」


 上空の大嶽丸を睨み付けるEXザムシード!最後の戦いが始まる!

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