第12話 入学試験

 僕達は王都観光をした後、伯爵の館に戻った。そして、翌日から再び入学試験に向けての勉強が始まった。



「ところでメアリーに聞きたいんだけど。」


「なにかしら?」


「入学試験の内容ってこれを勉強するだけでいいの?」


「筆記はそうよ。それ以外に魔法適正の試験もあるわ。剣の使い方の試験もあるわよ。」


「魔法適正の試験って何するんだ?」


「良く知らないけど、金属板の上に手を置いて魔力量を測るんじゃないかな~。私が洗礼を受けた時もしたから。」



 冒険者ギルドで登録の際にやったのと同じだと思った。



「剣の使い方っていうのは?」


「何かを試し切りするのよ。それで、どの程度剣が使えるのかわかるでしょ?」


「まあね。でも、試験まであと2日だけど、メアリーは魔法とか剣の訓練とかはしなくていいの?」



 すると、メアリーが安心した顔で言った。



「魔法適正は魔力が100あれば合格なのよ。私は洗礼の時にすでに100あったから大丈夫なのよ。恐らく伯爵家の遺伝ね。」


「そうなの?なら、冒険者達とか僕みたいに魔法が使える人達ってどのくらいあるんだ?」


「そうね~。通常は100だけど、魔法を使う冒険者なら200くらいかな~。でも、高ランクの冒険者なら300くらいあるかもね。私が知ってる中で一番高いのは、過去にいたといわれている英雄ね。確か~、500だったかな~。」



 僕とギンは顔を見合わせた。自分達がどの程度なのかわからないのだ。高すぎて目立つわけにはいかない。ギルドでの過ちは犯せないのだ。



“ギン。魔法適正の時は自重しないとな。”


“はい。承知しました。”




 僕とギンが入学試験の勉強を始めて数日が経ち、いよいよ入学試験の日が来た。僕とギンとメアリーは試験会場に向かった。出発間際にナザル伯爵が声をかけてきた。



「3人とも頑張れよ!」

 

「大丈夫よ。お父様。」



 試験会場の入口に一人ぽつんと立っているものがいた。ミーアだ。



「来たにゃ!すごく待ったにゃ!」


「ごめん。待たせたね。ミーア。」


「別に待ち合わせしてたわけじゃにゃいから、いいにゃ。」


「もしかして、一人で不安だったんでしょ?」


「別に不安じゃにゃいにゃ!むしろワクワクドキドキしてるにゃ!」



 僕達は入り口から入って受付に行った。ミーアが123番、メアリーが124番、僕が125番、ギンが126番だった。受験番号は受付順だ。



「最初は筆記試験よ。」


「頑張るにゃー!」


「でも、受験番号が続きでよかったわね?」


「どうしてにゃ?」


「だって同じ教室で受験できるでしょ!」


「確かに安心にゃ!」


「やっぱり不安なんじゃない!」



 僕達が教室に入ると、先に教室にいた生徒達が一斉にこっちを見てきた。校門を入った時もじろじろ見られていたが、なんかやりにくい。するとミーアが惚けた口調で言った。



「私のように美しすぎるのも罪だにゃー!みんなに嫉妬されてるにゃー!」


「違うでしょ!シン君とギンさんが原因よ!ミーアじゃないから!」


「そうにゃのか?」



 最初にギルドであった時は少しイラッとしたが、なんか無邪気なミーアが可愛く思えた。



「席に着け!テストを配るからな!早くしろよ!」



 教室に入ってきた試験官が全員に問題を配った。問題は裏にしてある。


「合図があるまで裏のままにしておけよ!」



 全員に問題がいきわたった。そして、静まり返った教室内に試験官の声が鳴り響いた。



「始め!」



 試験問題を表にして見てみると、一般常識、計算、教会の3つの分野から出題されていた。時間は50分だ。わからない問題は飛ばして、わかる問題から解いていった。どのくらい時間が経っただろうか。僕は全てを解き終えたので、筆記用具を置いて前を見てみると、ミーアはまだ必死に考えている。隣に座っているメアリーもすでに終わっているようだ。すると、右側からカリカリとペンを走らせる音となんかブツブツ独り言のようなものが聞こえてきた。右を見ると犯人はギンだった。なんかただでさえ色白のギンの顔がさらに青白く感じる。



「終了!」



 試験官が解答用紙を集めた。



「ギン!お前、大丈夫だったか?」



 ギンの目がぐるぐると回っていた。



「な、何とか終わりました~!」



 続いて魔法適正だ。僕達は移動して魔法の修練場にやってきた。試験官の前にある銅板に手を置くだけでいいようだ。



「次!」


「は、はい!123番ミーアです!」


「105か。次!」


「124番メアリーです。」


「190 次!」



 いよいよ僕の番だ。とにかく力を抜いて、魔力が出ないように意識した。



「125番シンです。」


「500 えっ?!ちょっと待て!」



 試験官は慌てて銅板を確認する。そして隣の試験官に言った。



「おい!この測定器は故障だ。予備を出せ!」



 目の前に新しい銅板が置かれた。



「君、もう一度手を置いてくれるか?」


「は、はい。」



 僕は今度こそと思い、魔力を抑えるようにして手を置いた。



「500 ま、ま、まさか、本当なのか?君、後で職員室に来なさい!次!」


「126番ギンです。」



 ギンも必死に魔力を抑えている。見てわかるがかなり必死だ。



「300 えっ?! 300? ——— 君も後で職員室に来なさい。次!」



 別に僕もギンも何も悪いことはしていないが、どうやらどんなに魔力を抑えても抑えきれない魔力が漏れてしまうようだ。

 

 

“ギン。後で職員室に行くけど、大ごとになるようならこの国から離れるよ。”


“わかりました。シン様。”



「シンもギンも凄いにゃ!」


「私も驚いたわよ!まさか、伝説の英雄と同じ魔力なんてね。お父様に報告しないとね。」



 僕とギンの心配をよそに2人は大喜びだった。その後、今度は闘技場にやってきた。闘技場には木でできた人形が何体も立てられていた。今度こそミスはできない。とにかく初心者のふりをしないといけない。だが、試験官を見た瞬間、目の前が真っ暗になった。試験官がナザル伯爵配下のマッシュだったのだ。



“どうするんですか?シン様!”


“どうもこうもないだろ!マッシュは僕の実力を知ってるんだよ!誤魔化せるわけないじゃないか!”



 僕達の前の生徒は剣で棒をたたいて終わりだ。そしていよいよ僕の番が来た。試験官のマッシュが真剣な表情で僕を見ている。



“もうどうにでもなれ!”



 僕は剣をもって人形に斬りかかった。



スパッ



 人形が右上から左下にかけ2つに切断され、地面に落ちた。周りからはどよめきが上がる。



「オオ——————」



 そして、僕の後のギンも同じだ。ギンは右下から左上に剣を振った。当然、人形は2つに切れて地面に落ちた。再び歓声が起こった。



「オオ—————」



 マッシュが僕の近くにやってきた。



「さすがだな。シン。」


「まあ、魔物と違って動いていませんから。」


「それにしても、お嬢ちゃんも凄いな~。シンの友達なんだろ?」


「はい。」



 ギンは余計なことは一切話さない。僕に迷惑が掛からないようにしているのだろう。

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