第3話 愛してたからこそ 〜姉妹視点〜
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〜山本楓視点〜
幼い頃から大好きな弟がいる。
この想いが想像以上だと気が付いたのは小6の夏休み。何日もずっと弟と遊んでる内に私はふと気付かされた……深く愛していると。
この子をずっと守りたいと思った。
幸い、亮介も私に懐いてくれている……だからきっと上手くやれる筈だ。
隣の家の中里麻衣が私たちに付いて周るのが少し目障りだったが、亮介はアイツに脈なんて無さそうだし、放って置いても大丈夫だろう。
それに隣の家と揉めれば両親に悪いから、ある程度は一緒に過ごしていた。
『亮介!大きくなったらお姉ちゃんと結婚するぞ!』
『血が繋がってるから無理だよっ!』
『無理じゃない……これは決定事項だ』
亮介だけは誰にも渡すもんか……ふむ、目に入れても痛くないとはよく言ったモノだな。
男勝りな口調も、亮介にカッコいいと褒められたから変えないで続けている。結婚は流石に冗談だが、ずっと一緒にいる事は……問題なく出来るよな?
私は弟と幸せな日々を過ごしている。
──────────
『……ほ、本当ですか!?』
その電話は唐突に私を襲う。
幸せな日々に終わりを告げる崩壊の電話だ。
内容は亮介が女性に暴行を働いたというもので、私は居てもたっても居られず急いで警察署へ向かう。
警察署の中には項垂れる亮介と、泣く女の子……そして佇むやんちゃそうな格好をした三人の少年だ。
『路地裏で……この男性に襲われて』
泣いてる女の子は弟を指差し語る。
亮介に襲われて三人組が助けてくれたんだと。
最初は逆だろと思ったが、事情を聞いてると亮介には不審な点が幾つもあった。
まず時間が夜遅くだったこと、そして誰も近付かない裏路地を一人で歩いてた点だ。
それに女の子と三人組の証言を照らし合わせれば……亮介が犯人だと明らかになる。裏路地を通った理由も特に無さそうだったから余計に怪しかった。
私は女の子に深く頭を下げ、後からやって来た父と二人で何度も謝り続けた。
有り難い事に示談で許してくれるらしい。被害者女性の兄は積極的に示談として話を進めてくれたからだ。父もそれに応じる形でその場は収まった。
弟はずっと何か言ってたが、最早聞く耳を持つつもりは微塵もなかった。
あれだけ可愛がってたのにどうしてなんだ、亮介?
そんなに欲求不満なら私を襲えば良い。
なのにまるで私なんて眼中にないとでも言わんばかりに見ず知らずの女性を襲ったのだ。
それがどうしても許せないッ……アレだけ尽くしても……弟の中に私は居ないのだ!!
私は弟に酷く厳しい言葉を浴びせるようになった。姉を捨てて犯罪に手を染めるような弟が心底許せない。
深い愛情は憎しみに変わったのだ。
罪を認めようとしない情けなさも鼻に付いた。
『え?……家出……?』
一度だけ家出した事があった。
心底心配したが、帰って来た姿を見ると憎らしい気持ちが湧いて来る……思わず酷い言葉を投げ掛けた。
でも言われて当然だろう。
なんたって女性に手を挙げた癖に、それを今だに認めようとしない最低の男。
だがそれでも心から反省すれば受け入れるつもりだ。どれだけ憎くても愛している弟なのだから。
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〜山本渚沙視点〜
家にはイケメンの兄がいる。
優しくて、とても暖かいお兄ちゃん……私はお兄ちゃんと一緒に居られる時間が大好きだった。
『相変わらずのブラコンだね〜』
『渚沙の兄さんイケメンだし、ブラコンになっちゃうのもわかるっ』
友達に自慢して優越感に浸ったりもした。
お兄ちゃんの評判が良くて私も鼻が高いっ!オシャレとかに興味は無いけど、中学生になってお兄ちゃんにもっと可愛いと思って欲しかったっ!だから髪もツインテールに結ぶようにしたし、家の中では薄く化粧をするようにしている……友達に話したら普通は逆でしょと言われた。
別に外で可愛くみられなくても良いしっ!私を可愛く見せたいのはこの世でお兄ちゃんだけなのっ!
『亮介っ!好きだぞっ!』
『むむむっ!』
お姉ちゃんも私と同じくらいお兄ちゃんが好きみたいなんだよね。
……でもライバルには成り得ない。
なんせお姉ちゃんとお兄ちゃんは血の繋がった姉弟だから。
私は幼い頃に本当の両親を事故で失っている。
それを引き取ってくれたのが今の両親だった。
だからお兄ちゃんとは義理の兄妹っ!
お陰で私はお兄ちゃんと結婚する事が出来るっ!神様に感謝しなくちゃねっ!
──でもそんな日々はある出来事で終わっちゃった。
『お姉ちゃん……嘘だよね?』
『本当だ。実際に被害者に会って、被害状況を聞いたが……亮介は真っ黒だっ!』
『そ、そんな……』
これ以上にショックな出来事なんて……二度と訪れないと思う。
後から帰って来たお父さんも同じ事を言ってたし、お兄ちゃんをあんなに愛してるお姉ちゃんがそう言うんだから間違いないよ。
何より嫌だったのが学校での反応。
幸いイジメられる事もハブられる事も無かったけど……でも今までお兄ちゃんを褒めてくれていた友達が一斉にお兄ちゃんを非難し出した。
『あんな人に憧れてたなんて……』
『渚沙、最低な兄を持ったね、可哀想に』
全員が口を揃えて言う……山本渚沙の兄は屑だと。
ずっと庇い続けているお母さんと幼馴染の麻衣ちゃんは変人扱いされて周囲から距離を置かれている。
お母さんは家で空気扱い……犯罪者を庇ってる親なんておかしいと思う。
お母さんが味方する所為で、お兄ちゃんは罪を認めず反省の色が見えない。
もっともっと傷付けないと……犯罪者なんだからね。
周りの皆んながそう言ってる。
『……触わらないで!汚らわしい!』
あの事件の後、一度だけお兄ちゃんと手が触れ合う事があった。冷蔵庫を開けようとして偶然当たってしまっただけの些細な触れ合い。
それなのに、私はお兄ちゃんの心を傷付けようと、お兄ちゃんと触れた箇所をアルコールでわざとらしく大袈裟に消毒してみせた。
あの時のお兄ちゃんの顔は覚えてる……本当に悲しそうで辛そうだった。
でもお兄ちゃんに襲われた女の子はもっと傷付いたんだよ?皆んなそう言ってるよ?
そのあと、お姉ちゃんに何か言われて家出したみたいだけど、あの時は心配で心配で仕方なかった。
丸一日見つからなかった……私は玄関の前でずっとウロウロしていた……どうか無事でありますように。
それからしばらくしてお兄ちゃんが帰って来た。
家出するくらい反省してるなら、もう許しても良いかな……?でもこの考えは甘かったみたい。
『ふ、ふん……人に迷惑を掛けて……お前みたいな弟を持って私は恥ずかしいっ』
お姉ちゃん……まだ許しちゃダメなんだね。
そうだよね……だって未成年じゃなければ逮捕されてたんだし、被害にあった女性の気持ちを考えるとまだまだ足りないよ。
──お兄ちゃんの犯した罪が消える事なんて、絶対に無いんだから──
でも許すつもりだったから、なんて言えば良いのか分からないや……ここは適当なので済ませよう。
『お、お兄ちゃん……別に帰って来なくて良いのに』
…………
…………
……アレ?
ア、アレアレ?
今とんでもないこと言ったんじゃ……?
隣のお姉ちゃんはよく言ったと褒めてるのに、お兄ちゃんと一緒に帰って来たお母さんと麻衣ちゃんが信じられないくらい怒ってる……お兄ちゃんは──
『……………そうか、それは悪かったな』
──もう私を見てなかった。
消え入るような声が今でも脳裏に焼き付いている。
だけど言った言葉は取り消せない、口の中に戻ってこない……だかrs無かった事にはならない。
私は大好きなお兄ちゃんを、深く、深く、傷付けてしまったんだ。
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