番外①・ァタシをプールに連れてって(vs鰻男)
~~~夏休みの出来事~~~
-YOUKAIミュージアム・20時過ぎ-
閉店後、燕真はフロアのモップ掛けをして、紅葉は‘聞く気の無い燕真’などお構い無しにマシンガントークを続けながら食器洗いをしている。
「それでさ、それでさ、ユーカとトワキの所為でチョット険悪になっちゃって、
ァミが‘なら、みんなで行こぅ’って仲裁してくれたの!」
「ユーカ?また、知らない名前が出て来やがった。」
「ぁれぇ?藤林優花だょ!燕真、ユーカと会ったことないっけ?
道路に建っている‘40’って書いてある丸いカンバンみたいな顔の子!」
「無~よ!・・・てか、40キロ制限の標識みたいな顔!?」
燕真は、紅葉が言う友人の事など解らない・・・が、それ以上に、「法定速度40キロの標識」顔がどんな顔なのか、全く想像出来ない。顔がまん丸で背が高いのだろうか?
「アミゎ知ってるよね!?」
「絡新婦の子に憑かれた子だっけ?」
「そぅそぅ!桜アンパンみたいな子!」
「その表現をされると解らなくなる。」
「ミキゎ!?太刀花美希!」
「知らん!」
「自転車の籠みたいな子!」
「知らね~よ!・・・てか、自転車の籠?」
燕真には「自転車籠」顔なんて、全く想像出来ない。
「まぁ、ィィや!だからさ、燕真も行こぅょ!」
「了解・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え!?何処へ!?」
「さっき話したぢゃん!プール!」
「・・・・・・・・・・・・なんで?」
「もぉ~!さっき話したぢゃん!
ァミがの水着のサィズが合わなくなって、新しぃのを買ぅことになって、
ぉ披露目を兼ねて、ァミと、ユーカと、ミキと、
トワキと、イケテルで行くことに決まったから!」
「ま~た、変な名前が出て来やがった。」
「ァレェ?大石行照も知らなぃっけ?
ぃっもトワキと一緒に居て、カモシカとカエルを足して3で割った様な奴!」
「・・・知らん!イケテルどころか、トワキも初耳だ!」
カモシカと蛙を足すのもかなり難しいが、『2』ではなく『3』で割るというのは、どうイメージすれば良いのだろうか??・・・理解に苦しむ。
「・・・てか、オマエ等が友達内で行くのは勝手だが、
なんで俺が挟まらなきゃならないんだよ!?
明らかに場違いだぞ!」
「プールだょ、プール!水着だょ!」
「ガキの水着には興味無い!」
「ァタシもァミと一緒に新しい水着買ぅんだけど、
燕真ゎビキニとワンピと、どっちがィィ!?」
「聞けよ人の話!ガキの水着には興味無いって!」
「ねぇ、どっちがィィ!?」
「・・・ワンピース!ガキが背伸びして、無い色気を振りまくなっ!!」
「ぉ色気ぁるもん!Cカップだもん(公式ではB)!!
嘘だと思ぅなら、触ってみなょ!
燕真ゎヘンタィぢゃなぃから、チョットだけなら触ってもィィョ!」
「・・・はぁぁっっ!!?」
燕真は、紅葉の思い掛けない発言を聞いて、鼓動を高鳴らせ、思わず、紅葉の顔と胸を交互に眺めてから赤面してしまう。紅葉が着ているのはバイト用のメイド服である。決して、女性らしいボディラインが協調された服装ではないが、女の子らしい胸の膨らみはそれなりに整っている。
「い、嫌だ!警察に捕まってしまう!!」
「なんでなんで!?」
「‘なんで?’じゃないだろ!頼むから、もう少し自分が女という自覚を持て!!」
燕真は興味が無いと薄情な態度を取るが、内心では「ガキ(紅葉)の水着」には結構興味がある。健康的な色気のある紅葉が、どんな水着に身を包むのか、かなり見てみたい。発育中の胸と尻、引き締まった腹、ビキニ姿が似合いそうだ。だが、他の男共にもビキニ姿を見られるのは、あまり良い気分ではない。ワンピで魅力的な体を隠すのは勿体ないが、仕方ないと考える。
「まぁ、だからって22歳のオッサンが、
ガキ共に紛れ込んでプールに行く気には成れないが・・・。」
実は、お言葉に甘えて、一瞬で良いから自称Cカップ触ってみたい。紅葉は過大評価をして下さっているが、燕真だって、一皮剥けばヘンタイに変化をする一般的な男である。余裕で理性が吹っ飛んで、判断を間違っちゃう可能性が極めて高いので、変な誘惑は止めていただきたい。
「あ~ぁ・・・
大学時代なら、もう少し、こんなノリには、軽く便乗していたんだけどなぁ~~。
どうも、これ(紅葉)が押し掛けるようになってから、調子が狂う。」
「ん!?何か言った、燕真!?」
「・・・いや、独り言!」
燕真は、「大学時代のコンパでは、酒の勢いでスキンシップををはかって親密度を上げていたこともあったな」等と、しみじみと古き良き時代を思い出すのであった。
-3日後・大型プール施設-
「みんな、もう来てるねっ!」
燕真が、タンデムに紅葉を乗せて到着をすると、既に少年少女が入り口の前で待っていた。亜美の周りに居る2人の女の子が‘ユーカ’と‘ミキ’だろうか?片方はスリムで紅葉より長身(亜美よりは低い)、もう片方はスタイルの良い体格(亜美ほどではない)で洒落た服装をしている。ただし、どっちが‘40キロ制限の標識’で、どっちが‘自転車籠’なのかは全く解らない。
一緒に居る男子のうちの片方が、「なんだアイツ?」と言いたげな表情で燕真を睨み付けているのだが、彼が永遠輝なのか行照なのかは不明。
「俺だって、来たくて来たわけじゃね~よ!
自分が場違いってことくらい解ってる。」
紅葉は、タンデムから降りて、笑顔で手を振りながら仲間達の所に駆け寄って行く。溜息をつきながらヘルメットを脱ぐ燕真。亜美と、その他2人の女の子(ユーカ&ミキ)が、紅葉を出迎えて、早速話しかける。
「どっかで見たことある人だね。」
「え?なになに?あの人だれ?」
「紅葉ちゃんの彼氏?」
「チガウチガウ!」
「ちょっとカッコイイね。」
「取っちゃダメだよ、ユーカ。」
「やっぱり彼氏なの?」
「チガウチガウ!」
「格好良いかな~?私には、普通にしか見えない。」
「格好良いぢゃん!ミキにゎ、燕真の格好良さが解らないの?」
「格好悪いとは言わないけど、
顔も雰囲気も普通というか、平凡というか、
会社で出世しそうにないタイプというか・・・。
紅葉って、あ~ゆ~‘その他大勢’みたいな人が好きなんだ?」
本人達はコソコソ話しているつもりなんだろうけど、丸聞こえである。女子高生とは残酷な生き物だ。燕真は髪形や服装などで2枚目を気取っているつもりだが、イケテル女子高生の視点では、燕真はモブ扱いらしい。地味のショックである。
(・・・帰りたくなってきた。)
燕真が寄って行くと、亜美とスリムな女の子が笑顔で挨拶をしてくれる。
「こんにちは。クレハの友達の平山亜美です。」
「藤林優花です。紅葉ちゃんと仲が良いんですか?」
「あぁ、どうも。佐波木燕真です。」
スリムで真面目そうな子が‘ユーカ’らしい。それなら、口が達者でオシャレな子が‘ミキ’ってことか?燕真は美希にも挨拶をするが、美希は興味なさそうに会釈をするだけ。
男子2人のうちの片方は軽く挨拶をしてくれたが、もう片方は会釈すらせずに燕真を睨んでいる。
「なぁ、紅葉?俺・・・アイツの機嫌を損ねるようなこと、なんかした?」
「してないと思うよ。まだ、会ったばっかりぢゃん。」
「・・・だよな?」
堪りかねて、小声で紅葉に質問をするが、紅葉にも心当たりは無いらしい。
「トワキ、普段ゎもっとヘラヘラしてるのに、なんで、今日ゎ機嫌悪いんだろ?」
「へぇ・・・普段は愛想が良いんだ?
人相が悪い少年が永遠輝で、もう片方の普通の少年が行照・・・か。」
とりあえず、2人の少年のうち、どっちが吉良永遠輝で、どっちが大石行照なのかが把握できた。
グループは、入場をして、「着替えたら、ウォータスライダーの前に集合」と決めて、それぞれの更衣室に分かれる。
-男子更衣室-
未就学くらいの男児が裸で、パパに着替えを手伝ってもらっていたり、もう隠す羞恥心も無いようなメタボなオッサンが全裸で着替えたりしている。
燕真が、適当なロッカーを選んで不要な荷物を突っ込む。高校生2人は、離れた場所でキリ番なロッカーを選んでいる。キリ番に拘るあたりは、「まだまだガキ」と少し可愛らしく感じる。
燕真が、カーテンを閉めた個室で、花ガラの入った可も不可も無い黒いサーフトランクスに着替えて、出て来たら、既に、男子2人は着替え終わっていた。
2人とも、元気な高校生らしい、引き締まった体付きをしているが、筋肉勝負は燕真に軍配が上がった。まぁ、退治屋として日々肉弾戦に身を投じている燕真が、平和に身を置く高校生に、体格で負けるわけがないのだが、永遠輝は、少し悔しそうに、燕真の腹筋や胸筋や腕筋を睨み付けている。
・・・が、問題は其処ではなかった。
「おっ!?永遠輝と佐波木さん、同じヤツじゃん!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え!?」×2
行照は青いチェックのサーフトランクスで、永遠輝は花ガラの入った赤いサーフトランクス・・・燕真と永遠輝は色違いだが、ガラが丸被りである。
「へぇ~・・・同じセンスしてるんだな!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×2
「もしかして、永遠輝と佐波木さん、気が合うんじゃね!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×2
「昨日、気合い入れて3時間かけて悩み抜いて、選んだ水着が、
佐波木さんと同じだなんて、面白れぇ~~!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×2
ちなみに、燕真は、一昨日に3時間を費やして、悩みながら水着を選んだ。燕真は永遠輝とは違って相手を目の仇にしているわけではないが、「まるっきり被ってしまって恥ずかしい」って気持ちはかなりある。
更衣室を出て、待ち合わせ予定のウォータスライダー前に到着する燕真達。しばらくすると、水着に着替えた美しい花々が合流してきた。
「ぁれぇ?佐波木さんと永遠輝くん、ぉ揃ぃの水着?」
「あ!ホントだぁ~!!色違いで被ってる!」
「2人で一緒に買いに行ったの?」
「燕真とトワキ、ぃつの間に、そんなに仲良くなったのぉ?
もしかして、前から知り合い?」
男共としては、もう少しジックリと、瑞々しい花々を堪能したかったのだが、いきなり‘被り’を気付かれて、恥ずかしい現実に引き戻された。
「知り合いではない!」
「仲良くね~よ!このガラなら赤の方が格好良いだろ!」
「どうでも良いことで争わなくて良いって。
どっちもモブなんだから似た格好していても問題無いでしょ。」
「美希ちゃん、それはヒドいよ。」
「せめて、聞こえないところで言いなよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・俺、主人公なんだけど」
女子高生とは残酷な生き物だ。必死になって存在感をアピールしようとしていたモブ男子(永遠輝)を一撃で黙らせてしまった。
「ねぇねぇ、燕真、見て見て!」
水着丸被り事件には興味を持っていない紅葉が、燕真のところに寄って来て、燕真だけに見えるように、ワンピース水着の襟を広げる。中には、魅せる為の水着を着ているが、隠された状態で見せられると、ちょっと照れてしまう。
「ビキニとワンピのセット買っちゃったぁ!
今日ゎ、みんな居て恥ずかしぃからワンピだけど、
燕真が2人きりで海に行った時ゎ、ビキニの方を披露してぁげるねぇ!
ぃつ(海に)行く?来週?早く行かないと、夏が終わっちゃう!」
「い、行かね~~よ!」
紅葉の、燕真だけに対する積極さに、赤面をする燕真。思わず、紅葉をバイクの後ろに乗せて、海に遊びに行く光景を想像して「悪くない」と考えてしまうが、直ぐに否定をする。
-数分後-
スタート台から50mプールに飛び込んで、まっしぐらに泳いでいる燕真の姿がある。皆と遊ぶとか、連れを気遣うという素振りは一切無く、ガチで泳いる。
数人の男女でプールに遊びに来て、協調をせずに1人で黙黙と泳ぐなんて事をすれば、「空気が読めない奴」「一緒に来ても面白くない」と言う評価を受けるだろう。だが、燕真は、ワザと空気を読めない行動をしていた。
(これで、愛想を尽かされて、二度と、このグループには呼ばれなくなるだろう。
俺のことは放っておいて子供達だけで遊んでろ。)
燕真の泳ぎを眺めていた少年少女は「自分達は、あっちで遊ぼうぜ」って空気に支配される。それが、あえて空気を読まない燕真の魂胆。ツレを無視して泳ぎながら、少年少女が燕真抜きで遊び始めるタイミングを待っていた。
「あはははははっ!雌代~!僕達は、どんな時でも一緒だよ!」
「うふふふふっ!雄太さぁん!何が有っても離れないわ!」
同じ50mプールでは、20代前半くらいのカップルが、仲睦まじく寄り添いながら泳いでいる。紅葉は、ガチ泳ぎ中の燕真を眺めつつ、バカップルを見て、羨ましく感じていた。
「よぉ~し!ァタシもっ!」
向こう岸でターンをした燕真が、クロールで水を掻きながら戻って来る。バカップルごっこを希望する紅葉は、燕真がゴールをする予定のスタート台に立って、燕真に手を振って声を掛けながら到着を待った。
「燕真ぁ~!頑張れぇ~!あと少しでゴールだよぉ~!」
(紅葉が待ってやがる!これは、気付かないフリをするべき!)
紅葉に絡まれたくない燕真は、クイックターン(前方宙返り)をして力強く壁を蹴った!これで、紅葉は接触を諦めて、仲間内で遊ぶはず!・・・と思ったのだが、考えが甘かった
「燕真っ!・・・とぉうっっ!!」
燕真がクイックターンをした直後!紅葉が、スタート台を蹴って、勢い良く足から飛び込んで、燕真の背中に跨がって、しがみついた!
「ぐぇぇぇっっっっっ!!!」
「ァタシを乗せたまま泳いでっっ!」
決して重くないが、いきなり上から過重を受けた燕真は、泳げなくなって沈み、紅葉にしがみつかれたまま立ち上がった。背中に、紅葉の胸が押し付けられる感覚があり、普段ならばきっと嬉しいんだけど、今は、そんな事はどうでも良い。
「あれぇ?泳がないの?」
「無茶言うな!・・・てか飛び乗るな!背骨が折れたかと思ったぞ!」
「折れてないからダイジョブ!泳いでよ!」
「バカ言うな!
どこの世界に、女子高生を背中に乗せたまま、プールで泳ぐマヌケがいる!」
「1人くらい居てもイイぢゃん。」
「良くないっ!俺は1人で泳いでいるから、オマエ等は勝手に遊んで・・・」
「ならさっ!みんなでビーチボールやろっ!」
「嫌だよ!何が楽しくて、高校生の集団に混ざらなきゃ成らないんだよ!」
「ボールを取り損なった人が負けで、みんなにソフトクリーム奢るのぉ!」
「・・・俺の話聞いてる?まだ、参加するって言ってないぞ!」
「燕真に、参加をしなぃって選択肢ゎ無ぃ!」
「・・・おいおい」
スタート台から飛び込んで、泳いでいる人に体当たりをしてはいけません。言うまでも無く、プールの監視員さんに怒られました。
「なんで俺まで怒られなきゃならん?」
「ドンマイドンマイ!ァタシの保護者なんだから仕方無いぢゃん!」
燕真には「紅葉の保護者」以外の権利は無いらしい。怒られた張本人は、全く反省をせず、燕真の手を無理矢理に引っ張って、既にビーチボールで遊んでいた仲間達の輪に加わる。
「よしっ!みんな揃ったから、ゲームやろうっ!」
「おっ!いいね!」
「・・・みんなの中に、俺を加えないでくれ。」
紅葉の提案で、ビーチボール対決が始まる。誰に向かってビーチボールを上げても良いが、ボールを上げる時にパスを出す相手の名前を言う事。言うまでもなく、ビーチボールを取り損なったら負け。ただし、打ち上げたボールが相手に全く届かない場合、豪快に逸れた場合は、打ち上げた人のペナルティーで、3回ペナルティーが貯まったら負け。
「ガキ相手にビーチボールやって、大人げなく俺が勝って、ガキに奢らせるってか?
・・・メッチャ気が重いんだけど。」
特殊ルールとして、ボールを受けなければならない者が取り損なった場合でも、別の者が代わりにボールを取ってフォローすれば、ゲームは続行される。つまり、負けない為に同盟を組むのはOK。状況次第では、一個人を潰す為に、1対6という戦いにもなる可能性があり、且つ、味方だと思っていた者が、いきなり裏切って不意打ちを入れることもある。個人戦と言いながら、味方を作り、組織力を持った方が有利な、熾烈な争いなのである。
「たかがビーチボールに、なんて大げさな解説なんだよ!?」
美希が軽く上げたビーチボールを亜美が受け、紅葉に廻って、永遠輝にパスが出て、燕真が受けて軽く上げて、行照が受けて、その後、紅葉→優花→燕真→永遠輝→燕真→美希→紅葉→永遠輝→燕真→亜美→優花→美希→永遠輝→燕真→亜美→永遠輝→燕真→行照→永遠輝→燕真へと和気藹々としたパス回しが続く。
「あのクソガキ~~~~!」
永遠輝がボールを上げる時は「佐波木さん」の名前しか呼ばない。どうやら、徹底して燕真潰しを狙っているようだ。
「ぁっ!また、佐波木さんのところに行った!」
「ァレェ~~?燕真と永遠輝、ぃっからそんなに仲良くなったのぉ?」
周りも、永遠輝が燕真にしかボールを出していないことに気付き始めたようだ。ガキが上げたボールを受けることなど容易いが、正直言って、永遠輝から独り狙いをされて、かなりウザイ。
「仲良くなってね~よ!一方的に狙われてんだ!」
ボールは燕真から亜美へ、亜美から紅葉へ、そして紅葉から美希へ、美希から永遠輝へと廻される!誰もが、「永遠輝は、また、燕真を狙うんだろうな」と考える!・・・が、燕真はこのタイミングを待っていた!素早く美希と永遠輝の間に入って、ボールが落ちてくる前に飛び上がり、永遠輝に向かってアタックを叩き込んだ!
「ちょっと大人げ無いが、大人の強さを見せてやる!・・・吉良君っ!!」
まさか、「他者のフォローOK」ってルールを、燕真が「永遠輝からボールを奪って永遠輝に叩き込む」という形で逆手に取るとは、誰も考えていなかった!永遠輝は、加速して向かってくるボールに、慌てて対応!辛うじてボールに手を当て、ボールは勢い無くヘロヘロと打ち上がり、風に乗って移動をする!
「これで勝負有りだ!だけど、俺は負けたくないだけ!
ソフトクリーム代は俺が払ってやるから安心しろ!」
「・・・くそっ!」
永遠輝は、ボールを打ち上げる時に、誰の名も呼んでいない。指名をされていない場合は、自分で拾うしかない。しかし、体勢を崩している永遠輝では対応出来ない。・・・が!
行照が永遠輝の背後に回って「永遠輝!」と名指しをしながら、高々ととボールを打ち上げやがった。
「サンキュー、行照!」
「俺達の友情パワーで、トドメを刺せ!」
「おうっ!」
少年達の美しい友情である。体勢を立て直した永遠輝が「佐波木さん」と名指しして飛び上がる!その時、ビーチボールから僅かに妖気が発せられ、紅葉が反応をする!
「んぇっ!?」
永遠輝が、燕真目掛けて、渾身のアタックを打ち込んだ!
「負けんっ!」
ビーチボールの下に入って身構える燕真。ビーチボールの影が、燕真の頭を差す。真顔になって、ボールを見つめる紅葉!永遠輝が打ち込んだビーチボールが闇の妖気を纏っている!
「燕真っ!危なぃっっ!!」
「・・・なっ!?」
咄嗟に燕真に飛び付いて、燕真をボールの落下地点から退かす紅葉!燕真と紅葉は縺れ合いながら、プールの中に沈む!その直後にビーチボールが‘ドボォンッ’と大きな音と水しぶきを上げて水面に叩き付けられ、、ブールの床に‘ドスン’と落ちた!
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・へっ?」
「ぁ、危なかったぁ~~~。」
何故だろうか?プールの中には鉄球が沈んでいる。自分達は今まで、鉄球をビーチボールと勘違いして遊んでいたのだろうか?そんなモンで遊んだら、普通に死ぬぞ。
「んなバカな!?どうなってるんだ!?」
鉄球は沈んだまま。水面から顔を出した燕真が、驚いて周囲を見廻す!・・・が、少年少女は、ドン引きした表情で燕真と紅葉を見つめていた。
「あ、あの・・・2人の仲が良いのは解りましたけど・・・。」
「・・・はぁ?」
「抱き付くとかそゆ~のは、私達の目の前じゃなくて、
2人きりの時にやってもらえませんか?」
「目の前でイチャ付かれるのを見る私達の方が辛いです。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「リョーカイ!2人きりになったらギューするねっ!」
「あほっ!そこを肯定すんな!」
一応、決着が付いたし、バカップルぶりを見せ付けられて続ける気が無くなったので、これでビーチボール勝負は終了。燕真と紅葉を残して、少年少女はプールサイドへと上がる。
ところで、ボールを返せなかった燕真の負け?それとも、妨害のペナルティーは決めていなかったけど、燕真に体当たりをして妨害した紅葉の反則負け?
「まぁ、どっちでもいいや。
バカップルのどっちかが、ソフトクリームを奢ってね。」
「おいおい・・・
少年少女よ、もっと疑問に思わなきゃ成らないことが有るだろう?」
沈んだままになっていたビーチ-ボールが、ようやく浮かび上がってきた。燕真が確認すると、どう見てもビニールに空気が詰められただけの物。水に沈むような代物では無い。
「どうなってんだ?」
「妖怪の仕業だよ、燕真。ビーチボールに妖気が籠もって、重くなったの。」
「・・・マジで?」
「ぅんっ!さっき一瞬だけ、ビーチボールから妖気を感じたよ。
もしかしたら、トワキに何かが憑いてるかもっ!
でも今は感じないの。」
「しばらくは様子見ってことか?」
「そ~なっちゃうね。」
紅葉の体当たりは反則なんだけど、紅葉が妨害してなければ燕真は鉄球で頭を割られて死んでいたかもしれないし、紅葉にソフトクリーム代(1個200円)を払わせるわけにはいかないので、全員分を燕真が出費してあげました。
その後、燕真と紅葉は、永遠輝の動向を注視するが、頻繁に睨まれる以外に異常が発生しない為、やがて、警戒を解きレジャーモードに戻るのだった。
-午後-
燕真と紅葉は、水面からの高さ5mの飛び込み台の上にいた。何故、こんな所に居るのかというと、紅葉が「面白そぅだからやってみょぅ!」と誘ったからだ。燕真は「嫌だ!」と即答したが、拒否権は認めてもらえなかった。
地上から見た高さ5mは大したことないように見えたが、上からプールを見下ろすと結構高く感じる。飛び込みプールの脇で燕真と紅葉を心配そうに見上げている亜美が、実際の距離より小さく見える。興味本位で燕真を引っ張ってきた紅葉だったが、今は少しビビリ気味なようだ。
「ぇ、燕真、先に行って」
「おいおい、誘ったのオマエだろ?」
「ぅん、そうなんだけど、ァタシ、燕真のぁとがィィ」
「・・・やれやれ、興味だけで突っ走るからそうなるんだ!」
燕真は、飛込競技など、やったことがない。だから、空中で回転するとか、体を捻るなんて器用な芸当は出来ない。だが、格好は二の次で。飛び込めば良いだけだ。何をやっても極めることが出来ない燕真だが、代わりに、何をやっても赤点にも成らない。全般的に、何でもそこそこは出来るのが佐波木燕真なのである。
それに、妖幻ファイターとして、もっと高い場所から飛び降りるなんて日常茶飯事なので、高さに対する恐怖はそれほどでもない。
ジャンプ台の上に立ち、息を大きく吸って、躊躇わずに一気に踏み込んで空中に飛び出し、頭の上に真っ直ぐに伸ばした手を添えて水面に向ける!
「無様に失敗しやがれっ!!」
遠目に眺めていた永遠輝が、呪いの言葉を浴びせる!・・・が、特に、異変が起こることは無く、燕真は、空中で姿勢を崩さないように心掛けて、手の先から着水!若干角度が悪くて、水で胸を打ち、格好良い飛び込みとは言えないが、不格好なわけでもない。可も不可も無く、如何にも燕真らしい出来である。燕真が飛び込み用プールから上がると、亜美が「お疲れ様」と言いながら寄ってきた。
「紅葉っ!怖ければ、足を下にして飛び込んでも良いんだぞ!」
2人は、飛び込み台の上で待機をしている紅葉を見上げる。
「え~~~~~~~~っっっ!!チョット待ってょ、燕真!
なんで先にプールから出ちゃぅの!?」
「・・・・・・・・・はぁ!?」
「ヒーローって、怖がりながら高ぃところから飛び降りる女の子を、
‘大丈夫!俺を信じろ!’って決め台詞を言って、
両手を広げて、待ってくれるんぢゃないの!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁぁっ!?」
チョット、紅葉が叫んでいる内容が理解出来ない。おそらく、「今から飛び込むから、下で受け止めてくれ」と言いたいのだろうが、それは無理である。紅葉を受け止める為にプールに入ったら、監視員さんに「危険だから出ろ!」と怒られてしまうだろうし、5m上から落ちてくる人間なんて受け止めたら、お互いに怪我をする。・・・てか、飛び込み用のプールは、水深がかなり深い。立って、手を広げるなんて不可能だ。
「おいおい、アイツ(紅葉)、決まり事や、水深も知らないで、
飛び込みするつもりだったのか?」
「紅葉らしいと言えばらしい・・・けどね~。」
「飛べないなら、諦めて階段で下りてこい!」
「ふぬぅぅぅ~~~!飛べるモン!!
燕真が飛んだんだから、ァタシだけ置いてかれたくなぃモン!」
「無理をするなって!!」
「ムリしてなぃっ!燕真と同じがィィ!!
・・・ぃっくぞぉぉぉっっっ!!!とわぁぁぁっっっ!!!」
「・・・・・・・・あっ!」
紅葉はジャンプ台の後方まで下がって、助走を付けて、ウルトラマンが空に飛び立つような格好で華麗にダイブ!空中で助走の推進力が無くなって、腹を下に向けたまま、水面目掛けて自由落下開始!
「・・・ところで、いつ、紅葉のカナヅチを克服させてあげたんですか?」
「・・・・・・・・・・・・・へ!?何の話?」
「あの子、スポーツは全般に得意なのに、
小さい時から泳ぎだけはダメで、プール嫌いだったんですよ。
でも、今回は楽しそうにしてるから、
佐波木さんが特訓してあげたんだろうな~~って思いまして。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そ、そんな特訓は・・・してない」
ばっしゃ~~~~~~~~~~んっっっ!!!
亜美のカミングアウトを受けて青ざめている燕真の眼前で、俯せの姿勢で派手に着水する紅葉。痛々しく水を打つ音と共に、大量の水しぶきが上がり、落下速度と浮力が相殺されて、僅かに水中に沈む。見事なくらいに正真正銘の腹打ちである。しかも、水深が深いプールにも関わらず、紅葉はカナヅチらしい。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
心配そうに、しばらく様子を見る燕真と亜美。紅葉は、背中を上にしてプッカリと浮かんだまま、ピクリとも動かない。
「水泳の特訓・・・してないんですか?」
「してない。アイツ(紅葉)がカナヅチって事すら知らなかった。」
「なら、泳げませんよね?」
「泳ぐ泳がない以前に、多分アレは、モロに腹を打って、気絶してんぞ。
あのバカ、なんで、そんなんで飛び込むんだよ!少しは自重しろってんだっ!!」
「佐波木さんを信頼していたからでは?」
「この状況で信頼されても困るっ!」
仕方なく、監視員さんの止めるのを無視して、紅葉を救出する為に、プールに飛び込む燕真。案の定、紅葉は、体の前半分を真っ赤っかにして気絶していた。
その後、命知らずな紅葉と、保護者扱いの燕真は、監視員さんにコッテリと30分ほど説教をされたのだった。
-十数分後-
仲間達はスライダーや流れるプールで遊んでいるのだが、燕真と紅葉だけは、小学生達が我が物顔で騒いでいる25mプールにいた。燕真が紅葉の両手を持って、紅葉はバタ足をしている。泳ぎの特訓である。
「ふぇ~~~ん・・・ァタシも、ァミ達と遊びたぃよぉ~~」
「ダメッ!泳げないままで良いのか!?
遊ぶのは、最低でも自力でバタ足くらい出来るようになってから!」
「泳げなくても、何にも困らなぃモンッ!」
「だったら、海には連れて行かないぞ!友達とプールにも来られないぞ!」
「浮き輪とかぁるし、燕真が、ァタシと、ずっと一緒にいてくれれば安心だもん!」
「オマエが、友達と一緒に来るプールに、毎回、付いて来いってか?」
「ぅん!」
「絶対に嫌だ!」
「ぶぅ~ぶぅ~・・・燕真のイヂワルぅ~!」
「うるさいっ!いいから、バタ足だけでも出来るようになれっ!!」
日常では、様々なことに優れている紅葉に押されて振り回されっぱなしの燕真だが、紅葉側が劣っていることに関しては、紅葉のワガママを押さえ付ける事も可能らしい。たまにはこんな展開も悪くない。文句を言いながらも、懸命に燕真に従う紅葉を見ていると、とても可愛らしく感じてしまう。
「普段からこの調子なら、女子として認識できるんだろうな。」
「ん!?何か言った、燕真!?」
「いや、独り言!」
懸命にバタ足を続ける紅葉。その腰辺りを、触手状の黒い靄が通過をする。
「わひゃぁっっっ!」
紅葉が奇声を上げ、バタ足を止めて立ち上がる。
「燕真、今、ァタシのお尻さわったでしょっ!?」
「はぁ?」
「何にも言わないで触るのはヘンタイなんだよっ!」
「言ってることがオカシイ!何か言ってから触ればOKなのかよ!?
そもそも、俺の両手は、オマエの両手を掴んでいるんだ!
手が3本無ければ、オマエの尻を触れない!」
「あぁ・・・そっか。
今、ァタシのお尻の所を、何かが通らなかった?」
「気のせいだろ?何も通ってない。さぁ、練習を続けるぞ!」
「ぅ、ぅん。」
ウォータスライダーを滑り終えた亜美が、25mプールの脇を通って立ち止まり、何だかんだと言いながらも楽しそうに特訓をしている燕真と紅葉を、嬉しそうに眼を細めて眺める。
「あ~ぁ・・・やっぱり、あの2人、仲良しなんだな~。
見た目的にも釣り合ってるし、
大雑把な紅葉には、面倒見が良い佐波木さんのサポートがピッタリだし、
あんなふうに男の人に甘えてる紅葉なんて、
佐波木さんと会うまでは想像も出来なかった。
こりゃ、残念だけど、永遠輝君が入り込む隙間は全く無さそうだね。」
中学時代から、かなり沢山の男子から好意を持たれていたにも関わらず、全く浮いた話の無かった親友(紅葉)が、懸命に男性(燕真)を頼っている姿が微笑ましい。
一方、ウォータスライダーの上では、永遠輝が燕真と紅葉を睨み付けていた。
「クソッ!面白くない!」
吉良永遠輝は、紅葉と同じ文架東中学出身。中二で紅葉と同じクラスになり、誰とでも分け隔てなく接する紅葉を見ているうちに好きに成っていた。志望する高校は、紅葉と合わせたワケではないが、同じ優麗高に進学できると知った時は「これは運命?」と思えるほど喜んだ。そして、高二でも同じクラスになって接す機会が増え、「ついに俺の時代が来た」と感じた。
噂によると、紅葉は中学~高校で、様々な男子に告白をされたが、「恋愛にゎ興味無い」と、全て即座に断っているらしい。彼女は、色恋よりも、皆で遊ぶことが好きなタイプ。告白して玉砕して縁が切れるより、同じグループに在籍して接点を作り続けることで、いつかは振り向かせる。それが永遠輝の作戦だった。
「源川・・・なんで、あんなヤツと・・・?」
しかし、永遠輝が全く気付かないうちに、紅葉は恋愛真っ只中に突入している。ずっと、紅葉に好意を寄せてきた永遠輝には解ってしまう。燕真と2人で居る時に紅葉が見せる‘何一つ隠さない信頼しきった笑顔’を永遠輝は見たことが無い。
「アイツの何が、俺よりも勝っているんだよ?」
そんな永遠輝の嫉妬など知らず、25mプールでは、燕真&紅葉が、相変わらず泳ぐ特訓をしている。
「足が沈みっぱなしだ!それじゃ前には進めないぞ!
もっと、自然に体が浮くイメージをして!」
「ふぇ~ん・・・体が浮かぶわけないぢゃん!」
「水に逆らわなければ浮くんだよ!」
「難しぃょぉ~~~!」
「泳げるようになったら海に連れててやるぞ!」
「ホントっ!なら、がんばるっ!!」
紅葉は「燕真と海に行ける」という餌につられ、燕真に手を取ってもらいながら懸命にバタ足をする。しかし、そんな紅葉の気合いを妨げるかのように、50mプールから妖気が発生!
〈ぬっふっふ・・・
この貯水池(50mプール)の中で、最も絆の強いツガイを断ち切ってやる。〉
「んぇっっ?」
バタ足を止めて50mプールを眺める紅葉。一方の燕真は、相変わらず何も感じていないので、紅葉が練習を放棄したようにしか見えない。
「おい、紅葉!ちゃんと練習を!」
「ヤバいよ燕真!ヨーカイが出るっ!
50mプールに残った思念に、ヨーカイが憑いているみたいっ!」
「なにっ!?」
水を掻き分けながらプールサイドまで行ってよじ登り、50mプールに駆けていく紅葉。燕真は、プールサイドに敷いたシートの上に、タオルで隠しておいた妖幻システムを手にして、紅葉を追う。
〈ぬっふっふ・・・一番仲の良いツガイの雌を我が嫁にしてやる。〉
「んんっ!来るっっ!!」
緊張した面持ちで、50mプールの中央を睨み付ける紅葉。先ほど紅葉が羨ましく感じながら眺めていたカップルがイチャ付いている。
「あははははっ!雌代、好きだよ!」 「うふふふふっ!雄太さん、私も!」
突然、カップルの目の前に水柱が上がり、中から鰻顔で人型の妖怪=鰻男が出現!悲鳴を上げるカップル!鰻男は、鰻頭を長く伸ばして、雌代(カップルの女)に絡み付き、雄太(男)から奪い取る!
「きゃぁぁっっ!!助けて、雄太さぁんっっ!!!」
「ひぃぃっっっっっっっ!!!!雌代っっっ!!!」
周りで遊んでいた他の客達は一斉に避難をして、50mプールには、鰻男と、捕らわれた雌代と、彼女を奪われたままフリーズする雄太だけになった!
「やらせないっ!」
カップルを救出する為に、無我夢中で50mプールに飛び込む紅葉!だが、50mプールの中央付近は最も水深が深い!そして、紅葉は泳げない!チビッコの紅葉では、立とうとしても底に足が届かず、溺れてしまう!
「あのバカ!少しは考えてから行動しろっての!」
燕真が勢い良く50mプールに飛び込んで、ジタバタと藻掻いている紅葉を後から引っ張って救出!そのままプールサイドまで連れて行こうとする!
「アホッ!泳げないのに飛び込んで、余計な仕事を増やすな!」
「ふぇ~~~ん・・・ごめぇ~~~ん!」
〈最も絆の深いツガイ・・・。〉
鰻男は、雌代(カップルの女)を解放。燕真によってプールサイドに押し上げられている最中の紅葉に、長い首を絡みつけて引っ張った!
「んぇぇぇっっっ!!!なんでっっ!!?」
「紅葉っっ!!」
慌てて紅葉を掴む燕真!紅葉も燕真に抱き付くが、鰻男の力に抵抗できず、燕真諸共にプールの中に引き釣り込まれてしまう!その間に、最初に襲われたカップルは、プールから脱出をする!
「ザムシードに防水性があるのか知らないけど、やるしかない!」
水中に沈められたまま和船ベルトを装着して、『閻』メダルを装填!妖幻ファイターザムシード登場!
ザムシードに変身をしたおかげで、水中での呼吸は、ある程度は確保された。妖幻システムは、着ぐるみとは違って、水を含んで重たくなる仕様ではないようだ。
「だけどっ!」
紅葉の腹に腕を回して掴んだまま、鰻男に蹴りを叩き込むが、鰻男はノーダメージ!水中では威力の高い攻撃ができない!
「くそっ!」
今のままでは、沈められたままの紅葉が、体内の酸素を失ってしまう。
「紅葉っ!もう少し我慢してろっ!」
「がぼがぼがぼっ!」
ザムシートは、紅葉から手を離し、鰻男の長い首を掴むと、裁笏ヤマを装備して、押し当てて突き刺した!痛みで、紅葉への拘束が緩む!鰻男から手を離して蹴り、再び紅葉を掴んで脱出するザムシード!共に水面へと顔を出す!
「大丈夫か、紅葉!?」
「ふぇ~~・・・死ぬかと思った。」
「よし、大丈夫ってことだな!
妖怪は俺が抑えるから、早く逃げてプールから出ろ!」
「んぇっ!?1人で逃げるの!?ムリ、ァタシ泳げないっ!燕真、連れてって!」
「バタ足の特訓を思い出して、岸を目標にして進め!」
「で、でもっ!」
「オマエなら大丈夫だ!言った俺と、頑張ったオマエ自身を信じろ!
もしダメだったら、その時は助けてやる!」
「ワ、ワカッタっ!」
ザムシードに後押しされ、プールサイドを目指してバタ足を開始する紅葉!メッチャ遅いけど、教えられた通りに、両手を真っ直ぐに伸ばして、沈みそうになる足を交互に振って、懸命に泳ぐ!鰻男は、紅葉を捕らえる為に、長い首を伸ばすが、ザムシードが抑えるける!
「着いたっ!できたよ、燕真っ!」
「よくやった!」
縁に到着して、プールサイドによじ登る紅葉。亜美や仲間達が寄ってきて、手を貸して引っ張り上げる。
「怪我は無い?」
「んっ!ダイジョブ!」
「泳げないのに飛び込むからビックリしちゃった!」
「ゴメンゴメン、心配させちゃったねぇ。」
「佐波木さんは?まさか、変な怪物に?」
「燕真ならダイジョブに決まってるぢゃん!」
50mプールの中央に視線を向ける紅葉。波に揺られるザムシードと鰻男の影だけが見える。これで50mプール内に残ったのは、ザムシードと鰻男だけになった。
「おのれっ!我が嫁をっ!!」
「口説き方がまるで成ってない!
女の子が好きなら、女の子の気持ちも、ちゃんと考えろ!
力任せに水の中に引き釣り込むなんて論外なんだよ!」
水中で裁笏ヤマを振るうザムシード!しかし、水の抵抗が邪魔で、思い通りに攻撃できず、鰻男に回避されてしまう!水中では、鰻男の方が動きが速い!水の抵抗が少ない頭部を突き出して、ザムシードに3発ほど頭突きを叩き込む!
「こんな奴・・・地上で戦えば楽勝なんだけどな!」
「ぬっふっふ・・・観念して、嫁を寄こせ!」
「オマエになんて、やらね~よ!」
水中では、出来る限り水の抵抗を少なくして戦わなければならない。つまり、裁笏ヤマよりも刀身の長い妖刀ホエマルでは、振るスピードが遅くなる。弓銃カサガケによる射撃も、水の抵抗で威力が減衰してしまうだろう。
だけど、プールサイドに沢山の人目がある状況で、妖幻ファイターと妖怪の姿は晒したくない。
「それならば、周りから見えなくすれば良いだけだ!」
ザムシードは、Yウォッチから属性メダル『炎』を抜き取って裁笏ヤマに装填!通常時ならば刀身から炎を発するのだが、水中では着火をできない!
「ぬっふっふ・・・なんのつもりだ?
多少の熱を発した程度では、周りの水に冷やされてしまい、我は焼けんぞ。」
「焼くんじゃなくて煮るんだよ!」
裁笏ヤマを水面下ギリギリに翳すザムシード!周りの水が熱せられて、無数の気泡が上がる!
「ぬっふっふ・・・まさか、この貯水池(プール)の水を沸騰させる気か?
愚かなり!一体、どれほどの水があると思っているのだ?」
「百も承知だ!煮るのはオマエではない!俺の周りの水だ!」
プール全体を沸騰させるなんて不可能!裁笏ヤマが熱を発し続けなければならないので、必然的にザムシードはエネルギーを消耗させていく!だが、ザムシードは理解をした上で、この選択をした!
「なんの意味があって?・・・ぬぬぬっ?」
いつの間にか、ザムシードと鰻男の周りの水面から湯気が上がり、霧と成ってプールサイドの一般客から隠していた!
「俺が思案していたのは‘どうやって身を隠すか’だけ!
ハナっから、オマエのような身勝手な妖怪に、
紅葉を取られるなんて思ってねーよ!」
鰻男の長い首を両腕で抱えるザムシード!水面から顔を出して、力任せに、真上に鰻男を放り投げた!そして、裁笏ヤマに白メダルを装填!力強く底を蹴って、水面上に飛び上がり、真上に突き出した裁笏ヤマで、落ちてきた鰻男のど真ん中を突き刺した!
「・・・ぐぇぇぇぇっっっっっ。」
着水して水中に沈むザムシードと鰻男。真っ白な霧が立ちこめる中で、鰻男は闇霧と成って、裁笏ヤマに填められた白メダルに吸収されて消滅をした。
-数十秒後-
変身を解除した燕真が、まだ湯気の霧の残るプールを悠々と泳ぎ縁に到着。紅葉達に出迎えられる。
「変な怪物はどうなったんですか?」
「佐波木さんも襲われたんですか?」
「ん?怪物?そう言えば謎の生物が目撃されたんだっけ?そんなの見なかったな。」
亜美や仲間達も怪物の姿は見ている。燕真や紅葉が襲われたと思って心配をして尋ねたが、燕真は、今まで戦っていた素振りなど一切見せずにしらばっくれる。
「俺は、泳げないくせにプールに飛び込んだマヌケを助けに行っただけだよ。」
「んぇぇっっ!?マヌケってァタシのこと!?」
「他に誰がいるんだよ?威勢良く飛び込んで、1ミリの泳がずに溺れやがって!」
「でもちゃんと泳げるようになったモン!」
「バタ足10mだけな!せめて、25m泳いでから、泳げるようになったと言え。」
「燕真のクセに生意気~~~~!!」
燕真と紅葉の掛け合いを見て、亜美&美希&優花&行照が微笑む。永遠輝は不満げに視線を逸らすが、紅葉が溺れた時に、驚くだけで何もできなかった自分と、迷わずに飛び込んだ燕真の差は、ハッキリと感じていた。
その後、多数が見た‘謎の生物’の正体を確認する為に、プールの点検と称して入ることが禁止され、係員達が確認をしたが、怪しい物は何も発見されない。
襲われたカップル(雄太&雌代)だけが事情を聞く為に残り、まだ閉館には時間が有るのだが、総点検の為にプール施設は閉鎖をされた。
-十数分後-
着替えを終えた少年少女が、施設の入口に再集合をする。時間が中途半端なので、「もう少し何処かで遊ぼう」という意見も合ったが、紅葉が泳ぎ疲れていたので、これで解散になる。
「んぢゃっ!みんな、バイバ~イ!」
一言の断りも無く、当たり前のように、燕真がバイクに乗るより先に、タンデムに跨がる紅葉。
「帰りも乗るのかよ?」
「もちろんっ!」
西陣織と九谷焼でカスタマイズされたホンダVFR1200Fをスタートさせる燕真。紅葉は、大きく手を振りながら、仲間達に見送られる。
「誰がどう見ても付き合ってるようにしか見えないよね。」
「プールでも、スゲー仲が良かったし。」
「本人は付き合ってないって言ってるけどね。」
「付き合ってるかどうかはともかく、
あの人(燕真)が紅葉の尻に敷かれているのだけは確実だね。
紅葉が、あの凡人で良いなら、それで良いんじゃないの?
結構、お似合いだと思うし。」
「美希ちゃん・・・相変わらず毒舌。」
「永遠輝はどう思う?」
「フン!知らね~よ!」
和気藹々と見送る少年少女。永遠輝だけが不満そうに、去って行く燕真を睨み付けていた。
一方、噂の中心にされているなんて知らずに、タンデムの紅葉は、燕真の背中にベッタリとしがみついていた。互いにTシャツなので、燕真は、2枚の布と紅葉の下着越しに、紅葉の胸の感触を、背中でハッキリと感じてしまう。
「真夏だぞ!暑いからもう少し離れろ!」
「んっへっへ!い~のい~の!
ね~ね~、燕真。ツガイってカップルのことだよね?」
「ツガイ?雄と雌の組合せのことか?」
「仲良しのツガイを狙うんだってさ~。」
「はぁ?何の話だよ?」
「オスタさんとメスヨさんより仲良しなんだよ~!」
「誰だそれ?」
「一番だってさぁ~!」
「何が!?」
「んっへっへ!ヒミツ!」
鰻男が喋り、紅葉は聞いたが、燕真は聞いていないこと。鰻男は、最初は別のカップル(雄太&雌代)から雌代を奪い取ろうとしたが、標的を紅葉に変えた。紅葉は、自分が多少の無茶をしても、燕真ならば絶対に助けてくれると信じている。だから、燕真の居る時は、考え無しに無鉄砲を通せる。鰻男に連れ去られそうになった恐怖より、鰻男に評価された嬉しさの方が優っていた。
「ところでさ、紅葉。」
「んぇ?」
「鰻男の依り代は何だったんだ?やっぱり、永遠輝って少年が・・・」
「ァタシと同じ歳くらいの男の子の思念だよ。
男女グループのァタシ達が楽しそうに遊んでるのを見て、イラッとして、
ビーチボールに妖気を送って、鉄球にしたみたい。」
「えっ?なら、俺が受ける寸前で鉄球に変化したのは?」
「ただのグーゼン。
誰の時に鉄球になっても不思議ぢゃなかったけど、
たまたま燕真の時になっただけ。」
「たまたま・・・で済ますな。」
妖怪からすれば「たまたま」かもしれないが、ビーチボールのつもりで鉄球を受けていたら、燕真は確実に頭が潰れて死んでいただろう。
「性根の悪そうな思念だな。」
「何年か前に50mプールで溺れちゃったみたい。」
「そっか・・・少年は溺死したのか?可哀想な事件があったんだな。
なら、少年の思念が、楽しそうにしている奴等に嫉妬しても仕方無いのかもな。」
「ぅんにゃ、死んでないよ。」
「・・・ん?」
「初デートでプールに行って、格好付けてプールに飛び込んで溺れて、
彼女に超幻滅されて、その場でフラれちゃってね、
しかも女の子は、その場で、別の男子大学生にナンパされて仲良くなったの。」
「そ・・・それは可哀想な事件だ。・・・ある意味、溺死よりも。」
「その時の男子の無念が、ずっとプールに残っていたみたいだね。」
「それで、性根が腐った女好きの妖怪に憑かれたのかよ?
シッカリしろよ、文架市の男子!嘆かわしい!」
会話中、紅葉は、ずっと燕真に密着をしており、燕真は紅葉のBカップ(自己申告はC)の弾力と温もりを感じ続けている。
「暑い!汗ばむ!」
「夏なんだからアツくて当たり前ぢゃん!」
「そ、そうじゃなくてさ!・・・ちょっと、俺の理性の問題で・・・。」
喋らなければ満点の美少女に胸を押し付けられて、意識をしない方が難しい。燕真は、「くっつくな」と要求をするが、紅葉は、燕真の背中を手放す気は無い。
・
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紅葉を送り届けて帰宅後、燕真は、本日の事件を思い返す。そして、一つの違和感に気付いた。
「んっ?なら、ずっ~と、恨めしそうに俺を睨んでいたアイツは何だったんだ?」
今回の妖怪事件と永遠輝は全く関係無い。
「えっ?えっ?
何か、如何にも、気が病んでいて妖怪に憑かれる伏線みたいになっていたり、
過去のモノローグが入っていたけど・・・関係無いの?」
今回の妖怪事件と吉良永遠輝は一切関係無し。ただ単に、彼は、紅葉がベッタリと懐く佐波木燕真が大嫌いなだけ。
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