第40話・反逆者
-鎮守の森公園-
粉木と砂影がベンチに座っている。粉木の表情は、相変わらず曇ったままだ。
「まだ決めかねているの?」
「ああ・・・そやな。」
若い連中は、自分自身を信じて動いている。慎重な雅仁は、「後先を考えない無謀な行動」はしないだろう。戦力外の佑芽が出来る「無謀な行動」など、「子供の背伸び」の域を出ない。問題は燕真だ。彼の「紅葉の為に反発する」気持ちは理解できるが、彼の行動が「退治屋にあるまじき行為」として、問題視をされる可能性は高い。
未来ある若者を守ってやるには、どうするべきか?どう尻ぬぐいをしてやるべきか?若者達の暴走に荷担する同罪の立場では、彼等を守ることができない。
「・・・来たか。」
気配と妖気を感じたので顔を上げたら、源川有紀と氷柱女が立っていた。
「ついに、この時が来てしまったのね。」
「やれることは全てやるつもりや。
だが、ワシが守るべきは平和であり、個人的に最も守りたいのはアホ弟子や。
やれることは全てやるけど、力及ばんと、取り零してまうかもわからん。」
「避けては通れないんでしょうね。
紅葉を粉木さんに預けた日から、
どんな結果になっても、粉木さんを支持する覚悟はできているわ。」
粉木は悲痛で表情を歪ませ、有紀は寂しそうに空を見上げる。彼等が明確な言葉を発さずとも、砂影と氷柱女は、彼等が何を考えているのかを理解した。
-YOUKAIミュージアム-
店の入口には「CLAUSE」の看板が下げてあり、店内には田井弥壱と高菱凰平だけが残っている。十数分前に粉木が出て行ったが、監視役の砂影が同伴したので、問題は無いだろう。
「なぁ、高菱君。」
「なんだ、田井君。」
高菱より田井の方が歳上で、退治屋歴でも先輩なのだが、エリート意識の強い高菱は、田井を見下しているので、敬語を使う気が無い。
「俺、君には期待しているからさ。手柄を稼いで、早く幹部になってくれよな。」
「おおっ!君、見る目があるな!
俺が幹部になった暁には、俺派の一角として、本部直轄に引っ張ってやるよ!」
「そりゃどうも。楽しみにしているよ。」
田井は、表面的には期待する素振りを見せて高菱をおだてているが、内心では「管理能力がザル」「コイツの部下に成れば、何をやっても気付かれないだろうな」と考えていた。
田井と高菱の任務は、文架支部の監視。現在、燕真&雅仁&佑芽は、ザルの監視網から脱出をしており、店内には、監視者が2人残っているだけで、監視対象は誰もいない。しかし、高菱は「そのうち戻って来る」と楽観視をしている。
何で、こんな奴が、本部に所属をしてエリート面をできるのだろうか?偉い人のコネでもあるのかな?田井は不思議で仕方が無い。
-優麗高-
EXザムシードが妖刀オニキリを構え、牛鬼と対峙。紅葉と麻由は、不安な表情で戦いを見守っている。
「燕真っ!」 「佐波木さんっ!」
「心配すんな!オマエ等は、自分の安全だけを考えてろ!」
牛鬼の武器は、六本の足爪から繰り出されるパワーと、口から発せられる大型火炎弾、そして、厄介な再生能力。エクストラのパワーでも、正面からぶつかれば、ジリ貧は確定だろう。おまけに、結界に閉じ込められて、逃亡は不可能。
「出し惜しみをする余裕は無さそうだな。」
裁笏ヤマに填めてある『斬』メダルを外して妖刀オニキリにセット。新たに、『閃』メダルを裁笏ヤマにセット。刃が鋭利に変化した妖刀と、光の刃を発した裁笏の2刀流を構え、牛鬼に向かって行く。
「ブモォォォォッッッッッッッッッッッ!!!」
牛鬼は、口から大型火炎弾を発射!EXザムシードは、避ける素振りを一切見せず、牛鬼に突っ込んだ!
「うおぉぉっっっっ!!」
火炎弾の直撃を受けるが、お構い無しに突進を続ける!回避で攻撃タイミングを狂わされるよりも、ダメージ覚悟で踏み込んで、早期決着を付けた方がマシ!
EXザムシードの妖刀と、牛鬼の振り下ろした前足がぶつかる!鋭利な刃が牛鬼の右前足を切断!EXザムシードは、そのままの勢いで妖刀を振るって、牛鬼の左前足も切断!牛鬼が中足で応戦する為に体を持ち上げた瞬間に、裁笏から伸びた光の刃で牛鬼の腹の真ん中を貫く!
「ブモォォォォッッッッッッッッッッッ!!!」
「まだまだぁっ!!」
前足2本の切断も、腹への一撃も、次の攻撃に繋げる為の準備!牛鬼が痛みで動きを止めた一瞬を狙って、妖刀オニキリで首を斬り落とした!
「これで終わりだぁっっっ!!」
EXザムシードは、素早く数歩後退して、Yウォッチから白メダルを抜き取り、ブーツのくるぶし部にある窪みにセット!EXザムシードの周りに、炎の絨毯が広がる!・・・だが!
「ブモォォォォッッッッッッッッッッッ!!!」
牛鬼の首が飛び上がって、口から大型火炎弾を発射!
「なにっ!?」
エクソシズムキックの体勢を整えようとしていたEXザムシードに火炎が着弾をして弾き飛ばす!更に、前足を再生させた牛鬼の胴体が跳び跳ねて、倒れているEXザムシードの上に降ってきた!
「マズいっ!!」
EXザムシードは、慌ててネックスプリングで飛び起き、辛うじて、妖刀を振るって牛鬼の胴体を両断!真っ二つにされた牛鬼の胴体が、EXザムシードの左右に落ちた!
「・・・あ、危なく押し潰されるところだった。
首を切ったのに動くなんて有りかよ?」
溜め無しで反射的に動いた為に、息が切れて、その場に片膝を落とすEXザムシード。まだ、空飛ぶ首が残っているので戦いは終わっていないが、呼吸を整えるくらいの時間は欲しい。
「燕真っ!直ぐ離れてっっ!!ソイツ、ぜんぜん弱ってないっっ!!!」
「えっ!?」
EXザムシードの左右に転がっている割れた胴体が起き上がり、磁力でも発しているかのように引き寄せられる。慌ててヘッドスライディングで飛び退くEXザムシード。直後に、胴体が接合された。もし、紅葉が声を発していなければ、今頃は胴体に挟まれて‘牛鬼の一部’になっていたのだろうか?
「・・・あ、危なかった。」
更に、空飛ぶ首も定位置に戻ってしまう。これで、両前足切断、斬首、腹刺突、胴体両断、全部「無かったこと」にされてしまった。残ったのは、火炎弾に突っ込んだEXザムシードのダメージのみ。
「おいおい・・・無敵は反則だろ?」
「ブモォォッ!オマエの機転で俺を切ることができたワケではない!
切られても不都合が無いので、切らせてやっただけだ!」
「ムカ付くっ!」
かなり気合いの入った攻撃を仕掛けたつもりだった。牛鬼を弱らせて、エクソシズムキックで倒して終わらせる予定だった。だが、牛鬼は、いくら切ってもノーダメージ。存分に動き回れる妖怪にエクソシズムキックを発動させても、確実に回避されるだろう。こんな奴、どうやって倒せば良いのか、見当も付かない。
「ブモォォォッッッ!!!」
たぎる牛鬼が襲いかかる!振り回される前足、燃え盛る火炎弾、容赦の無い攻撃を、ザムシードは避け続ける!
先程の、攻勢で体力を消耗させてしまった為、回避以外の選択肢を見出せない。少しでも光明があれば気合いで補えるのだが、あれだけ攻撃してノーダメージでは、消沈気味の意気を回復させることすら難しい。
「・・・燕真、ちょっと、ヤバぃかも。」
EXザムシードの劣勢は、紅葉と麻由が見ても明らかだった。
「直ぐに治っちゃうなんてズルぃ。あんなヤツ、どーやって倒せばイイの?」
「あの・・・何処かに弱点は無いのでしょうか?・・・例えば頭とか?」
「んぉ?アタマ?弱点?ど~ゆ~こと?」
「体のダメージは直ぐに再生しました。でも、頭の場合はどうなんでしょう?」
足を切っても、直ぐに次が生えてくる。胴を切っても、直ぐに結合する。斬首のあと、頭は直ぐに飛び上がって火炎弾で攻撃してきた。それは、一見すれば「頭だけでも自由自在に動き回って攻撃できる」なのだが、見方を変えれば「頭だけが安全圏に逃げて、攻撃されないように牽制をしていた」と解釈できるのではないか?それが、麻由の考えだった。
「んぉぉっ!ありそうっ!!マユ、頭イイねっ!」
「的外れな予想かもしれませんけどね。
紅葉さんが‘一理ある’と仰って下さるなら、試してみます。」
「んぇっ?」
牛鬼は「消耗したザムシードを仕留めるチャンス」と考えて猛攻を仕掛けている。裏を返せば、EXザムシードとの戦いのみに集中をしており、紅葉や麻由を眼中に入れていない。
怖いが、ただ見ているだけなんて出来ない。ザムシードに全てを委ね、ザムシードが倒れたら自分達の命運も尽きるなんて嫌だ。麻由は地面に落ちていた弓と矢を拾い上げ、牛鬼に向けて構える。
「一矢に想いを乗せる技術ならば、誰にも負けるつもりはありません。」
深く呼吸をして気持ちを落ち着け、弓を押して弦を引き、動き回る牛鬼の頭を鏃で狙い、集中力を高める麻由。
「・・・マユ。」
紅葉は、麻由の周りだけが静寂に包まれたような錯覚をする。紅葉の常識では、ただの弓矢が、妖怪に効くわけが無い。麻由は、妖怪の強さを解っていない。だけど、行射の構えをする麻由が妙に格好良く見えて、「もしかしたら攻撃が効くんぢゃね?」と思えてしまう。
「よくワカンナイけど、なんかスゲー。」
麻由の手から放れた矢が、勢い良く飛んで、見事に牛鬼の頭に命中!ただし、突き抜けるとか、突き刺さるとか、そ~ゆ~のは一切無し。矢は牛鬼の硬い皮膚に弾き返されて地面に落ちた。
「ありゃ?全然効かなかったね。」
「・・・そ、そうですね。」
しかも、全然効かないならスルーしてくれれば良いのに、牛鬼は今の矢を「挑発行為」と解釈したらしく、EXザムシードへの攻撃を止めて、顔を紅葉&麻由の方に向けて、巨大火炎弾を吐き出した!
「げげっ!ヤバいっっ!!」
「きゃぁぁっっっ!!」
紅葉と麻由は、標的がザムシードから自分達に変わるなんて想定していなかった。迫る火炎弾に対して立ち竦む!
「させるかぁっ!」
EXザムシードが火炎弾との間に割って入って、紅葉と麻由を庇う!EXザムシードの背中に火炎弾が着弾!弾き飛ばされるEXザムシード&麻由!爆風に煽られて地面を転がる紅葉!麻由は、地面に打ち付けられた衝撃で意識を失う!
「ブモォォォッッッ!目障りだ!潰れろっ!!」
飛び上がり、EXザムシード&麻由目掛けて落下をする牛鬼!このまま伸し掛かられたら、麻由が圧死をしてしまう!立ち上がったEXザムシードが、落ちてきた牛鬼を受け止めた!
「がはぁっ!!」
重みに耐えきれず、牛鬼を受け止めたまま、地面に片膝を付くEXザムシード!根性で持ち上げ続けるが、力尽きて諸共に潰されるのは時間の問題だ!
「紅葉っ!葛城さんを安全圏に引っ張り出してくれ!」
「燕真っ!!」
指示に従い、麻由の救出に向かう紅葉。だが、助けても、その場しのぎにすらならない。結界に閉じ込められた状況下では、ザムシードが力尽きた時点で、紅葉と麻由の命は終わる。麻由だけではなく、ザムシードも救わなければならない。
駆ける紅葉の視野の片隅に、麻由が使った弓道具が映る。紅葉は反射的に進行方向を変え、弓と矢を拾い上げた。
「紅葉・・・いったい、なにを?」
見様見真似で弓を構えて、鏃を牛鬼に向ける紅葉。妖怪に矢が効かないのは証明済み。紅葉は弓道未経験。EXザムシードには、その行動が‘焼け石に水’以下にしか見えない。
「もう保たない!サッサと葛城さんを退かしてくれ!」
「燕真が保たないんぢゃ、マユを助けても意味が無いのっ!」
「だ、だからって、押し潰されるのを待つつもりかっ!?」
EXザムシードの要求は理解できる。少しでも命を永らえれば、次の「助かる為の選択」を考えられるが、潰れてしまったら、それで終わり。
紅葉自身、初めて触る弓道具で事態を打開できるなんて考えていない。だけど、無意識に拾って、本能の赴くままに構えていた。
(自分を信じるんだ。)
「んぇ?」
(弓を降ろすのぢゃ。本能に負けたら、引き返せなくなるぞよ。)
「誰の声?2人いる?」
紅葉の耳に、男性と女の子の声が聞こえる。紅葉には、その声が‘周り’ではなく‘自分の中’から発せられているように感じた。
・
・
・
「ど~なってるの?」
中庭に居たはずの紅葉は、真っ暗な空間に立っていた。目の前では、青年男性と、煌びやかな着物を着た少女が、向かい合わせで立っていた。紅葉は直感で「2人が人間ではない」と把握する。
何故だろうか?紅葉は、青年男性に懐かしさを感じる。初めて見る人なのに、何度も助けてもらった気がする。
何故だろうか?額から角を生やした少女は、自分と同じ顔をしている。
「ふざけるな、酒呑童子!
ワラワが、人間の生の望んでいることを知らぬワケではあるまい!」
酒呑童子と呼ばれた青年は、紅葉がイメージする「おっかない鬼の総大将」とは違いすぎる。
「知っているさ。
だが、人間であり続けることに拘れば、オマエの希望は、ここで終わる。
今必要なのは、自体を打破する力だ。」
「それが、余計なお世話と言っておるのぢゃ!
オヌシが度々シャシャリ出て、人を越える力を紅葉に使わせた所為で、
面倒な奴等(退治屋)から眼を付けられてしまったのぢゃからな!」
「オマエはそれで良いのか?
紅葉が俺の力を発揮せねば、数ヶ月前に、燕真君は闇に食われて死んでいた。
そして、今も風前の灯火だ。
力を出し惜しみすれば、オマエと燕真君の命運は尽きる。」
「だが・・・それでは、ワラワの求める人間の生が・・・。」
「妖怪が人間として生きるには覚悟が必要。
決して、簡単ではないってことさ。」
「・・・ぬぐぐぐ。」
反論を失う紅葉似の和装少女。青年は紅葉の方に視線を向ける。
「やぁ、紅葉。こうして向かい合うのは、これが初めてかな?」
「・・・オマエ、誰?」
「ずっと、君に寄り添い続けていた者さ。」
「・・・ずっと?」
「だけど、今は‘涙のご対面’を楽しんでいる時ではない。」
「・・・泣いてね~し。」
紅葉は、質問をはぐらかされ、且つ、心を見透かされているように感じる。誰なんだろう?母とは少し違うんだけど、同じような優しい目で紅葉を見つめていた青年の表情が、真顔に変化をする。
「燕真君や、友人(麻由)と一緒に、ここで人間としての生を終えた方が、
人間らしさを望む君にとっては、楽なのかもしれない。
状況打破の先には、おそらく、酷な道が待っているだろう。
分厚い壁の前で立ち止まるのか、引き返すのか・・・
それとも、乗り越えるか・・・
どちらの道に進むか・・・選ぶのは君だ。」
「んぇっ!?」
・
・
・
我に返る紅葉。青年や自分似の少女と共に真っ暗な空間は消え、目の前には牛鬼に押し潰されそうになりながら持ち上げるEXザムシードと、倒れている麻由が居て、自分は弓矢を構えている。
「よくワカンナイけど・・・みんなで死んで終わりなんてイヤだ!
ァタシゎ先に進みたい!ぶ厚い壁があるならブチ破る!」
(茨の道ぢゃぞ。後悔せぬか?)
「燕真が一緒に居てくれれば、どんなトゲトゲの道でも、怖くないっ!!」
(・・・ワカッタ。ならば、思うままに進もうぞ。)
紅葉の全身から妖気が放出される!ブレザー姿から、煌びやかな着物姿に変化!頭に2本角が出現!瞳が紅く染まる!
発せられている妖気が、腕を伝って弓矢に流れ込み、上位妖力となって鏃に凝縮されてる!
「ブモォォッ!?・・・これは、鬼力!!?」
「紅葉が変身した!?どうなっているんだ!?」
牛鬼は紅葉の発する上位妖力=鬼力に驚く。
「燕真っ!ソイツの顔を、こっちに向けてっ!!」
麻由は、「牛鬼の弱点は頭」と予想した。改めて考えると、頭を狙われた牛鬼は、あきらかに過剰反応をして、麻由への攻撃をした。麻由の予想は当たっているように思える。
「うおぉぉぉぉっっっっっっっっ!!!」
今までも、紅葉の突飛な発言が状況を打破することは度々あった。打開策を見出せないEXザムシードは、紅葉を信じ、渾身を振り絞って体を捻り、持ち上げている牛鬼を、紅葉が狙いやすい方向に向けた!
「んおぉぉぉぉっっっっっっっっ!!!」
次の瞬間・・・
鬼力を纏った矢が紅葉の手から放れた。
矢は呻りを上げて飛び、牛鬼の眉間に突き刺さる。
「ブモォォォォッッッッッッッッッッッ!!!」
ただの矢ではない。鬼力を纏った矢だ。牛鬼は、悲鳴を上げながらザムシードから離れ、眉間に刺さった矢を抜こうとする。
「酒呑童子の残りカス」と侮っていたのが間違いだった。小娘は、気合い1つで、子妖十数匹を無力化し、背に牛鬼の爪が直撃したのに掠り傷しか負わず、玩具の矢一本で牛鬼に致命傷を喰らわせた。それは間違いなく、酒呑童子そのもの。
「何をしてもダメージを受けなかったのに、
矢一本で苦しんでる?どうなっているんだ?」
解放されたEXザムシードは、地に片膝を付いたまま息を整え、藻掻いている牛鬼に視線を向けた。
「燕真っ!ソイツの弱点ゎ頭だよっ!頭をブチ抜いてっっ!!」
「そういうことか!サンキュー、紅葉!」
EXザムシードのブーツには、白メダルがセットされたままになっている。気勢を発すると、右足が赤い光を纏い、同時に牛鬼との間に炎の絨毯を発生。牛鬼に正面を向け、ゆっくりと腰を落として身構える。
「・・・閻魔様の・・・裁きの時間だ!」
標的を睨み付けるEXザムシード!炎の絨毯を力強く踏みしめながら突進!
「ハァァァッッ!!」
踏み切った場所の炎が一際大きな火柱となり、EXザムシードの跳躍を後押しする!空中で一回転をして牛鬼の顔面に向けて右足を真っ直ぐに突き出すEXザムシード!
「うおぉぉぉぉっっっっっっ!!!
エクストラ・エクソシズム・キィィーーーッック!!!」
朱く発光したEXザムシードの右足が、牛鬼の顔面を粉砕して胴体を突き破った!
「ブモ・・・ォ・・・ォ・・・ォ・・・
何故・・・退治屋のオマエが・・・酒呑童子の救出を・・・?」
EXザムシードは、振り返って、風穴の空いた牛鬼を睨み付ける。
「酒呑童子じゃない。俺は紅葉を救出したんだ。」
「その小娘が・・・酒呑・・・」
「紅葉は紅葉だ!」
「ブモ・・・ォ・・・ォ・・・ォ・・・・・愚か・・・なり。」
牛鬼は、最後の力を振り絞って、光を放っている封印の結界に自分自身を捧げるようにして、両前足を伸ばした。
「大嶽丸様、申し訳ありません!・・・だが、封印は、我が命を贄にして・・・。」
牛鬼は、黒い炎を上げて爆発四散をした!撒き散らされた黒い霧のような物は、光の柱に群がって破壊!役割を終えた黒い霧は、1ヵ所に集まり、EXザムシードのブーツに嵌められていたメダルに吸い込まれて封印され、メダルには『牛』の文字が浮かび上がる!
「か、かなりヤバかったな・・・死ぬかと思った。」
変身を解除して、脱力気味に大の字に寝転がる燕真。何故、本部に保護された紅葉が妖怪に襲われていたのか?結果的に麻由のことも救ったが、自分の行為は、職務怠慢になってしまうのか?牛鬼が今際のきわに言った「封印」とは何のことなのか?
不安と疑問だらけだが、とりあえず、紅葉を救出できて良かった。
「燕真っ!」
紅葉が駆け寄ってくる。弓矢を構えていた時の紅葉は、着物姿で角が生えていたが、今の紅葉は、いつも通りの紅葉だ。
「オマエ、さっきの変身は何だったんだ?」
「んぇ?ヘンシン?何のこと?」
「自分の姿が変わったことに気付いてなかった・・・のか?」
「ァタシ、ヘンシンしたの?カッコ良かった?
ザムシードとァタシで、どっちがイケてた?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
紅葉自身が解っていないらしい。雅仁や粉木や砂影ならば、何か解るだろうか?
「まぁ、いいや。葛城さんを回収して、YOUKAIミュージアムに戻るぞ。」
「ぅん!」
麻由を背負って、紅葉をタンデムに乗せて、バイクの3人乗りで帰るのは、さすがに不可能。紅葉は、タンデムを要求せずに、自転車で帰ってくれるだろうか?
・・・というか、命令無視は承知しているが、粉木に会った瞬間に怒鳴りつけられそうで、帰るのが怖い。
-屋上-
牛鬼が討伐された時点で、茨城童子は戦いを放棄して撤退した。
「おいおい、大変な事になったぞ。」
茂部園太が青ざめながら中庭を見下ろしている。
「文架支部の若造が、とんでもない事を・・・。」
酒呑童子討伐隊の統括責任者が、ザムシードに倒された。倒れている牛木CSOを確認できないってことは、肉体が砕け散ったのか?
副責任者の砂影は、文架支部の監視が任務だ。つまり、酒呑童子討伐の実質的なサブリーダーは茂部なのだが、脳内がパニックで考えがまとまらない。
怒りと動揺で全身を振るわせながら、通信機で本部に連絡をする。
-東京・退治屋本社-
大武剛は、COO室で、秘書の迫天音から「牛木義雄CSOの敗北」の訃報を聞き、悲痛な面持ちで友を悼む。
「ただでは死なず、封印を破壊してくれたか。
失うには惜しい、仕事のできる男だった。」
「感傷に浸る時ではないわ。精鋭隊の責任者が真っ先に倒れるなんて一大事。
直ぐに、次の手を打たなければ成らないわよ。」
「もちろんだ。
彼は、我々が次の一手を打つ為の呼び水になってくれたのだからな。」
「私に出撃の指示を下さい。私ならば・・・」
「確かに、我が副官たる君ならば、我が目的は成せるだろう。
だが、人間社会での君の地位は、俺の秘書だ。
君が赴いても、兵隊共は納得をしてくれまい。」
「・・・では?」
「ああ・・・CSOが犠牲になるという緊急事態を治められるのは、その上の役職。
牛木が犠牲になってくれたおかげで、
組織のトップが、たかが一地方で陣頭指揮を執ることに、
違和感を感じる者はおるまい。
牛鬼は、俺の出番を演出してくれたということだ!」
直ぐさま、上層部、及び、本部直轄の隊員に、「CSOの敗北」の情報が廻った。皆が緊急事態を知り、前線に行きたくない自己保身連中は、「大武COOが後任に入る」という判断を支持する。これで、下らない役員会議を省いて、「文架市に多数の退治屋を集める采配」、及び、「文架市の掌握」を反対する者はいなくなった。
〈COO、お車が準備できました。〉
「了解だ。直ぐに行く。」
大武が、迫を伴って、COO室を発つ。自己保身優先の幹部達に、御機嫌取りをされながら見送られ、エレベーターで1階まで降りて、車が待つ正面入口へ。
屋外に出た瞬間に、死に神のような影が差す。
「貴方の命・・・私のコレクションに加えてあげる!」
大武目掛けて大鎌が振り下ろされた!だが、大武は表情1つ変えずに、妖気を発した素手で、軽々と刃金を受け止める!
「困ったな。少々急いでいるのだがね。」
「・・・フン!」
「俺に何か用かな?・・・大魔会の夜野里夢くん。」
デスサイズを向けているのは、マスクドウォーリア・リリス(里夢)。周りでは、ハーピーが構えている。その後で、協力者・大平法次がボケッと突っ立っている姿を見て、大武は苦笑いをした。
「貴方が提供してくれた協力者、見当外れな案内ばかりで、全然使えないのよね。」
表向きは、退治屋の大平法次が独断で大魔会に協力をしていることになっているが、真実は、大武が提供をした人材だ。文架市でのスペクター計画の続行は目立ちすぎて妨害が入りやすいとの判断で、多の地域に移って実験を続けたのだが、大平の案内や技術がいい加減すぎて、計画は「あと少しで完成」なのに、少しも進展をしなかった。
「私達を文架市から遠ざかっている間に、随分と派手に動き出したわね。
無能(大平)を提供した目的は、文架市から大魔会の排除・・・よね?」
「ふっ!そこまで見抜かれていては、弁明の余地は無さそうだな。」
前CEOの喜田は、言葉巧みに利用することができた。だが、リリスは「現トップの大武COOは一筋縄ではいかない」と判断したのだ。
「だから・・・私を騙してくれた貴方を狩るのよ!」
大武とリリスは、大武がデスサイズの刃を素手で受け止めた状態で拮抗している。リリスの目配せにより、ハーピーが、大武を仕留める為に動き出した。
「舐めたマネをしてくれんじゃねーか!」
だが、秘書の迫天音がハーピーの前に立って、臨戦態勢で牽制をする。この後に及んでも、大武は「余裕の表情」を全く崩さない。
「ヤレヤレ、随分と拙速だな。
迫君、そして君達(マスクドウォーリア達)も、少しは控えたまえ。
こんなに人目の多いところで、血で血を洗う騒ぎを起こす気かね?」
「・・・チィ。」
退治屋と大魔会は暗黙の不可侵。リリス達は、派手な抗争を起こす気はない。初手のデスサイズを防がれた時点で、無血の奇襲は失敗をしたのだ。
「時間は惜しいが、大魔会の幹部諸君を無視することもできまい。
話し合いでも、潰し合いでも、俺はどちらでも構わないが、
人目の無いところに場所を移す提案をさせてもらえないだろうか?」
「それくらいの要求は応じましょう。」
思考を見透かされたリリスは、一時的に刃を収めた。
大魔会の今の目的は、「スペクター計画の完成」だが、その根底にあるのは、「退治屋を弱体化させて、大魔会が世界のシェアを牛耳ること」だ。妖幻ファイターの戦闘能力は把握済み。リリスは、「喜田の失脚で退治屋の内部分裂は始まっている」「退治屋の現トップが戦いに応じてくれるなら、弱体化に導くチャンス」と判断する。
-文架市・優麗高の校庭-
燕真が麻由を背負い、紅葉が燕真のバイクを押して正門に向かう。
「ねぇ~ねぇ~、燕真。
きっと、あっち(グラウンド)でアミが寝ているから、連れてこようよ。」
「平山さんは、牛鬼の本体との戦いに巻き込まれたわけじゃないんだろ?」
「ぅん、子妖に憑かれちゃっただけ。」
「なら、変に巻き込まず、本部の連中の任せておいた方が良い。」
「そっかぁ~。」
牛鬼が倒れたので、生徒に憑いていた子妖は全て消滅した。今は、ヘイシ達が、意識を喪失させた生徒達の安否確認をしている。
「ねぇ~ねぇ~、燕真。
マユぉオンブして、胸が背中に当たったり、
お尻の近くを手で持ったりして、えっちなこと考えてるでしょ?」
「考えてねーよ!オマエ、どんだけ貧相な想像してんだよ?
(実際には、密着する様々な感触を、全身で楽しんでるけど)」
「マユばっかりオンブしてもらってズルい!ァタシもオンブしてよっ!」
「葛城さんを背負ってるんだから、無理に決まってんだろ!」
「なら、試してみようっ!」
「・・・へ?」
紅葉は、ホンダ・NC750Xのスタンドを立てて駐め、燕真の後ろに回り込んでダッシュ!燕真に背負われている麻由に、勢い良く飛び付いて、ガッシリとしがみついた!
「ふぬぅぉぉぉっっっっっっ!!お~~も~~い~~~~~!!!」
足を踏ん張らせて、前につんのめるのを堪える燕真。
「は~~な~~れ~~ろ~~~~!!」
「女の子に重いゆ~なっ!失礼だぞっ!!」
「牛鬼より重い~~~~!!!」
戦い終わったばかりで疲れ切っているのに、女子高生2人をおんぶするのは、マジできつい。燕真は体を捻って紅葉を振り落とそうとするが、紅葉が意地になってしがみつく。
「佐波木さん、紅葉ちゃん、何をイチャ付いているの?」
声を掛けられたので振り返ったら、正門前に、バイクの跨がった佑芽がいた。
「んへへへへへっ!イチャ付いてるのっ!」
「イチャ付いてねー!虐待されてんだ。」
「良かった、紅葉ちゃん無事だったんだね。心配しちゃったよ。」
佑芽は「紅葉殺害命令」が出ていることを把握した上で喋っているのだが、事情を知らない燕真は、単純に「妖怪に襲われたが無事だった」と解釈する。
「ニャンニャン(佑芽)、ちょうどイイところに来てくれたねっ!
ァタシゎ燕真と一緒に帰るから、
マユのこと、(バイクの)後ろに乗っけてってあげてよ。」
「麻由ちゃん?・・・うわっ!麻由ちゃんもいたんだ!?
佐波木さんと紅葉ちゃんの間に挟まっていて、気付かなかった。
乗せていくのは構わないけど、
気絶しているのに、どうやってタンデムで維持すんの?」
「ニャンニャンがオンブして、オンブ紐で縛るの。」
「ちょうど良い紐なんてあるの?」
「無い!燕真、持ってる!?」
「そんな都合の良いもんが、あるわけ無ーだろ!」
「つかえねー!」
「俺が、常にオンブ紐を携帯してたらオカシイだろーが!」
すったもんだしているうちに麻由が意識を取り戻したので、麻由は佑芽の後ろに乗せてもらい、紅葉は定位置に収まり、状況把握の為にYOUKAIミュージアムに戻ることにした。・・・が、呑気に和気藹々としていられるのは、そこまでだった。
「ん?なんだ?」
妖幻ファイター(茂部)と数人のヘイシが、銃を構えて駆け寄ってくる。その雰囲気は殺伐としており、強敵(牛鬼)を倒した勇者(燕真)の凱旋を見送る様子には見えない。
「ヤバい!燕真、逃げてっ!」
「はぁ?なんで?」
「アイツ等、ァタシをやっつけようとしてるの!」
「オマエをやっつける?なんだそりゃ?」
「イイから早くっ!!」
「護衛」ではなく「やっつける」って、どういうことだろうか?燕真は、状況が全く把握できない。だが、佑芽は、紅葉の必死さを見て、直ぐに「紅葉殺害計画」が事実だと悟った。
「逃げるよ、佐波木さん!」
「えっ?えっ?」
「説明はあと!紅葉ちゃんが危ないの!とにかく急いでっ!!」
ホンダ・VFR1200Fを急発進させる佑芽。燕真は状況が理解できないまま、ホンダ・NC750Xをスタートさせて、佑芽に付いていく。
「案の定・・・面倒なことになってきたな。」
燕真&紅葉&佑芽&麻由が去って行く姿を、離れたところから雅仁が溜息まじりに眺める。
-東京・人目の無い河川敷-
全長3mほどの、八つの頭を持つ蛇=八岐大蛇が、マスクドウォーリア・ハーピーを叩き伏せる!
「クソ!何なんだ、コイツ等!?妖幻ファイターではなく、妖怪なのか?」
身長10mで全身漆黒の巨大妖怪=大太郎法師が、マスクドウォーリア・リリスを踏み付ける!
「くっ!・・・こんなはずでは・・・。」
肝心の標的(大武)は、秘書(迫)を侍らせて満足そうな表情で眺めているだけで、一切、手を出していない。
「そろそろ、互いの刃を収めないかね?
君達ほどの優秀な戦士ならば、我らに適わないと解るだろう?」
大武が手を翳して合図をすると、八岐大蛇と大太郎法師が、構えを解いて数歩後退をした。リリスとハーピーは、立ち上がって悔しそうに大武を睨み付ける。
「退治屋と大魔会は暗黙の不可侵。
俺は、会ったこともない大魔会の総帥に目の敵にされたくはない。
君達の命を奪う気は無いから安心したまえ。
温和しく話を聞いてもらう為に、戦意を挫いたのだ。」
「話・・・とは?」
「ふむ、聞く気になってくれたかな?」
大武がもう一度手を翳して合図をすると、八岐大蛇は妖怪化を解除して運転手・矢的大地の姿に、大太郎法師は協力者・大平法次の姿に戻った。リリスとハーピーも、変身を解除して、里夢とカリナの姿に戻る。
「大魔会幹部の君達と、退治屋幹部の俺。
この場に居る我々だけで、同盟を組まないか?」
「・・・なに?」
大魔会にとって、退治屋は、同盟など組めるはずのない商売敵。だが、大武は、「退治屋と大魔会の同盟」とは言っていない。あくまでも、「この場に居る者だけの同盟」と言っている。
「無論、俺と手を組んで、大魔会総帥を裏切れと言っているわけではない。
君達は、大魔会の立場を貫いた上で、俺に手を貸してくれれば良い。
あとは、どう動いても、我々は黙認する。」
端的に言えば、大武達の邪魔さえしなければ、好き勝手に暴れて、退治屋を何人殺害しても、「全ては不問にする」と言っているのだ。こんな好待遇の同盟など、常識では考えられない。
「君達が‘使えない’扱いをしている大平君だが、実際に戦ってみて、
木偶の坊ではなく、使える同志ということが理解できただろう?」
大武の言い分は尤もだった。里夢は、「役立たず」と侮っていた大平法次=大太郎法師に完敗をしたのだから、ぐうの音も出ない。
「同盟の土産に、1つ、君達が欲しい情報を差しあげよう。
スペクターが育たなかったのは、案内人の大平君が無能だったからではなく、
場所以外にも理由があるってことだ。」
「何が言いたい?
スペクターが召喚できないのは、私達ののアプローチが間違えているとでも?」
「まぁ、そういうことだ。これまでの経緯を考えてみたまえ。」
偶発的に発生したブロントはともかく、意図的に発生させたアポロ&リンクスは長時間の維持ができた。しかし、計画発展型のベンケイ&イゾウ&ナガヨシは、攻撃力はアポロと同等以上に高かったが、耐久力が低くて簡単に倒された。
「前者と後者で決定的な違いがあるだろう。」
アポロ&リンクスとベンケイ達の違いは、媒体となるアイテムの有無。いくら依り代となる人間が優秀でも、霊の念を固定する媒体が無かった為に、闇祓いに対して、念の維持ができず、簡単に祓われたのだ。
「龍脈に優れた地、優秀な召喚者、霊の念を維持できる媒介、
これが、強いスペクターを生み出す土壌だ。」
この条件が揃えば、里夢が欲したスペクター計画は完成する。だが、里夢は素直に喜べない。スペクターの実験は、里夢と前CEO喜田による秘密裏の計画だったはず。しかし、大武は、詳細の全てを知っている。仮に喜田からの報告を受けていたとしても、里夢以上に熟知しているなど有り得ない。
「何故、貴方が、それを知っている?」
「無論、ずっと君達や前CEO(喜田)を監視していたから。
そして、君達の欲する知識を、最初から有していたから。」
「退治屋如きが、スペクターの知識を?」
「俺が過去に収集した財宝に紛れて、
魔術で死者を召喚する方法が描かれた文献があるのだ。
非常に興味深いが、魔力を使えぬ俺には、ただのゴミでしかない。
君達が欲するなら、くれてやっても構わんぞ。
尤も、提供は、君達が盟友として、俺を勝利に導いてくれたあとになるがな。」
「・・・貴方は一体?」
「見た目通り、退治屋の代表代理だが、それがどうしたのかね?」
「ただの代表代理とは思えないわね。貴方の魂胆は?」
「我々の目的は、我々の安息を得る事。
無駄な争いは好まないが、目的達成の為ならば、手段は選ばない。」
これは、破格の同盟などではない。大武は「好待遇と必要な情報をくれてやる代わりに邪魔をするな」「敵対をするなら今すぐにでも殺す」と脅しているのだ。里夢とカリナにとっての必須は、生きてスペクター情報を持ち帰ること。意地を張って、この場で命を落とすなど、愚かな行為にしかならない。
「私達に求めることは?」
「代表の地位が転がり込んできて僅か数日しか経っていないので、
恥ずかしながら、まだ組織を上手く掌握できていない。
俺の方針に従ってくれぬ者が数人・・・存在しているのだ。」
「その者達を排除しろと?」
「排除対象が誰なのか・・・詳細は、君達の仲間に聞けば良い。
その為に、1人は、先んじて文架市に戻っているのだろう?」
大武の指摘通り、大魔会幹部の1人・アトラスは、「大武の暗殺」を無駄と判断して参加せず、先に文架市入りをして状況確認をしている。その情報すら筒抜けになっている有り様では、ハナから「大武の暗殺」が成功しなくて当たり前だ。
「貴方に従わない者達を排除する過程で、
貴方(大武)達以外なら、誰が犠牲になっても黙認する・・・と?」
「そういうことだ。」
笑顔で頷く大武。里夢&カリナは、受け入れる以外の選択肢など無かった。大武一派と大魔会先鋒隊の同盟が成立する。
-文架市-
燕真&紅葉はホンダ・NC750Xに乗り、佑芽&麻由はホンダ・VFR1200Fに乗り、YOUKAIミュージアムまでの帰路を急ぐ。文架大橋を通過して、東詰交差点を右折。ここまで来れば、目的地は目と鼻の先。
しかし、左側にに見える鎮守の森公園を通り過ぎようとしたその時!
「んっ!?」
突然、巨大蝙蝠が飛来してきて進路を妨害!燕真達が急ブレーキで停まると、見覚えのある巨大蝙蝠は、公園内を案内するようにして飛んでいった。
「今のは、粉木ジジイのコウモリか?」
それは、粉木勘平=異獣サマナーアデスが契約をしている蝙蝠型モンスターだ。
「じいちゃんが、呼んでるのかも。」
「行ってみよう!」
YOUKAIミュージアムには監視者(高菱&田井)がいるので、「話しにくい」と判断した粉木が、公園で待っていてくれたのかもしれない。車輌禁止の公園だが、「今は緊急事態」なので、燕真達は、バイクのまま公園内に乗り入れた。
「んぉっ!やっぱりいたっ!」
「砂影の婆さんもいるのか?」
「あれぇ?なんで、ママも一緒にいるの?」
蝙蝠型モンスターを追って公園の中央付近まで行くと、粉木、砂影、そして紅葉の母・有紀が待っていた。燕真は合流できたことに安堵をして、タンデムの紅葉は3人に向かって大きく手を振った。だが、粉木や有紀に、「弟子」もしくは「娘」の無事を確認して安心する様子は無い。険しい表情のまま、寄ってくる燕真達を眺めている。
「ゴメン、爺さん。派手に命令無視して、紅葉を連れてきちゃった。」
職務怠慢は百も承知している。合流するなり、燕真はバイクから降りて、粉木に深々と頭を下げた。
「また、爺さんに迷惑を掛けることになるだろうけどさ、
それでも、紅葉の護衛は、他人任せにしたくないんだ。」
「それがオマンの答えなんやな?」
「ああ、そうだ。紅葉のことは、俺達で守りたい。」
「そうか、よう解った。」
燕真は、粉木が納得してくれたと解釈して、嬉しそうな表情で顔を上げた。だが、粉木に睨み付けられ、燕真の笑顔は直ぐに消える。
「オマンから押し付けられる迷惑は・・・いや、オマンとの縁は、これで終いや。」
「・・・え?」
粉木が有紀に目配せをすると、有紀の隣に氷柱女が出現。氷柱女の発した念が氷の結界を作り、その場に居る全員を包んだ。
「これで、もうオマン等は逃げられん。」
「どういうつもりだ?」
「ワシは・・・退治屋の職務を果たす!」
変身アイテム=サマナーホルダを正面に翳す粉木!
「変身っ!」
全身が輝いて、異獣サマナーアデスへと姿を変える!
「爺さん?」
粉木が怒る理由は理解できる。だが、燕真には、粉木が変身をする目的が理解できない。
「とんでもない事をしてくれたな、燕真!」
「命令無視は承知している!2~3発ブン殴られる覚悟だってしている!
だけど、なんで変身を!?」
「言ったはずだ!退治屋の職務を果たすとな!」
「ちょっと待ってくれ!」
サーベルを抜刀して、問答無用で斬りかかるアデス!燕真が慌てて飛び退くと、アデスはNC750Xのタンデムに跨がったままの紅葉を睨み付けてサーベルを振り上げる!
「んぇぇっっ!?」
「狙いは紅葉っ!?・・・幻装っ!」
燕真は、反射的にザムシードに変身!裁笏を装備して紅葉の前に割って入り、アデスが振り下ろしたサーベルを受け止めた!
「本気なのか、爺さん!?」
「なんで、じいちゃんがァタシを!?」
「本部の命令を粉木さんが?」
「どういうことですか、粉木さん!?」
驚いたのはザムシードと紅葉だけではない。佑芽は、粉木が「紅葉討伐」の尖兵になったことが納得できない。麻由は、昨日まで紅葉と仲良くしていた粉木が、紅葉に刃を向ける状況を理解できない。
「燕真!オマンの行動は問題だらけや!
命令を無視して本部に楯突いただけでも解雇もんやのに、
統括責任者を殺害し、封印の結界を崩しおった!
これでは、言い逃れのしようがない!」
「な、なんのことだ!?俺は、紅葉と葛城さんを襲った妖怪を・・・」
「オマンが倒したんは、妖怪やない!本部から派遣された牛木CSOや!
オマンは、討伐対象のお嬢と組んで、
討伐命令を受けた牛木CSOを殺害したんや!」
「・・・なに?」
ザムシードは、脳内に押し寄せてくる情報を整理できない。紅葉討伐ってなんだ?本部の目的は護衛ではないのか?牛木CSOの殺害ってなんだ?倒したのは妖怪じゃないのか?封印の結界を崩壊させた件に関しては、何のことかすら解らない。
戸惑いで体を硬直させたザムシードの腹に、アデスの強烈な蹴りが叩き込まれる!体勢を崩したザムシードに、アデスはサーベルの乱打を叩き付けた!弾き飛ばされて地面を転がるザムシード!
「何が何だか解んねーけど・・・俺の頭じゃ、一個も理解できねーけど・・・
要は、本部が紅葉を殺そうとしてるってことか!?
ジジイは、本部の命令を受け入れたってことなのか!?」
立ち上がり、妖刀を装備して、アデスに突進!ザムシードの妖刀と、アデスのサーベルがぶつかる!
「答えろジジイっ!」
鍔迫り合いをさせながら、アデスを睨み付けるザムシード!アデスは深く頷いて肯定をする!
「冗談じゃねーぞ!そんなの受け入れられるワケがない!」
「オマンが受け入れるかどうかなど関係あれへん。
お嬢の本性は酒呑童子。オマンが、どう思うても、この事実は変わらんのや。」
「だからって、何で急に態度を変えなきゃならないんだよ!?
本性がなんだろうと、紅葉は紅葉だ!」
「今は、酒呑の一部しか目覚めとらんから、お嬢の人格が保たれているだけ。
せやけど、全てが目覚めれば、お嬢はお嬢ではなくなる。
せやから覚醒する前に討伐せなあかん。
それが、本部が調査をした結論なんや。」
「これからだって、目覚めない可能性だってあるだろうに!」
「それは、可能性やなくて、オマンの妄想や!」
妖怪が人間に化けて人間社会に紛れ込むケースは多々あるが、人間が最上級妖怪を宿すケースなど、これまでに前例が無い。銀色メダル事件のように、人間と妖怪の共存は成り立たず、やがて、人間の脆い精神は妖怪に支配をされる。そして、紅葉は、様々な妖怪事件や大魔会との抗争を経て、妖怪の力を開花させ始めた。
「ァタシが妖怪?・・・そんなのウソだよね?」
信じられない事実に驚愕して、青ざめながら後退る紅葉。牛鬼も「紅葉は鬼」と言っていたが、デタラメだと思っていた。だが、信頼できる者が同じ口にすると、重みが別物だ。
紅葉は、狼狽えながら有紀に視線を向け、母の「そんなわけ無いでしょ」と言う言葉を待つ。
「ゴメンね紅葉。」
母は悲痛な面持ちで、短い謝罪だけをした。
「ウソだぁっっ!!これ、ドッキリかなんかだよね!?
ァタシが騙されて驚いたところで、ウソでしたーって言うパターンでしょ!?」
しかし、母は否定をしてくれない。
「普通の人とは違う感覚・・・身に覚えはあるわよね?」
「そんなの無いも~ん!ァタシゎ、普通の人だも~ん!!」
少し考えただけで、紅葉は「自分には人とは違う感覚がある」ことが解る。だが、それでも紅葉は自分が普通の人間とは違うことを信じない。
ザムシードの胸に、紅葉の悲鳴にも似た悲痛な叫び声が突き刺さる。紅葉の泣きそうな表情を見ているのが辛い。
「本部が言ったからって、従うのかよ!ジイさんは、本部の犬か!?」
「それが、企業人っちゅうもんや!
お嬢が酒呑童子の支配に負けて一般人に被害を出してしまった時に、
青二才のオマンは、責任を取れんのか!?」
「・・・だけどっ!」
アデスの言い分は理解できる。師のアデスとは戦いたくない。だけど、殺されるのが解って、紅葉を差し出すなんて、できるわけが無い。
「くっそぉっっ!!」
力押しでアデスを後退させるザムシード!アデスは、武器をサーベルからスピアに持ち替えて、再びザムシードに向かって行く!
「だったら、せめて、本部に掛け合って、もうしばらく様子見を!」
「今更、そんな甘い認識が通るわけないやろ!
他の退治屋連中から見れば、オマンは、酒呑童子に荷担した反逆者や!
牛木隊長を殺害したオマンの意見を、誰が聞くと思うとる!?」
勝手な判断で動き、その場しのぎを重ねた結果、退治屋全員から敵として認識されてしまった。ザムシードは、何度も「何でこうなった」と自問をするが、現状を覆せる答えは出ない。
「こ、こうなったら、俺1人でも・・・・」
「大バカもんが!何が‘1人’や!?
オマン1人が自滅をして、自分の命に決着を付けるなら、まだマシや!
オマンは、自己満足を優先させたあげく、
佑芽ちゃんと麻由ちゃんまで、反逆に巻き込みおったんやぞ!
彼女達の未来を妨害した責任は、どう取るつもりや!?」
アデスの指摘通りだ。ザムシードは、状況が全く解らないまま、佑芽&麻由を連れて逃亡してしまった。ただの成り行き任せの行動とは言え、退治屋達から「佑芽達はグル」と思われても、言い訳ができない。動揺で手を止め、佑芽と麻由の方を振り返るザムシード。
「私達が・・・。」 「・・・反逆者?」
佑芽は、ザムシードが牛木CSOを殺害したことを知らないまま、退治屋の隊員に追われて逃げてしまった。麻由は、紅葉が妖怪だから命を狙われているとは知らずに、一緒に逃げてしまった。2人とも、不安の表情を隠しきれない。
「・・・くっ!佑芽ちゃん、葛城さん。」
隙だらけになったザムシードに、アデスが振るったスピアが直撃!堪らずに数歩後退をして距離を空けるザムシード!妖刀を握り直し、眼前のアデスに集中する!
「燕真!オマンには、何もできん!もう手詰まりなんや!」
アデスの合図で、蝙蝠型モンスターが飛来をして、ザムシードの背後に体当たり!更に、体勢を崩したザムシードの脳天に、アデスが振り下ろした一撃が叩き込まれた!地に伏すザムシード!
「佐波木さんっ!」
ザムシードが敗北をしたら、自分達も捕まって、退治屋達に引き渡されてしまう?佑芽は、自分が反逆者になったつもりは無い。だが、「御曹司を守れなかった姉」を一方的に無能扱いした連中は信用できない。堪えきれなくなった佑芽が、ザムシードに加勢する為に、Yウォッチを構えながら駆け出す。
「幻装っ!」
「加勢はさせぬ!」
佑芽が変身をするよりも前に、氷柱女が正面に立って掌を翳した!吹雪の衝撃波が発生して、佑芽を押し戻す!
「わぁぁっっっ!!!」
吹雪が止み、佑芽が眼を開けると、目の前に吹雪の竜巻が立ち上がっている。氷の結界から弾き出されてしまったのだ。
結界の中では、立ち上がったザムシードが、Yウォッチから水晶メダルを抜き取って構える。
「ジイさん・・・本気なんだな?」
「今更、言葉で確かめな解れへんのか?」
「ジイさんがその気なら・・・俺も容赦はしない!」
「ヒヨッコのオマンが、手加減をしとったとでも?」
「仲間は傷付けたくないからな。年寄りなら、尚更だ!」
「ごっつねぶったこと。」
ザムシードがアデスを見るのは、数えるほどしかない。そのうち、戦う姿を見たのは、氷柱女の結界を破る時(第10話)とアポロ戦(第31話)の2回のみ。だけど、異獣サマナーは50年も前のシステム。サマナーシステムをプロトタイプにして開発されたのが妖幻システムであり、ザムシードのシステムは、その最先端にある。 恩人相手に、性能差で押し切りたくはなかったが、もう、悠長なことは言ってられない。
「ザムシードが・・・ローテクに負けるわけがないっ!!」
「そう思うなら掛かって来い!未熟者め!」
ザムシードは、気勢を発して、水晶メダルをベルトの和船型バックルに装填!全身が輝いてEXザムシードにフォームチェンジをする!一方のアデスは、神・マキュリーが描かれたカードを翳した!アデスが、パワーアップ形態のアデスM(アデス・マキュリー)に変化をする!
「うおぉぉぉっっっっっっ!!!」 「はぁぁっっ!!」
互いに向かって突進をするEXザムシードとアデスM!蝙蝠のモンスターがバイクに変形をして、アデスMと並走!アデスMが飛び乗った!奥義・バット・ホワールウィンドゥ発動!対するEXザムシードは、跳び蹴りの体勢でアデスMに突っ込む!
「おぉぉっっっっ!!!EX・エクソシズム・キィッックッッッ!!!」
EXザムシードとアデスMの奥義の激突!
「うわぁぁぁっっっっっっっ!!!」
悲鳴を上げて弾き飛ばされるEXザムシード!墜落をして地面を転がり、変身が強制解除をされて、燕真の姿に戻った!奥義を決めたアデスMが、バイクを横滑りで停車させる!
「アホンダラ!そやさかいオマンは、未熟扱いをされるんや!
サマナーシステムから進化さしたのは、妖怪に対する優位性!
対人戦闘力は、妖幻システムと変われへん!」
アデスMの言葉は、燕真には届いていない。アデスMの強烈な一撃を喰らった燕真は、意識を失っていた。
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