第27話・アサシンリリス

 妖幻ファイターセイテンは、粉木の制止に聞く耳を持たず、銀色メダルをYウォッチに装填!装填確認の電子音声が鳴り響き、セイテンの纏う妖気量が増大し、戦闘能力が上昇を始める!


「おぉぉぉぉぉっっ!!」


 セイテンは、専用武器・如意棒を振り回しながらスプリガンに襲い掛かる!スプリガンは最初の2発を回避するが、先程までとはセイテンの攻撃スピードが違う事に気付き、3発目は回避しきれずに専用斧で受け止めた!

 スプリガンの手が衝撃で痺れる。攻撃の重さも、先程までとは別物だ。


「それが・・・銀色メダルか?た、確かに、素晴らしい効果だ!」


 てっきり、退治屋のアジトに、厳重に保管されていると思っていた。まさか、欲しているアイテムを目の前の男が持っているとは思わなかった。間違いなく「銀色メダル」は対戦中の退治屋を数ランクほどパワーアップさせた。


「・・・くそっ!目の前に在るってのに、手が届かないとは!」


 このまま、サシの勝負を続けられるなら、銀色メダルを掠め取るチャンスは在るかもしれない。しかし、魔法陣が不発に終わり、オーガが倒された今、残りの退治屋が集まって来るのは時間の問題だ。場合によっては、リリスが戦いのニオイを嗅ぎ付ける可能性すらある。この場に長居をするのは危険だ。


「口惜しいが・・・これまでだ!!」


 スプリガンは、後退で間合いを空けながら、『Ko』と書かれたメダルと、『Pi』と書かれたメダルを立て続けに装填!

 召還に従い、地面に闇が広がり、コボルト(半犬生物)とピクシー(下級妖精)が出現し、セイテンに襲い掛かる!セイテンは如意棒を振り回して、邪魔者達に対応をする! その間に、逃走をするスプリガン!


「オッサン!」 「猿飛さんっ!」


 追撃を阻む邪魔者達に応戦するセイテンの元に、ザムシードとガルダが駆け付けてきた!


「スマナイっす!スプリガンに逃げられた!

 狗塚、佐波木、コイツ等を頼むっす!!」

「えっ!?あぁ・・・了解!」

「アカン、猿飛!追撃は狗塚に任せて、オマンは変身を解け!!」

「・・・・・・・ん!?この妖気はなんだ!?」


 ガルダは、セイテンを取り巻く雰囲気に「野蛮な物」感じて、僅かに戸惑った。


「狗塚!ヤツ(スプリガン)は川沿いに逃げおったで!

 今なら、まだ追えるはずやっ!!」

「わ、解りました!」


 違和感は気になるが、今は、離反者の追撃が先。ガルダは気持ちを切り替えて、スプリガンを追い掛けようとする!しかし、背後から地を這うようにして、セイテンの如意棒の先端が伸びてきて、ガルダの足下を掬った!


「・・・なにっ!?」


 思い掛けずに、背後から味方の妨害を受けて転倒をするガルダ!その真横を、セイテンが駆けて抜き去って行く!


「やはり、何かがおかしい!」


 ガルダは、セイテンを追おうとするが、ピクシーが飛び掛かってきて、進路を塞がれてしまった!その間にセイテンは、雲のような乗り物=マシン斗雲を召還して飛び乗り、この戦場から離脱をする!


「先にコイツ等を倒さなきゃ、追えないようだな!」

「邪魔な奴等だ!!」


 ガルダは妖槍を構え、ザムシードは妖刀を構え、それぞれ、コボルトとピクシーに飛び掛かる!


「追うのは俺の役割っす!」


 セイテンの脳には「オマエが追え!」と言う女(里夢)の声が何度も鳴り響き、マスクの下の眼は虚ろに変化をしていた!




-文化会館・大ホール-


 ステージ上では、優麗高吹奏楽部の演奏が始まった。行照の姿もある。客席の亜美&優花&美希&永遠輝は、友人の晴れ舞台に集中をしているが、紅葉だけは演奏を集中できず、戦いの行方が気にしていた。


(・・・燕真。・・・まさっち。早く‘勝った’ってメッセージ入れてよ。)


 大ホール後方の最も扉に近い席・・・先程まで里夢が座っていた場所は、今は空席になっている。




-会館・表口-


「た、たのむっ!もう逆らわない!!

 アンタの言う事は何だって従う!!だから助けてくれ!!」


 死神鎌=デスサイズ・キスキルを構えたリリスに、堀田が懸命に命乞いをする!


「そう・・・私の言う事なら、何だって従ってくれるのね?」

「従う!従うとも!」

「なら・・・死になさい!それが私の命令よ!!

 堀田君・・・残念だけど、アナタには、利用価値なんて何も無いの!」


 リリスは、懐中時計型アイテム=【AKURYOUウォッチ】から、『Lc』と書かれたメダルを抜き取ってデスサイズのグリップにある窪みに装填!途端に、アンデットの王・リッチの能力がデスサイズに付加されて‘物理的な刃’よりも2倍ほど長い闇色に光る刃が出現をする!


「ひぃぃ・・・ひぃぃぃぃっっっっ!!!」


斬っ!!

 刃が通過をした直後、離反者のリーダーは、脅えた顔のまま膝から崩れ落ちて事切れた。デスサイズから伸びる闇の刃には、物理的に肉体を傷付ける能力は無い。ただ、肉体を通過して、傷1つ付けずに、魂のみを切断する。

 防御不能な魂狩り・・・それが、アサシン・リリスが恐れられる理由。


「あと1人・・・今日中に始末する必要がありそうね。」


 リリスは、骸になった堀田には見向きもせず、会館の裏口側に視線を向けた。




-会館・裏口-


「おぉぉぉぉぉぉっっっっ!!」 「はぁぁぁぁぁぁっっっっ!!」


 ザムシードの裁笏ヤマから発せられた炎の刃がコボルト斬りを、ガルダが鳥銃・迦楼羅焔から放った雷弾がピクシーを貫く!2体のモンスターは同時に爆発四散!

 スプリガンが逃走し、セイテンが追ってから、既に数分が経過している。粉木は、セイテンを追って、既にこの場には居ない。ザムシードとガルダは、粉木と連絡を取り、セイテンを追ってバイクを駆り、敷地から飛び出していった!




-文化会館から少し離れた河川敷-


 セイテンがスプリガンを追い詰めていた!パワーとスピードで勝り、召還モンスターを失った今、もはや、スプリガンにはセイテンを倒す手段は残されていない!


「覚悟しろっ!」


コツコツコツ

 ハイヒールがアスファルトの上を歩く音が聞こえてくる。視線を向けるセイテンとスプリガン。セイテンはマスクの下で笑みを浮かべ、スプリガンはマスクの下で表情を引き攣らせる。大魔会のアサシンが、処刑を敢行する為に近寄ってきたのだ!


「里夢ちゃん!」 「くっ!夜野里夢っ!」


 里夢は、【AKURYOUウォッチ】から『Li』と書かれたメダルを抜き取って、特にポーズを決める事もなく、蝙蝠の羽を模したバックルに装填をする!


「マスクドチェンジ!」


 複眼を輝かせ、細身に不釣り合いなデスサイズを構えた死神=マスクドウォーリア・リリス登場!

 リリスは、セイテンとスプリガンの間に入るようにして立ち、デスサイズ・キスキルをスプリガンに向けて睨み付ける!


「退治屋が想像以上に優秀なのか・・・アナタ方が無能すぎたのか・・・

 もう少し、色々と荒らしてくれると思っていたのに、

 案外呆気なかったわね・・・クロム君。」

「チィィ!」

「ゲス(オーガ)やカス(ゴブリン)とは違って、優秀だと思っていたのに、

 これほど簡単に、進退が窮まるなんて、少し意外だったわ。」

「す・・・既に堀田も?」

「もちろんよ。あんなゴミなんて、息を吸うだけでも、資源の無駄ですからね。」


 スプリガンは、項垂れ、その場に力無く両膝を落とす。自分達の反逆は今終わったと諦めたのだ。

 今から最後の離反者が処刑をされる。それは、セイテンにも直ぐに理解出来た。


「なぁ、里夢ちゃん?コイツはもう戦意が喪失している。殺すまでもないだろう?

 問答無用で殺す以外に、何か穏やかに済ます方法は無いんすか?」

「・・・空吾さん?」

「大魔会内部の事に、退治屋の俺が干渉しては成らない事は把握しているっす。

 ・・・だけど、俺は、里夢ちゃんの、そんな姿は見たくないっすよ。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 リリスの肩に手を置き、諭すようにして語りかけるセイテン。リリスは、スプリガンに向けていたデスサイズを下げ、横目でセイテンを見つめる。


「解ったわ、空吾さん。相変わらず優しいのね。

 でも安心をして良いわよ。

 ・・・私は最初から、クロム君を殺すつもりは無いの・・・。

 だって・・・私が欲しいのは・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


「・・・・え!?」


「優しい空吾さん・・・・。

 アナタの魂・・・私のコレクションに加えてあげる!」


 次の瞬間、リリスのマスクの下で、里夢の表情が邪悪に染まった!


斬っ!!

 セイテンとスプリガンは、目の前で何が起きたのか理解出来なかった。

 リリスのデスサイズ・キスキルから発せられた魂斬りの刃は、リリスの背後に立っていたセイテンを振り抜いていたのだ!


「あぁ・・・ぁぁぁ・・・・・・り・・・・・りむ・・・・ちゃん?」


「困るのよね、空吾さん。

 私がアナタにお願いしたのは、銀色のメダルを持ち出す事だけ。

 ‘使え’なんて頼んでいないわ。でもアナタは勝手に使ってしまった。

 愛してあげる代わりに、退治屋の内部情報を流して欲しかったんだけどね。

 これでアナタは、盗んだ張本人として、周りの信頼を失った。

 残念だけど、使い物にならない木偶人形に用は無いの。」


 仰向けに倒れながら、リリスに手を伸ばすセイテン。脳裏を過ぎるのは、幼い頃の面影を残して美しく成長をした里夢の笑顔・・・上目遣いで顔を寄せてくる里夢の笑顔・・・猿飛は、彼女の笑顔が「自分を掌で転がす為に作られた物」と知らず、リリスが「自分に向かって魂斬りの刃を振った事実」を理解出来ないまま、視界が暗転して、冷たい骸に変化をする。


「・・・ど、どういう事だ?」


 スプリガンは、アサシンの死刑執行を呆然と眺めていた。何故、セイテンが殺されたのか?次に自分も処刑されるのか?何がなんだか解らない。


「取引よ。」


 リリスは、死体となって変身が解除された猿飛のYウォッチから銀色のメダルを抜き取り、回収をしたオーガとゴブリンのメダルと一緒にスプリガンに差し出す。


「銀色のメダルを使ってもう一暴れしてくれるなら、

 クロム君の命を見逃し、戦力を整え直す為に堀田君達のメダルをあげるわよ。

 アナタは、私の指示で、堀田君達の離反に参加するフリをして、

 彼等と退治屋が衝突をするように仕向けた。

 アナタは組織を裏切ってはいない。

 もちろん、この男(猿飛)を殺害したのはアナタ。

 ・・・条件は、これでどうかしら?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・好条件過ぎて気味が悪いな!」

「応じる事が出来ないなら、予定通り、アナタを処刑するだけ。

 だけど、総帥も私も、ゲス共(オーガ達)とは違って、

 アナタの能力は高く評価しているのよ。」


 リリスは選択肢を与えているが、スプリガンからすれば、選択の余地など無い。


「わ、解った・・・。だが、この退治屋(猿飛)は一体?」

「あら?頭の良いアナタならば、だいたいの想像は出来ると思うんだけど・・・。

 彼を手駒にするつもりだったけど、余計な事をしてくれたので処刑をしたの。

 でも、そのお陰で、アナタは殺されずに済むんだから、彼に感謝しなきゃよね」


 スプリガンは、猿飛の死体をしばらく眺めたあと、徐に口を開いた。


「・・・チャーム(魅了)か?」

「フフフッ・・・正解よ。流石はクロム君ね。

 せっかく、愛してあげたのに、こんなに使えないとは思いもしなかったわ。」

「好き者めっ!」

「あら?任務遂行の手段と言ってもらえないかしら?」




***昨日・文架市と鈴梅市の境界付近にあるホテル**************


 曇ガラスで、ベッドルームからは何となく人影が見える浴室で、里夢がシャワーを浴びていた。

 ベッドには、猿飛の姿がある。ビジネスホテルから出た2人は、「退治屋と大魔会の関係者に接触を見られない」為に、里夢が燕真が誘ったのと同様の流れで、コテージ風の一室に間借りをしていた。


 美しくなった里夢は、猿飛の興味を大いに惹いた。猿飛は、「彼女が、退治屋に残ってくれたらどんなに良かっただろう?」と過去を嘆いた。

 会って話をするまで、肉体関係を結ぶ邪な思いは一切無かった。だが、人目を気にせずに済む場所での会話は、徐々に猿飛の強固な意志を崩し始める。美しい里夢の表情は、猿飛の情を動かした。


 猿飛は「退治屋に戻ってこい」と提案をした。里夢は「そうしたいが、大魔会の私には、そんな選択肢は無い」と拒否をした。里夢の眼には涙が浮かんでいた。猿飛は「俺が守る」「退治屋本部にも俺は取り為す」と言い切り、里夢を抱きしめた。里夢は一切抵抗をしなかったので、猿飛は、里夢の心を開いたと判断した。


 もうその先は止まる事が出来なかった。猿飛に身を任せ、恥じらいながら受け入れる里夢の仕草が、彼女の演技と疑うことなく。




 ベッドの上の猿飛は、眼が虚ろで、表情に精気は無い。

 魅了の魔術で判断力を鈍らせ、魔術結界の中で肉体関係を結び、警戒心を解き、魂に魔力の楔を打ち込んで使魔にする。単刀直入に言えば、男が肉欲に溺れて無防備になった瞬間に、魂を支配する。

 美しい顔と魅力的な体をに恵まれた里夢の得意魔術であると同時に、魔女が男を支配する一般的な手段だ。里夢は、自分の肉体を、手軽に使える武器としか思っていない。


 魔術師同士であれば、男は魔女を警戒して、魔術結界の中で身を重ねるような‘自殺行為’はしない。雅仁のように、魂の防御に優れ、常に他人を警戒し、一線を引くタイプの者は、術に掛かりにくい。裏を返せば、どんなに強い男でも、警戒さえ解いてしまえば、魂に侵入する事が出来る。

 先日、里夢は、燕真に同じ事を仕掛けようとした。燕真を支配下に置き、文架市の退治屋の懐に飛び込むつもりだった。里夢は、確実に燕真を自分のペース乗せていると考えていた。

 だが、燕真より格上の猿飛には成功した魅了は、何故か、燕真には通じなかった。


「ふふっ・・・やはり、私の魔力が衰えたわけではなかった。」


 妖術や霊術の類と一緒で、里夢の魅了魔術は、霊力ゼロの燕真には一切干渉出来ず、燕真はただ単に、里夢の色気に鼻の下を伸ばして動揺していただけなのだが、里夢は彼の特異体質(?)を知らない。


「佐波木燕真・・・唯一、私の魅了を退けた特殊な男・・・

 とても興味深い存在ね。」


 里夢は、浴室を出てバスローブを羽織ると、髪にタオルを巻ながら、放心状態の猿飛を見下ろした。


「文架市の退治屋と合流をしたら、銀色メダルの所在を確かめなさい。

 そして、機会を見て、アナタの犯行をバレないように奪いなさい。

 どんな物か見て見たいの。」

「・・・はいっす。」



 エンゲージキッス(魂約の口吻)の効果を発動させた後、「幸せそうな女の表情」を作り、ベッドの上に居る猿飛に掌を翳し、小声で呪文を唱えてから指を弾き鳴らした。途端に、猿飛は普段の表情に戻る。猿飛の目の前では、20年前の面影を残して女性になった里夢が微笑んでいる。


「空吾さん」

「・・・里夢ちゃん」


 そっと顔を寄せて、ウインクをする里夢。浴室で1人の時に見せた表情とは、まるで別人だ。

 魂を支配した状態にもかかわらず、周囲の人間どころか、本人すら支配された事を気付けない。次に里夢が魔術を編んで合図を送るまで、猿飛空吾は日常通りのままなのである。


**************************************


 里夢は一時的に猿飛の意志を支配し、銀色メダルを盗ませ、その罪を堀田達に被せ、あとは猿飛を使魔として使役するつもりだった。

 だが、「勝つ為に銀色メダルを使う」という余計な事をしてくれたので、もう要らなくなったのだ。


「何をすれば良い?」

「ザムシード・・・佐波木燕真君。彼の底が知りたいの。

 派手に暴れて、燕真君の潜在能力を引っ張り出してもらえないかしら?」

「・・・ん?優等生(雅仁)の方ではなく、素人(燕真)の方か?」

「そうよ。彼にはチョット興味があるのよね。」

「フ、フン・・・だったら、コイツ(猿飛)のように、

 お得意のチャームで手駒にすりゃ良いだろうに?」

「出来なかったから、次の手を考えたのよ。」

「なるほどな・・・理解をした。」


 クロムには、佐波木燕真が、夜野里夢の女のプライドを傷付けたから、目の仇にしているのか、それとも何か、眼を見張るような潜在能力を秘めているのか、それは解らない。だが、戦力が増強され、今までと同じように退治屋に喧嘩を売るだけで、アサシンの処刑リストから外れるなら、これ程良い条件は無い。


「これでもうアナタは、追われる立場ではないわ。

 堂々とホテルに宿泊が出来るけど、不都合がないなら、私の部屋に来るかしら?」

「い、いや・・・やめておく」

「そう、それは残念ね。ふふふっ。」


 里夢とクロムの間で取引は成立をした。里夢は「用済み」として魂を切り捨てられた骸には、一片の興味も示さずに、その場から立ち去る。

 一方のクロムは、「自分が殺された」事を理解出来ずに骸と化した「里夢の幼なじみ」を眺めて「里夢の恐ろしさ」を感じながら、亡骸の処理をする。




-夕方・YOUKAIミュージアム-


 燕真と雅仁が、猿飛の捜索から戻ってきた。店に入って粉木と視線を合わせると、「未だに連絡は付かない」と粉木が首を横に振る。今朝、文化会館で、スプリガンを追撃したまま、猿飛空吾は行方知れずとなった。持ち出された銀色メダルの所在も不明のままである。


「なぁ、爺さん、アイツ(猿飛)って、どんな奴なんだ?

 信用出来るヤツなんだろ?」

「あぁ・・・ガキの頃から本部で学んどる。人格、実績共に、信頼出来るヤツや。」

「俺は、就学時代に、砂影さんの指示で、何度か、猿飛さんの任務をサポートした。

 口から生まれたようなお調子者な一面はあるが、技術には間違いは無かった。」


 返り討ちに合ったとは思いたくないが、銀色メダルに心を支配されて正気を失ったとも考えたくない。落とし処のない気持ちが、店内を支配する。


「だったらなんで・・・勝手に銀色メダルを?」

「・・・解らん。」

「そんな勝手なタイプではなかったはずですが・・・。」

「アイツ、オマエ(狗塚)が追っ掛けるのを邪魔したよな?何であんな事を?」

「・・・解らん。」

「そんな実績を独り占めするタイプではなかったはずだが・・・。」


 それ以上の会話のキャッチボールは続かない。文化会館を守り抜いて、オーガを倒した事は大金星である。本来であれば、「よくやった」と互いの健闘を称え合いたいところだが、猿飛が居なくなる直前の行動と、行方が解らなくなった事は、賞賛の気持ちを無い物にしていた。


「本部から、何か特別な指示でも出ていたのでしょうか?」

「・・・解らん。」

「何がどうなっているんだ?」


 店内の静寂を掻き消すかのように、燕真のスマホが着信音を鳴らす。ディスプレイに表示された発信者は紅葉である。


「どうした?」

〈燕真、今、暇?〉

「暇じゃない!」

〈吹奏楽部のコンクールの打ち上げで、みんなと、カラォケに来てるの!

 駅前のところっ!燕真もぉぃでっ!〉

「人の話聞いてたか?暇じゃない!

 だいたい、オマエ、吹奏楽部じゃねーだろ!?」

〈ぅん、違うよ。でも、亜美や永遠輝も居るから大丈夫!〉

「尚更行きたくないって!」

〈まさっちもぃる?美希が連れて来ぃって!ぢゃ、待ってるからね~~!〉

「お、おいっ!」


 相変わらずと言えばそれまでなのだが、通話は一方的に切られてしまった。


「なんや、燕真?お嬢、なんやて?」

「カラオケに来いって。狗塚も一緒に。」

「・・・俺も?何故!?」

「紅葉の友達のご指名だ。行きたきゃ行ってきな。俺は行かね~けど。」

「燕真、狗塚、店番はワシがしとるさかい、遠慮せんと行って来や!」

「行かないよ!」

「流石に今の状況では・・・」  

「いや、こんな状況だからこそや。

 答えが出んのに悶々としとっても仕方があるまい。」

「・・・だ、だけど」」

「気分転換は必要や。

 勘の良いお嬢に、今の状況を勘付かれん為にも、気持ち切り替えて相手して来い。

 幸か不幸か、此処にはもう銀色メダルはあらへん。

 此処を防衛する必要は、もう無いんや。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 燕真と雅仁は、粉木によって、半ば強制的に店から追い出されてカラオケ店へと向かう。




-駅前のカラオケ店-


 店内には、スキーイベントに参加をしたメンバーがいたが、肝心の行照(吹奏楽部)の姿が無い。


「あれ?大石君は?」

「行照ゎ、吹奏楽部のみんなで打ち上げしていて、

 あとで抜け出して、ァタシ達のところに顔を出してくれるってさ。」

「は?吹奏楽部抜きで吹奏楽部の打ち上げやってんのか?」

「ぇん、そう!」

「意味が解らん。」


 燕真の歌唱力がそこそこだったり、雅仁がプロ並みに上手くて、美希を魅了したり燕真&永遠輝をムカ付かせ、3時間後には解散と成った。


「ねぇ、燕真?」

「・・・・・・・・・ん?」

「何か有った?燕真もまさっちも、無理に元気にしてるょぅに見えるょ。

 悪ぃ奴やっつけるの、大成功ぢゃなかったの?」

「・・・えっ!?」

「燕真ゎ全部ぎこちなぃし、

 まさっちゎ、いつもゎもっと根暗なのに、今日ゎヤケにテンション高ぃし・・・」

「ぎこちない・・・かな?」

「・・・いつもはもっと根暗?」


 流石は、「勘の良いお嬢」である。勘付かれない為にカラオケに参加したのに、もう勘付かれてしまった。雅仁は、「根暗」扱いされて、チョット落ち込んでいる。


「まさっちが、いつも以上に根暗になってるけど、やっぱり何かぁったの?」

「ソレはオマエの所為だ!

 クールとか、温和しいとか・・・もう少し優しい表現をしてやれ!」


 どうやら、変に誤魔化しても紅葉には通用しないようだ。燕真と雅仁は、近くの公園でバイクを駐めて、「残る1人には逃げられた事」「援軍が行方不明な事」「銀色メダルが持ち出された事」を説明した。


「そっか・・・ぁのメダル、持ってかれちゃったんだ?だぃぶヤバィかもね。」

「・・・やっぱ、ヤバイかな?

 じいさんが言ってたもんな。使用者の心を闇に落とすって・・・」

「ん~~~~~~・・・ソレもぁるんだけど、もっと違うヤバィだょ。」

「どういう事だ?」

「ぅん、上手く言えなぃけど、

 メダルの中にいた‘じぃちゃんの事を大っキライな怨念’がヤバィの!

 ァレゎ、妖怪を育てる念とゎ全然違ぅょ!」


 紅葉の説明は、雅仁も気付いていることなのだろうか?燕真は雅仁を見つめて解答を求める。


「あぁ、紅葉ちゃんの言う通り、あのメダルに込められた憎しみは、凄まじい物だ。

 尤も、変な表現には成るが、危険すぎて、むしろ安全と言うべきか・・・

 紅葉ちゃんがあのメダルを嫌がるように、

 妖怪すら敬遠するから、憑かれる心配は無い。」

「一緒にするなっ!ァタシゎ妖怪ぢゃなぁ~~ぃっ!!」

「ハハハッ・・・似たようなもんだろ?」

「そ、そう言う意味で言ったわけではない!」


 事態は何も好転をしていないのだが、紅葉を見て、燕真と雅仁は幾分かは気持ちを和ませる。無理矢理、カラオケに参加させられて、「悩む」ばかりではなく、前向きな気持ちを作り始めていた。

 今の事態が、今後どうなるのかは、まだ見当も付かない。だが、目の前に在る安穏を守る為に戦う。彼等は、改めて心に誓う。




-駅前のビジネスホテルの一室(里夢とは違うホテル)-


 クロムはテーブルの上に、猿飛から奪った銀色メダルとYウォッチを置き、闇を増幅させる魔法陣を描く。


「指示は、銀色のメダルを使ってもう一暴れしろ・・・だけ。手段は自由。」


 メダルをどう使うかはクロムの判断次第である。当初は、マスクドウォーリアに変身をして、パワーアップの為に使おうと考えていた。だが、試してみたが何も変化は起きず、互換性が無い事に気付く。「こんな物の為に大魔会を離脱を決意したのか?」と嘆いたが、後の祭りである。

 ならば、どう使うか?霊術や妖術の知識が無いクロムでも、銀色メダルに不快な物(怨念)が込められているのは把握出来る。クロムは思案の末、銀色メダルの闇を増幅させ、妖怪や悪魔の類を憑かせようと立案した。


「・・・さて、どんなモンスターが育ってくれるかな?」


 闇が育つには、まだ時間が掛かりそうだ。クロムは、同時進行で別の作戦を実行する為に、銀色メダルとYウォッチを残したまま、部屋を退出する。




-翌日の夕方・YOUKAIミュージアム-


 猿飛は未だに音信不通。昨日のうちに知らせを聞いた砂影が、詳細を確認する為に訪れていた。昼間のうちに、文化会館や、その周辺は見て廻ったが、手掛かりになる物は、何も見付けられなかった。今は、粉木と向かい合わせになって事務所のソファー席に座って、コーヒーを飲んでいる。


「未だに信じられんわね。空吾が銀色メダルを盗み出いたなんて・・・。」

「あぁ・・・ワシもや。」


 事務所の本棚の奧には、銀色メダルが盗み出された時と同じまま、穴の空いた金庫が鎮座をしている。


「25年前の銀メダル事件の習性を考えると・・・

 いきなり、心が食い潰されて、別人になる事ちゃ無かったわやちゃ。

 皆、徐々に心を闇に染めていった。

 あんたの弟子・日向信虎ちゃ、銀色メダルの所持期間が長かったがで、

 本来の人格を取り戻せんくなった。」

「・・・そうやな。

 猿飛は、銀色メダルを使用して、別人になりよって、

 音沙汰が無いとは考えにくいっちゅうこっちゃ。」

「つまり・・・考えたくはないけど、返り討ちに合うて死亡した。」

「やはり・・・オマンも、その結論になるか?」

「えぇ・・・そう考えるのがいっちゃん無理が無いわね。

 でも、納得ちゃ出来ん。もう一度、連絡を入れてみましょう。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 昨日から何度も試している事だが、念の為に、粉木は猿飛の携帯に発信を、砂影は猿飛のYウォッチに通信を入れてみる。やはり、粉木の発信に対する応答は無い。受話器の向こうでは「この電話は電波の届かない~」を何度も連呼するだけだ。・・・だが。


〈ザザッ・・・ザザザッ・・・はい・・・ザザザッ・・・お久しぶ・・・・

 ザザッ・・・・・・ですか?〉


 砂影が猿飛のYウォッチに向けた通信に、反応があった。雑音に混ざって、男の声が聞こえる。


「ん?空吾か!?無事なの!?」

〈ザザッ・・・ザザザッ・・・俺は・・・ザザザッ・・・久しぶ・・・・

 ザザッ・・・ザァーッッッッ!〉

「空吾!?今どこに!?・・・ねぇっ!!」


 通信は途絶えてしまった。男の声で反応があったが、雑音が多すぎて、それが猿飛空吾なのかは解らない。




-駅前のビジネスホテルの一室-


 今、部屋の借り主は、外出中である。真っ暗な部屋の中、テーブルの上に銀色メダルと、通信を報せて点灯をするYウォッチと並べて置かれている。

 床には魔法陣が敷かれており、銀色メダルが反応をして、くすんだ闇が発している。そして、‘銀色メダルから発せられる闇’が作る真っ黒な人影が、銀色メダルをジッと見下ろしている。


    〈これは・・・誰にも・・・渡さ・・・ない〉


 理性が有る人間とは思えない憎しみに満ちた眼と、醜く焼け爛れた頬。通信機の点滅が、真っ暗な人影を僅かに照らし出す。




-鎮守の森公園近くのビジネスホテル-


 「来客」と呼び出された里夢が、クロムに呼び出されてフロントフロアに降りる。


「持って来たか?」

「私の大切なコレクションなんですから、渡したくないんだけど・・・。」

「そう言うな!任務遂行の為だ。」

「流石ね。もう思い付いたの?」

「あぁ、蛇の道は蛇って言うだろ。あのメダルは、持ち主に任せる事にした。

 今頃は、俺が借りた部屋の中で、ただでさえ手に負えない憎悪を、

 更に増幅させているところだろうぜ。」

「へぇ~・・・興味深い結果になりそうね。」


 里夢はクロムの発言に頷くと、1枚のメダルを差し出した。


「全く・・・つくづく、怖い女だぜ。」


 クロムは、里夢から渡された物を受け取り、「必要以上の接点は持ちたくない」と言わんばかりに、足早にホテルから出て行く。




-直ぐ近くの河川敷-


 クロムの姿が有る。地面に魔法陣を敷き、真ん中に里夢から貰ったメダルを置き、指で空中に「COPY」と書いて、魔力を込めた。


「・・・しかし、悪趣味なコレクションだ。」


退 治屋が倒した妖怪をメダルに封印するように、マスクドウォーリアが倒した悪魔をメダルに封印するように、夜野里夢は、狩った魂のうち、本人が価値を認めた物をメダルに封印して、コレクションにする。彼女のコレクションに選ばれた魂は、彼女の所有物となり、転生をする事も許されない。


「先ずは、どんな手を使ってでも、里夢の信頼を勝ち得て、汚名を返上する。」


 今、クロムの目の前に在る物は、猿飛悟の魂を封印したメダルである。

 魔法陣とクロムの呪文に反応をして、メダルに鈍い光が灯る。クロムは、‘完成’を確認すると、メダルを自らのAKURYOUウォッチに装填し、再び呪文を唱えた。すると、Aウォッチから‘歪み’が出現をして、クロムの全身を覆う。


「クックックックック・・・成功だ。」


 魔力で編まれた歪みは、クロムを猿飛悟の姿に変え、生前の猿飛の色を整えていく。「COPY」とは、死者の姿を術者に映す魔術。彼等にとって、これはただの魔術である。死者への冒涜を恥じる概念は無い。


「いつまでも、あの売女の言うなりになるつもりはない。利用をするだけだ。

 必ず、寝首をかき、誰が無能で、誰が正しいのかを、思い知らせる。

 それが、堀田達への餞だ。」


 クロム(猿飛の姿)は、仲間達の遺品と成った『Og』と『Go』のメダルを眺めて、決意を固める。




-夜・YOUKAIミュージアム-


 燕真も、雅仁も、粉木も、砂影も、閉店直前に訪れた人物を見て眼を丸くした。消息が解らなくなっていた猿飛が帰還をしたのだ。初対面の紅葉だけが、怪訝そうに眺めている。


「ただいまっす!心配かけてすまないっす!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×4

「んぇ?誰??」


 この問題児に対して、明確にするべき事が山のようにある。特に、「猿飛は死亡したかもしれない」と考えていた粉木と砂影は、猿飛の帰還を受け入れる事に戸惑ってしまう。


「今まで何処に行っとったのよ?」

「スミマセンっす!クロムとの戦いの最中に、携帯電話は壊れてしまったっす!

 通信機も、チョット調子がおかしくて・・・」

「銀色メダルは持っとるんか!?」

「もちろんっす!勝手に持ち出してスミマセンでしたっす!」


 猿飛は、ポケットから銀色メダルを取り出して粉木に見せて頭を下げた。幾つかの疑問点や違和感はあるが、猿飛が無事で、銀色メダルが戻った事に、安堵の溜息をもらす粉木達。


「なーん・・・人騒がせなんやさかい。どれだけ心配したて思うとるが?」

「まぁ、話はおいおい聞くとして・・・とりあえずご苦労やったな。何か飲むか?」

「はい、スミマセンっす!紅茶をお願いっす!」

「ホットでえぇか?」


 皆が、身勝手な戦士の凱旋を受け入れ始める。だが、紅葉だけが、怪訝そうに、猿飛を見つめている。


「ねぇ・・・・・そのガィコクジンが助けに来てくれた人なの?」

「・・・・・・・・・・・え!?」

「なんで、そのガィコクジンゎ、体中に変なモヤモヤを着てるの?

 それ、魔術ってヤツだっけ?

 助っ人ガィコクジンゎ、まさっちやじいちゃんと違って、魔術が使ぇんだ?」

「・・・外国人?」

「・・・魔術?」

「お、お嬢ちゃん・・・一体何を!?」

「ん?・・・ぁれ?もしかしたら、変装?姿、隠してんの?

 腕にYウォッチ着けてるけど、首にも同じ様なの(Aウォッチ)着けてるね?

 それゎ妖幻ファイターの新製品?燕真やまさっちは、もらってないの?」


 紅葉の突飛な発言に、店内が凍り付く。皆は猿飛と会話をしているつもりなのだが、紅葉だけは「皆は外国人と会話をしている」と話しているのだ。しかも、紅葉に指摘されるまで気付かなかったが、その人物は、Yウォッチの他に、大魔会が持つAウォッチを所有している。

 粉木も砂影も、紅葉の発言をにわかに信じる事が出来ないが、自分達で行き着いた「猿飛は返り討ちに合って死亡した」と言う答えと同じ結果になっている。最後の離反者が勝ち残り、魔術で自分達に何かの罠(紅葉曰く変装)を仕掛けていると考えると、全ての辻褄が合ってしまう。

 雅仁は、「妖力を探すクセ」を意識的にリセットして、自然体な視線で猿飛を見る。すると、‘外国人’には見えないが、猿飛の姿がモヤモヤと揺らいで見える。そしてモヤモヤは、Aウォッチの周りが最も濃い。


「コイツ・・・猿飛さんではありません!」


 退治屋達は、それまでの安堵に満ちていた表情を曇らせ、猿飛に対して身構える!


「勘平・・・一体、この娘ちゃ?」

「前に言ったやろう。ちと霊感があって、退治屋を手伝うとる娘や。」

「本当に‘ちと’なのかしらね?

 お嬢さん、アナタが見えとる物・・・もうちょっこし詳しゅう教えて!」

「ん~~~~~・・・さっきから、ガィコクジンに変なモヤモヤが着ぃてぃるのに、

 じぃちゃんも、ぉばぁちゃんも、全然、不思議に思ってなぃの。

 猿飛って人って、日本人の名前なのに、ガィコクジンなの?」


 クロム(猿飛の姿)は、粉木達以上に動揺をしていた。猿飛の姿を借りた自分と、闇を増幅させた銀色メダルは、退治屋の懐に潜り込めるはずだった。あとは、銀色メダルの闇が、退治屋のアジトで暴走をする手はずだった。しかし、一発で、偽物だとバレてしまった。


「ま・・・まさか」


 文架市に来てから、同じ経験は、何度もしてきた。退治屋もアサシンも完璧に出し抜けると思われた作戦は、常に、自分達が把握をしていない不確定要素によって崩されてきた。クロムは、その正体をようやく把握した。


「・・・こんな、小娘が!?」


 初めてYOUKAIミュージアムを襲撃した日、襲撃直前のワンボックスカー内で、店から出て自転車で帰宅する女子高生達を眺めていた。堀田は冗談半分に「あの娘達がいる時に襲撃した方が面白そうなのだ」と言ったが、クロムは「部外者を巻き込んだら、あとが面倒だ」と反論した。

 だが「あの娘」は部外者ではなかったのだ!それどころか、自分達の作戦を崩壊させる中核にいたのだ!初襲撃のあの日、「あの娘」を部外者と判断した瞬間から、全ての作戦は破綻をする運命にあったのだ!


「くそっ!」


 クロム(猿飛の姿)は、テーブルの上の銀色メダルを握り締め、素早く踵を返して、店の出入り口に向かって逃走を図る!しかし、既に燕真が扉の前に立って身構えている!挟むようにして、クロム(猿飛の姿)の背後には雅仁が立つ!燕真も雅仁も、手にはYメダルを掲げている!


「俺には紅葉の言ってる事がよく解らないんだけどさ・・・。

 オマエが俺達を騙してたってのは決定なんだろ!?」

「この一件が落ち着いたら、紅葉ちゃんに弟子入りしなきゃならないようだな。」


 猿飛ではない事がバレてしまった以上、魔力を消耗して猿飛の姿を維持する理由は無い。クロムは、観念して擬態魔術を解き、本来の姿に戻る。


「オマエだって命懸けで猿飛のオッサンと戦ったってのは解らなくもない!!

 だけど・・・最悪だな!!」

「外道め!!鬼ですら、人の生前を弄ぶ卑劣な行為などしないっ!!」


 燕真&雅仁、クロムは、同時にメダルを翳して、それぞれのバックルに装填!


「幻装っ!!」×2 「マスクドチェンジ!!」


 妖幻ファイターザムシード&ガルダ、そしてマスクドウォーリア・スプリガン登場!戦場を駐車場に移して激突が開始される!


「空吾・・・オマエほどの男が。」


 砂影は、先程まで猿飛(クロム)が居た場所を、寂しそうに見つめて呟く。敵が猿飛の所有物を持っていた以上、猿飛が返り討ちに合って命を落とし、利用されてしまった事は明白だろう。悲しい出来事だが、受け入れるしか無い。

 しばらくの間を置いて、立ち上がり、戦いを見届ける為に店から出ようとした紅葉を呼び止めて見つめた。


「・・・・・ん?」

「勘平・・・もう一度聞くわ。この娘ちゃ一体?

 ちょっこし手伝うとる部外者・・・で済む才能ではなささんまいけね?」

「源川紅葉。源川有紀の娘や。

 ワシは今まで退治屋をやってきて、お嬢ほど突出した才能を見た事があらへん。

 逸材と言われた‘信虎’すら、お嬢の足下にも及ばんやろな。」

「んぇ?ママのこと知ってるの?」

「なんで、曖昧な報告しかしてくれなんだの?」

「迷っとるからや。

 本部がお嬢の才能を知れば、是が非でも退治屋に入れようとするやろ?

 彼女の才能は、ソレほどに飛び抜けておる。」

「可能性ちゃ高いわね。」

「せやけど、ソレで良いんか?ワシにはそれが解らんのや。

 狗塚や里夢ちゃんは、幼い頃から、退治屋しか選べんかったけど、

 本当にソレで良かったんか!?

 信虎もそうや。ずっと退治屋に育てられたさかい、他が見えんくなってもうた。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 砂影は粉木から視線を外し、キョトンとした表情の紅葉を、再び見つめる。粉木の言い分は痛いほど理解出来る為、言葉を返す事が出来ない。




-YOUKAIミュージアム駐車場-


 スプリガンはAウォッチに、『Go』と『Og』と書かれたメダルを、立て続けに装填!モンスター・オーガ&モンスターゴブリン=契約者を失った怪物達がスプリガンによって召還され、ザムシード達に襲い掛かる!前回は、召還モンスターに惑わされ、スプリガンの逃走を許してしまった!


「同じ失敗をするわけにはいかない!」


 ザムシードが弓銃カサガケを装備して、モンスター達を足止めする!倒す為の深追いをする気は無い!あくまでも、スプリガン討伐の邪魔をさせない為である!


「狗塚、ヤツを!!」

「任せろっ!!」


 ガルダがスプリガンに突進をする!何度も逃がすつもりはない!仲間(猿飛)の無念を晴らす為にも、今、この場所で決着を付ける!

 ガルダは、鳥銃・迦楼羅焔から光弾を連射!スプリガンは小斧を振って光弾を弾く!ガルダは、ハナっから、ハンドガンの連射で、マスクドウォーリアを倒せるとは思っていない!あくまでも、スプリガンに逃走の隙を与えない為の牽制だ!一定の距離まで近付いたところで、妖槍ハヤカセを装備して、突進をする!

 一方のスプリガンも、ガルダの狙いは読んでいた!数歩後退をしながら、Aウォッチに『Ko』と『Pi』のメダルを装填!ガルダの進路を阻むようにして、モンスターコボルト&モンスターピクシーが出現をする!


「ザコは任せろ!」


 ガルダの背後で、モンスターゴブリンがザムシードの弓銃カサガケ(強弩モード)の一撃を受けて爆発四散!実体化を維持出来なくなったゴブリンは、『Go』メダルに変化をして、地面を転がる!

 ザムシードは、モンスターオーガの攻撃を回避しながら、弓銃カサガケ(小弓モード)を連射させて、ガルダの邪魔をするモンスターコボルト&モンスターピクシーを攻撃する!


「いつまでも同じ手が通用すると思うなっ!」


 違いは、「倒したあとに白メダルで封印出来るか、封印出来ずに再生されるか」と「浄化力で倒すか、破壊力重視で倒すか」だけ。「倒す」という一点のみで考えれば、妖怪もモンスターも、それほどの変わりはない。


「モンスターなんて召還されて、最初はビビッたけど、

 慣れればどうって事のない相手だ!」


 モンスターコボルトは、素早いがパワーは無い!モンスターゴブリンは、コボルトよりはパワーはあるが、恐れるほどではない!モンスターピクシーは、空を飛べるがコボルト以上に非力!オーガ以外の3匹は、既に一度倒している!剣を切り結んで倒すには手間が掛かるが、退けるだけならば苦労はしない!もう、警戒をする相手ではないのだ!


「狗塚っ!アンタはマスクドウォーリアだけを狙え!!

 あとは俺が何とかするっ!!」

「フン!未熟者のクセに、時々、頼りになるヤツだ!

 ・・・モンスターは任せるっ!!」

「おぅ!任せろっ!!・・・・・・・・・・って、おいっ!時々ってなんだ!?」


 ガルダが、モンスターの間を抜けて、スプリガンと刃を交える!一撃目は穂先と刃先が切り結ばれたが、ガルダは、手の中で柄を廻して、すかさず、石突をスプリガンの肩に叩き込む!そして、スプリガンが体勢を崩したところで、胸プロテクターに、穂先の3連突を叩き込んだ!


「グハァッ!」


 プロテクターから火花を上げながら吹っ飛ばされ、地面を転がるスプリガン!手首に填めていたYウォッチから数枚のメダルが脱落する!ガルダは、素早く間合いを詰め、体勢を立て直す前のスプリガンに、穂先を向けた!


「・・・クッ!」


 マスクドウォーリアは確かに強い。妖幻ファイターに比べて、戦闘に特化した性能を優先させている為、初戦では、想定外だらけで、見事にしてやられた。マスクドウォーリア・オーガのように、攻撃に主軸を置いたアタッカータイプなら、サシの勝負で容易に攻略をする事は難しいだろう。

 だが、スプリガンは、攻撃性よりも、前線を他人やモンスターに任せ、戦術や召還を主軸にした後衛タイプ。一対一に踏み込んでしまえば、それほど怖い相手ではないのだ。


「底が見えたな、マスクドウォーリア!!」


 ザムシードの弓銃カサガケの強弩モードから放たれた光の矢が、モンスターコボルトを貫く!続けざまに、小弓モードの連射で、宙を舞うモンスターピクシーを撃ち、羽に風穴を空けられて地面に落ちたところで、強弩モードに切り替えてトドメを刺した!2匹のモンスターは、実体化を維持出来なくなり、メダルの姿に戻って、地面に落ちる!


「飛ぶヤツを倒すなら、本体ではなく、羽を狙う!

 ・・・標的の面積が広い分、当たりやすい!

 昨日、オーガが狗塚の羽を狙って墜落させたのを見て、学ばせて貰ったぜ!」

「・・・い、嫌な学び方をするなっ!!」


 残るモンスターはオーガのみ!巨漢でタフな相手なので、弓銃カサガケ(小弓モード)の連射をしても、あまり、牽制の意味を為さない!


「猿飛のオッサン・・・。

 アンタには、特に思い入れはないけど、

 アンタに無念を晴らす為に、アンタの力を借りるぜ!」


 ザムシードは、先ほどスプリガンから脱落をした『斬』と『閃』を拾い上げた!妖刀ホエマルと妖鞘を装備して身構える!間合いを計りつつ、『斬』のメダルを妖鞘の窪みに装填!妖刀を帯刀して、10秒間のパワーチャージを待つ!


「10・・9・・8・・」


 接近戦に絶対的な自信を持つモンスターは、大斧を振り上げて突進をしてくる!身構えるザムシードとの距離が徐々に縮まる!


「3・・2・・1・・おぉぉぉぉぉっっっっ!!!」


 チャージ完了を経て、抜刀をしてモンスターオーガに踏み込むザムシード!『斬』の効果を得て、鋭い切れ味を付加された妖刀の刃が、モンスターオーガが振り抜いた大斧と切っ先を交え、大斧ごと、モンスターの体を両断!

 踵を返し、妖刀を片手にポーズを決めるザムシード!背後では、モンスターオーガが、断末魔の唸り声を上げて爆発四散をする!これで、スプリガンが召還をした邪魔者は全て始末された!


「・・・くっ!退治屋ごときが魔術師を舐めるな!!」


 スプリガンは、小声で呪文を唱えて、倒されて地面に落ちたAメダルに魔力を飛ばす!すると、4枚のモンスターメダルに魔力が灯り、再び、オーガ&ゴブリン&コボルト&ピクシーは実体を作り始める!


「フン!調子に乗るな、退治屋!オマエ達にモンスターは倒せない!!」

「ゲッ!マジかよっ!?キリが無いっ!!」

「いや・・・そうでもないさ!」


 動揺(ウンザリ)するザムシードを尻目に見て、スプリガンに対して素早く一歩踏み込むガルダ!スプリガンの小斧と刃を切り結んだ直後に、小斧を叩き落とし、次の一撃をスプリガンのベルトに突き入れた!


「がはぁぁぁっっ!!」


 穂先はスプリガンのベルトのバックルを貫通し、スプリガンは数歩後退をして尻餅をつく。破壊されたベルトが地面に落ち、スプリガンは変身が解除されてクロムの姿に戻った。同時に、実体化しつつあったモンスター達は、魔力供給を失って、メダルに戻ってしまう。


「流石に4体同時と成ると、モンスター召還には、余程、魔力が必要なようだな!」

「・・・うぅぅ」

「モンスターを実体化させる為に、魔力を使いすぎた!

 魔力が見えない俺でも、オマエが2度目のモンスター召還で、

 急激に体力を失って、動きが鈍くなった事はお見通しさ!

 後衛タイプが、似合いもしない前線に出て来た事が、オマエのミスだ!!」


 ザムシードが寄って来て、ガルダの隣に立ち、地に腰を着けたままのクロムを見下ろす。


「いや・・・違うな!オマエの最大のミスは、俺達を怒らせた事だ!

 死者の魂を利用するなんて・・・絶対に許されない!!」

「気合いとしては理解出来るが、怒ったからって急に強くなれるワケではない!」

「うるせ~!余計なツッコミ入れるな!!たまには格好付けさせろっ!!」


 クロムは座って俯き、しばらくは微動だにしなかったが、やがて、その肩が小刻みに震え始める。ザムシードとガルダは、最初は「震えているのか?」と考えたが、違うようだ。彼は、声を押し殺すようにして笑っていた。絶望のあまり、気が振れてしまったのか?


「何だコイツ?」

「絶望で気が触れた?」

「クックック・・・クックックック・・・。

 まさか、これほど、何もかも上手くいかないとは、想像もしていなかった・・・」


 顔を上げ、ガルダとザムシードを睨み付けるクロム!その眼は、まだ、闘争心を失っていない!


「だがな、退治屋ども!策士は、常に切り札を隠し持っているのだよっ!!

 格下のシステムに頼るほど追い詰められるとは思っていなかったがなっ!」

「なにっ!?」

「・・・えっ!?」


 クロムはYウォッチと、バックルが雲の形を象ったベルトを取り出して、ベルトを装着し、雲形バックルを展開して、『孫』と書かれたメダルを装填!立ち上がって間合いを空ける!


「変身っ!!」 《QITIAN!!》   キュピィィィィィィィィィィン!!


 妖幻ファイターセイテン登場!セイテンは、すかさず、銀色メダルを掲げて、Yウォッチに装填をする!


《HYPER!》


 装填確認の電子音声が鳴り響き、妖幻ファイターセイテンの戦闘能力が上昇を始める!


「クックック・・・アッハッハッハ!俺は、またも、死者を利用させてもらう!!

 怒りたければ、いくらでも怒れ!!

 だが今度は、先ほどのようには、いかないぞ!!」


 Yウォッチから発せられる銀色メダルの闇が、セイテンの全身を覆い始める!高笑いを続けるセイテン(クロム)の姿が徐々に変化をしていく!


「なに?・・・様子がおかしい。」


 退治屋の妖幻システムに、「形を変化させる」機能は無い。銀色メダルを使用しても、戦闘力の絶対値が上がるだけで、姿は変わらない。猿飛が銀色メダルを使用した時は、姿は変化しなかった。

 だからこそ、鬼討伐の時に姿が変化をしたザムシードは、異質な謎と判断された。


「アッハッハ!ハッハッハ・・・ハッハ・・・ハッ・・・ハァァッッあぁぁ・・・」


 セイテンから上がっていた高笑いは、徐々に悲鳴へと変化をする!もはや、その場には、セイテンの姿をした物は立っていない。銀色メダルの闇に包まれ、全く別の物へと変化をしている!


「ぁぁぁぁ・・・ぐわぁぁぁぁ・・・・・・・

 ぁぁあ・・・・・・・・・怨念に・・・乗っ取られ・・・」


 クロムは里夢に「銀色メダルを使って一暴れしろ」と指示をされた。退治屋出身を母に持つ里夢は「銀色メダルは人の魂に作用する」事を知っている。だが、クロムは、里夢からその危険性を聞いていない。


「そ・・・そういう・・・こと・・・・・か・・・。

 あの女・・・ハナっから・・・・俺を依り代に・・・・・

 あぁぁっぁぁっっっっっっっ!!!」


 クロム自身の手によって、闇を増幅させた銀色メダル。それはもう、誰にも扱えない物になっていた!




-鎮守の森公園近くのビジネスホテル・屋上-


「ふふふっ・・・始まったわね。

 追い詰められた退治屋さんの底力・・・堪能させてもらいましょうか。」


 夜野里夢が、手摺りに凭れ掛かりながら、YOUKAIミュージアムの方角を眺めている。


「バカな男ね、クロム君。

 気付かなかった?

 私が、アナタのように頭の切れる男を、信用するはずがないじゃない?

 堀田君達みたいな扱いやすいお馬鹿さんなら、

 もう少し、生き延びられたかも知れないのにね。」




-YOUKAIミュージアム駐車場-


 依り代にされたクロムは、闇の中で既に事切れていた。


 闇が作るその姿は、ザムシードやガルダやセイテンと同じ、妖幻ファイターの意匠を持つ物・・・。だが、ザムシードもガルダも、獣のような意匠の、その妖幻ファイターを見た事はない。

 銀色メダルから発せられた闇が、セイテンだった物の頭上で、人間の上半身の形を作る。闇の中に僅かに浮かんだ顔は、憎しみに満ちた眼と、焼け爛れた頬を覗かせる。

 やがて、人型の闇はセイテンだった物に乗り移るように溶け込み、別の姿になった妖幻ファイターの眼が不気味に輝く!


「あれは・・・ブロント!」

「信虎?そんな・・・バカな!!」


 駐車場に出て来た粉木と砂影が、姿の変化したセイテンを見て、眼を大きく見開き息を飲む。


 その名は、妖幻ファイターブロント!

 25年前、銀メダル事件のリーダー格として、異獣サマナーアデスに命を絶たれた粉木の弟子だ。

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