第19話・黒いザムシード(vs茨城童子・虎熊・金熊)

-優麗高・屋上-


 到着して鬼の幹部達を発見するなり、ガルダは問答無用で鳥銃・迦楼羅焔を向けて光弾を連射!接近を予期していた茨城童子は、掌から闇の障壁を発して光弾を防御!金熊童子は素早く動き回って回避をする!


「フン!ようやく来たか、狗塚の小倅!

 ヤツ(狗塚)は私が相手をする!金熊童子は、閻魔の退治屋を止めろ!」

「本気出しても良いのか!?」

「構わん!確実に倒せ!」

「あいよっ!」


 屋上に浮かび上がる多数の生命力が、八卦先天図を通過して3枚の『酒』メダルに吸収されていく!鬼達の目的は、「自分達が死なないこと」ではなく「儀式を守ること」だ!躊躇うこと無く、ザムシードとガルダの妨害に動き出す!

 茨城童子は、ガルダに向けて、闇を灯した掌を翳す!妖気乱舞発動!ガルダの周り空間が茨城童子に掌握され、周囲に漂っていた妖気が衝撃波となって、ガルダに襲いかかる!


「気を付けろよ、狗!俺はその技で・・・」

「技と呼ぶほどのものではない!」


 ガルダは技の習性を把握して、護符を取り出し呪文を唱え、周囲の空間を浄化!妖気が祓われて、ガルダは、ただの送風を浴びる!


「俺がスゲー苦労したってのに、アッサリと攻略しやがった。」

「未熟な君と一緒にするな!

 陰陽を識る者からすれば、大した攻撃ではないってことだ!」

「せっかく褒めてやってんのに、嫌味で返すな!」


 ザムシードは、ちょっとイラッとしながら、向かってくる金熊童子に対して身構える。先ほどのような「バイクの伏兵」はもう通用しないだろう。初戦と同様に、右手に裁笏ヤマを握り、左手に装備した弓銃カサガケを連射する!


「さっきまでのオイラと同じと思うなよ!」


 金熊童子は、光弾を回避しつつ、まだ距離があるにも関わらず、気合いを発して拳の連打を放った!拳が纏った風が空気を圧縮した弾と成ってザムシードに炸裂!想定外の攻撃を受けたザムシードは、数歩後退をする!ただの空気の塊なので、大ダメージには成らないが、牽制には充分な技!体勢を崩したザムシードの懐に、金熊童子が素早く飛び込む!


「ちょっと本気を出せば、オマエなんて相手じゃねーんだよ!」


 先ほどの戦いでは、茨城童子から「騒ぎを大きくしない為に目立つな」と言われていたから本気で戦わなかっただけ。だが、魂胆がバレて、もう息を潜める意味が無いので、此処からは本気で退治屋を潰しに掛かる!


「ぐはぁっっ!」


 金熊の拳の連打が全身に炸裂をして、堪えきれずに弾き飛ばされるザムシード!だが、それだけでは終わらない!金熊は、転倒したザムシードに追い撃ちを掛ける為に、一足飛びで近付く!ザムシードは裁笏を振るって金熊を牽制するが、片手で受け止められ、もう片方の拳の連打を叩き込まれた!


「佐波木っ!!」


 ガルダが、金熊に鳥銃を向けて光弾を放つ!金熊は、小さく舌打ちをして、素早くザムシードから距離を空けて後退!「ザムシードの瞬殺」を防いだガルダは、直ぐさま、銃口を正面の茨城童子に向けて連射を開始!無駄の無い動きで、敵に隙を見せない!


「シッカリしろ、佐波木!まだ戦えるか!?」


 ガルダがザムシードの援護をしたのは、ザムシードの脱落を防ぐと同時に、自身の不利を防ぐ為。ザムシードが戦線を離脱して、ガルダvs茨城&金熊の構図になってしまったら、ガルダでも敗北は必至になる。


「クソッ!茨城童子・・・小賢しいヤツめ!」


 慎重なガルダならば、優麗高に飛び込む前に、戦いを有利に進められる結界を準備するか、茨城童子の儀式を妨害する術式を仕掛けていただろう。だが、ガルダが到着をした時点で、一手を打つ余裕は無くなっていた。

 文架高校で発生した事件は揺動。ガルダ達を誘き寄せるだけでなく、消耗させ、且つ、優麗高で事前準備をさせない為の計画だった。


「小賢しいのは、貴様も同じだろう!?」


 茨城童子は、掌から発した闇の障壁で光弾を防御しながらガルダに接近をして、鋭い爪を伸ばして振り下ろした!ガルダは数歩後退して回避!ただの光弾では止められないと判断して、鳥銃に『雷』メダルを装填して、雷属性の光弾を放つ!

 2発ほど掌で受け止めて、軽い痛みを感じた茨城童子は、掌だけでは受け止められないと判断して、ガルダから距離を空け、回避をする。しかし、その表情には、焦りが全く見られない。


「銃の攻撃力を上げた弊害・・・私が気付かぬとでも思ったか?」

「なにっ?」


 ガルダに向けて掌を翳す茨城童子!妖気乱舞発動!ガルダの周り空間が茨城童子に掌握され、周りの妖気が衝撃波となって、ガルダに襲いかかる!

 通常時の鳥銃から発射される光弾は、邪気を浄化する。だから、茨城童子は妖気の障壁で相殺をした。ガルダが発砲に雷属性を持たせたことで、光弾の攻撃力が上がる代わりに浄化力は犠牲になる。茨城童子は、たった2発の光弾を掌で受けただけで、それを見抜いたのだ。


「しまったっ!」


 浄化能力の落ちた攻撃では、茨城童子の妖気乱舞を相殺することが出来ず、ガルダは妖気の衝撃波で弾き飛ばされてしまう!


「賢しさは、私の方が優れているようだな。

 尤も・・・人間如きより優れていることなど、何の自慢にも成らぬが。」


 茨城童子は全身を闇霧に変えて移動して、立ち上がろうとするガルダの眼前に出現!ガルダを蹴り飛ばし、仰向けに倒れたガルダの胸を踏み付ける!


「良い機会だ。貴様の持つお館様を封印せしメダルもいただく。

 所在は、退治屋の小僧と同じ、左腕の小物入れ(Yウォッチ)か?」

「・・・くっ!」


 仰向けにされたまま、ガルダは右手に持った鳥銃の茨城童子に向けようとした!だが、銃口の向きが整う前に、しゃがんだ茨城童子に手首を押さえ付けられてしまう!


「騒ぐな、小倅。温和しく提供する気が無いのならば、左腕ごといただくだけだ。」


 茨城童子は、冷たい笑みを浮かべ、空いている方の手から鋭い爪を伸ばし、ガルダの左腕目掛けて振り下ろした!


「狗塚っ!!」


 金熊童子と交戦中のザムシードが、弓銃を発砲して茨城童子を牽制!爪がガルダに届く寸前で、茨城童子は後退をして回避!抑圧から解放されたガルダは立ち上がって体勢を立て直し、鳥銃を連射して茨城童子を更に遠ざける!


「これでさっきの借りはチャラだぞ!

 ・・・いや、今の方が危機一髪感は強かったから、貸しができたかな!?」

「・・・フン!」


 ザムシードの注意力がガルダ側に向いた隙を突いて、金熊童子が突進をしてくるが、ガルダが発砲で牽制する!


「貸し1で構わんが、たった今返した!これでチャラだ!」


 互いにフォローをして立て直しを図るザムシードとガルダ。だが、戦いの軸となるガルダが既に消耗をしており、且つ、サシの勝負では相手が格上。1対1が2組の状況では、徐々に持ち堪えられなくなるのは、解りきっていた。しかも、儀式を妨害できる隙が全く無い。


 負けは許されない。後日に仕切り直しなど有り得ない。逃げたら取り返しが付かないことになる。


「俺達が逃げたら、紅葉の友達はどうなる?」


 鬼達が圧倒的に有利な条件下で、ザムシードには迷っている余裕など無かった。


  『鬼の幹部を退けるのは、ヤツ等を越える力を使うしかない。

   今は、迷っている時ではないはずよ。』


 紅葉の母親の言葉が思い起こされる。油断無く構えながら、Yウォッチに手を添えるザムシード。マシンOBOROの名を叫んで、金熊童子に嗾けて牽制をする。


  『強力すぎるメダルだから、通常の妖幻ファイターでは使い熟せないけど、

   閻魔大王の力を持つ妖幻ファイターなら制御できるはずよ。』


 「彼女は紅葉の母だから」とか「伝説の妖幻ファイターが言うことは正しいに決まっている」と、今まで満足に接したこともない相手を信頼しているワケではない。だけど、詰むのが見えている状況下で、事態の変化を他人任せにして、何もせずに後悔をしたくない。


  『稼動限界は3~5分程度。気を付けて使いなさい。』


 使ったらどうなるのか解らないが、かなりの負担が掛かることくらいは想像が出来る。普段ならば、使用前に、粉木のアドバイスを求めるが、今は、そんな余裕は無い。


「やるしかない!

 3~5分・・・一気に決着を付ける!」


 Yウォッチから託された『酒』メダルを抜き取った途端に、ザムシードの周りが妖気で包まれ、ベルトの和船型バックルが反応をして自動で開かれる。


「メダルをここに装填しろってことか?」


 和船バックルに装填するのは、変身に使用する『閻』メダルのみ。他のメダルは、Yウォッチのスロットにセットして武器を召喚する。何故、和船バックルが『酒』メダルを要求しているのかは解らないが、ザムシードは一呼吸発して、『酒』メダルをバックルに『酒』メダルをセットした!


《SYUTEN!!》


 電子音声が鳴り響き、和船型バックルから闇が放出されて、ザムシードの全身を包み込む!

 茨城童子、金熊童子、そしてガルダが、ザムシードを取り巻く空気の変化を感じとって、凝視をする。



-校庭・校舎脇-


 屋上を見上げていた源川有紀が、『酒』メダルの発動を感じ取る。そのメダルは、過去に自分を守ってくれた。だから、今度は、娘を守る青年の力になってくれると期待をする。



-正門前-


 紅葉と、合流をした粉木が、屋上で発生した異常を感知する。粉木は、この妖気を知っている。そして、有紀の後ろ姿を見た時点で、この展開は予想していた。


「・・・燕真。」


 出たとこ勝負の作戦。ザムシードが、『酒』のメダルを使い熟せるというデータは無い。だが、圧倒的劣勢、且つ、優麗高の生徒と先生全員の命が掛かっている現状では、ザムシードシステムの特殊性に賭けるしかない。


「なんだろ~?・・・なんか懐かしいフンイキ。」


 紅葉は、屋上で発動された力の「凄さ」は感じたが、少しも「怖い」と感じない。

それまで、感知力が麻痺状態だった紅葉が、明確な感知を出来るようになった原因は、『酒』メダルの解放によって、茨城童子の支配力が抑え込まれた為なのだが、まだ誰も、その事実には気付いていない。



-屋上-


 闇の中からザムシードが出現する。


「佐波木・・・か?」


 ガルダは、ザムシードから視線を外せなくなる。形は、今までのザムシードと殆ど変わりが無い。ただし、頭部に2本の角が生え、朱色のはずのプロテクターが、漆黒に変化をしている。


「ん?・・・当たり前だろ。」


 黒いザムシードの内側から、燕真がいつも通りの反応をしたので、ガルダは一定の安堵をする。

 だが解せない。妖幻ファイターは、基本的に、上級クラス以上の妖怪(酒呑童子や鬼の四天王)を封印したメダルを扱うことが出来ない。使おうとしても、システムにリミッターが掛かってしまうはず。それは、陰陽の名家たるガルダでも例外には成らない。だから、上級種を封印したメダルは、錬金塗膜はされず、原則として保管されるのだ。


「ぬぅぅ・・・バカな?お館様の力・・・だと?

 お館様が、退治屋如きに屈服をした・・・?」


 解せないのは茨城童子も同じ。鬼達からすれば、錬金塗膜とは、妖怪が人間に屈服して力を利用されることを意味している。例え、5枚に分けて封印された『酒』メダルのうちの、たった1枚だとしても、主・酒呑童子が、退治屋に使われることなど有り得ないのだ。


「おのれ、退治屋!誇り高きお館様に何をしたっ!?」


 冷静な仕草を崩さなかった茨城童子が激高!両手の指先から鋭い爪を伸ばして、『酒』メダルが装填された和船型バックルに狙いを定め、ザムシードに向けて突進をしてきた!

 妖気センサーの索敵力が強くなったから?それとも別の理由がある?理屈は解らないが、ザムシードには、茨城童子の突進が遅く見える。


「タイムリミット付きなんでね・・・

 そっちから仕掛けてきてくれると、時間浪費を防げて助かる。」


 ザムシードは、身を低くして裁笏を振り上げて、茨城童子が振り下ろした爪を受け流し、腕を掴んで背負い投げた!投げられた茨城童子は、体を一回転させて体勢を立て直して着地!直ぐさま、ザムシードに向けて掌を翳す!妖気乱舞発動!ザムシードの周り空間が茨城童子に掌握され、妖気が衝撃波となって襲いかかる!


「はぁぁっっ!!」


 しかし、ザムシードが裁笏を横薙ぎに振るうと、茨城童子の空間掌握が掻き消され、妖気の衝撃波は消滅!戸惑いで茨城童子に僅かな隙が出来たことをザムシードは見逃さない!一足飛びで接近をして、裁笏を振るう!茨城童子は、一太刀目を爪で受け止めた!力は互角だった為、衝撃でザムシードと茨城童子は、共に僅かに仰け反る!だが、破壊力はザムシードの妖刀が上!茨城童子の爪に亀裂が入る!

 接近戦は不利と判断した茨城童子は、素早く後退をして、ザムシードの返す刀を回避!しかし、避け切れなかったらしく、茨城童子の胸に浅い裂傷が入った!


「・・・ちぃっ!」


 驚いているのは、技を発した茨城童子だけではない。ガルダは、マスクの下で呆気に取られた表情をして、戦いを眺めている。そして、ザムシード自身も急激なパワーアップを驚いていた。


「すげえ・・・『酒』メダル1枚で、こんなに強くなれるのかよ?」

「退治屋如きがっ!!」

「佐波木!一気呵成に叩くぞ!」

「おうっ!」


 鬼壊滅のチャンスと判断したガルダが、鳥銃を茨城童子に向けて攻撃開始!呼応したザムシードは、妖刀ホエマルを装備して、茨城童子に突進をする!


「金熊童子、時間を稼げ!」

「あいよっ!」


 前線を金熊童子に任せ、茨城童子はガルダの放つ光弾を回避しながら大きく後退。更に、呪文を唱えて、校内のあちこちに仕掛けておいた罠を発動させ、妖怪達を出現させる。ザムシードとガルダの妖気センサーが、校舎内で5体の妖怪の発生を感知する。


「くっくっく・・・私達に構っていて良いのか?

 このままでは、生徒達が妖怪に食われるぞ。」

「チィッ!」 「卑怯なっ!」


 攻勢の戦場を放棄して、下階に降りるべく塔屋に向かおうとするザムシード!しかし、ガルダが先に塔屋に飛び込んだ!


「ザコ共は俺が担当する!君は、茨城童子を討て!」


 ザムシードは驚いた。いつものガルダならば、鬼の討伐は自分の宿命と考えて、他者には譲らない。しかし今は、ザムシードを鬼討伐に集中させる為に、自ら、ザコ掃討を買って出た。ガルダは咄嗟、且つ、冷静に戦況を読み、今の自分の戦闘力では茨城童子を倒せないゆえに託してくれたのだと、ザムシードは判断をする。


「お・・・おう。校内は任せたぞ。」

「フン!誰に物を言っているつもりだ!?」


 階段を駆け下りるガルダを見送り、踵を返して茨城童子に突進をするザムシード!散々、お高く止まってイキっていたのに、劣勢になった途端に、部下を盾にしたり、人質を取って身を守るなんて、ザムシードの大嫌いなタイプ。典型的な「小悪党あるある」だ。


「させねーよ!」

「邪魔だ!」


 先ずは、茨城童子を守る為に立ちはだかった金熊童子を叩く!


「ハァッ!風烈っっ!!」


 離れた位置から拳の連打を放つ金熊童子!風を纏った無数の衝撃波が飛んでくる!ザムシードは、突進をしながら妖刀を振るって受け止めた!多数を防ぎ、間隙を突いた3発がザムシードに着弾!痛みは感じるが、黒いザムシードの防御力に阻まれ、大ダメージには成らない!


「マジで凄いっ!」


 今までの苦戦が何だったのかと思えるほど、楽に戦える!ザムシードは金熊童子の攻撃を物ともせずに突っ込み、妖刀を振るった!


「くっ!・・・お館様の力でオイラ達を攻撃するなんて有りかよっ!?」


 剣閃を見切って回避をする金熊童子!しかし、ザムシードが、「剣先が伸びて欲しい」と願った途端に、妖刀から妖気の刃が伸びて、金熊童子に着弾!


「マジでスゲー!この力が有れば、鬼の幹部なんて楽勝だっ!!」


 悲鳴を上げ、弾き飛ばされて床を転がる金熊に、妖刀を振り上げたザムシードが追い撃ちを掛ける!


「誇り高き鬼族を舐めるな、小僧っ!!」


 後方で力を蓄えていた茨城童子が動き出す!指で空中に八卦先天図を描き、呪文を唱えながら、両手で押し出すような仕草をした!すると、闇塊が出現して、ザムシードに向かって飛んで来る!

 センサーは、ガルダが「鬼の印」と呼ぶ呪刻を表示。何故、破壊力のある攻撃ではなく、鬼印を飛ばしてきたのか、ザムシードには魂胆が解らない。だが、移動速度が遅い攻撃だったので、楽々と回避をする。


「フン!我が呪印を、ただの飛び道具と思うなっ!」


 茨城童子が念じると、鬼印は軌道を変えて、再びザムシードに向かってくる!


「ならば、迎撃あるのみ!」


 ザムシードは、鬼印から距離を取りつつ、自分と鬼印と茨城童子が一直線に並ぶ位置で身構える!Yウォッチから白メダルを抜き取り、ブーツのくるぶし部分にセット!ザムシードと茨城童子の間に、炎の絨毯が広がる!


「・・・閻魔様の!!」


 迫り来る鬼印との距離を確認しつつ、ゆっくりと腰を落として身構える!


「裁きの時間だ!!」


 顔を上げ、茨城童子を睨み付けるザムシード!大股で炎の絨毯を一歩一歩を力強く踏みしめながら突進!火柱を推進力にして飛び上がり、空中で一回転をして跳び蹴りの姿勢になる!


「おぉぉぉぉっっっっっっ!!エクソシズムキィィーーーッック!!!」


 エクソシズムキックと鬼印がぶつかり、勢いで負けた鬼印が押し戻されていく!


「くっ!金熊童子、手を貸せっ!!」


 単独では押し切られると判断した茨城童子が助力を求め、応じた金熊童子が茨城童子と並んで鬼印に向けて念を発する!押し戻されるペースは遅くなったが、それでもザムシードの攻勢は変わらない!


「居るのだろう、虎熊童子!」


 鬼印に念を送り続けながら、振り返って空を見上げる茨城童子!空中に闇が集まって茨城童子の隣に降り、虎熊童子に変化をして、鬼印に念を送る!


「アニキだけでも余裕で勝てると思っていたから、高みの見物するつもりだったが、

 まさか、退治屋が此処までやるとはな!」


 茨城・虎熊・金熊が合力することで、押し戻されていた鬼印が止まった!ザムシードのエクソシズムキックで鬼印を押しきれなくなる!


「良いタイミングだな!・・・俺が鬼は殲滅する!」

「来てくれたか、狗っ!」


 下階のザコ妖怪を倒したガルダが、塔屋から姿を現して、瞬時に状況を把握。鳥銃・迦楼羅焔に白メダルをセットして、銃口を茨城童子達に向ける!


「拙い!このままでは狙い撃ちにされる!

 虎熊童子、金熊童子、数秒で良い!貴様等2人で持ち堪えろ!」

「アニキはどうすんだよ?まさか、拙者達を盾にして逃げる気か!?」

「私は、最優先の行動をする!」

「よく解んねーけど、オイラはイバさんを信じてやるよっ!」


 虎熊と金熊に任せて、単独で動き出す茨城童子!その進行方向には、3枚の『酒』メダルがある!

 2人だけではザムシードのエクソシズムキックと均衡できなくなり、中間で止まっていた鬼印が、虎熊&金熊側に押し戻され始めた!

 一方のガルダは、狙いを定めていた茨城童子が動いてしまったので、一瞬「誰を仕留めるか?」を迷った後、動きを止めていて確実に倒せる虎熊と金熊に狙いを定める!


「口惜しいが退くぞ、虎熊童子、金熊童子!」


 『酒』メダル3枚を回収した茨城童子は、部下達に撤退を命じた後、鬼印に掌を向けて妖気乱舞を発動!鬼印の周りの空間が掌握されて、妖気の衝撃波が鬼印に押し寄せて飽和状態と成り、爆発が発生する!


「うわぁっっっっ!!」


 跳び蹴りの体勢で鬼印と競っていたザムシードは、爆発の直撃を受けて弾き飛ばされ、背後の塔屋に激突!ガルダは身を低くして爆風を耐える!


「佐波木っ!!」


 その間に、茨城&虎熊&金熊は、爆風を利用して屋上から身を投げ出し、姿を闇霧に変えて飛翔する。2つの闇は早々に空高く逃亡をするが、1つだけが留まり、姿を茨城童子に戻して、屋上のザムシードを睨み付けた。

 目の前に4枚目(ガルダ所有)と5枚目(ザムシード使用中)の『酒』メダルがあるにも関わらず手を出せないのは不満。主(酒呑童子)を支配下に置く人間など、見ているだけでも腸が煮えくり返りそうだ。しかし、これ以上の戦線維持は不可能。


「身の丈に似合わぬ力を手にしたこと・・・いずれ、後継させてやる。」


 呪いの言葉を吐き、再び闇霧に姿を変えた茨城童子が、空の彼方へ去っていった。




-校庭・校舎脇-


 鬼達の撤退を把握した有紀(紅葉の母)が、木の脇に駐めてあるバイクに跨がり、フルフェイスのヘルメットを被ってから屋上を見上げた。


「今回は、酒呑童子の力で鬼達を追い払えただけ。

 本当の戦いはこれからよ、佐波木燕真くん。」


 長居は無用。有紀は、バイクのエンジンを掛け、バイザーを降ろして去って行く。

17年前にハーゲンの名で活躍をした妖幻ファイターだが、今はただの一般人。娘の紅葉が妖怪事件に首を突っ込む事実は複雑な気分で見守っている。今はなんとかなってるが、きっと辛い事も否応なく体験するだろう。あの紅葉が耐えられるのか?心配で仕方ないけど、既に引退をした立場なので、手助けはしないし、紅葉の行動に口を挟む気も無い。

 彼女を支えてくれる者は、既に彼女の身近に存在していると信じている。



-正門前-


 紅葉と粉木は、危機が去ったことを感知していた。屋上で発せられていた‘重さ’が消え、学校を覆っていた‘嫌な感じ’が晴れていくのが解る。


「燕真っ!アミっ!」


 戦いの結果や、友人たちの容体が気になって、校舎に駆けていく紅葉。その脇を、グラウンド側から走ってきたホンダ・CBR1000RRが通過をする。


「んぇっ?」


 なんでグラウンドからバイクが?紅葉はバイクのことには詳しくないが、燕真や雅仁のバイクとは違うってことくらいは解る。違和感を感じ、立ち止まって、去って行くバイクを見送る。だが、紅葉は、母がホンダ・CBR1000RRを所有している事を知らない。そして、バイクを駆る有紀は、母の素振りを一切見せなかった。だから、紅葉は、たった今擦れ違ったのが母親とは気付かない。

 バイクの搭乗者が粉木を見て小さく頷いたので、察した粉木は頷き返して、母娘のニアミスを黙って見送った。



-屋上-


 変身を解除した燕真が、その場にへたり込む。文架高からの連戦で流石に疲れた。同様に変身を解除した雅仁が寄ってくる。


「異常は無いか、佐波木?」

「・・・ん?特に何ともない・・・かな。

 なんだ?俺のこと、心配してくれてんのか?」


 上級クラス以上の妖怪を封印したメダルは、妖力が強すぎて変身者を蝕むので、妖幻ファイターでは使用不可能。最上級妖怪の酒呑童子のメダルなら尚更のこと。だが、ザムシードは、その禁断をやってのけたのだ。雅仁は、燕真の体に異常が発生していないのかを心配する。

 一方の燕真は、「鬼の討伐優先」の雅仁が、鬼を逃がしてしまったことに拘らず、真っ先に自分を心配してくれたことを意外に感じる。


「アレだけ攻勢だったのに、鬼を1体も仕留められなかった件の苦情は?」

「残念ではあるが、君に託すべき事ではなく鬼の殲滅は俺の仕事。

 今回は、その機会ではなかったのだろう。」


 おそらく、ザムシードが攻勢の状態で、ガルダがサポートをしていたら、鬼の幹部を数体は倒せただろう。だが、その代償で、優麗高の生徒には確実に犠牲者が出ていた。雅仁が鬼の討伐よりも、優麗高生徒の防衛を優先させた結果、今回は討ち果たせなかったのだが、燕真はその事実を腹立たしくは感じない。むしろ、雅仁のヒューマニズムを嬉しく思う。出会った頃の雅仁では考えられない行動だ。

 犠牲が出てしまったら、元に戻すことは出来ない。だけど、鬼の討伐ならば、次に頑張れば良い。『酒』メダルを得たザムシードならば可能だろう。


「他人(俺)を頼らず、自分で背負うパターンかよ?」


 燕真は、雅仁の「いつも通りの返答」に対して皮肉で返すものの、内心では、雅仁の変化をしていると感じていた。


 その後、屋上から降りた燕真達は紅葉&粉木と合流する。生徒達がどの程度消耗しているのか気掛かりだが、救護は退治屋の仕事ではないし、部外者が学校内を動き回って、生徒達を介抱するわけにもいかない。

 粉木が、「たまたま学校の近くを通ってグラウンドで生徒達を発見した」フリをして、警察と救急に連絡を入れ、紅葉を残して、退治屋達は退散をする。


「やれやれ・・・面倒やが、上(東京本部)に膨大な報告書を提出せなあかんな。

 それこもれも、いつまでも援軍要請に応じてくれん所為や。」

「管理職って大変だな。」

「なに言うとんねん。オマン(燕真)にも報告書の山に埋もれてもらうで。」

「・・・マジかよ?」

「組織人というのは大変だな。俺は無関係だが。」

「友達だろ?そんな冷たい事言わないで、手伝ってくれよ。」

「君と友人になった覚えは無い。」


 今回は、優麗高の集団昏睡だけでなく、文架高の複数生徒による暴走騒ぎも発生している為、退治屋上層部による情報操作は苦労を強いられるだろう。


 優麗高生徒のうち、十数人は入院をしたが、残りは、当時の診察で「異常なし」判断された。後日、優麗高はガス発生による集団昏睡、文架高はガス発生による集団錯乱で、妖怪事件は隠蔽をされる。




-YOUKAIミュージアム・事務室-


 到着した途端、燕真は、戦闘直後に問い質したかったが、紅葉が居た為に話せなかったことを粉木に投げ掛ける。


「なぁ、ジイさん。妖幻ファイターハーゲンに・・・いや、紅葉の母親に会ったぞ。

 これを譲られてなかったら、多分、勝てなかった。」


 燕真は、Yウォッチから『酒』のメダルを抜き取って粉木と雅仁に見せる。扱えないはずの『酒』メダルをザムシードが扱ったことに疑問を感じていた雅仁も、回答を求めて粉木を見詰めた。


「予想はしていたが・・・、やはり、有紀ちゃんと接触したんやな。」

「想定外は他にもあります。『酒』メダルは、合計で5枚。

 俺の持つ父の形見の1枚と、佐波木が託された1枚、

 残り3枚は、退治屋の本部で保管されていたはず。

 しかし、茨城童子は、3枚の『酒』メダルを所有していました。」

「なんやて?」

「どういう事なんだ?『酒』メダルは8枚あるってことなのか?」


 この情報は粉木も初耳だ。粉木は直ぐに本部に連絡を入れて「酒呑童子のメダルの保管状況」を確認した。ただし、「ちょっと待ってくださいね」と言われて1~2分保留音を聞いているうちに確認をしてもらえる事案ではないので、折り返しで連絡をもらうことにして通話を切る。


「さて・・・もう一つの質問・・・やな。」


 紅葉の母から託された『酒』メダルの件。これは、文架支部で隠蔽した為に、粉木と源川有紀しか知らないこと。粉木は、「長い話になる」と言って、燕真と雅仁をソファーに座らせ、人数分のお茶を注いでテーブルに置いてから、自分も向かい合わせで座って話し始める。




-回想・17年前-


 真夜中の文架市の上空を高速で移動する物体がある。それは、頭部に5本もの角を生やしている。世間一般で‘鬼’と言われている生き物だ。角の数は‘鬼’の各を顕す為、かなり上位の鬼。名を酒呑童子という。


「まさか、俺が、此処まで追い詰められるとは。」


 文架市は、龍脈に優れ、傷付いた妖怪が体を休めるには都合の良い土地。先代ガルダの攻撃によって妖力の8割を喪失した酒呑童子は、残された力を振り絞って文架市に逃れていた。だが、辿り着いたところで力尽き、鎮守の森公園に墜落をする。

 この当時、公道の西側は田園と空き地のみ。公園対面には、大型ショッピングモールは、まだ存在していない。


「ま、拙いな。」


 地面につっ伏した酒呑童子は、現地の退治屋が接近していることを感知していた。鎮守の森公園前の公道を、ホンダ・CBR900RRが疾走する。搭乗者は、大柄なバイクの似合わない細身である。不意にポケットの携帯電話がコールをしたので、バイクを路肩に停車させて、ヘルメットを脱いで、通話をする。二十代前半くらいの、ショートカットの美しい女性だ。


「どうしたの?粉木さん?」

〈有紀ちゃん、妖気は公園の真ん中に落ちた。〉

「こちらも、目視で確認したわ。」

〈かなり弱っているようやけど、気を付けるんやで。〉

「了解しました!」


 有紀は通話を切り、同携帯(Yケータイ)の持つ機能で、妖気反応を探す。公園に落ちた妖気は消えかけている。


「情報では、酒呑童子が、退治屋と狗塚の合同討伐隊から逃れたらしいけど・・・

 まさか、文架に落ちたのが、逃げてきた酒呑童子ってオチは無いわよね?」


 念のため、愛車で公園内に乗り入れ、低速で慎重に走る有紀。亜弥賀神社前の大木に、もたれ掛かっている人影を発見する。墜落した妖怪?それとも妖怪に襲われた人間?その者からは、妖気は感じられない。ゆっくりと近づいて、愛車のヘッドライトで人影を照らす。倒れていたのは、有紀と同い年くらいの男だった。見た感じ、致命的な怪我は無さそうだが、あちこちに掠り傷がある。


「大丈夫ですか?どうしましたっ!」


 男に駆け寄り、介抱をしようとする有紀。しかし、男に触れた瞬間に、全身に電流の様な物が走る錯覚をして、触れた手を離す。何の感触だろうか?男の持つ何かが、有紀の五感を刺激した気がした。

 男は、虚ろな瞳で有紀を見つめる。有紀もまた、男を見つめる。


「・・・貴方は・・・一体?」


これが、酒呑童子と源川紅葉の母の出会いであった。



-回想・中断-


「へぇ・・・それで、紅葉の母親が、

 弱っている酒呑童子にトドメを刺して封印したってか?

 なんか、もっと、大立ち回りみたいなのを想像していたけど、

 案外アッサリと封印されたんだな。」

「ちゃうわ、ボケ。話は最後まで聞けや。」


粉木は、話の腰を折った燕真を一喝をする。


「そないに簡単に封印されてもうたら、

 酒呑童子のメダルはハーゲンに力を貸せへん。」

「力を貸す?」

「鬼が人間に?」

「妖幻ファイターでは、上級クラスの妖怪の力なんて、危険すぎて使い熟されへん。

 扱うには、長い年月を掛けて掌握をするか、

 妖怪自身が協力をするかのどっちや。」

「前者は、俺の扱う天狗の力・・・ですね。」

「せや。天狗は、狗塚家が数百の年月を重ねて使い熟せるように成った力や。」

「そんで、後者がハーゲンの酒呑童子ってことか?」

「お嬢の母親・・・源川有紀は、退治屋としては、類い希な才能を持つ子やった。

 狗塚の血統に匹敵するほどにな。」

「・・・俺と同等。」


 雅仁は、紅葉の才能を理解する。源川家は、数々の妖怪を討伐した伝承を持つ源氏の末裔。源氏が武家政権を目指して天皇家と対立をしなければ、現代の妖怪退治の名門は、陰陽師の狗塚姓と、武家の源姓の、2家が存在していたかもしれない。



-回想-


 妖幻ファイターハーゲン。青を基調にした中世日本の鎧兜のようなプロテクターを纏った戦士が、マシュマロのような妖怪を叩き伏せる!


「臨!兵!闘!者!皆!陣!烈!在!前!・・・はぁぁぁぁっっっっ!!!」


 ハーゲンが妖刀に白メダルをセットして九字護身法を唱えると、妖刀が冷たい冷気を放って輝いた!妖刀を振り上げて、妖怪に突進する!


「悪霊退散っ!!」

「うぎゃぁぁっっ!!」


 振り下ろした一太刀が、マシュマロ妖怪=白坊主を上下に両断!ズングリムックリした見た目はゆるキャラみたいな可愛らしい妖怪だったが、容赦はしない!白坊主は、苦しそうな呻き声を上げながら、凍り付いて破裂!闇霧と化して、妖刀の柄にセットされていた白メダルに吸収されていく!

 戦いを終えたハーゲンは、通信で粉木に報告を入れた後、左手甲に設置されたYケータイを抜き取り、填め込まれていた『氷』メダルを抜き取って変身解除。有紀の姿の戻って、愛車のホンダ・CBR900RRに跨がると、粉木宅へと向かった。



-回想・中断-


「えっ?『氷』メダル?妖怪を凍らせる?・・・それって?」

「イチイチ、話の腰を折らんといて。

 疑問があったら、話が終わってから纏めて聞けや。」

「全部聞いてからじゃ、忘れそうで・・・。」

「それにしても、回想にワシが登場するまで話させんかい。

 ワシの回想やのに、ワシが声の出演しかしてへんのは無理があるやろ。

 ワシが登場せな、ワシの回想として成立せんのや。」

「個人の回想なのに、

 本人が参加していないシーンまで回想をする‘回想あるある’を

 追及するのはやめませんか?」


 度々、燕真が質問をする所為で、まだ、回想は核心には入っていない。だが、現時点で、燕真の疑問は、ある程度クリアしていた。紅葉の母親が『酒』メダルを所有していたのは、文架に逃れてきた酒呑童子を倒したからであり、扱えるのは、何らかの理由で酒呑童子が力を貸しているから。氷柱女が紅葉の母親と一緒に現れたことや、紅葉のことを以前から知っている素振りだったのは、妖幻ファイターハーゲンが、氷柱女を使役していたから。紅葉が、霊体少年や、雪女や、天邪鬼と分け隔てなく付き合えることを考えると、母親が氷柱女と仲良くしていることも、なんとなく納得が出来た。


「あの親にして、この子ありってことか。」


 まだ疑問は多いが、此処までの説明は辻褄が合う。


「鬼が人間に力を貸す・・・。酒呑童子には、何らかの魂胆が?

 信じがたいが、事実は事実として認めるしかあるまい。」


 一方の雅仁も、まだ序盤だけの回想で、一定の納得は出来ていたが、同時に別の疑問が発生していた。

 妖幻ファイターが妖怪の力を使役できるのは、封印と屈服をさせているから。上級クラス以上の妖怪を封印したメダルは、危険なので、今の妖幻システムでは扱えず、例外になるのが天狗の力を扱うガルダのみ。だから、狗塚家は、圧倒的な戦闘力を誇り、今でも名門と敬われている。だが、名門の血統を持ってしても、天狗の力を活性化させた父・宗仁は、妖気の暴走に抗えず、天狗に魂を食われた。


(佐波木が扱っている閻魔大王の力は、どういう理屈なのだ?)


 雅仁は、燕真の「器の大きさ」は一定の評価をしている。だが、それは、あくまでも、人間社会で生活をする人間力のこと。退治屋のスキルとしては、何の役にも立たない。

 霊力ゼロの燕真に、閻魔大王の力を屈服させられるワケが無い。つまり、閻魔大王は、凡族の燕真に力を貸しているのだ。更に、一時的ではあるが、酒呑童子まで、凡人の燕真に力を貸したことになる。




-東京都・怪士対策陰陽道組織(退治屋)本社-


 酒呑童子を封印した『酒』メダル3枚の保管庫は、9階にある複数の役員室に囲まれた空間の真下にあった。位置的には8階に隠してあるのだが、8階からは、壁に遮られていて、『酒』メダルの保管庫には行けない。辿り着くには、9階の役員室を通過した先にある階段を降りるしか手段が無い。つまり、役員以外は、『酒』メダルが何処に在るかすら解らないのだ。


「むぅぅ・・・」 「これは一体?」


 粉木から「文架市で3枚の『酒』メダルが確認された」と報告を受け、喜田CEOと大武COO、その他の役員達が集まって確認する。だが、保管庫にあるはずの『酒』メダルが無いのだ。信じがたいことだが、厳重な警備を潜られて、鬼に奪われたことを意味している。


「どういう事だ?」

「誰が持ち出した?」

「最後に確認をしたのは誰だ?君ではないのか?」

「私が確認をしたのは数ヶ月前です。その時には間違いなく在りました。」


 異常事態であり、文架市に危機が迫っている状況にもかかわらず、責任を取りたくない役員達による犯人捜しと、責任転嫁が始まった。酒呑童子復活の可能性がある現状で、悠長な口論をしている余裕は無い。大武COOは、彼等の自己保身にウンザリとしながら、言葉を発する。


「保管室に入ったログを確認すれば、何者が持ち去ったのか解るのでは?」

「おぉっ!COOの言う通りだ!」


 今は、酒呑童子への対策が最優先課題。裏切り者を対策会議から排除する為の犯人捜しは有効だ。役員達はデータ管理室に行って、防犯カメラの過去映像で、近日中に誰が保管庫に入ったのかを確認する。


「・・・何者だ?」 「何故、こんな少年が?」


 映像に残されていたのは、見たことの無い少年だった。その少年には金熊童子の面影があるが、役員達は、それが、人間に化けた金熊童子と言うことを知らない。だが、誰が手引きしたのかは直ぐに判明をした。保管庫への入室に使われたコードが、役員の1人が所有するコードだったのだ。


「遠斉君。君が少年の手引きをしたのだな!」

「とんでもない事をしてくれた!」

「し、知らない!身に覚えが無い!」

「少年が、君しか知らないコードで入室した事実が、

 全てを物語っているのではないかね!?」

「ち、違う!私ではないっ!!」

「鬼に金でも掴まされたのか!?」

「君には落胆したよ!」


 周りの幹部達が、問答無用で遠斉を取り押さえ、呼び込まれた隊員達に連行されていく。CFO(最高財務責任者)の遠斉武実(えんざい むじつ)。大武COOと共に、時期CEO候補の噂された彼のキャリアは、これで断たれることに成った。


「こ、これは、本部の不祥事だ。」 「いや、本部ではなく遠斉の不祥事だ。」

「だが、セキュリティは問題視されるぞ」 「どうする?」 

「隠蔽するべきか?」 「先ずは、遠斉の責任追及を!」

「文架市の鬼はどうしますか?一刻の猶予もありませんよ。」


 幹部達による自己保身の為の協議が始まった。大武剛COOは、内心で「今はそれどころではない」と感じながら、呆れ顔で無能な役員達を眺める。




-数日経過-


 優麗高の戦い以降、文架市では、1日に1体の頻度で妖怪が出現をする。そのたびに、燕真と雅仁が出動をして妖怪と戦い、虎熊童子や金熊童子が乱入をするので苦戦を強いられる。ザムシードが『酒』メダルで黒いザムシードにパワーアップをして、形勢が逆転すると虎熊&金熊はトドメまであと一歩のところで逃げていく。そんな日々が続いた。


「ご苦労だったな、虎熊童子、金熊童子。」


 虎熊と金熊の逃亡先のビルの屋上で、茨城童子が出迎える。


「イバさん、いつまで、こんな事を続けるんだ?」

「アニキが、考えも無しに拙者達を消耗させるなんて有り得ない。

 何か、作戦が有るのだろう?」

「無論、計画通りだ。そろそろ機は熟す。」


 手に平に乗せた3枚の『酒』メダルを見詰める茨城童子。先日の優麗高戦では、退治屋の妨害の所為で、満足できる形で生命力を集めることが出来なかった。警戒をされてしまった現状では、1ヶ所から生命力を搾り取るのは難しいだろう。


「だが・・・何一つ問題は無い。」


 茨城童子は闇霧化をして、虎熊&金熊を従え、空高く飛び上がり、高速で郊外まで移動して実体化をする。

 その地には、郊外ゆえに退治屋のセンサーに引っ掛かりにくい鬼印が施されていた。茨城童子が手を翳すと、念が一定量蓄積された鬼印が浮上して、手の平にある『酒』メダルに吸収されていく。


「うわぁ~・・・面倒くさっ!」

「だが、これが最も確実だ。」


 茨城童子がバラ蒔いた鬼印を、自分自身で回収する。それは二度手間であり、虎熊童子が表現した通り、労力を無駄に使う選択肢なのだが、「お館様の復活」を最優先にする茨城童子からすれば、自分の苦労など、些細な問題でしか無い。要は、退治屋に妨害されなければ良いのだ。

 この地の鬼印回収を終えた茨城童子達は、次の鬼印を回収する為に空を駆ける。




-YOUKAIミュージアム-


 妖怪退治を終えた燕真と雅仁が戻ってきた。粉木と共に、出動後にバイトに来た紅葉がふくれっ面で出迎える。


「ァタシも行きたかった~!ァタシが来るまで待っていてくれれば良いのにっ!」

「無茶言うな!オマエ待ちで、妖怪被害を放置するわけにはいかないだろ。」

「でもさぁ~・・・出現すんの、弱っちい妖怪ばっかりぢゃん。

 どう考えても、銀髪(虎熊)や金髪(金髪)に誘き出されてるだけでしょ?

 だったら、ァタシが来るの待ってからでもダイジョブぢゃん!」

「確かに誘き出されている・・・と言えなくもないけど・・・。」


 指摘された通り、燕真達は、妖怪の発生をキッカケにして、鬼の幹部達との小競り合いに誘き出されているだけだった。それでいて、決着が付く前に、鬼達は逃げてしまう。


「まぁ、『酒』メダルのお陰で、こっちも消耗せずに済むというか、

 このメダルが無かったら、もっとキツい戦いになってるだろうな。」

「お~~!すげー!『酒』メダルすっげー!」

「凄いのはメダルだけ?使い熟している俺は凄くないのかよ?」


 粉木と雅仁は、現行の妖幻システムでは使えないはずのメダルを、燕真(ザムシード)が普通に使っているのが納得できない。そのうち、何らかの弊害が発生しそうで心配だ。


「体調に違和感は無いのか、佐波木?」

「全然!至って普通だ。

 提供者は、稼動限界は3~5分くらいって言ってたからな。

 その範囲内で使ってる分には問題無いんだろ。」


 提供者は紅葉の母なのだが、一応、気を使って紅葉の前では名を伏せる。

 一定の霊力を持つ者ならば、上位クラス以上の妖怪が封印されたメダルを使えば、強大な妖力で、霊力を汚染されて支配下に落ちてしまう。雅仁の父ですら、Yメダル暴走の汚染には抗えなかった。


「燕真の場合は、霊力ゼロやさかい汚染されへんで済むっちゅうことか?」


 そんな単純は理由とは思えないが、粉木にも、他の理屈では説明が出来ない。燕真が、安全性を確認できないメダルを使い続けることは不安で仕方が無い。



-回想(数日前)-


 YOUKAIミュージアム事務室での反省会を終え、燕真と雅仁が退出をした後、粉木は電話をする。しばらくのコール音の後、着信相手が通話に応じた。


「今、電話良いか?有紀ちゃん。」

〈どうぞ。〉


 電話の相手は、紅葉の母・源川有紀だ。


「どういうこっちゃ?」

〈何のことかしら?〉

「酒呑童子のメダルのことや。」

〈あら、不満かしら?〉

「当然や。ワシに何も相談せんで、いきなり燕真に渡すなんて、何を考えとる?」

〈緊急事態だったから仕方無いでしょ。

 悠長に粉木さんの許可をもらっている間に、

 優麗高の生徒に死者が出ていても不思議ではなかったわ。〉

「むぅぅ・・・」


 口が達者のはずの粉木が、有紀の正論に、アッサリと論破されてしまう。


「オマンが使い熟せる理屈は解っているつもりや。

 そやけど、なんで燕真に渡した?なんで燕真が使える?」

〈私が彼を認め、メダルが彼を指名したから・・・とでも言うべきかしらね。

 私がメダルを提供をしなければ、彼等は鬼に敗北していた可能性が高かったわよ。

 そして、これからも、酒呑童子のメダルを使わなければ、勝てる見込みは薄いわ。

 この件に関しては、最善の緊急処置と思って欲しいわね。〉

「むぅぅ・・・」

〈稼動限界は3~5分程度。それを無視しなければ、問題は無いはず。

 彼が無茶をしないように、それだけは、粉木さんがキチンと管理してあげてね。〉

「・・・承知した。」


 通話を切り、大きな溜息をつく粉木。疑問だらけだし、納得は出来なかったが、現状を考えれば受け入れるしか無かった。



-回想終わり-


 昨日、本部から、「鬼の討伐隊が編制された」と連絡が入った。数時間後には、本部選り抜きの妖幻ファイター達が文架市に来る。チームリーダーは、現CEOの御曹司・喜田栄太郎。将来のCEO最有力候補であり、本部の威信をかけたサポートがあって絶対に失敗をしない常勝チームである。

 本部の部隊が来た時点で、文架支部の役割は、戦いの渦中ではなく、外部サポートの役になる。


「燕真は端役に回されること不満に感じるやろうが、

 ワシに想像が出来ん危険すぎる橋を渡らすのは、これで終わる。」


 再三の援軍要請に対して、ようやく重い腰を上げてくれた本部だが、手遅れになる前に動いてくれたのはありがたい。粉木は、エリート部隊の到着が待ち遠しかった。だが、粉木の意図は、思い掛けない形で妨げられる。


「最近、空気の流れ方がチョット違う気がするんだけど気のせいかな?」

「何言ってんだ?季節が変われば、風の吹き方が変わるのは当然だろ?」

「ぅんにゃ、そう言うんぢゃなくてね、風とゎ違うモヤモヤ。

 0点の燕真ゎワカンナイかもだけど、じいちゃんや、まさっちゎどう思う?」


 紅葉は、肌で何らかの異常を感じているようだ。粉木や雅仁は、鬼達が漠然と行動しているとは思えず、何か魂胆があると勘ぐっていたので、紅葉の疑問に対して一定の確信を持って、数日間の経緯を振り返ってみる。

 妖怪事件が発生したのは、文架大橋付近(河川敷)、鎮守の森公園、文架大学付近等々。どの戦闘でも、大した被害は出ていない。


「ん?・・・これは?」


 粉木は、事件の発生場所をPC画面に表示させたマップで眺め、違和感を感じて、妖気センサーの反応履歴を調べ始めた。発生した妖気は、龍脈の流れに乗り、町中に設置された妖気センサーによって、妖気の強さと濃度拡散率から、発生場所を特定する仕組みになっている。


「なんで、今まで気付けへんかったんや?」


 各場所で発生した妖気に対して、反応をした妖気センサーが、今までと、ここ数日で違っている。または、センサーが反応をするまでの時間に、誤差が発生している。

 つまりそれは、龍脈の流れが「数日前」までと「今」で変化していることを意味していた。優麗高を含め、妖怪事件が発生した場所は、龍脈の通り道や龍穴ばかり。単純に「妖怪が発生しやすい場所で事件が起きた」と解釈していたが違う。事件は意図的に、それらの場所で起こされていた。

 そして、それぞれの場所が一時的に浄化されたことで、龍脈がネジ曲がり、想定外の場所が龍穴になっている。


「現在の龍穴は・・・鎮守の森公園より、更に東。

 粉木さん、この場所に心当たりはありますか?」

「富運寺(ふううんじ)っちゅう古寺が建つ場所や。」

「鬼共が潜むには都合の良い場所だな。」


 援軍の到着までには、もう少し時間がある。先んじて鬼の居場所を見付けることが出来れば、援軍による鬼討伐は円滑に進む。


「行ってみる価値はありそうだ。」


 燕真の提案に、紅葉と雅仁が同意をした。鬼は、富運寺を龍穴にして、何かをするつもりだ。そしてそれは、ほぼ間違いなく「酒呑童子の復活」に関わることだろう。粉木は、あとは本部に任せたい反面、職務怠慢を決め込むことも出来ない。


「やるしかないやろな!鬼共が準備を整える前に叩くで!」


 ホンダVFR1200Fに乗った燕真、燕真の後のタンデムに乗った紅葉、ヤマハ・MT-10に乗った雅仁、車に乗った粉木が、富運寺に出動をする!




-十数分後-


 目的地の富運寺(ふううんじ)は、住宅街から外れた小高い丘の上に在る。

 住宅が途切れたところで、紅葉と雅仁は、一帯を覆う邪気を感知する。


「ヤバいよ、燕真!」

「鬼のテリトリーに入ったようだ!」


 富運寺は、まだ50mほど先にある。だが、雅仁がバイクを停めたので、燕真もブレーキを掛ける。2人はバイクから降りて、総門手前の石階段に向かって駆けていく。紅葉も付いていこうとするが、燕真が足を止めて振り返り、怒鳴り声を上げて止めた。


「オマエは、ジジイが来るまで待ってろ!」

「で、でもっ!」

「敵は、少なく見ても鬼3体!こちらは俺と佐波木の2人!

 君を守りながら戦うのは厳しい状況だ!」


 雅仁の同調に反論を出来ない紅葉は、諦めて足を止め、遅れて合流してくる粉木を待つ事にした。

 燕真と雅仁は、石階段の手前に到着。総門へと続く100段程度の階段を眺め、「いつ仕掛けられてもおかしくない」と警戒しながら踏み込もうとしたところで、気配を察知した雅仁が動きを止めて身構えた。燕真は何も感じることができないが、雅仁と並んで臨戦態勢になる。


「幻装っ!」×2


 専用メダルをベルトのバックルに装填して、妖幻ファイターザムシード&ガルダに変身完了!ザムシードのセンサーを通した燕真の目に、3つの闇霧が見える。


〈やはり、我らが、この地に居ると気付いたか?〉

〈気付かれるように仕向けたんだけどな。〉

「なにっ?」

「罠かっ!?」

〈にゃははっ・・・釣れてくれたね。〉

〈我らの招きに応じてくれたこと、感謝しよう。〉


 3つの闇霧が、茨城童子、虎熊童子、金熊童子へと姿を変える。ザムシードが身構えながら、右手に『酒』メダルを握り締めた行動を、ガルダは見逃さない。


「いきなり使うつもりか?」

「あっちが、ザコ戦抜きで仕掛けてくるつもりなら、無駄な様子見などせずに、

 全力で、サッサと叩くべきだろう!」


 ガルダには、いきなり堂々と挑んできた鬼の幹部達には違和感しか感じない。だが、鬼共の意図がどうであれ、討伐以外の選択肢は無い。そして、2対3の数的不利を覆すには、『酒』メダルによるザムシードのパワーアップは必須だ。ガルダは、ザムシードに同意をして頷く。


「3分で決着を付ける!」


『酒』メダルを翳して和船型バックルに装填するザムシード!


《SYUTEN!!》


 電子音声が鳴り響き、和船型バックルから闇が放出されてザムシードの全身を包み、漆黒のザムシードへと変化させる!

 妖刀ホエマルを構え、鬼達へと突進を開始するブラックザムシード!虎熊童子と金熊童子が迎え撃つ体勢に成ったので、ガルダは虎熊童子に向けて発砲を開始!必然的にザムシードvs金熊童子の構図になる!


「ハァッ!風烈っっ!!」


 離れた位置から拳の連打を放つ金熊童子!風を纏った無数の衝撃波が飛んでくるが、ザムシードは妖気を纏った妖刀を振るって相殺!金熊童子の懐に飛びこんで、妖刀の一閃を振るった!金熊童子は身軽な動きで回避をして距離を空けるが、妖刀から伸びた妖気の刃に捉えられており、肩に浅い裂傷が付けられる!


「くそっ!」


 金熊童子は、肩の傷を軽く擦った後、不満そうな表情でブラックザムシードを睨み付けた。

 一方、虎熊童子は、刀を納刀したまま、ガルダの放つ光弾を回避している!ガルダは「ヤツは、抜刀術を仕掛けてくるつもり」と判断して、警戒をしながら鳥銃・迦楼羅焔のトリガーを引き続ける!


「迅雷!」

「なにっ!?」


 虎熊童子が叫んで気合いを発した途端に、虎熊童子の全身が放電!光速に変化をした虎熊童子が、瞬時にガルダの懐に飛び込んで抜刀をする!ガルダは、虎熊の咄嗟の動きに付いていけず、防御も回避も出来ない!


「させるかよっ!!」


 ブラックザムシードの視覚とセンサーは、虎熊童子の動きを捉えていた!横薙ぎに振るった妖刀から妖気の刃が伸びて、抜刀直前の虎熊童子に着弾!自分自身の突進力が上乗せられたカウンターを喰らった虎熊童子は、弾き飛ばされて地面を転がる!更に、ガルダが追い撃ちの光弾を発砲したので、虎熊童子は体勢を立て直せないまま、慌てて回避をする!


「大丈夫か、狗っ!?」

「ああ・・・何とかな!」


 ガルダが戦わずとも、ブラックザムシードだけで虎熊と金熊を倒せそうな勢いだ。虎熊は不満そうに茨城童子をチラ見するが、茨城は目で「そのまま戦い続けろ」と訴える。


「チィ・・・ホントに、これで良いのかよ、アニキっ!?」


 虎熊と金熊は、指示された通りに戦闘を続けるが、ザムシード&ガルダの連携に歯が立たず、再び弾き飛ばされて地面を転がる!『酒』メダルを開放してから2分30秒が経過!ブラックザムシードは、ブーツのくるぶし部分に白メダルをセットした!


「頃合いだ!先ずは、銀髪(虎熊)と金髪(金熊)を仕留める!

 奥で偉そうに突っ立ってるヤツ(茨城)と戦う時間を残す為にな!」


 ザムシードと虎熊&金熊の間に、炎の絨毯が広がる!


「くっ!」 「ヤベーぞ!」

「・・・閻魔様の!!・・・裁きの時間だ!!」


 大股で炎の絨毯を一歩一歩を力強く踏みしめながら突進!空中で一回転をして跳び蹴りの姿勢になる!


「おぉぉぉぉっっっっっっ!!エクソシズムキィィーーーッック!!!」


 漆黒の巨大弾丸と化したブラックザムシードが虎熊&金熊に突っ込んでいく!しかし、着弾の直前に茨城童子が割って入って、妖気防壁を発した両拳でエクソシズムキック受け止めた!


「フン!頃合いは貴様ではなく、私の台詞だ!」


 敗北寸前だった虎熊&金熊は、安堵の溜息をつく。


「・・・ったく!オイラ達を囮にして時間稼ぎさせるんだもんな!」

「貴様等レベルでなければ、時間稼ぎもまま成るない。」

「・・・で、美味しいところはアニキが持っていくのかよ?」

「それが最も効率的と判断した。」


 茨城童子が気合いを発すると、妖気防壁が肥大化をして、ブラックザムシードの跳び蹴りを押し戻し始める!


「なにっ!?」


 前回の優麗高での戦いでは、茨城&虎熊&金熊が三位一体で、ブラックザムシードのエクソシズムキックと拮抗するのが精一杯だった。だが、今は、茨城童子単体で、ザムシードを押し戻している。


「バカなっ!」

「フッ!不思議なことなど何一つ無い!」


 茨城童子は、片方の手に握られた3枚の『酒』メダルを、ザムシードに見せ付ける。


「先日は、私が持つお館様のメダルは、まだ満たされておらず、

 貴様の持つメダルのみが、お館様の力を発揮させていた。

 だが今は違う。満たされ、同等の力を持つメダルが、こちらには3枚。

 そして、私と貴様の力量差。全てにおいて、私が貴様に敗北する要素など無い。」


 更なる気合いを発する茨城童子!妖気乱舞が発動をして、ブラックザムシードの周りの空間が掌握され、妖気が衝撃波と成って押し寄せて着弾!爆風に煽られて跳び蹴りの体勢を維持できなくなり、地面に落ちた!素早く間合いを詰め、ブラックザムシード目掛けて鋭い爪を振り下ろす茨城童子!ブラックザムシードは妖刀ホエマルで受け止めるが、力負けをして押し込まれてしまう!


「・・・くっ!」

「封印されたとはいえ、お館様が、人間如きに力を貸すわけがあるまい!」


 ザムシードが持つ『酒』メダルの効果で発揮される妖気の刃は、茨城童子が持つ『酒』メダルが発する妖気に阻まれて、茨城童子には届かない!


「佐波木っ!」


 ガルダが茨城童子に鳥銃を向けて光弾を放つが、茨城童子が掌から発した妖気障壁でアッサリと受け止められてしまう!しかし、爪を押し込む力が僅かに弱まったので、ブラックザムシードは茨城童子を押し退けて、どうにか距離を空けた!ガルダが援護の為に、ブラックザムシードに駆け寄ろうとするが、虎熊童子と金熊童子が妨害に入り、ガルダを遠ざける!


「佐波木!『酒』メダルの制限時間に気を付けろ!」

「気を付けろって言われても、この状況でどうしろってんだ!?」


 茨城童子は、容赦無くブラックザムシードとの間合いを詰めて、両手の鋭い鬼爪を振るい、ブラックザムシードは防戦一方になって妖刀で受け流し続ける!『酒』メダルの効果を発動させたままでも劣勢なのに、解除をしてしまったら敗北は確定だ!ブラックザムシードには、「『酒』メダルを使い続ける」の一択しか無い!

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