第10話・雪と氷の大戦争(vs雪女・氷柱女)

 背後への警戒を怠りすぎた。普段なら何の苦もなく凌げるはずだが、無防備に不意打ちを食らい、たった一吹きで運動神経を麻痺させられてしまった。反撃したくても体の自由が利かない。首に廻された冷たい手が、ザムシードのパワーと体温と奪う。

 極度のパワーダウンで妖幻ファイターを維持出来なくなり、変身が解除され、燕真の姿に戻ってしまった。防御力ゼロ。このままでは、あと数分のうちに、凍死をしてしまう。


ドカァ!

 何かが雪女の背にぶつけられる。「何事か?」と振り返る雪女の背後には、先ほどの戦いで砕けたつららの破片を幾つも抱えた紅葉が立っていた。抱えた氷の塊を雪女にぶつけながら怒鳴りつける。


「約束が違ぅょ、ぉ雪!燕真から手を放してっ!

 悪ぃ事ゎしなぃって言ったじゃん!!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 雪女は、しばらく無言で紅葉を見つめた後、燕真の首から手を放した。冷たい束縛から解放された燕真は、前のめりに倒れる。


「もみじ・・・か」

「モミジぢゃなぃ!モミジって書ぃてクレハって読むんだ!!間違ぇるなぁ!!」

「この男は、わたくしやおまえに災いをもたらす・・・決して相容れない存在だ。

 まだ、半人前の今ならば容易く・・・」

「意味がヮカラナィ!!燕真がァタシに嫌なことをするハズなぃ!!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・不思議な娘だ。」

「約束を守らなぃ奴ゎ友達だと思わなぃよ!!」


 しばらくの睨み合いの後、雪女は肩の力を抜いて踵を返した。


「解った・・・おまえに免じて、この場は退こう。」


 雪女は、雪煙に姿を変え、亜美に融合するようにして消えた。すると、それまで冷え込んでいた一帯は、急激に暖かさを取り戻す。

 寒気の消滅と呼応するように、燕真がムクリと起き上がる。全身を支配していた冷たい束縛は消えたようだ。亜美も起き上がり、「何があったの?」と言う表情で首を傾げて瞬きをする。


「なぁ、紅葉。オマエ、雪女と友達なのか?

 ・・・まぁ、霊体小僧とも仲良くするんだから、

 妖怪が友達でも、今さら驚かないけど・・・。」

「ぅん!話してみたらィィ子だったから、ぉ友達になったんだぁ!」

「ィィ子・・・か?」


 今回は、かなりやばかった。紅葉が来なければ死んでいたかもしれない。しかし、感謝の気持ちを上手く表現出来るほど素直ではない燕真は、紅葉の髪をクシャクシャにするように頭を撫でることで、彼なりの感謝を表現した。


「もぉ~~!ァタシはペットぢゃなぃ!!

 そんなふうにナデナデされても嬉しくなぃっ!!」

「あははっ!相変わらず仲が良いね。」


 紅葉は抗議の意味を込めて両腕を振り回し、その光景を見た亜美が微笑む。



-少し離れた木の陰-


 燕真達を見つめる粉木の姿があった。


「やれやれ・・・今回はお嬢の肝っ玉に救われよったか。

 せやけど・・・次も上手くいくとは限らんで。

 引退した身で、あまり出しゃばりとうはないが・・・

 状況次第ではしゃあないやろうな。」


 踵を返し、その場から立ち去っていく粉木。その手には、コウモリの翼が生えた女神が描かれたカードケースが握られていた。


 公園のベンチに、紅葉と亜美が座っている。燕真は、近くの自動販売機でホットコーヒーを3本購入して合流し、それぞれに1本ずつ差し出した。コーヒーを飲みながら、紅葉が亜美に、改めて質問をする。


「なんで、ぉ雪に憑かれたのぉ?」

「えっとね・・・話すと長くなっちゃうんだけど、

 お雪ちゃんと初めて会ったのは、ずっと昔、幼稚園の頃でね・・・。」


 亜美の話によると、東北の田舎に祖母の家に遊びに行って、山で迷子になって、泣いていた時に、優しく声を掛けて、人里まで送ってくれたのがお雪だった。ただし、その時の幼い亜美は、彼女が妖怪とは知らなかった。

 その後も、寒い時期に祖母の家に行くと、雪女とは気付かずに会い、彼女が人ではない存在と気付いたのは、中学に上がった頃だった。しかし、幼い頃から知っていた雪女に対して、怖いという感情は湧かず、これまでと同様の付き合いが続いた。


「それでね、今回の旅行で、紅葉や佐波木さんのことを話したら、

 興味を持ったみたいで、一度会いたいって言ったから、

 私に憑依をしてもらって連れてきたの。」

「俺に興味を持って来たワリには、スゲー素っ気ないんだが・・・。」

〈それは、おまえがこれほどの小者とは想像していなかったからだ。

 実際に会って、随分とガッカリさせられた。〉

「え~っと、今の悪口を言ったのは、平山さん?雪女?どっちだ!?」


 燕真の質問に対して、お雪がチョットだけ出現をして、容赦の無い一言だけを放って、再び亜美の中に潜り、亜美の話が続けられる。

 当初は、亜美の中から見物をするだけで、表に出るつもりはなかったが、初対面で紅葉が見破り、亜美の中に隠れているお雪に話し掛けてきたことをキッカケにして、亜美の同意で体を借りたのだ。


「そっか・・・ァミの気持ちゎ、ょ~く解ったょ。

 次ゎぉ雪にぉ話を聞いても良いかな?」

「うん、変わるね。」


 亜美が目を閉じて、心の中に呼び掛けると、亜美の意識が潜り、お雪の意識が出現をする。

 紅葉は、お雪には、ここで一体何があったのか?お雪がキチンと「悪い事をしない」約束を守れるのか?それを問い質すつもりだった。

 人間との約束など、お雪にとっては、守る価値など無い。それは人間の価値観であり、自分とは価値観が違いすぎる。何よりも、お雪自身が愛する男に約束を破られた経験があるため、人間との約束など尊重する気も無い。

 しかし、清らかな心を持つ亜美を裏切るつもりはなく、紅葉にジッと見つめられると、「約束を破るのは悪い事」と言う感情が湧いてくる。


「人間を信用する気は無いが、亜美と、もみじだけは別だ。」

「ァタシの名前ゎクレハだょ!」

「なぁ、雪女!さっきは、なんで平山さんを襲ったんだ!?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・貴様に話す舌など無い!」

「えっ?ァミを襲ったの!?そんな事しなぃょね!?」

「わたくしが、器を提供してくれる亜美を襲う理由など有るはずもなかろう。」

「え?でもさっき、実体化して、つららで平山さんを?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「俺の質問は無視かよ?」

「燕真がそぅ言ってるょ?」

「その男の目は節穴か!?

 わたくしが亜美を襲ったのではない!

 今のわたくしには、長時間の実体化を出来るほどの妖力は無い。

 亜美の中にいるわたくしが氷柱女(つららめ)に襲われたのだ!」

「え!?さっきの妖怪と雪女は別人!?」


 燕真は、改めて思い返してみる。

 先ほど交戦した妖怪は、白い着物、透き通るような白肌、長くて乱れた青メッシュ入りの白髪、雪の結晶のような氷の髪飾、目は切れ長で鋭い。

 亜美に憑いている雪女は、白い着物、透き通るような白肌、長く美しい黒髪、鋭く冷たい眼。


「・・・・違うと言えば違うけど・・・大して変わんないじゃん!

 節穴扱いすっけどさぁ、初見でそこまでは見抜けないだろ?」


 燕真が「雪女と氷柱女は大して変わらない」と口にした瞬間、紅葉は足元に転がっていた氷の塊を拾い上げて投げ付ける!氷は見事、燕真の頭に命中!


「いってぇぇっ!!」

「バカッ!女の子に失礼な事言うな!その違ぃが直ぐに解るのがモテ男なんだっ!」

「ふん!わたくしは、あのような凡人に、無駄な期待などしていない!

 もみじも、あんな男に過度の期待などしない方が身の為だぞ!」

「ァタシはモミジぢゃなくてクレハ!

 燕真って、ぉ雪ちゃんが言うほどダメな子じゃなぃょ。

 ちょっと頼り無いけど、結構頼りになるしぃ。」

「・・・・・・うわぁ~・・・俺、すっげーバカにされてね?」


 雪女の話によると、どういう経緯かは解らないが、文架地域には以前から氷柱女が住んでいるらしい。それゆえ、同族の雪女が縄張りに入り込んで快く思わない氷柱女は、雪女を排除しようと敵意を向けているようだ。


「ぅ~~~ん、氷柱女と仲良くすることゎ出来なぃの?」

「それは難しい。わたくしも氷柱女も、元来孤高の存在。

 仲睦まじく寄り添う術など知らぬ。

 我らには、人間達の価値観は合わぬのだ。

 わたくしからすれば、もみじのように、

 どんな存在でも受け入れる方が物珍しい。」

「ク・レ・ハ!ぃつまで、ボケをかますつもりぃ~~?

 でも、そぅすると、ぉ雪ゎ、この町から出て行かなきゃなの?」

「そう言う事だ!

 威嚇をされる程度なら、見ぬふりも出来たが、

 こうも明確に攻撃を仕掛けられると、

 氷柱女を追い出すか、わたくしが去るしかあるまい。

 元々、氷柱女の縄張りと気付かずに入り込んでしまったのが迂闊だったのだ。」

「そっか~~~~・・・ちょっとザンネン。」

「わたくしを題材にした芝居をやるというのは、わたくしが居るからであろう?

 おまえや亜美が、仲間達を説得して、合議で多数を取り付けたのは見ていた。

 わたくしは、去る前に、それが見たいのだ。

 わたくしの事が、人間達に、どのように伝わっているのかを知りたい!」

「あ~・・・だったら、レンタルビデオにでも行って、

 まんが日本昔話のDVDでも借りれば・・・」


 次の瞬間、紅葉は足元に転がっていた氷の塊を拾い上げて投げ付ける!氷は見事、燕真の頭に命中!


「いってぇぇっ!!」

「バカッ!そんな味気無ぃのじゃダメ!

 もっとちゃんと、ぉ雪が喜ぶょうに考えるの!!」

「もみじよ、その男に期待をするのは無駄だ!」

「いちいち、俺限定で毒舌を吐くな!」

「ク・レ・ハ!次に間違ったら、沸騰したお風呂に沈めちゃぅぞ!!」

「・・・・・・・・・おいおい、妖怪を脅すなよ!オマエ、凶暴すぎるぞ!」


 ちなみに、雪女が約束を違えて燕真を襲った理由は、ザムシードの妖気を吸収して氷柱女の攻撃に備える為だったらしい。雪女は、「期間限定で去る」と約束をして、亜美に人格に返して深層に潜り、その場は解散になった。




-粉木邸-


ガタガタッ!スゥッ!バァン!!

 障子戸が勢い良く開いて、雪女役の紅葉がドカドカと乗り込んできて、人差し指と中指を軽く額に宛てる!


「どもぉ~~!雪女のぉ雪でぇ~~すっ!ちぃ~~~~っす!」


 何故、昨日に引き続き、雪女の練習が行われているのか?しかも、紅葉は落選をしたのに。

 それは、亜美を自宅に送ったあとの粉木邸までの道中で、「ぉ雪が満足してくれるょぅに、最高の‘雪女’をやろ~!燕真も手伝ってね!」と紅葉が発案したからである。


「え?演技までするのか?」

「もちろんだょ、燕真!」


 てっきり、「ストーリー面で知恵を貸して欲しいから打合せをしょぅ」って意味だと思って了承をしたのだが、まさか、また、意味の無い練習に付き合わされるとは思っていなかった。


「ぉ雪と巳之吉の気持ちになってぉ話を作らなきゃ、

 カンペキな物ゎ創れないでしょ!」

「でも、オマエ、雪女役じゃないじゃん!」

「ぃぃのぃぃの!」

「燕真、面白そうやから、徹底的に手伝ってやりぃ!」


 しかも、粉木までが、からかい半分で同意をする。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はいはい」


 しかし、バカバカしいとしか思っていない燕真は、演技に全く身が入らず、台詞をダラダラと棒読みするだけ。苛立ちを募らせた紅葉は、五円玉を糸で吊して、燕真の前にぶら上げて振り子のように振った。


「燕真ゎだんだん巳之吉になぁ~る。燕真ゎだんだん巳之吉になぁ~る。」

「おいおい、オマエ、俺を何だと思ってやがる?」

「巳之吉になぁ~る・・・巳之吉になぁ~る・・・巳之吉になぁ~る。」

「ならね~よ!」

「ちぇ~っ!催眠術に掛からなぃかぁ~。」

「掛かるわけないだろ、バカ!」


 燕真は、紅葉がぶら下げている5円玉を取り上げて、卓袱台の上に放り投げた。




-仕切り直し-


 小屋に入ってきた紅葉は、粉木の元に行き、両膝を付いて顔を覗き込み、ふぅ~っと息を吹きかける。燕真は小屋で起きている異常に気付いて、ハッと起き上がる。粉木を凍死させた紅葉は、立ち上がって燕真を見つめた。


「ひぃぃぃ・・・お、おっ父!?おっ父!?どうしちまっただ!?」

「この人ゎ燕真のパパなのぉ?」

「お、おっ父!?おっ父!?」

「あれぇ?どぉしたの燕真?急に気合いが入り出したねぇ!よぉ~し、次ゎ燕真を凍らせちゃぅねぇ!」


 父を失った燕真は、目に涙を浮かべながら、紅葉を見上げ、悲しみで声を詰まらせながらも勇気を振り絞って声を上げた。


「お、おまえは、おっ父に何をしただ!?」

「冬の山ゎァタシのモノなんだょぉ!

 その山に入ると、み~んなこうなっちゃうんだょぉ!

 でも燕真だけゎ、助けてあげるねぇ。」

「・・・・え?」

「でもね、今日のことゎ、みんなにゎヒミツねぇ!

 もし言ったら燕真のこと殺しちゃうからねぇ!」

「はぁう・・・うぐぁ・・・あぁう・・・」

「ばぃばぁ~ぃ!」


 声になら無い声を上げる燕真。紅葉はしばらく燕真を見つめたあと、ビシッと敬礼をして、ドカドカと歩いて障子戸の向こう側に消えていくのでありました。

 冒頭シーンを終えた紅葉は、「とりま、どぅかな?」と言いながら、居間に戻ってきた。・・・が!


「おぉ!こんな吹雪の中を1人で旅してるなんて、それは大変ですね!

 さぞ寒かったでしょうに!

 男1人の生活で、大してもてなすことは出来ませんが、さぁ、お入りなさい!」

「ん?・・・・燕真?」

「・・・・どうしたんや?」

「もしかして、思ぃっ切り催眠術に掛かってるのぉ?」

「・・・そのようやなぁ。コイツ、どんだけ単純なんや?」


 どうやら燕真は、紅葉の催眠術に墜ちてしまい、立ち去った雪女が再び現れる=お雪が巳之吉の家を訪ねてきたシーンと解釈したようだ。紅葉は、しばし呆気に取られていたが、「燕真がその気なら!」と続きのシーンを演じることにしてみた。


「あはははは!待て待て~!」

「ぅふふふふっ!」


 笑いながら海岸(実際は縁側)で追い駆けっこをするお雪と巳之吉。


「ァタシを捕まえてぇ~」

「よ~し!」


 笑いながら大木(実際には大黒柱)の周りで追い駆けっこをするお雪と巳之吉。

 本来の雪女のストーリーには無いんだけど、お雪と巳之吉の信頼関係構築に必要と思われる追加シーンを演じていく。2人が結婚したり、子供(役:猫のヒコ)を授かったり、幸せな日々を過ごしたりアホ臭い茶番劇が延々と続き、いよいよラストシーンだ。


 ある吹雪の夜(実際には吹雪いてない)、巳之吉は、粉木邸の縁側に出て遠い目で夜空を見上げながら、物思いに耽っていた。そして、子供(役:猫のヒコ)を寝かしつけたお雪を呼ぶ。紅葉(お雪)は、呼び掛けに応じて燕真(巳之吉)の隣にチョコンと腰を下ろした。巳之吉は、そっとお雪の肩を抱き寄せる。


「・・・え!?燕真!?」


 こんなシーンは台本には無い。紅葉(お雪)は、燕真(巳之吉)のアドリブに顔を赤らめ、ドキドキと心をときめかせてしまう。紅葉(お雪)が燕真(巳之吉)の肩に頭を預けるまでに、それほどの時間は要らなかった。


「なぁ、お雪。

 ずっと口止めをされていたのんだけど、おまえになら言っても良いかな。」

「・・・ぇ?」

「わしな、こんな吹雪の夜になると、

 若い頃に経験した不思議な出来事を思い出んだ。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「まだ若かった頃・・・おまえと出会う1年くらい前・・・

 わしは、おまえのように美しい女に出会い、とても恐ろしい体験をしたんだよ。

 その女は父を殺したんだけど、何故かわしの命は取らなかったんだ。」

「・・・燕真。」


 紅葉は俯いてスッと立ち上がり、寂しそうな表情で燕真(巳之吉)を見つめている。


「燕真の嘘つき!!

 喋っちゃダメって言ったのに、なんで喋っちゃったの!!?バカァッ!!

 ぁの時の雪女ゎァタシだょ!服は違うけど、顔とか髪形とか同じぢゃん!!

 10年も一緒にいるんだから、いい加減に気付けょ!!

 そして気付ぃても空気を読んで言ぅな!

 燕真の所為で、山の神様の決まりで、

 ァタシゎ燕真を殺して帰らなきゃなんだょ!!

 でも、ァタシゎ燕真を愛・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ・・・・ぁいし

 ・・・は、恥ずかしくて言ぇなぃ。」

「何や、お嬢?此処に来て素に戻ったんかいな?

 ・・・つ~か、最初から素のままか?」

「ぁぃ・・・・・・・うにゅうにゅうにゅ・・・だから燕真を殺せなぃょぉ!!

 もぅバィバィだけど、ヒコちゃん(子供)の事はちゃんと育ててねぇ!」


 そう言い残して、巳之吉に背を向け、その場から立ち去ろうとするお雪。しかし、巳之吉は立ち上がって咄嗟にお雪の手を掴み、力任せに引き寄せて、思いっ切り抱きしめる!


「行かせてたまるか!!オマエを離しはしない!!」

「・・・燕真!」

「山の神が何だってんだ!!

 もし決まりを破ることで、山の神がオマエに罰が与えるつもりなら、

 わしが、山の神を倒す!

 だから、お雪、おまえはずっと此処にいてくれ!!」

「・・・ぅん」


 しばらくは巳之吉の抱擁を拒んでいたお雪だったが、やがて巳之吉の気持ちを受け入れ、巳之吉の背中に手を回した。

 こうして、お雪は何処かに立ち去ることもなく、巳之吉と、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし♪


「・・・何や、このオチは?こないもん、雪女でも何でもあらへんがな」


 燕真は巳之吉として、紅葉は紅葉として燕真の強引さに負け、バカップルはスッカリ気持ちが入って、いつまでも抱き合っている。見かねた粉木は、湯飲み入れの蓋を手に取って、バカップルに近付いた。


「はい、カット!!」


 叫びながら、思いっ切り燕真の頭を叩く。我に返った燕真が目線を下げると、胸の中には紅葉が顔を埋めている。


「わぁぁ~~~~~!!!ち、違う!!

 俺は、巳之吉役として、お雪を抱きしめただけで、

 別に紅葉を抱きしめたかったわけでは・・・」

「アホか!雪女に、こないシーンあれへんわい!」


 燕真は、慌てて飛び退いた拍子に足を滑らせ、尻餅をつき、その弾みで縁側から庭に転がり落ちた。


「ぃってぇ~~~~~~~~!!」


 一方の紅葉は、しばらくは、慣れない状況に心を奪われて惚けていたが、やがて、満足そうにニコリと微笑んで、両手をパチンと叩く。


「コレだょコレ!ラストシーンを今のにしちゃえばぃぃんだぁ!」

「ん?」 

「コレってどれや?」

「ぉ雪を満足させてぁげるストーリー!

 最後をバィバィにしないで、幸せになったことにすればィィんだょぉ!」

「今のでええんか?雪女として成立してへんで?」

「ィィのィィの!ょ~~し!明日みんなに教ぇたげるねぇ!

 きっと、みんなも賛成してくれるよぉ!」


 紅葉の中では、もはや雪女ですらないストーリーがバッチリと採用されたらしい。

 その後、燕真は、一定の満足と手応えを得た紅葉を自宅に送り届け、21時頃にはYOUKAIミュージアムに戻ってきた。粉木邸に上がり込むと、居間で寝転がってテレビを見ていた粉木がムクリと起き上がって、呆れ半分&笑顔半分で燕真を眺めた。燕真は卓袱台を挟んで粉木の対面に座り、粉木が注いだお茶に口を付けて体を温める。


 テレビ画面では明日の天気予報を映し出している。

〈明日は、上空に発達した寒気の影響で、平年より2~3度ほど低く・・・〉


「難儀な性格やのう。」

「・・・ん?」

「もうちっと素直にしといてもええんやないか?」

「・・・なにが?」

「素直に芝居を手伝うんが恥ずかしいからって、

 ワザワザ、お嬢のけったいな催眠術に掛かったふりまでしおって!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・な、なんのことだよ?」

「まぁ、ええか。催眠術に掛かった事にしといてやろう。

 おまんが、素直に認めるワケがないことくらいは解っとるからな。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 粉木は、障子戸を開けて縁側から、街の明かりと月明かりに照らされて影になってそびえる羽里野山(はりのやま)を見つめる。風があるわけではないが、外からゆったりと流れ込んでくる空気が冷たい。それまでの穏やかな表情を少しばかり引き締める。


「理想は、お嬢の友達から雪女を追い出すべきなんじゃが、

 それが出来んかったのならしゃ~ないわ。

 せやけど、その代わりに、明日からしばらくは、

 着きっきりでお嬢の友達の護衛やで。

 氷柱女が、いつ仕掛けてくるか解らんよってな。」

「着きっきり?警戒はするつもりだけど、なんで急にそこまで?」

「朝になれば解るはずや。おそらく、明日になれば、妖怪反応が出ても、

 現場に向かうんに時間が掛かってしまうことになるさかいな。」

「・・・・・・・・・・?」


 粉木の突然の発言に首を傾げる燕真。しかし、一方で、粉木の眼は確信に満ちていた。




-深夜・文架市上空-


 厚い雲の中に氷柱女の姿があった。冷気を放出し、広く密集した水蒸気を冷やし続けている。温度を失った水蒸気は、無数の雪の結晶へと形を変え、夜の文架市へと落ち始める。




-翌日・6時-


 起床時間には少し早いが、燕真は、粉木に起こされ、窓の外を見るように促されて驚いた。


「なんじゃぁぁっっっっっっ!!!こりゃぁぁぁっっっっっっっっっ!!!!?」


 昨夜の天気予報で「冷え込む」とは言っていたが、まさか、辺り一面が白銀の世界に変わるとは思っていなかった。ネットニュースを調べると、山間部で30~40㎝程度、市街地で10~15㎝程度、文架市全域が雪に覆われているらしい。


「いやいやいやいや、今は10月だぞ!!

 文架市って、何処にあるんだよ!?」


 真冬でさえ、夜中に雪が降っても通勤時刻には溶け始めているのだが、その日は朝が来ても気温が上がらず、積もった雪はほとんど解けてくれない。それどころか、降り積もるばかりである。

 積雪の予想など一切していなかった文架市民はパニックだ。自家用車は動くことが出来ず、通勤ラッシュの時刻になると、駅やバス停は混み合い、慌てて冬用タイヤに履き替えたバスがだけが、道路にワダチを作りながら徐行をする。

 ノーマルタイヤで雪道に挑む世間知らずの猛者が、車を滑らせてガードレールや電柱に接触して動けなくなり、ただでさえ走りにくい道路を、更に走りにくくしてくれる。

 駐車場に無造作に駐めてあった燕真の愛車は、スッカリと雪を被って白い小山のようだ。雪道で愛車を走らせることは諦めるしかないだろう。


「現場まで時間が掛かるってのは、こういう事か。

 なぁ、じいさん、雪が積もる事を予測していたみたいだな。」

「あぁ、予想してた通りやで。

 氷柱女なら、寒気が入り込むタイミングを狙ろうて、

 寒さの上乗せをしてくると思うたんや。」

「・・・氷柱女?え!?雪が積もったのは妖怪の仕業!?でも、妖気反応は!?」

「妖気センサーは、数に限りがあるさかい、街中にしか仕掛けられんのや。

 空の上や、人が滅多に立ち寄らん山の中で、

 妖気を発生させられたら感知できへんねん。

 氷柱女は、その死角を突いて、文架市全体を冷やし、

 自分が戦いやすく、退治屋が邪魔をしにくい条件を作り上げよった。

 つまり、地の利を得たっちゅうわけや!

 こうなると、いつ仕掛けてくるか解らんで、燕真!

 至急、お嬢の友達んところに向かうんや!!」

「解った。・・・でもさ、じいさん。

 アンタ、まるで氷柱女を知ってるような口ぶりだな。」

「その話はあとや!ともかく、センサーが反応してからでは手遅れになってまう!」


 燕真は、粉木が用意をした革ジャン&革手袋&ブーツを履いて、万全の冬仕様を整え、亜美の通学路=鎮守の森公園に早足で向かう。まだ、出勤時刻には少し早い為、燕真が音を立てて踏みしめる足跡が、未開の雪上に新しい道を作っていく。亜美に忠告を入れる為に、目的地に歩きながら、紅葉に連絡を入れてみる(亜美の連絡先は知らないので紅葉経由)と、ベランダから真っ白になった文架市を眺めた紅葉が、子供のように興奮した声で応じてきた。


〈外見た、燕真!?凄ぃょ!雪だょ雪!わぁ~~~ぃ!真っ白だょぉ!!〉

「知ってるよ!・・・てか、もう外にいる!」

〈なんでなんで!?どっか行くの!?〉

「鎮守公園に向かってるところだ!・・・なぁ、紅葉!平山さんに伝え・・・」

〈公園行くの!?ズルイ!!待って待って、ァタシも行く!!〉

「・・・はぁ?」

〈公園に行って雪だるま作ったり、かまくら作ったり、雪合戦するんでしょ!?〉

「なのなぁ~!んなワケないだろ!!

 いい大人が、朝6時に起きて、公園に行って、

 1人で雪だるま作っていたら、頭オカシイだろう!

 雪合戦に至っては、1人じゃできねーよ!!」

〈なら、一緒に雪だるま作ろぅ!2人なら、頭ぉかしくなぃょねぇ!?〉

「作らね~よ!!

 降雪は妖怪の仕業だ!再び平山さんに攻撃を仕掛けてくる可能性がある!」


 それまで騒いでいた紅葉は、直ぐに一定の理解を示した。明確な妖気は察知していないものの、何らかの普通とは違う空気が文架市を覆っていることと、10月に雪が積もる異常性には気付いていたようだ。


〈んっ!ワカッタ!ァミに連絡したら、直ぐに公園に行く!〉

「えっ?結局、来るのか!?」


 燕真は「来るな!」と伝えた時には、既に通話は切れていた。


「・・・あんにゃろう。」


 燕真の現在地より、紅葉のマンションの方が鎮守の森公園に近い。朝の支度をしてから出て来るだろうけど、仮に、今すぐに紅葉が家を出たら、紅葉の方が先に公園に到着してしまう。燕真は、今までよりもペースを上げて雪道を歩いた。




-6時半・鎮守の森公園(公園通り側入り口)-


 燕真がミュージアムを出た直後に比べると、少しは人通りがあるが、まだ通勤時間には早く、行き交う人は少ない。燕真は、白い息を吐きながらスマホで時計を確認する。通常時ならば、紅葉と亜美がこの場で待ち合わせるのは7時半、あと1時間ほどある。


「・・・早く来すぎたか?

 紅葉のやつ、‘待ってろ’と言ってたけど、

 まさか、通学時間より1時間も早く出てくるほどバカでは無いだろうな。」


 雪で少し早く出るにしても、30分~45分は待たなければならないだろう。


「早く出て来て悪ぃか!」

ヒュン・・・どかっ


 聞き覚えのある声と同時に、燕真の背に、何かが軽くぶつかる。呆れた表情で振り返ると、白い息を吐き、ブレザーの上にコートを着て、マフラーを巻き、黒ストッキングとブーツを履いて、‘いかにも冬支度の女子高生’な格好をした紅葉が立っていた。素手を真っ赤にして雪玉を握り、燕真を見てニコリと笑う。


「ぉまたせぇ!」

「雪でテンションが上がって1時間も早く家を出てくるなんて、

 どれだけお子ちゃまなんだ?」

「だって、楽しいぢゃん!誰も歩いてない雪の上を歩くの気持ちイイし!」

「まぁ・・・それが同感だな。」

「でゎでゎ、雪だるま作ろ~!」

「作らね~よ!」

「ぶぅ~ぶぅ~!つまんな~ぃ!」


 燕真は、文句を言いながら紅葉が投げてきた雪玉をヒラリと避ける。当てるまで投げるつもりなのか、もう1個投げてきたので、手のひらで弾く。すると今度は、雪玉を振り上げ、奇声を上げて、腕を振り回しながら突進をしてきた。


「はしゃぎすぎだ!転ぶぞっ!」

「わぁっ!わぁ~~~っ!」


 燕真が注意をした直後に、雪で足を滑らせる紅葉。咄嗟に手を出して紅葉の腕を掴んで引っ張り、紅葉の転倒を防ぐ燕真。


「言わんこっちゃ無い。少しは落ち着け!」

「ぁりがとぉ~!」


・・・と言いながら、紅葉は、握っていた雪玉を、燕真の顔面にぶつける。


「ぶはっ!冷てっ!!」

「やぁ~い!燕真、雪まみれぇ~~!」

「ぺっ!ぺっ!・・・口の中に雪がっ!」


 顔に掛かった雪を払い、口の中に入った雪を吐き出す燕真を見てケラケラと笑う紅葉。この状況が「妖怪の為の待機」でなければ、燕真も幾分かはテンションが上がっただろう。‘雪を喜ぶ美少女’は、それくらい微笑ましい風景だった。




-7時-


 登校の待ち合わせ時刻まで30分。ふと違和感を感じた紅葉が、公園側に視線を向ける。


「ねぇ、燕真・・・この公園、さっきまでとチョット違ぅみたぃ。」

「・・・ん?」

「なんか、少しだけドンヨリしているょ。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 燕真は、紅葉に促されて公園内を見るが、相変わらず何も感じることが出来ない。 粉木から「妖気発生」の連絡が来るかとYウォッチを見るが、反応は無さそうだ。


「念の為、行ってみるか?」

「ぅん!」


 やや小走りで、雪の敷かれた公園内に踏み込む燕真と紅葉。時折「何か感じるか?」と質問をする燕真。見廻して「ょくヮカンナィ」と答える紅葉。公園中央の亜弥賀神社付近では、立ち止まって付近をジックリと眺める。


「・・・ここ、一番ドンヨリしてぃる。」

「氷柱女の妖気か?」

「公園全体がモヤモヤしてるからハッキリとヮカラナィ。

 ・・・でも、ぁんまり近寄らなぃ方がィィかも。」

「なら、オマエの友達が近付かないように、こっちから迎えに行って、

 別の道を通るか?」

「ぅん!」


 2人は神社前を通過して、公園の東側出入り口を目指した。やがて、反対方向から、亜美が2人に手を振りながら駆け寄ってきた。雪で濡れるのを避ける為に傘を差して、ブーツは履いているが、紅葉とは違い、コートもストッキングも履いていない。生足全開である。見ている燕真の方が寒くなってしまう。


「ァミ、そんな格好で寒くなぃのぉ?」

「うん、こんなに雪が降ってるのに全然寒くないんだよね。」

「ぉ雪がァミの中で同居してるから寒さに強ぃのかな?」

「どうなんだろね?」


 亜美は、首を傾げたあと、燕真と紅葉を交互に眺めて「んふふ」と笑う。


「朝から熱いなぁ~~!」

「暑い?こんなに雪が降っているのに!?

 雪女って、この気候を、寒いどころか暑いと感じるのか?」

「違う違う!クレハと佐波木さんのこと!」

「・・・・・はぁ?」

「ァタシと燕真?」


 意味深発言を聞いて首を傾げながら、燕真は紅葉を、紅葉は燕真を見つめる。そしてまた首を傾げる。


「2人とも鈍感だな~~。

 私は‘朝から一緒なんてラブラブだな~’って言ってるの。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・朝から一緒?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・らぶらぶぅ?」

「そっ!ラブラブ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×2



 笑みを浮かべる亜美。燕真と紅葉は、しばらくは、頭の中を「?」だらけにして、無言で見つめ合っていたが、どちらからともなく赤面をした。


「ふぅんぬぅ~~~~~っ!!燕真とァタシゎそんなんぢゃなぃモン!!」


 紅葉は解りやすい照れ隠しを全開にして腕を振り回し、足元の雪を抱えて亜美にぶっ掛ける。亜美は笑いながら紅葉から逃げ回る。雪に対して年相応の反応を見せる女子高生達を眺め、思わず笑ってしまう燕真。

 しかし、いつまでも遊んでいるわけにはいかない。神社付近を避けて登校する為に、少しばかり遠回りをしてもらう必要があるのだ。燕真は‘亜美が狙われていること’を悟られないように気を使って、言葉を選んで喋る。


「この先は雪が多くて歩きにくい。

 登校は、公園内じゃなくて、公園外周の歩道に行った方が良いぞ。」

「・・・え?学校?・・・あっ、やっぱり、クレハ、解ってなかったんだ?」

「んぇ?何の話?」

「紅葉からの連絡が来たあと直ぐに、学校から‘雪で休校’の連絡が来たよ。」

「げっ!マヂで!?」

「クレハに電話しても出てくれないし、

 クレハの家に電話してお母さんに聞いたら、もう学校に行ったって言うから、

 もしかしたら、待ち合わせ場所で私を待ってるかもって思って来てみたの。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 紅葉がスマホを確認したら、学校からの休校の通知と、亜美からの着信が入っていた。ちょうど、燕真と夢中に成ってジャレていた時間帯だ。


「・・・あっちゃ~~~。」

「はしゃいで、早く来すぎなんだよ!

 平山さんが来なかったら、何も知らずに学校に行ってたんじゃないのか?」

「んへへっ!」

「笑って誤魔化すな!」


 にわかに風が出て来た。降っている雪が横殴りの吹雪に変化をする。同時に、紅葉の表情が険しく変化をした。風を背に受けて身を屈め、眼を細めながら、公園中央をジッと見つめる。


「・・・ぃる。」

「・・・え?」

「来てぃるょ、燕真!昨日のヤツ!!」

「氷柱女か!?」

「ぅん!」


 燕真は、身構えながら紅葉と同じ方向を睨み、Yウォッチに手を添えた!直後に、ゴォォッっと轟音と共に猛烈な吹雪が吹き荒れ、3人の周囲をホワイトアウトさせる!あまりの強風で立っていることが出来なくなり、身を低くして耐える燕真!紅葉は悲鳴を上げながら、燕真の腕に抱きついて吹雪を凌ぐ!スカートが派手に靡くが、抑えている余裕が無い!


 数秒の後、立っていられないほどの吹雪は次第に治まり、視界が開けてきた。安堵の息をもらし、腕にしがみついている紅葉に視線を向ける燕真。些か驚いた表情で、髪が乱れたまま、燕真を見つめる紅葉。2人は眼を合わせたあと、周囲を見回して、身近で発生した異常事態に気付いた。


「・・・ァミが・・・いない!」


 強風に煽られて吹き飛ばされたのかと、付近を探す燕真。紅葉は、真っ直ぐに公園内を見つめる。


「燕真!ぁっち!!」


 紅葉に促されて公園内に視線を向けて眼を見開いた。神社周辺だけに白い雪煙が舞い上がり、積もった雪を舞上げ、降りしきる雪と相まって、吹雪を作り出している。 まるで、神社周辺の一角だけが白い壁に覆われているようだ。


「おいおい、どうなってんだ?」

「多分・・・アミゎ、あの中・・・。」


 Yウォッチに粉木からの通信が入る。


〈燕真!鎮守公園に妖怪反応ありや!〉

「今、その公園だ!目の前で異常が発生している!」

〈気ぃ付けや!〉


 通信を切り、駆け足で神社方向に向かう燕真と紅葉。しかし、渦巻く強風は、白い壁の内側に入ろうとする燕真と紅葉を拒んでいるようだ。


「うわっ!」 「きゃっ!」


 強風に煽られて、2~3歩後退をして、舞い上がったスカートを、羞恥全開で抑える紅葉。


「オマエはココにいろ!」

「でも!!」

「戦闘中にスカートを抑えて蹲られていても、邪魔なだけだ!!」

「燕真のパンツ(ズボン)を脱いで貸して!

 どうせ変身するんだから、無くてもィィでしょ!?」

「良いワケ無いだろ!」


 燕真は、左手のYウォッチから『閻』メダルを抜き取って和船バックルに嵌めこんだ!


「幻装っ!!」 《JAMSHID!!》


 燕真の体が光に包まれ、妖幻ファイターザムシード登場!白い渦の壁に向かって突っ込んでいく!



-猛吹雪の中心-


 氷柱女と亜美(人格はお雪)が争っていた!氷柱女が作り出した大きなつららが飛び、亜美(お雪)は雪の壁を作り出して防御をする!しかし、鋭利なつららは、雪壁を貫通して破壊した!


「・・・ちぃっ。」


 立て続けに飛んで来たつららを、亜美(お雪)は、吹雪に乗って宙を舞い回避!だが、無数に飛んでくるつららの一つが、宙に逃げた亜美(お雪)の足元を掠めた!体勢を崩した亜美(お雪)が、凍てついた地面に落ちる!


「・・・くっ!結界まで造って、わたくしを狙うか!?」

「あぁ、そうだ!昨日のように、邪魔に入っては困るからな!!」


 雪女も氷柱女も、雪を降らせたり吹雪を起こす能力は、ほぼ共通である。雪女の特殊能力は、生物の体温を奪い、凍死させること。氷柱女の特殊能力は、つららを作り出して攻撃をすること。同族には全く効果が無い氷結(むしろ属性効果で回復)と、物理的なダメージを及ぼす攻撃。勝敗の行方は戦う前から決まっていた!


「おまえは所詮は人間を凍らせるだけ!

 寒さに弱い生物には強いのだろうが、私を止める手段は持ち合わせておるまい!」

「・・・ぬぅぅぅ」

「おとなしく、この地から手を引いて去るのならば、見逃すつもりだった。

 だが、私への愚弄をやめる気は無いのであろう?もはや許す気は無い!」

「何のことだ!?」

「しらばっくれるな!!消えろ!!」


 氷柱女が凄むと、何者の侵入も拒むかのように戦場の吹雪は一層強まり、頭上にはこれまでより一回り大きなつららが浮かび上がり、氷柱女の右手にはつららで作られた剣が出現をする!氷の剣を構え、亜美(お雪)に突進をする氷柱女!!



-一方その頃-


「うぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっ!!!」


 1m先も見えないような、猛吹雪で造られた厚くて白い壁の中を突っ走るザムシード!侵入を拒む白い壁を抜けたらしく、ようやく視界が開け、周りが明るくなる!


「何処にいる雪女!!氷柱女!!」

「燕真!!?なんでぇ!!?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え!!?」


 ザムシードが抜けた先にいたのは紅葉。吹雪で方向感覚を狂わされたザムシードが到達をしたのは出発地点。振り返り、神社の方向を見つめるザムシード。神社周辺の一角は、相変わらず、白い壁に覆われたままになっている。


「一体どうなってんだ!?」


 スタート地点に戻ってきたのは、「ザムシードの天然ボケ」ではなく「氷柱女の作った特殊な空間に拒まれた」と、白い壁から漏れ出す妖気から紅葉に伝わる。

 氷柱女は亜美(お雪)だけを、白い壁の向こう側に閉じ込める為に連れ去った。このまま指をくわえて待っていれば、亜美とお雪は、氷柱女に殺されてしまう。


「ァミィィッッ!!!」

「お、おい!!無茶をすんな!!」


 居ても立ってもいられなくなった紅葉は、なりふり構わずに白い壁の中に突っ込んでいく!慌てて紅葉を追って白い壁に突入するザムシード!

 先ほどと同様に、1m先も見えないような、猛吹雪を掻き分けて突き進むと、ホワイトアウトを抜けて視界が開る!


「紅葉っ!!」


 ザムシードが到達をしたのは、またもや出発地点だった。それまでと変わらない風景が、ザムシードの目に映る。・・・しかし、たった1つ、先ほどと違う光景があった。


「・・・紅葉?何処に行った?」


 ザムシードの少し先を走っていたはずの、紅葉の姿が何処にも無い。僅か1~2秒程度のホワイトアウト寸前までは紅葉の後ろ姿を確認していたはずなのに・・・。



-猛吹雪の中心-


 一方、紅葉の視界には、後退りをしながら身構える亜美(お雪)と、亜美に氷の刃を向ける氷柱女が映っていた。紅葉は、すかさず、亜美(お雪)の元に駆け寄って気遣う。氷柱女もお雪も、入れるはずのない侵入者に、眼を丸くして驚いた様子だ。


「ァミィ!!」

「我が雪の結界を貫通する小娘・・・か?」

「もみじ・・・無茶をしおって。」

「もう大丈夫だょ!直ぐに燕真も来るから!!」


 振り返って、ザムシードを呼ぶ紅葉。だが、その場にザムシードの姿は無い。


「えっ?なんでっ!?」

「あの男は来ぬ。氷柱女の結界に拒まれるからな。」

「・・・けっかい?」

「対象を閉じ込め、部外者の侵入を拒絶する結界だ。」

「ぇっ!?でもァタシ・・・入れたよ?」

「それは、もみじが特殊だから・・・。」

「ァタシがトクシュ?よくワカンナイ。」


 攻勢に出ていたはずの氷柱女は、手を止めて紅葉を眺めている。


「・・・そうか。この娘が。」



-猛吹雪の外側-


 白い壁の外側に空間の歪みが発生して、中からマシンOBOROに乗ったザムシードが出現する。足を出して、雪でフラフラと滑る車体を停め、周囲を見回してから背後を振り返る。

 何度試しても、出発地点と同じ場所に戻ってくるだけ。OBOROの異空間移動能力を使って、壁の向こう側への到着を試したが、それでも入ることが出来ない。


「クッソォ!!」


 ザムシードは苛立っていた。亜美を連れ去られ、紅葉を見失った。今までの紅葉の奇行を考えると、単身で壁の内側に潜り込んでしまった可能性は充分に考えられる。 理由は説明出来ないが、紅葉ならば、それをやってしまうような気がする。


「・・・あのバカ、毎回毎回、勝手なことばかりしやがって!!」


 何をやっても状況を覆せない。常識で考えれば、ベテランの先輩に指示を仰ぐのだろうが、今の、冷静さを失ったザムシードには、その時間すら惜しく感じられる。

 退治屋としての知識の乏しい燕真でも、白い壁が妖力によって造られた事は推測出来る。ならば、妖気の干渉を全く受けない状態ならば、白い壁を抜けられるのではないか?絡新婦の領域に気付かず、霊体を見ることができず、妖気の感知が全く出来ない状態ならば、氷柱女の妖力も干渉しないのではないか?


「迷ってる暇は無い!・・・やるっきゃないだろ!」


 ザムシードは、和船バックルから変身メダルを引き抜いて変身を解除する。燕真の姿に戻り、神社方向を見つめる。雪を含んだ竜巻のようなものが神社周辺を覆っているのは解るが、先程のような白い壁は見えない。吹雪の向こう側に、いくつかの人影が見える!


「紅葉・・・やっぱり、中に入ってやがったのか!」


 やや前傾姿勢になって吹き荒れる竜巻の中に突進する燕真!横殴りの雪が全身に打ち付け、突進速度を弱める!腕を翳して、顔にかかる吹雪を防ぎ、足を踏ん張らせながら、突き進む!


「紅葉っ!平山さんっ!」


 今度は、ホワイトアウトやフリダシへ戻されることもなく、猛吹雪を抜け、紅葉達の元に辿り着いた!燕真は、紅葉と亜美(お雪)を庇うようにして、氷柱女の前に立つ!


「随分苦労したが、やっと入ってこられたぜ!」

「・・・燕真!」

「チィ・・・我が結界の干渉を受けない若者・・・。余計な介入をしおって。」

「ここまで辿り着ければ、あとはこっちのものだ!!」


 燕真は、左手のYウォッチから『閻』メダルを抜き取って和船バックルに嵌め、一定もポーズを決めた!


「幻装っ!!」 


 燕真がボーズを決めたまま、数秒の時が経過する。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 いつものような、《JAMSHID》という電子音や、燕真の体が光り輝くなど現象が発生しない。


「・・・どうしたの、燕真?」

「あれ?・・・なんで?」

「・・・愚かな者め。」


 もう一度バックルにメダルを装填し直すが、やっぱり何も変化をしない。燕真は、慌てて、Yウォッチをいじったり、妖幻メダルを眺めたり、和船バックルを開いたりするが、何が悪くて変身が出来ないのかサッパリ解らない。


「え?なんでなんで??・・・システムが壊れたのか!?」

「なに遊んでるの?早くザムシードになってょ、燕真!」

「空気読め!遊んでるようには見えんだろ!?したくても出来ないんだよ!!」

「ぇ~~~~~~~~~~~~~~~~!!!?ぅっそぉ~~~~~~っ!!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やれやれ」


 最初は、「相手にしたくない」雰囲気を全開にして燕真をシカトしていた雪女だったが、やがて、苛立ちを募らせ、溜まりかねて、口を挟んできた。


「結界の干渉を受けなかったのは、凡俗以下の、おまえの体だけだ!!

 結界の干渉下では、閻魔の力を解放することはできぬ!!

 その程度のことも解らずに、この場に来たのか!?足手纏いの愚か者め!!」

「え!?マジで!!?」

「・・・チョットやばくね?」


 殺る気満々の氷柱女に対して、こちらは、変身不能な若僧と、ただ騒がしいだけの女子高生と、同族に対して一切有効手段のない妖怪。合計戦闘能力はゼロ。チョットやばいなんて次元ではない。


「邪魔をするな。おまえ達に危害を加える気は無い。」


 燕真が紅葉と亜美(お雪)を庇いながら体を硬直させる!しかし、氷柱女が手を翳すと、燕真と紅葉の体が吹雪の渦に包まれて弾き飛ばされる!氷柱女の正面には、亜美(お雪)だけが残った!


「クソッ!させるかよっ!!」


 直ぐに立ち上がり、再び亜美(お雪)を庇う為に駆け出す燕真!一方の紅葉は、何らかの気配を感じて、上空を見上げて指をさした!


「UFO!?なんか来るっ!!」


 燕真達の真上の遥か上空!漆黒のドリルのようなものが、先端を下に向けて、錐揉み状に急降下をしてくる!そしてそれは、雪の結界に突き刺さった!!


パァァァンッッ!!

 白い壁のようなもので覆われていた空間は、パンクをするように弾け、漆黒のドリルは人型に変化をして、地面に降り立った。雪煙が上がり、覆っていた吹雪が弱まり、拡散した妖気は周囲の空気に混ざりながら消えていく。

 氷柱女が亜美(お雪)を閉じ込めていた結界が消えたのだ。(ただし、燕真には結界が見えない為、ドリルが降りてきたら吹雪が弱まった程度にしか把握出来ない。)


 雪煙で見え隠れする‘漆黒の人型’は、格子状のマスクと西洋騎士のプロテクターで身を包み、槍状の武器を持っている。沸き立つ雪煙に混ざり‘漆黒の人型’からも、粒子のようなものが蒸発しているように見える。


「燕真もお嬢も、もうちっと考えてから動かな、命が幾つあっても足らんで!

 まぁ、その、仲間を思うがゆえの無茶はキライじゃあれへんけどな!」


「・・・え?その声?」

「粉木のじぃちゃん?」


「結界を破るなら、その妖力を超えるだけの妖力をぶつけて相殺せなあかんのや!

 覚えときや、燕真!」


 雪煙が晴れて視界が開ける。‘漆黒の人型’がいたはずの場所には、燕真や紅葉がよく知る人物=粉木勘平が立っていた。粉木は、燕真と紅葉を見て無事を確認したあと、視線を反対側の氷柱女に向ける。


「久しぶりやな、お氷(おひょう)!」

「おまえは・・・異獣サマナーアデス!」


 燕真と紅葉は、粉木と氷柱女の対峙を、固唾を飲んで見守り続ける。


「なぁ、お氷。先ずはそのけったいなつららを収めや!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「オマンが、雪女に腹を立てている理由は知らんが、

 うちの若い奴2人が、命を張って守ろうとしているんやで。

 問答無用に攻撃するんやなく、少しは信用してやったらどうや?」

「・・・・・・解った。」


 氷柱女が振り上げていた手をゆっくりと下げると、手に握っていた氷の剣と、宙に浮いていた巨大つららは砕け散り、吹雪が止んだ。


「もう随分と前に、若いもん達に一線を譲って引退をしたんやがな、

 今回の一件には、オマンが絡んどると気付いて、出張ってきおったわ!」

「ふん・・・随分と老けたな、。」

「大きなお世話や!」


 2人の会話を聞く限り、どうやら粉木と氷柱女は古い顔見知りらしい。今朝の会話で、粉木が氷柱女の行動パターンを読んでいた理由が何となく理解できた。燕真は、いつからの知り合いなのか?何故、粉木が妖怪の存在を黙認しているのか?聞きたい事は沢山あるが、今は口を挟む時ではと思い、静かに見守り続ける。だが、片割れには、そんなデリカシーは持ち合わせていないようだ。度胸があるというか、何も考えていないというか、こういう所がなければ、文句無しの純然たる美少女なのだが・・・。


「へぇ~~~!アンタ、オヒョーって言うんだ!?

 粉木のじぃちゃんとどんな知り合ぃなの!?

 なんで、ぉ雪を狙ぅの!?ねぇ~、なんでなんで!?」

「うるさい娘だ。氷漬けにして黙らせても良いか?」

「ふぅんぬぅ~~~~!!

 コィツ、超ムカ付く!!頭から熱湯かけて融かしてやるぅぅぅっっっ!!!」

「なぁ、燕真、ちぃとばかし、お嬢の口を塞いでくれんか?」

「・・・・はいはい」


 溜息をつきながら、紅葉を押さえ付けて、両手で口を塞ぐ燕真。紅葉は「もがもが」と言いながら暴れている。


「なぁ、お氷。何があったんや?

 ここ数日、町中で感知された妖気は、雪女を威嚇したオマエのモンやな?

 ワシは、オマンが意味も無く雪女を眼の仇にするヤツではないと知っとる。

 多少目障りやったとしても、オマンは見過ごすヤツや。

 オマンが出張るっちゅう事は、余程の事があったんやろう?

 せやけど、若い奴等が、オマンを怒らせる事をしたとも考えられへんねん。」

「それは・・・そいつ(お雪)が、我が安住を妨げたからだ!

 だから、そいつを消し去って、安住を取り戻そうとしている!!」


 粉木は一呼吸置いて、「もがもが」とじゃれ合っている(?)燕真と紅葉の後ろに立っている亜美(お雪)に視線を向ける。


「お氷はこう言うとるが、どや?オマン(雪女)は、なんか言い分はあるか?」

「何の事だ!?わたくしには覚えが無い!

 ただ、わたくしは、亜美や、もみじと居る事に居心地が良くて、

 この地に留まっただけだ!」

「ふざけるな!羽里野山に妙な結界を張って、

 我が安住の地から私を排除したのは、おまえだろう!

 この町に、おまえの気配を感じた日から、

 私は羽里野山に入る事が出来なくなった!

 私に取って代わり、この地に根を下ろすつもりなのだな!」

「結界など知らぬ!おまえの縄張りを荒らす気も無い!」


 「もがもが」とイチャ付いていたバカップル(?)は、話が進み始めたと気付いて、動きを止めて耳を傾ける。


「雪女が言うんは事実やろな!雪女に結界を張るような妖力なんぞあれへん!

 現に、ロクに実体化も出来ずに、お嬢の友達ん中に留まっておる。

 そない状態で、どないして、オマンを追い出すほど強烈な結界を張れんねん!?

 おおかた、雪女がワシ等の周りを彷徨いてるんを見て動揺したんやろうが、

 オマンらしゅ~ない冷静さを欠いた判断やで!」

「だがしかし・・・山には私を拒む雪の結界が!!」

「確かに、ここ数日、山の表情が変わったんは気付いとった!

 ワシはてっきり、オマン(お氷)が、なんかを企んどると思うてたわい。」

「山を追われた私が、その様な事を出来るはずもあるまい。」


 お氷とお雪の言い分を聞きながら、羽里野山を眺める粉木。紅葉も、粉木と同じ方向に視線を向ける。


「・・・そう言う事か。だいたい解った。」

「ァタシも解っちゃった。ぉ山に、お氷とも、ぉ雪とも別の・・・

 何か、嫌なヤツがぃるんだねぇ。」

「そういうこっちゃ!

 ワザワザ御丁寧に、雪女が入ってきたタイミングでお氷を山から追い出し、

 2人が勘違いで争って共倒れをするように仕向けとんねん!」


 粉木と紅葉に倣うようにして、燕真も羽里野山を睨み付ける。倒すべきは、雪女でも氷柱女でもない。本当に倒さなければならない敵は、羽里野山にいるのだ!


「なるほどな!行くか!!」

「ぅん!」

「そうするしかないやろな!」


 燕真と紅葉は、並んで羽里野山を見詰め、力強い一歩目を踏み出す!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る