第8話・紅葉がアイドル(vs枕返し)

-YOUKAIミュージアム-


 相変わらず、喫茶店部門の売り上げは芳しかった。元々、紅葉は、料理の腕には自信がある。空き時間に様々な発案し、燕真を実験台にして改良を重ね、店のメニューへと昇華させる。特に、紅葉がレシピを考えた『パワフルビザトースト』『メガトンハンバーグスパゲティー』『モンスターパフェ』は大当たりだった。

 近所に住む粉木の茶飲み友達が希に来る以外は、全てが紅葉目当ての太い客。アイドル好きが、推しアイドルのグッズや、CDに金を使うように、身近なアイドルの紅葉に、様々な飲食を注文して、喫茶部門に金を落としてくれる。

 ただし、燕真が妖怪事件の調査で店を不在にすると紅葉は不機嫌になる。燕真が喫茶店部門に顔を出すと、紅葉が客そっちのけで燕真に絡むので、客が不機嫌になる(ついでに、燕真が恨まれる)。主たる仕事が喫茶店ではないYOUKAIミュージアムとしては、調整がなかなか難しいのだ。


「紅葉ちゃ~ん!写真撮ろうよっ!」

「はいは~い!」


 客に要求をされた紅葉が、客の隣に並んだ。あまりベッタリとは寄り添わず、それでいて距離を空けすぎない距離で、自撮りに収まる。ツーショットをインスタやSNSに上げるのは自由だが、「どこで撮影したか?」「隣で写っている美少女がどこの誰なのか?」は解らないように、背景には気を付ける。それが、ツーショットを求めるルール。客達は、紅葉の評判が広まって「俺達の紅葉ちゃん」が、今以上に知名度を上げて、手が届かない存在に成ることを恐れているのだ。


「紅葉ちゃん、またね~!」

「アリガト~ございましたぁ~!」


 本日は、夏期講習が休みなので、紅葉は1日中バイトに精を出した。閉店時間の18時になり、最後の客が店を出ると同時に、「客がいる時は1階立入禁止」の燕真が2階から降りてきて、適当な椅子に腰を降ろした。すると紅葉が、向かい合わせの椅子に座る。


「ふぇ~~~・・・忙しかった~~~。」


 燕真が、カウンター内で洗い物をしている粉木に視線を向ける。


「なぁ、ジジイ?」

「なんや?」

「妖怪事件で俺が出払った途端に、紅葉が職場放棄するんじゃ話になんね~。」

「だってぇ~~・・・燕真だけ調査に行くのズルいんだもん。」

「だからさ、ジイさん。

 紅葉が俺と一緒に調査に出てもサテンが維持できるように、

 もう1人くらいバイトを雇ったらどうなんだ?

 例えば、絡新婦の時に巻き込まれた紅葉の友達とかさ。」

「アミのこと?」

「名前までは解らん。」

「アミゎ桜アンパンにソックリな子!

 中学の時は桜餅に似てたけど、今は桜アンパンなの。」

「・・・桜アンパンって言われてもよく解らないけど、ボブカットの子。

 確か、結構可愛かったよな?」

「ぅんぅん、アミ、めっちゃカワイイよ!

 でも、アミゎ、文架大橋の近くのDOCOS(ファミレス)で

 バイトしてるからなぁ~。」

「その子じゃなくて、他の子でも良いし・・・。」

「ミキとかユーカ?」

「名前を言われても解らん。」

「ミキゎ自転車の籠みたいな子で、

 ユーカゎ道路に立ってる40キロのひょーしきみたいな子。」

「・・・尚更解らん。」   ※美希と優花は現時点では未登場


 しばらくは黙って聞いていた粉木が、徐に口を開く。


「無理やな。」

「なんで?今でも、もう1人雇うくらいの売り上げはあんだろう?」

「アホンダラッ!そない問題やない!

 此処でバイトするっちゅ~事は、必然的に退治屋の活動を知ることになる。

 部外者のお嬢が入り浸ってるだけでも特例やちゅうのに、

 別の者まで深入りさせるわけにはいけへんやろう。」

「ああ・・・なるほど。」

「そっかぁ~~・・・ん~~~ザンネン。」

「調査だけやったら燕真が行く。

 妖怪が発生したら、お嬢に留守番してもうて、ワシと燕真で行く。

 妖怪が発生せえへんと経営が成り立てへんさかい、茶店は維持する。

 忙しいかもしれんが、これが今の最善なんや。」

「そりゃそうだな。」


 話は終わり、燕真は店の清掃を始め、粉木は洗い物を再開して、稼ぎ頭の紅葉は座ったままスマホで、客のFacebookやインスタを一通りチェックする。紅葉とツーショットの画像はアップされているが、プライバシーや撮影場所の手掛かりになる情報は無さそうだ。燕真的には、手掛かりの有無にかかわらず、紅葉と客のツーショットは不満なのだが、紅葉が「ただのエーギョー」「お客さんとなんて仲良くならないよ~」と言うので黙認をしている。各コメントに【いいね】をした後、紅葉はスマホをポケットにしまって立ち上がり、後片付けを手伝う。




―数日後の夕刻・文架駅前商店街の一画―


 『あやかゼミナール』って看板を掲げたビルの正面玄関から、高校生が吐き出されて左右に散って行く。その中に、紅葉と亜美、同じ高校の太刀花美希&藤林優香の姿がある。美希と優花は文架南中の出身の幼馴染み。高校1年生の時に、紅葉と美希、亜美と優花が同じクラスで仲良くなり、2年生になってからも、4人で行動をする機会が多い。


「ふぇ~・・・疲れたぁ~。」

「亜美は、今からバイト?」

「今日はお休みだよ。」

「紅葉は、この時間だと、バイトは無いよね?」

「ぅん、もうお店、終わってる。」

「なら、軽くご飯行かない?」

「ぅんぅん、行こう。お腹すいちゃった。」


 4人は駅前のファーストフードに向かおうとしたら、数人の男達が「あ、あの子だ」と寄ってきた。若作りでチャラいファッションだが、皆どう見ても30~40代くらい。女子高生視点だと、おっさんである。いい年齢こいてナンパでもあるまいに、いったい何事か?


「すいません、源川紅葉さん?」

「そうだけど・・・」

「おおおお~っ」 「イケてますねっ」

「えっと・・・ダレですかぁ?」

「TVトキオの『君達はアイドルの原石』観た事ある?」

「き~たことゎあります。」


 男子の間では話題になっている番組だ。紅葉は見たことが無いが、新人アイドルが集まって、様々なゲームをしたり、ロケをする。大半は‘新人アイドル’のまま出番を終えるが、中には、事務所のお偉いさんの目に止まって、スター街道を歩んだり、知名度を得てユーチューバーになって稼ぐ女性もいる。

 紅葉達が困惑をしていたら、リーダーっぽい男から名刺を渡された。チーフプロデューサーって肩書と、割井和留雄(わるい わるお)って名前が書かれてる。


「俺、プロデューサーの割井(わるい)、コイツは俺の右腕の木源。

 こっちは製作スタッフなんだけどね~・・・」

「ADの木源登郎です。」


 割井から紹介をされた木源登郎(きげん とろう)が紅葉に挨拶をする。


「ど・・・ども。」

「キミ、カワイイからさ~、番組のオーディション受けてみない?」

「んぇっ!?ァタシが!?」

「うわっ!スゲー!もしかして本物!?番組に出たら、有名人に会えますか?」


 誘われている紅葉を差し置いて、何故か美希が食い付いてきた。


「オーディションに合格して、番組に参加すればな。

 キミ、興味あるの?源川紅葉さんと一緒にオーディションに参加してみる?」

「なんか面白そう!」

「んぇっ?ミキ、参加すんの?」

「なんなら、君達4人で参加しなよ。皆、可愛いから、イイ線行くかもよ。」


 話を聞きながら、露骨に「コイツ等怪しい」と感じていた亜美と優花が、互いの眼を見て頷き合い、亜美は紅葉の、優花は美希の腕を掴んだ。


「絶対に信用しない方が良いって!」 「そんな甘い話は無いよ!逃げろっ!」 

「アミ?」 「なんで逃げる?」


 それぞれの腕を掴んだまま駆け出す亜美と優花。紅葉は若干の未練を残して振り返りながら亜美に引っ張られ、美希は露骨に未練を残して文句を言いながら優花に引っ張られて渋々走る。


「あっ!待ってくれ!話くらい・・・・・」


 木源が呼び止めるが聞く耳持たず。4人は雑多の中に消えていった。


「あの子(紅葉)・・・絶対にイケるよ。隙の多さも含めて、典型的な光る原石だな。」


 だが、チーフプロデューサーの割井は、まるで動じていない。自分のスマホを弄って、他人がアップした紅葉の画像を眺めて、不敵な笑みを浮かべる。




-翌日・粉木邸-


「・・・とゆ~わけでね。

 千切れた5千円札みたいヤツのせいで、ご飯に行けなかったの。」

「災難だったのう。」

「ぅん、最悪だったよぉ~。」

「・・・千切れた5千円札みたいな奴?」


 台所で食卓を囲み、紅葉が食パンを囓りながら愚痴る。燕真は、紅葉の言い分が、スカウトされた自慢なのか、純粋な愚痴なのかよく解らず、しばらくは黙ったまま聞いていたが、やがて口を挟んだ。


「オマエさぁ・・・インスタとかツイッターやってる?」

「やってるよ、なんで?」

「ちょっと見せてみろ。」


 慣れた手つきでタップをして、言われた通りの画面を開いて渡した。燕真は画面をスクロールして確認をする。Twitterで使ってる名前は、紅葉なりに捻って【め~ぷる】。さすがに本名を載せるほど愚かではなかった。


「あっ!このボブカットの子、見たことあるな。」

「アミだよ。」

「こっちにスリムな子は?」

「その子はユーカ。」

「こんなオシャレな子も友達にいるんだ?」

「ミキだね。」

「へぇ~~~~~~~。楽しそうだな。

 ・・・って、そ~じゃね~だろ!

 オマエだけじゃなくて、友達まで顔丸出しじゃね~か!!」


 ハンドルネーム以外が全て赤点。制服姿で友達とカラオケに行った画像や、映えるデザートの後でポーズを聞けてる画像等々、全くの無修正で素顔を晒している。これじゃ、顔で興味を持たれて、制服で身元がバレるぞ。


「せめて、修正しすぎて原型が解らなくなるくらい盛れや。」

「友達しか見ないからダイジョブと思ってぇ~。」

「オマエの場合は友達の定義がいい加減というか、

 どうせ、ただの知り合いまで友達扱いしてんだろ?」

「・・・ぅん。」

「ツーショットを撮影した連中がアップしたオマエの画像を、

 TV関係者が見て、相互登録からオマエのアカウントに辿り着いて、

 身元がバレたんじゃね~のか?」

「よくワカンナイ。」

「俺は、前々から、安易なツーショット撮影が気に入らなかったんだよ!」

「アレェ?燕真、もしかして妬いてるの?」

「チゲーよ!オマエが迂闊すぎるって言ってんだ!

 これ以上ややこしくなる前に、全部修正しろ!

 今すぐだぞ!店が始まるまで、ずっとやっとけ!」


 紅葉が言った「妬いてる?」はチョット正解。でも、紅葉が調子に乗りそうなので認めない。


「ん~~~~~~~・・・・ワカッタぁ~~~。」


 燕真は、朝食で使った食器を洗い始め、紅葉は台所の食卓に座ったまま、スマホを弄り始める。


「よし、終わった!」

「えっ?もう??」


 紅葉がスマホを弄り始めてから10分程度。燕真はまだ食器洗いを終わっていない。アップされていた人物画像全ての修正を終えるなんて不可能だ。燕真は、開店の時間まで、紅葉にアドバイスをしながら修正を手伝おうと思っていたので、少し驚いてしまう。適当にチョットだけ修正して、終わったつもりになってるだけじゃあるまいな?


「本当か?見せてみろよ!」

「え?見せんのムリっ!」

「なんでだよ!?」

「修正すんのメンドイから、アカウント、全部、落としちゃった。」

「はぁぁっ!?」


 ネット上で綴った思い出を、容赦無く全部消しちゃった?そこまでしなくても良いんだろうけど、「修正が面倒臭い」って理由で、極端に徹底するのが、如何にも紅葉らしい。注意をした燕真の方が、申し訳ない気持ちになってしまった。




-11時・YOUKAIミュージアム-


 それは、華やかなオーラと共に現れた。出入口が開き、TVで見たことのある容姿抜群の3人の女性が入店をして、紅葉の度肝を抜き、店内の客達をどよめかせた。


「こんにちは~。

 今、町ぶらのロケをやっているんですけど、店内の撮影はOKですか~?」

「んぇ?・・・えぇぇっっ!!!?」


 人気アイドルの真倉英理(まくら えいり)、芹田楠美(せつだ くすみ)、栄木羊(えいぎ よう)。それぞれが、あざと可愛い系、クール系、エレガント系のファッションをバッチリと着こなし、仕事中ゆえに芸能人のオーラ全開で、柔やかな笑顔を振りまいている。


「じ、じいちゃ~ん!お店がTVに映ってもイイの~?」


 2階勤務の燕真も、1階の普通ではない空気を感じ取って降りてきた。近年のTV事情に疎い粉木だけが、状況に取り残されている。


「何や、燕真?どういうこっちゃ?」

「芸能人が、この店で飯ロケをしたいから、撮影して良いか聞いているんだよ。」

「なして、こない店で?」

「適当に町を歩いていて、目に付いた店に入ったり、

 適当にインタビューして、お気に入りの店を紹介してもらう番組なんだ。」

「あの子等は?」

「人気アイドルグループ・ハニートラップの真倉英理と、芹田楠美と、栄木羊。

 まさか、この店で見られるなんて思ってなかった。」

「イヤな名前のグループやのう。」


 紅葉と店内の一般客達は「まさか、英理ちゃん達を追い返さないよね?」と言いたげな眼で粉木を見ている。


「イイよね、じいちゃん?」


 紅葉にオネダリをされた粉木は、「店内を撮影されたくらいで、退治屋の存在が公に成ることはない」との自信があるので、OKサインを出した。芸能人の1人が、店の外に顔を出してスタッフ達を呼び込んだ。直後に、紅葉は選択をミスしたと気付く。


「ど~も~!ご協力、感謝しま~す!」


 呼ばれて入ってきたのは、昨日、紅葉を勧誘した連中。TVトキオの割井プロデューサーと、木源AD。


「俺、寝違えちゃったみたい。」

「俺も。おかげで首が回らないよ。」

「はははっ!そりゃ、借金してるからじゃね~のか?」


 その後から、その他のスタッフ達が、よもやま話をしながら続く。


「・・・げっ!千切れた5千円札っ!」

「なんやなんや?大所帯やのう。」


 大義名分を得た彼等は、ロクな説明も無いまま、一般客達を押し退けて撮影を開始。アイドル3人の中でも特に可愛らしい真倉英理が、カメラに向かって喋り始めた。


「ここは、文架市の東にあるYOUKAIミュージアムという

 変わった名前の喫茶店です。」

(喫茶店やのうて、博物館なんやけどな。)

(TVでサテンて紹介されたら、もう誰も博物館とは認識しなくなりそうだな。)


 引き気味で様子を見ていた粉木に、英理が話しかける。同時に、集音マイクとテレビカメラも、粉木に寄ってきた。慣れていない粉木は戸惑ってしまう。


「このお店には看板メニューがあるって聞いたのですが、

 どんなメニューなんですか?」

「えぇっと・・・パワフルビザトーストと、メガトンハンバーグスパゲティーと、

 モンスターパフェやな。」

「なら、それを1つずつお願いしま~す。」


 注文をしたところで、一旦撮影中止。アイドル3人は席に座り、撮影スタッフ達や、メイク係が囲む。割井と木源は、しばらく段取りの打ち合わせをした後、紅葉のところに寄ってきた。


「やぁ、源川紅葉ちゃん。突き止めたよ。」

「えっ?ど~ゆ~ことですか?」

「偶然ロケで寄った店に、たまたま君がいる・・・なんて有り得ないって事。

 最初っから、君がいる店を選んで来たんだよ。

 テレビ的には華やかな絵面が欲しいからさ、料理の説明は、

 マスター(粉木)や、そこの兄さん(燕真)じゃなくて、君にしてもらうよ。」

「はぁ・・・はぃ。」


 いつもは強気にな紅葉が、TVマンの強引さに押されている。カウンター内の厨房で粉木と燕真が、パワフルビザトーストと、メガトンハンバーグスパゲティーと、モンスターパフェを作り、アイスコーヒーとセットでテーブルに並べたところで、撮影が再開された。

 既に運び終えていて、見て知っているのに、カメラが廻った途端に、量の多さに驚いた演技をする3人組アイドル。カメラアングル内には紅葉も立っており、段取り通りに英理に尋ねられて、「当店自慢の~」と説明をする。

 説明が終わったところで、「いただきます」と合掌をして、美味しそうに食べながらレポートを開始。数口食べたところでカメラが止まる。


「ごちそうさま。」

「尺は取れましたよね?」


 まだ料理は半分以上残っているが撮影は終了。英理達はアイスコーヒーだけを完飲して、取り巻きのスタッフを連れて店から出て行く。


「次はこの近くに有る大きな公園でのロケに成るから、

 しばらく車の中で休んでいて。」

「は~い」×3

「私達、大食い王じゃないんだから、こんなに食べられないよ。」

「なに、あの店員。チョット可愛いからって私達より目立っちゃダメでしょ。」

「ウェイターの若い男、チョット格好良かったよね?」

「どこが?普通だよ。」


 店内では愛想良くしていた3人だったが、店から出た途端に、燕真&粉木が聞きたくないことを喋り出した。


「ァタシ、あの子達より目立ってた?そんなことないよね、燕真?」

「さぁ、どうだろ?チョット微妙というか、彼女達が嫌がる気持ちは解るかな。

 ・・・てか、俺、普通かよ?」


 3人とも容姿端麗だが、せいぜいで80~90点止まり。見た目だけに限定すれば、黙っていれば満点の紅葉と同一のカメラアングルに収められるのは嫌なのだろう。

 大量の残されたパワフルビザトースト&メガトンハンバーグスパゲティー&モンスターパフェがカウンターに下げられ、考案者の紅葉は不満そう。店内に残った割井と木源が、支払いの為に寄ってきた。


「あ、あの・・・ど~して、ァタシが、ココでバイトしてるの知ってるんですか?」


先ほど、「偶然ではなくピンポイントでこの店を選んだ」と聞かされた紅葉が、割井に質問をする。


「君の画像をアップしていた奴に、金を払って聞いたんだよね。

 バイトの時間帯は、君のTwitterで確認した。

 ここまで言えば解るだろうけど、撮影のついでに、君に会いに来たの。

 いや・・・君に会いに来るついでに、ここで撮影したってのが正しいかな。」


 随分と失礼な物言いだ。YOUKAIミュージアムでの食事はオマケ扱いらしい。

彼等は周到だった。いきなり店に押し入って紅葉を口説けば、「営業妨害」と店から追い出すこともできたが、撮影付きで。客として振る舞ってきたので、キチンと接客をするしかなかった。言うまでもなく、昨日のように逃げ出すことはできない。


「・・・むぅ~~~~~」


 燕真の危惧は正しかった。紅葉がアカウント全消去をして、話は終わったと思っていたら、考えが甘かった。ツーショットを要望した客のソーシャルサービスから、身元を突き止められてしまったのだ。


「とりあえずさ、今は夏休みで時間が有るだろうし、

 何事も経験って事で、ダメ元でオーディションだけでも受けてみなよ。

 嫌だったら、途中で辞退すれば良いんだからさ。」

「ん~~・・・ホントに、有名人に会えますか?」

「番組で成功を収めれば、共演だって可能だ。英理達は、俺の番組出身だ。

 少しは興味を持ってくれた?」

「・・・ぅん。チョットだけ。」

「おぉっ!いいね、いいね!

 実は、一次選考の書類審査は締め切っているんだけどさ、

 君だったら、書類審査無し。俺の顔で通過させてやれるよ。

 来週が、面接と、希望曲で歌唱力の審査だ。オーディション会場で待ってるよ。」

「・・・はい。」


 紅葉の了承を得た割井達は、支払いを済ませて領収書をもらい、次の撮影の為に足早に店から出て行った。


「目当てはお嬢だけ。

 せっかく作ったモンを大量に残して、金さえ払えば、相手の気持ちなど関係無し。

 ・・・失礼な連中やのう。」

「‘スタッフが美味しくいただきました’ってゆ~の・・・ウソだったのかな?」


 紅葉は不満そうにカウンター席に座って、カウンター台の上に置かれたピザトーストを一撮みして口の中に放り込んだ。


「ホント・・・ムカ付く。」


 燕真は、てっきり「紅葉は断る」と思っていたので、紅葉の想定対の対応に困惑気味だ。


「オマエ、オーディション受けんのか?」

「ホントゎイヤなんだけどさぁ。」

「だったらなんで?」

「アイツ等、きっと、ァタシが‘うん’って言うまで、居座るもん。

 あんなヤツ等が居たら、他のお客さんが迷惑しちゃう。」

「・・・まぁ、言えてるな。」


 燕真は、紅葉が軽薄な連中の口車に乗ったワケじゃないと知って、少し安心をした。フォークを取って、「もったいない」と言いながら8割ほど余ったスパゲティーを食べようとしたが、紅葉に手を叩かれて、フォークを落とす。


「芹田楠美と間接チューになるからダメ。」

(・・・くそっ!魂胆がバレた!)


 紅葉が粉木に視線を向ける。粉木も紅葉を見つめて小さく頷いた。


「ねぇ、じいちゃん?

 アイツ等が住んでんの東京だけど、こ~ゆ~場合はどうなんの?」

「事件が文架市で起こらな、ワシ等の管轄には成れへん。

 だけど、解っとって放置するわけにはいけへんやろうな。」

「ん?ジイさん、紅葉、何の話だ?」


 ノールックのまま、手の平でカウンター台を叩く紅葉。派手な音が店内に響き渡る。


「おいおい、物に八つ当たりすんなよ、凶暴娘!」

「チガウよぉ。

 アイツ等にくっついていた子妖が、お店に置いていかれちゃったのっ。」

「えっ?マジで?」

「燕真、ァタシをどんな目で見てんの?

 ァタシ、イライラしただけでカウンターを叩くほど凶暴ぢゃないってばぁ!」

(・・・凶暴だろ。) (凶暴やな。)


 燕真には見えないが、紅葉の手の中で、祓われた闇が消滅をする。


「ヤツ等の何人かが、子妖に憑かれとる。」

「アイツ等の何人かが、ネチガエタって言ってたでしょ。多分、子妖のせいだよ。」

「本体は解らんかったか、お嬢?」


 子妖は、本体から離れすぎることはできない。つまり、本体が文架市外に存在して、子妖に憑かれた連中だけが文架市入りをするのは不可能。


「上手に隠れてるみたいで、全然わかんなかった。」


 憑いている子妖を祓うことは可能。だが、手、もしくは、祓い棒で叩かなければ成らない。子妖を、初対面の客ごと殴るわけにはいかないので、紅葉には手を出せなかったのだ。まぁ、初対面じゃなくても、客を殴っちゃダメだが・・・。


「東京の本社には連絡をしとく。

 だけど、事件が大きなる前に処理する為には、

 こっちで動くしかあれへんやろうな。」

「そっかぁ~・・・やっぱりそうなっちゃうんだぁ?

 塾終わったらカラオケ行くからさぁ・・・燕真、付き合ってね?」

「はぁ?急に何の話?」

「アイドルオーディションの二次が、フリーの歌唱力審査なの。

 三次審査が課題曲の歌唱力とダンス、最終審査が演技力。

 二次審査で落選して、ヨーカイの関係者に絡めなくなるのは困るし、

 ど~せオーディション受けなきゃなら、ちゃんとやりたいからさ、

 歌の練習に付き合ってよ。」

「なるほどな。言ってることは理解出来た。

 でも何で俺が、付き合わなきゃならない?」

「なに言うてんねん?お嬢のサポートは、オマンの最重要任務や。」

「えっ?俺がサポート役?一緒にカラオケに行くのが仕事?」

「言わんでも解っとるやろうが、

 お嬢がオーディションで東京に行く時は、オマンが付き添うんやで。」

「ぅん!燕真がァタシに付いてきてくれるんだよ!」

「いやいや、解ってね~よ!なんで、小娘の東京引率が、俺の仕事なんだよ!?」

「オーディション中にお嬢が襲われたら、オマンが守ってやるしかないやろ。」

「・・・だぞっ!燕真っ!!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「お泊まりで行く?」

「宿泊費は支給されんから自腹やで。」

「・・・日帰りに決まってんだろう。」


 燕真の東京出張が決まった。仕事の内容は紅葉の送迎と子守。燕真にしか熟せない凄まじく難易度の高い(?)任務だ。全く客が来ないYOUKAIミュージアムの2階で、1日中ボケッとしていた方が数倍マシである。




-19時・川東にあるカラオケボックス-


 燕真と紅葉が、2時間でソフトドリンク飲み放題のコースで受付をして、指定された部屋に行く。燕真がソファーに腰を降ろすと、直ぐ隣に紅葉が座って、早速、リモコンで曲の検索を開始した。


「トップバッター、ァタシでイイ?」

「リモコン占拠しといて、それを聞くか?

 オマエの練習の為に来たんだから、好きなだけ歌え。」

「んっ!アリガトっ!」


 紅葉は、手慣れた仕草でリモコンを操作して1曲目をエントリー。更に、曲が準備されるまでと、前奏の時間を利用して立て続けに計5曲をエントリーしてから、マイクを握って立ち上がった。


「5曲連続?・・・歌う気満々だな。」


♪~♪~♪~

 聞いた事のある‘3人組テクノポップユニットの曲’だ。リズムのテンポが良く、聞き馴染みのある曲なので、アイドリングに選ぶにはちょうど良い曲。いきなり、バラードやマイナーな曲を選ばない辺りは、ちゃんとマナーを心得ているようだ。燕真は、「紅葉の趣味はコレ系か」「友達と来ても、このパターンかな」と、自分が見ている時以外の紅葉のプライベートを垣間見た気がした。


「♪~」


 元々、甲高い金切り声から、ドスの利いた低い声まで、声量の振り幅が広い紅葉だが、リズムの乗せると聞き心地が良い。音程は、たまに外れる程度。最初は適当に聞き流すつもりだった燕真が、歌う紅葉の迫力に飲み込まれて、モニターに表示される歌詞に見入ってしまう。


「マジか?メッチャ上手いじゃん。」


 その後、紅葉は同ユニットのノリの良い曲ばかりを計4曲歌いきってから、ソファーに座ってマイクを置いた。


「ふぅ~・・・チョット休憩!次!燕真の番ねぇ!」

「えっ?俺、エントリーしてないんだけど。」

「ァタシが入れといた。」


 後奏が終わって、次に始まった前奏は、燕真が好んで聴くバンドの曲だった。歌うつもりが無かった燕真は、少し驚いてしまう。


「なんで、俺の趣味を知っている?」

「前に、燕真のおうちに行った時に、CDがあるのをチェックしといた。」

「目聡い・・・と言うか怖いよオマエ。」

「い~から、い~から!歌って!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 燕真は、就職をして文架市に来てからはカラオケからは遠ざかっているが、学生時代には、友達とそれなりに歌った。だから、例え押し付けられた曲とはいえ、やる気が無い雰囲気で歌うのがNGって事は解る。割り切って立ち上がり、それなりに真剣に歌った。

 その後は、紅葉が8割、燕真が2割くらいの割合で歌う。中盤以降、紅葉は、バラードの選曲もするが、これも上手い。元気で騒がしい曲ばかりが専門ではないことを知った燕真は、聴き入ってしまう。


「燕真、この歌ゎ知ってるよねぇ?」

「いや、初めて聞いた。」

「なに言ってんの?燕真の大好きな清原果緒里ちゃんの歌だよぉ。」

「えっ?彼女、曲出してたの?」


 紅葉はサービスのつもりで、燕真がファンの女優の曲を歌ったが、肝心の燕真は、その女優が歌っていることを知らなかった。計2時間のカラオケで、選曲をミスしたのは、この時のみ。他は、どんなジャンルの曲でも、丁寧に歌っていた。


「二次審査どころか、三次審査も楽に通過できそうだな。」


 カラオケを終え、紅葉を自宅まで送り届けてアパートに戻った燕真が、夜空を見上げる。

 紅葉の楽しそうに歌う姿を眺めいるうちに、いつの間にか燕真自身も煽られて楽しくなった。きっと、紅葉の才能なのだろう。


「アイツ・・・本当にアイドルに成れるんじゃね~か?

 退治屋なんかを手伝って、危険な世界に片足を突っ込むより、

 よっぽど、アイドルになった方が健全かもしれないな。」


 紅葉の容姿が満点なのは、初対面の時点で認めている。歌唱力の高さも文句無し。喋り始めたら全てが台無しだが、紅葉自身がアイドルという偶像を演じれば、クリアできるように思える。




-1週間後・YOUKAIミュージアム-


 開店をした直後に、紅葉のスマホがメールの通知音を鳴らした。確認をした紅葉が、階段室を覗き込んで、2階の燕真に声を掛ける。


「燕真ぁ~!二次選考、通過したよぉ~!次は4日後だってさ~!」


 二次審査の参加者は50人。半分がふるい落とされて、三次選考に進むのは25人程度らしい。報告を受けた燕真が階段を降りてきて、カウンター席に座る。めでたい報告だが、‘めでたい’だけで終わらせるわけにはいかない。


「二次選考の時は、

 あの割井とかってイケ好かないチーフプロデューサーは居なかったんだっけ?」

「ぅん、家来(スタッフ)ゎ何人か審査してたけどね。

 アイツ(割井)ゎ、あとで、撮影したのを見て、合格の人を決めたみたい。」

「スタッフ達からは、(妖怪)本体の気配は無し・・・か。」

「ぅん、子妖ゎウロチョロしてたけど、親ゎわかんなかった。」


 紅葉と粉木が、TV局関係者に妖怪の痕跡を感じてから1週間が経過した。東京本社には報告済みだが、TV局関係者の周りでは、まだ事件は起きていない。妖怪に憑かれた依り代は、「何らかの良からぬ思いを抱いているが、まだ感情を爆発させるスイッチが入っていない」という事になる。


「ん~~~~・・・誰に憑いてるのか調べる方法ゎ無いのかなぁ?」

「親が憑いとる人間には、子は憑けへん。

 つまり、子が憑いとる奴は調査の対象外や。」


 紅葉の問いに粉木が答える。


「んぇっ?なら、妖怪が憑いてるのゎ、偉い奴(割井)?

 お店に来た時、アイツからゎ子妖を感じなかったよっ!」

「可能性は有るが、偶然憑いていなかっただけかもしれんから、絶対とは言えん。

 燕真のように、霊感ゼロで、子に憑く価値無しと避けられる人間も居るからな。」

「あ~~~~そっか。ヨーカイに相手にしてもらえない人も居るもんねぇ。」

「あ、あのさ・・・今の話題で、ワザワザ俺を扱き下ろす意味あるのか?」


 駐車場に客の車が入ってきたようだ。朝一で訪れるのは、ほぼ全て、紅葉に会いに来る客。燕真は小バカにされた文句を言いたかったが、粉木から「客が不機嫌になる」「邪魔だから2階に上がれ」と催促されて、渋々と喫茶フロアから退去する。

 4日後、調査、兼、三次選考参加の為に、再び東京に行かなければならないことだけは決まったようだ。




-都内・某ホテル-


 帽子を目深に被り、サングラスとマスクで顔を隠した女性が、足早にフロントを通過してエレベーターに乗る。上階でエレベーターから降りて、足早に通路を歩き、目的の部屋の扉をノックした。十数秒の間を置いて扉が開き、割井和留雄が顔を出す。 室内はタバコの煙と臭いが充満をしていた。


「やぁ、お疲れ。入れよ。」


 頷き、周りに人が居ないことを確認してから入出する女性。サングラスやマスクを外すと、アイドルの真倉英理だった。


「臭いが付いちゃうので、会う時はタバコはやめてもらえませんか?」

「シャワー浴びて来いよ。」

「今、来たばかり何ですから、そんなに急かさないでくださいよ。」


 真倉英理は軽く拒否をするが、ベッドで横になる割井の無言のプレッシャーに抗うことができす、浴室へと向かった。芸能活動以外の‘夜の営業’を宛がわれているのは、同ユニットの芹田楠美と栄木羊も同じ。本日は楠美は音楽プロデューサーに、羊は番組スポンサー重役の接待を任されている。ただし、割井のお気に入りの英理だけは、割井の専属。英理は、年齢が倍も歳上の割井と交際をすることで、人気アイドルの地位を担保されていた。



-都内・某アパート-


 TVトキオのスタッフ・木源登郎が眠っている。眉間にシワを寄せ、時々うなされており、穏やかな眠りではなさそうだ。木源の張り付いていた小虫が直径1mほどの闇を発し、中から小人のような異形の上半身が出現。木源の頭を持ち上げて、枕を引っ繰り返す。途端に、木源の生命力が、異形小人の発している闇に吸収されていく。

 枕には人間の生霊が込められており、枕を返すことは寝ている人間を死に近づけることを意味するとしている伝承がある。




-4日後・東京-


 燕真が駆り、タンデムに紅葉が乗ったホンダVFR1200Fが、オーディション会場の前で停車。紅葉が降りて、ヘルメットを燕真に渡す。


「調査が目的って事を忘れんなよ。」

「ぅん!モチロン!」

「オーディションなんて適当で良いんだからな。」

「それゎヤダ。ど~せやるなら、全力でやりたい。

 燕真だって‘ダメだからテキトーでいいや’なんてしないでしょ?」


 指摘をされた燕真は、自分の不器用なスタンスを見透かされた気がして、少し驚いてしまう。


「うん・・・まぁ・・・適当にやるくらいなら初めからしない。

 やるなら、良いかダメかなんて考えずに、精一杯やる・・・かな。」

「ァタシも燕真とおんなじっ!ガンバルね!」


 Vサインをして会場に駆けていく紅葉。見送った燕真は、直ぐ近くで、ハンチング帽を被り、サングラスとマスクをして、新聞を広げているけど全く読んでいる素振りが無く、オーディション会場ばかりをチラ見している男を発見した。


「何だアイツ・・・すっげー怪しいんだけど。」


 もしかしたら、妖怪の依り代?それとも、妖怪とは関係無いけど怪しい奴?燕真がガン見をしていると、視線に気付いた男は、踵を返して逃げ出した!


「怪しすぎるっ!!」


 バイクをスタートさせて、男を追う燕真!足とバイクでは勝負にならない!燕真と男の距離が5mほどにまで縮まる!「追い付かれる」と判断した男が、ビルとビルの間の幅2mほどの細道に入ったので、燕真もバイクをカーブさせて細道に入る!


「えっ?いない??」


 追い付く寸前だったはずなのに、男の姿は何処にも無い!男は妖怪に憑かれていて、細道に入った途端に、人間の限界を超える加速をした?燕真が、周囲を警戒しながら、低速でバイクを走らせていると、ハンチング帽の男が上から降ってきてホンダVFR1200Fのタンデムに飛び乗った!動揺でバイクを蛇行させてしまう燕真!


「うわっ!妖怪かっ!!?」

「慌てるな。俺だ。」

「えっ?えっ?」


 慌てて急ブレーキを掛ける燕真。バイクを停車させて振り返ると、後ろに乗った男はサングラスとマスクを外して微笑み、手を差し出してきた。燕真は。その男を知っている。


「元気そうだな、燕真!」


 握手に応じる燕真。男の名は田井弥壱(たい やいち)。燕真がYウォッチを得るまでの間、文架支部で前任として、燕真に妖幻ファイターの実戦を見せていた。現在の彼は、東京本部に所属をしている。


「田井さんっ!アンタだったんですか!」


 怪士対策陰陽道組織(通称・退治屋)は日本全域にある。従事者数は非公式組織なので非公開だが、末端まで数えれば1000人以上は存在する。そのうち、妖幻ファイターとして善戦に赴く者は約130人。本社は東京で、各政令指定都市に支店が、各都道府県に2つずつ支部が在る。


「粉木さんから本部に、オマエが任務でこっちに来る連絡が入ってな。

 気心の知れた俺が、フォローに宛てられたってわけさ。」

「そ、そうなんですか?」

「しかし、粉木さんも思い切ったことをするよな。

 女の子を囮に使って、妖怪を炙り出す作戦なんだろ?」

「・・・まぁ・・・そうですね。」


 燕真は、優秀な先輩がフォローに付いたと知り、自分の仕事は紅葉の護衛(御機嫌取り)で、妖怪討伐は田井の任務と気付いて、苦笑いを返した。2人は任務に戻る為に、オーディション会場の前へと引き返す。




-オーディション-


 三次審査の参加者は27人。半分以上がふるい落とされて、最終選考に進むのは12~13人程度になる。今回の審査員の中には、2次審査では姿を見せなかった割井和留雄の姿もあった。

 既に課題曲の歌唱力テストを終え、今は3人一組ごとに、ダンステストをしている。紅葉は、ダンスの経験など、体育の時間と、友達と遊び半分で踊った程度の経験しか無い。慣れていないので、所々でリズムに遅れてしまう。だが、彼女の真剣で輝く表情や、小柄な全身を切れの良い身振りで大きく魅せるダンスは、審査員達に「荒削りだが光る原石」と判断される。


「・・・この人達、ちょっとヤバくね?」


 紅葉は、審査員達から明確な違和感を感じていた。木源を含めた数人のスタッフが青白い顔をしている。皆、忙しくて疲労が溜まっていると考えているようだが違う。 外的要因によって、生気を奪われているのだ。だが、どうすることも出来ず、ダンスを終えて控室に引き下がることしかできなかった。


「このまんまじゃヤバい!燕真に報せなきゃ!」


 素早く着替えを終え、燕真と合流する為に控室から出てきた紅葉を、割井が待っていた。


「やぁ、紅葉ちゃん。お疲れ様。」

「あっ・・・どもっ」

「皆には内緒ね。

 改めて通知はするけど、君は最終審査に残るから、予定は入れないでくれよ。」

「んぇ?そ~なんですか?」

「ここだけの話なんだけどさ、

 面接、フリー歌唱、課題歌唱力、ダンス、総合力で、君がダントツのトップ。

 あとは最終面接と演技力になるけど、余程のミスをしなければ合格は間違い無い。

 オーディションをクリアした後は、

 俺に任せておけば、トップまで引っ張ってやる。

 君の未来は輝いているよ。最後まで気を抜かずに頑張れ。」


 割井は、紅葉の小さい肩を馴れ馴れしく撫で回して去って行く。相変わらず割井からは、子妖の類いを感じられない。粉木は「親が憑いた人間には、子は憑かない」と言っていた。つまり、割井に本体が憑いている可能性はあるということだ。だが、紅葉は、割井からは‘人としての気持ち悪さ’しか感じない。


「んんっ?あの子ゎ・・・?」


 紅葉は、「生理的に苦手」と嫌悪しつつ、割井の後ろ姿を眺めていたら、真倉英理が寄っていて、おもねるように話しはじめた。だが、割井は紅葉をチラ見した後、英理を冷たくあしらって去って行く。突き放された英理は、しばらく俯いていたが、やがて紅葉を睨み付けた。


《次ノ目星ガ付イタカラ 小粒ナ私ハ モウ要ラナイ?・・・冗談ジャナイ!》


 離れているので聞こえるはずのない英理の声が、紅葉には聞こえた。途端に、オーディション会場全体が、闇に包まれるような感覚に陥る!

 英理の背後に通路を塞ぐほどの大きな闇が出現!妖怪の本体に憑かれていたのは、割井ではなかったようだ!



-会場の外-


「出たぞ!」

「えっ?」


 妖怪の出現を感じ取った田井弥壱がオーディション会場に駆け込む!燕真は、相変わらず何も感じることができないが、田井の後を追う!

 田井と燕真が、守衛の制止を振り切って階段を駆け上がり通路に飛び出すと、オーディション参加者の少女達や、憑かれていない関係者が悲鳴を上げながら逃げ惑い、背から枕を抱えた人型異形を生やした男達が暴れ回っていた!腰を抜かした少女の前に立ち、枕を投げる人型異形!枕をぶつけられた少女は卒倒をして、枕に生命力を吸収されはじめる!


「なんで枕?」

「枕返しか!?燕真、行くぞ!」


 田井は、特殊なスマホ=YPhone取り出して、窪みに『片』の文字が描かれたメダルを填め込み、ディスプレイに表示された『片』の文字をタップして、一定のポーズを決める!


「幻装っ!」


 田井の全身が光りに包まれ、ゴーグルタイプのマスクの下で複眼を輝かせ、日本と中国の鎧を混ぜ合わせたようなプロテクターに身を包み、腰に日本刀を、左肩に車輪を付けた異形戦士・妖幻ファイタータイリンに姿を変えた!

 隣では、燕真が、Yウォッチから『閻』メダルを抜いて、和船バックルに装填する!


「幻装っ!」


 妖幻ファイターザムシード変身完了!ザムシードは、裁笏ヤマを握り締めて、子妖を祓おうとしたが、タイリンが止める!


「一匹ずつ叩いていたらキリが無い!俺に任せろ!

 燕真は、囮役の子の安全を確保してくれ!」

「わ、わかりました!」


 ザムシードを紅葉捜索に向かわせ、腰を低く落として身構えるタイリン!右肩の車輪を手に取り、子妖の群れに向けて投擲をする!


「オーン・拡散!」


 フリスビーのように投げられた車輪から妖気が放出され、男達の背から生えている子妖のみを弾き飛ばす!子妖を排除された男達数人が、表情に生気を取り戻して、その場に崩れ落ちた!

 一方のザムシードは、喧騒の中でもハッキリと聞こえる金切り声を追って走る!通路の向こうから、ザムシードを発見した紅葉が全速力で駆け寄ってきた!その真後ろから、枕を振り上げた、身長2mほどの異形が、追い掛けてくる!


「燕真っ!ヨーカイだよっ!」

「見れば解る!何やってんだ?オマエが妖怪を怒らせたのかよ!?」

「よくワカンナイっ!」


 枕を大きく振りかぶるマクラガエシ!紅葉目掛けて投擲する!


「紅葉、危ないっ!!」

「わっ!わっ!」


 紅葉を庇うべく突進をするザムシード!背後を振り向いた紅葉は、ヘッドスライディングの姿勢で回避!紅葉が足元に滑り込んできたので、慌ててジャンプをして回避するザムシード!次の瞬間、紅葉の真上を通過した枕が顔面に炸裂!ザムシードは、無様に弾き飛ばされて通路を転がる!


「ァタシに避けろって言って、何やってんの燕真っ!?」

「うるせー!」


 立ち上がり、裁笏ヤマを握り直して、マクラガエシに突進をして行くザムシード!マクラガエシは、新しい枕を出現させて握り、ザムシードの裁笏ヤマが届く前に、勢い良く振り下ろしてザムシードの頭をブッ叩いた!


「・・・くっ!」


 衝撃で床に両膝を落として四つん這いになるザムシード!マクラガエシは、蹲ったザムシードの背に跨がって、枕で頭や背中を滅多打ちにする!


「腹立つ~~~。」


 武器が枕なので、殴られたところで、致命的なダメージはゼロ。それほど痛くはないんだけど、「修学旅行で枕投げの標的にされている生徒」の気分になって、なんかムカ付く。部外者が多い屋内なので、気を使って、飛び道具や剣を使わないようにしていたが、悠長な事を言っている余裕は無いようだ。

 ザムシードは、蹲りながら、Yウォッチからメダルを抜いて、空きスロットに装填!妖刀ホエマルを装備して、マクラガエシの足元に叩き込んだ!


「ガウゥゥゥッッッ!!」


 足にダメージを受けて飛び退くマクラガエシ!立ち上がったザムシードは、マクラガエシの懐に飛びこんで、二打三打と剣閃を叩き込む!マクラガエシは、覚束ない足取りで後退をして、尻餅を付いた!


「調子に乗りやがって!・・・これで終わりだ!」


 Yウォッチから白メダルを抜いて、妖刀ホエマルのグリップにある窪みに填め込むザムシード!だが、戦いを見ていた紅葉が、ザムシードの振り上げた腕にしがみついてきた!


「待って、燕真っ!」

「邪魔すんな、紅葉!」

「ジャマすんのっ!ソイツ、弱らせてもイイけど、やっつけないでっ!」

「はぁぁっっ!?なんで!?」

「コイツが出現した理由が、チョット納得できないのっ!!」

「納得できなくても、倒さなきゃ成らないんだよ!」

「ワカッテルけど、もうチョット待って!」

「・・・全くっ!何だってんだ!?」


 紅葉の提案を聞き入れたザムシードは、振り上げていた妖刀を降ろし、白メダルを外してからマクラガエシに叩き付けた。白メダルによる封印の効果が発揮しない為、ダメージを受けたマクラガエシは、黒い霧化をして、背後出現した闇の渦に消えていく。そして闇が晴れると、真倉英理が倒れていた。


「・・・ん?この子が依り代か?」

「ァタシのこと、恨んでたみたい。」

「また、なんか失礼なことをしたのか?」

「ァタシ、木に引っ掛かったフウセンに、失礼なことなんてしないよぉ~。

 妖怪になる前に、割井って奴になんか言われてたみたいだよ。」

「木に引っ掛かった風船って、この子のことか?

 ・・・てか、オマエ、失礼なこと以外、しないだろう?」


 ザムシードと紅葉は、目の前で意識を失っている真倉英理を眺める。



-オーディション会場ビルの屋上-


「割井さんから『新しい子を育てる』って言われちゃったんです。」


 意識を取り戻した英理は、妖怪弱体化の影響で、幾分かは憑き物が落ちた表情に戻っていた。何があったのかを、燕真と紅葉に話し始める。


「それがァタシ?」

「はい、そうです。『私とは違って飛び抜けている』らしいです。」

「何が飛び抜けてんのかなぁ?だから、ァタシを見て怒ったの?」

「新人のオーディションをするって聞いて嫌な予感はしていたんです。

 仕事だけじゃなくて、私生活でも、

 ずっと、割井さんの言うなりにしていたのに。」

「おいおい、噂くらいは聞いた事あるけど、

 今の時代に、まだ、そんなことやってる業界人がいたのかよ?」

「言う通りにしていれば、トップに押し上げるって言ってくれたのに・・・、

 割井さんの悪い噂は聞いていたけど、私は違うって思っていたのに・・・、

 急に『もう要らない』って言われちゃって・・・。

 そしたら、わけが解んなくなっちゃって・・・。」


 割井だけが子妖に憑かれなかったのは、マクラガエシの依り代が、精神的に不安定になって妖怪に憑かれた後も、縋り付くような思いで、割井を特別扱いしていたから。

 同情の余地があるとは言え、安易な甘言におもねてしまった英理にも責任はある。だから、燕真は、英理の境遇よりも、次の対象が紅葉だったかもしれない事に腹を立てていた。


「君は、頼る相手を間違えたって事だ。

 今有る知名度は割井にお膳立てされたもの。

 これからは、実力で伸していかなきゃ成らない。その覚悟はあんのか?」

「が、頑張ります。」

「アイツ(割井)を呪い殺してあげたいねぇ。」

「物騒な事言うな!

 だけどさ・・・呪い殺すのはマズいけど、ギャフンとは言わせたいな。」

「・・・できるんですか?」

「俺が見て無ぬフリをしている間に、君が念じればな。

 妖怪の力は、人間が扱える代物じゃない。

 割井に復讐をした後で、妖怪は排除する。君はこの事を忘れる。それが条件だ。」


 燕真の提案に対して、紅葉はウンウンと何度も頷いて英理を見詰め、英理も首を縦に振って同意をする。




-夜・都内の某マンション・割井の部屋-


 割井が、ショットグラスに入ったアルコールを飲みながら、ノートパソコンで、本日のオーディション参加者のデータを眺め、最終オーディションに残るメンバーを選考していた。1人を覗けば、旬の賞味期限は1~3年ってところか?源川紅葉が別格すぎて、他は全て‘ドングリの背比べ’としか感じられないので、偉いさんのコネ付きや、部下の木源登郎のお気に入りの子を、義理で適当に最終選考まで残してやる。


「くっくっく・・・芸能界が変わるぜ。

 チョット見た目が良いだけの連中は、全て淘汰される。

 俺が、手垢を付けて、酸いも甘いも俺に仕込んだ小娘に、それをやらせるんだ。」


 割井は、自分の名が未来の芸能史に残ることを想像しながら、ノートパソコンを閉じて、グラスのアルコールを飲み干し、ベッドに行く。普段ならば、自分の手垢付きを呼び出すこともあるが、「新規の特上」が控えている状況なので、他はもう要らない。ベッドに入り、小悪党のような笑みを浮かべた後、リモコンで照明を消して、枕に頭を沈める。


「・・・ん?」


 妙な圧迫感を感じたので眼を開けたら、不気味な異形(マクラガエシ)が、真上から顔を覗き込んでいた。


「なっ?夢・・・か?」


 異形は、片手で割井の頭を持ち上げ、もう片方の手で枕を引っ張り抜き、反対に返してから、持ち上げていた頭を解放した。途端に、割井の上に闇の渦が出現!体はベッドの上に有るのに、体が渦に吸い込まれていくような錯覚に陥る!


「う・・・うわぁぁぁっっっっっっっっっっっ!!!!」


 何が起きているのか全く理解ができない。ただ、時間の経過と共に、渦に吸われて、体力が急激に消耗していくのを感じる。



-マンションの屋上-


「オシオキゎどう、エイリ?」

「もうチョット・・・

 精も根も奪い取って、二度と、女の子を泣かせられないくらいまで。」

「アイツ(割井)、泣いてる?」

「泣いてはいないけど、超ビックリして、悲鳴を上げまくっているよ。」

「お~~!エイリを泣かせたバツだ!もっとやっちゃえ!」


 紅葉と英理は、下階の割井の部屋の状況を理解しているようだ。燕真には、何が起きているのかは感知できないが、だいたいの想像は付く。


「死なない程度で終わらせる約束だぞ!

 やれやれ・・・女は怖いなぁ。」


 例え警察には立証できなくても、殺してしまったら、英理は殺人犯になる。さすがに、退治屋が、妖怪の犯行を幇助するわけにはいかないので、燕真は注意喚起をしておく。

 時代を読めず、悪しき風習を現代まで持ち越してしまった割井が、少々気の毒な気もするが、これまで、彼が権力を笠に着て言い寄り、捨てられて泣いた女性は、英理だけではないらしい。たくさんの女の敵と考えれば、当然の報いなのかもしれない。


「そろそろ良いかな?」


 英理は恨みを念じる事をやめ、澄み切った表情で燕真のところに寄ってきた。燕真的には、男1人を潰しておいて、澄んだ表情をしていられる英理が怖い。


「気が済みました。祓って下さい。」

「はいはい・・・

 まぁ、これくらい精神的にタフなら、これからもやっていけるか。」


 燕真はザムシードに変身をして、白メダルを填めた妖刀で、英理の内に憑いた闇だけを斬る。英理から闇が上がり、妖刀に吸い込まれ、グリップに収まっていたメダルに『枕』の文字が浮かんだ。これにて、妖怪討伐完了。


「念の為に、もう一度言っとくけど、

 俺達のことも、妖怪のことも、無かったことにして忘れるんだぞ。」

「はい、解っています。」

「もし、ァタシ達のことを誰かに言ったら、

 エイリがアイツのアイジンだったことと、

 エイリがアイツをハイジンにしたことを、ァタシ達もバラすからねぇ。」

「お互いに内緒。これでお相子だけ。」

「ぅんっ!」


 満足そうに微笑み合い、ハイタッチをする紅葉と英理。いつの間にか2人の間に友情が成り立ったらしい。ワガママ娘同士で波長が合ったのだろうか?燕真には、黒い秘密の共有で繋がった2人の友情が怖くて仕方が無い。




-数分後-


 燕真が駆り、紅葉をタンデムに乗せたホンダVFR1200Fが、夜の公道を走っていると、同種バイクに跨がった田井弥壱が、道を塞ぐようにして待っていた。燕真はブレーキを掛けて、5m程度手前でバイクを止める。退治屋が公認で、妖怪に人を襲わせるなんて前代未聞。粉木への報告を先んじて、先輩から説教されることを覚悟する。


「無茶するなぁ~、燕真。

 だが、事件発生前に張り付けたおかげで、死者は出ていない。

 初動の早さに免じて、目は瞑ってやるよ。」

「黙認してくれるんですか?」

「まぁ~な。止めるつもりなら、とっくに止めているさ。」

「えっ?気付いていたんですか?」

「当然だろ。昼間、封印をしなかった時点で、何かやらかす想像はしていた。

 ド新人の暴走に気付けないようじゃ、先輩失格だよ。」

「ありがとうございます。」

「ただし・・・オマエの役割は、あくまでも後の娘の護衛。

 事件の管轄は、本部だ。そこまで、俺の面子を潰すなよな。」

「了解です。田井さんの顔は立てますよ。」


 燕真は、Yウォッチから、封印したばかりの『枕』メダルを抜き取って、田井に向けて投げた。田井はワンハンドキャッチをしてサムズアップを返す。


「オマエの優しは嫌いではない・・・だが、ほどほどにな。

 その優しさに足を引っ張られないように気を付けろよ。」

「・・・俺が?」


 田井は、バイクを回頭させ、背中越しに軽く手を振って去って行く。燕真は、呆気に取られた表情のまま先輩を見送っていたが、タンデムの紅葉に「早く帰ろう」と催促されて我に返った。


「なぁ、紅葉?俺、優しいのか?」

「ぅんにゃ・・・優しくねぇ~。イヂワルだよ。」

「優しいとは思わんが、意地悪では無い!」


 バイクをスタートさせる燕真。燕真の背中にペタリと顔を寄せる紅葉。口では否定をしたが、燕真の優しさを誰よりも知っている自信は有る。




-2日後-


 一日無断欠勤をして、次の日に出社をした割井を見たTVトキオのスタッフ達は驚いた。死相が出ていると思えるほどに頬は痩け、20~30年分纏めて老け込んだような風体で、先日までの強引気味な活発さがまるで無い。木源登郎が話しかける。


「割井さん。最終オーディションの選考はどうなりましたか?」

「あ~~~~~~・・・もう、ど~でもいいや。」

「一押しの、小柄でツインテールの子は?」

「興味無くなった。」


 最初は「子飼いの子と頑張りすぎた?」と噂をしたが違ったようだ。まだ40代なのに男性としての機能は失われてしまい、権力で女の子を侍らせる気力が無くなり、且つ、女の子を侍らせる目的が失われたゆえに、出世をする気力が無くなったらしい。

 割井の欲求に青春の全てを捧げてしまった真倉英理の逆襲。マクラガエシによって、割井が一生分の精気と覇気を奪われてしまったことは、彼女を含めて僅か数名しか知らない。


 ちなみに、割井がやる気を無くした為、いくつかの番組が企画倒れをして、ハニートラップ(英理達のグループ)の文架市ロケもお蔵入りと成った。




-数日後の朝・粉木邸-


 YOUKAIミュージアム開店までの一時、燕真&紅葉&粉木は、茶の間で朝の情報番組を見ながら過ごしていた。TV画面では、真倉英理が本日発売の新曲と新作PVの宣伝をしつつ、MCとフリートークをしている。


「この子、こない朗らかな子やったか?」

「ちょっと下品になった気がするな。」

「チガウよ、燕真!前よりもキャラ作ってなくてイイ感じになったんだよ!」

「・・・なるほどね。」


 それが、彼女の古参ファンにとっては、喜ばしいことなのかどうかは解らない。彼女が、新しい宿主に寄生をしたのか、自分の力で成り上がろうとしているのかは解らない。だが、高圧的なプロデューサーと決別した真倉英理は、テレビの中の偶像ではなく、活き活きとした人間に見える。


「アイドルか~~~~。

 ・・・チョッピリ憧れちゃうけど、ァタシにゎ向かないなぁ~。」


 紅葉は最終オーディションまで進んだが、演技テスト後の最終面接で「無理矢理参加をさせられただけ」「芸能人に成る気は無い」とハッキリと言い切ってしまったらしい。紅葉をゴリ押ししていた割井が審査員から去った状況では、辞退する者が選考されるわけが無い。


「バカだな~・・・勿体ない。」

「これでイイの。

 ァタシゎ知らない人達の前でニコニコするより、燕真と妖怪バスターズやったり、

 じいちゃんと喫茶店やってる方が楽しいんだもん。」

「妖怪バスターズ?いつそんな組織ができた?」


 TVから流れるPVの曲に合わせて、紅葉が鼻歌交じりに見様見真似で振り付けをする。燕真は、憎まれ口を叩きながら、内心では、これからも紅葉と共に居る事に安心をした。

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