第7話 後戻り出来ない女 〜桐島文香視点〜
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〜桐島文香視点〜
一年前、クラスに好きな男子が居た。
名前は山本亮介。正直ガチ惚れ。
顔も結構イケてるんだけど、それ以上にあの性格が好きになった。正義感溢れるというか……困った人が居たらほっとけない優しいところ。
趣味も本当によく合った……可愛い女の子がいっぱい出てくるソシャゲの奴。
私は結構派手な見た目だし、普段連んでる友達もそういった子ばっかり。
みんなファッションや化粧の話しかしないから、亮介とゲームの話が出来るのが本当に嬉しかった。
もちろんファッション雑誌も、化粧品を買いに行くのも楽しい……でも一番はゲーム。
その話が出来る亮介は私にとって大事な存在だね。
誰かを好きになったのは生まれて初めて。
これまで友達に紹介されて何人かと付き合って来たけど、好きになって付き合った事も無かったし、付き合ってる内に好きになる事もなかった。
だから──初めて好きになった亮介とどうしても付き合いたかった。
ライバルは多い……弟を猫可愛がる姉、血が繋がってないから結婚できる妹、中学からの付き合いの生徒会長さん。
皆んな本当に綺麗で手強い。
もう一人、なんとか麻衣って子も居たけど、そこまで仲が良さそうに見えないから相手にしなくても大丈夫そう。
なんか見た目地味だしさ。
素材は良いと思うけど……化粧もしてないし、前に学校行事で見た私服もセンスがない。
でも幼馴染ってのがムカツク……まぁ別に虐めたりはしないけどさ。
「ふふ……亮介。絶対にモノにしてやるんだから!!」
──────────
「は、はぁ!?ゴウカン未遂??」
「デジマデジマ!アタイの連れから聞いたし!」
聞くところに寄ると、夜中に女性に暴行しようとして近くの高校生に止められたらしい。
楓さんに話を聞きに行っても、やっぱり本当の話っぽかった……激愛していた姉が言うなら本当でしょ。
生徒会長も楓さんに事情を聞いて落胆していた。
こんな男に心底惚れていたのが無性に腹立つ。
『このくそ野郎が!!』
『………っ!!』
どこか虚な目をしていたが関係ない!思いっきり殴り飛ばしてやった!
私をどうしようもないくらい惚れさせといて、そんな本性を隠してやがったなんてっ!
でも殴っても少しも気は晴れなかった。
ただただ虚しいだけ……どうやっても初恋の感情は取り返せないんだから。
もうコイツとは関わらないでおこう──
──そう思ってもダメだった。
会えば必ずちょっかいを出してしまうし、憎まれ口も叩いてしまう。
何故なのか分からない。
ダサいから関わるのは止めようと思ってても、顔を見ると自分から関わりに行ってしまう。
それも何故なのか分からない。
学年が上がりクラス替えになった時、また同じクラスになって何故かホッとしてしまった。
本当になんでだろう?
わたしには分からなかった。
──────────
そうこうしてる内に私はとある男性を友達に紹介された。
「この人よ?あのゴウカン男を捕まえたの」
「本当に?」
それは亮介に襲われた女性を助けたという三人組の一人。
もっと好青年かと思ってたけど案外チャラい。
髪の毛は赤く染めてるし、私たち寄りの人間だった。
「良かったら付き合わね?」
「……うん、別に良いけど」
正直タイプじゃないけど、女性を助けるカッコイイ所もあるし、何より亮介の当て付けとして付き合う事にした。
彼氏が出来るのは今回が初めてって訳じゃないし。
第一、亮介に惚れるまでは取っ替え引っ替えで彼氏が常に居た……アイツを好きになってからは誰とも付き合わなくなったけどね。
男って直ぐに身体の関係を求めて来るから、それを断ってると向こうが別れを切り出す。
そう言うのは本当に好きになってからって決めてる。
お陰様でキスもまだ誰にも許してない。
──そして久しぶりに男と付き合い始めた翌日、私はさっそく亮介にそれを報告した。
『私、あんたに襲われた女性を助けた男と付き合う事にしたからね』
『………ふふ……そうなんだ』
『は、はぁ?』
思っていた反応と違った。
凄く悔しそうにすると思ってたのに鼻で笑われた。
強がりって感じにも見えない……私がその男と付き合ったのが心底面白くて笑ってる。
『訳が分からない』
私と仲良く話して楽しそうにしてたのに、他の男と付き合い始めて悔しくないの?
しかも相手はアンタから女性を救ったヒーローだよ?
どれだけ幸せアピールしても、亮介が目をくれる事は無かった。ムカつくから靴に画鋲入れてもやり返して来るし。
『なぁ?そろそろ良いだろう?』
『いやよ』
付き合ったのは良いけど、今までの誰よりも意地汚い男だと数日で分かった。もう次の日にはしつこく身体の関係を迫ってくる……でもそれだけは絶対に無理だし。
『キスだけなら』
『チッ!分かったよ!』
これまでの私なら有り得ない妥協。
あまりにしつこいからファーストキスを許してしまった。
ううん、それだけじゃなくて、亮介への当て付けで付き合った罪悪感もあったんだと思う。
それでも唇が触れ合った感触が本当に気持ち悪かった。
こんな事はもう二度としない、けど──
──ああ、亮介だったらどんなに良かっただろう。
『あ、あり得ないから!』
自分の独り言に反応し、首をブンブン振って否定した。
女性に暴行する男なんてやっぱりどう考えてもあり得ない。
だから……
……私の選択はきっと間違ってない。
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