第28話・エクストラ
今、ザムシード達の前に立っているのは、セイテンでもクロムでもない。25年前と同じ姿をして、25年前から一歩も動いていない怨念の塊。死ぬ寸前まで、かつての師を恨み続けた日向信虎の魂。
その名は、妖幻ファイターブロント!
25年前、銀メダル事件のリーダー格として、異獣サマナーアデスに命を絶たれた粉木の弟子である!
「ようやく・・・この時が訪れた」
ブロントはゆっくりと周囲を見回し、粉木と砂影に視線を止める。
「老いたな・・・粉木さん・・・砂影さん。」
「・・・信虎。」
「ホンマに・・・オマンなんか?」
「俺です。ずっと、この時を夢に見ていました。 アンタを殺せる日を!!」
ブロントは、固定武器のカギ爪を粉木達に向けて、属性メダル『雷』を装填!爪部分にエネルギーがチャージされ、掌から放たれ、雷球となって粉木達を襲う!
「うおぉぉぉぉぉっっっ!!!」
状況が飲み込めずに棒立ちになっていたザムシードが、粉木を庇うようにして間に立ち、雷球を受け止めた!雷球は、ザムシードの全身を痺れさせ、爆発をする!吹っ飛ばされて地面を転がるザムシード!
「・・・くっ!」
立ち上がって体勢を立て直すザムシード!今度はガルダが、ブロントから粉木を庇うようにして立つ!
「粉木さん!倒すべき敵と判断して良いんですよね!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・粉木さん!?」
粉木への復讐心のみで動くブロント・・・だが、粉木は、なにも答えることが出来ない。
-店内-
粉木と砂影を追って駐車場に出ようとした紅葉を呼び止める声がする。
「ぇっ?誰っ?」
振り返る紅葉。店内では、先程までは居なかったはずの中国の道服を着た2人組=地獄の書記官・司録&司命が、カウンター席に座って、コーヒーを飲んでいる。
「強い恨みか。クックック・・・かなり厳しい相手だな。」
「見物だな。時間は掛かったが、メダルの準備は整いつつある。
あとは、ザムシードがスイッチを押せるかどうか・・・。」
「クックック・・・小娘、
念の為に、もう少し霊力を封じ込めておいたらどうかな?」
「ぇ!?なにっ!?何の事っ!?」
事務所内では、銀色メダル強奪で穴の空いた金庫の中では、まだ機能をしていない水晶メダルが保管をされている。
***25年前・退治屋本部(旧社屋)********************
事務所では、上司の砂影滋子と、部下の粉木勘平が、「次の弟子」について、低レベルな議論をしていた。
「なんやて?またかいな?
1週間前に弟子が独り立ちしたばかりやで!ちっとは休ませいや、滋子!」
「仕方ないやろ!
いくら手を抜くフリをしたって、
アナタの実績ちゃ、上がそんぐり把握しとるが!」
「オマンが細々と報告するからやろが!ちっとは隠せや!!」
「そうはいかんわ!
アナタの下に付いた弟子ちゃ、その後も皆、順調に活躍しとるのちゃ!」
2人がどうでも良い議論をするのは、今に始まったことではない。日常茶飯事な光景なので、特に誰も気にしていない。それどころか、「相変わらず仲が良い中年バカップル」と茶化す者まで居る。
「やれやれ・・・面倒臭い女を上司にしてもうたわ!」
滋子と勘平の付き合いは、2人が退治屋に所属をする前から続いている。彼等がもっと若い頃は、周りの人間は「息が合う2人は、やがて結婚するだろう」と思っていたが、2人が所帯を持つ事は無かった。
勘平は、若い頃から、心の片隅で「死」と向かい合っていた。だから、新しい家族を背負う気が無い。
「今回の子ちゃ、これまで就学してきた子の中で、
いっちゃん優秀な成績を修めとるわ。
狗塚家と同等の潜在能力とか、数百年に1人の逸材と評価しとる人もおる。」
「だったら、評価しとるヤツに付ければええやろが!」
「へぇ~~~・・それで良いが?
弟子にしたいっていっちゃん熱望しとるのは、喜田常務なんやけどね。」
「・・・あの、自己保身ばかりの、頭でっかち・・・か。」
喜田御弥司は、実力ではなく、血縁で幹部になった男。彼の先代や先々代が存在しなければ、退治屋は今の体制には成れなかったのだが、勘平は彼を嫌っている。
「政治と自己保身に労力を割いとるヤツなんぞに、
数百年に1人の逸材は預けられんか。
しゃ~ない、ワシが面倒を見よう。なんちゅう名前の子や?」
「日向信虎、20歳!・・・頼んだわよ、勘平師匠!」
「・・・はいはい」
勘平の了承から3日後、まだ少年の面影を残した20歳の若者が、勘平の弟子として配属をされた。
その日から、有能な師と、逸材な弟子の、退治屋業務が始まる。最初の数週間は、別師弟のサポート任務に就く。情報収集や防衛結界製作など、有能な師と、逸材な弟子は、与えられた任務を着実にこなした。次の任務は、比較的大きな妖怪事件のサポートである。まだ最前線ではないが、前の任務よりも前線に近い位置で、着々と経験を重ねていった。
そして、弟子入りから数ヶ月で、日向信虎は才能と実績を認められ、妖幻システムを与えられた。これは、前線に出て、独自の判断で、妖怪と戦えることを意味している。
「今まで、よう頑張ったな!」
「師が良いんですよ!」
「封印妖怪はなんじゃ?」
「雷獣です!」
「名は?」
「妖幻ファイターブロント!
4千万年前に生息したブロントテリウム(雷の獣)という哺乳類に因みました!」
「強そうな名やないけ!」
弟子の晴れ姿を喜ぶ勘平。特殊な家系の狗塚家を覗けば、妖幻システムの獲得時期として、有史以来で最速の出世だった。
-文架市・羽里野山-
同じ頃、鬼が活性化を始め、各地で妖怪事件が頻発するようになる。鬼討伐は、退治屋ではなく、名門狗塚の役割だが、時として退治屋と狗塚は共闘する。
「鬼族の繁忙か・・・嫌な時期だ。」
「オマンはどうするんや?例によって、傍観かいな?」
「もちろんだ。要らぬ争いに首を突っ込む気は無い。
鬼共が止むまで、せいぜい、温和しくしているさ。」
「あぁ、そうしてもらえると助かるわい。」
勘平は文架市に赴いて、氷柱女と話をした。鬼の活性化に便乗をして、暴れ回る妖怪も多くなる時期だが、勘平と気心の知れた女妖怪は、その流行に乗る気は無い。
「粉木さん・・・なんで、あの妖怪は始末しないんですか?」
「始末する必要がないからや。」
「でも・・・妖怪は討伐対象ですよね?」
最初の擦れ違いだった。日向信虎は、氷柱女を退治する為に、単身で羽里野山を登った。単純に、妖怪は全て倒したいという潔癖な思惑もある。強い妖怪ほど強い武器になるから、封印したいという渇望もある。だが、氷柱女からは見透かされており、何処を探しても、氷柱女を発見することは出来なかった。
時を同じくして、妖怪事件が発生する。勘平は直ぐに現場に到着をしたが、羽里野山を登山中の信虎は現場に向かうことが出来ない。
事件は、勘平の変身した異獣サマナーアデスが、被害が拡大する前に解決した。
「バカもんがぁぁっっ!
任務中に単独行動をして事件に間に合わないとは、どういうつもりだぁっ!!」
有能な師は、逸材な弟子を、初めて怒鳴った。これまで、粉木から注意されることはあっても、怒鳴られることはなかった。信虎は素直に謝罪をしたが、心に片隅で「サッサと氷柱女を倒していれば、こんな事には成らなかった」と甘い師を批難する。
一方、弟子思いの師は、今回の一件を上層部には報告しなかったが、自分の意見を無視して「氷柱女を倒そうとした」信虎に、一抹の不安を感じるようになる。
師は「弟子は危険な思想を持っているが、まだ若いから、徐々に強制すれば良い」と考えていた。
弟子は「師は考えが甘い部分を除けば、尊敬すべきところはいくらでもある。師の教えに従っていれば間違った行動は無い」と考えていた。
2人の間にある僅かな軋轢は、表面化をすることはなく、円滑な師弟関係が続く。銀色のメダルが、開発をされるまでは。
「そんな、危険なシステムを、弟子に使わすわけにはいけへん。」
初の被験者に選ばれたのは、日向信虎だった。上層部は、才気溢れる若者に使わせる為ではなく、実戦経験が豊富な勘平に観察をさせる為に、勘平の弟子に白羽の矢を立てたのだ。勘平は、迷うことなく銀色メダルの受け取りを断った。銀色メダルの危険性と、弟子の危険思想。勘平は、2つの危険を交わらせる気は無かった。
だが、勘平では話にならないと判断した喜田常務は、信虎に、直接、銀色メダルを渡して、被験者に成ることを依頼する。
「アカン、信虎!安易な力なんて、必ずシワ寄せが来る!!」
「俺を侮るな!俺は使い熟します!
ずっと思っていました!!師匠は甘いんです!!
悪を淘汰する力なんて、いくらあっても、足りないくらいです!!」
師弟に入った亀裂は、日増しに大きな物になっていった。
そして、再び心が交わることはなく、銀色メダルを受け入れない勘平は地方に左遷され、数ヶ月後に最悪の再会を果たす事に成る。
銀色メダルによって封印妖怪に心を支配された者達の決起。彼等は、戦闘力と権力を渇望し続けた。
話し合いによる解決を望んだ社長は、反乱を主導した妖幻ファイターブロントに、一太刀で切り捨てられる。何人かの参加者は、リーダーの問答無用な対応に驚いたが、社長が生贄にされたことで、もう止まることが出来なくなった。
本部は反乱者達の手によって、過去の遺物として炎に焼かれた。本部で学んでいた子供達が、一ヶ所に集められ、変身を解除した日向信虎によって、1人ずつ「自分達と、上層部のどちらに学びたいか?」を問われる。その中には、少年時代の猿飛空吾の姿もあった。生きる為の答えは1つしかない。反逆者に賛同しない「悪い子」は殺されるだけである。
「信虎!!・・・オマン、何をやっとるんや!?」
「・・・ん!?」
狂行を続ける信虎を呼び止めたのは、異常事態を聞いて、左遷先から駆け付けてきた粉木勘平だった。
かつての弟子は、師弟関係が円滑だった頃とは別人のような、闇に憑かれた顔をしていた。
「お久しぶりですね・・・粉木さん。
聞き分けの悪いバカばかりで困っていたところです。
アナタは俺達に賛同しますよね?」
「するわけないやろが!!」
「・・・・フン!残念です!」
「何や、オマエ、その顔は!?人間を辞めたんか!?」
「俺は、人間を越える素晴らしい力を得たんだ!
臆病者のアンタには一生解るまい!」
「愚か者!!それの何処が素晴らしい力や!!?」
「素晴らしい力ですよ!
その証拠に、沢山の仲間が俺に賛同し、俺に歯向かえる者は誰も居ない!!
アナタの愛弟子は、誰よりも一番強くなったんです!!」
「大馬鹿者めっ!!妖怪に心を奪われおってっ!!」
蝙蝠をシンボルに持つホルダを翳す勘平。Yケータイを構える信虎。2人は睨み合いながら、同時に変身ポーズを決める。
「変身!!」
「幻装!!」 《BRONTO!!》
異獣サマナーアデス、妖幻ファイターブロント登場!
アデスはサーベルを、ブロントは大太刀を構えて、突進を開始!幾つもの剣閃を交える!
吹っ飛ばされ、焼かれた壁に叩き付けられるアデス。前線を退いた老兵と、最前線に立つ若者。30年近く前のロートルシステムと、銀色メダルで底上げされた最新システム。力の差は歴然。アデスの戦闘能力では、ブロントには全く刃が立たない。
「ハハハッ!どうしたんですか、粉木さん!
上層部と同じで、偉そうな能書きを垂れるワリには、何も出来ないんですか!?」
「・・・チィィ!」
「まだ、アンタには切り札があるでしょう!
銀色メダルの元になったカードが!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ブロントの指摘通り、アデスには、まだパワーアップの手段があった。使えば戦闘能力は底上げされる。だが、勘平は使いたくなかった。この状況で使ってしまえば、力を渇望する信虎達と同じになってしまうと考えていた。
「眼を覚ますんや、信虎!そして、剣を収めて罪を償え!!」
「寝ぼけているのはアンタの方だ!何故、この力の素晴らしさが解らないんだ!!」
「心が置き去りにされる力なんぞ、ただの暴力やっ!!」
「置き去りなのはアンタ等のように、力の素晴らしさを理解出来ない老害だけだ!」
「それは独裁や!それではアカンのや!」
「独裁で良いんですよ!時代を作るのは、常に一握りの天才だ!!」
アデスは何度も、ブロントの心に呼び掛けた。だが、最初の被験者に選ばれたがゆえに、妖怪によって最も心が破壊されていた弟子は、既に人間の心を取り戻せなくなっていた。
何度も叩き伏せられ、吹っ飛ばされ、床を転がり、徐々に追い詰められていくアデス。対するブロントは、息一つ切らせていない。アデスが敗北をして切り捨てられるのは、時間の問題であった。だがそれでも、捕らわれていた子供達は、隙を見て逃げることが出来たから、自分の役目は終わっても良いと考えていた。
「勘平っっっっ!!!」
ボンヤリと自分の終焉をイメージしていたアデスの耳を劈くように、滋子の怒鳴り声が聞こえてきた。我に返り、声のする方を見上げるアデス。勘平を心配する滋子が、戦場に駆け付けてきたのだ。
「アホンダラッ!何で来たんやっっ!!」
「勘平が心配やったさかいっ!
もう会えんんでないかって・・・嫌な予感がしたさかいっ!!」
「・・・滋子」
滋子が戦場に踏み込んだことで、アデスは進退が窮まった。精神的には、今まで以上に追い詰められる。自分が殺されて終わりには成らない。次に滋子が殺される。
剣を構え、勝利を確信し、アデスにトドメを刺す為にゆっくりと近付いてくるブロント。もう、アデスに迷っている暇も、死を受け入れる余裕も無かった。
《マキュリー!!》
咄嗟に、パワーアップのカードを翳すアデス。・・・彼自身、その先の事は、あまり覚えていない。
気が付いたら、アデスが駆るバイクの先端が、ブロントの腹を貫いていた。苦しそうに呼吸をするブロント。マスクの下で喀血をする。致命傷なのは明らかだった。
「・・・信虎」
このままでは、かつての弟子が、あまりにも哀れすぎる。アデスは、バイクを後退させ、ブロントの腹から先端を引き抜く。ブロントは、致命傷の腹を押さえ、再びマスクの下で喀血し・・・だがそれでも両足を踏ん張らせて立ち続け・・・最後の力を振り絞って、握っていた剣を振り上げ、アデス目掛けて振り下ろす。
「粉木ぃぃぃっっ!!」
「この・・・大バカもんがっ!!」
咄嗟に剣を振り切るアデス。ブロントの切っ先はアデスに届く事はなく、アデスのサーベルはブロントの腹に打ち込まれた。苦しませずに死なせてやる事、それがアデスの、弟子だった男に対する最後の決断だった。
「自慢の愛弟子だった。殺したくはなかった。
退治屋の歴史に・・・勇名を刻むと信じていた。」
ブロントは膝からガクリと崩れ落ち、変身が解除されて日向信虎に戻り、俯せに倒れる。最後の力を振り絞り、「これは誰にも渡さない」と叫ぶような表情で、床に落ちている銀色メダルに手を伸ばす。
血の涙を流し、憎しみに満ちた眼でアデスを睨み、呪いの言葉を吐き捨てる信虎。端正だったその顔は、炎によって焼け爛れていく。
「ア・・・アンタが憎い!・・・アンタさえ居なければ・・・俺は・・・」
それが、日向雅虎の最期の言葉と成った。
振り返ろうともせず、背中で一身に恨みを背負い続けるアデス。弟子が哀れすぎて、直視をする事が出来なかった。
変身を解除した勘平は、炎の中で表面が焦げたメダルを拾い上げて、直ぐに理解をした。勘平のみに向けられた呪いは、勘平が触れて苦しむ事のみを喜び、他の者が触れる事を拒む。
勘平の背後には、滋子が立っていた。だが、勘平は、何も言わず、振り返りもせず、その場から立ち去っていく。滋子は、勘平が泣いている事に気付いていた。だからこそ、何も言わずに見送る事しかできなかった。
炎上する社屋から勘平が出てくると、喜田常務と、生き残った退治屋達が、中の様子を確認しつつ待機をしていた。精も根も尽きていた勘平は、「この状況で日和見か?」と呆れたが、悪態を言葉にする気力も失せていた。
「首謀者は始末した・・・あとは、オマン等に任すで。」
「日向信虎を・・・弟子を・・・自分自身の手で?」
「あぁ・・・そうや。」
反乱のリーダー格が倒れたという報を聞いた退治屋達は士気が上がる。鎮圧軍の歓声を聞き流しながら、その場から立ち去っていく勘平。彼には、喜田常務達が喜ぶ理由が、全く理解出来なかった。
首謀者を失った反乱軍は、急激に士気を低下させ、その日のうちに鎮圧をされた。大半が捕縛され、残る数人は抗って戦死をした。捕縛された者のうち数名は、監視の眼を盗んで逃亡する。その中に、里夢の母、夜野圭子の姿もあった。
この事件は、新社長に就任した喜田の指示で「ただの火災」として処理をされる事になる。民間人どころか、狗塚家や、地方の退治屋すら、事件の真相を知らない。知る者は、当時、本社にいた者と、粉木勘平だけ。
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-YOUKAIミュージアム駐車場-
妖幻ファイターブロントが25年前に事切れる直前のまま、憎しみに満ちた眼で、粉木を睨み付けている。
まるで、25年前に終わったはずの舞台が、現代にタイムスリップしてきたかのように。
「・・・下がれ、狗塚。
アレが用があるんは、ワシだけや。オマン等には、何の害もあらへん。」
「・・・で、ですが」
「ええから下がれ!これは命令や!!」
粉木は、ガルダと肩を並べ、「部外者は入ってくるな」と眼で訴えながら、腕でガルダを押し戻すようにして前に出る。
粉木は、何かを悟ったかのような眼をしていた。過去の弟子は、怨念と成ってまで、粉木勘平の死を求めている。こんな危険な物と、若い奴等を対峙させたくない。 怨念が自分の死を望むなら、怨念を晴らす最も簡単な方法は、自分が怨念に殺される事。それで、因縁は全て終わる。
「なぁ、信虎・・・オマン、そんなにワシが憎いんか!?」
「あぁ!憎い!!」
「・・・そうか、解った。」
50年前に親友を失った。25年前に愛弟子を失った。粉木勘平は、常に死に遅れて、生きてきた。もしかしたら、25年前のあの日、共に死ぬべきだったのかもしれない。粉木勘平の人生は、あの時に終わったのかもしれない。それならば、25年前の亡霊に連れて行かれるのも道理である。
粉木は、怨念の責任を、自分の命で償おうとしていた。・・・だが!
「そんな命令、聞けね~よっ!!よく解んね~けど、ジジイがヤバいんだろうに!!
だったら、倒せって言えよっっ!!」
ザムシードが、猛然と飛び込んでくる!そして、粉木を庇うように割って入り、妖刀ホエマルを振り上げて、ブロント目掛けて振り下ろした!ブロントがカギ爪で妖刀を受け止める!
「退け!俺はオマエなど興味は無い!」
「いきなり出て来て何なんだ!?何でジジイを狙う!?何者なんだ!?」
「俺は・・・其処にいる粉木さんの弟子・・・日向信虎!」
「・・・弟子?」
ブロンドのカギ爪が放電をして、交わっている妖刀を伝わり、ザムシードに流れ込んだ!全身が麻痺をして動けなくなるザムシード!息つく暇も無く、ブロンドの電気を帯びた強烈な蹴りが、ザムシードを弾き飛ばす!ザムシードは地面を転がり、首を横に振って正気を保ちながら立ち上がった!その間に、ガルダがザムシードの前に立つようにカバーに入っており、ブロントの追撃を封じる!
「ジジイの弟子・・・ジジイが嫌い・・・銀色のメダル・・・
理屈はよく解んね~けど、やっと理解出来た!
要は、念の隠った依り代で、面倒臭いもんが実体化した!
・・・何が下がれだ、ジジイ!?普通に退治屋の範疇の仕事じゃね~か!!」
「佐波木・・・本当に解っているのか!?これは、妖怪とは全く別の・・・」
「よく解んね~って言ったろ、狗塚!ワリ~けど、あとで詳しく教えろっ!!
とにかく、ジジイがヤバイってのだけは事実なんだろうが!!」
再びブロント目掛けて突進をするザムシード!妖刀とカギ爪が交わる!鍔迫り合いをしながら睨み合うザムシードとブロント!
「オマエ、本当に退治屋なのか!?」
「退治屋だ!!ジジイの今の弟子だよ!!文句あるか!!」
「退治屋の職務は妖怪退治だ!!」
「知ってるよ!だからなんだ!!」
「オマエは粉木さんを助けると言った。だが、人助けは退治屋の範疇ではない!!」
「知ってるよ!
いつも、妖怪退治以外の事をして、マイナス査定されるからな!
オマエに言われる前から、ジジイや狗塚に、散々、嫌味を言われている!
それがどうしたっ!?」
「話にならん!!」
再びブロントのカギ爪が放電をする!今度は、鍔迫り合いを止め、数歩退いくザムシード!ブロントから離れれば感電をせずに済むと考えたのだが甘かった!電気はカギ爪から掌に集まって、雷球と成ってザムシードに放たれる!再び痺れて全身が動かなくなるザムシード!
ブロントは、妖刀ホエマルの倍も長さのある大太刀を装備して、刀身に電気を通し、ザムシード目掛けて振り下ろす!全身が麻痺中のザムシードは、何1つ対処出来ずに、鋭い剣閃を叩き込まれ、再び感電をして、地面に両膝を落とした!
「トドメだ!!」
大太刀の切っ先を空に向けるブロント!蓄積されていた電撃が閃光と成って天を突き、幾つもの稲妻と成って、ザムシード目掛けて、上空から降り注いだ!
「うわぁぁぁっっっっっっ!!!」
ザムシードは、落雷の直撃を喰らい、全身から火花を上げながら仰向けに倒れ、変身が解除されて燕真の姿に戻って意識を失う!
ザムシードは、一発も攻撃を当てることなく、ブロントに倒された!圧倒的な力の差だ!銀色のメダル、増幅された闇、復讐の強い意志、完成された逸材、全てがザムシードを凌駕していた!
邪魔者を退けたブロントは、燕真を見下ろした後、粉木に視線を移す!
「なんだ、この未熟者は!?これで妖幻ファイター!?
この出来損ないが、粉木さんの弟子!?
まぁいい・・・出来が悪くても、コイツが弟子ならばっ!!」
刀身を下に向けたまま大太刀を振り上げ、燕真の心臓目掛けて切っ先を突き降ろすブロント!上空から蝙蝠型のモンスターが出現して、ブロントに体当たりをして、燕真へのトドメを妨害する!
ホルダを翳し、ブロントを睨み付けながら身構える粉木!
「オマンが用があるんはワシだけやろ!?燕真は関係無いはずや!!」
「それは、コイツがアンタの弟子と知る前の話。
俺は、アンタの生きた証を全否定したいんだ!
だから・・・コイツも否定する!!」
「それは・・・ワシを倒してからにせい!!」
「ようやく・・・その気になってくれたか」
「・・・あぁ」
粉木の全身から、言い様の無い悲しみと悔しさが、吐き気のように込み上げてくる。自分は同じ弟子を二度も殺さなければならないのか?一度だけでも、心を締め付ける傷になってしまったのに・・・。
だがそれでも、背負わなければなならない。25年前に、砂影滋子を殺させない為に、死に場所を失ったように、今度は、佐波木燕真が守る為には、自分が殺されるわけにはいかない。
粉木は、腹を括り、サマナーホルダを翳す!
「変・・・」
「危ないっ、勘平!!」
粉木が構えた瞬間、ブロントの大太刀が粉木目掛けて素早く振り降ろされた!砂影の喚起の大声が上がる!
「・・・なっ!?」
肩口から血を流し、驚きの眼でブロントを見つめる粉木!ブロントが持つ大太刀の切っ先は、粉木の肩を掠めた鮮血で塗られ、粉木の眼前で、ガルダの構えた妖槍と切っ先を交えている!ブロントの不意打ちを察知したガルダが、辛うじて狂剣を止めたのだ!
「何のつもりだ!!オマエ、粉木さんが変身をする前を狙ったな!!」
「フン!誰が雌雄を決すると言った!?俺は、粉木さん命が欲しいだけなんだ!
変身をした異獣サマナーと戦いたいワケではない!!」
「・・・なんてヤツだ!」
「オマエは!?オマエも粉木さんの弟子!?
いや、違うな、その姿は天狗、狗塚の当主か!先ほどの素人とは違うわけだ!」
ブロントは、ザムシードを退けた時と同様に、大太刀に電気を帯びさせている。しかし、切っ先を交差させているガルダは感電をしていない。ガルダは霊術により、妖槍に風の属性を帯びさせていた。妖槍の周りにある風が防御壁となり、ブロントの電気を相殺しているのだ!
「流石は名門狗塚・・・利口だな!だが、部外者は退け!
そっちに転がっている弟子はともかく、鬼の退治屋には用は無い!」
粉木は、傷付いた肩を手で押さえて、数歩後退をする。砂影の声で反射的に身を退かなければ・・・ガルダが割って入らなければ・・・粉木は今の一撃で斬殺をされていただろう。
「・・・信虎・・・オマン、其処までワシを?」
「言っただろう!
俺は、アンタを全否定する!!アンタの生き様を全・・・・・・・」
「さっきから、うるせぇぇっっ!!」
意識を取り戻した燕真が、猛然と飛び込んで、ブロント顔面に拳を叩き込んだ!
想定外の攻撃を受け、ガルダとの斬り結びから離れて、2歩ほど後退するブロント!ガルダは想定外すぎる燕真の行動に唖然とする!
「いってぇ~~!
やっぱ、妖幻ファイターの顔面て、素手で殴るもんじゃないな・・・。」
燕真は手首を振って拳の痛みを和らげつつ、ブロントを睨み付けた!
「・・・出来損ないがっ!!」
「確かに今は出来損ないかもしんね~!だけど、今に見てろよ!!
いつかは必ず、オマエ以上の有能な弟子になって、
独り立ちしてやるからなっ!!」
「・・・・佐波木、それは絶対に無理だ!」
「・・・それでは、一生、独り立ち出来んわね!」
「オマンが成れるわけないやろ!」
「うっせ~ぞ、イヌ、ババア、ジジイ!!
冷めたツッコミ入れるシーンじゃないだろう!少しは感動しろっ!!」
-YOUKAIミュージアム・事務所内-
紅葉が、ひとけの無い室内を覗き込む。本棚の奧、金庫に中から、何かの気配が漏れている。近付き、中を覗くと、水晶のメダルが、以前、紅葉が霊力を込めた時と同じように、淡い光を放っていた。
「なんで?・・・今ゎ、誰も触ってぃなぃのに・・・」
穴の中に手を入れ、水晶メダルを取り出す。不思議な感覚である。まるで、メダルが脈を打っているように感じられる。そして、以前と同じように、紅葉の気持ちを高揚させ、霊力を欲している。
「どぅなってるの?」
メダルにも興味はあるが、今は駐車場の戦いの方が気になる。紅葉は、メダルを握り締めたまま、事務所から飛び出し、喫茶店内を通過して、駐車場に駆けていく。
その後ろ姿をジッと見つめる司録&司命。
「エクストラに必要な物・・・
その1つは、能力を底上げされたザムシードに、食わせる妖力・・・
ザムシード(閻魔大王)と同種の妖力・・・」
「手段は2つ・・・。
1つは、人間が霊力を、ザムシードに近い妖力に変換をして与える・・・。
もう1つは、最も簡単な手段・・・地獄の住人が妖力を与える事・・・。」
「・・・大王様本人、わし等書記官・・・・そして、鬼。」
「エクストラの力に、満たされるという人間界の概念は無い・・・
決して満タンにはならない。」
「だが、妖力が封じられていれば、起動はする・・・
内包妖力は、エクストラの稼働時間に作用する。」
「奴等が気付いておらぬだけで、答えは最初から手の中にある・・・。」
-YOUKAIミュージアム駐車場-
立ち上がり、燕真を睨み付け、大太刀を向けるブロント!一方の燕真は、『閻』のYメダルを握り締めて身構える!
「アンタ、なんでジジイを恨んでんだ!?」
燕真は今更、なんでこんな質問をするのだろうか?
粉木に殺されたから粉木を恨んでいる。それは、此処に居る誰もが把握済み。粉木と砂影は驚き、ガルダは呆れ、ブロントは苛立ちを募らせる。
「だってさ、アンタ、正々堂々と戦って負けたんだろ!?
ジジイがスゲー嫌なヤツで、何もしていないのに、
いきなり殺されたワケじゃないんだろ!?
もっと言えば、命を掛けて反乱したんだろ!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「それとも、オマエみたいな出来のイイ奴って、命なんて掛けないのか?
プライドとかそんなのを掛けちゃうのか?
俺、命の他に、掛けるもん、何も持ってないからさ・・・
出来のイイ奴の考え方が解らないんだ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「だいたいさ、25年前の事件で一番悪い奴って誰なんだ!?
ジジイなのか?アンタなのか?その時の社長なのか?
銀のメダル作ったヤツなのか?
俺には全部違う気がするんだ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「いくら考えても解らないんだよ!
俺がアンタの立場だったらどうなんだろう?って・・・。
やっぱりジジイを恨むのかな?
事件の話は、ジジイからしか聞いていないから、
俺にはアンタの言い分は解らない。
でも、ジジイが、一方的に恨みを買うような極悪人じゃないのは知っている。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ジジイは反省ばかり、狗塚は否定ばかり、ババアは心配ばかり、
オマエは恨みばかり、
利口なヤツの考え方は俺には理解出来ない!だから、教えてくれ!!」
「下らない事をゴチャゴチャと・・・」
苛立ちが最高潮に達したブロントは、大太刀を斜め上に構えて、燕真目掛けて突進を開始する!
「・・・・・・・・え?こんだけ話したのに全部スルー!??マジでっ!!?
1個くらい答えろ!!」
慌てて後退する燕真!ガルダが銃を連射して、ブロントを足止めする!
「このバカ!未熟者!サッサと変身をしろ!!
・・・と言うか、生身でブロントを殴る余裕があったら、その前に変身をしろ!」
「悪ぃ!体が勝手に動いてた!」
燕真は、左手のYウォッチから『閻』メダルを抜き取って和船バックルに嵌む!
「幻装っ!!」
妖刀を召還して構えるザムシード!ブロントは大太刀を頭上に構えて、ザムシード目掛けて突進!ザムシードは振り切られた大太刀の刀身を受け止めるが、衝撃を受け流しきれず、バランスを崩して数歩後退をする!刀身を返して、2撃目を振るブロント!ザムシードは慌てて妖刀で防御するが、やはり力負けをして、衝撃を抑えきれずに後退をする!すると今度は、電撃を帯びたブロント蹴り飛んで来て、ザムシードの腹に炸裂!更に、ブロントの掌から放たれた雷球が、全身が痺れて動けないザムシードを弾き飛ばす!この戦いで何度目だろうか!?またも、無様に地面を転がる!
力の差は歴然。いくら仕切り直しても、最も無能な弟子が、最も優秀な弟子に適う術など見当たらない。だが、ガルダも粉木も、戦いを眺めたまま、動けなくなっていた。
「のう、狗塚・・・さっき燕真がヤツ(ブロント)に聞いた事、理解出来たか?」
「・・・え!?」
「ワシには理解出来た。・・・だが、直ぐに答えてやる事が出来んかった。
多分、アイツ(ブロント)も同じや。
理解しながら、苛立ちで答えを誤魔化す事しかできないんや。」
「実は俺も・・・」
「おそらく、あのバカ(燕真)は、未だに何一つ解っておらん。
だが潜在的には解っておる。
何故なら・・・ヤツの質問その物が答えだからや!!」
砂影が寄って来て、粉木と肩を並べる。
「さっきまでは、信虎ちゃ、燕真の事をなーん相手にしとらんかったわ。
粉木の弟子やさかい、粉木のついでに殺す程度しか考えとらんかったはずちゃ。
でも今ちゃ違う・・・燕真に対する明確な攻撃意思を持っとる。
信虎ちゃ気付いしもたのちゃ。
いっちゃん優秀を自負する弟子が、いっちゃん無能を理解しとる弟子に、
根底を覆されしもた事を!」
ブロントは「粉木への強い憎しみ」を持ち続けている!だが、その根底にある物が何なのか、解らなくなっていた。苛立ちの原因は、「燕真の下らない質問」ではなく、「質問の答え」だった。有能な者が無能な者に八つ当たりをするように、ブロントはザムシードへの攻撃をしていた。
有能な者は、1を聞けば10を理解する。自分なりの10を見付けて行動する。其処に意見をぶつけ合うなどという無駄な行動は無い。
無能な者は、1だけを聞いても動く事が出来ない。10を聞いても5も理解できない。だから何度も聞き返す。20を行動して、間違いを否定され、やっと10を理解する。無駄な意見のぶつけ合いを何度も繰り返す。そうしなければ、何も理解が出来ないからだ。
「何故、恥も外聞もなく、その様な下らない質問を並べられるのだ!?」
1を聞いて10を理解する能力は素晴らしい。皆が、賞賛するだろう。だが、「1を言った者が求める10」と、「1を聞いた者が実行する10」は、本当に同じ答えなのだろうか?全く同じゴールを目指していたとしても、同じ答えにならない事もあるのではないか?求めるゴールがズレていたならばどうなる?
その連続が、20年前の事件に繋がったのではないのか?
もっと聞く事が出来れば・・・もっと踏み込み、自分の考えをぶつけていれば・・・擦れ違いは起こらなかったのではないか?
其処にいるのが日向信虎本人ならば、燕真の質問に耳を傾け、立ち止まる事が出来たのかもしれない。だが、其処にあるのは恨みの思念なのだ。恨みが、恨む事を止めるなど有り得ない。
何故、この男は、こんなに下らない事を聞ける!?何故、自分は、それを下らないと決めつけて聞かない!?
ワカラナイ・・・ワカラナイ・・・ワカラナイ・・・
「選ばれし者と凡百を一緒にするなっ!!」
何故、話し合おうとした社長を、問答無用で切り捨てた!?
ワカラナイ・・・ワカラナイ・・・ワカラナイ・・・
「無能な老害に何を言っても時間の無駄だっ!!」
あの日、憎かったのは、本当に粉木勘平なのか!?
ワカラナイ・・・ワカラナイ・・・ワカラナイ・・・
「ヤツがいなければ、俺は頂点に立っていたっ!!」
頂点の先には何がある?何を求めていた?
ワカラナイ・・・ワカラナイ・・・ワカラナイ・・・
「有能な者がトップに君臨する!それが道理!!
無能ごときが、対等な面をして、ほざくなぁぁぁっっ!!!」
渾身の雷撃を込めた大太刀が、ザムシードの脳天目掛けて振り下ろされる!一方のザムシードは、『炎』メダルを装填した妖鞘から妖刀を抜刀し、ブロント目掛けて振り上げる!2つの刃は交わることなく、互いの胸プロテクターに叩き込まれた!
「オマエ・・・相打ち狙いっ!!?」
「どうせ、受け止めたって痺れるんだろ!!?
だったら、受け止める意味が無いだろうにっ!!」
同時に爆発が起こり、ザムシードは弾き飛ばされて地面を転がり、ブロントは数歩後退をする!ブロントの武器の方がリーチが長い分、攻撃がクリーンヒットをしたのだ!
ザムシードの劣勢は変わらない。何をやっても、ブロントには数歩及ばない。だがそれでも、粉木もガルダも、戦いを見守り続ける事から動けなくなっていた。
「・・・佐波木。」
雅仁(ガルダ)は、日向信虎と似た気質を持っている。無駄話が苦手で、最小の会話で、最大の理解をしようとする。
文架市の退治屋を頼って、度々、紅葉と口論を繰り返すようになった。今でも煩わしく感じる事がある。何故、紅葉は、自分の理路整然とした意見を理解しないのか、文架市に来た当時の雅仁には解らなかった。だが、粉木や燕真と過ごし、会話を重ねるうちに、色々な意見が有り、正しい意見だけが全てではないと認めるようになる。
燕真は、紅葉に対して、時として意見を押し切られ、時として受け流し、時として真正面から受け止める。自分の意見だけで理論武装をして、相手の意見を受け入れない雅仁とは違った。主体性が無く、他人に流されやすい性格とも取れるが、天才肌の紅葉が、そんな燕真に居場所を見付けて心を開いている。
いや、紅葉だけではない。いつの間にか、自分も、佐波木燕真と共に居る事を楽しむようになっている。
「・・・燕真。」
粉木は、無能な弟子に対して何度も呆れてしまった。何度も怒鳴りつけ、意見をぶつけ合った。これまで、これほど理解力の乏しい弟子は居なかった。正真正銘の最も出来の悪い弟子である。
だが、だからこそ、燕真の考えている事は手に取るように解る。作戦中に燕真の危なっかしい部分は事前にフォローできる。
何故、燕真以外の弟子には、それが出来なかったのか?答えは、それを必要とされなかったからだ。だが、それで良かったのだろうか?もっと手を差し伸べ、意見を聞き、信念を戦わせる必要があったのではないか?
かつての弟子達に、技術を教える事はあっても、道徳は教えてこなかった。佐波木燕真は、退治屋としては最も劣っている。だが、心は誰よりも温かい。
「燕真ゎ大丈夫だょ・・・
だって、足が痛くてビリなのに、最後まで走ったんだもん。
スーパーヒーローゎ、どんなに痛くても、最後には勝つんだょ!」
合流をしてきた紅葉が、ガルダと粉木に肩を並べて呟いた。続けて、砂影が口を開く。
「天才は、‘出来ない事’を理解できない。
秀才は、‘努力が実を結ばない事を手抜き’と判断する。
どちらも、自分と同等の者以外を置き去りにしてしまう。
だけど、あの子は違う!・・・何も出来ないから、何も置き去りにはしない!」
妖刀を杖代わりにして、立ち上がるザムシード。あちこちから煙が上がっており、蓄積されたダメージで体が重たい。
粉木はあえて、燕真に託そうと考えていた。有能な師が、有能な弟子を育て、失敗をして、最後に行き着いた答えが、無能に託す事。燕真が負ければ、自分も25年前の恨みに殺される事を受け入れるつもりだ。
ガルダは、ザムシードが負けた時点で、彼が殺される前に、戦いに割って入るつもりだが、今は、凡人中の凡人が示す答えを見たいと考えていた。
「ジジイを殺されちゃ困るんだ!まだ、習わなきゃならないことが沢山ある!」
粉木&ガルダ&砂影は気付いていた。ザムシードは、この戦いに最も有効な手段を使おうとしない。
妖刀ホエマルには、物質を通過して、妖力のみを切る性能がある。ホエマルに白メダルを装填すれば、その機能は発動される。斬り合いならば、数太刀でブロントを弱らせる事が可能だろう。同様に、エクソシズムキック時に召還される地獄の炎は、物質には干渉せずに妖力を焼く。
「ヤツをちゃんと納得させる!
いくらムカ付くヤツだって、容赦なく地獄行きじゃ俺が納得できないんだよ!」
ザムシードは、土壇場まで、有効な手段を使う気は無かった。妖力斬りも、地獄の炎も、念に直接ダメージを与える。それでは、本当の意味で、念を晴らしてやる事は出来ない。以前、鵺に手も足も出ず、依り代の霊体少年を切る事でしか解決できなかった(第6話)。悔しくて仕方がなかった。もうあんな思いはしたくない。
「俺が出来る事は、全部試す!!」
紅葉の手の中で、水晶メダルがドクンと脈打つ。手を広げると、透明だったはずのメダルが、虹色の光に包まれ、ザムシードと同じ妖気を放っている。ザムシードに共鳴をしながら、更なる霊力を求めている。これまで、紅葉は、水晶メダルに2回の霊封を行ったが、メダルが満たされる事は無かった。次の霊封で満たされるのかも解らない。だがそれでも、終始劣勢のザムシードを助ける為に、一切の迷いは無かった。
「うにゃぁぁぁぁっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!」
紅葉は奇声を発し、燕真を黒いザムシードから救った時のように、限界を超えた霊力を、水晶メダルに注ぎ込む!
-喫茶店内-
「さて、そろそろ行くか。」
「あぁ、準備は整ったようだ。」
カウンター席から立ち上がる司録と司命。テーブル席に闇霧が発生して人影を作る。それは、穏やかな表情の青年姿になり、司録&司命を見詰めた。
「彼を頼むよ。」
「安心しろ。」
「宿敵の貴公に言われるまでも無い。」
司録&司命の姿が徐々に透明になり、やがて、飲みかけのコーヒーカップだけをカウンター上に残して、その場から完全に消えた。
「エクストラに必要な物・・・
もう1つは、倒す為や、成り上がる為の渇望ではなく、守ろうとする強い意志。
ザムシードの力と同じ・・・
力を当然と考える天才の類には使いこなす資格は無い。
力の有難味を知る凡人でなければ、危険な力は預けらない。
・・・つまり、彼は、最初から、どちらの答えも手にしていた。
その価値に気付いていなかっただけ。」
青年は闇霧へと姿を変え、その場から消える。
-駐車場-
紅葉の手のひらで、水晶メダルは、脈打ちながら光を放ち続けている。結局、3度目の霊封でも、メダルが満たされる事は無かった。だが、間違いなく起動をしている。
紅葉は、疲労で朦朧とする意識を確りと保ち、脱力気味の足腰に渇を入れ、ザムシードを真っ直ぐに見つめる!
「燕真っ!使ってっ!!」
渾身の力と、有りっ丈の思いを込めて、ザムシードに水晶メダルを投げる紅葉!ザムシードが受け取ったメダルは、温かい虹色の光に包まれている!
「エクストラの・・・力・・・?」
メダルの鼓動に反応をして、ザムシードのベルトが一回り大きくなり、和船バックルの左脇に、メダルを装填する窪みと、置いたメダルを弾く為のフリッパーが出現をする!
「・・・ん?ここに置けってことかな?」
ザムシードは、メダルの裏表を確かめたあと、状況をそれなりに理解して、頭上に掲げる!
戦いを見守っていた粉木には、その姿が、在りし日の妖幻ファイターブロントと重なる。何度「銀色メダルを使っては成らない」と諫めても、信虎は聞く耳を持たなかった。安易、且つ、安全に手に入る力など有り得ない。そんな便利な物が有れば、皆がその力に飛び付き、その力は特別な物では無くなる。特別な力には、必ずリスクがある。25年前の最も有能な愛弟子が、人格を破綻させてしまったように・・・。
「アカン、燕真!そない力、使うもんやない!!」
「何言ってんだよ!?使わなきゃジジイを守れね~だろうに!!」
「こいじゃ、25年前と変わらんのや!そないもんに守られとうはない!」
「説教ならあとにしろ!!恐怖の夜でもなんでも付き合ってやるっ!!
出来は悪いが、俺はアンタの弟子だっ!!師匠の心配をして何が悪いっ!!」
「そないもん、ワシは望んでおらん!!」
「ゴチャゴチャうるせ~っ!!俺を信じろっ!!!」
25年前と同じである。力を得た弟子は、師の言う事に聞く耳を持たない。だが、粉木には、それ以上は止める事は出来なかった。
ザムシードは、掲げた虹色のメダルを、ベルト脇の投入口にセットして、フリッパーで軽く弾いた!
メダルが、軌道の光を残しながら、ベルトの中を一周して、右側から和船バックルの中に装填される!
《LIMITER CUT!!》
〈答え合わせじゃ・・・。
エクストラに必要な物・・・1つは、ザムシードと同種の妖力。〉
〈もう1つは、凡人と知りながら、諦めない強い意志。〉
〈これほど待たされるとは、思いもしなかったぞ。〉
〈だが、それで良い。流石は凡人中の凡人だ。〉
「・・・え?」
ザムシードが両脇に気配を感じて振り向くと、いつの間にか、司録&司命が立っている。
♪キュィ~ン ♪キュィ~ン ♪キュィ~ン ♪キュィ~ン ♪キュィ~ン
《EXTRA!!》
アラームが鳴り響き、ベルトの周りで輪を作っていた虹色メダルの軌跡の光が、幾つもの輪になってザムシードの全身を覆う!同時に、司録&司命は、光に吸い込まれるようにして、ザムシードに重なる!
腕、肩、胸、腰、脛、そしてマスク、各プロテクターが変化!光の中から出現したその戦士は、雄々しく精悍な姿をしている!
妖幻ファイターEXTRAザムシード(エグザムシード)登場!
EXザムシードは、しばらく自分の手足を眺めたあと、ブロントに視線を向ける。
「そっちはハナっから銀色メダルで戦力が底上げされてんだ。
俺がパワーアップしても、卑怯って事には成らないよな・・・?
あとになってから、やっぱりズルイって言うの無しだぞ!」
「姿が・・・変わった?」
ブロントは変化をしたザムシードに一定の警戒をして身構え、一呼吸置いて、大太刀を振り上げて突進をしてきた!EXザムシードは妖刀オニキリ(EXに伴ってホエマルが進化した)を構えて、振り下ろされた大太刀と刀身をぶつける!大太刀に蓄えられた電撃がオニキリを伝って、EXザムシードに流れ込む!全身が麻痺をして動けなくなるEXザムシード!
観戦中のガルダと粉木は、「待望のパワーアップ直後にこれか?」と頭を抱えてしまう。
「さっきと同じミスをしていますね。」
「・・・凡人やからな。
安易に、パワーアップすれば効かなくなると考えたんやろ。」
ノーマル時に比べて耐久力が上がってが、痺れるものは、やっぱり痺れる。このままでは、また、電撃を込めた蹴りを喰らってしまう。
「ぬぐぐっ!こんにゃろうっ!」
EXザムシードは、鍔迫り合いで痺れに絶えながら、軽く仰け反って、渾身の力を込めて頭を前に突き出した!EXザムシードの頭突きが、ブロントの顔面に炸裂!ブロントは、想定外の攻撃を受けて数歩後退する!
「どうだっ!驚いたかっ、コンチクショー!!」
観戦中のガルダと粉木は、「待望のパワーアップ直後にこれか?」と頭を抱えてしまう。
「新しい必殺奥義は、エクソシズム頭突き・・・ですか?・・・斬新ですね。」
「そんなワケ、あらへんやろ。」
頭突きをされたブロントは意識を朦朧とさせるが、頭突きをした本人も意識が朦朧とする!だが、頭突きを喰らった方よりはマシなので、妖刀オニキリを振り回して、何度もブロントに叩き込んだ!そして、オニキリで大太刀を押さえ付け、再び頭突きを叩き込む!
「な、なんだオマエは!?
それほどの力を得ておきながら、何故、無様な戦いをする!?」
「俺には俺の戦い方ってのがあるんだ!
そんなもん、力を得たからって、急に変わるモンじゃない!!
天才のアンタと一緒にするな!」
「強大な力を、満足に扱う事も出来ない俗物がぁぁっっ!!」
「この力が、与えられた物であって、
自分の実力じゃない事くらい、ハナっから知っている!
俺は天才には成れない!勘違いをして、自分を見誤るつもりは無い!
だけど、俗物だからって、何もかもが天才に適わないわけではないだろうに!!
どんなに無様でも・・・どんなに藻掻いても・・・
俺はオマエに追い着いてやるっ!!」
凡人が天才と同じ行動をしても、天才には適わない。なら、凡人はどうするのか?ふて腐れて諦めるのか?自分よりも無能な者を見付けて嘲笑い、自我を満たすのか? それとも、泥臭く、がむしゃらに、自分が出来る事を探して突っ走るのか?
凡人・佐波木燕真は、その答えを知っている。凡人が天才に勝てない道理は無い。
「ザコのクセにっ!?」
防戦一方になったブロントは、飛び退くようにして大きく間合いを空け、体勢を立て直す!同時に腕のYウォッチに闇が広がり、ブロントの全身に流れ込んでいく!ブロントは枯渇したエネルギーを、銀色メダルに憑いた怨念の闇から変換して供給をしているのだ!
「・・・ん?気付きましたか、粉木さん?」
「あぁ・・・見えたで!」
「銀色メダルが・・・エネルギー供給によって、一時的に無防備になる!」
「今までは、急激にパワーダウンをする事が無かったよって気が付かんかった!
燕真との議論で、(ブロントは)怨念の維持が曖昧になってきちょるんや!」
ガルダと粉木は見逃さなかった。ブロンドが徐々に怨念の維持を出来なくなり、エネルギー供給をする一瞬だけ、銀色メダルを覆っている闇がブロントに流れ込み、銀色メダル本体は僅かな念だけになる。そして、供給が終わると、銀色メダルの中で、憎しみの怨念が増殖をする。
「ゴリ押しで倒すだけじゃ、コイツ(ブロント)と変わらない!
コイツがやろうとした‘力こそ正義’を認めることになってしまう!」
白メダルを使用すれば、念に直接ダメージを与えて晴らせなくなる。ならばどうすれば良いか、答えは簡単だ。白メダルを使わなければ良い。EXザムシードは、『斬』メダルを利き足ブーツにセットして、ブロントを正面に捕らえるように、腰を低く落として身構える。
「小者が理想を並べるな!」
苛立ちを募らせたブロントも、利き足のブーツに白メダルをセットして、大太刀を真上に向け、天に電撃の閃光を打ち上げる!今度は、先ほどのように、EXザムシードに落雷を直撃させるわけではない!雷はブロントの正面に落ちて、直径30センチくらいの、高濃度の雷撃球体を作り出す!
ライトニングシュート!それは、妖幻ファイターブロントの必殺技である!雷撃球体を渾身の力で蹴り、相手に叩き付け、衝撃と感電で死に至らしめる!雷撃球体に込められたエネルギーは、これまでの雷撃の比ではない!
「行くぜぇっ!!!」 「はぁぁぁっっっっっ!!」
ダッシュをして宙高く跳び上がり、跳び蹴りの姿勢になるEXザムシード!下降と同時に、足を切っ先とした1つの巨大刃に変化をする!ブロントは、空中では回避が出来ないEXザムシードを見て勝ち誇り、渾身の力で雷撃球体を蹴り上げた!
空中でぶつかるEXザムシードと雷撃球体!大爆発が起こる!・・・が、舞い散る爆煙の中から、真っ直ぐに降下してくる巨大刃(EXザムシード)が出現!
「なにっ!?」
EXザムシードは、ハナっから避ける気など無かった。ブロントの必殺技を喰らったのは今が初めてだが、雷球は何度も喰らっている。「どうせ何をやっても痺れる」ので‘雷’は完全無視、ただし、少しでも雷撃に晒されている時間を短くしたいので、衝撃に対する貫通力の高い、鋭角的な『斬』を選択したのだ。
「おぉぉぉぉっっっっ!!」
ブロントに巨大刃(EXザムシードの跳び蹴り)が炸裂!全身感電麻痺中のEXザムシードは、受け身を取れずに地面に激突し、ブロントは大きく飛ばされて地面を転がる!
想像以上のダメージを受けた為、ブロントを形成していた闇が剥がれて、セイテンの姿が見え隠れする!途端に、腕のYウォッチに闇が広がり、ブロントの全身に流れ込んで、ブロントの再生が始まる!粉木とガルダは、このタイミングを待っていた!
「メダルが無防備になる一瞬を狙えば・・・銀色メダルの念を祓える!!」
「狙いは一瞬だけや!」
攻略の糸口を見付けて動き出そうとするガルダと粉木!だが、察したEXザムシードが、痺れる体を奮い立たせて制止する!
「ジジイ・・・狗・・・余計なことはすんな!倒すんじゃない・・・晴らすんだ!」
「佐波木!君にできるのか?」
「燕真!これは綺麗事では済まん戦いや!」
「俺が負けたら・・・アンタ等のやり方を実行してくれ!」
悶着の間に、ブロントは闇を回復させ、カギ爪の先端を構え、手甲部分に白メダルをセットする!
ライトニングクロー!突進力を高めたブロントが、貫通力を高めたカギ爪を標的に突き立て、高圧電流を体内に直接流入させる、ブロントのもう一つの必殺技だ!
「若造・・・佐波木燕真と言ったな。」
起き上がるEXザムシード!今度は、ブーツに属性メダル『炎』をセットして身を屈め、ブロントに正面を向けて睨み付ける!
「やっと、ザコ扱いをやめて、俺の名前を覚えてくれたか!」
「オマエは凡人だ!・・・だが、ザコではない。」
「褒められてるのはバカにされてるのか解らん!」
ブロント目掛けて突進を開始するEXザムシード!跳び上がり、前方宙返りをして、ブロントに向けて右足を真っ直ぐに突き出した!右ブーツから炎が発せられ、破壊力が爆発的に上昇をする!
ブロントが、カギ爪を構え、迎撃の為に突進を開始!
***25年前********************
《マキュリー!!》
パワーアップのカードを翳すアデス!使役モンスターを変形させたバイクに跨がり、ブロント目掛けて突っ込んでくる!ブロントはライトニングクローを発動させて、迎撃の体勢に成る!
「フン!この程度か?」
バイクによる特攻など、恐れるに足らないと考えていた。だが、バイクから発射された竜巻がブロントを覆い動きを封じる。僅かに驚いたブロントだったが、竜巻の拘束を振り解くことなど容易い。縛めを弾き飛ばす為に、丹田に力を込める。
「スマン・・・真っ当に導いてやれんくてスマン、信虎。」
「なにっ?」
涙混じりの声が聞こえた。有能な師から謝罪の言葉を聞くのは初めてだった。それは、ブロントが一秒ほど動きを止めるには、充分すぎる言葉だった。
次の瞬間、アデスが駆るバイクの先端が、ブロントの腹を貫く。
**************************************
「そうか・・・思い出した。」
ブロントがアデスに破れた理由。謝罪に心を動かされながら、受け入れずに抵抗をしたから。謝罪を聞き流せていれば、竜巻の拘束は振り解けていた。謝罪を受け入れて抵抗を止めれば、アデスは奥義を中止しただろう。だが、どちらも選べなかった為に、隙だらけになり、アデスに貫かれた。
逸材の弟子は、有能な師を否定しながら、心の片隅では、彼を求めていた。だから、憎しみという形で、粉木勘平に拘り続けた。
・
・
・
「うおぉぉぉぉっっっっっっ!!!」
ブロントが突き出したカギ爪が砕け、ブロントの体に、業火を纏ったザムシードの蹴りが叩き込まれる!
〈一ヶ所にしがみついた無様な恨みでは、
無限の希望を発する想いには勝てぬ・・・か。
俺は、有能な師に従事するからには、
大成して期待の応える義務があると考えていた。
どこで拗らせてしまったんだろうな?〉
接触をしたEXザムシードに、穏やかな声が聞こえた気がした。
〈皮肉なものだ・・・オマエが、弟弟子でなければ・・・
あの時、オマエのような者が、俺の指標となる兄弟子の中にいたら・・・
俺は結果を焦らず、安心をして聞く耳を持てたのかもしれない。〉
「・・・え?」
〈才有る者は、自分を信じ無能を侮る。
自身が無能と気付かぬ者は、力も無いのに過信をする。
自分を平凡と識る者は、他者を認める。〉
ブロントは、炎に巻かれながら、宙高く吹っ飛ばされて地面に叩き付けられ、苦しそうに唸り声を上げながら立ち上がる!しかし、抵抗はそこまでだった!脱力して崩れ落ち、全身に纏わり付いていた闇が蒸発するようにして、空中に溶けていく。
「どうだかね?
立場が違っていたら、俺は問答無用で切り捨てられてたかもしれない。
でもさ・・・アンタを正気に戻そうとする声は、ずっと有ったのに、
アンタが耳を塞いでいただけなんじゃねーのか?
全部、アンタ自身が選択をした結果だ。」
〈俺自身の所為・・・か?死せる者には冷たい言葉だ。〉
「なんだよ?弟弟子に慰めて欲しいのか?」
〈・・・フン!〉
信虎の恨みが晴れたからなのだろうか?依り代と成った肉体も、闇と一緒に消滅をして、破壊をされたセイテンのYウォッチと、浄化をされた銀色メダルだけが残される。
ガルダと粉木と砂影は、その光景を、驚きながら見詰めていた。
「佐波木のヤツ・・・浄化の力を使わずに・・・」
「対話で、信虎の恨みを浄化しよった。」
25年前に起因する戦いは終わった・・・
疲れ果てたEXザムシードは、その場に腰を下ろし、変身を解除する。同じく変身を解除した雅仁が寄って来て、燕真に手を差し出して立ち上がるのに力を貸す。同時に紅葉が寄って来て、健闘を称えて燕真の背中をバシバシと叩く。つられて雅仁も燕真の背中を叩く!
「良くやったな、佐波木!」
「ょくゃったね、燕真っ!」
「イテ~よ、オメー等!死にかけてんだから労れ!!」
粉木と砂影は、25年前の因縁を断ち切った若者を、穏やかな視線でジッと眺めている。
過去、最も有能な弟子は言った。俺を侮るな・・・と。
現代、最も無能な弟子は言った。俺を信じろ・・・と。
彼等の意図は同じ。力を否定する粉木に応じない為の言葉だ。
だが、天才は自分の立場で発言し、凡人は相手の立場で発言をした。同じ意図でも、言葉が違えば、これほどの別の印象を受けるとは思っていなかった。
粉木は、燕真の発言を聞いて、それ以上は止めようと思わなかった。だがそれは、止めても無駄だと思ったからではない。この男は止める必要が無いと思ったからだ。
他人の意見を受け入れ、相手の立場で物を言える男は、間違えたりはしない。
燕真は気付いていないだろうが、凡人は凡人のまま、師を超えようとしている。粉木は、その温かい息吹をハッキリと感じていた。
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