番外②後編・青年の理想と少年の夢

 ザムシードは、Yウォッチから属性メダル『炎』を抜き取って空きスロットに装填!気合いを発して、両拳に炎を纏い、ルナティスに突進をする!

 ルナティスは、「ザムシードの動きは先程までと大して変わらない」と判断して、ザムシードの拳を上受で弾いた!受け流されたザムシードの拳が、ルナティスの顔の真横を通過!


「なにっ?」


 炎属性を帯びた拳が、ルナティスの体毛を熱する!


「今までと同じと思うな!」


 2発目のパンチがルナティスの顔面を襲う!ルナティスは、頭を下げて回避!ルナティスの構えが崩れたと判断したザムシードは、上段蹴りを放った!ルナティスは、弾かずに両腕をクロスさせてガードするが、力負けをして3歩ほど後退をする!


「獣の習性?・・・そんなに炎が怖いか?それとも、顔面を狙われたくないのか?」


 両腕のガードを解いて、再び身構えるルナティス。ザムシードの視線が、ルナティスの首に巻かれた赤いマフラーのような物に奪われる。


「・・・ん?」


 ルナティスが防御のペースを乱してまで、守りたかったのは、顔ではなく首のマフラー?


「炎の拳に対して、拳では分が悪いか。・・・魔王剣召喚!」


 ルナティスが、左腕を前に出したら、光と共に剣が出現!切っ先をザムシードに向けて、中段に構える!一方のザムシードは、Yウォッチから『蜘』メダルを抜き取って空きスロットに装填!目の前に出現した妖刀ホエマルを握り締め、同様に中段で構えた!


「はぁっ!!」 「やぁっ!!」


 ザムシードは、ルナティスのマフラーを気にしながら突進!妖刀ホエマルと魔王剣がぶつかり切り結ばれ、ルナティスのマフラーを、ザムシードは間近で確認する!


「・・・これって?」


 それはマフラーではなくバンダナだ。ザムシード(燕真)は、模様まで細々と確認せずにプレゼントしてしまったが、そのバンダナに見覚えがある。


「・・・オマエ?」

「隙ありっ!」


 ルナティスは、ザムシードが動揺で僅かに力を抜いた隙を見逃さず、力押しでザムシードの体勢を崩し、更に、蹴りを放ってザムシードを突き飛ばした!魔王剣を腰の鞘に納刀したルナティスが突進をする!


「魔王剣・・・・・ルーンキャリバー!!」


 疾風のように駆けながら抜刀!瞬く間に、ザムシード目掛けて、何十回と剣を振るった!


「う、うわあああああああああっ!!!!」


 魔王剣の乱打を喰らって弾き飛ばされ、地面を転がるザムシード!


「やはり、上っ面だけが立派で中身の無いヤツだったようだな!

 我が裁きの爪によって朽ちろ!」


 ルナティスが魔王剣に気を込めたら、刃から光球が出現!魔法陣に変形をする!


「獣化転神っ!!!」


 叫んで魔法陣に飛び込んだルナティスが‘炎の獣’に姿を変え、ザムシードに突っ込んできた!ザムシードはホエマルを構えて迎撃の体勢に成るが、炎の獣は真っ直ぐ突撃と見せかけて、途中でジャンプをしてザムシードを飛び越えて着地!残像が見えるようなスピードで走り回って撹乱をする!


「くっ!本体はどれだっ!?」

「絶望の深淵で瞑れ!!最終奥義っ!!バニング・バスタァァァァァァッ!!!!」


 ザムシードの死角から飛び込む炎の獣!バニングバスター炸裂!


「ぐはぁっっ!!」


 ザムシードが、大きく弾き飛ばされた!炎の獣が解除されて姿を現したルナティスの背後で、ザムシードが全身から無数の火花を散らせながら墜落!

魔王剣を振り上げて、トドメを刺すべく、大ダメージを受けて動けなくなったザムシードに突進をする!


「俺の正道を阻む者は何人たりとも許さんっ!これで終わりだ!!」


ウ~ウ~ウ~

「ケーサツが来るぞっぉ~!!」

「お巡りさん!喧嘩はこっちです!」


 サイレン音がと通行人の叫び声が耳に届いて、ルナティスが我に返る。先ほど助けた女子高生が通報したらしく、遠くにパトランプの点灯が見える。

 暴漢共を成敗するだけなら1分もあれば完了させて、人が集まる前に退散することができたが、人外(ザムシード)相手に時間を掛けすぎてしまった。批難されるような悪いことはしていないが、ヒーローが正体を晒して警察の事情聴取を受けるわけにはいかない。


「チィッ!・・・ここまでか!」


 ルナティスは、ザムシードへのトドメを諦め、颯爽と駆けて去っていく。


「ウサギヤロー行ったよ、ジイチャン!」

「おうっ!」


 通行人のフリをして警察を呼び込んだ2人組=紅葉と粉木が、茂みから顔を出して、ルナティスの撤退を確認。ザムシードに駆け寄って、粉木が和船バックルからYメダルを抜き取り、変身を強制解除させた。


「燕真、ダイジョブ?」

「立てるか?」

「辛うじて・・・な。」


ウ~ウ~ウ~

 警察の事情聴取を受けたくないのは、粉木達も同じ。ダメージを受けて脱力をした燕真に肩を貸して、近付いてくる、サイレン音と反対側に逃走をする。




-YOUKAIミュージアム・事務室-


 粉木と紅葉が並んでソファーに座り、対面側のソファーに疲れた表情の燕真が深々と腰を降ろす。紅葉と粉木は、今回のザムシードの敗北が不満で仕方が無い。燕真が、疲れているのを承知の上で、強い口調で詰め寄る。


「どういうこっちゃ、燕真?」

「ウサギヤロー、強かったかもしれないけど、

 燕真がボッコボコにされるほど強いわけじゃないでしょ?」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「共存とは言うても、所詮は、人間に妖怪が憑いただけの存在や。

 なんぼ素体の人間が強かったかて、1+1は2。

 戦闘目的で開発された妖幻システムとは違うて、

 妖怪が憑いて何十倍にも戦闘力が上がるわけちゃう。」

「それなのに、なんで負けたの?」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「ワシには、戦闘を放棄しとったようにしか見えへんかった。」

「そうなの?燕真?」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「納得できるように説明せんかい。」


 燕真は話しにくそうに俯いていたが、粉木と紅葉に睨まれ、やがて観念をして口を開く。


「ゴメン。ジイさんの言う通りだ。戦えなかった。」

「なんで?」

「ルナティスは、多分、正義の為に戦っている。

 そんなヤツから、妖怪を取り上げるのが正しいのか解らなくてさ・・・。

 どんなヤツが変身してるのか気になって、様子を見ながら戦っていたら、

 気が付いた時には、完全にアイツのペースに嵌まっていた。」

「そんなん、言い訳にならんで。」

「妖怪に憑かれた人間は精神を闇に落とすから、妖怪を封印しなきゃ成らない。

 頭では解っていたつもりだったけど、実際に接触したら迷っちゃって・・・。」

「ちゃんとしなきゃダメぢゃん。」

「解ってる。・・・でもアイツ、多分・・・。」


 ルナティスが首に巻いていたバンダナは、戦闘の数分前に、燕真が良太にプレゼントした物と同じだった。ルナティスの出現タイミングと、出現した場所、そして接触して感じたルナティスの人間性。燕真は、ルナティスと良太を重ねて、戦えなくなってしまったのだ。


「俺さ・・・アイツ(良太)の‘強くなりたい’って気持ち共感しちゃうんだよ。」


 燕真は、‘普通の中’で藻掻き、人の為に役立つ何かを突出させたいって願望を持つ少年の気持ちが、自分と同じだからこそ理解できる。ルナティスが言った「力愛不二(力を伴わない心は無力)」に共感ができてしまう。


「ちょうど良い弟分ができたってくらいに思ってたのに、

 よりによって、アイツがルナティスなんて皮肉だよな。」

「・・・燕真。」


 銀行強盗事件でルナティスが出現したタイミングと、良太が塾に遅刻をした事を考えると、紅葉にもルナティス=良太は納得が出来る。燕真が、楽しそうに良太と会話をしているのを思い出して、燕真の優しさを理解して、紅葉は何も言えなくなってしまった。

 だが、粉木は違う。燕真の情に理解を示さず、真っ直ぐに燕真を睨み付けた。


「燕真、オマンの言いたいことは、よく解った。

 それならば、Yウォッチを渡せ?」

「おぉっ!カイゾーしてパワーアップすんの?

 特撮ヒーローあるあるだね!」

「ちゃうわ!

 オマンには、退治屋の資格があれへんさかい、

 妖幻システムは預けられへん言うてるんや。」

「えっ?」

「退治屋はボランティアやない!仕事や!

 気分次第で職務放棄をするアホウに、任せられるわけがないやろ!」

「だ、だけど、ルナティス以外なら、ちゃんと・・・」

「これは代価を得て営む仕事や!例外は無い!

 戦いを迷うヤツに、仕事は任せられん!さっさとYウォッチとよこせっ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」


 粉木の言い分は不満だが、燕真には返す言葉が無い。言われた通りに、左腕に填めたYウォッチを外して渡す。


「オマンが、ルナティスとの戦いを割り切るまでは、預かっとく!」

「・・・うん。」

「んぇ?燕真、ザムシードやめちゃうの?」


 いきなり三行半を言い渡さないのが、粉木なりの優しさだった。燕真は、それを理解したゆえに、黙って受け入れる。本当は、「戦える」と言って妖幻システムの返却を拒否をしたかったが、今の燕真には、良太との戦いを割り切る自信が無い。


「帰って、自分が何をしたいのか、ジックリ考えろ。

 それで考えがまとまらんなら、退職届を持ってこい。」

「んぇ?燕真、おうちに帰っちゃうの?喫茶店とミュージアムのお仕事ゎ?」

「退治屋の‘ついで’の仕事など、退治屋を出来ん状態でやる必要は無い。」


 燕真は立ち上がり、やり切れない表情で事務室から出て行く。


「燕真っ!待ってよぉっ!」


 追っていく紅葉。粉木は顔を向けないまま、険しい表情をして、目だけで2人を見送る。

 燕真が躊躇うなら、粉木がルナティスを倒すという選択肢もある。だが、それでは、燕真が成長を出来ない。ルナティスの一件は、「割り切れずに離職する」「辛い思いをしても退治屋を続ける」のどちらかを、燕真に選択してもらわなければ成らないのだ。

 数ヶ月前まで大学生だった青年が、甘さを捨てきれないのは理解が出来る。だが、社会人なら、いつまでも理想や妄想を追っていられない。特に、燕真が足を踏み入れた世界は、平和を守る為に、義務を優先させなければ成立をしない。




-YOUKAIミュージアム・駐車場-


「待ってよ、燕真っ!」


 バイクに跨がろうとした燕真に、紅葉が駆け寄って行く。


「今から、燕真のおうちに遊びに行ってもイイ?」

「良いわけ無いだろ。空気を読め!」

「空気読んだから言ってんの。」

「仕事、クビに成りかけてんだから、少しは1人で悩ませろって言ってんだよ。」

「一緒に悩んであげる。」

「直帰をする気は無い。だからオマエは帰れ。」

「どこ行くの?」

「バイクでひとっ走りして、気分転換するんだよ。」

「水くさいなぁ。最初からそう言えば、付いていってあげるのに。」

「オマエ、俺の話、どう聞いてた!?

 オマエに遠慮をしているつもりも、付いて来いと言ってるつもりも無い!」

「1人でバイクで山とか海に行って、ムラムラしてダイブしたら困るぢゃん。」

「欲情して飛び降りるってどんな状況だ!?

 そーゆー時は、ムラムラじゃなくてクヨクヨ!

 そもそも、そこまで思い詰めてねーよ!」

「いーから、いーから!GoGo!」


 燕真は許可をしていないのだが、紅葉はタンデムに跨がってヘルメットを被り、出発するように催促をする。


「全くもうっ!オマエの所為で俺がムラムラしても知らねーぞ!」


 不満で仕方の無い燕真だが、此処で「一緒に行く、行かない」の議論をしても無駄な時間が経過をするだけなので、「タンデムに乗っているのは人ではなく荷物」と考えるようにして、ホンダVFR1200Fを発車させた。東側に向かい、生活道を抜けて国道へ。バイクのスピードを上げて、流れる町並みと空を眺める。


「・・・鈴木良太か?」

「なんか言った!?」

「独り言だ!」


 燕真はバイクを駆りながら、良太のことを考えていた。ヒーローショーに場違いなアイドルオタ達に注意をする行為は、誰にでも出来ることではない。燕真は良太の勇気を評価している。銀行強盗が出現したり、暴漢に襲われている人がいた時、自分に人智を越える力が有れば、利用をして悪い奴を倒したいなんて、誰でも考えること。


「力を伴わない心は無力・・・か。その通りだ。言われなくても解ってる。」

「えぇっ!?なんか言った!?」

「だから、独り言だ!イチイチ口を挟むな!」

「独り言なら心の中で言ってよねっ!ァタシにコクってるのかと思っちゃった!」

「自意識過剰すぎる!今の独り言をどう聞けば、告白の言葉になるんだよ!?」


 高校の3年生の時、同じクラス内に、スクールカーストの一軍を気取った問題児集団がいた。小中学校時代ならともかく、高校に成ると、中身が無い口先だけの連中など、クラスの中心には成れない。燕真や大半の生徒は、彼等の機嫌を損ねないようには気を付けたが、協調よりも勢いと暴力で自己満足を優先させる彼等を、ただの脱落者と考え、一軍とは思っていなかった。

 ある日、地味なクラスメイトが、問題児集団に目の敵にされる。皆が、クラスメイトを助けたかったが、問題児集団が怖くて助け船を出せずにいた。

 燕真も同じだった。問題児集団の糾弾をして根本解決をさせられず、地味なクラスメイトに優しく声を掛けてやることしか出来なかった。超能力とか、漫画のヒーローみたいな凄い力が有れば、問題児集団を問答無用で黙らせることが出来るだろうに、燕真にはそんな力は無かった。

 自分の無力を知っている燕真には、良太の気持ちが解る。妖怪が力を貸してくれるという条件が目の前にあれば、燕真だって受け入れた可能性は高い。


「なぁ、紅葉?」

「・・・・・・・・・・・・」

「おい、紅葉、聞いてるのか!?」

「また独り言!?」

「独り言でオマエの名前を口に出していたら、色々と病んでるだろう!

 オマエに話し掛けてんだよ!」

「なになに?ついにコクるの!?」

「チゲーよ!」


 走行時の風と、真下(バイク)から発せられるエンジン音に妨げられる為、次第に大声に成る。


「オマエさ、もし俺が退治屋してなかったら、どうしてた!?

 退治屋と無関係なら、俺の所に押し掛けていないよな!?」

「退治屋してなくても、燕真ゎ燕真ぢゃん!」

「回答の意味が解らん。」

「質問の意味がワカンナイから、他に答えられないのっ!」


 退治屋に興味を持って押し掛けたのは、あくまでも、燕真との接点を作る為のキッカケにすぎない。紅葉の答えは、「燕真が退治屋じゃなかったとしても押し掛ける」なのだが、それでは燕真への気持ちがバレてしまうので内緒にしておく。


「俺と鈴木君って似てるよな?」

「なんで急にスズキ君?」

「・・・なんとなく。」

「顔?全然似てないじゃん。もしかして生き別れの兄弟なの?」

「チゲーよ!アカの他人だ。

 顔じゃなくて雰囲気だよ。似てると思わないか?」

「燕真の方が普通ぢゃん!全然似てないよっ!」

「俺、今、バカにされた?」

「バカにしてないよぉ。」


 紅葉は、普通を拒否して、無理に特別感を演出している良太より、普通を受け入れて普通の中で藻掻いている燕真の方が格好良いと思っているのだが、それをキチンと表現できるほどの語彙力が無い。


「超普通って言って褒めてあげたのっ。」

「褒めてねーだろ。」


 幾分かは気が紛れたが、根本的な打開策は思い付かないまま、1時間程度バイクを走らせてから、紅葉を自宅に送り届けて、燕真は帰宅をした。




―数十分後・川東の一軒家―


 鎮守の森公園より北側の小拓(おたく)町にある、何の変哲もない建売住宅。ガレージには、黒いスズキ・ギャグが止まっている。

 その家の2階にある一室。壁にはロボットや特撮のポスターが貼られ、棚にはロボットやヒーローのフィギュアが飾られた部屋で、良太が、ベッドに引っくり返って天井を眺めていた。

 本職ヒーローみたいなヤツと遭遇して驚いたが、戦ってみたら、もの凄く弱かった。あんなので本職を気取れるなら、自分はもっと上の大ヒーローに成れるのではないか?気がついたら、自然とニヤケ顔になってた。傍らの床では、玉兎がニンジンを食べながらマンガ読んでる。


「今日は、今までで1番充実してたな。」

「満足カ?」

「そりゃそうだろう。妖怪を祓う専門家より強いってのを証明できたんだぞ。

 俺とウサのコンビは、向かうところ敵無しってことじゃん。」

「奴トハ 二度ト戦ウナ。」

「ん?どういうこと?邪魔してきたら、また倒せば良いだけじゃん。」

「奴ハ マダ余力ヲ残シテイタ。」

「は?手を抜いて戦ってたってことか?」

「ソウ言ウ事ダ。」

「意味がわかんね~よ!

 負けた時の言い訳をする為に、本気を出さないような腐った奴か?

 それとも、俺を舐めて、本気を出す前に負けたマヌケか?」

「サァナ。ソコマデハ 解ラン。」

「なんか、腹立つな。」

「ソウ言ワズ 勝チ逃ゲデ 終ワラセテオケ。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 ウサは悪気の無い注意喚起のつもりなんだろうけど、せっかく良い気分が害されてしまった。


「あのさぁ、ウサ・・・こ~ゆ~時は、俺の戦術がアイツの真価を封じて・・・。」


 母親が階段下から「良太~っ!お風呂入っちゃいなさいっ!!」と、大声で呼ぶ声がする。


「はいよっ!大声出さなくても聞こえてる!」


 溜息を吐いて起き上がる良太を、玉兎が目を細め、チラッと見上げながら言う。


「鈴木良太・・・・平凡ナ名前ダヨナ」

「・・・それ言うなよ、気にしてんだから。」


 第一印象からして平凡。良太は、それが嫌なので、拳法を習ったり、バイクに乗るなど、周りの同世代とは違うことをして‘平凡ではない自分らしさ’で承認欲求を満たそうと心掛けている。


「でもさ、あの人は、普通なのに格好良いんだ。」


 佐波木燕真は違った。名前は非凡で、容姿は合格点だが、あとは全て平凡。だけど、承認欲求を満たす為に自分を大きく見せるワケでもなく、だからと言って平凡な自分にイジケているわけでもない。

 良太は、‘燕真に貰ったバンダナ’を頭から外して見詰める。平凡な燕真に親しみやすさを感じ、且つ、ありのままの自分をキチンと受け入れている燕真に、ある種の格好良さを感じていた。




-本陣町・燕真のアパート-


 燕真は、寝転がったまま、ボケッとテレビを眺めていた。


「俺の方が普通・・・全然似てない・・・か。」


 紅葉に言われた言葉を思い出す。「似ている」と、良太にシンパシーを感じていたのは燕真だけで、傍から見たら全く別物で、良太は「似ている」と思われることを迷惑に感じているのだろうか?


「あ~~っ!ムシャクシャする!!」


 粉木に退職届を提出するつもりは無いが、まだ「割り切る」という答えには辿り着けていない。

 部屋の中でボケッとしていても、答えの出ない余計なことばかり考えてしまう。こんな時は、何も考えずに汗をかいた方が良い。燕真は、ジャージに着替えてジョギングに出掛ける。




-数日後・駅の西側にある町-


 良太がバイクを走らせていると、‘子供神輿’を担ぐ十数人の子供達と、それを囲んで誘導する保護者達が見えた。近くの広場では屋台の出店も出ている。町内会や子供達を中心にした町内の祭りが行わるようだ。


「わっしょい!わっしょい!」×たくさん


 良太は、特に興味を示すでもなく、一定の気を遣って、超過気味だったバイクの速度を落として、横目で見ながら脇を通過する。


「・・・ん?」


 しばらく直進をすると、対面から、明らかな‘違法改造されたバイク’の集団が連なって、蛇行運転をしたり、爆音やクラクションを鳴らしながら走ってくる。


「ひゃっはぁ~~!!」

「わっ!危ねっ!!」


 車線からはみ出して、対向車線の良太や一般車両を威嚇しながら通過していく者もいる。前の車のブレーキランプが点灯して、路肩に停車して改造バイク集団の通過を待ったので、良太もバイクを路肩側に寄せる。その脇を、改造バイク集団が通り過ぎていく。


「迷惑な連中だ。」


 改造バイク集団は、【卑夜破呀(ひゃはあ)】というチームの暴走族だ。意味も無く走行中の一般車に絡んだり煽るのは日常茶飯事なのだが、今日は何か目的があって走っているらしく、絡まれずに通過してくれたことを、良太は安堵する。だが、直後に、先ほど通過したばかりの‘子供神輿’を思い出した。意味も無く対向車を威嚇する者達が、反撃能力ゼロの子供神輿を見たらどうなるのだろうか?


「チィ・・・嫌な予感がする!」


 思い過ごしで済めばそれで良い。良太は、次の交差点でUターンをして、念の為に、子供神輿の安全確認に向かう。



-子供神輿-


 地響きみたいなエンジン音が鳴り響く。楽しむ子供達と見守る保護者達は、「何事?」と眺めると、対面側から改造バイク集団が走ってくる。一方の【卑夜破呀(ひゃはあ)】は、子供を中心とした集団や広場の出店を見付けて、対向車線を無視して押し寄せてきた。リーダーらしき奴が金属バットを振り回して号令する。


「ガキ共の祭りなんてブッ壊せ!!これが、俺等の祭りだぁっっ!!」

「ひゃあああああああっっっはああああああああああっっっ!!!!!」×いっぱい


 突然破壊された楽しい時間。泣き喚く子供達。金属バットやバイクが相手では、保護者達は対抗する手段が無い。子供達に神輿を放棄させて、抱きかかえて逃げる。金属バットで無残に叩き壊され、バイクで踏み潰される神輿。【卑夜破呀】メンバーの数人が、出店を叩き潰す為に、広場に乗り込んでいく。


「やめろぉぉぉっっっっっっ!!!!」


 レプラスを猛スピードで駆るルナティスが突っ込んできた!子供達に襲いかかる数人を弾き飛ばしてからレプラスを回頭して、再び突っ込み、納刀したままの魔王剣を振るって【卑夜破呀】メンバーの数人を薙ぎ倒し、出店前を破壊する連中を成敗する為に広場へと向かう!

 一方、好き勝手に暴れ回っていた【卑夜破呀】は、リーダー格の合図で、広場に入ってきたルナティスを取り囲んだ!


「先日の銀行強盗と、鎮守の森公園のナンパを妨害したのはテメーか!?」

「だったらどうした!?」

「ダチに恥をかかせやがって!」

「・・・狙いは俺!?」


 銀行強盗と、鎮守の森公園の暴漢は、【卑夜破呀】のメンバーだった。奴等は、ルナティスに倒された仲間の復讐をする為に、大掛かりな破壊活動をして、ルナティスを誘き出したのだ。


「気に入らないな!だったら、最初から俺を狙えってんだ!」


 自分を誘き出す為に、何の罪も無い子供達にトラウマ級の恐怖を与えたと思うと、腹が立って仕方が無い!ルナティスは、怒りで震えながら、全方位を囲んでいる【卑夜破呀】を睨み付けた!




-鎮守の森公園-


 燕真が、ジョギングをしていた。一定の霊感があれば、何らかの胸騒ぎくらいは感じるのだろうが、燕真にそれは無い。ルナティスの出現など、一切気付かずに、イヤホンで好きな曲を聞きながら走り続ける。

 運動が好きというわけではないが、家の中で悶々と塞ぎ込んでいるのは嫌い。バイクでカッ飛ばして気を紛らわせるのも嫌いではないが、結局は、気分転換にはならなかった。それならば、物に頼るより、身一つで、体力を追い込んで鬱憤を吐き出したい。


「あの防犯灯から神社までダッシュ!」


 自分にノルマを課し、ジョギングからダッシュに切り替える。直後に、ポケットの中のスマホが、紅葉専用の着信音を鳴らしたので、ペースを落として通話に応じた。


〈燕真!ニュース見た!?〉

「見てない。今は出先だ。」

〈大変だよっ!〉

「なにがっ?」

〈ウサギヤローが事件起こしたのっ!〉

「・・・・・えっ?」


 燕真は、立ち止まり、通話状態のまま、ニュース記事を検索する。


【文架市郊外の祭りで大乱闘 暴走族と謎の人物の抗争 30人重傷・5人重体】


 『【卑夜破呀】の呼ばれる暴走グループが、町内の祭りを妨害した。そこへ【ウサギ仮面】が駆け付けて乱闘になり、メンバー30人が、骨折や火傷などの重傷。5人が意識不明の重体』って内容だった。

 いくつかの画像や動画がアップされており、現場検証に追われてる警官達の姿や。粉々になった神輿、打ち壊された出店、そして、そこかしこで大破したバイクが転がっていて、現場の物々しい様子が、充分に伝わってくる。

 だが、現場は、祭りの広場だけではないらしい。広場での乱闘のあと、逃走する卑夜破呀と、追うルナティスのバイクチェイスに発展をして、文架駅の西側全域で、卑夜破呀の被害が出ていた。


「・・・鈴木君が?」

〈どうすんの、燕真?〉


 信じたくないが事実らしい。記事のコメント欄では、「卑夜破呀なんて罰を受けて当然」などのルナティス擁護意見もある。燕真も内心では同意見。だけど、例え一般人を守る大義があっても、私刑は許されない。ルナティスの力が有れば、卑夜破呀の戦闘能力だけを奪って、警察に引き渡すことだって可能なはずなのに、あきらかに過剰攻撃をしている。

 数日前に粉木が言った「共存状態でも依り代は妖怪の影響で精神を闇に落とす」という言葉を思い出す。


「・・・憑いた妖怪の干渉か。」

〈そうみたい。〉


 ザムシードと対峙をした時のルナティスも攻撃的だったが、暴漢に対しては軽傷で抑えていた。だが今回は違う。あきらかに、自制できなくなっている。

 今更、良太から妖怪を奪わなければならない理由が理解できた。初対峙の時に、迷わずにルナティスを倒せていれば、今回の事件は起こらなかったのだ。燕真の甘さが、良太を加害者にしてしまったのだ。


〈やっぱり、やっつけなきゃみたいだね。〉

「・・・だ、だけど、相手は鈴木君なんだぞ。」

〈だからなに?〉

「友達なんだ。」

〈シッカリしてよ燕真!いつまでもムラムラしてないでっ!〉

「ムラムラはしていない!」

〈燕真ゎ諦めちゃダメなの!〉

「オマエに俺の何が解・・・」

〈燕真ゎ0点でも最後まで頑張るヤツなの!!

 今は、ウサギヤローを止めなきゃダメな時ぢゃん!

 燕真らしく止めて、文句言われちゃったら、次は退治屋と戦えば良いぢゃん!〉

「そんなムチャクチャな!」

〈燕真ゎそ~ゆ~ヤツなの!0点でも、ァタシが応援してあげるからっ!〉

〈・・・紅葉。〉


 年下の小娘にここまで言われてしまったら、もう、迷ってる暇も、言い訳をする気も無い。燕真はジョギングを中断して駆け出し、自宅経由でYOUKAIミュージアムに向かう。




-YOUKAIミュージアム-


「燕真ゎ絶対来るのっ!だから、もうチョットだけ待ってっ!」


 燕真が到着すると、車で現場に向かおうとする粉木を、紅葉が通せんぼして止めている。紅葉は、「優しい燕真が、この事態を放置できるわけがない」と確信していたのだ。


「爺さん!紅葉っ!」

「割り切れたんか?」

「正直言って、完全に吹っ切れたわけじゃない!

 でも、やらなきゃ成らないことは解っている!」

「そうか。やったら、行動で証明してみぃ!」


 粉木は、車の助手席に置いてあるYウォッチを手に取って、燕真に投げて渡す。返されたYウォッチを握り締めて粉木を見詰める燕真。


「・・・粉木ジジイ。」

「誰が子泣き爺や。

 依り代は、妖怪の影響で攻撃的に成っている可能性が高い。

 ほぼ確実に戦いに成るぞ。」

「そのつもりで、俺はYウォッチを受け取りに来たんだ。」


 燕真が駆け付けることを想定していなければ、Yウォッチは事務所内に保管されているはず。紅葉だけでなく、粉木も、燕真が駆け付けることを信じていたことを、燕真は理解する。




―南真草(なまぐさ)寺―


 鎮守の森公園の北側に南真草寺と言う寺がある。その現住職が、推しの居る風俗に通う為に玄関から出て来たら、不意に地鳴りみたいな音がして、前方に黒い巨大な渦が湧いたので、何事かと立ち止まって首を傾げる。


「パオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!」

「なっ、なんだあっ!?」


 渦の中から現れたのは、どう見ても象なんだけど、目が吊り上がり、口が耳まで裂けて尖った歯が生え、口の中で炎が燃え盛っていた!妖怪・【火象(かぞう)】が、啼きながら生臭坊主に迫る!




-YOUKAIミュージアム-


ピーピーピー

 紅葉が燕真のバイクのタンデムに乗り、皆で現地に向かおうとした矢先に妖怪発生の警報音が鳴った。何処かでルナティスが暴れているのか?燕真の表情が緊張で硬くなる。


「場所は川東地区の南真草寺や。ルナティスとは、ちゃうようやな。」

「そっか、復帰の肩慣らしには、ちょうど良い!」

「妖怪討伐が前座扱いかいな?大きく出よったな。

 まぁイイ。オマンのマシンOBOROなら、間に合うはずや。」


 燕真は、ザムシードに変身をして、タンデムの紅葉に降りてもらい、マシンOBOROが発したワームホールに飛び込む!




-小拓町・鈴木家-


 良太は、自室のベッドに寝転んで、スマホで卑夜破呀事件の記事を読んでいた。兎狸が絨毯に寝そべり、生野菜が盛られた皿からブロッコリーを取って食べながら話しかける。


「サッキノハ チト ヤリ過ギダッタナ?」

「どうして?あんな奴等、粛正されて当然だろ?」


 罪の無い子供達や保護者を守る為に戦ったのだから、自分が正義に決まっている。クズ共に人権なんて要らない。クズの怪我を悲しむ家族が居たとしても、身内の非道な行動を黙認している時点で、同情の余地は無い。


「記事のコメントだって、俺を称賛してくれてるぞ。」

「批難モ 有ルンジャネーノカ?」

「俺の正義を理解できないバカなんて無視すれば良い。

 そーゆーヤツは、事件に巻き込まれても、助けてやらねーよ。」

「・・・・・・・・・・・・」


 ルナティスが称賛をされているのは、コメ主達にとっては、ルナティスと卑夜破呀がアカの他人であり、且つ、ルナティスを人間として認識していないから。良太は、ルナティスが人間と知られれば正体探しが始まり、正体が判明すれば気味悪がられることを全く予想していない。自分が正しいと信じ、皆が自分を尊敬すると甘い妄想をしている。


「マァ・・・オマエガ満足ナラ ソレデ良イ。

 ダガ コレデ 退治屋ハ 本腰ヲ入レテ 叩キニ来ルゾ。」

「妖幻ファイターってヤツな。来ても、また返り討ちにしてやるよ。」

「ソノ 妖幻ファイターガ出動シタヨウダ。」

「どこに?もしかして、ここに?」

「イヤ タチノ悪イ妖怪ガ出現シテ 制圧二向カッテイル。

 イイ機会ダ。退治屋ノ本気ッテノヲ 一度 見テオケ。」

「弱いヤツに興味無いけど、ウサがそういうなら・・・。」


 良太はガレージに降りて愛車のギャグを引っ張り出し、ウサが指定した方向へと向かう。




―南真草寺―


 住職は、どうにか境内を逃げ廻って丸焼きにされるのを凌いでいた。しかし、塀際に追い詰められて、逃げ場無し。腰を抜かして座り込んだところで、立ち塞がった火象が、口の中に火を溜める!


「うおぉぉっっっっっ!!!」


 火象の真後ろにワームホールが発生して、中からマシンOBOROを駆るザムシードが出現!勢いを止めることなく、火象に前輪で体当たりを叩き込んだ!


「パオオオオ?」

「くそっ!デカすぎて弾き飛ばせないか!」


 巨体ゆえに、火象は、僅かに蹌踉けた程度!ザムシードは、マシンOBOROから降りて、妖刀ホエマルを構えた!火象は、長い鼻を振り回して叩き付けようとするが、ザムシードは後退をしながら、ホエマルで鼻先を弾く!


「坊さん!今のうちに逃げろ!

 コイツは、アンタの‘生臭’に誘き寄せられたらしい!

 今回は助けてやるから、露呈した生臭っぷりは恥じてくれよな!

 改めずに、別の火象に襲われたら、その時は見殺しにするぞ!」


 ザムシードは、住職を庇いながら火象を牽制!住職が逃げたタイミングを見計らって、勢い良く踏み込み、火象に妖刀の乱打を叩き込む!火象は、長い鼻を振り回してザムシードを退け、鼻で身近な墓の竿石を掴んで放り投げた!


「げっ!マジかっ!?」


 慌てて横っ飛びで墓の影に回避をするザムシード!投げられた竿石は、ザムシードが隠れた墓の石碑に当たって共に砕け、中台の影に隠れていたザムシードに破片が降り注ぐ!ザムシードは破片を却けながら墓陰から飛び出して火象に突進をするが、再び竿石を投げられて回避をする!回避をせずに、拳や妖刀で叩き砕けるだろうけど、罰が当たりそうな気がして尻込みしてしまう。


「くそっ!あんにゃろう・・・。俺は何も壊してないぞ。

 呪うなら、アイツ(火象)か、アイツを呼び込んだ住職を呪ってくれよな。」


 これ以上、墓を壊されると気分が悪いので、ザムシードは接近を諦めて、弓銃カサガケを装備!強弩モードでエネルギーをチャージして、墓の陰から半身を出して火象を狙い撃った!

 直撃を受けた火象が、悲鳴を上げて数歩後退!被弾した部位から、闇霧が血飛沫のように上がる!


「パオオオオッ!」


 火象は巨体なので、墓の影に隠れるのは不可能。苛立ちながら火炎を吐いて、ザムシードを牽制しつつ、巨体に合わぬ俊足で逃走をする。狭い墓地で戦ったら狙い撃ちにされると判断をしたのだ。一方のザムシードは、逃がすつもりは無いが、墓地を荒らされるのは嫌なので、広い場所に出るまで、付かず離れずに追い立てる素振りで、マシンOBOROを駆って追走する。




―数分後・文架市街地付近の採石場―


 ウサの案内で良太が到着をすると、ザムシードと象の怪物が戦っていた。良太は岩陰に隠れて見守る。


「あの象が妖怪か?」

〈火象ダ。〉

「へぇ・・・見せてもらおうかっ!妖怪退治の専門家が温存した戦闘力とやらを!」


 鼻を振り回して突進をする火象に対して、ザムシードは、後退で距離を確保しつつ、弓銃カサガケ・強弩モードにエネルギーをチャージさせて強力光弾を放った!しかし、火象は、予想に反する素早さで回避をする!

 ザムシードは、弓銃を小弓モードに切り替えて、光弾の連射を浴びせた!火象は、大きな図体に相応しい体力と防御力を備えているらしく、致命的なダメージは通っていない!だが、一定の痛みに悶え、苛立ちながら炎を吐き出す!


「・・・くっ!」


 ザムシードは後退で回避をしつつ、弓銃を放棄して腰に帯刀された裁笏ヤマ(ナイフ型の木笏)を握り、グリップの窪みに、属性メダル『炎』を装填した!裁笏ヤマの刀身から炎が発せられる!


「熱さの我慢比べだっ!」


 炎を吐きながら迫ってくる火象!ザムシードはお構い無しに炎の中に突っ込んで、裁笏ヤマの刺突を放った!炎の剣が、火象の眉間を貫く!火象は悲鳴を上げながら、渾身の力で今まで以上の炎を吐いて抵抗!灼かれて熱さに耐えきれなくなったザムシードが、大きく後退をして片膝を地面に付いた!


「我慢比べはオマエの勝ちかもしれないが・・・」


 両膝を地面に降ろす火象!プロテクターの表面だけを焦がされたザムシードに対して、火象は急所に致命打を喰らったのだ!


「・・・勝負はあったな!」


 ザムシードは、Yウォッチから白メダルを引き抜いて、右足ブーツのくるぶし部分にある窪みに装填する!


「閻魔様の・・・裁きの時間だ!!」


 ザムシードの右足が赤い光を纏い、周囲に幾つもの小さい火が上がり、炎の絨毯を作る!


「パオオオオッ!」


 炎を吐いて牽制をする火象!しかし、吐き出した炎は、ザムシードが地面に召喚した炎によって掻き消されてしまう!


「オマエのは、ただの炎!こっちは地獄の炎!格が違うんだよ!」


 腰を落として身構え、顔を上げるザムシード!火象目掛けて突進してジャンプ!幾つもの火柱が上がり、体を押し上げられたザムシードが、空中で一回転をして火象に向けて右足を真っ直ぐに突き出した!


「うおぉぉぉっっっっ!!!エクソシズム(闇祓い)キィィーーーッック!!!」


 ザムシードが火象を貫通!火象は苦しそうな嘶きを上げて爆発四散!爆発によって撒き散らされた闇は、ザムシードのブーツに収束して、セットされていたメダルに『象』の文字が出現をした!



「なんだよアイツ・・・メチャクチャ強いじゃん。」


 物陰から「弱いヤツの戦いを高みの見物」くらいのつもりで観察をしていた良太は驚愕をする。ルナティスの戦闘力で、あれほど簡単に火象を倒せるとは思えない。


「コレデ解ッタダロ。奴トハ 絡ムナ。」

「ふ、ふざけんなよ。アイツ、俺をザコ扱いして、片手間で戦っていたのか?」


 玉兎は「立ち去れ」とアドバイスをするが、良太は聞かない。前回の戦闘でのザムシードの腑抜けた戦いぶりが、腹立たしく思えてくる。攻撃的な眼をして、頭に巻いたバンダナを外す良太。


「オイ!ドウスルツモリダ!?」

「決まってんだろう!戦って勝つんだよ!

 アイツがいたら、ウサが取り上げられちゃうんだろ!?冗談じゃない!

 なら、本気のアイツと戦うしか無い!」


「ヤレヤレ 頃合イ・・・カ。」


 良太の全身から邪気に似た闘気が発せられる。依り代と妖怪が協力関係でも、憑かれているという事実は変わらない。良太の負の感情は、玉兎の妖気に蝕まれ始めていた。


〈コイツヲ 俺カラ 解放シテヤッテクレ。〉


 ザムシードは、聞き覚えの無い、自分だけに届いた声を聞き、同時に妖気の発生を感知。振り返ると、ルナティスが立っていた。首には、燕真が贈ったバンダナを巻いてある。


「オマエの方から姿を現すなんて、どういうつもりだ?」

「越えたくなったんだよ。アンタという壁をね。」

「壁に成ったつもりはないんだけどな。

 ・・・まぁ、呼び出す手間が省けて助かる。」


 身構えるザムシード。連戦はキツいが見逃すつもりは無い。まだ迷いはあるが、手を抜くつもりも無い。一方のルナティスも、ザムシードに対して身構える。

 火象の妖気反応を追って来た粉木と紅葉が、スカイラインから降りて、離れた場所で見守る。


「なんでウサギヤロー?別のヨーカイぢゃなかったの?」

「よう解らん。

 退治屋の責務を果たすか、また迷って負けるか、燕真にとっての正念場や。」


 しばしの睨み合いの末、ザムシードが気勢を上げて突進を開始!ルナティスは懐に呼び込んで、得意の少林寺拳法で崩す算段をするが、ザムシードは距離が10mほどまで接近したところで、裁笏ヤマを装備して振り上げた!


「少林寺拳法相手に、丸腰で突っ込むつもりは無い!」

「拳じゃ適わないから武器か!?

 だけど、俺は、武器に対する護身だってマスターして・・・」


 武器ごと腕を弾けば良いだけ!ルナティスは、裁笏ヤマの切っ先に神経を集中させる!だが、距離が3mまで狭まったところで、ザムシードは裁笏ヤマを投擲した!


「なにっ!?」


 想定外を喰らったルナティスは、手刀を振るって裁笏ヤマを弾き落とす!次の瞬間、裁笏のみに集中をしてしまったルナティスに、ザムシードの上段蹴りが炸裂した!


「ぐわぁっっ!!」


 弾き飛ばされて地面を転がるルナティス!ザムシードは、追い撃ちを掛けることなく身構える!


「これで、拳法であしらわれた借りは返したぞ!

 まぁ・・・少年に対して、チョット大人げ無い気もするが・・・。」

「・・・くっ!」


 立ち上がって身構えるルナティス。ザムシードが妖刀を装備したので、ルナティスも魔王剣を召喚して握る。


「守主攻従・・・だっけ?先手は苦手なんだよな?なら、こっちからいくぞ!」

「お気遣いどうも。でも苦手なわけじゃない。」


 突進をするザムシード!ルナティスは、魔王剣でザムシードの妖刀を受け止める!互いの剣がぶつかった衝撃で、力負けをしたルナティスが半歩後退!ルナティスは、今の激突で「ザムシードが前回よりも攻撃的」と感じる!


「パワー勝負では分が悪いか・・・」


 ザムシードの振るう返す刀を魔王剣で受け止めつつ、押し込んでくる勢いを利用して大きく飛び退くルナティス!


「だけど、スピードなら俺がっ!」


 魔王剣を逆手で持ち替えて構えるルナティス!一方のザムシードは、勢いを付けて飛び掛かる!ルナティスの思惑通りだ!


「魔王剣っ!!ルーンキャリバー!!」


 突進を開始した次の瞬間には、ルナティスはザムシードの懐に飛び込んでいた!目にも止まらぬスピードで魔王剣を振るうルナティス!だが、ザムシードは、素早く幾重にも振るわれる剣閃のうちの、正面に飛んでくる数閃を弾き、ルナティスの体勢を崩して、胸に刺突の一打を叩き込んだ!


「なにぃっ!?」


 胸プロテクターから火花が散り、数歩後退をして尻餅をつくルナティス。前回はザムシードを沈黙させたはずの必殺剣が、簡単に攻略されてしまった事が信じられずに、ザムシードを見上げる。


「無数の剣閃のうちの大半が威圧の為の目眩まし。無視をしても問題無い。

 しかも、素早さを優先するあまり、打ち込みが軽くて、簡単に弾ける。

 人間相手なら、その威力で充分だろうけど、俺には通用しない。」

「クソッ!・・・だったら!」


 ルナティスは間合いを開け、剣を逆手に持って、身をやや低くして構えた!


「魔王剣!紫電一閃っ!!!」


 瞬間移動にも等しいスピードで駆け、瞬時に間合いを詰めて、ザムシードの眉間目掛けて魔王剣を振り抜いた!だが、同時にザムシードが振るった妖刀のカウンターを喰らう!


「くっ!」 「うわぁっっ!!」


 数歩後退をして片膝を付くザムシードと、弾き飛ばされて地面を転がるルナティス!またもや、渾身の一撃が決定打に成らず、ルナティスは、上半身を起こして「信じられない」と言いたげにザムシードを見詰めた。


「痛ぇ~・・・目眩がした。・・・だけど。

 だいぶペースが乱れてるみたいだな。

 オマエから攻めちゃ、守主攻従とやらが出来てないぞ。」

「チィィッ!」

「それにさ・・・不殺活人だっけかな?

 少林寺拳法のことは解らないなりに調べてみたけど、

 武の目的は、正義を守ることであり、人を殺傷するじゃないって意味だよな?」

「それが何だよ!?少林寺拳法を知らない奴が、知ったようなことを言うな!」

「うん、俺は少林寺拳法を知らない。でも、オマエは知っているって言えるのか?」

「なに?」

「正義の為なら、不殺活人に反して、相手を嬲ってもOKってか?」

「だ、黙れっ!!!」


 立ち上がり、ザムシードを睨み付けるルナティス!


「俺、今の攻撃を受けて、解っちゃったんだ。

 スピード特化の紫電一閃は、相手次第ではカウンターを喰らう危険性がある。

 多分、オマエがもう一回発動すれば、

 俺は今以下のダメージで、オマエにカウンターを叩き込める。

 渾身の真っ向斬りは一撃必殺で相手を倒さなければ成らない技だ。

 紫電一閃を放って、相手に凌がれたら、

 次は、相手の眼前で止まっているオマエが反撃を喰らう。」

「な、何が言いたいんだよ!?」

「ルーンなんとかも・・・紫電一閃も・・・

 相手が、オマエよりも弱くて、喰らえば反撃を出来ないって事が前提なんだよ。

 要は、人間相手に、戦闘力を行使して力に溺れているだけ。

 しかも、オマエ自身の内側にある力じゃなくて、

 ルナティスという与えられた力だ。」

「う、うるさい!うるさい、うるさい!!」

「悪人が許せないなら、特別な物に頼らずに、自力で戦えよ!」

「それができないから、ウサの力を借りてるんだ!」

「他の奴が持ってない力に頼れば、他の奴より強くなって当然だ!」

「だからどうしたってんだ!!?」

「あげくに、例え悪人でも、病院送りにしたら、ただの暴力なんだ!

 今のオマエは、力を持つ資格が無いって言ってんだよ!!」


 ザムシード(燕真)は、ルナティスの正体が良太と知っている。知った上で、良太が目を覚ましてくれることを信じて、痛烈な批判をしている。これが、この戦いに迷い続けた末に、燕真が燕真なりに導き出した答え。


「だったらアンタはどうなんだよ!?

 アンタだって、他の奴が持ってない力に頼ってるだろうに!!」

「だから、オマエの気持ちが解っちゃって、前回は満足に戦えなかった。」

「俺の・・・気持ち?まるで、俺を知っているような・・・」

「でも違うんだ。俺が間違ってた。

 俺は、退治屋の力を妖怪退治にしか使わない。

 もし、身近に居て大切な奴(紅葉)が暴漢や強盗に襲われたとしたら、

 守る為には使うかもしれないけど、相手を痛め付ける目的では使えない。

 それが、他の奴が持ってない力を行使する者のルールだと思っている。

 不殺活人って、そう言うことだろ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 ルナティスは、厳しく批判をされながら、不思議な思いに駆られていた。ザムシードは、その気になれば簡単にルナティスを討伐できるだろうに、何故、説教をしている?まるで、知人に性根を質されているような錯覚に陥る。だけど説得をされて終わらせるつもりは無い。褒めてくれた燕真を思い描いて、「力を貸してくれ」との思いを込めて、首に巻かれたバンダナを握り締める。


「アンタの御高説は立派だよ!

 だけど・・・はい、そうですかって、ウサを渡すわけにはいかない!」

「・・・そうか。そうだろうな。

 多分、俺も・・・オマエと同じ立場なら退かないよ。」


 ルナティスが魔王剣に気を込めたら、刃から光球が出現!魔法陣に変形をする!

 ザムシードは、Yウォッチから白メダルを抜いて、ブーツのくるぶし部分にある窪みにセットをする!


「獣化転神っ!!!」

「そのバンダナ・・・大事にしてくれて嬉しいよ。

 もし、焼けちゃったら、君が望む新しいのを買ってやるからさ・・・。」


 魔法陣に飛び込んだルナティスが‘炎の獣’に姿を変え、高速で残像を作りながら、ザムシードの周りを飛び回る!一方、ザムシードの右足が赤い光を纏い、周囲に幾つもの小さい火が上がり、炎の絨毯を作った!炎獣の残像が、ザムシードの発する地獄の炎に灼かれて揺らぎ、ザムシードには本体のみがハッキリと見える!互いに向かって突進を開始するザムシードと炎獣!


「うおぉぉぉぉっっっっっっ!!! エクソシズムキィィーーーッック!!!」

「最終奥義っ!!バニング・バスタァァァァァァァァッ!!!!」


 両者共に空中に飛び上がり、ザムシードが跳び蹴りの体勢に成って激突!一瞬の間をおいて、炎獣が闇を撒き散らせながら弾き飛ばされ、地面に叩き付けられて悲鳴を上げた!

 炎獣が解除されてルナティスの姿に戻り、首に巻かれていたバンダナが地獄の炎の余韻で焼け、更に、変身が強制解除をされて良太の姿が晒される。


〈アバヨ、良太。楽シカッタゼ。〉

「ウサっ!待ってくれっ!」


 ウサの別れの挨拶が聞こえ、良太を覆っていた闇が拡散。ザムシードの足元に集まっていく。


〈アイツノ 精神ヲ 闇ニ落トス ツモリハ 無カッタンダケドナ。

 残念ダガ 人間ト妖怪ハ 共存デキナイヨウダ。〉


 拡散した闇は、上手く共存できなかった無念の言葉をザムシードに伝えて、ブーツの白メダルに吸収された。


「そうでもないさ。アイツ次第だけど、共存できる可能性はあるかもな。」


 『兎』の文字が出現をしたメダルを抜き取って見詰めるザムシード。良太は、敗北し、ウサもバンダナも失って、俯いている。


「・・・なぁ、良太。」


 ザムシードは、良太を見詰め、あえて良太の名を呼んだ。


「・・・え?」

「力を使って正義を通したかったら、公で正義の行使ができる警察官を目指せ。

 俺に負けたのが悔しいのなら、退治屋になって、俺よりも活躍しろ。

 そのつもりがあるなら、上司に頼んで、このメダルはオマエ用に確保しておく。」

「・・・アンタ、一体?なんで俺のことを?」


 良太は、問いながら、ザムシードが誰なのか、戦いの途中から気付き始めていた。 説教をされながら、ザムシードと、最近知り合った尊敬できる大人を重ね合わせていた。上半身を起こして、ザムシードを見詰める。


「とっくに、ルナティスがオマエって気付いていたよ。

 だから、良太の気持ちに共感しちゃって、最初の戦いでは迷ったんだ。」


 ザムシードは、和船バックルから『閻』メダルを抜き取って変身を解除。燕真の姿に戻った。


「佐波木・・・さん。なんで俺って知ってたのに、教えてくれなかったんですか?」

「俺の正体を言ったら、今度は、良太が、本気で戦えなくなるだろ?

 俺は、俺もオマエも本気の状態で戦いたかった。

 手を抜いた所為で負けて、後悔をして欲しくなかったんだ。」

「後悔・・・ですか。」


 負けて、ウサを没収されて、悔しい気持ちはある。だけど、本気で戦って負けたんだから、「力不足だった」と考え、後悔の念は無い。反省があるとするなら、ウサのアドバイスを聞かずに、ザムシードに挑んでしまったこと。


「自力で帰れるか?」

「はい、帰れます。」

「じゃ、俺、連れを待たせているから先に帰るな。

 高校を卒業して直ぐでも良い。大学に行って、ジックリ考えてからでも良い。

 その気があるなら、何年か先に、退治屋の門を叩いて、俺の同僚になれよ。

 元々強いんだから、良い退治屋に成れると思うぜ。

 玉兎は、その時まで預かっとく。」


 燕真は、あえて挑戦的な笑みを浮かべて、『兎』メダルをチラつかせた後、踵を返し、離れて見守っていた紅葉と粉木に迎えられる。


「燕真、お疲れっ!」

「おうっ!」

「ヒジョーに燕真らしい、檄アマな決着だね!」

「甘くはないだろ?結構、厳しく接したと思うぞ!」

「高校生を勧誘して、勝手に封印メダルを取り置く約束して、

 経験年数が半年足らずの新米退治屋が、何様のつもりや?

 オマンに、そんな権限は無いやろ。」

「まぁ、その辺は爺さんが、本部と上手く掛け合ってくれよ。」

「余計な仕事増やすな、アホンダラ。」


 紅葉に皮肉を、粉木に小言を言われつつ、燕真はバイクに跨がって、タンデムに紅葉を乗せ、粉木は車に乗り、戦場から去って行った。


「・・・退治屋に成れば、またウサに会えるのかな。」


 良太は、燕真達を見送った後、寝転がって空を見上げた。



-回想-


 ‘あの日’は、夜の公園でジョギングをしていた。悲鳴が聞こえて、向かって行ったら、女の子が頭の悪そうな男達に、‘力任せのナンパ’をされていた。割って入って、女の子は逃がしたけど、多勢に無勢で男達にボコボコに伸された。良太は、自分の力不足が悔しかった。もっと力が欲しいと思った。自分の住んでる近所くらいは守りたいと思った。


「オマエガ俺ヲ呼ンダノカ?」

「・・・え?」


 声がして、人語を話す妙な雰囲気の兎が、良太の顔を覗き込んでいた。


「力・・・欲シイノカ?」

「・・・う、うん」


 良太は驚いたが、やや中二病気味だったので、天から授かった大いなる力(?)を、比較的すんなりと受け入れることが出来た。良太とウサの奇妙な友情は、その日から始まる。



-回想終わり-


 惨敗をしたが、憑いていた妖怪を祓われた影響もあって、妙に清々しい気分だ。


「くそっ、格好良すぎるだろ。俺もあんなふうに成れるのだろうか?」


 まだ明確には決めていない。だけど、「ヒーローに成りたい」という漠然とした夢しか持っていなかった良太は、将来の候補の一つと、目標にしたい人物を見付けた。




-翌日・あやかゼミ-


 紅葉が亜美と共に入館したら、既に良太が来ていて、窓際の席に座っていた。紅葉は、自席に鞄を置いて、良太に寄っていく。


「ちぃ~っす!元気そうだね。」

「おす!まぁ・・・それなりにな。」


 ルナティスの正体については、良太以外では、ザムシードの関係者しか知らないので、昨日の一件について、多くは語らない。


「なぁ、源川?」

「んぇ?」

「佐波木さんって、いつもあんな感じなのか?」

「あんな感じって、どんな感じ?」

「自然体が似合うって言うか、飾ってないのに格好良いって言うか・・・」

「んへへっ!」

「・・・なんで笑う?」


 紅葉が邪魔な所為で、燕真をちゃんと観察できないので聞いたのに、何故か満面の笑みと笑い声で返された。だけど、今の一連で予想できたこともある。


「キミさ・・・佐波木さんのこと、好きだろ?格好良いんだから、惚れ・・・」

「んぇぇぇっっっっ!!!?何それ!?

 す、好きチガウ!燕真ゎ0点!カッコ良くない!」


 紅葉の露骨すぎる対応で、予想は確信へと変わる。


「もの凄く解りやすい動揺だなぁ~。」

「ス、ス、スズキ君はど~なの!?もしかして燕真好きなの??」

「うん、好きだよ。」

「んぇぇぇっっっっ!!!?何それ!?

 ぼーいずLOVE!?ァタシのライバル!?スズキ君、そ~ゆ~ひとなの!?

 ダ、ダ、ダメだよ!燕真ゎあげないからっっ!!!」

「キミ、アタマ大丈夫か!?そ~ゆ~‘好き’じゃねーよ!

 しかも、3秒前に‘好きじゃない’って否定したのに、好きって認めてるじゃん。」


 尊敬する燕真との接点は持ちたいが、当分は、紅葉が独り占めをして、キチンとした接点は作れそうにない。ハッキリと言えることは、紅葉はチョット特殊な子だけど、男性を見る目だけは確かと言うこと。良太は、溜息を付きつつ、小さく笑う。




-YOUKAIミュージアム-


「ハックション!」


 客の居ない店内で、燕真が大きなクシャミをした。


「なんや燕真、風邪か?」

「どっかの美女が、俺の噂をしてんだろ。」

「それは無い。有るとすれば悪口やな。」

「ハックション!」


 燕真が再び、大きなクシャミをする。

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