第8話 冤罪の判明


今日は日曜日。


俺は麻衣に誘われてショッピングを楽しんだ。いろいろ買ってあげようと思ってるのに毎回断られてしまう。


尤も、そんな遠慮がちなとこなんかも可愛いんだよな。この世に麻衣以上に可愛い女の子が存在する筈がない。


ファミレスに寄ったんだが、熱々のドリアを悪戦苦闘しながら食べてる姿も可愛いし、綺麗な女性が近くを通り過ぎる時に俺の目を隠す姿なんか愛おし過ぎる……そんなことしなくても麻衣以外に興味なんてないのに。


一緒に居て嫌に思った事は一度もない。


何より性格が良いんだ、この子。

まず他人の陰口は絶対に言わない……言ったとしてもそれは相手を褒める時だけだ。


それに俺の事を良く知ってくれている。

どんな映画が好きか、大好きな食べ物、行きたい場所……全て分かってくれている。

詳し過ぎると思わなくもないが、麻衣に自分を知って貰えてるのが本当に嬉しい。


それなのに冤罪事件が起きる前まで、麻衣を【仲の良い幼馴染】くらいにしか思ってなかったなんて……1年前の俺が信じられない。


『麻衣はクラスで割と可愛い部類かな?』


それが麻衣に対する俺の評価だったが──割とってなんだよ割とってッ!……宇宙一可愛いだろうがッ……と今なら思う。


俺って本当に人を見る目が無かったんだな。


姉、妹、生徒会長、桐島。

ここら辺を可愛いと思ってしまっていたんだから……ほんとにガワしか見てなかった。



そして麻衣が居なければ俺は一体どうなっていただろう?


麻衣だけじゃない。

母さんも、麻衣の両親も……それと男友達の中で唯一、俺を信じてくれた他校の親友。

誰か一人が欠けていても、俺は正気を保てなかっただろうな。


この五人に受けた恩は絶対に忘れない。

彼らが何かで困ったとき、絶望したとき、何が何でも助けようと思っている。例え自分を犠牲にしたとしても。



───────────


夕方まで麻衣とのデートを満喫した俺はその最愛の女性を自宅まで送った。



「亮介くん、麻衣とは楽しく遊べたかね?」


「あ、おじさん、こんばんはです」


麻衣の父さんと顔を合わせた。

これまで何度も家で御馳走になったし、俺にとってこの人こそが本当の父親と言えるだろう。そんな風に思ってるとバレたら引かれてしまうかな?



「亮介くんはしっかりしてるからな!麻衣を夜遅くまで連れまわさない真面目な男だから、いつも安心して麻衣を預けられるよ!」


「……ありがとう」


「もうお父さん!」


麻衣は恥ずかしがっている。

麻衣の父親•哲也さんの期待を裏切らないようにしなければダメだな。



──俺は哲也さんと数分ほど世間話をしてから帰宅する。


喉が渇いた──あ、しまったな、コンビニで飲み物を買うの忘れてたぞ?よほど麻衣とのデートが楽しかったらしい。


仕方ないのでリビングへ向かった。

冷蔵庫を開けてオレンジジュースを飲んだ。


ガラスコップに注がれたジュースをイッキに飲み干し、俺は部屋に戻ろうとした、が──



「う、嘘でしょ……冤罪?」


「そ、そんな……詐欺って……」


クソ姉妹が立ち尽くしたままテレビに齧り付いていた。


俺の存在には気づかない。

それは無視というより、テレビの情報以外なにも目に入ってない様子だ。

しかも、この世の終わりを目にしたみたいな表情……冤罪で検挙された時の俺くらいに真っ青かも知れない。


明らかに尋常ならざる様子──しかし、心底どうでも良かった。


本当に世界が終わる訳でもないだろうし、どうせ推しのアイドルが結婚したとかしょうもないニュースだろ?


俺はテレビには一切目をくれず部屋へと戻った。



………



……最近、困った事がある。

あの姉妹や桐島達を見ると、どうも殺意が湧いて来るんだよな。気を付けないといつか手に掛けてしまいそうだ。



♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


〜楓視点〜


テレビには知ってる顔が映し出されていた。

何気なく付けたテレビだが、今はそれを凝視している。


冷蔵庫を開ける音が聞こえたが、他のことを気にする余裕なんてなかった。



『今朝午前9時頃、○○市に住む会社員の松田公平(22)、高校生男女4名を詐欺の容疑で逮捕しました』


アナウンサーが原稿を読み上げる声が耳に突き刺さる。

高校生男女4人の情報は未成年なので伏せられていたが、会社員の方は顔も名前も記載されている。


「あ、あぁ……え?この人って……え?え?」


隣にいる妹も同じらしい。

暑い季節でもないのに額から大粒の汗を流し、顔から表情が消え、言語もおかしくなっていた。

ベランダの窓に映し出された自分の顔を見れば、妹と似たような表情を浮かべている。



『調べによりますと、この5人は過去にも複数回に渡って同じ犯行を繰り返しており、これまでの余罪についても取り調べを続けております』


「……ば、馬鹿な」


松田公平──亮介に襲われた被害者女性の兄だ。



「え、え?……て事は、あれ?つまり……?」


恐ろしかった。

これ以上ニュースを見るのが恐ろしい……しかし、アナウンサーは淡々と話し続ける。



『犯行の手口としましては、人目につかない場所を訪れた男性に対して「女性に暴行を働いた」等と冤罪を突きつけ、示談金を要求するといったものです』



「………ぁ……あぁ……」


一緒だっ!一緒、一緒っ!

亮介の時と同じ状況だ!


もう間違いなく、あの5人はグルだったんだ。だって人数が全く同じなのだ。


今回のニュースで捕まったのは合計で5人。

あの時の被害者女性1人と彼女を助けた3人……そして後から現れ、示談を積極的に勧めてきた被害者の兄で5人だった。


と言う事はつまり……亮介は冤罪?

いや待てっ!ダメだっ!こ、ここで亮介が本当に無実だったとしたら、今まで父さんと妹と3人で散々苦しめて来たのはどうなる?

心を入れ替えて欲しくて、被害者に謝って欲しくてずっとキツイ言葉を投げ掛けてきたんだ……!!


それが違うってなったとしても、今更わたしたちに取り返しなんてつかない。付くわけがない。許される筈がないっ。



──プルルルッ


その時、電話が鳴り響いた。

甲高い機械音に一瞬ビクッと震えてしまったが、心を落ち着かせて電話を取る事にした。



「はい……山本です」


『こちら○○警察署の者です』



「………え?」


その瞬間、私の頭は真っ白になった。




それは被害者だと思っていた女性が、あの時の発言を嘘と認めたという電話だったからだ。



ーーーーーーーーーーーーーーー


次回は明日の12:00に投稿します。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る