第13話 学園長との話

 入学試験が終了した後、僕とギンの2人は職員室に行った。メアリーとミーアには先に帰るように伝えておいた。



「失礼します。125番シンです。」


「126番ギンです。」



 すると、職員室ではすでに採点が行われていた。その中で、魔法適正の試験官だった先生が僕達のところにやって来た。



「2人ともちょっとついてきてくれるか?」


「はい。」



 僕とギンは先生の後ろについて行った。向かった先は学園長室だ。



コンコン



「どうぞ!」



 先生が学園長室に入っていった。僕とギンもその後ろについて行く。



「学園長。2人を連れてきました。」


「ありがとう。君は下がってよいぞ!」


「はい。」


「2人ともこっちに来て座ってくれ。」



 学園長は白髪で長く白いひげを生やした老人だった。そして、学園長からはかなりの魔力が感じられた。



「わざわざ来てもらって悪かったな。君達に聞きたいことがあってな。」


「なんでしょう?」


「ズバリ聞くが、君達は何者なんだ?」



 なんかナザル伯爵に聞かれたのと同じだ。ナザル伯爵は部下に命じて僕達のことを調べさせたようだが、学園長は違う。誤魔化そうと思えばそれもできるかもしれない。



“シン様。どうしますか?”


“ギン。僕が話すよ。それでダメなら転移するから。”


“わかりました。”



「そうか。お主達は念話で話ができるのか?なるほど、やはりただの人族ではなさそうだな。」


「どうしてそれを?」



 学園長は髪を上げて耳を見せた。人族の耳ではない。耳が長く尖っていた。



「わしはハイエルフなんだ。だから、魔法に関してもそれなりに詳しいぞ!シン君だったかな。君もそっちのギンとかいう少女も人族ではあるまい。」



 僕は初めてそんなことを言われた。誰よりも驚いたのは僕だ。そして、もしかしたら自分の正体がわかるかもしれないと少しワクワクした。



「どうしてですか?」


「わしは数百年生きて居るが、そなたからは人族やエルフ族のような気配を感じない。ましてや魔族でもない。そっちのギンとかいう娘からも神聖なものを感じるんだがな。」



 僕は誤魔化すのはやめて、ある程度自分のことを正直に話すことにした。



「僕は気づいたら魔物の巣窟といわれる森の中に一人でいたんです。目の前に一軒の家があって、家の中に一冊の本がありました。その本にはこの世界のこと、魔法のことが書かれていて、僕は生きるために必死で本に書かれた魔法を勉強したんです。」


「そうであったか。では、両親も兄弟もいないということだな。」


「はい。ですが、それすらわかりません。僕は自分が何者なのかさえ知らないのです。」


「それは不安だったな。よく頑張ったな。」



 学園長の口調は物凄く優しい。そのためか、僕は学園長に心を許していた。



「でも、すぐにギンと出会って寂しさも苦しさも乗り越えることができました。」


「ところで、ギン。お主は何者なんだ?」


「いいよ。元の姿に戻っても。」


「はい。シン様。」



 ギンがフェンリルの姿に戻った。だが、学園長は驚かなかった。



「ほー。やはり神獣フェンリル様であったか。そなたはどの神に仕えておったんだ?」


「私は母とこの世界を旅していました。魔族との戦いで傷ついた母が人族に殺され、私自身も大怪我をしました。怪我をして森の中を彷徨っていた私を主様に助けられたのです。」


「そうか。だがな~。それは偶然ではないだろうな。2人は会うべきしてあったんだろうな。」


「どういうことですか?」


「フェンリルは神獣だ。本来7大神のいずれかに仕えておるのだ。そのフェンリルが不思議な存在であるシン君と出会ったんだろ。偶然にしては出来すぎてると思わんか。」



 なんか学園長の言葉には説得力がある。自分もギンとの出会いが偶然ではないと思えてきた。



「ところで、シン君や。お前さん、自分の力がどれほどのものか知っておるのか?」


「いいえ。確認したことはありませんから。」


「そうか。お主の魔力測定だが、あれはお主の全力ではないだろ?」


「はい。むしろ魔力を出さないようにしていました。」


「やはりな。ならば、この板に手をのせてみるがよい。」



 僕達の目の前に銅板が現れた。その銅板は試験の時の銅板とは違っていた。かなり分厚いものだった。最初に人間の姿に戻ったギンが手を置いた。すると、銅板が虹色に光り、眩しすぎて思わず目をつむってしまうほどだ。



「さすがはフェンリル様だ。ほれ、見てみろ!」



 見せられた数値は5000だ。人族ではありえない数字だ。



「ハイエルフのわしですら500がいいとこだ。羨ましいの~。」



 今度は僕が手を置くことになった。



「じゃあ、手を置きますよ。」



 僕が銅板に手を置くと、銅板が光ったと思った瞬間溶けてしまった。



「ありえん!こんなことありえん!」


「すみません。少しだけ強めに流しただけですけど。まさか、壊してしまうとは思いませんでした。本当にすみません。」



 学園長はしばらく考えこんだ後、僕とギンに言った。



「君達のことを知っているのは誰かね?」


「お世話になっているナザル伯爵とメアリーだけです。でも、ギンのことは知りません。」


「そうか。よかった。このことはわしの胸にとどめておこう。」


「ありがとうございます。もし、僕が目立ってしまうようなら、ギンと一緒にこの国から出ていこうと思っていましたから。」


「その心配は無用だ。だが、もしこの国、いや、この世界に災難が降りかかるときには、お主達の力が必要になるだろう。その時は頼むぞ。」



 その時、僕は学園長が何を言っているのかよくわからなかった。

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