外伝・番外編
外伝・異獣サマナーアデス
―プロローグ―
色々と大失敗をやらかした燕真と紅葉は、ちょっと気まずそうにYOUKAIミュージアムへ戻って来た。
「じいさん、怒ってるかな?」
「お説教は覚悟しなきゃだね。燕真ゎ、キョーフの夜なんぢゃね?」
「・・・それは嫌だな。」
店の扉を開けようとしたが、施錠されていて開かない。自宅に居るんだろうか?燕真と紅葉は、隣に建つ粉木宅へ向かう。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×2
玄関ドアを開けたら、明らかに怒った顔で腕組みした粉木が立っていた。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・た、ただぃま・・・」
粉木は大きく息を吸い込んで一拍置いてから・・・
「バッカモォォォォ~~~~~~~~~~~~ンンンッッッ!!!」
「・・・・ぐっ!」 「・・・ひゃぁぁぁぁ~~~~~っ・・・・」
これは、かなり拙い。想定してたよりも、遥かに怒ってるようだ。粉木の気迫に押された2人は、思わず直立して目を閉じる。
「とりあえず、上がれっ!!」
「・・・・・・・・・・・はい」×2
言われるまま、見えない手錠で繋がれたかの如く居間へと連行されて、並んで畳に正座。粉木はキッチンで自分の分だけ茶を淹れて戻り、座布団に腰を降ろし、茶を啜りつつ2人を睨む。迫力に圧倒された2人は、借りてきた猫みたいに大人しい。
「燕真っ!!」
「・・・・・はい」
「退治屋って自覚が無いんかいな!?今回の失敗は、オマエの責任やっ!!
まだまだヒヨッコとは言え、妖幻ファイターの端くれやろっ!」
「・・・反省してます。」
「今回は運良う被害が出えへんかっただけや!
一歩間違えたら、大騒ぎになっとった可能性もあるんやで!」
「・・・う、うん。マズったと思ってる。」
「お嬢!」
「ひぃぃっっ!」
「退治屋でもないのに、毎度毎度、勝手気ままに動きおって!
危険なことに首を突っ込んでいる自覚を、もう少し持て!」
「・・・ごめんなさい」
「また無茶やらかしよったら、出入り禁止やぞっ!!」
「・・・・はぃ、約束します。」
その後も、説教は小1時間ばかり続き、2人は「はい」と「ごめん」を繰り返す。粉木は説教をしながら、「叱る」以外で、若者達に学んでもらう為の言葉を探していた。
「わしが怒ってるのにはな、まだ理由があるねん。」
「んぇ?」 「・・・・どんな?」
「あのな燕真・・・・オマエは、ワシの大事な仲間やねん。」
「・・・・・・・・」
「ワシはな、仲間が死ぬのだけは我慢できへんねん。」
「じいちゃん・・・ひょっとして、仲間が死んじゃった事ぁるの?」
「ああ。もう、だいぶ昔の話やけどな。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×2
「これだけは、キチーっと言うとく。耳の穴かっぽじって聞け。」
「・・・ああ」 「なぁに?」
「2人とも、絶対にワシより先には死なんて約束せい。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×2
「何で黙るんやっ!?何で直ぐに、一言『はい』って返事せんっ!?」
「わ、解ったよ。約束する。」
「ゎたしもっ!!」
「絶対やでっ!破りよったら承知せんぞっ!」
「破らねぇよ・・・俺だって、まだ死にたかない。」
「ゃりたい事、ぃっぱいぁるもんっ!!」
ここで説教が一段落。粉木は冷めた茶を啜り、海苔巻あられを口に放り込んで噛み砕きつつ、明後日の方に視線を移した。視線の先は、襖を隔てて粉木の寝室がある。粉木は、自室にある小さな仏壇の方を向いている。朝飯を貰いに来ると、必ず仄かに線香の香りが漂っている。燕真は拝んだことが無いけれども、誰を祀ってるんだろう?確か前に、天涯孤独の身だと聞いたけど。
「じいさん・・・」
「何や?」
「あの仏壇・・・・ひょっとして、さっき話した“死んだ仲間”を?」
「そうや。」
「・・・・・・・・・・・・」
「丁度ええ機会や・・・・ワシの昔話、聞くか?」
「・・・・ああ」 「聞きたい!」
どうしても聞いておかねばならぬ。そんな気がした。粉木は何時になく真剣な表情で自分を見上げてる2人を眺めて軽く微笑み、キッチンへ行って茶を注ぎ足して戻ってから語り始める。
***約50年前********************
所得倍増計画~東京オリンピック(1964年)~いざなぎ景気~大阪万博(1970年)の高度成長期が終わり、日本がオイルショックに陥った時代。
行方不明者数が無視できないレベルになっていた。自ら失踪する理由が無い人達が、何の前触れもなく行方をくらましてしまう。しかも、常識では考えられない消え方をしていた。
幼子を待たせてデパートの試着室へ入った女性が、それきり出てこなかった・・・
走行中の路面電車から、運転手と乗客が全て消えた・・・
警察では失踪事件として片づけられたが、それらは全て、異世界から訪れた怪物の仕業だった。都市伝説的に噂が広がって、人々は本能的に「只事じゃない」と恐怖したが、だからと言って成す術も無い。怪物が持つ人智を超えた力の前に、人間は余りにも無力だった。
だが、救世主は存在した。
危機一髪で助けられた人達が語る「救世主」の話が、じわじわと広がった。それは、太陽のような朱色の西洋甲冑を思わせるマスクとスーツで素顔を隠しており、誰が名付けたのかは不明だが「アポロ」と言う名前らしい。
・
・
・
若き日の粉木勘平は、情報屋を生業にしていた。悪い噂が絶えない有力者や、素行が派手すぎる有名人を尾行して、スキャンダルを掴んで新聞社や雑誌社に売りつける。当たれば大金を手にできるが、空振れば収入無し。要は、フリーターである。
郊外に建つカルト教団に行ったきり、行方不明になった者が数名いる・・・。
噂を聞きつけた勘平は、愛車のホンダ・ドリームCB250を駆り、当該の施設へと向かう。まだ、ヘルメットが‘努力義務’の時代。全身で風を感じることを好む勘平は、ヘルメットなど被っていない。
「今日こそは正体を掴んだるで!」
大きい情報で金を稼ぐ為に、カルト教団の敷地に不法侵入をする。
「ワルキューレ・・・確か、人の死後に神の国に連れていく魂を選ぶ者。
大層な名前の教団やな。怪しすぎる。」
人間の科学で説明を出来ない神隠しなんて有り得ない。カルト教団の悪辣な証拠を暴き出してやる。勘平は、この地で行われることが、「人間の手で行われる犯罪」と思っていた。
窓から、中の様子を覗き込む。拾い室内では、偉ぶった中年男性が、経典らしき言葉を語っており、信者達は座って聴き入っている。中年男性が教祖様なのか幹部なのか、粉木には解らない。漏れ聞こえる経典の内容は、意味は解るが、教団に都合の良い解釈ばかりで腹立たしく感じる。
「若い娘達もおるんか?
どんな現実から逃れる為に、こんな胡散臭いカルトに駆け込んだのやら?」
十代後半~二十代前半くらいだろうか?信者達の中には、勘平と同世代か、それより少し若い娘達の姿もある。勘平は、女性達を見廻して、そのうちの1人から視線を外せなくなった。
「気の強そうな女やな。ワシ好みだ。」
経典を終えた後、偉そうな中年男性は、複数の信者から、数名の「選ばれし者」を決めて肩を叩く。選ばれし者は、嬉しそうな表情で中年男性を見上げた。粉木が「好み」と証言した女性も含まれている。
「行方不明なんて大層な噂になってるけど・・・
どうせ、選ばれた連中は、監禁されるか、外国に売り飛ばされてるんやろ?
‘ワシ好み’が不幸に晒されるのは忍びあれへんな。」
中年男性と幹部らしき数名、そして選ばれし者が建物から出て、マイクロバスに乗り込んだ。敷地内から発つマイクロバス。
「何処へ向かう気や?」
選ばれし者だけが、特別扱いで家まで送迎してもらえるとは思えない。勘平は、特ダネが掴めると確信して、愛車ドリームCB250を駆り、マイクロバスを追った。
-数十分後-
マイクロバスは、峠道から、車1台がギリギリ通行できそうな、草が生い茂って一般人では誰も気付けない砂利の細道に入っていく。
「こんな所に道があったんか?・・・怪しすぎんねん。」
勘平は、舗装された一般道から細道を覗き込み、僅かに戸惑った後、意を決して後を追う。この隠された道の先に何が有るのか?バイクを走らせながら、草木しか見えない山頂を見上げ、何気なく進行方向に視線を戻した。
「なんやっ!?」
道のど真ん中に人が立っている。慌ててブレーキを掛け、砂利道でタイヤを滑らせながらバイクを停めた。
「引き返せ。この先に進めば後戻りできなくなるぞ。」
司祭か魔法使いのような奇妙なローブを纏った男。勘平は、絵本か外国アニメでしか、この様な格好を見たことが無い。カルト教団の関係者が、部外者の通過を妨げているのだろうか?
「なんや、オマエ?教団の関係者か?」
「関係者ではない。」
「なら、なんで、止める? この先には何が有るんや?」
「平穏を望むならば踏み込んでは成らない世界だ。」
「・・・へぇ~。」
大阪で生まれ育った勘平が東京へ来たのは、約2年前。生まれ育った街に、それなり愛着はあったが、天涯孤独の気楽な身なのも手伝い、アパートを引き払って最低限の荷物だけ持って、夜行列車でフラリと新天地に来た。
だが、特に夢や希望を持っていたわけではない。むしろ、理想通りにはいかない現実を知り、危険を覚悟で、保証の無い今の仕事を選んだ。守るべき物を持たない勘平にとって、今の生活に「望ましい平穏」等は無いのだ。
「つまり、ワシは踏み込んでもええ世界言うことやな。」
「行くつもりか?」
「ああ・・・俄然興味が湧いてきた。」
「そうか・・・ならば、これを持って行け。」
「・・・ん?」
ローブの男が差し出したのは、蝙蝠モチーフの紋章が入ったカードケースだった。
勘平は知らないことだが、本条尊にサマナーホルダを提供した時と同じ。彼は、手当たり次第にサマナーホルダをバラ蒔くワケではなく、意志の強さや一定の才能、そして力を正統に使う心を有する者しか、サマナーには選ばない。
「この先にあるのは、カードの賭博場・・・ってわけでもあれへんのやろう?」
「進退が窮まったら使え。」
「よう解らんが・・・くれるもんは貰うとくぞ。」
受け取ってポケットに突っ込み、バイクを数mほど進める勘平。男が何者なのか聞きそびれたことに気付いて、バイクを止めて振り返った。
「オマン・・・名は?」
だが、数秒前までその場に立っていたはずのローブの男の姿は、既に何処にも無かった。
「どうなっているんや?狸か狐にでも化かされたんか?」
念の為にポケットに手を突っ込むと、男から譲り受けたカードケースは、間違いなく存在をしている。男との接触は、幻ではないようだ。薄気味の悪さを感じる。だが、「興味と僅かな正義感」と「漠然とした危機感」で、興味が勝った。
「ワシは平穏よりも、目の飛び出るような変化が欲しいんや!」
勘平は自分に言い聞かせて、バイクを先へと進める。ローブ男の介入でマイクロバスは見失ってしまったが、ひたすら曲がりくねった一本道が続くだけ。やがて、怪しいゲートを通過して、山の中の拓かれた一角に到着する。
「なんや、此処は?パンテオン神殿?」
勘平の眼前には、日本にはそぐわない西洋の神殿のような建造物が聳え立っていた。彼は、この地が開発をされて、テーマパークが建設された情報など知らない。つまり此処は、アミューズメントなどではない。
「胡散臭さがプンプンすんで!」
この敷地を公にするだけでもスクープになりそうだ。カメラを構えて、夢中になって撮影をする。だが、夢中になりすぎてしまった。彼は、尾行の時点で、既に奴等から気付かれていることを知らなかった。背後から何者かに掴まれ、人間とは思えない力で抑え付けられる。
「なんやっ!?・・・ぐわぁっ!」
抑え付けた物を見た勘平は青ざめる。それは、毒蛾の意匠を持つ人型だった。着ぐるみとは思えない。正真正銘の人外。勘平は、この時初めて、「人間では解決できない事件に首を突っ込んでしまった」と把握した。
「は、放せ、われっ!!」
逃げ出したいのだが、全く抵抗できない。勘平は、毒蛾人間に無理矢理連れられて、神殿の王座の間に引っ立てられる。そこは、壁の至る所に鏡が埋め込まれた異様な部屋だった。選ばれし者達も集められている。
不気味なシンボルが模られた王座には、誰も座っていない。例の中年男性が、不在の王座に向けて恭しく一礼をした後、選ばれし者達を眺めた。
「ようこそ、選ばれし者達よ!君達は‘魔’の力を持っている!
つまり、我が主の元で、世界を牛耳る資格があると言うことだ!」
歓声を上げる‘選ばれし者’達。経典を学んで選ばれただけで、世界を支配する側になれる?そんな安易な力など有り得ない。勘平には、その光景が異様にしか感じられなかった。だが、毒蛾人間が実在していることを考えると、有り得ないことが起きていると納得するしか無かった。
「これより、選ばれし者達の更なる選別を行う!
・・・だが、その前に。」
中年男性が勘平を睨み付ける。
「資格無き者の末路を見せてやろう。」
「なんやとっ!?」
末路?殺される?慌てて抵抗を試みる勘平。しかし、毒蛾人間の力には全く抗えない。選ばれし者達に助けを求めるが、経典で毒された彼等は、「資格無き者」を冷笑しながら眺めている。その中には、勘平が「好み」と表現した女性もいる。彼女だけは冷笑ではなく、勘平の身を案じているように見えた。
「くっ!放せっ!!」
毒蛾人間によって壁に埋め込まれた鏡に押し付けられる勘平!正確に言えば、押し付けられるのではなとく、押し込まれていく!
「バ、バカな!・・・ひぃぃっっっっ!!!」
鏡を潜り抜けた先は、今までと同じ神殿の広間だった。だが、中年男性も、選ばれし者達もいない。鏡に入り込んだのは何かのトリックで、広間の隣に、もう一つ同じ構造の広間があるだけ?
そこは、人間界に非ず。左右が反転した異世界(インバージョンワールド)。殺人の証拠を一切残さずに人間を行方不明扱いに出来る異空間なのだが、勘平には状況が全く飲み込めない。
「ガッガッガッガッガ!」
毒蛾人間が反転した広間に入り込んできた。勘平は、命の危機が去ったわけでは無いことを改めて理解をする。
-神殿広間(人間界)-
選ばれし者達の中に、経典に同調するフリをして息を潜めている若い女性がいた。 厳密には、彼女を含めた仲間達が、カルト教団事件の本部を探る為に、信者のフリをして潜入をしたのだが、「資格有り」に選別をされて神殿に連れてこられたのは彼女だけだった。
(マズいわ!尊さん、早う来て!
お調子者ふうの関西弁を喋る男の人が
インバージョンワールドに引き摺り込まれた!)
女性の名は、砂影滋子。彼女の服には、発信器内蔵のボタンが縫い付けてある。
-神殿の外-
「此処か!?ワルキューレのアジトは!」
スズキ・TSハスラーⅢを駆る本条尊が、発信器から発せられる電波を頼りにして敷地内に到着!バイクから降りて、神殿内に駆け込んでいく!
-神殿広間(異世界)-
しばらくは逃げ廻った勘平だったが、違和感を感じて手を見て、自分の体が粒子化をして蒸発していることに気付く。異世界(インバージョンワールド)に受け入れてもらえない生命が、消えかけているのだ。
「ひぃぃっ!何がどうなっとるんや?」
動揺で足を止めてしまった為、毒蛾人間に掴まり、首を絞められた状態で持ち上げられる!両足を振って抵抗をするが、毒蛾人間はまるで動じない。それどころか、足を振る行為そのものが絞められた首に体重をかけ、圧迫を助長してしまう。
「ぐ・・・ぐぅぅ・・・」
首をへし折られる?窒息させられる?怪物に食われる?勘平は、「この先の自分の運命」に「生き残る」を想像することが出来なかった。
「嫌や・・・こんな所で殺されるわけにはいけへん。」
自己保身で死にたくないわけではない。人生の平穏を望むならば、安定をした仕事を選んでいる。勘平が今の仕事を続けてきた理由は、他者に足並みを合わせずに金を稼げる気楽さと、「世間に潜む悪を暴きたい」という少しばかりの正義感の為。
「怪物の存在を・・・世間に伝えなならん。
誰も気付けへんまま、こんなワケの解らん怪物に、
世界が食い物にされるなんて、冗談ちゃう!」
『進退が窮まったら使え。』
薄れゆく意識の中で、勘平は、ローブ姿の男の言葉を思い出した。提供された物を求めて、ポケットに手を突っ込み、カードケースを引っ張り出す!途端に、勘平の全身が乳白色の光に包まれた!
-神殿広間(人間界)-
粉木が押し込まれた鏡が乳白色に歪み、弾き飛ばされた毒蛾人間が転がり出してくる!続けて、鏡の中から、蝙蝠の意匠を持つ西洋甲冑の戦士が出現をした!
「あら・・・尊さんとおんなじ?」
驚く中年男性と選ばれし者達。砂影滋子は、息を飲んで西洋甲冑の戦士を見詰める。その姿は、デザインと色の違いはあるが、滋子が良く知る‘本条尊が変身をする異獣サマナーアポロ’に似ている。西洋甲冑の戦士は、鏡に映った自分の姿を眺める。
「まるで、子供向け番組のヒーローやな。
ワシに力を与えてくれたのが神か悪魔かは知らんが・・・形勢逆転や。」
気持ちを切り替え、サーベルを構えて毒蛾人間に突進をする西洋甲冑の戦士!切っ先が、毒蛾人間の胸のど真ん中を貫いた!手応えを感じて、毒蛾人間からサーベルを抜いて数歩後退!毒蛾人間は、苦しそうな悲鳴を上げて爆発四散をした!
「ヌゥゥ・・・貴様、異獣サマナーか?」
例の中年男が、甲冑戦士を睨み付ける。
「なんや、よう解らん。ワシは異獣サマナーって言うもんになったんか?」
「異獣サマナーは、1人ではなかったのだな?」
身構え、丹田に力を込める中年男!全身が青白く発光をして、狼の顔をした人間=ワーウルフへと姿を変えた!
「貴様を倒し、サマナーシステムを手に入れれば、総帥がお喜びになる!」
「なにっ?人間が怪物にっ!?」
ワーウルフの行動は早かった!甲冑戦士が警戒をするよりも早く、甲冑戦士に突進して懐に飛び込む!そして、甲冑戦士が防御態勢を取る前に、甲冑戦士の腹に蹴りを叩き込んだ!弾き飛ばされ、壁に激突をして床に落ちる甲冑戦士!
「速いっ!」
毒蛾人間とは強さのレベルが違う!甲冑戦士が顔を上げた時には、ワーウルフは眼前まで踏み込んでいて、為す術も無く、拳の連打を叩き込まれた!
せっかく人智を越える力を得られたのに、全く歯が立たない。進退窮まったからカードケースを使ったのに、事態が好転しない。全身が痺れ、意識が朦朧として、握っていたサーベルを足元に落とす。
「そこまでだ、ワルキューレ!!」
神殿内に勇ましい声が鳴り響いた!入口に、バッタをモチーフにした朱色の戦士が立っている!
「貴様・・・異獣サマナーアポロ!!」
甲冑戦士への蹂躙を止め、アポロを睨み付けるワーウルフ!
「・・・アポロ?」
膝から崩れ落ちる甲冑戦士。変身が強制解除をされて、粉木勘平の姿に戻る。勘平は、都市伝説で‘朱色のアポロ’の噂は聞いた事があった。だが、それが実在したことを初めて知る。
「滋子っ!その青年(勘平)を連れて外に逃げろ!彼には聞きたいことがある!」
「はいっ!」
勘平が「好みのタイプ」と評した女性が駆け寄ってきて、倒れている勘平に肩を貸して立たせ、神殿から退避をする。
「オマン・・・なにもんや?洗脳をされた憐れな信者じゃないのか?」
「アポロの協力者ちゃ。
カルト球団の件ちゃ、以前から怪しいて思うとって、潜入捜査をしとったが。」
滋子と勘平の退避を見送った後、アポロは見栄えのするポーズを決めて、ワーウルフへの突進を開始する!振り返った勘平は、「形だけの自分とは違う、本物のヒーロー」を見た気がした。
-数分後-
神殿から爆炎が上がり崩れ始める。内部から逃げ出す選ばれし者達。全員が退避をした後、アポロが悠然と脱出をする。
「尊さんっ!」
勘平と並んで待機をしていた滋子が、アポロに駆け寄って行く。
「ワーウルフは?」
「すまん、逃げられた。」
アポロは、ワーウルフをあと一歩の所まで追い詰めた。だがトドメを刺す寸前で、部下の怪物3匹に邪魔をされた。アポロが3匹を倒してワーウルフに挑みかかったが、ワーウルフは神殿を爆破して逃走をした。
「だがこれで、カルト教団の野望は潰えた。
ワルキューレの作戦は阻止されたのだ。」
頷く滋子。アポロと共に、崩壊する神殿を眺める。
「あっ!そう言えば!」
滋子が振り返った時、その場に勘平の姿は無かった。
勘平は恩人に礼を言うことも無く、愛車のドリームCB250に乗って、戦場から離れていた。滋子が、信頼でアポロを見る眼と、敗者の勘平を労る眼を思い出す。勘平は、自分の非力を感じながらも、その差が不満だった。
「狼の怪物は逃げたのか。・・・ヤツはワシが倒す!」
アポロと同じ能力を持ったのだから、アポロのように強くなって、ワーウルフを倒す。そうすれば、砂影滋子は自分を認めてくれるはず。この時の勘平は、アポロへの対抗意識で心を煮えたぎらせていた。
-数日後-
橋の上をドリームCB250が疾走する。シフトダウンして左折。小気味よい排気音を響かせながら、堤防道をに入り、しばらく走って停車。搭乗者の勘平が、眼前の工場を睨み付ける。
カルト教団騒ぎと同時期、世間では「この付近の河川敷で珍種が発見される」という騒ぎが発生していた。当時は、水俣病やイタイイタイ病が話題になっていた為、勘平は「珍種も、その類いの物」と考えていた。しかし、ワルキューレなる秘密結社の存在を知った今は、未処理廃水の事故で隠蔽をした実験に感じられてしまう。
「暴いたるで、狼野郎!」
勘平は、社会悪の糾弾や、特ダネや、興味の類いではなく、ワルキューレと接触をして戦う為に、疑わしき場所を探っていた。
「あら?あの人は?」
河川敷に停められていたセダンの車内で、助手席に座っていた女性が、身を乗り出すようにして堤防上の勘平を見詰めた。
「知り合いか?」
運転席の男性が尋ね、助手席の砂影滋子が頷く。
「先日話した謎の異獣サマナーちゃ。尊さんとは違うて、えらい弱かったけど。」
「・・・彼が?」
乗り合わせている男性は、葛城昭兵衛。異獣サマナーアポロに変身をする本条尊の理解者であり、砂影等と共に「ワルキューレ打倒」のサポートをしている。
今は、「工場にワルキューレが出入りしている」という情報を聞きつけて、滋子と共に張り込んでいた。
「弱いとは言っても、彼もサマナーなんだろ?
我々と一緒に活動をしてくれれば心強いのだがな。」
「頼んでみましょうちゃ。」
「うむ、そうだな。」
2人は車から出て、勘平に声を掛けながら堤防に駆け上がる。一方の勘平は、滋子を見て顰め面をした。昭兵衛が「共に戦おう」と勧誘をするが、勘平の態度は冷めていた。
「どうせ、新入りのワシは後輩扱いなんやろ?冗談やない。
ワシはワシでワルキューレの悪事を暴く。」
既存チームに入ったところで、アポロがトップで、自分はサブに廻されるのは眼に見えている。「好みのタイプ」の傍で、二番手以下に甘んじる気は無い。
「アンタ等がおるってことは、
この工場はワルキューレと関係有りで間違いなさそうやな。」
バイクから降り、工場に向かって歩き出す勘平。滋子と昭兵衛が止めるが、聞く耳を持たずに突き進んでいく。
「もうっ!仕方無いわね!」
「おい、追う気か?滋子!」
「アイツ(粉木)、なんか、手の掛かる弟みたいな感じがして放っておけないの!」
勘平を追って工場に潜入をする滋子。昭兵衛も後から続く。後ろから来る2人を見た勘平は、「邪魔な奴等が来た」と小さく舌打ちをした。ちなみに、勘平には聞こえずに済んだが、年下の砂影から‘弟扱い’をされた勘平は面子が丸潰れである。
「あっ、・・・アイツ。」 「むぅぅ・・・ヤツは?」
敷地内に入ってきた高級車の後部座席から、例の中年男性が降りて、工場内に入って行った。勘平と滋子は、「この工場はワルキューレが関与している」と確信をする。中年男性を尾行して、入った部屋の扉に耳を押し当て打合せを盗み聞きして、「この工場では、生体を変化させる薬品が作られていること」を突き止めた。
「盗み聞きとは行儀が悪いな!」
中年男性が勢い良く扉を開け、夢中で聞き入っていた勘平&滋子&昭兵衛が部屋に雪崩れ込む。室内を見廻した粉木達は驚いた。声しか聞こえなかったので解らなかったのだが、中年男性に指示を受けていたのは、ワルキューレの怪物達だった。
「ちょうど良い実験材料が転がり込んでくれた。早速、投与をしてみよう。」
「くっ!尾行がバレていたのか!」
「取り押さえろ!」
襲いかかる怪物達!勘平は拳や蹴りで抵抗をするが、滋子と昭兵衛はアッサリと掴まってしまう!仲間ではないが、見捨てるわけにはいかない!勘平は、ポケットからサマナーホルダを取り出して翳した!
「変身っ!」
勘平の全身が乳白色の光に包まれ、中から蝙蝠の意匠を持つ西洋甲冑の戦士=異獣サマナーアデス登場!サーベルを装備して、怪物達に叩き込み、滋子と昭兵衛を救出する!
「逃げろっ!」
滋子達を庇うようにして構え、逃走経路を確保するアデス!だが、攻勢はそこまでだった!中年男性がワーウルフに変化をして突進!アデスでは対向できずに叩き伏せられてしまい、滋子達は再び怪物に掴まってしまった!
「そこまでだ、ワルキューレ!!」
工場内に勇ましい声と同時にバイクのエンジン音が鳴り響き、異獣サマナーアポロの駆るハスラーⅢが通路を爆走!床を這うアデスの真横を通過して、瞬く間に怪物2匹を撥ね飛ばして、滋子と昭兵衛を救出する!
「結局は、アイツの前座扱いかいな?腹立つ。」
お粗末だが、「負けて、助けられて、あとは見ているだけ」なんてプライドが許さない。潜入をした目的は、ワーウルフを倒す為。アデスはサーベルを拾い上げて、ワーウルフに対して構える!
「ハイビーストは俺がやる!
君は、アナザービーストを頼む!」
「はぁ?アナザーナンチャラってなんや?
よう解らんけど、狼男はワシの獲物や!」
アデスは、アポロの言った専門用語を聞いた事が無い。だが、「ボスは自分が担当するから、ザコと戦え」と言っているくらいの想像は出来る。聞く耳を持たず、ワーウルフに突進をするアデス。
「オマンの部下になった覚えはない!」
アデスのサーベルとワーウルフの爪がぶつかる!アデスの剣を3回ほど弾いたワーウルフは、次の剣閃を見切って、サーベルの刀身を掴んだ!
「チィッ!」
アデスは蹴りを放つが、もう片方の手で受け止められてしまう!
「クックック・・・‘魔’の力を得たとはいえ、
抵抗できるのは、ポーン(兵士)クラスまで。
人間如きでは、俺のようなナイトクラスには対応できまい!」
「ハイナンチャラだの、アナザーナンチャラだの、ポーンだの、ナイトだの
・・・ワケが解らん!日本の言葉で喋れ!」
「要は、オマエでは俺の相手に成らんと言うことだ!」
ワーウルフの強烈な蹴りが、アデスの腹に炸裂!弾き飛ばされ、窓を突き破って屋外に転がり出すアデス!辛うじて立ち上がるが、身構える前にワーウルフに接近をされ、蹴り上げられて宙を飛び地面に落ちる!
「武器はサーベルだけではないはずだ!カードを翳せ!」
屋内で怪物達と戦っていたアポロが、アデスに向けてアドバイスを飛ばす!
「カード!?」
先日の敗戦の時は、いつの間にか変身をして、ワケも解らずに戦った。その後、カードケースの中身を確認して、数枚のカードが有ることを知った。
アポロのアドバイスの従うのは不満だが、また敗北をするよりはマシ!アデスは、腰にぶら下げられたカードケースから、蝙蝠が描かれたカードを引き抜いて翳した!上空に歪みが発生して、蝙蝠の怪物=ヤイバットが出現!突進をしてきたワーウルフに体当たりをして弾き飛ばし、続けて超音波を発してワーウルフを牽制する!
「なるほど・・・戦いを有利に進める為に、カードを使うんか?」
ようやくワーウルフの猛攻から距離を空けることができたアデスは、槍の描かれたカードを引き抜いて翳す。すると、アデスの目の前の空間が歪んで、アデススピアが出現!柄を掴んで身構える!
武 器を持ち替えた程度で、劣勢が攻勢に変わるわけではない。だが、蝙蝠モンスターの援護と、長柄武器のおかげで、一方的な虐殺には成らないように凌ぐことが出来るようになった!
「待たせたな!」
「・・・ん?」
身構えているアデスの脇に、アポロが立つ!アデスがワーウルフとの攻防を続けている間に、ザコの怪物達を全滅させたようだ!
「待ってへんで!」
「残りはヤツだけだ!ケリを付けるぞ!」
不満だが、自分には、単独でワーウルフを倒す力量が無いことは、痛いほど理解した。逃げられたり、また負けるよりはマシ。アポロは、力量不足のアデスに対して、「あとは任せろ」ではなく、共闘の意思表示をして、面子を立ててくれた。器の広さで負けた気がする。
「チィィ!覚えてやがれっ!」
踵を返し、逃走を開始するワーウルフ!しかし、アポロは行動を読んでいた!逃走経路の時空が歪んで、朱色のバッタ型モンスター=ポッパーサイクロンが出現して、ワーウルフに体当たりをして弾き飛ばす!その隙に突進をしたアポロが、ワーウルフの全身に拳の連打を叩き込む!
「コイツは、単独奥義では倒せない!同時に必殺技を叩き込むんだ!」
「・・・必殺技!?なんやそれは!?」
ワーウルフから距離を空け、サマナーホルダから一枚のカードを抜き取って翳すアポロ!アデスは、見様見真似で同じ行動をする!
アポロの背後にホッパーサイクロンが配置され、アポロが駆け出すと同時に、ホッパーサイクロンも突進を開始する!同様に、アデスの真後ろにヤイバットは配置され、アデスが走り出したら、後から追いかけてきた!
「なんで着いてくんねん!?」
「それで良いんだっ!」
タイミングを図って飛び上がるアポロ!ホッパーサイクロンが足でアポロを掴んで更に上昇!空で加速して、ワーウルフに向けてアポロを投げ出した!加速力を得たアポロが、ワーウルフに突っ込んでいく!
一方、ヤイバットは、アデスの背を掴んで、ワーウルフの真上まで急上昇!アデスがスピアを真下(ワーウルフ)に向けると、翼を羽ばたかせて、アデスを加速させる!ワーウルフに向けて急下降を開始するアデス!
「はぁぁぁっっっっっっっ!!」 「うおぉぉっっっっっっっ!!」
アポロのサイクロンキックと、アデスのダークピィアスが、同時に着弾!弾き飛ばされて地面を転がるワーウルフ!体を震わせながら立ち上がる!
「うぐぅぅぅ・・・バカな?ナイトクラスの俺が・・・人間如きに・・・。」
ワーウルフは力尽きて仰向けに倒れ、爆発四散!打倒に拘ったアデスは、「攻略した喜び」と「1人では倒せなかった不満」の入り混じった複雑な思いで、爆炎を見詰めた。
-数分後-
アポロの変身を解除した本条尊が、アデスを見詰める。アデスも変身を解き、粉木勘平の姿に戻った。
「手を携え、共にワルキューレと戦ってもらえないか?」
「イヤや・・・ワシは単独で奴等の悪事を暴く。」
「ワルキューレの存在は、公には出来ん。世界中がパニックになってしまう。
暴くのではなく、叩き潰さねば成らないんだ。」
「そいでも・・・イヤや。」
「君は何の為に戦う?力を誇示して他者に崇拝される為か?復讐の為か?
それとも、平穏を守る為か?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
惨敗のリベンジをしたかった。「好みのタイプ」に良いところを見せたかった。金の為に特ダネが欲しかった。
だが・・・仕事に情報屋を選んだ根底は、権力に縛られずに、スクープという武器で、大きな悪と戦いたかったから。
「頼む!君に志があるならば、力を貸してくれ。」
改めて依頼をする本条尊。勘平より強く、器が大きく、容姿端麗。何から何まで腹立たしいが、そんな非の打ち所の無い男に頼み事をされるのも悪くない。
「しゃ~ないのう。力、貸したるわ。」
尊が差し出した手を力強く握る勘平。体の向きを変えた尊が、もう片方の手を重ねて、勘平の手を握り締める。昭兵衛と滋子は、笑顔で、その光景を見詰めた。
それは、天涯孤独だった粉木勘平に、頼もしい仲間が出来た瞬間だった。
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勘平は、頻繁に、葛城レーシング(昭兵衛が経営するバイクの修理工場)に顔を出すようになる。機械のことは詳しくないが、暇潰しで従業員達を手伝う。勘平なりに、チームに馴染む為の努力が半分。砂影滋子をからかう目的が半分。
「なんや、オマン。親父さんの店の従業員やなかったんか?」
「花の女子大生ちゃ。昭兵衛さんのとこには、学校帰りに遊びに来とるが。」
「もしかして、本条も大学生か?」
「俺は休学中だ。ワルキューレと戦う為にな。」
勉強嫌いの勘平は高卒。尊や、お目当ての滋子が自分より高学歴だったことに驚いてしまう。尤も、高学歴なのは尊と滋子だけで、昭兵衛や従業員達は、高卒や中卒ばかり。勘平は彼等との雑談が楽しかった。
「田木さん!音、まだ籠もっとるわちゃ!」
「そうか?俺には、良い音に聞こえるんだがな。」
「滋子が言うんだ。再点検をしてくれ。」
修理中のバイクのエンジン音を聞いた滋子が、若い従業員にアドバイスをした。従業員が駆動系を分解して、小さなゴミの付着を発見する。若い従業員は驚き、滋子は「ほらね」と嬉しそうに微笑む。砂影滋子には、機械の声を聞き分ける才能が有った。
「尊さん、滋子さん、葛城さん、こんにちは!」
油臭い作業場には似つかわしくない、制服姿の可憐な少女が顔を出す。
「なんやなんや?えらい可愛い客が来たで。」
「あら、美琴ちゃん、いらっしゃ~い!」
葛城レーシングに遊びに来るのは滋子だけではない。高校生の須郷美琴は、ワルキューレの事件に巻き込まれて助けられたのが縁で、尊を慕っていた。まだ幼い美琴は、尊への好意を隠すつもりが無い。
「なんや、滋子?ヤキモチか?寂しいなら、ワシが相手したろか?」
尊に馴れ馴れしく接する美琴と、笑顔で対応する尊。その光景を眺める滋子を、勘平が茶化す。
「そんなんじゃ無いわちゃ。下品なこと言わんといて!」
勘平は、持ち前の、典型的な関西人のノリで、日常的には上手くコミュニケーションを取る。
だが、ワルキューレ絡みの事件が発生すると、つい、軽率に行動をして、チームの足並みを乱すことが多かった。度々、尊と勘平の意見が衝突をして、その度に昭兵衛と滋子が仲裁をした。
凸凹コンビでスタートした尊と勘平だったが、勘平が尊の才能や決意を、尊が勘平の気転や隠れた努力を認めてからは、徐々に息の合ったパートナーになっていく。
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話したがらないことは聞かない主義の尊とは対照的に、口が達者な勘平は、疑問に思ったことは、ローブの男に片っ端から質問した。
・ローブの男は人間ではなく、異世界人。
・怪事件の元凶はワルキューレという組織。
・サマナーシステムは、人間界を狙うワルキューレの対抗策として開発した。
・過去に異世界で戦争があり、その残党がワルキューレを組織した。
・ローブの男は戦う力が無い為、戦いは人間に任せるしか手段が無い。
・尊達がアナザービーストと呼ぶ怪物は、ポーン(兵士)と言う階級。
・ハイビーストと呼ぶ幹部クラスの怪物は、ナイト(騎士)階級。
・ワルキューレは、ビーストを人間と融合させて、影から人間界の支配を目論む。
・ロック(城)と呼ばれる副首領と、ビショップ(僧正)と呼ばれる首領が存在する。
尊と勘平は、ポーン、及び、ナイトとしか戦闘経験が無い。まだ、その上の階級があると聞いた時は、動揺を隠しきれなかったが、「戦えるのは自分達しかいない」「どんなに辛くても戦い続けるしか無い」と腹を括る。
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ワルキューレ自体が不可思議な存在だが、それとは別の不思議な経験をした。
アポロとアデスは、雪山で、白い着物を着て、青メッシュ入りの長い白髪で、白い肌をした人外と遭遇する。
「コイツ・・・アナザービーストとは何かが違うな。」
その生物は、異獣サマナーが戦い続けてきた西洋悪魔タイプの怪物とは違い、純和風の姿をしている。
「私を、あんな野蛮な怪物と一緒にするな。」
「オマン・・・なにもんや?」
「私は氷柱女。妖怪だ。」
「妖怪!?」×2
アポロとアデスは、妖怪が創作物ではなく、実際に存在していることを初めて知った。
彼女は、自分の縄張りにアナザービーストが紛れ込んできたので追い出す為に出現をしただけ。人間に害する意思は無い。ただし、西洋の雰囲気を持つ異獣サマナーも目障りなので、遠ざかることを望んでいた。
尊と勘平は、氷柱女との遭遇は貴重な経験として、彼女を信用して、討伐することなく雪山から去る。
希ではあるが、人間に害する妖怪と遭遇することもあった。妖怪退治を専門とする陰陽師が、現代まで存在していることも知る。妖怪と戦う場合は、異獣サマナーの人智を越える戦闘能力で妖怪の戦力を削いで、陰陽師が浄化をして倒した。
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戦いは激化する。ポーン(兵隊クラスの怪物)では異獣サマナーに対抗できないと判断したワルキューレは、ナイト(幹部クラス)を消耗品のように、作戦に投入する。その結果、異獣サマナーが苦戦を強いられる戦いが急増した。更に、漆黒の狼人間・ロック(副首領)との戦いで、アポロとアデスは惨敗。尊は生死の境を彷徨うほどの重傷を負った。
「これを使え。オマエ達の戦闘能力を大幅に向上させるだろう。」
ローブの男が現れ、2枚のパワーアップアイテムを提供する。それは、神の力が宿った「ヴァルカン」と「マキュリー」のカード。アポロ・ヴァルカンとアデス・マキュリーへのパワーアップで、ナイトクラスには楽勝を出来るようになった。だが同時に、体には大きな負担が掛かり、戦闘終了後に、しばらく動けなくなることもあった。
副首領・フェンリルとの死闘では、アポロ・ヴァルカンとアデス・マキュリーのコンビプレーで勝利を得る代償で、その後数日間、2人は寝込んでしまうほどの消耗を強いられた。
およそ2年に渡る戦いの間に、ワルキューレから間一髪で救われた者、あるいは接した者による口コミで、人々の間で『異獣サマナーと呼ばれる戦士』の名は、都市伝説的に広まっていく。
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首領の子飼い幹部を締め上げ、ワルキューレ本部の所在が判明する。「戦力を整えて、後日、攻め込もう」等と悠長な意見は無い。明日には、撤退をされてしまうかもしれない。尊と勘平は、即座にバイクで現地に向かった。昭兵衛が少し遅れて車で向かう。
「おい、本条!」
バイクを並走させながら、勘平が尊に話しかける。
「どうした?まさか、この期に及んで尻込みをするオマエではあるまい?」
「フン!気後れなんてしとらんわ!
オマン、戦いが終わったらどうする気や?」
勘平は、ワルキューレが壊滅して、平和になる世界を欲している。だが同時に、戦いが終わった後、居心地の良い今のチームがどうなって、戦う必要の無くなった自分が何をすれば良いのか、見通しが付かなくて不安だった。
「この戦いでワルキューレが壊滅をしても、全てが平和になるわけではあるまい。」
「・・・ん?」
「氷柱女のような無害の妖怪だけではない。
この世界には、悪しき妖怪が数多く存在する。
そして、妖怪と戦う陰陽師が存在する。」
「・・・オマン、まさか、ワルキューレのあとは妖怪と?」
「そのつもりだ!人を救える力を、眠らせるつもりは無い。」
尊が既に「ワルキューレ討伐後」を考えていたことに、勘平は驚いてしまう。同時に、尊が戦いに身を置き続ける決意」に対して、新たな疑問が浮かんだ。
「美琴のことはどうするんや?所帯を持つんか?」
「オマエこそ、どうなんだ?滋子に気持ちを伝えてあるのか?」
「急になんや?なしてワシの話になる?ワシは滋子のことなど、なんとも・・・」
「そう思いたいのはオマエだけ。
オヤッサン達は、オマエの気持ちなど、とっくにお見通しだ。
若い連中(従業員)なんて、どっちが先に気持ちを伝えるか、
賭けの対象にしているぞ。」
「ワシは、滋子から、未だに弟分扱いやぞ!ワシの方が歳上なのに・・・。」
「彼女もオマエと同じ・・・素直じゃないからな。
だが、滋子は待っているぞ。オマエが男らしく、想いを伝えてくれることをな。」
「ワシは高卒・・・滋子は大学生・・・釣り合わんよ。」
「学歴なんて関係無いさ。オマエと滋子なら、必ず上手く行く。俺が保証しよう。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「まだ決断できないのか?なら、こうしよう。
俺は、この戦いが終わったら、美琴に結婚を申し込むつもりだ。
オマエが俺の隣で見届けてくれ。
代わりに、俺は、オマエの告白の立会をする。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
勘平が明確な答えを発しないまま、TS250ハスラーのⅢ型を駆る尊と、ドリームCB250を駆る勘平は、眼前に聳え立つ不気味な神殿に接近をする。
-最後の戦い-
突入と同時に、配下の怪物達が押し寄せてきた。激戦に次ぐ激戦で尊と勘平は疲労困憊だったが、気力を振り絞って通路を進む。そして遂に、神殿の最奥に到達をした。
≪ようこそ異獣サマナーの諸君≫
「その声、首領か!!出てこいっ!!」
尊と勘平が油断なく周囲を見回しながら呼びかけたら、部屋の奥の祭壇のような場所が怪しい光を発し、大釜を持ち、ローブを纏った髑髏が現れた。まるで死神だ。ただ祭壇で突っ立ってるだけだが、凄まじいプレッシャーに圧されて尊と勘平は立ち尽くした。
≪私がワルキューレ首領のバルキリーだ。
まずは、良くぞここまで来たと賞賛させて頂こう。
そして、さようならだ。
ここを貴様達の墓場とし、ワルキューレを再編して世界征服を成し遂げる。≫
「そうはさせるか、この怪物めっ!!人間の力を舐めるなっ!!」
「オマンを倒し、平和な世界を取り戻すんや!!」
≪ひ弱なカトンボ共に、それが出来るかな≫
「やってやるさ!!変身っ!!!!」 「変身っ!!」
異獣サマナーアポロ&アデスに変身して挑みかかる。だが、バルキリーが掌を翳したら、強力な念動力で弾き返されてしまった。
≪他愛ない・・・・ふんっ!!≫
「うわああっ!!!」 「ぐぅぅっっ!!!」
バルキリーが念じた途端に、アポロとアデスのボディーから火花が散った。それでも立ち上がって果敢に挑むが、結果は同じで突破口が見つからない。アポロ&アデスは、切り札の‘神のカード’、ヴァルカンとマキュリーを発動させてパワーアップ。召喚モンスターの援護を受けながら戦うが、それでもバルキリーには届かず、アデスとアポロは弾き飛ばされて地面を転がる。
≪死ねい!!≫
追い撃ちの衝撃波を喰らったアデス・マキュリーが壁に叩き付けられ、通常体にパワーダウン。マーキュリーのカードが地面に落ちる。立ち上がり、マキュリーを拾い上げるアポロ・ヴァルカン。既に進化態の状態にも係わらず、マキュリーのカードを翳す。
「やめい、本条!神のカードは、一枚使っただけでも、相当の負担になるんや!
2枚も同時に使ったら、命の保証はできへんぞ!」
「だが、このままでは、バルキリーは倒せず、俺達は敗北する!」
アポロ・ヴァルカンは聞く耳を持たず、マキュリーのカードを発動させてしまう。アポロの周りに、凄まじい雷が出現して、アポロの体に吸い込まれていく。
「くっ・・・ぐわぁぁっっっっっ!!!」
アポロの体内に莫大なエネルギーが蓄積されて、感覚的に体はパンクしそうだ。プロテクターに黄のアクセントが現れ、プロテクターと金の装飾が大きく派手になったアポロ・ユピテルに進化した!
「本条っっ!!」
「ぐぅぅっっ・・・粉木、あとは頼んだぞ!!」
アポロ・ユピテルは、悲鳴を上げながら根性で立ち上がり、必殺技のカードを翳して、バルキリーに突っ込んでいく!召喚モンスターのユピテルポッパーが出現してバイクに変形!アポロ・ユピテルが飛び乗ると同時に、全身から雷を発生させた!奥義・ホッパーゴッドパニッシュ発動!
‘ただならぬ力’と察知したバルキリーから余裕が消え、掌から発する念動力や、眼から放つ光線で迎撃をするが、アポロユピテルを取り巻く莫大なエネルギーは、全てを無効化する!
「よもや、このような事が!
おのれっ!おのれっ!おのれぇぇぇっっっっっっっっ!!!!」
「うおおぉぉぉぉっっっっっっっっっっ!!!!」
大爆発が発生!
濛々と爆煙が立ち込める中で、首領が木っ端微塵で果てており、直ぐ近くに傷だらけの尊が倒れていた。抱き起こしてみたが、どう見ても助かる状態じゃない。だが、勘平は「本条が死ぬ」なんて現実を認めたくないので、揺さぶりながら懸命に呼びかける。やがて閉じられていた尊の瞼が薄らと開かれる。
「粉木・・・首領は?」
「安心せい、オマンが倒した。」
「そうか・・・・」
「胸を張れ。オマンは世界を救った英雄や。」
「・・・あぁ」
「しっかりしいや!英雄は死んだらあかんのや!美琴が待ってるで!」
勘平は瀕死の尊を抱きかかえて神殿を脱出すると、外で待機をしていた昭兵衛が寄って来た。
「尊、しっかりしろ!何があったんだ!?」
「良かった。・・・おやっさんも無事だったんだな。」
「本条は、サマナーの力を暴走させたんや。首領を倒す為に。」
「首領は滅んだ・・・お、俺達は・・・平和を勝ち取ったんだ。
こ、これで・・・今日からは・・・ゆっくりの眠れる。」
昭兵衛の顔を見た時点で、尊は安堵して、緊張の糸は切れていた。目を閉じて垂れる。そして2度と眼を開くことは無かった。
「尊ぅぅっっ!!!」
「こ、これはっ!?」
尊の体が灰になって崩れ、風に流されて舞い散っていく。これが、人間の限界を遥かに超える力を使ってしまった代償。尊の何もかもが朽ちていく。勘平と昭兵衛は、骨1つ残らない英雄の終わり方を、ただ眺めていることしか出来なかった。黒焦げになった空っぽのサマナーホルダと、勘平と昭兵衛が握り締めた灰だけを残して、尊は、この世から消え去った。
見上げれば澄み切った青空が広がり、木の枝で野鳥が囀っている。その光景は、平穏そのものだ。しかし、その平穏を掴み取った本条尊は、もう存在をしない。
嗚咽を吐いて号泣する昭兵衛。尊に協力をして、正義の味方の一員のつもりになっていた。その結果が、これだった。何度も「もう止めよう」と止める機会はあっただろうに、昭兵衛自身が正義の大義に浮かれていた。
何が正義だ?正義を貫いた果てに、平和をもたらした張本人が居ないなんて、あまりにも残酷すぎる。昭兵衛は、正義の仲間を気取って、尊の死を早めてしまったのではないかと自分を責めた。
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「本条・・・オマンのやりたかったことは、ワシが引き継ぐ。」
ワルキューレは壊滅をしたが、世界が平和になったわけではない。人間社会を害する妖怪がいて、奴等と戦う陰陽師が存在している。陰陽師は、勘平の戦闘経験と、異獣サマナーの技術を欲していた。勘平は、陰陽師に、サマナーシステムを提供するつもりだった。ただし、サマナーシステムの‘人命を無視した性能’に疑念を持っており、人体負担をかけないシステムの開発を、勘平の参加とシステム提供の前提条件にした。
「行くのね、勘平。」
「ああ、世話んなったな。」
旅立ちの日、滋子が勘平を見送る。結局、勘平が滋子に気持ちを伝えることは無かった。勘平は、自分だけが幸せになることが許せなかった。察した滋子は、勘平に何も求めない。
「美琴のこと・・・任せんで。」
「うん、美琴ちゃんのフォローちゃ任せて。
私は、大学を卒業したら、私も妖怪の退治屋に就職するつもりやさかい、
その時ちゃ宜しゅうね。」
「来んでいい。」
「尊さんの意思を継ぎたいのは、勘平だけでない。私もおんなじなの。」
滋子の本心は、勘平の傍にいること。それは、勘平への好意と、粉木を放っておけない母性本能から発せられた想い。
「なら、勝手にせい。
そやけど、今度はワシの方が先輩。オマンはワシの部下やからな。」
「そっちゃどうかしら?勘平ちゃ高卒で、私ちゃ大卒ちゃ。
私の方が昇進が早いんでないのかしら?」
「・・・フン!」
粉木は、数年後には、再び滋子と共に仕事を出来ることを楽しみにして、滋子に見送られながら、愛車のドリームCB250を走らせる。
「・・・愚か者め。」
昭兵衛は、2階のカーテンの隙間から、勘平の旅立ちを眺めていた。喪失の底に居た彼には、好いた女と共に掴む幸せを捨て、戦いに身を置き続ける勘平の選択が理解できなかった。だから、絶縁状を叩き付けた若者の門出を、見送るつもりは無い。
・
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勘平が、滋子からの手紙で、美琴が身籠もっていることを知ったのは、尊の死から、半月が経過をした春だった。
長期休みになって県外の短大から帰省をした美琴は、尊の死を知らずに、妊娠を報告する為に、葛城レーシングを尋ねてきた。滋子は「尊は海外に旅立った」と誤魔化そうとしたが、昭兵衛は真実を話す決断をする。
話すことが残酷だとは承知の上で、知らずに待ち続ける残酷よりはマシだと判断して、泣き崩れる美琴を抱きしめた。そして、行き場を無くした美琴と、尊の落とし胤を引き取って、自分の子として育てる覚悟をしていた。それが、亡き友人の為に昭兵衛が選んだ最後の仕事だった。
***回想終わり********************
「オヤッサンは、10年くらい前に亡くなったらしい。
都市伝説の英雄を看取ったんは、もう、ワシだけや。
過去の話は、あまりしたくはないのだがな。」
最初は茶々を入れていた燕真と紅葉だったが、今は、50年前の壮絶な出来事を黙って聞いている。燕真には、粉木が、「身勝手な行動」や「与えられた力を自分の力と勘違いする浅はかさ」を嫌う理由が、少しだけ理解した。
「ワシは、オマン等が憎くて怒ったワケじゃない。」
「それは言われなくても、ちゃんと解ってる。
本条って人・・・スゲー奴なんだな。」
「いつも偉そうなジイチャンよりも偉い人なんだね。」
「偉そうにしとるつもりはないが・・・
本条は、ワシが唯一、何をやっても勝てんかった尊敬する男や。」
燕真は、「長く生きて後輩を育てることに関してはジイさんが勝っている」と訂正をしてやりたかったが、後輩を育てる行為そのものが本条尊の呪縛のようにも思えて、あえて何も言わなかった。
「仏壇・・・拝ませてもらって良いか?」
「ァタシもお参りしたい。」
燕真は、襖を開けて粉木の寝室に入り、紅葉と並んで小さな仏壇の前に座る。しばらく仏壇を眺めたあと、作法なんて解らないので見様見真似で、ロウソクに火をつけ線香を立て、リンを鳴らしてから合掌をした。
燕真は、本条尊のことを知らない。合掌をして何をイメージすれば良いのか解らない。だから、50年前に平穏を守ってくれた礼と、「粉木のジイさんより先には死なない」という決意表明をする。
(本条・・・ソイツは、ワシの弟子の中で、最も出来が悪いヤツや。
そやけどな・・・ワシがオマンに誇りたい自慢の友人や。
ワシは、もう何年もせんうちに、オマンの所に行くだろうが・・・
そん時は、タップリと自慢話をさせてもらうつもりやから覚悟しとけよ。)
線香の香りが、寝室から居間に流れ込んでくる。不肖の弟子が大成をする保証は全く無い。だが、燕真の優しさと懸命さは、一定の希望を感じている。
粉木は、開いた襖の向こう側の、仏壇と、燕真の背を眺めながら、冷めた茶を啜るのだった。
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