第34話・金色の翼

 ガルダは、手に握っていた銀色メダルを頭上に翳し、Yウォッチの空きスロットに装填!装填確認の電子音声が鳴り響き、妖幻ファイターガルダの戦闘能力が上昇をする!・・・だが。


「うわぁぁっっっっ!!」


 ガルダの全身から小爆発が発生!仰向けに倒れ、変身が強制解除をされてしまう!


「おい、狗っ!何がどうなっているんだよ!?」


 雅仁が戦闘不能状態にもかかわらず、リリスは容赦無く接近をして来た!状況が全く把握できないEXザムシードでも、雅仁を庇って、リリスを退けなければ成らないことくらいは解る!


「やめてくれ、里夢さん!俺は、説明を求めているんだ!」

「説明なら、頭が固すぎる雅仁君を排除したあとでしてあげるわよ!」

「応じられるわけないだろう!」


 EXザムシードは、右手の妖刀を強く握り締め、左手には裁笏ヤマを装備して、リリスに向かって突進!振り下ろされたデスサイズを裁笏で受け止め、妖刀の刺突を放った!

 デスサイズの深藍刃から発せられる一振り十閃の真空波の全てがEXザムシードに着弾!同時に、妖刀オニキリの切っ先が、リリスのプロテクターに突き刺さる!


「ぐはぁぁっっっ!!!」 「うぐぅぅぅっっ!!!」


 大ダメージで全身が痺れ、地面に片膝を落とすEXザムシード。背後を見て、雅仁には真空波が一発も届いていないことを確認して、マスクの下で安堵の表情を浮かべる。ハナっから、盾になる覚悟はしていたが、さすがに十閃全部を受け止めるのはキツい。


「燕真君・・・最初から相打ち狙いで・・・」


 数歩後退をして片膝を付くリリス。手数はリリスの方が多かったが、ザムシードの一点突破の一撃の方が重かった。


「避けたら狗に飛んで行くんだから、

 俺が全部受ける以外の選択なんて無いだろうに!」

「ふふふ・・・燕真君。アナタは興味深いわ。」

「俺は、アンタのことが苦手になったけどな!」


 アーキテウシス(一振り十閃の真空波)は、リリスがデスサイズを振り切ることで、攻撃が完成する。EXザムシードが突進で距離を詰め、且つ、刃を受け止めた為に、リリスは振り切る間合いを失い、EXザムシードが喰らったのは、不完全な真空波だった。ただし、EXザムシードは、奥義の発動条件を見抜いたワケではなく、「仲間を守らなければならない」という勇気が、奥義を完成させなかったのだ。


「燕真っ!」 「狗塚!」 「佑芽っ!」


 スカイラインで到着をした紅葉&粉木&砂影が、駆け寄ってくる!消耗したEXザムシードと、倒れた雅仁&佑芽を見た粉木は「予断は無い」と判断して、自分も戦う為に、サマナーホルダを翳す!異獣サマナーアデス登場!



-離れたビルの屋上-


 リリスの戦闘を眺める2つの人影がある。


「リムさん、苦戦しちゃってる。どうする?見なかったことにする?」

「見殺しにはできまい。狙えるか、カリナ?」

「はぁ?誰に聞いてんだよ?狙えるに決まってんでしょ。」


 カリナと呼ばれた、小柄で髪をシニヨン(お団子頭)で纏めた女が、Aウォッチメダルを抜き取って、ベルトのバックルに装填!全身が青い輝きを放って、マスクドウォーリア・ハーピー出現。弓にメダルをセットして、矢を番え、交戦中のEXザムシードを狙う。



-病院敷地内-


「・・・チィ!余計な手出しを。」

「ん?」


 リリスが、高魔力の接近を感知して振り返った。同時に、EXザムシードのセンサーが、高エネルギー体の急接近を感知。紅葉も嫌なプレッシャーを感じる。


「爺さん、狗塚達を頼む!?」 「婆ちゃん、ヤバい!隠れよう!」

「任せや!」 「なんなの!?」


 アデスは、雅仁と佑芽を庇って防御の姿勢に成り、紅葉と砂影は建物の影に隠れる!EXザムシードは、向かってくる高エネルギーに突進をして飛び上がり、着弾点を少しでも遠ざける為に妖刀を投擲した!

 空中で高エネルギーと妖刀がぶつかり、黒い爆発が発生!EXザムシードは爆風で弾き飛ばされて地面を転がり、アデスが雅仁と佑芽の盾になって堪える!


「ワシの出番は、防御だけかいか?」


 爆風が収まり、脱力をして地面に片膝を降ろしたアデスの変身が強制解除をされ、粉木の姿に戻った。


「くっ!大魔会の新手かよ!?」


 一定以上の消耗をしたEXザムシードがノーマルモードに変化。立ち上がって、裁笏ヤマを構える。しかし、その場にリリスの姿は無かった。

 翼を広げたリリスが、上空からザムシードを睨み付ける。ガルダのスマートな戦いは完封したリリスだが、何故か、ザムシードの泥臭くて未熟丸出しの戦いには苦戦をさせられた。未完成だが意外性のある佐波木燕真という男は、大変興味深い。自分の色で汚したくなる。


「燕真君、アナタとは、相互理解を深める為に、

 後日、ゆっくりと、お話しがしたいわね。」


 当初の目的(佑芽の殺害)は成功した。仲間に「屈辱的な援護」をされて興が冷めたリリスは、空の彼方へと飛び去っていく。

 数秒の間を空けて、紅葉がザムシードのところへ、粉木は雅仁のところに、砂影は佑芽へと駆け寄った。


「燕真、ダイジョブだった!?」

「ああ・・・エクストラの防御力に助けられた。

 オマエが、里夢さんを嫌う理由が、解ったよ。」

「でしょでしょ!ナマコオバサン、すっげームカ付くでしょ?」


「珍しゅう、手酷うやられたようやな、狗塚。」

「俺のことは良いんです。申し訳ありません。彼女(佑芽)が・・・。」

「意識を失うとるし、縫合した傷ちゃ開いしもたみたいだけど、

 佑芽ちゃ生きとるさかい、あっかりして良いわちゃ。」

「生きて・・・いる?」


 佑芽は間違いなくソウルイーターを喰らったはず。魂を斬られたのに、何故生きている?雅仁には理解が出来なかったが、「守れた」という安堵で緊張感が途切れて意識を失った。




-離れたビルの屋上-


 着地をしたリリスが、変身を解除して、スマートな男と、お団子頭で小柄な女を睨み付けた。


「キュリア君、カリナさん・・・邪魔して欲しくないわね。」

「何だよ、その言い方!?リムさんが苦戦していたから助けてやったんだろ!」

「アナタ達に助けを求めたつもりは無いんだけど。」

「ほら!やっぱり見なかったことにすれば良かった!

 キュリアが助けろって言うから悪いんだ!」

「まぁ、そう言うなカリナ。里夢は大切な仲間だ。」


 キュリアと呼ばれた優男が、カリナと言う名の小柄な女性を宥めつつ、里夢を見詰める。


「里夢・・・君の単独の任務は、離反者の始末だけ。

 スペクター計画と、退治屋の弱体化は、チームの任務だったはずだ。

 いくら‘総帥のお気に入り’でも、独断は許されない。」

「・・・チィ。」


 里夢は不満そうに舌打ちをしたが、それ以上の反発はしなかった。彼等が来日するまでにプロジェクトを軌道に乗せて自分1人の手柄にしたかったが、考えが甘かったようだ。




-数時間後・文架総合病院の病室-


 燕真&紅葉&粉木&砂影に付き添われ、並んだベッドで雅仁と佑芽が眠っている。


「狗塚がこれほど消耗するなんて珍しい。ワシ等が到着する前に何があったんや?」

「ああ・・・まぁ・・・だいぶペースが乱れてたみたいだな。」


 燕真は、雅仁卒倒の決定打が、リリスの攻撃ではなく、銀色メダルを使った為と知っている。だが、粉木と砂影の猛反発が予想できるので、あえて、説明はしない。

 点滴を受けている雅仁は、時折、小さく唸り声を上げ、眉間にシワを寄せる。昏睡の中で見ているのは、父が銀色メダルで命を削りながら、宿敵に突っ込んでいく姿。


「父さんっっ!!」


 跳ね上がるようにして、ベッドから上半身を起こす雅仁。


「ここは?」

「気が付いたか。」 「ここゎ病院だよ。どこもイタくな~い?」


 付き添っていた燕真と紅葉が寄ってくる。隣のベッドでは根古佑芽が眠っており、粉木と砂影の姿もある。


「彼女(佑芽)は・・・無事なんですか?」

「開いしもた傷口ちゃ治療したわ。命には別状が無いわちゃ。」

「精神的にごっつ疲弊してるみたいだけどな。」

「そうですか・・・良かった。」


 佑芽が魂を狩られたと感じたのは、やはり錯覚だったのか?雅仁は安堵の溜息を漏らす。


「随分と取り乱していたようやが、何があったんや?」


 粉木の問いに対して、雅仁は、しばらくは答えにくそうに俯いたが、やがて脳内で「解る範囲」を整理して口を開く。


「彼女(佑芽)は、魂を斬られたんです。

 おそらくは、離反者達の死因と同じ。奴等はリリスの制裁で死んだんです。

 しかし、原因は解りませんが、彼女(佑芽)の暗殺には、失敗したようですね。」


「お姉ちゃんが・・・助けてくれたんです。」


 薄らと眼を開けた佑芽が、弱々しい声で会話に参加をする。会話は聞こえていたが、困憊状態で動けなかった。今も意識は朦朧としているが、「リリスの魂狩り」の話題を聞き流すことはできない。


「斬られたのは、お姉ちゃんの念です。

 私と狗塚さんを助ける為に、お姉ちゃんの念が、私を支配したんです。」

「君のお姉さん?だから、君が根古礼奈に見えたのか?」

「あの時の私は、自分の意思で体を動かせなくなっていました。

 お姉ちゃんが割り込んでくれなければ、きっと、死んでいたと思います。」


 物に念が隠って意志を持ったり、妖怪が依り代を支配するように、姉の強い念が佑芽に取り憑いて動かしたとしても、不思議なことではない。


「でも、私の代わりにお姉ちゃんが・・・。」

「礼奈の意思ちゃ、佑芽と雅仁を守りたかったんでしょうね。」


 礼奈の念が佑芽に入り込んでいたので、佑芽は死なずに済み、姉が狩られたのだ。

 雅仁は、佑芽を救うつもりで挑み、何もできずに、「摂理の無視」と考えて祓おうとした礼奈を救われ、礼奈は2度も命を奪われてしまった。申し訳ない気持ちでいっぱいだ。悔しくて、根古姉妹に顔向けができない。


「粉木さん・・・砂影さん・・・。

 大魔会には‘精神支配’という技術があるのでしょうか?」


 佑芽は、「自分の意思で体を動かせなかった」と言った。雅仁には、暴走状態だった佑芽と、今の弱々しい佑芽が、同じ人物とは思えない。ましてや、自分を犠牲にして救ってくれた礼奈が、敵意を向けていたとも思えない。もっと別の意思に支配されていたと考えるのが、最も納得できる。

 ここから先の話に確証は無い。だから、雅仁は「仮に」と前置きをして説明を始める。


「リリスは、彼女(佑芽)が何処に居るのかも解らない状態で、

 声を出さず、通信手段も用いずに、指示を出しました。」

「ん?どういうことだ?」

「念で指示を出したっちゅうことか?」

「可能性が高いです。

 彼女(佑芽)は、命を狙われていたのに顧みようともせず、

 生身のままで、ガルダに変身をしていた俺の妨害を続けました。」

「有り得ないわ。

 退治屋の従事者なら、学生だとしても、妖幻システムの戦闘力は学んでいるわ。」

「はい。到底、正気の状態だったとは考えられません。」


 「この女の人(佑芽)ゎノーミソが腐ってるってこと?」

 「コラ、紅葉。

  本人の目の前で、もの凄く失礼なことを言うな。オマエとは違うんだぞ。」

 「ァタシ、ノーミソ腐ってないもんっ!」


 人の尊厳や人命を顧みない大魔会に、精神支配の技術があったとしても、何も不思議ではない。


「佑芽が、大魔会の精神支配を受けとる・・・ちゅうことね。」

「あくまでも、俺の推測ですが。」


 そう解釈すると、佑芽の、里夢にとって都合の良すぎる行動は、全て辻褄が合う。


「なら、里夢さんが仕掛けてきたら、根古さんは、また正気を失うってことか?」

「敵なんだから‘さん’なんて付けるな!あんなの毒ナマコでイイのっ!」

「言いたいことは解るが、せめて人扱いをしろ。

 そもそも、今の議題は、夜野里夢に‘さん’を付けるかどうかではなく、

 根古さんが洗脳されてしまってるってことだぞ。」

「ニャンニャン(佑芽)のセンノーなんて、

 まっさっちか、爺ちゃんか、婆ちゃんが、何とかすればイイぢゃん!」

(ニャンニャン?・・・え?もしかして私のこと?)


 紅葉の突飛な発言に対して、雅仁&粉木&砂影が、驚いた表情で、それぞれの顔を見合わせる。紅葉が提示した‘佑芽を助けるメンバー’の中に、霊力ゼロの燕真が入っていないことで、察しが付いた。


「ァタシゎ、燕真が毒ナマコを人扱いしてる方が問題なの!」

「里夢さんは人だ!人扱いして当然だろう!

 ・・・え?・・・てか、精神支配なんだぞ!

 ジジイ達が何とかするって、そんな他人任せなことを簡単に言うな!」

「ニャンニャン(佑芽)は暴れたくないのに、暴れちゃうってことは、

 ニャンニャンだけぢゃ、毒ナマコ(里夢)の命令に負けちゃうってことでしょ?

 なら、誰かが助けてあげればイイぢゃん。爺ちゃん達ならできそ~ぢゃね?

 ニャンニャンの胸に刺さってるモヤモヤしてるのが魔力ってヤツだよね?」

「見えるのか?」

「ぅん!モヤモヤモヤモヤ。ニャンニャンのオッパイのところ。」


 打ち込まれた本人(佑芽)すら見ることができない魔力の楔を、紅葉は認識をできるらしい。念を祓うのならば、粉木達でも可能だ。根源が霊力ではなく魔力なので、決して簡単ではないが、不可能でもない。やってみる価値はありそうだ。


「粉木さん、砂影さん、彼女のことをお願いしても良いですか?」


 雅仁は、佑芽のサポートを粉木達に任せ、ベッドから抜け出して、まだ重い体に活を入れて立ち上がる。


「魔力を感知できる紅葉ちゃんも、フォローに入ってくれるか?」

「ん~~~・・・イイケド。まさっちは手伝ってあげないの?」

「すまないが、俺には俺で、やることがある。」

「ジッとしてられんのは解るが、あまり根を詰めんなや。」


 粉木は、「無理をしないように」と忠告をしたが、生真面目な雅仁が無理をすることは百も承知で見送る。


「俺、狗に付くよ。」

「んぇっ?燕真、ニャンニャン(佑芽)のお手伝いしないの?」

「根古さんを助けるメンバーから俺を外したのはオメーだろーに!」

「ぅん。燕真ぢゃなんにもできない。でも、ァタシのお手伝いならできるぢゃん。」

「どんな手伝いだよ!?」

「ァタシのジュース買ってくるとか、お菓子買ってくるとか、肩もみするとか。」

「俺はオマエの舎弟かよ?」


 言うまでもなく、紅葉のパシリなどする気は無いので、燕真は雅仁を追い掛けていく。



-駅前のビジネスホテル-


 大魔会幹部の3人が、一室に集まり、これまでの推移を里夢が説明していた。話を聞くキュリア(青年)の表情は険しい。


「コナキ・・・イヌヅカ・・・サバキ・・・早急に消すべきだな。

 里夢、君は当て馬程度に考えているのだろうが、その認識は甘すぎる。」

「なんですって!?」

「これまでの戦闘から、コナキ達が、何を勘付くか・・・?

 我らは、不確定要素を1%も残してはならない。」

「解ったわ。でも、それなら奴等の処分は私1人で・・・」

「心意気は買うが、聞けないな。やるぞカリナ。」

「はぁ?手を出すなって言ってんだから、勝手にしてもらえばいいじゃん!」

「そうよ!手を出さないで!」

「君1人では、それができないから、今まで野放しにしたのだろう?

 もっと早くに処分をするべき・・・

 いや、我々が合流をするまで、君は計画の進行を待つべきだった。

 それなのに、勝手に計画を進め、スペクターをコナキ達と交戦をさせ、

 余計な知識を与えた。」

「・・・チィ」

「これは、我らのプロジェクトだ。

 君1人には任せられない。僕等で後始末をする。

 失敗をしたら、里夢に責任を取らせるだけでは済まなくなるからな。」


 確かに、文架の退治屋達は、知りすぎている。キュリアの正論に対して、里夢は何も言い返すことができない。


「彼等に使い魔は付いているな?今は何処だ?」

「病院よ。」

「サッサと始末をしよう。」


 キュリアの号令で、幹部達は文架総合病院へと出陣をする。




-病院の屋上-


 左手に『天』メダルを、右手に『銀』メダルを握り締めた雅仁が、平行立ちで一気合いを入れ、四股立ちになって、体内で練った霊力を左右の拳に送る。先程の戦闘では、ガルダと銀色メダルが反発をした。メダルの意思とリンクすることで、「あの時、何が発生したのか?」を確かめなければならない。


〈雅仁。私がオマエに課したのは、命の酷使ではない。〉

「・・・くっ!父さんっ!」


 しかし、メダルに念を送り込んだ直後に、父の声が聞こえて、精神世界から弾き出されてしまう。2枚のメダルを両立させようとすると、反発が発生するようだ。


「何故、父さんが邪魔をする?」


 今の一連で理解できたことは、死した父・宗仁の念が『銀』メダルに残っていること。そして、父の念が、ガルダと銀色メダルの繋がりを妨害していること。だから、先程の戦いでは、銀色メダルを使った途端に、ガルダが拒否したのだ。

 だが、雅仁は諦めるつもりなどない。再び、左右の拳の中にあるメダルに、霊力を送り込んでみる。


〈雅仁。〉


 再び、『銀』メダルから発せられる亡き父の声が、雅仁の念を退けようとする。だが、今度は、先程よりも強い‘執念’を発して踏み止まる。すると、周りがホワイトアウトをして精神世界に突入。



「・・・これは?」


 雅仁は、違和感を感じ、自分の手足を確認して、自分の姿が子供時代に戻っていることに気付く。目の前に、狗塚宗仁が立っていた。


「邪魔をしているのは父さんなのか?」

〈そうだ。『銀』メダルに残した私の念だ。〉

「何の為に?」


 これは、宗仁が残した念の世界。だから、雅仁は、父が命を失った時の姿をしている。


〈言うまでもなく、オマエを無駄死にさせない為。

 オマエにとっては、銀色メダルは初使用かもしれぬが、

 ガルダのリミッターは、私が破壊をしてしまったからな。

 1度でも使えば、天狗の妖気が、オマエの命を飲み込む。〉

「・・・そ、そんな。」


 もう、ガルダでは銀色メダルは使えない。使えば、即座に死ぬ。動揺で執念が保てなくなった雅仁が、再び精神世界から弾き出される。



 ホワイトアウトから、通常の景色に戻り、成人した姿を取り戻した雅仁は脱力をして片膝を付いた。


「俺は、これ以上は強くなれない・・・ということか?・・・くっ!」


 一般的な妖幻システムは、妖幻ファイターの資格を得た時点で、新規のシステムが提供される。だが、狗塚家の場合は、先祖から‘天狗’を継承しており、父の代で銀色メダルを限界まで行使してしまった為、これ以上の使用は不可能なのだ。再び、銀色メダルを使用できるシステムにするなら、一度、天狗の封印を解いて、再封印をしなければならない。要は、天狗と戦わなければ成らないのだ。枯れた家系には、もはや、天狗を制圧する力など残されてはいない。


「おい、狗塚!ここにいたのか!?何やってんだ!?」


 雅仁を発見した燕真が寄ってくるが、雅仁には燕真の質問が呑気に聞こえて腹立たしい。燕真から眼を逸らし、ふて腐れた表情で、その場に腰を降ろす。


「君には関係無い。」

「関係無くはないだろ。」

「フン!足手まといの状態で、強さの限界を迎えてしまった俺を笑いに来たのか?」

「・・・はぁ?意味が解らん。」


 燕真は、場の空気が読むタイプなので、雅仁から露骨に拒否をされているのが解る。だけど、珍しく拗ねているので、放置できない。こんな時、紅葉ならば、相手の感情など無視して土足で踏み込むだろう。さすがに、紅葉ほど図々しくはできないが、少しばかり紅葉を見習うことにして、雅仁の隣に腰を降ろした。


「足手まといとか、強さの限界ってなんだよ?オマエ、今でも充分に強いじゃん。」

「充分に強い俺が、リリスに惨敗か?嫌味にしか聞こえんな。」

「まぁ・・・そうだな。」

「妖幻システムの性能のみで戦えているクセに、いい気になるな!」

「否定できん・・・な。」


 今回のリリス戦に限らず、ブロンド戦でも燕真は勝ちを収め、サトリ戦では敗北寸前だった雅仁を救った。出会った頃は「未熟」と見下していたのに、いつの間にか、ガルダ以上の戦果を上げている。それでいて、相変わらず敵に情を見せ、落第点の戦いばかりしている。そんな未熟者が、高性能なザムシードシステムを扱っているのだから、「強さの限界」を勧告されてしまった雅仁は、不満で仕方が無い。


「何をそんなにカッカしてんだよ?

 今回は、たまたまダメだっただけだろうに?」

「君は失敗をしても平気かもしれんが、俺は失敗が許されない!

 未熟者の君と一緒にしないでくれ!」

「はいはい・・・どうせ俺は、失敗だらけ。成功することの方が少ねー。

 酒呑メダルの時は、強さを求めた結果、死にかけたからな。

 オマエの気持ちは、それなりに理解している。」


 燕真は、雅仁の言い様に、かなり腹が立ったが、堪えて話を続ける。


「今回のことは、粉木ジジイや砂影ババアには相談できねーんだろ?

 ジジイ達は銀色メダルを全否定をしてんだから、

 銀色メダルを使おうとしたけどダメだった・・・なんて、言えるわけないよな。

 だから、俺が話し相手に成ってやるんだ。ありがたく思え。」


 だけど、かなり腹が立っているので、燕真は、チョット嫌味混じりに話す。


「俺は話し相手など求めてはいない。」

「なぁ、狗。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「エクストラザムシードってさ・・・

 多分、紅葉が、水晶メダルで俺を守ってくれてんだよな。」

「無能ぶりでもアピールしたいのか?それがなんだというのだ?

 君は、高性能システムと他者の力で強くしてもらっている。

 今更、改めて認識することでもあるまい。」

「それだよ、それ!」

「・・・何が言いたい?」

「俺は紅葉のおかげで強くなってるかもしれないけど、

 オマエの場合は、自力で何とか成らないのか?」

「何とか成らないから、困っているんだろうに!

 君と話していても、何も進展を・・・・・・・・・」

「水晶メダルは紅葉が霊力を込めたおかげ。

 優秀なオマエの自前の霊力で、

 銀色メダルが暴走しないように抑えられないのか!?」

「・・・なに?」

「霊感ゼロの俺には、Yメダルの仕組みは、良くわかんねーんだけどさ。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 一理ある。それまで否定的だった雅仁の言葉が止まる。現状の『天』メダルと『銀』メダルの両立は不可能。『天』メダル(ガルダ)のリミッターは限界に来ている。ならば、『銀』メダル側を管理すれば良いのではないか?今まで、『銀』メダル側で調整を試した退治屋など、誰もいないのではないか?


「フン!ド素人だからこその、定石に捕らわれない視点。

 だが・・・試す価値はあるな。」


 雅仁の目に輝きが戻り、いつものマウントを取るようになった。燕真は、立ち上がった雅仁を見て、「自分のアドバイスが少しは役に立った」と感じ、安堵の笑みを浮かべながら手摺りに凭れ掛かる。


「相変わらず素直じゃねーなぁ。褒めるか嫌味を言うか、どっちかにしろ!」

「・・・フン!」


 両立ができないなら、片方ずつ攻略をする。雅仁が、体内で練った霊力を左の拳に握った『天』メダルに送る。



 雅仁の周囲がホワイトアウトをしており、目の前には天狗がいて、雅仁を睨み付けていた。


〈オマエが・・・俺を封印せし狗塚の末裔か?先代と同様に喰らってやる!〉


 襲いかかってくる天狗。しかし、見えない壁に阻まれて、雅仁に近付くことができない。天狗の周りを、透明の壁が覆っている。


〈・・・忌々しい。〉

「これが・・・妖幻システムの具現化?」


 使役妖怪が直ぐ近くにいるが、Yメダルの封印が機能して使用者には手を出せない。銀色メダルを使う度に、見えない壁が薄くなって妖怪との距離が近付き、やがては壁が無くなって封印妖怪の餌食になる。その一連が、この心象風景になって見えているのだ。


「なるほどな。理屈が解ってしまえば、簡単なことだ。」


 水晶メダルが、ザムシードの扱う閻魔大王の力を解放すると同時に、変身者の生命を守る。同様に、リミッターカットの機能を持つ銀色メダルに、封印妖怪を暴走させない力を与えれば、制御ができるようになるはず。


「結界の類いは、敵対妖怪の戦闘力を抑え、且つ、発動者の能力を高める。

 つまり、結界と同じ状況を銀色メダルに施すことができれば良いのだ。」


 雅仁が導き出した答えは、自分を結界で強化して、天狗の暴走に対抗すること。念を込めながら呪文を唱え、見えない牢獄に閉じ込められた天狗の周りに、幾つもの結界の起点を作る。天狗から睨み付けられているが、奴は閉じ込められているのだから、気にする必要は無い。


「これで、理論上はクリアできるはず。」


 起点の設置を終えた雅仁が、強化の結界を発動させる。ここまでは成功。強化を実感した雅仁は、天狗の前に立って手を伸ばす。雅仁の手が見えない壁を通過して、天狗の腕を掴んだ。


〈ヌゥゥ・・・小賢しい奴め!〉


 一定の手応えを感じた雅仁は、体の半分を、天狗が閉じ込められている壁の内側に入れた。壁の中には、天狗の強い妖気が充満をしている。

 使役妖怪との距離が近ければ近いほど、妖幻ファイターの戦闘能力は上がる。だが、封印の壁(見えない壁)を銀色メダルの機能で破壊して近付く手段では、天狗が解放されて暴走を許してしまう。それならば、壁を破壊するのではなく、自らを強化して、壁の内側に入れば良い。



 精神世界から現実世界に戻る雅仁。今の心象風景を現実世界で実行すれば、ガルダは、今まで以上に天狗の力を使えるようになる。問題は、強化の結界をどうやって発動させるか?毎回、変身をする度に、精神世界に入って一から結界を施すのでは、時間が掛かってしまう。


「無論、銀色メダルに結界を施す。」


 銀色メダルには、Yメダルに干渉する機能がある。その機能を、封印妖怪強化ではなく、自分自身の強化に向ければ良いのだ。

 やるべきことが明確化をした。雅仁は、今度は右の拳に握った『銀』メダルに念を送る。



〈正気か?雅仁。〉


 ホワイトアウトをした精神世界。幼少の姿に成った雅仁の目の前に、父・宗仁が立っていた。


「父さん。」

〈確かに、この理論ならば、天狗の餌食にならずに、ガルダは強化をされる。

 だが、解っているのか、雅仁。

 ガルダを強化している間、暴れようとする天狗を抑える為に、

 強化の結界を維持し続けなければ成らないことの意味を?〉


 それは、消耗を意味している。パワーアップをしたガルダとは、戦いで消耗をしながら、結界の維持にも霊力を使わなければ成らないのだ。


「もちろん、理解をしている。」

〈・・・なにゆえ?〉

「ん?どういうことですか?」

〈愚か者め!オマエが戦おうとしているのは鬼ではない!

 オマエは、狗塚の宿命とは関係の無い争いで、命を削るつもりなのか!?〉


 宗仁の幻影との間に反発力が発生!雅仁は押し戻され、精神世界から弾き出されてしまった。



「・・・くっ!やはりダメか!?」


 理論上ならば、ガルダの強化は可能になった。しかし、銀色メダルに込められている‘雅仁を守ろうとする父の念’が、『天』と『銀』のメダルのリンクを妨害する。

 脱力気味に床に片膝を降ろす雅仁。「上手く進捗していない」と察した燕真が、雅仁に近付こうとする。しかし、横目に見えた光景が、燕真の動きを止めた。


「・・・ん?」


 病院の真正面。防犯灯に照らされ、敷地内に入ってくる人影が2つ。


「おい、狗塚。」

「どうした?」

「里夢さんが、また来たぜ。しつこい。」

「なに?」


 立ち上がった雅仁が、燕真に寄って行って、燕真と同じ方向を見下ろす。片方は見知らぬ青年だが、もう片方は夜野里夢だ。


「根古佑芽の殺害に失敗したことに気付いたのか?」

「解んねーけど、俺達と仲良くする為に来たってことはなさそうだな。

 もう片方もマスクドウォーリアかな?」

「間違いないだろうな。」


 奇襲ではなく、正面から乗り込んでくるのは、戦闘能力に自信があるから。青年が真っ向勝負タイプと考えるべきだろう。


「1対2・・・か。キツいけどやるしか無いな。」

「1対2?何を言ってる?」

「オマエ、今の自分を戦力外って感じてるんだろ?

 そんな負け意識を抱え込んだままで戦うつもりなのか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「銀色メダルで、何かを掴めそうなんだよな?

 だったら、それを掴んでから戦闘に参加してくれ。

 それまでは、俺1人で凌ぐ。」

「解った・・・任せるぞ。」

「おう!」

「ただし、おそらく、最低でも1対3。

 何処かに、もう1人潜んでいると考えるべきだ。」

「はぁ?」


 先程の戦いでは、矢で攻撃してきた者がいた。ハンタータイプを前線に送るバカはいない。そして、正面突破の自信を覗かせる青年が、ハンターということは無いだろう。つまり、接近戦タイプの里夢と青年の他に、遠距離から仕掛けてくる敵がいるのだ。


「1対3・・・マジで?」

「ハンタータイプの攻撃を封じる為、ひたすら接近戦を挑め!」

「う・・・うん。頑張る。できるだけ早く戦闘に参加してくれ。」


 雅仁が戦闘可能になるまで、敵2人を相手に1人で凌ぐつもりだったが、敵は最低でも3人はいるらしい。しかも、雅仁は、燕真の言葉に甘えて、「何かを掴む」を優先させる気だ。


「君が3人を引き付けられない可能性を考慮して、

 俺から粉木さんに、根古佑芽の防衛を頼んでおく。」

「ああ・・・うん。」

「俺が戦線に立つまでは、敵の制圧よりも、君自身が倒されないことに専念しろ!」

「なんで、戦わないオマエが仕切ってんだよ!?なんか腹立つ。」


 燕真は、チョットばかり格好を付けてしまったことを後悔しつつ、Yウォッチから『閻』メダルを抜いて、和船型バックルに装填をした。


「幻装っ!」


 妖幻ファイターザムシード登場。更に水晶メダルでEXザムシードにパワーアップをしてから、屋上手摺りを飛び越えた。



-地上-


 里夢と青年(キュリア)の前にEXザムシードが降ってきて着地をする!


「あら、燕真君。私に会いたくて、お出迎えかしら?」

「そんなワケ、無ーだろ!ここから先は行かせない!」

「それは残念ね。燕真君とは仲良くしたいのに。」


 青年は『Xi』メダルをAウォッチから抜いて、ベルトのバックルに装填!朱色ベースで、ライオンの頭部を模したマスク、山羊の角を模した肩当て、蛇顔の胸当てという様相のマスクドウォーリア・キマイラ登場!キマイラは、一歩前に出て、EXザムシードに対して身構える!


「里夢、君には老人達を任せた。妖幻ファイターは、僕とカリナで相手をする。」

「痛め付けても構わないけど、殺さない程度にしてほしいわね。」


 里夢は、ザムシードを避けて横に走り、病院の入口へと向かう!EXザムシードが追うが、キマイラの放った鞭が伸びてきてEXザムシードの足に絡み付いて転倒をする!


「くそっ!行かせるかっ!」


 EXザムシードは、弓銃ヤブサメを召喚して構え、駆けていく里夢の足元目掛けて矢形の光弾を放つ!爆風に煽られた里夢が転倒!EXザムシードは、足に巻き付いた鞭を解いて里夢を追うが、上空から黒い矢が飛んで来た!


「チィッ!狗の予想通り・・・狙撃タイプの3人目がいるってか!」


 一定の予想をしていたEXは、横っ飛びで回避!黒い矢が地面に着弾して、黒い爆発が発生をして、EXザムシードを弾き飛ばす!

 更に、キマイラが振るった鞭が着弾して、火花を散らせながら再び弾き飛ばされるEXザムシード!直ぐさま立ち上がって里夢を追い、病院内への潜入を妨害する!


「いつまでも女性を追い回すのは醜いわよ、燕真君!」

「生身のアンタを、問答無用で銃撃するよりはマシだろうに!

 だけど、俺を無視してアンタが押し通るなら、発砲する覚悟はできている!」


 粉木を戦場に引っ張り出すつもりは無い。1人で3人相手の防衛戦をするつもりなので、綺麗事を並べる余裕も無い。

 EXザムシードの覚悟を把握した里夢が、マスクドウォーリア・リリスに変身をする!


「おぉぉっっっっ!!」


 武器を妖刀オニキリに持ち替え、柄に属性メダル『閃』を装填したEXザムシードがリリスに突進!妖刀と、リリスの振るうデスサイズがぶつかる!キマイラがEXザムシードの後ろに回り込んでサーペントウィップを振るうが、EXザムシードは、ローキックでリリスの体勢を崩してから、振り返りながら気合いを発して、妖刀から閃光の刃を伸ばして打ち返す!



-離れたビルの屋上-


「あのアバズレ、邪魔だってのっ!!」


 マスクドウォーリア・ハーピーが、弓矢でEXザムシードを狙った状態で苛立っていた。狙撃をしたいのだが、交戦中のリリスが邪魔で、ザムシードを狙えない。


「クソ!纏めて吹っ飛ばしてやりたいっ!」


 ハーピーならば、建物に矢を撃ち込みまくって、粉木達を病室ごと吹っ飛ばすことも可能。ただし、人命軽視の大魔会でも、一般人に被害を出す戦闘は御法度。ハーピーがペナルティーを科せられてしまう。


「リムさんの尻ぬぐいで、私がイエローカードをもらうなんて、冗談じゃない!」


 EXザムシードは、出動時の雅仁のアドバイスに従い、矢が飛んで来た方向を意識してリリスを盾にしながら接近戦を挑んでいる。



-病院の屋上-


 もう、悠長に精神世界と現実世界の往復をしている余裕は無い。


「父さんの思念を退けなければならない。だけど、どうやって?」


 今まで、特に疑問を持たずにガルダに変身をしていたが、改めて考えれば疑問だらけだ。既に天狗の封印力が限界なら、雅仁は何に守られている?銀色メダルを使った時点で、天狗に食われるはずではないのか?

 その答えは、父が最後の力を振り絞って『銀』メダルに込めた念によって守られているのだ。処分されるはずの銀色メダルが、「父の遺品」「御守り」として雅仁の手に残った理由も説明できる。

 だからこそ、銀色メダルの機能が発動する前に、父の念によって妨害をされる。


「・・・父さんの念を、俺の念で上書きする。どうやって?」


 地上では、EXザムシードとリリス&キマイラが戦っている。「遠距離戦タイプの狙撃に気を付けろ」と指示をしたが、何処かに潜んでいるであろう‘あと1人’が動き出せば、確実に均衡が崩れて、劣勢に陥るだろう。


「あと少し・・・あと少しで答えに辿り着けそうなんだ。」


 気ばかりが焦るが、答えが解らない。父は、「雅仁の理論では大幅に消耗をする」「そこまでして、宿命とは無関係な敵と、何の為に戦うのか?」と問うていた。


「・・・俺が戦う理由。」


 何故、銀色メダルを使おうとした?守ろうとした者を守れず、それどころか、守ろうとした者に庇われた。その、やるせなさ、憤り、悔しさから、自分を見失い、無意識に銀色メダルを手にしていた。


「今は違う。忘我ではなく、自分の意思で、銀色メダルを使いたい。」



 気が付くと、雅仁は、幼い姿になり、ホワイトアウトをした精神世界に立っていた。目の前には父の姿がある。


〈答えは見付かったか?雅仁。〉

「ああ・・・見付かったよ、父さん。」


 宗仁の幻影は、厳格な表情で、雅仁を見詰める。


〈改めて問おう。オマエは、なにゆえ、宿命とは無関係な戦いに心血を注ぐ。〉


 雅仁は、決意を秘めた眼で、父の幻影を見詰めた。


「答えは、解らない・・・だ。」

〈・・・ん?〉

「満足な答えが返せなくて申し訳ありません。だけど、心配は要りません。

 俺は、貴方の知る俺から十数年が経過して、今はもう、子供じゃないんだ。

 父さんに守られなくても、自分の責任は自分で取れるんです。」


 雅仁が意識をすると、雅仁の姿が、幼少から青年に変化をする。


「俺は、文架に来て、仲間の大切さを知った。

 当時の俺は気付けなかったが、以前、俺を仲間扱いしてくれた女性がいた。

 その人が、俺の手放そうとしていた暖かさを、思い出させてくれた。

 だから・・・彼女が守ろうとしたものを、今度は俺が守りたい。

 宿命の為でも、恨みを晴らす為でもない。

 俺が何をできるのか・・・俺自身で決めたいんです。」


 そこまでは真剣に話した雅仁の表情が少し砕け、穏やかな笑みを浮かべた。


「聞いてくれよ、父さん。

 文架市には、凄まじく未熟な退治屋がいるんだ。」


 最初に会った時、雅仁は、彼に退治屋が務まるのかと驚いた。感情的で、結果に繋がらない意味の無い行動と、泥臭い行動ばかり。彼が行ったことで、意味が無いままで終わった活動は沢山あるが、だけど、意味が無いと思ったのに、結果に結びついた努力も沢山ある。

 接していくうちに、雅仁には無い素晴らしいものを沢山持っていることを知り、格好良く感じられるようになった。雅仁が認めた天才少女が、彼に惹かれる理由が、今ならば、よく解る。

 退治屋の騒動など、退治屋で処理をすれば良いのだろう。雅仁が消耗を覚悟して付き合う理由なんて、無いのかもしれない。


「俺のやりたいことが、無駄な努力なのか、意味があるのか、

 それは後から考える。」



 ホワイトアウトが晴れて、現実世界が開けていく。


「今はただ・・・俺は、彼等と肩を並べて共に進みたい。」


 薄くなっていく宗仁の幻影が、小さく微笑む。


〈ならば・・・やってみろ。〉


 父に対して深々と頭を下げる雅仁。顔を上げた時、その場に父の姿は無かった。銀色メダルは、父の念から開放された。あとは、雅仁が強化の結界を封じ込めるだけ。 雅仁は、銀色メダルを頭上に翳して、念を込める。



-地上-


 急降下をしてきたガルダが、キマイラの正面に着地をして身構えた!


「待たせたな、佐波木!」

「出てきたな!2人目の妖幻ファイター!」

「クリアしたんだな、狗っ!」


 ガルダは手に持っていた銀色メダルに念を込めて、メダル内に強化の結界を発動させる!すると、銀色だったメダルが金色に変化!


「ああ・・・おかげさまでな。今、成果を見せてやる。」


 金色のメダルを五芒星型バックルに装填!ガルダの全身が金色の光に包まれ、黄色ベースのパーソナルカラーが金色変わり、腕、肩、胸、腰、脛、そしてマスク、各プロテクターが雄々しく変化をする!


「悪しき技術は、俺が屈服させた!」


 妖幻ファイターハイパーガルダ誕生!


「佐波木・・・ハンターの位置は把握しているか?」

「方向は・・・な。」

「ならば、ハンターは君に任せる!リリスと、もう1人は俺が相手をする!」

「おいおい、遅れて登場したオマエが仕切るのかよ!?」

「離れた敵のへの接近は、ザムシードの方が優れているだろう?」


 姿は変化したけど、マウント気味の態度は全く変わっていないようだ。だけど、一理ある。


「互いに、やるべき仕事を熟すんだ!」


 あえて、鳥銃迦楼羅焔を装備して、キマイラ&リリスから距離を空けるハイパーガルダ(以降、Hガルダ)!途端に上空から黒い矢が飛んで来た!


「これで、方向の再確認と、距離の見当はついたな?

 ハンターの狙撃を妨害すれば、かなり戦いやすくなる!」

「オマエは1対2で大丈夫なのか?」

「フン!誰に物を尋ねている!?」


 Hガルダの頼もしい意思を確認したEXザムシードは、マシンOBOROを召喚して跨がった!


「方向は西!距離は200~300m!今の魔力発生場所へ飛べ!」


 マシンOBOROの朧フェイスから妖気が発せられてワームホールが出現!EXザムシードが、マシンOBOROをスタートさせて、ワームホールに飛び込んだ!


「頼んだぞ、佐波木!」

「拙いわ、キュリア!カリナが狙われている!

 奴(ザムシード)は、ワープができるの!」

「なにっ!?」


 マスクドウォーリア・ハーピーには、接近戦のスキルは無い。何よりも、「ワープスキルがある妖幻ファイター」の情報は初耳だ。知っていれば、ハーピーを、援護不可能な遠距離には配置していない。

 Hガルダは、キマイラが動揺で生じさせた隙を見逃さない!ガルダの鳥銃から放たれた光弾が、キマイラを直撃して弾き飛ばす!



-離れたビルの屋上-


 ハーピーも、ザムシードがワープできることなど知らない。困惑をしながら、戦場から忽然と消えた標的を探す。


「はぁ?どうなってんだ!?赤い奴(ザムシード)、何処に行きやがった?」


 その真正面にワームホールが出現!マシンOBOROを駆るEXザムシードが飛び出してきた!


「なにぃぃっっっっ!!!?」


 為す術も無く、マシンOBOROの体当たりを喰らうハーピー!弾き飛ばされて、対辺側の手摺りに激突!手摺りを突き破って地上へと墜落をした!


「あっ!やりすぎたか!?」


 ザムシード自身、これほど完璧に奇襲が決まるとは思っていなかった。「生身ではないから轢死や墜落死はしないよな?」と一定の心配をしつつ、屋上に停めたマシンOBOROから降りて、破れた手摺りに駆け寄って、下を覗き込む。



-文架総合病院-


 Hガルダが、リリスを睨み付ける!


「夜野里夢!オマエだけは逃がさない!」


 Yウォッチから抜いた属性メダル『雷』を鳥銃のグリップに装填!リリス目掛けて雷弾を放つ!リリスはデスサイズで受け止めたが、着弾した雷は、デスサイズを経由して、リリスを感電させる!


「きゃぁぁっっっっっ!!!」


 大の字に倒れるリリス!Hガルダは、妖槍に属性メダル『風』をセットして、リリスに追い撃ちを掛ける為に突進!体勢を立て直したキマイラが、リリスを庇うように立って構えた!


「おぉぉぉぉっっっっ!!」


 サーペントウィップを振るうキマイラ!しかし、Hガルダが回転させた妖槍が強風を発生させて、鞭のボディ~テールを吹き飛ばす!


「はぁぁっっっっっ!!!」


 接近をしたHガルダが、目にも止まらぬ速さで、妖槍の連続突きを繰り出した!新生奥義・サハスラブジャ(千手観音)発動!風の力を纏った伸縮をする無数の穂先が、キマイラの全身に叩き込まれる!


「がはぁっっ!!」


 堪えきれずに数歩後退して地に片膝を付くキマイラ!Hガルダは、これまでの度重なる戦いで、マスクドウォーリアの強さを知っている!だから、まだ、攻勢を止めるつもりは無い!


「これで終わりだぁ!」


 胸プロテクターの窪みに白メダルをセット!Hガルダの翼が、光り輝きながら大きく広がり風のエネルギーを纏う!


「うおぉぉっっ!!!」


 金色の鳥と化したHガルダが、流星のように光の尾を伸ばしながら、キマイラに突っ込んでいく!ハイパーアカシックアタック発動!体当たりを喰らったキマイラが、弾き飛ばされて宙を飛び、地面に叩き付けられた!


「クッ・・・バカな・・・。」


 辛うじて立ち上がるが、全身から爆炎が上がり、力尽きて仰向けに倒れた!変身が強制解除をされて、生身の姿に戻る!


「退治屋の戦闘力は・・・大魔会に劣る・・・はず。」


 惨敗である。敗因は明確だ。文架の退治屋の情報が少なすぎた。通常の妖幻ファイターの情報ならば得ているが、ザムシードとガルダの戦闘能力は想定を遙かに上回っていた。


「キュリア君っ!」

「り・・・里夢っ。」


 リリスが一足飛びで青年に近付いて抱え、翼を広げて空高く飛び上がった。Hガルダは追おうとしたが、馴れないフォームで大技を連発した影響で、脱力をして片膝を付く。ハイパーモードが強制解除をされ、ノーマルのガルダに戻り、空の彼方へと飛び去って行くリリスを、眺めることしかできなかった。




-数分後・文架総合病院-


 ハーピーを撤退させた燕真が戻ってきて、雅仁から、戦勝報告と、里夢を逃がしてしまったことを聞く。


「奥義の連続発動かよ?相変わらず容赦無ーな。」

「容赦をして逆転を許すような醜態は晒せないからな。

 尤も、ハンターを、バイクでビルから弾き落とした君も、人のことは言えんぞ。」

「狙ったんじゃなくて、ワープした先が、たまたま敵の目の前だったんだよ。

 一撃で決着が付いたから、敵がどんなヤツで、強いのか弱いのかも解らん。」


 紅葉や佑芽の前なので、燕真は、あえて軽い口調を心掛けているが、マスクドウォーリアを倒せていないことを告げていた。雅仁&粉木&砂影は、「暗黙の不可侵」だったはずの大魔会との軋轢が表面化をしてきたことを、ハッキリと感じている。




-戦場から離れた空き地-


 キュリアを抱えたリリスが着地をして、変身を解除する。敗北をしたキュリアが、悔しそうに里夢を見詰める。


「里夢・・・どういうことだ?」

「何の話かしら?」

「君は、これまでの2ヶ月間、妖幻ファイターの観察を続けたはずだ!

 奴等がこれほど強いという報告など聞いていないぞ!」


 キュリアは、退治屋の戦力を完全に侮っていた。もし知っていれば、真正面から仕掛けるような作戦は立てなかった。もしくは、遅れて来日をする‘大魔会最強の幹部’の合流を待ってから仕掛けた。


「キュリア君なら、余計なアドバイスなんて無くても、圧勝してくれると思ったの。

 まさか、これほど不甲斐ないとは思わなかったわ。」

「君の職務怠慢は、総帥に報告をさせてもらう!」

「あら・・・それは困るわね。」


 汐らしい表情をした里夢が、キュリアに寄り添う。


「精一杯お詫びをするから、報告は待ってもらえないかしら?」

「フン!俺は、色仕掛けなどに惑わされは・・・むぐぅぅっっ!」


 キュリアの唇に、自らの唇を押し当てる里夢。エンゲージキス(魂約の口吻)発動。本来ならば、魔力を学び、魔力に対する抵抗力のある大魔会に幹部ならば、里夢の魅了魔術に抵抗をできる。しかし、消耗をしているキュリアは、里夢の精神支配に抗う術が無かった。


「里夢・・・君は一体?」

「短絡的なカリナや他の連中と違って、キュリア君は、有能すぎて扱いにくいわ。

 それに、私以上に総帥からの信任が厚いキュリア君は、以前から邪魔だったの。

 私が進めてきたスペクタープロジェクトを横取りして欲しくないのよね。

 だから・・・自分自身の手で命を捨てなさい。」

「うわぁぁぁぁっっっっっっっっっっ!!!」


 魂狩りで仕留めたら、里夢の犯行とバレてしまう。だから、目障りなキュリアに魂約の口吻を仕掛けるタイミングを、ずっと待っていた。

 魂に魔力の楔を打ち込まれ、命令に抵抗をして悶えるキュリアを、里夢は冷笑を浮かべて眺める。彼女に仲間意識は無い。あるのは、成り上がる野心のみ。


 数時間後、自死をしたキュリアの遺体が、山頭野川の河川敷で発見される。




-数日後-


 店は燕真と紅葉に任せ、雅仁&粉木は、佑芽を連れて、根古礼奈の最期の地になった県境を訪れていた。雅仁と佑芽が、道路の端に花束を手向け、粉木と並んで合掌をする。


「お姉ちゃん、守ってくれてありがとう。私、ちゃんと生きてるよ。

 しばらくは、粉木さんのところでお世話になることにしたの。」


 佑芽は、喜田CEOから見れば「任務を全うできなかった使えない駒」であり、佑芽自身、自分の人生を狂わせかけた喜田のところに戻る気は無い。粉木の「目の届かないところで佑芽をフリーにするのは危険」という判断もあり、ほとぼりが冷めるまではYOUKAIミュージアムに滞在することが決まった。


〈狗塚君・・・あの頃に比べて、優しい表情になったね。〉

「・・・ん?声?」


 雅仁の耳だけに、亡き同期の声が聞こえたような気がした。

 雅仁が広い視野を持つようになったのは、文架市を訪れてから。雅仁を知る者達は鬼退治を成就させて気持ちに余裕が出来たと判断するだろうが、声の主は、それが理由ではないことを知っている。他者を受け入れず、他者の評価を求めなかった雅仁は、燕真と接して、燕真が雅仁を受け入れ始めた頃から変わった。陰陽の名門が、退治屋としては遥かに格下の燕真との協調を求めたことで、視野が広がったのだ。


〈佑芽・・・狗塚君を、もっともっと、優しい笑顔にしてあげてね。〉

「え?・・・お姉ちゃん?」


 それは、声の主が雅仁に寄り添って、気付かせてあげたかったこと。だけど、自分にはできないから、最愛の妹に託す。


「復讐しか見えていなかった俺が優しい・・・か。

 俺に、その感情が残っていることを気付かせてくれたのは、

 おそらく君なんだろうな、根古礼奈。」


 文架市に来て、周りが見えるようになった今の雅仁ならば、根古礼奈とは、もっと違った接し方をできたのかもしれない。雅仁は、視野が狭かった当時を反省し、同時に、失われた礼奈に語りかけ、彼女の代わりに、生きている自分ができることを模索する。

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