第23話・銀色のメダル

-東京都・怪士対策陰陽道組織(退治屋)本社-


 明治神宮の一角に建つ10階建てのビルこそが、粉木や燕真から「本部」や「本店」と呼ばれる退治屋の総本山だ。8階~10階が本社で、7階は東東京支部、6階より下階には、開発局や、妖幻システム&Yメダルの保管庫や、隊員の詰め所がある。各地への退治屋の人事と査定、組織の方針決定は、全て、このビルの8階より上層で行われている。


 東東京支部所属の妖怪討伐2課長・砂影滋子は、本部に駆り出され、文架市の鬼退治の事後処理に追われていた。「文架支部が、狗塚家と組んで鬼を退治した」という結果だけを見れば特に問題は無いし、事件後に1週間程度の時間を掛けて、問題点の調査と、部下達の評価をすれば済む話である。

 しかし、本部から援軍として赴いた妖幻ファイター3人と一般隊員9人(ヘイシトルーパー)27人が、現地に着く前に全滅をしたという事実が、事件解決の落とし処を見失わせていた。

 30人全てが殉職をしたのだ。情報化社会の現代で、事件の隠蔽など不可能。遺族への対応、警察&マスコミへの情報操作、どの案件も容易に済む話ではない。


 鬼の伏兵に待ち伏せされたと解釈するのが妥当だが、粉木からの報告を見る限り、鬼の幹部達はザムシードとガルダに倒されている。中級~下級の鬼族では、援軍の足止め程度は可能だが、全滅をさせられる前に撃退出来るだろう。鬼族は、援軍を全滅させるほどの武力は持ち合わせていないのだ。つまり、援軍を全滅させたのは、鬼族以外の何者かということになる。


「プライドが高い鬼族が、他の種族と手を組むとは考えにくい・・・

 なら、何が妨害をしたのかしら?」


 事件後に、何度も現場に足を運んだ。トレーラー炎上によって焼け爛れたアスファルト、へし折れて突き破られたガードレール、木炭に変化した道路脇の木々、大きく抉られた道路・・・それぞれが、この場所で尋常ではない戦闘行為が在ったこと物語っているのだが、何と戦ったのかは解らない。

 トレーラーにはドライブレコーダーが備え付けられているのだが、爆発炎上によって、全ての記録が失われてしまった。

 付近の観測カメラの記録を取り寄せたが、援軍車輌と一般車輌が映っているだけで、特に異常は見受けられない。背に腹は代えられず、「妖怪事件に一般人を巻き込んではいけない」という決まり事を曲げて、目撃証言を集めたが、「トレーラーに猛スピードで追い抜かれた」「通過した時には、既に炎上をしていた」と言う証言ばかりで、トラブルその物を目撃した有力証言はない。

 裏を返せば、如何に短時間で事件が起きて30人の隊員が息の根を止められたのかが解る。


「それだけじゃないわ。

 何処から援軍の情報が漏れて待ち伏せをされたのかも気掛かりね。」


 対応に追われながら読んだ、粉木の報告書にも、驚くべき記事があった。


  『ザムシードが一時的に姿を変えた』


 そんなハズは無い。ザムシードシステムにパワーアップ機能は付加されていない。

 Yウォッチは、人間が妖怪の力を支配することが前提のシステムであり、封印妖怪が暴走をしないように、戦闘能力にリミッターが設けられている。妖幻ファイターは、万能な怪物ではなく、あくまでも人間に負担無く扱えるように調整されたシステムなのだ。リミッターが無ければ、変身者は封印妖怪に汚染されて、魂を食われてしまうだろう。


 妖幻システムの元となった‘異獣サマナーシステム’は、人間とモンスターが‘契約’という形で結びついていた。プロトタイプの妖幻システムは、サマナーシステムに倣い、妖怪が対等に近い形で、人間に力を貸した。だが、変身者が妖怪に食われるという事例が多発して、初期システムは凍結された。


 その後、名門狗塚家の協力を得て、妖怪を封印して支配するシステムの開発に至る。変身者の命を守る為に、妖怪を封印して能力を制限し、代わりに、装備やバイクにも他の封印妖怪の能力を与えて、戦闘能力を維持する。

 過去に数例、才能に恵まれた隊員が、内包霊力によってリミッターを強制解除をした記録はある。彼等は例外なく、大きな力を得たが、その代償にシステムに魂を食われて死んだ。生きていれば、今頃は幹部や補佐の地位に就いていたはずの若い命だった。17年前、狗塚家当主だった宗仁の最期が、この例に該当をする。

 彼等の犠牲は尊い美談として語り継がれているが、だからと言って、才気溢れる能力者が命を散らせる行動は正しいことではない。開発局は、システムの改良を重ね、より強固なリミッターで変身者の命を守る努力を惜しまなかった。


 ザムシードの変身者に前任はいない。佐波木燕真が初めての被験者である。これまでザムシードのリミッターが解除された実例は存在しないし、システムは最新のリミッターで守られている。

 これまで記録された他の妖幻ファイターのリミッター解除に「姿が変わる」等という物理を無視した変化は起こらなかった。17年前の狗塚宗仁ですら、発現妖力を爆発的に高めるだけに至り、ガルダの姿を変化させることは無かった。

 何よりも、霊的潜在力に1㎜も恵まれていない燕真に、リミッターを解除するなんて技術があるわけがない。


「黒いザムシードは、システムが闇に汚染されたと解釈すりゃ説明が付く。

 だけど‘ザムシードが一時的に姿を変えた’などて言う現実ちゃ有り得ん。

 勘平が寝ぼけて見間違えたとしか思えん。」


 今の砂影には、他に結論付ける手段は無かった。


「念の為に、キリの良いとこまで書類をまとめてから、

 もう一度YOUKAIミュージアムに顔を出いてみようかしらね。」


 彼女は、更なる事実確認と、気分転換を兼ねて、再び、粉木の話を聞きに行こうと考えていた。

 だが、砂影や上層部が、粉木の報告書から感じ取らなければ成らない違和感は、別の場所にある。本当に調査をしなければならない案件は、別の場所にある。

 それは、粉木では身近すぎて気付くことが出来ず、本部では殉職者への対応やザムシードの異常性に紛れて、誰も注目することが出来なかった部分。


 酒呑童子の復活が失敗に終わったこと。

 事態が此処まで切迫していなければ、誰かが、この不可思議な現象を気に止め、調査の必然を発言しただろう。


 酒呑童子は、肉体のみが再生をしたが、魂が無かった。その為に人間サイズまで濃縮されず、暴走体となり、ザムシードとガルダに討たれた。そして、暴走体は、『形を変えたザムシード』が纏っていた霊気を飲み込もうとして、『YOUKAIミュージアムに居た少女』を求めながら消滅したのだ。


 ザムシードを別の姿に導き、且つ、闇の巨人に求められた源川紅葉の異常性。誰1人、その事実に辿り着くことは出来なかった。




-CEO室-


 CEO・喜田御弥司(きた おやじ)の元には総務部から1通の報告が上がっていた。ヨーロッパを拠点とする『大魔会』の女幹部・夜野里夢と、彼女の部下達が入国したという情報である。

 退治屋が妖怪の力を借りるのと同じように、『大魔会』は悪魔の力を戦闘力に変換する組織だ。だが、組織の方向性は似て非なるものであり、その思想は決して相容れない。互いに、相手組織の存在を認知しているが、その活動に干渉はしない。暗黙の了解によって、両組織はトラブルを起こすことなく、それぞれの活動を続けていた。

 だが、喜田CEOは、大魔会の女幹部の来日情報など、気に止めていない。そんなことなど、どうでも良かった。


 豪華なイスの背もたれに体重を傾け、険しい表情で目を閉じる。彼の机の正面には、青年が写った写真立てが置かれている。

 文架市に向かった援軍が全滅して1ヶ月。当時に比べて幾分かは気持ちが落ち着き、部下達の前では平静を装うようになったが、だからと言って、全てを受け入れたわけではなかった。


「どうしてこうなった?」


 援軍が編成され、鬼討伐の作戦が実行に移された時、文架市には鬼専門の退治屋・狗塚雅仁がいた。任務は容易に成功するとタカを括っていた。将来的にCEOの座に就かせたい若い息子と、息子の派閥に‘鬼討伐’の実績を与えたい。そんな親心から、援軍に息子を参加させた。幹部の数人からは「公私混同」と反対をされたが、上役権限で強引に押し切った。

 結果、喜田CEOは、変わり果てた息子・喜田栄太郎と面会することになる。誰が息子の花道を妨害し、こんな姿に変えたのか?社長は、憎しみと悲しさで心を掻きむしられた。


 真犯人が見えない今、彼の内なる怒りは「鬼の闊歩を阻止出来ずに、大事件に発展させてしまった文架市の退治屋」と「援軍に適確な指示を送れなかった無能な幹部」に向けられていた。




-YOUKAIミュージアム-


 燕真がスキー場での修業(?)に励んでいた頃、粉木は、真剣な眼差しで、テーブルの上に置かれた2枚のメダルを眺めていた。


 1枚は黒く焦げたメダル。もう1枚は透明色のメダル。

 透明色のメダル=水晶メダルは、司命が、「エクストラに必要な物」「管理は任せる」と言って、粉木に託したメダルである。握った感触では、水晶メダルに霊力の類は込められていない。しかし、その質感は、水晶メダルの隣に並べてある黒く焦げたメダルに似ている。


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 約50年前。粉木が策陰陽道組織に持ち込んだ異獣サマナーの技術を元にして、最初の妖幻ファイターが作られた。プロトタイプは、使役妖怪の能力をそのまま戦闘力として扱う為、変身者の霊力が使役妖怪の妖力に負けた時点で魂を食われ、妖幻ファイターは、変身者が死ぬまで暴走を続ける。それでも、過去の退治屋達は、激しい戦いに勝つ為に、命を媒体にするしかなかった。


 事態を重く見た開発局は、妖幻システムに封印された妖怪に、大幅なリミッターをかけた。それでは、戦力として脆弱だったので、妖幻ファイターの数や、サポートをする一般隊員で補う。


 やがて、開発局は、制御可能な状態で制限時間を設けて、封印妖怪の力を発現させ、妖幻ファイターの性能を3割程度向上させるシステムの開発に着手をする。それが、約25年前に開発された『銀色メダル』だった。


 最初の被験者に選ばれたのは、当時、東東京支部に所属をしていた粉木勘平の弟子だった。才気溢れる若者だったが、弟子の才能ではなく、粉木の豊富な実戦経験(唯一の‘異獣サマナー’使用者)と「社長の片腕」と呼ばれる能力を評価され、銀色メダルの性能把握に最適と考えられたのだ。


   「そんな、危険なシステムを、弟子に使わすわけにはいけへん。」


 粉木は猛反対をして、弟子に銀色メダルの存在すら伝えなかった。

 粉木では話にならないと判断した喜田常務は、粉木の弟子に、直接、銀色メダルを渡して、被験者に成ることを命令する。弟子は、「自分がエースとして評価をされている」と喜んで銀色メダルを受け取った。そして、メダルの存在を明かさなかった師匠に「俺が使いこなせないと侮っていたのか?」と反発をする。


 開発は成功だった。粉木の弟子は、制御可能な新たなる力を得て、命を失うことなく、華々しい戦果を上げたのだ。


 だが、時を同じくして、それまで円滑だった師弟関係は、次第に壊れていった。粉木が何度も「使ってはならない」と止めても、弟子は「師は臆病者」と侮り、「自分は師を越えた」と自惚れ、師のアドバイスに耳を傾けなかった。


 粉木の弟子の良好な戦績により、銀色メダルは、試作品の増産が決定される。粉木は、再三に渡り、開発の中止を求めたが、上層部は、粉木の事を、腫れ物のように扱うようになる。組織に従わない粉木の解雇を望む意見もあった。


 粉木自身、上層部に辞表を叩き付ける覚悟をしていた。彼の同僚の砂影滋子が、粉木を説得し、上層部に対して彼を庇わなければ、おそらく粉木は退治屋の職を失っていただろう。


 粉木は、「銀色メダルの被験補佐」と「地方への左遷」の選択を迫られ、迷うことなく「左遷」を選んだ。彼が地方に移動すれば、本部の経営方針に口を出す機会は無くなる。地方の退治屋は本部の駒でしかない。だがそれでも、粉木は、「銀色メダル」を受け入れようとはしなかった。


 粉木が本部を去る日、彼の弟子は「もう、若い自分達の時代」「老害は消え去れ」としか思っていなかった。

 かつての師弟が次に会うのは、これより数ヶ月後の、炎に包まれた旧社屋になる。


 左遷先が、彼に所縁のある文架市になったことは、砂影の取り計らいである。それが、「社長の片腕」とまで評価され、異獣サマナーシステムの提供によって退治屋の技術を飛躍的に向上させた粉木に対して、同僚だった砂影ができる、精一杯の恩義であった。


 粉木が新天地に赴任をした数ヶ月後、彼は、新たなる出会いをする。それが、源川有紀。彼女は、銀色メダルを受け入れた弟子とは違い、粉木が理想とする才能の持ち主だった。師が粉木でなければ、有紀はもっと出世をできたかもしれない。だがその反面、粉木でなければ、有紀の才能は見出せなかったかもしれない。そのifの先の未来は、誰にも解らない。


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 粉木は、焦げた銀色のメダルを眺めながら、あまり思い出したくない過去のことを思い出していた。

 実態は解らないが、地獄の書記官が置いていった水晶メダルは、嫌な思い出しかない銀色メダルに似ている。




-東京都・怪士対策陰陽道組織(退治屋)本社-


 今の退治屋本部は、銀色メダルが開発された頃の社屋とは違う。新築され、あらゆる設備が、最新に近い物に置き換えられている。


 1ヶ月前の‘文架市の鬼討伐’の事後処理に追われている砂影に内線が入る。砂影は、「この忙しい時に」と面倒臭そうな表情で内線を受けたら、「砂影課長に、外線が入っています」と言う内容だった。


「・・・外線?」


 携帯電話が主流で、外出中の部下とは専用の通信機器で連絡が取り合える為、砂影に外線が入ることは珍しい。心当たりがないので、首を傾げながら電話機の外線ボタンをプッシュする。


「はい、変わりました、砂影です。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?アンタは!?」


 砂影は、通話相手の声を聞いた途端に、眼を見開いて、声を荒げて、いきり立つ。そして、2~3言会話をして受話器を置き、上着を羽織って足早に部屋から出て行った。




-近くの喫茶店-


 砂影が入店をすると、奧の窓際席に座っていた若い女が、立ち上がって一礼をして、自分の存在をアピールする。ワンレングスのロングヘアと、赤い派手なスーツに身を包み、美しい顔立ちだが、些か横柄な気質に見える。


「・・・夜野里夢。大魔会のアンタが、私に何の用なの?」


 呼び出し人を見るなり、砂影は、顔をしかめて、「良い話ではないだろう」と警戒をした表情で、向かい合わせの席に腰を下ろす。


「久しぶりやちゃ。だけど、色々と忙しゅうてね。

 悪いけど、アンタと世間話をしとる余裕なんて無いのやちゃ。」

「ご無沙汰しています。お時間を取らせるつもりはありません。

 飲み物はコーヒーで良いですか?食事は?」

「コーヒーだけで良いわ。」


 速やかに注文をして、適当な会話で場を繋ぎながら、品物がテーブルに運ばれるのを待って、本題を開始する。


「過去に存在した銀のメダル・・・今も存在をしているのですか?」

「藪から棒に何を言い出すかて思や・・・

 そんな、有りもせん噂、一体だっから聞いたのよ?」

「貴女ならば、聞かなくても想像は付きますよね?」

「・・・圭子・・・か。」

「はい、かつての貴女の部下、夜野圭子・・・私の母です。」

「嫌な名前を思い出す。」


 表情を顰める砂影。里夢はコーヒーを一口飲んでから会話を続ける。


「母からは、銀色のメダルは、大半が回収され、破棄をされたと聞いています。

 つまり、大半であって、全てではありません。

 未回収のメダルもあるのですよね?」

「さっきも言うたやろ?銀色のメダルなんて物ちゃ、ただの噂。

 存在をした事実ちゃ無いわ。」

「組織の汚点を抹消する為に、銀色のメダルなんて、無かった事にした。

 随分と大変だったようですね?」

「・・・ふん!」


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 約25年前、粉木の弟子によって有効性が証明された銀色メダルは、更なる試作品が増産された。本部勤務のキャリア組のエリート隊員に支給され、引き続き、性能把握が通達された。全ての試供メダルで戦果が確認されれば、銀色メダルは量産体制に入るはずだった。


 粉木を庇い続けた砂影滋子ですら、銀色メダルは画期的と考え、粉木の反発を支持することはなかった。


 しかし、粉木が本部を去った数ヶ月後、画期的だったはずの発明は、量産を待たずに、重たい空気を落としはじめる。

 確かに、封印妖怪の暴走による変身者の即死は無くなったが、変身者に過度の負担が掛かることに変わりは無かった。最初は皆が、有効性ばかりに眼を奪われ、リスクは些細な事として眼を逸らしていた。

 銀色メダル所持者の戦果は目覚ましく、誰もが羨み、誰もが手軽に力を得られる銀色メダルを欲した。銀色メダル所持者は自分を選ばれしエリートと誇示するようになる。羨みも誇示も、銀色メダルが存在する以前には無かった負の感情の連鎖だった。


 銀色メダルの使用を続ける事で、変身者の精神は、次第に封印妖怪の影響を受けて、力に溺れ、闇に染まっていった。


 異獣サマナーのような‘契約’ではなく、妖幻ファイターの‘妖怪封印’では、妖怪は、解放された力で、変身者に力を貸すのではなく、支配をしようとするのだ。

 対等な‘契約’ではなく支配下に置く‘封印’ゆえに、変身者の安全が確保される代わりに、そこに利害の一致はなく、封印妖怪が変身者に力を貸すことはしない。異獣サマナーのパワーアップと同じシステムを、現行妖幻ファイターで再現することは、根本的に不可能だった。


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「私がもうちょっこし粉木の反発に耳をかたげとりゃ、

 アンタの母が闇に心を支配されることも無かったろうに。

 圭子の娘に、これ以上しらばっくれても無駄かしらね?」

「そうですね。母は、銀メダル所持者の1人でしたからね。

 もう一度聞きます。銀のメダルは、今も存在をしているのですか?

 私の母のメダルを含めて、大半は回収して処分をされたと聞きました。

 ですが、大半であって、全てではありません。

 リーダーが所持していた1枚は、喪失をして回収出来なかったと聞いています。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 夜野里夢が母から聞いた話は事実である。複数の銀色メダルのうち、粉木の弟子が所有した‘最初の1枚’は、破棄をされずに喪失したのだ。


「あんな駄作(銀色メダル)に何の用があるが?

 いや・・・『大魔会』が、あんな物を欲しとるとは思えん。

 腹の探り合いは止めましょう。アンタが銀色メダルを探す目的ちゃ!?」

「流石です。お互いに真実を隠しても意味が無いと言う事ですか。

 確かに、私達『大魔会』は、銀色メダルに、用はありません。

 マスクドウォーリア・オーガ、ゴブリン、スプリガン・・・

 銀色メダルを探している者を追っています。」


 大魔会。西洋に拠点を置き、退治屋が妖怪の力を借りるのと同じように、『大魔会』は悪魔の力を戦闘力に変換する組織だ。

 異獣サマナーのシステムを基点として研究を進めたのは、退治屋だけではなかった。退治屋が、変身者の安全を確保する‘妖幻システム’を開発したように、攻撃力と制圧を追求する‘マスクドシステム’を開発した組織があった。それが『大魔会』。


 砂影が察した通り、大魔会は、銀色メダルの技術には興味が無い。システムのパワーアップを望むならば、わざわざ、機能を退化させた銀色メダルよりも、基点となった異獣サマナーシステムを再調査した方が、手っ取り早い。所有者(粉木)も、所在地(文架市)も、調べれば直ぐに解る。

 何よりも‘銀色メダル事件’で退治屋の技術は人材と共に大魔会に流出しており、今更、駄作を求める理由は存在しないのだ。


「銀色メダルを探いとる者?どういう事?」

「銀色メダルの事は、大魔会では、不完全な噂になって広まっています。

 事件の闇は隠され、パワーアップ出来ると言う噂だけが、

 一人歩きをしているのです。」

「・・・それで?」

「組織の方針に反発をして離反した3人組が、噂を鵜呑みにして、渡日したのです。

 ・・・約、1ヶ月ほど前になります。

 裏切り者には死・・・

 命懸けの彼等は、追っ手と対抗する為に、新たな力を求めています。」

「やれやれ、私達(退治屋)とアンタ等(大魔会)は、暗黙で不可侵。

 面倒事を持ち込みまないで欲しいわね。

 だけどそれなら、アンタ等のトップが、うちの社長と、

 直接話をすりゃ済むんでないが?

 いくら不可侵とは言え、事情が事情なんやさかい・・・。」

「それが出来れば、内密に貴女を呼び出したりはしません。

 退治屋組織に彼等の所行が知られれば、

 無用な争いに発展する可能性がありますからね。」

「ん?・・・どういう事?

 逃亡者達が訪日したのが1ヶ月前・・・まさか?」

「そのまさかです。

 1ヶ月前、文架市と同じ県内で、

 マスクドシステムの発動履歴が確認されています。」


 それ以上の説明は不要だった。砂影は、1ヶ月前の‘鬼討伐の援軍’が全滅をした理由を把握した。彼等は、大魔会の離反者に襲われたのである。援軍の中には、喜田CEOの息子もいた。喜田が事情を知れば、「真犯人の討伐」に躍起になるだろう。例え、大魔会の離反者とは言え、退治屋が介入をしてしまえば、暗黙の不可侵は破られてしまう。真犯人を心底憎んでいる喜田が、離反者だけでなく、大魔会そのものの罪を追求する可能性は高い。


「ですから、銀色メダルの所在を聞き、離反者を待ち伏せる・・・。

 貴女さえ上層部に黙っていてくれれば、

 私達は、退治屋の手を煩わせることなく、秘密裏に事を進めます。」

「やれやれ・・・面倒事を持ち込みまないで欲しいわね。」


 砂影は、回収出来なかった銀色メダルの所在について、見当を付けている。想定をした上で、所持者を信頼して黙認をしている。それは、銀色メダル事件の首謀者にしてリーダー格だった男の、元師匠であると言う事を・・・。




-YOUKAIミュージアム-


 ザムシードの‘エクストラ’と呼ばれる力は強大だった。銀色メダルに魅せられた昔の弟子とは違い、燕真には闇への傾倒も、後遺症も、特には見受けられない。燕真が「霊感が皆無」だから、闇に心を食われないのか、それとも別の理由(例えば、銀色メダルとエクストラは全くの別物)があるからなのか、粉木には解らない。ただ、水晶メダルからは、銀色メダルと同じ「力を開放する」質感を感じる。


「そろそろバカ弟子が帰ってくる頃か?」


 粉木は、時計を確認をして、2枚のメダルを手に取り、本棚の後ろに隠された金庫に、厳重に保管をする。


 しばらくすると、駐車場に入るバイクのエンジン音(×2)と、小うるさい女子の早口なマシンガントークが聞こえてきた。どうやら、バカ弟子と台風の眼が戻ってきたようだ。

鏡を見て、険しい表情を、いつもの好々爺に戻す粉木。メダルを保管した金庫が、本棚に隠れて完全に見えなくなったことを確認してから、帰宅者達を出迎える為に、喫茶店に足を運ぶ。


「たっだぃまぁ~~~~!」

「オマエの家、此処じゃないだろ!」

「留守番、お疲れ様でした。」


 茶店内に入ってきて、真っ直ぐにカウンター席に腰を掛ける紅葉。後ろから燕真と雅仁が続き、2人は少し離れたテーブル席に座った。粉木は、燕真が紅葉の隣を遠慮したことに違和感を感じたが、直ぐに理由を理解する。


「こんばんわ~。」

「おうおう、お嬢の友達も一緒か?」


 最後に、亜美が入ってきて、紅葉に呼ばれてカウンター席に腰を下ろした。


「ぉ腹減った~~!じぃちゃん、何か食べるの有る?」

「おう!白飯と、漬物と、朝の残りの味噌汁くらいなら、家に行けばあるで!」

「ぅん!ぁ腹ペコペコだから、それでィィや!ァミも、それで良い?」

「あぁ・・・う、うん。

 で、でも、喫茶店で、お金払って、食べる予定だったんじゃ・・・?」

「ァレ?ァミってじぃちゃんちで食べるの初めてだっけ?

 じぃちゃんのタクアン、美味しぃんだょぉ!」

「え?でも、なんか、急に来て、私まで・・・。」

「ィィのィィの!

 燕真やまさっちだって、じぃちゃんちで食べる時は、いつもお金払ってないモン!

 ねぇ、ぃぃょね、じぃちゃん!?」

「退治屋ではないオマエ(紅葉)が言うな!

 俺や狗は、食費は免除されてんだよ!」

「君(燕真)と一緒にするな!俺は食費は納めている!」


「気にせんでええ!自慢の漬け物やで、お嬢の友達も食って行きや!」


 相変わらず、厚かましいというか、何と言うか・・・紅葉は、決まった途端に、茶店を出て、粉木邸に向かってしまう。

 亜美が、ここに来た理由は、「自慢の、YOUKAIミュージアム名物・パワフルピザトーストをご馳走してぁげるっ!」と言われたからなのだが、いつの間にか、漬け物を食べることになっていた。

 燕真と亜美は、互いの顔を見合わせて、「10分ほど前のピザトーストの話は、何処に消えてしまったのだろうか?」と首を傾げたあと、紅葉を追って、粉木邸に向かう。




-数分後-


 粉木邸では、燕真&紅葉&雅仁&亜美が食卓を囲み、明日の朝まで残る予定だった御飯と、朝の残り物を食べている。若者や女子高生が夕食にする献立としては、少々地味ではあるが、紅葉は気にしていない。急に御飯に招かれてしまった亜美は、少しばかり申し訳なさそうだ。


「この食事だけでは物足りんやろ?ちりめんじゃこでも食うか?」


 粉木が、冷蔵庫にあった‘ちりめんじゃこ’を追加してくれると、紅葉はスプーンで掬って御飯の上に乗せ。箸で一匹を摘まんでジッと見つめた。


「燕真に似ているよねっ?」

「似てない!」


 笑いながら白飯と一緒に頬張る紅葉と、いつものことなので一蹴する燕真。


「何処が似てるんですかね?」

「言われてみれば似ている・・・のか?」

「・・・というか、似てるって言いながら、容赦無く食べちゃってますね。」


 雅仁と亜美は、ちりめんじゃこと燕真を交互に眺めて首を傾げた。


「でね、でね、ァミが、ホットドッグを11個も食べたんだょ!」

「見かけによらず大食やのう。」

「それは私じゃなくて、私に憑いていた妖怪です。」


 紅葉の報告は、「ミキが○○だった」「トワキが××だった」と、かなり遠回りをしながらも、「結果的に修業が完了した」事を粉木に伝える。粉木は、「どれのどこが修業?」と驚きつつも、食卓を囲むメンバーを改めて確認して、もっと別のことに驚く。


「のう、燕真?」

「・・・ん?」

「お嬢はともかく、なんで平ちゃん(亜美のあだ名)が、

 オマン等のことを知っとんねん?」

「・・・・・・・・・ん!?」

「いつの間にバラしたんや?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん!?」


 口に運んでいた味噌汁のお椀を離しながら、恐る恐る食卓メンバーを見廻す燕真。 紅葉、雅仁、そして亜美。妖幻ファイターの事を知っちゃいけないハズの部外者が、普通に、妖怪話の顛末に参加してやがる。箸をピタリと止めて、引きつった顔を見合わせる燕真&雅仁&紅葉。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×3

「・・・あれ?」

「なんでァミが?」

「話に加わっているんだ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×3


 亜美は、御飯茶碗を持ち、キョトンとした表情のまま、燕真&雅仁&紅葉&粉木を見廻す。


「え!?・・・あれで隠していたつもりだったの?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×3

「ぃっバレたの、燕真?」

「い、いつだろう???」


 話を整理してみよう。最初に妖幻ファイターと亜美が接触をしたのは、絡新婦事件(第1話)である。あの時は、亜美は子妖に憑かれて意識を落とされていたし、子妖を祓ったあとは、気絶中の亜美を公園のベンチに寝かせて、正体がばれないようにした。絡新婦を倒す為に学校で亜美と接触した時も、子妖に憑かれて意識を失っていた。絡新婦の一件で正体がバレた可能性は無い。

 しかし、雪女&氷柱女の一件の時は、亜美が雪女に憑かれていた為に、燕真と紅葉は、普通に、亜美のいる前で、妖怪の話をしていた。


「あ~~~~~~~~・・・・・あの時か?」

「うん、あの時に、クレハと佐波木さんの会話に違和感を感じてね。

 その後の2人の行動で、確信したんだ~。」

「あっちゃぁ~~~・・・ァミ、洞察力高すぎっ!!」

「オマン等が警戒心が低すぎるんや!」

「全くだ!これは、未熟では済まない問題だぞ、佐波木!」

「あっ!鳥人間みたいなのに変身するのって狗塚さんですよね?」

「なにっ!?」


 話を整理しよう。優麗高で鬼達と戦った時、自由に動けた生徒は紅葉だけ。一般生徒は、生命力を吸収されて昏睡状態に陥っていたはずなので、ガルダの戦いは見ていない。


「里穂ちゃん達とカラオケに行った時(第16話)、

 紅葉と鳥人間が走り回っていましたよね?」


 話を整理しよう。1つ目入道事件の時、ザムシードはサッサとカラオケ店から離れて、事件を解決して戻ってきた時には燕真の姿だった。そして、子妖退治を任されたガルダは、紅葉と共に子妖を追ってカラオケ店の周りを走り回っていた。


「佐波木さんが変身するのは解っていたし、

 狗塚さんは佐波木さんと一緒に居るから、

 もしかしたら、鳥みたいな格好なのが狗塚さんかな~って思って、

 確認のつもりで、狗塚さんの名前を呼んだら、普通に返事していましたよ。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?返事??」

「人の所為にすんな!狗の方がセキュリティが甘いじゃね~か!マヌケッ!!」


 考え無しの燕真や紅葉ならともかく、理路整然と物事を進める雅仁が、アッサリと亜美の揺動に引っ掛かっていたようだ。

 これまで、‘鬼専門’の雅仁は、旅を重ね、一地域に土着して、積極的に地元民と接することなど無かった。長文として成立する会話をしたのは、滞在先の退治屋との情報交換と、本部で学んでいた少年時代くらい。

 文架市に来て、部外者の紅葉に頻繁に突っ掛かられ、退治屋なのに自然体で過ごす燕真に感化され、いつの間にか、一般人に対する警戒心が、少しばかり緩んでいたのだ。


「でも、私じゃ、力になれそうにないから、クビを突っ込む気はありません。

 クレハのことは心配だけど、佐波木さんがちゃんと守ってくれますよね。」

「ああ・・・う、うん。」

「みんなが集まるここが、喫茶店で偽装された基地みたいなのですよね?」

「う・・・うわぁ~~~~~~・・・すげー洞察力!そこまでバレてるのか?」

「バ、バレたんが、周囲を気遣える平ちゃん(亜美のあだ名)で良かったのう。

 今後は気を付けいっ、大馬鹿どもっっ!」

「お店の名前がYOUKAIミュージアムだから解り易すぎるんですよ。

 世を忍ぶなら、もう少し解りにくくしないと・・・。

 でも、他の人には内緒にしておきますね!」

「お~っ・・・じいちゃんまでダメ出しされてるねぇ。」


 亜美が喋り出して以降、全員の箸が止まったまま、食が全く進まない。こうして、亜美のカミングアウトを兼ねた夕食は終わった。




-文架市に向かう公道-


 砂影が運転をして、助手席に夜野里夢を乗せた車が、広い公道を突っ走る。


「結局は、お手を煩わせてしまって、申し訳ありません。」

「なーんやちゃ!だけど、私がしてやるのは案内まで!

 あとは、退治屋には一切迷惑を掛けず、アンタ1人で処理せっしゃいま!」


 まさか、今更、25年前の事件が呼び起こされるとは思っていなかった。25年前の事件で、退治屋の情報は大魔会に流出をした。少し調べれば、当時、退治屋に在席していた者を把握することは容易い。25年前の事を知りたければ、当時を知る者と接触するのが手っ取り早い。退治屋本部との摩擦を避けるなら、地方の退治屋と接触するしかない。


 つまり、銀色メダルの有無に係わらず、やがて、大魔会の離反者は、粉木勘平に接触をする。

 それが穏やかな接触ならば、老獪な粉木は、のらくらと質問を回避して煙に巻くだろう。だが、相手は、鬼討伐の援軍30人を容赦なく血祭りに上げた凶悪な連中だ。

 いくら、彼の周りには、名門狗塚と、弟子の燕真が居るとは言え、相手の戦力が解らなくては、安心は出来ない。


**************************************


 25年数年前・・・粉木が、火災が発生した社屋の中で、足下に落ちている銀色のメダルを拾い上げる。そして、背後に砂影がいることに気付いていながら、何も言わず、振り返りもせず、その場から立ち去っていく。


 あの時、砂影には、粉木を呼び止めて、彼が握り締めているメダルを回収することが出来なかった。無理にでも奪い取るべきだったが、粉木の背に声を掛けることが出来なかった。


**************************************


 既に粉木には電話連絡をして、一定の警戒をするように指示は出した。襲撃者達が、いつ、YOUKAIミュージアムを尋ねるのかは解らない。1年後かもしれないし、今すぐかもしれない。


「里夢、念の為に聞くが、私に離反者のシステムデータを教える気ちゃ!?」

「申し訳ありません。それは機密事項です。」

「そう言うて思うたわ。二度と、こんな面倒事を持ち込みまないで欲しいわね。」


 大魔会の幹部に、文架市の退治屋の所在を知られることは、決して良策ではない。だが、それでも、離反者と粉木の接触を避ける為には、里夢を案内して、大魔会内の抗争は、大魔会内で決着を付けてもらうしかない。




-YOUKAIミュージアム前の路上-


 紅葉と亜美が自転車に跨がり、ハザードを出して路肩に停車してあるワンボックスカーの脇を通過していく。

 ワンボックスカーには、倒し気味にしたリクライニングシートに凭れ掛かりながら、何気なく女子高生達を眺める3人の男がいる。


「なかなかの器量だな。店の客かな・・・?」

「あんなガキが退治屋ってことはあるまい。」

「ガッハッハッハッハ!

 どうせなら、あの娘達がいる時に襲撃した方が面白そうなのだがな。」

「馬鹿を言うな!部外者を巻き込んだら、あとが面倒だ!」

「フン!そりゃそうだな!」


 大柄の東洋人1人と、スマートな西洋人2人は、女子高生達の後ろ姿を見送ったあとで、彼女達が出て来たばかりの敷地の様子を伺う。


「やれやれ・・・一回りして、また、この都市(文架市)かよ。」

「堀田、ロバート、オマエ等が景気付けなんて言って、

 退治屋を30人も始末するから、二度手間になったんだ!」


 彼等は、退治屋と鬼族の戦いを見物する為に、一ヶ月ほど前に文架市に滞在をしていた。だが、本部に派遣された援軍を相手に派手に暴れ回り、退治屋の追跡から逃れる為に文架市から離れた。そして、その後の調査で、欲する物が文架市にあると知り、再び赴いたのだ。


「粉木勘平・・・25年前の事件の時には、既に退治屋に属していた奴だ。」

「だがよ、記録を見ると、事件の時には、本部には勤めていなかったようだぜ。

 事件の数ヶ月前に、地方に飛ばされている。」

「当時の関係者は、既に死んだか、本部勤務か、

 引退をして所在不明の者ばかり・・・」

「当時を知る者で、孤立した地方勤務の為に、手を出しやすいジジイ・・・

 無駄足なら無駄足で構わんさ!埃が出るかどうか・・・叩いてみれば解る!」

「おいおい、いきなり攻撃かよ!?穏やかに話し合う気は無いのか!?」

「ガッハッハッハッハ!

 もちろんあるさ、まだ口を開ける範囲で血祭りに上げたあとでな!」

「やれやれ、俺は‘穏やかに’と聞いたんだがな。

 まぁ、先に叩いた方が話が早いのは事実だ。・・・反論する気も無い。」

「俺は家を襲撃してジジイを締め上げる!

 クロムとロバートは店を叩いて家捜しをしろ!!」

「了解!・・・調子に乗って、白状させる前に殺すなよ、堀田!!」

「ガッハッハッハッハ!ジジイが必要以上に抵抗しなければな!!」


 3人は、首から下げられた懐中時計型のアイテムを開き、中に収納されていたメダルを引き抜いて掲げる!大柄な東洋人のメダルには『Og』、スマートな西洋人のメダルには、それぞれ『Sp』『Go』と書かれている!




-粉木邸-


 燕真が、自分と雅仁しか聞いていない話を粉木に切り出してみる。


「なぁ、爺さん・・・

 地獄の書記官は、‘エクストラのアイテムは、爺さんに預けた’って言ったぜ。」

「‘それを使いこなせるかどうかは、佐波木次第’とも言っていました。」

「そんなアイテム、預かったのか?」

「一体、どのようなアイテムなんですか?」


 粉木は、一時的に面食らったような表情をしたが、直ぐに冷静さを取り戻して燕真の疑問に答える


「やれやれ、聞いたんかいな?

 あぁ、預かっておるで。せやけど、まだ、オマンに渡すつもりはあらへん。」


「・・・え?なんで?」

「どないもんか解らんからや。」

「見せて下さい。俺が見れば解るかもしれません。」

「せやな、狗塚なら、質感から何らかの判断が付くかもしれんな。

 せやけど・・・いや、せやから、まだ見せる気は無い。」

「何故ですか?」


 粉木は、燕真と雅仁を見て、押し黙る。

 確かに、霊術の類に精通している雅仁が見れば、用途は解るのかもしれない。だからこそ、見せる気は無かった。粉木には善し悪しが判別出来ない力に、燕真が晒される事を、見過ごすことは出来ない。雅仁は、一族を根絶やしにした鬼を恨み、燕真以上に‘力への渇望’をしている。そう言う意味では、燕真以上に雅仁の方が危険なのである。

 過去に、‘力への渇望’した弟子が闇に落ちたように、狗塚の先代が恨みの心で封印妖怪を解放して命を食われたように、枯れた一族の名誉とコンプレックスに囚われている雅仁が、妖力の闇に汚染される可能性は充分に考えられる。


「狗塚・・・銀色メダル事件を知っちょるか?」

「いえ、俺は聞いた事がないです。本部でも学びませんでした。」

「せやな、銀色メダル事件は、組織が隠蔽した事件や。

 当時は、まだ、狗塚の先代が健在やったさかい、オマンは、本店では学ぶ前や。

 学舎が新社屋だったオマンが、組織の汚点を知るはずもないか。」

「組織の汚点・・・ですか?」

「隠すのではなく、同じ過ちを起こさん為に、学ばせるべきなんろうな。

 ええ機会や、冷静に聞けるって約束すんなら、何があったんか、教えちゃる!」


「あ・・・あの・・・銀色メダルも良いんだけど、エクストラのアイテムは?」

「黙って聞いちょれ!話には順序ってもんがあるんや!」


 其処まで話した粉木が、ふと何かの気配を感じ取って、押し黙って縁側に駆け寄り、外部を見廻す。同様に、雅仁も、Yウォッチ構えて、周囲の気配を探りはじめる。


「急に周囲が騒がしくなった!」

「何か来よる・・・まさか、大魔会の離反者が、もう!?」

「・・・大魔会?なんだそれ!?」

「大魔会・・・そんな馬鹿な!彼等と我々は暗黙の不可侵を貫いていたはず!」

「話はあとや!奴等、殺る気満々なようやで!」




-YOUKAIミュージアム駐車場-


大柄の東洋人1人と、スマートな西洋人2人が立ち並び、斧を模したベルトのバックルを展開して、専用メダルを嵌め込んだ!


「マスクドチェンジ!!」×3

《OGRE!!》  《SPRIGGAN!!》  《GOBLIN!!》   ズキュゥゥゥゥゥゥッン!!


 電子音声が鳴ると同時に3人の体が光に包まれ、3体の異形の戦士が登場!両刃の大斧を装備した巨漢戦士、片刃の斧を持った戦士×2!その変身は妖幻ファイターと似ているが、現れた姿は全くの別物!妖幻ファイターよりも、50年前に活躍をした異獣サマナーに近い形状を、更に禍々しくした姿である!


「突入だ!」 「おうっ!」×2


 手はず通り、巨漢が粉木邸へ、スマートな2人がYOUKAIミュージアムへと駆け出す・・・が、彼等を遮るようにして立つ人影を見て、直ぐに立ち止まった。


「何用や?茶店はもう閉めた。客やったら明日にでも出直さんかい!

 尤も、オマン等のような物騒な格好の客やら、出入り禁止やけどな!」

「ん?何だオマエ!?」

「この家の主や!家のもんがわしの敷地におるだけなのに何驚いてる!?」


 3人の禍々しい異形の前に立ったのは、粉木勘平である。襲撃を察知して、家の中が荒らされる事を阻止する為に、自ら、家に被害が出にくい駐車場に赴いたのだ。


「家の主?そうか、オマエが、粉木ってジジイ!」

「そうや!何用があって、此処に来たんや!?

 話がしたいなら、先ずはその物騒な武装を解かんか!

 それは、話をする為の格好ではあらへん!」

「俺達の襲撃に気付いていたのか!?」

「殺気が正直すぎや!

 そないモンに気付かんと奇襲をされるほど、モウロクはしとらんわい!!」

「ガッハッハッハッハ!

 探す手間が省けたぜ!!用件は、腕の1本もへし折ってから聞いてもらう!!」

「やれやれ・・・日本語は話せるが、言葉は通じんようやな!!」


 問答無用で飛び掛かってくる異形の3人に対して、数歩後退をする粉木!・・・次の瞬間!


「おぉぉぉぉっっっっ!!!アカシック・アタッッッーーークッッッ!!!」

「なにぃぃっっ!!!?うわぁぁぁぁっっっっっっっっっ!!!!!」


 輝く鳥と化したガルダが、流星のように光の尾を伸ばしながら、低空飛行で突っ込んできた!そして、巨漢の背後にいたスマートな異形戦士に衝突して吹っ飛ばす!

 展開をしていた羽を閉じて着地をするガルダ!その背後で、アカシックアタックの直撃を受けた異形戦士が落下!防御も出来ずに一定のダメージを受けた異形は、気絶して変身が解除されて、ロバートと呼ばれていた西洋人に戻る!


「チィィ!やってくれるじゃね~か!!」


 相手の戦力が知れないのなら、相手が戦力を振り上げる前に潰せば良い!粉木は会話の機会を与えたが、相手は応じずに、襲い掛かってきたのだから、容赦をする必要は無い!


「オマエ等が問答無用のつもりなら、俺達だって問答無用だ!」


 ガルダは、銀塊に込められた霊力で消耗したエネルギーを補充しながら、鳥銃・迦楼羅焔の銃口を、もう1人のスマートな異形戦士に向ける!

 一方、巨漢戦士の前には、粉木を守るようにして妖刀を構えたザムシードが立つ!


「ダイマカイだかなんだか知らないけどさ、随分と凶暴な連中だな!」

「退治屋のシステムなど、我がマスクドシステムの足下にも及ばん!

 先日のザコ30匹のように、瞬殺をしてやるぜぇぇっっっっ!!!」

「え!?まさかオマエが、援軍30人をっっ!?」

「ガッハッハッハッハ!弱すぎて、暇潰しにも成らなかったぜっ!!」

「こ、この野郎っ!!」


 巨漢の異形が振り下ろした大斧と、ザムシードの妖刀が激突!大斧の刃は退けたが、力負けをして吹っ飛ばされ、地面を転がるザムシード!それを見たガルダが、銃で巨漢異形と細身異形を牽制しながら、ザムシードの寄って来てサポートをする!


「未熟者!パワーファイター相手に、正面から力で張り合ってどうする!?」

「悪ぃ!ちょっと、頭に来ちゃってさ!

 だってさ、1ヶ月前、30人の援軍を殺しやがったの・・・コイツ等だぜ!

 どうにか鬼に勝てたけどさ・・・援軍が来なかったせいで、

 1個でもミスっていたら、

 町は鬼にメチャクチャにされてたかもしれないんだ!!」

「大魔会が・・・?」


 雅仁が本部で学んだ中で、『大魔会』については、軽く触れた程度だった。


「不可侵を破り・・・退治屋の業務を妨害した?」


 ザムシードが言う通り、「酒呑童子の復活が不完全」「鬼達が暴走体に食われた」「暴走体のコアを偶然に発見出来た」「ザムシードの想定外のパワーアップ」、これらの要素が1つでも欠けていたら、援軍得られないガルダは、鬼討伐を果たすことは出来なかっただろう。


「・・・だからってカッカするのは別の話だ、未熟者め!

 コイツ等に文句があるなら、戦闘力を奪って、取り押さえれば良い!」

「そりゃそうだな!スマン、少し冷静に戻れた!」


 ザムシードは、ガルダが差し出した手を頼って立ち上がり、再び妖刀を構え直す!


「デカブツを任せても良いか、佐波木!?」

「あぁ!やってやるよ!!」


 ガルダは、巨漢の方が強いと判断していた。定石ならば、戦力の低いザムシードを、弱そうな細身の異形に充て、実力のあるガルダが、強そうな巨漢異形に対処するべきだろう。だが、相手の実力が解らない以上、均衡を前提にした長期戦は危険だ。 多少のリスクを伴っても、細身異形をサッサと倒し、巨漢異形に対して2対1に持ち込むのが上策と考えていた。


「ただし、奴がどんな技を持っているのかは解らないんだ!深追いはするな!」

「・・・了解!」


 ザムシードとガルダは、互いの顔を見て頷き合い、ガルダは銃口を細身異形に向け、ザムシードは妖刀を振り上げて巨漢異形に飛び掛かる!

 勝敗の行方は、ガルダが如何に素早く相手を戦闘不能に出来るかに掛かっている! 様子見や戦力の分析は不要!問答無用で1人目を戦闘不能に追い込んだように、有無を言わさず、もう1人を倒す!


「あまり俺達を舐めるんじゃね~ぞ!ロバートは不意打ちでやられただけだ!」

「舐めているつもりはない!!」


 細身異形は、懐中時計型のアイテム=【AKURYOUウォッチ】から『Ko』と書かれたメダルを抜いて、片刃斧の柄にある窪みに装填!細身異形の足下に魔方陣が現れて、犬に似た頭部を持つ人型生物=コボルトが出現して、ガルダに飛び掛かる!


「ひゃっひゃっひゃ!驚いたか?やはり、舐めていただろう!!?」

「ワォォォォォッッン!」

「・・・なにっ!?」


 大魔会のマスクドウォーリアは、退治屋の妖幻ファイターとは違って、怪物を召還出来る!ガルダは、その様な技術があることは、学んでいない!眼前の敵を舐めているつもりはないが、この様な行動は想定の範疇を超えていた!


「チィ!厄介な!」


 2歩ほど後退して身構え、妖槍ハヤカセを召還して構え、コボルトの攻撃を受け止めるガルダ!頭上から、斧を振り上げた細身異形が襲い掛かってくる!


「退け、コボルト!」


 指示を受けたコボルトは、一足飛びに背面に退き、同時に、頭上の細身異形が、体勢を整えられないガルダに、斧の一撃を振り下ろした!ガルダは咄嗟に槍の束で斧刃を受け止めるが、握りが甘かった為に、衝撃を吸収しきれず、槍は手から離れて足下に落ちてしまう!


「し、しまった!」

「俺達と退治屋じゃ、格が違うんだよ!!」


 細身異形が着地と同時に振り上げた斧が、ガルダの胸プロテクターに炸裂!火花と小爆発を上げながら弾き飛ばされるガルダ!


 一方のザムシードは、「巨漢は小回りが利かない」と判断して、正面から挑もうとはせず、フットワークを使って巨漢異形の大振りを誘って、死角に廻り込もうとする!しかし、ザムシードが背後に回った途端に、巨漢異形は軸足で素早く回転して、ザムシードに向き直り、大斧を打ち上げた!


「ガッハッハッハ!遅い遅い!!」


 ザムシードは、慌てて妖刀で防御するが、力負けをして弾き飛ばされる、地面を転がる!パワーだけではなく、スピードでも相手が上回っているようだ!

 大斧を振り上げザムシードに追い打ちを掛ける為に突進してくる巨漢異形!ザムシードは体勢を立て直して、再び妖刀で防御するが、やはり、力負けをして弾き飛ばされてしまう!


「くそっ!このままじゃ、防御をしているだけでジリ貧になる!」


 ザムシードは、地面を転がりながら、『二』と書かれたメダルを用意して、体勢を立て直すと同時に、Yウォッチの空きスロットに装填!召喚した妖鞘を握り締め、妖刀ホエマルを納刀し、『炎』メダルを妖鞘の窪みに封印メダルセットして、脇に帯刀する!

其の鞘に攻撃力は無い。ただし、妖刀を納めて10秒を経て、抜刀の一閃にだけ、設置したメダルの効果をホエマルに纏わせる事が出来るのだ!!


「10・・・9・・・8・・・」


 ザムシード目掛けて突進をしてくる巨漢異形!ガルダからは「パワーファイター相手に、正面から力で張り合うな」と言われたが、相手が思った以上に機敏で、正面からしか張り合えないなら、押し勝つ手段を選べば良い!カウントダウンをしながら、帯刀した束に手を掛け、腰を低く落として身構える!


「5・・・4・・・3・・・2・・・!!」


 タイミングを読んで、巨漢異形が、ザムシードの脳天に大斧を振り下ろすと同時に妖鞘から刀身を滑らせて抜刀!


「おぉぉぉぉぉっっっっっ!!!」


 炎を帯びた妖刀が、巨漢戦士の大斧とぶつかる!ザムシードは、力負けをして弾き飛ばされた!だが、刃が打ち合われた瞬間に、ザムシードの妖刀から炎の刃が飛び、大斧を通り抜けて、巨漢異形の胸に炸裂をする!


「ぐぉぉぉぉぉっっっっっっっっ!!!!?」


 同時に弾き飛ばされ、地面を転がるザムシードと巨漢異形!ザムシードは防御ごと弾かれただけだが、巨漢は確実にダメージを受けた!煙の上がるプロテクターを苦しそうに押さえ、悔しそうな仕草でザムシードを睨み付ける巨漢戦士!


「もう許さねぇ!!

 頭と胴体くらいは残してやるつもりだったが、

 この前の連中(鬼討伐の援軍30人)のように、その命を摘み取ってやる!!」


 巨漢は、大斧の柄にある窪みにメダルを装填!大斧が禍々しい闇に包まれ、ただでさえ大きな斧の刃が、巨漢の上半身よりも一回りほど巨大になる!しかも、扱う側の質量はそれまでと変わらないらしく、巨漢は重そうな巨大斧を軽々と振り回している!

 ザムシードの気転の一撃は、火に油を注ぐことになってしまった!あんな巨大な武器の一振りを叩き込まれたら、吹っ飛ばされるどころか、防御ごと両断されてしまうだろう!


「マジかよ?かなりヤバくないか?」


 ザムシードが巨漢との間合いを計っていると、ガルダが全身から幾つもの小爆発を繰り返しながら吹っ飛ばされてきて、足下を転がる!ザムシードの手を借りて立ち上がり、細身異形に対して身構えるガルダ!


「さて・・・どうする、狗塚!?

 オマエが真っ先に1人潰してなかったら、打つ手は無かったんだろうな!?」

「・・・本当にそう思っているのか!?」

「い、いや、ちょっと強がった!

 オマエが真っ先に1人潰したってのに、打つ手が無い!」

「・・・同感だ!」


 ザムシードとガルダは、大魔会のシステムの潜在力を完全に読み違えていた。妖幻ファイターと似た形なのだから、同じくらいの性能だろうと考えていたが、とんでもない思い違いだった。

 前門の巨漢、後門の細身。持てる技を駆使すれば、もうしばらくは善戦出来そうだが、活路が全く見出せない。


 ・・・その時!


「見付けたわよ。下品な裏切り者達。」


 冷たい声と共に、急激に、瞑い気配が周辺に立ち込める。

 YOUKAIミュージアムの屋根の上・・・満月を背にして、複眼を輝かせ、大きな翼を広げて、細身に不釣り合いなデスサイズを構えた、まるで悪魔か死神のような影が立っている!


「なんだありゃ?」

「妖幻ファイター?・・・いや、違う!」

「あれも、大魔会の!?」

「もう1人隠れていたのか!?」


 ただでさえ苦戦をしている状況なのに、敵に援軍が来たのか?ザムシードとガルダを更なる緊張が全身を支配する!


「あ、あれは、リリス!!夜野里夢かっ!!」

「アサシンが、俺達を狩りに来たっ!!」


 それまで我が物顔だった2人のマスクドウォーリアは、屋根の上の死神を見た途端に脅え、萎縮して、数歩後退をする!


「くっ!て、撤退だ!!」

「くそぉっ!あと少しで勝ててたのにっ!」


 瞬く間に、気絶中の1人を抱えて、その場から撤退をする異形達!慌てて、路肩に駐めてあったワンボックスカーに飛び乗り、急発進をさせて逃げて行く。

 あまりの急展開で対応不能。ザムシードとガルダは、拍子抜けした仕草で、ワンボックスカーのティルランプを眺めることしかできなかった。


「ど、どうなってんだ?アレ(リリス)は俺達の味方??

 屋根の上に居るヤツが、そんなに恐ろしいのか?」

「大魔会内部で敵対をしている?」


 改めて、屋根の上のマスクドウォーリアを見上げるザムシードとガルダ。

 リリスと呼ばれたマスクドウォーリアは、離反者達を追おうともせず、屋根の上から、2人の妖幻ファイターを見つめている。所在が判明して、いつでも倒せるターゲットより、退治屋の戦力の方が気になるようだ。


「翼の生えた妖幻ファイターは、データで見た事があるわね。

 確か、ガルダ・・・変身者は、鬼退治専門の名家の者・・・。

 なるほど、マスクドシステムよりも戦力の劣るハズの妖幻システムで、

 オーガ達と戦えたのは、おそらく、彼の戦術があったからなのね。

 もう1人の妖幻ファイターは・・・・・・・・・・・・・・・・・・???」


 リリスはザムシードを見つめて、僅かに首を傾げる。あのような形の妖幻ファイターは、25年前に流出したデータには無かった。25年もの歳月が流れているので、新型がロールアウトされるのは当然なのだろうが、知らない形と変身者に対して、少しばかり興味を引かれる。


「よく解らないけど・・・アイツ(リリス)は、敵ではないって事か?」


 ザムシードは、いつまでも興味深そうにリリスを見上げている。一方のガルダは、戦いの結末が不満で仕方がない。完全に性能負けをしていた。マスクドウォーリアの潜在能力は底が見えない。今回は命拾いをしたが、次に連中と刃を交えたら負けてしまうだろう。


「・・・粉木さん。」


 しばらく、悔しそうに拳を握り締めて、黙って俯いていたガルダだが、やがて顔を上げて、粉木を見つめる。粉木は、プライドの高いガルダが、次に、何を望んで喋るのかが予想出来てしまう。


「銀色のメダルのこと・・・是非、教えて下さい。」

「言うと思ったで。せやけど、聞いてどうするんや?」

「アナタなら、俺の考えてることは解るでしょう!?俺は、強くなりたいんです!

 銀色メダルの何が問題で、何が汚点になったのか・・・俺は知りたいんです!

 過去の退治屋では使いこなせなくても、過去を学べば、俺ならば・・・」

「それはアカンで、狗塚!!

 オマンは鬼の退治屋や!大魔会を倒すんが生き甲斐ではないやろ!?

 鬼専門なら鬼専門らしく、鬼が息を潜めちょる間は、温和しくしとれ!!」

「俺がもっと強くなれれば、鬼の討伐はもっと確実になります!

 この間のように紙一重な戦いにはなりません!

 銀色メダル・・・有るんですよね!?何処にあるんですか!?」

「そないもん、何処にもあれへん!25年前に全て処分されたんや!!」

「だったら、詳細を教えて下さい!

 開発者は誰ですか!?無いのなら俺が作ります!!」

「えぇ加減にせい狗塚っ!!」


 粉木は、焦りを募らせるガルダに対して、思わず声を荒げる。普段は冷静で聞き分けの良い雅仁と、普段は掴み所のない粉木。2人の口論は、おそらく初めてだろう。

 やはり、力を渇望する雅仁は危うい。粉木は話をはぐらかすつもりだったが、2人の口論を聞いていたザムシードまでが口を挟んでくる。


「爺さん・・・俺も、狗塚と同じかな。

 このまんまじゃ、次にアイツ等が来たら勝てない。

 ザムシードが鬼退治の時みたいな力を得られるなら、今すぐにでも欲しい。」

「燕真・・・オマンまで言うかっ!?」

「だって、エクストラのアイテムは確実にあるんだろ!?

 爺さんは、‘質感が解らない’とか言ってたけど、

 狗塚なら解るかもしれないんだろ!?

 あんまり悠長なことを言ってられないみたいだし・・・・・・・」

「アカンアカンアカン!!この話は終いやっ!!」


 眼をつり上げて、燕真と雅仁の希望を全否定をして背中を向ける粉木。その姿には、理屈も理論も無く、感情任せに話を誤魔化しているようにしか見えない。


「・・・やれやれ・・・・まだ、引き摺っとるのね?」


 3人の背後から、女性の声がする。振り返ると、初老の女性=砂影滋子が立って、粉木を見つめていた。


「・・・滋子・・・か」


 粉木は、振り返って砂影を見つめ、冷静さを取り戻して、力無く俯く。


「・・・砂影課長?」

「砂影ババアが、なんで此処に?」


「誰が砂かけババアちゃ!?

 勘平・・・アナタ、まだ、25年前のことを気にしとったのね?

 未だに、言葉にして説明出来んほどに・・・。」

「・・・・・・言うな」

「25年前?組織の汚点ってヤツですか?」

「えぇ、そうちゃ。

 その日以降、粉木ちゃ、こう呼ばれるようになった。弟子殺しの師・・・とね。」

「・・・え!?爺さんが?」

「粉木さんが・・・弟子殺し?」


 マスクの下で、眼を丸くして、粉木を見つめるザムシードとガルダ。若者達に隠し通したかった過去を公表された粉木は、無言のまま俯き続けるのだった。

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